日经春秋 20150321

来源:互联网 发布:国家网络信息发布管理 编辑:程序博客网 时间:2024/04/29 19:56

道を急いでいても、思わず足が止まる。辺りを見回し、路傍にひっそりと咲く薄紅の小花に気づく。「沈丁の香の石階に佇(たたず)みぬ」。俳人・高浜虚子が詠んだ沈丁花の香りは不意に訪れる。強く鮮やかな香気が鼻先から頭の上に抜けると、春の息吹が体にしみ込むようだ。

▼その香りで助かった話を作家・演出家の久世光彦さんが書いている。ときどき自分が誰か分からなくなり怖くなる。医者が「いまの家に匂いは?」と聞いた。答えに窮して子供の頃を思い出す。そういえば春のお彼岸には隣の沈丁花が塀越しに香っていた。線香と畳の匂いも蘇(よみがえ)った。庭と畳のある家に越すと不安は消えた。

▼香りには心と体を癒やす効能がある。脳研究者の池谷裕二さんの「脳には妙なクセがある」によると、嗅覚刺激は大脳に直接届くので効果が高い。気分が変わる。コーヒーの芳香をかぐと、他人に親切になるという実験結果もあるそうだ。それだけではない。そもそも文字や写真などに劣らず、重要な情報を伝えてくれる。

▼都市ガスなどは、いやな臭気を添加して漏れに注意を促している。そんな危険情報を感じ取れなくなったとしたら、どうだろう。いまでは作家が不安になった無臭の生活に慣れた人も多い。その結果、いつのまにか匂いに鈍感になってはいないだろうか。それは季節を感じる心だけでなく、危難を避ける力の衰えでもある。

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