生きて死ぬ、その清々しさ

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『富士日記』 [著]武田百合子 (中公文庫・上中下各1008円)


 引っ越しを重ねても、いつも手元に残してきた本です。武田百合子さんの文章は旧ソ連への旅行記『犬が星見た』で知りましたが、夫の武田泰淳と富士山麓(さんろく)の別荘で過ごした四季の出来事や献立を書き留めたこの日記も、言い古された言葉や自分になじまない言葉を排除し、彼女の肌合いから出てきた言葉だけで書かれているようなところが魅力です。
 山荘にはリス、ネズミを始めさまざまな小動物が出没し、都会育ちの愛猫も野性に返ってモグラや鳥をつかまえるようになる。そして、文士というおそらく面倒くさいタイプの夫に尽くした百合子さんを始め、登場する昭和の人々がまた、生き物としての力が強い。
 知人や愛犬の死もつづられます。山や湖で起きた死亡事故や、雪で折れて枯れた松の枝も同じように淡々と。読んでいると、万物は生きて死んでゆく、単にそれだけのことなんだと、なんだかすっきりした気分になるんです。
 私自身、3年前に公演先の宮城県石巻市で震災を経験して、助かった人、犠牲になった人を身近に感じてきました。「あなたが生き残ったことには、歌い手として何か意味がある」と言われることがありますが、それは、たまたま。もちろん命は大切だし、一生懸命生きなければならない。でもそこに意味や使命感を持たせすぎると、かえって命というものの扱い方が奇妙なことになっていくような気がします。
 生きていると、どんどん重いことが増えてくる。でもこの日記はその中に光を見つけるように書かれているように思えます。そもそも日記だから読み手を励ますような記述はない。でも彼女の生き方のかっこよさ、天性の遊び心に背中を押される。「しっかりしろ、自分」と勇気を与えられる。
 飽きることがなく、どこから開いても味わえます。寝る前にふと開いてみる、私にとって聖書のような存在です。
 (構成・藤崎昭子)
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