孫子に学ぶITマネジメント CIOの予算獲得編(3)敵の情を知る

来源:互联网 发布:永久下架的网络剧 编辑:程序博客网 时间:2024/06/14 11:44
本連載は孫子の兵法論争編を活用して「CIOが社内の反発を抑えてIT予算を獲得する」場面を解説している。前回では「CIOが社内の反発を抑えてIT予算を獲得する」場面での「孫子の兵法論争編」第1段階「計画」を説明した(図1)。今回は続いて第2段階「謀攻」を紹介しよう(表1)。
図1●CIOであるB氏を取り巻く状況
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表1●「孫子の兵法 論戦編」の体系化
段階ステップ概要1.計画1-1.状況分析彼我の状況を詳細に分析する1-2.論理構成確実に勝てる論理構成を計画する2.謀攻2-1.情報収集相手内部から情報収集し、相手の事情を理解する2-2.ネゴシエーション事前に相手と接触してできれば折り合いをつける3.論争3-1. 自在な論理展開相手を上回る論理で主導権を獲得する3-2. 主導権獲得相手の論理に変幻自在に対応し流れを呼び込む3-3.詰め流れの勢いで最後の詰めをする3-4.勝利の後勝っても相手を必要以上に傷つけない

【CIOの予算獲得場面】(再掲)

状況を再掲すると以下の通りだ。場は製造業A社。

  • A社の国内業績は停滞し、途上国を中心とした海外進出に企業としての活路を見いだしている
  • CIOのB氏は上場企業の役員として情報システム部と全社システム予算を統括している。これまで海外も含めて数々の事業本部を経験した社内の論客
  • B氏は、海外進出に伴う業務の統一と経営情報の一元化、情報漏洩対策などのコンプライアンス(法令順守)とサイバー攻撃対策で、IT予算計上をもくろんでいる。
  • 国内Y事業本部は業績悪化で人員削減を実施しておりX事業本部長はIT投資に消極的
  • Y事業本部はこれまでのA社を支えてきた基幹事業であり、X事業本部長は現場からの人望も厚く社内でも次期社長候補として有力視されている。

 ここから第2段階「謀攻」の説明に入る。鍵となるのは「用間」だ。ここでいう「間」とは、間諜のことを指している。


【2.謀攻 2-1.情報収集】

用間篇:先知なる者は必ず人に取りて敵の情を知る者なり

 孫子の兵法には用間篇があり、スパイの活用を重視している。また、スパイを「生間、因間、内間、反間、死間」の5つに分類している。

  • 生間…繰り返し敵に侵入して生還し情報をもたらす
  • 因間…敵の民間人を手づる(糸口)にする
  • 内間…敵の官吏を手づるにする
  • 反間…敵のスパイを手づるにする
  • 死間…敵に偽情報をつかませて敵を動かす

 スパイという表現だといかにもきな臭く、コンプライアンス(法令順守)に反するようなトーンも感じられるかもしれないが、ここでは企業組織間において、互いの内情、本音を知る人をうまく情報源として取り込み活用するというニュアンスで捉えていただきたい(図2)。

図2●スパイの種類と活用
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 A社のCIOであるB氏とX事業本部長の関係の下では、活用し得るスパイは図3のようになる。このような関係は大企業ではよくあるので、「用間」は現実的だ。

図3●B氏が検討すべきスパイの種類と活用
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 まずは「生間」により、Y事業本部の状況や、X事業本部長の考え方を聞くのが最初だろう。両組織対立があっても現場では同期や友人として結構仲良くやっている場合が多いので「因間」も有効だ。

 情報漏洩やサイバー攻撃に対する考え方、業務統合や情報一元化に対する関心度合いなどを聞き出すのだ。飲み会の場や、喫煙所での会話など、非公式な場が最もやりやすいだろう。

幹部同士が同期などで仲が良い場合は「内間」を使う手もあるが、幹部同士ともなれば、場の設定は慎重にしなければならない。相手を間違えると即、話がX事業本部長に筒抜けになってしまう。こちらの意図を知られて事前に相手が敵対的になってはいけない。

 「話があるから飲みに行かないか」などと誘っては当然相手が身構えてしまう。この辺のやり方は職場の雰囲気に合わせて是々非々で考える。情報収集は相手を知ることに集中して、こちらの意図は伏せておくべきだ。

 X事業本部から異動してきた人物から情報を聞き出す、すなわち「反間」を使うのも慎重にすべきだ。やはりこちらの情報がY事業本部に筒抜けになる可能性が高い。部内の飲み会などでも、このテーマに関する会話は禁物と考えた方がよいだろう。しかしこのような人物は、逆にX事業本部長を油断させることに活用する手もある。「こちらは積極的に予算化をする意思はない」と偽情報を流し、「内間」からもそのように匂わせることだ。これを「死間」と言う。

 このようにして情報収集した結果新しい情報が入ったならば、もう1度、第1段階「計画」に戻って状況分析を再確認するのがよいだろう。

【2.謀攻 2-2.ネゴシエーション】

謀攻篇:百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり
    戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり

 孫子の兵法ではむやみに戦争することを戒めている。百回戦って全て勝つよりも、戦わずに相手を屈することを上策とする。

 前回説明したようにCIOのB氏にとって「情報漏洩対策やサイバー攻撃対策」の予算獲得はぜひとも通したい論点であり、そのための突破口も幾つか(身近に迫る危機、競合の動向と機会損失、自分への跳ね返り)用意できた。

 前回ではさらに「譲れる論点」も検討した。海外との業務統合は「Y事業本部をベースとした業務統合と経営情報の一元化」としてX事業本部長に譲れる論点だ。さらに、「これ以上の合理化」には触れない、という計画だ。

図4●前回で検討したB氏の論理構成
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 B氏としては役員会で次期社長候補のX事業本部長と論争することは避けたいので、これで事前にネゴできれば最もありがたい。

 このようにネゴする目的としては、下の3通りが考えられる。

  • 相手が論争する気力を失うほどの論理で相手に納得してもらう
  • 相手との妥協点を探って譲り合って折り合いをつける
  • とりあえず論争を先送りする

 相手に納得してもらうのは正攻法だ。正々堂々と自分の論点の正しさを論理的に説明し相手が納得してくれれば最も穏便に事が収まる。

 しかし、多くの場合相手はそう簡単に納得しない。何かこちらが妥協できることがあって相手もそれを望んでいるのならば、そこで妥協するのが次に穏便な結果だ。

 それでも相手が納得しない場合は、論争を先送りするという手がある。灰色のまま事を長引かせるのは、日本人の悪い癖だが、論争して相手との関係をこじらせるリスクと天秤にかけて先送りの方がよいのならばそれでもよい。

先送りもできない場合は仕方なく正式に論争することになる。とはいえB氏は、この段階でいきなり主要争点である「情報漏洩対策やサイバー攻撃対策」の予算獲得について、その突破口を明かすべきではない。X事業本部長がどう出るか分からないし、次期社長候補でもある同氏が猛烈に反発した場合、取り返しがつかない。

 従って、正式に論争する前に、まずは譲歩点である「Y事業本部をベースとした業務統合と経営情報の一元化」を匂わせてネゴの可能性を探るのがよい。

 手順としては、以下のようになるだろう。

(1)「死間」によって「こちらが積極的に論争しない」と相手を油断させる
(2)「生間」と「因間」を通じて譲歩点を匂わせて相手のネゴの可能性を確認する
(3)「反間」を使って相手にネゴの意思を伝える
(4)「内間」によって幹部同士のネゴの場を設定する
図5●B氏から見た用間によるネゴの代表的なパターン
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 (1)と(2)は全て情報収集と同様に飲み会や同期同士の普段の会話などの非公式な場で行う。これでY事業本部がネゴに応じる可能性が見えてきたら、いよいよ(3)と(4)のネゴの場の設定だ。これには「反間」または「内間」を使うのがよいだろう。

 主要争点である「情報漏洩対策やサイバー攻撃対策」の予算獲得について、その突破口を徐々に明かすのは、この場に持ち込んでからだ。Y事業本部側も、幹部であれば、CIOの客観的な論理にはうなずく点が多いだろう。さらに譲歩点が明らかなのでネゴもある程度進めやすいだろう。

 ここで極めて重要な注意点がある。ネゴの段階で全ての突破口を明らかにしてはいけない。ネゴが不調に終わり、論戦となった場合、相手に突破口をふさぐ理屈を考えさせる時間的余裕を与えてしまうからだ。なぜこのことが重要なのかについては、次回で改めて説明する。

 ここまで「孫子の兵法 論戦編」の第1段階「計画」と第2段階「謀攻」を紹介してきたが、こうしてネゴをしても、CIOのB氏とX事業本部長は互いに妥協点を見いだすことができなかった。最終決着は、B氏とX氏が互いに役員会議で話し合う時まで持ち越されたのである。

 次回はいよいよ最後の第3段階「論争」に入り、直接対峙する論戦での戦い方を紹介する。


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