- 校外の並木道

     僕には、毎日二回校外の近い所にある長いとは言えない並木道を歩くという習慣がある。 一回は昼に、一回は夕暮れ時。
     何故とかいまだに分からないが、あの並木道には僕が抗いの出来ない魅力的な所があるかもしれない。時は満ちたら、何となくあの並木道を沿って歩くという状態になってしまった。
      元々歩みが好みなんだから、日課と言ってもいいと思う。精神や肉体の緊張緩和にとって効果もあるし、言葉だけで語れないのんびり感と言えば、やはり慣れてしまって、やめられないのである。特に数時間の読みや思考をした後の散歩はなかなかよいリラックスなのである。一人で校外の並木道に足踏みを取り、周りの艶やかに咲いてる薔薇、偶に枝に現れて飛んで回る雀の囀り、正に身近の「僕一人だけの世界」を鮮やかにした気がする。なんだか落ち着きやすいなのである。
     実は僕は、木漏れ日を見入る癖がある。いかに故の解きをしたくても言い訳が出ない。多分耀く太陽を直接睨めば碌なことになるわけもないのがわかるかも。並木の下で目を上げて、透いた視線は木の葉の間を通して透き通る青空に達し、淡い白絹の如き白雲は幾重に青い天空という幕の中で漂い、きらきら通してきた木漏れ日の柔らかい日の光は、小鳥の囀りや美しい咲いてる薔薇の香りと染み渡り、まるで全てが癒されたような感じがする。
     夕べの歩みは、別々の風景なのである。校外の並木道には、よく夜風が吹いてくる。夕方の景色は、昼間のとは違い、静かな雰囲気に囲まれるという感じがする。六月の青島は、もう初夏気味だが、同じく浜辺に位置する常夏の南国諸島と比べると、なかなか心地良い場所なんだ。夜の並木道は、時に海からやってきたそよ風に頬は撫でられる。見上げると冴え渡る月明かりは淡く道に撒いている、サファイア色取る天幕に散らばるぴかぴかする星屑の微かな光、軽くやさしく街灯から流れてくる柔らかい光線。耳を傾けると、道端に鳴っている虫の唄、耳を澄まして波打ち際から伝わってくる波の声も聞こえる。僕専属の自然のオペラなのである。
     あっという間にこのミニ旅の最後に辿り着いてしまった。ゲートを通り抜けて、花壇で盛んに咲いている紫陽花は七彩の花の団で僕を迎えてくれた。ここでこの小さな旅行は終わってしまった。


     僕はこういう並木道を歩いている。気やすい通りながら、起伏のある道だった。たまには地面に立っている石のせいでうかうかと躓いたこともあり、棘つきの薔薇に刺されたこともある。ある時の散歩中で傷はつけたのも経験してしまった。深刻な傷ではなくても、痛みという感覚は決して否定しても出来ないことなんだから。
     この校外の並木道は、人生という道路の前で、もちろん大したではないものだったが，縮図として考えることがあり得る。人生の道には、苦しいことも、嬉しいことも、悲しいことも、楽しいこともある。人生には、全ての可能がある可能性はかなり濃厚。痛み込んで送ることも出来、楽に暮らすことも出来る。美しい一方に気を配ったら生活は多彩になり、不便な所ばかりに落ち込めば全ては黒になる。我々の人生は、我々の踏み出した足跡というテンポによりの組み合わせであり、その一部一部は、我々自身の生活というオペラを綴っていた、そして未来まで綴り続いている。過去のチャプターはもう決められ、もうどうしようもないことなんだが、終章の最後の見ものはどうなろうか自分以外誰でも知らない。次の壮麗な楽章の中身はどう創作するという筆は、自分の手に握っている。自分だけのオペラを書き記そう、そして最高の楽章を創作する為に、頑張ろう。この一方通行しかでない人生に悔みを残らないように。
      僕は期待している、その終点の花壇で待ってくれる紫陽花の笑顔を。
                                                                                                                                                    HerrAmadeus