巻き込まれて異世界転移する奴は

来源:互联网 发布:pc6下载站,软件 编辑:程序博客网 时间:2024/05/17 23:52
巻き込まれて異世界転移する奴は、大抵チート
海東 方舟


――――――――――――――――――――――――
あらすじ:
勇者に巻き込まれて異世界転移……
そこは剣と魔術と亜人と奴隷の王道世界!


王女に召喚され、自分たちは魔術を使えると言われるが、喜びもつかの間。魔王を倒し神を復活させる以外、元の世界に戻る方法は未だに無いという宣言を受ける高校生5人。
しかし、王女のある言葉によって、驚愕の事実が発覚した。
「勇者は4人のはずですが?」
そうして、自分が勇者ではないことが判明した|小鳥遊《たかなし》|強斎《きょうさい》は絶望するが、ここは王道ファンタジー……
チートになって俺TUEEEする、ちょっと気の抜けたお話です!
奴隷、俺TUEEEなどが苦手な人はやめておいた方がいいと思います。
更新は不定期です。
感想返しは活動報告で出来る限りしたいと思っています。


掲載ページ:
http://ncode.syosetu.com/n7747ca/
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[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]1話 光に包まれったっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
ちょっとやってみた。
[#ここで字下げ終わり]




 皆さんは異世界転移を信じるか?
 転移、転生はファンタジーでありがちな事であろう。
 そして、召喚されたからには大抵、何らかの力を持っている。
 多人数で転移され、巻き込まれて、勇者でも無いのに勇者より強くなる……なんて事もあるであろう。


 そしてここに一人、そんな転移に巻き込まれる人物がいた……。


    *


 この男の名前は|小鳥遊《たかなし》|強斎《きょうさい》。
 中々レベルの高い高校の二年生。彼女無し。童貞。帰宅部。友達は普通にいる。
 身長は約170cm、体重は60kgちょっと。
 髪の色は黒色で、短くもなく長くもない。
 少し筋肉質で、顔立ちも俗に言うイケメンだ。
 勉強もできる方で、どちらかと言うと上位に入っている。
 運動も中々できていて「帰宅部なのは勿体無い」と言われるほど。
 なのに何故、彼女ができないのか?
 理由を挙げるとするなら、彼は想像豊かで性格がひねくれているのだ。
 そして口下手。
 だが、彼は普通にモテている。
 告白もされていた。
 しかし、彼は変な言い回し方で理由を訊いてしまうため、断られたと勘違いする人が多いのだ。
 彼だって恋人は欲しいのだが、どうせ恋人にするなら結婚までいきたいと思っている。
 そこがひねくれているといっていいだろう。
…………
……
……
 キーンコーンカーンコーン――――――。
「よっしゃぁぁぁ! 昼飯だぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 チャイムが鳴った瞬間に、異様なテンションで強斎は騒ぎ出す。
 そんな強斎に続いて、ほかの生徒も騒ぎ始める。
「おい、強斎。まだ挨拶が残ってるぞ」
「へいへい」
 これが日常茶飯事なので、先生もこれ以上強く言うことはない。
 冷たい目線は変わらないが。
 挨拶が終わり、机の横にある鞄をまさぐる強斎。
 だが、いくらまさぐってもお目当ての物が見つからない。
 若干焦りながら、かばんの中を覗き込んだ。
「……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そして、その事実に直面した。
 昼食用に買ってあった自分のお気に入りの焼きそばパンがないことに……。
(これは購買で何か買うしかないか? でも、遠いしな……。ああー……瞬間移動とか使えたらどんなに楽か……)
 そんな非現実的なことを考えながら、どうするかも考える。
 結局は購買しかないので椅子から立ち上がり、教室を出ようとするが……。
「昼食忘れたの?」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 背後から声をかけられ、強斎は素早く振り向いて距離を取る。
「そんなに距離を取らなくてもいいじゃない……」
 強斎に距離を取られて、どこかしょんぼりする女性。


 彼女の名前は、|洞爺《とうや》|澪《みお》。強斎の小学校からの幼馴染だ。
 身長は160cm程度、体重は50kg無いってところ。
 スタイルは良く、出ているところは出ていて引き締まるべきであるところは引き締まっている。
 髪の色は強斎と同じ黒で、長めの髪はポニーテールになって綺麗な仕上がりだ。
 彼女がこの髪型なのは理由があるが、それは置いておこう。
 顔立ちは圧倒的に上位。
 綺麗とでも言えるし、可愛いとも言える。
 成績も常にトップ争いに入っており、性格もよく誰に対しても優しい。
 運動はできるが茶華道部であり、これにも理由があるが以下略。
 そんな彼女を嫌う人は、特殊な性癖を持つ人ぐらいだろうとまで言われている。
 校内彼女にしたいランキング前回王者は伊達じゃない。
…………
……
……


「って、澪か……。何の用だ?」
 普通はここまでの美少女に声をかけられたら言葉に詰まるのが多数だ。しかし、それはあまり親しくない場合。
 強斎は、澪とは小学校からの仲なので普通に会話をすることができる。
 だからといって、澪を女として見ていないわけでもないが。
「何の用って……強斎、昼食忘れたみたいだから……」
 強斎の顔を直視せず、顔を少し赤くして俯いてしまう。
 そのせいで、段々と声が小さくなってしまった。
 完全に意識をしている態度だ。
「ああ、忘れた」
 すっかり警戒を解いた強斎は、至って平然としている。
「じゃ、じゃあ……その……作り過ぎちゃったから……ちょっと、わけてあげようか?」
 指を小さく絡ませながら恐る恐る尋ねるが……。
「断る」
「ええっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」


 澪の料理は不味くない。
 逆に美味いぐらいだ。
 それが不味かったとしても、普通の男子だったら大喜びで食べるであろう。
 そんなお誘いを無慈悲に断る強斎に、男女問わず怒りの視線を向ける
 それ以外にも「なんで断る」とか「わかって言っているのかあいつ」とか言われているが、強斎の耳には入ってこない程度の声量だ。


「あまり借りは作りたくない」
 振り向き立ち去ろうとする強斎を、慌てて止める。
 無意識に腕を掴んでいるが、それどころではない。
「そ、そんな……! 借りなんていらないよ……」
「俺が嫌なんだ」
 澪の手をそっとどけて、そのまま言葉を続ける。
「俺が、お前に借りを作るのが嫌なんだ」
 かっこよく言っているつもりだが、捉え方によっては完全に誤解を招く言い方だ。
「そ、そんな……」
 数歩後ずさる澪は、変な捉え方をしてしまったようだ。
 そして、周りからの怒声。
 流石にこれは聞こえたが、強斎はそれらを無視する
 しかし、強斎だって空気を読むことぐらいはする。
「まぁ、お前の料理は美味いからな……いつか朝飯を作ってくれよ。学校じゃ借りを返せないから、今度裏通りにある店に[#傍点]二人[#傍点終わり]でいこうか」


 強斎は知らないが、澪は知っている。
 友達に何度も聞かされたからだ。
 裏通りには、ピンク色なホテルがある事を。
「ふぇ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 二人で[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 いきなりの不意打ちに澪の様子が少しおかしい。
 まさに目が回っているといった感じだ。
「うおぉぉぉぉぉぉおおおお[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 そして、澪にその事を教えた本人登場だ。
「とおぅ!」
「ふっ」
 真横からドロップキックを、強斎は『大きく』避けた。
 強斎が妄想豊かなのは、様々なゲームをやり込んでいるのも理由の一つ。
 そのおかげで、動体視力や反射神経は少々高い方なのだ。
 元々の能力が高い理由もあるが。
「避けるなっ!」
「水色と白のしましまか。悪くない」
 ドロップキックしてきたのは女子生徒。
 そして、強斎にドロップキックを避けられてしまった為に寝そべっている形になっている。
 そのせいでスカートがめくれ上がり、パンツが見えてしまっていたのだ。
「なっ……この変態っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 咄嗟にスカートで隠し、ドロップキックの生徒は女の子座りになった。


 彼女の名前は|羽田《はねだ》|鈴《りん》。
 身長は150cmちょっとと低め、体重は45kg前半。部活は澪と同じ茶華道部。
 髪は少し茶色が入っている程度の黒で、腕まである少し長めのツインテールだ。
 別に太っているわけではないが、澪と体重が変わらないのには訳がある。
 強斎が大きく避けた理由がこれだ。
 胸が半端なく大きい。
 |所謂《いわゆる》、ロリ巨乳。高校生でもここまでの巨乳はそうそういないであろう。既に爆乳の域だ。
 それが彼女だ。
 そして、彼女……鈴は澪の親友でありながら、今回の、彼女にしたいランキング今期王者なのだ。
 顔立ちは澪とは少し違ってかわいい系。
 成績は良くもなく悪くもない一般的で、強斎より少し悪い。
 しかし、面倒見がよく自分から手伝うと言う事も多々ある。
 それに、気軽に話しやすい性格をしていて、誰からも慕われている。
 だが、最初からそうだったわけではない。
 彼女は、自分の胸に嫌気がさしていた。
 中学の時、女子からは胸の事でいじめられ、男子からはいやらしい目で見られていたと言う。
 不登校にもなりかけたが、必死に耐えてこの高校に入ったらしい。
 だが、やはりこの高校でもその美貌の末注目の的になってしまった。
 しかし、その注目が自分だけに向けられたとは思っていなかった。
 自分の近くにいる女性にも、向けられていたのだ。
 それが澪である。
 鈴はわからなかった。
 視線を向けられても何故、平然としていられるのか?
 最初は変態かと思っていたけど違った。
 鈴は意を決して、澪に話しかけた。
『なんで、そんなにも堂々としていられるの?』
 そして、澪はこう答えた。
『守ってくれる人がいるから』
 少しだけにやけながらそう答えたのだ。
 だが、鈴にはそれでもわからなかった。
 自分を守ってくれると言いながら、変な目で見るのでは? と思っていた。
 その事を口にすると、澪は笑いながら。
『いつかわかるよ。そうだね……じゃあ、わかるその時まで私があなたを守ってあげる。私の名前は洞爺澪。あなたの名前は?』
『羽田……鈴』
『じゃあ、よろしくね。鈴』
『あ……うん、よろしく。澪』
 これが、鈴と澪の出会いである。
 それからしばらくして、鈴を守ってくれる人は出てくるのだが……それが――。


「おいおい、真面目に自分が変態かとか考えるなよ?」
「よう、大地。このロリ巨乳をどうにかしてくれ」
 大地と呼ばれた男は鈴より少し遅れて現れた。
 その強斎の返答に若干苦笑いで返していたが。
「なっ……!」
 鈴は強斎を睨みつける。理由は明白だ。
「まぁまぁ、落ち着いて、な?」
「……まぁ、大地がそう言うなら」
 少し照れながらも鈴は立ち上がる。
 この鈴を落ち着かせた男性。そして、鈴を守る人。
 彼の名前は、|鷹見《たかみ》|大地《だいち》。
 身長は180cm以上体重は70kg後半。
 顔立ちはこちらもかなり良い。
 誰に対しても優しく、正義感が強い。
 そのくせ運動も勉強も出来て、体に余分な脂肪がない。
 彼氏にしたいランキングは常に上位だ。
 しかし、帰宅部。
 これは強斎が関わっているのだが、それは以下略
 女性からのアプローチが凄いのだが、高校になってから告白されたことはない。
 鈴という強敵がいるからだ。
 だが、本人曰くまだ付き合っていないらしい。
 大地自身は鈴の事が好きなんだが、鈴はどう思っているかわからないから困っていると強斎に愚痴っていた。
 強斎は、鈴が大地の事を好きな事ぐらいわかるだろ。と呆れ半分で思っていたが、それは完全にブーメランだ。


「強斎も、澪のありがたみを受け取れよ?」
(コクコク)
(ジー)
 順番に大地、鈴、澪である。
 ここは教室前の廊下。
 意外にも目立っていることを理解した強斎は、諦め半分で答えを出す。
「……はぁ、わかった。じゃあ、澪。貰ってもいいか?」
「うん!」
(なんでそこまで嬉しがるかねぇ?)
 そう思っていても、幼馴染の笑顔は嫌いではないので強斎は何も言わなかった。
「よし、じゃあ『あいつ』を迎えにいこうか」
 強斎と澪の問題がひと段落したところで、大地が話を切り出す。
「そうね。私と大地が迎えに行ってくるから……澪。強斎といつもの場所とっといて」
「……え?」
 突然場所取りを任命された澪は唖然とする
「じゃあ、よろしくね。いこっ! 大地!」
「あ、ああ。じゃあ頼む」
 有無を言わせないとはこういうことだろう。
 二人は逃げるようにこの場を去ってしまった。
「えっと……強斎?」
「ん?」
 誰かが『あいつ』を迎えに行くのはいつものことなので、強斎も澪もそれについては何も言わない。
 しかし、澪は『いつものこと』ではないなにかを思っているのか、若干様子が変だった。
「……いこっか」
「? ああ、そうだな」
 澪の変化に強斎は少々疑問に思ったが、気にするほどではないと割り切った。
…………
……
……


 校舎から出て、人気のない大きな木の下についた強斎と澪。
 強斎はそこでふと思い出したかのように口にした。
「借りは返す」
「まだ言うの……? そんなのいいのに」
「いや、ダメだ」
 これ以上はらちがあかないと思ったのか、少し考えてから口を開いた。
「だったら……」
「ん?」
 条件を出してくれそうな雰囲気だったので、強斎は割りと真面目に耳を傾けた。
 しかし、澪は口ごもる。
 ブツブツと何かを言ってから再度口を開く。
「わ、私と……」
「澪と?」
「つきあっ――――」
「おーい! 澪ー!」
 澪が言葉にした瞬間、鈴の声が邪魔をする。
 そして、鈴を含めた三人は強斎たちの場所に着いた。
「やぁ、強斎、澪」
 鈴と大地が連れてきたであろう男が、小さく手を振って挨拶をする。
「おう、あんまり遅いから女子に押しつぶされて倒れてるんじゃないかと思ったぜ」
「ひどいなぁ……あ、ところでこの前貸したゲームなんだけど――」
「ああ、二周目まではクリアした。三周目は流石に初見では無理だったな」
 そんな強斎の発言に、男は驚愕してから苦笑いをする。
「あの無理ゲーを初見で二周クリアしたこと自体すごいよ……僕は未だに一週目止まりなのに」


 強斎にいきなりゲームの話を吹っかけたこの男性。
 完璧超人の|鈴木《すずき》|勇志《ゆうし》。
 身長、体重は大地と殆ど変わらないが、顔立ちは郡を抜いて整っている。
 勉強、運動も常にトップで、既に色々なところからスポンサーが来ているという噂だ。
 その上、性格も文句なしで滅茶苦茶モテている。
 さらに生徒会にも入っていて、来年には生徒会長になることを勧められているのだという。
 ファンクラブもあり、中々大変だと強斎に愚痴っていた。
 強斎以外には愚痴ったことがないらしいが。
 しかし、この完璧超人だが……。
 ゲーム好きなのに関わらず、意外に下手なのだ。
 ここまでは完璧で無い様子。
 だから時々強斎にゲームを貸して、攻略を訊いてたりする。


「ゲームの話する前に、さっさといただきますしちゃいましょ!」
 鈴がしびれを切らしたのか、勇志と強斎に入ってきた。
 澪は何故か俯いて暗い雰囲気だったが、鈴がそう言った途端に元に戻る。
「そうだね。じゃあ、いただこうか」
 勇志の一言で各自準備をする。
 それから、準備が終わったところで食事を開始した。
「澪、いただくぞ?」
 強斎は再度許可を取って、予備の割り箸を割る。
「あ、うん。こっちに作りすぎたのがあるから……あ、でも、あり合わせだから、そんなに――」
「澪が作ったんだろ?」
「そ、そうだけど……」
「なら問題ない」
 そして適当なおかずを口に入れる。
「はぅ……」
 実はこの澪だが、今日は何故か多く作った方がいいと思ったらしい……。
 それは必然か、それとも偶然か。
 多く作った事によって、この男。


 ――小鳥遊強斎は四人の勇者に巻き込まれることになった。


「ん?」
 大地は手を止めて、周りを見る。
「どうしたの? 大地?」
 そんな大地に鈴は何気なく訊いた。
「いや……なにか……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 大地が気がついた違和感。
 その数瞬後には五人は光に包まれていた。
「な、なにこれ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「みんな! 逃げるぞ!」
 勇志がそう叫んだ瞬間、五人はこの世界から消えてしまった。


[#ここから6字下げ]
更新は不定期
[#ここで字下げ終わり]
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[#3字下げ][#中見出し]2話 巻き込まれたっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
女王→王女に変更。
そっちの方がロリっぽいから
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 ここは、とある世界のとある一室。
「や、やった! 成功だ! 成功したぞ!」
 そこで大声をあげる、見た目三〇代の男性。
「は、はい……成功……です……! お父様!」
 そして、何かをやり遂げ呼吸を乱す一〇代の女性。
「よくやった……よくやったぞ! ヴェレス!」
「ありがとう……ございます……」
 ヴェレスと呼ばれた少女は、今にでも倒れそうな程フラフラだ。
「辛いだろうが、勇者の方々を迎えに行かねばならん。歩けるか?」
「スー……ハー……はい!」


    *




 ここは、とある世界のとある一室。
「……」
 強斎は「知らない天井だ」と言いかけたが、その前に声をかけられた。
「ようやく目が覚めたかい、強斎」
「……勇志か」
 頭を抑えながらも起き上がり、周りを見渡す。
「あなたが一番最後よ」
「その前は鈴だっただろ?」
 勇志だけでなく、鈴や大地もそこにはいた。
「おはよう、強斎」
 そして、背後から澪の声がかけられる。
 これで全員だ。
「俺はどれだけ横になっていた?」
「うーん、私は鈴の前だったからどれだけって言われてもわかんないかな……?」
「そうか」
「あ、でも勇志ならわかるかもよ? 一番最初に起きたらしいし」
「いや、そこまでして知る必要はない」


 強斎はこの状況で冷静になっている四人の様子を見て、内心驚愕していた。
(いきなり別の場所で目を覚ましているのに、誰一人騒ごうとしない……。本当にこいつらはすげぇな)
 といっても、強斎もそのうちの一人なのだが。
 そんな事を考えているうちに、勇志がスッと立ち上がる。
 それに続いて全員が立ち上がった。
 各自状況を分析しているのだろう。皆、顔が険しかった。
 そんな中、大地がピクリと反応した。
「誰か来る……」
「本当かい?」
 勇志の質問にしっかりと頷いた。
「ああ。根拠はないが確実に……な」
 すると数秒後、前方にあった扉が開いた。


「失礼します」
 扉の先には俗に言うメイドがいた。
 五人の視線がメイドに集まる。
 メイドは少しだけ不思議そうに見渡していたが、それも一瞬だけだった。
「言葉、通じるでしょうか?」
 言葉の意図がわかっていないのか、五人は数瞬無言だった。
 いや、強斎だけはとある可能性を考えていたが。
「ええ。問題ないですよ」
 流石と言うべきか。
 勇志はほんの少し動揺しながらも、しっかりと対応する。
 すると、メイドはニッコリと笑みを浮かべてからこうべを垂らした。
「今置かれている状況を詳しく説明しますので、ご同行お願いします」
 五人は顔を見合わせ頷いたのを確認すると、メイドは部屋から出ていった。
 …………
 ……
 ……
 全員が部屋を出たのを確認したメイドは、先程と同じように礼をして。
「では、参りましょう」
 とだけ言って歩み始めた。
 五人はそのメイドに黙ってついていく。
「ねぇ、強斎」
「ん?」
 澪の顔は少しだけ険しかった。
「ここ……なんかお城みたいだね」
「そうなんだろうな」
「日本にこんな場所ないよね? あるといっても和風のお城……。でも、このお城は……」
「洋風だな」
 澪は無言で頷いた。
 だが、強斎はお城とかどうでもいいといった感じで聞き流している。
 そんなことより、考えるべき事があったのだから。
 光に包まれて気が付いたら見知らぬ部屋。
 先ほどのメイドの言葉の意味。
 そして、この城……。
 先程から、電球らしきものを一つも見かけないのだ。
 そのことから、強斎はある考えに至っていた。
(これって、もしかしなくても異世界転移されたよな?)
 強斎はゲームだけでなく、小説もかなり読んでいる。
 その中に、異世界に転移するファンタジーもいくつかあったのを覚えていた。
(それにしても広すぎだろ……)
 先程から右に曲がったり左に曲がったりしていて、既に元の部屋に戻れない自信があった。


「なぁ、澪」
「ん?」
「元の部屋に戻れるか?」
 澪は後ろを振り向いて手を口元に当てる。
 そして……。
「うん、戻れるけど?」
「ちっ」
「えぇ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そんなやり取りが終わる頃、勇志はメイドに声をかけていた。
「すいません」
「なんでしょう?」
「ここは……一体どこなんですか?」
 先ほど詳しい説明は後ですると言っていたが、いつまで経ってもその様子がないので、勇志が代表して訊いた。
「ここはドレット王国にある、ドレット城です」
「ドレット王国?」
 そこに大地が加わった。
「はい、五大王国の一つでございます」
「って言われても、わからないね」
 そして鈴も加わる。
「五大王国とは、このドレット王国、メシア王国、フィリス王国、シッカ王国、ライズ王国の事をさしております。特にこのドレット王国は魔術師が特に多いのですよ」
「「「「魔術師?」」」」
 いつの間にか澪も加わっていた。
(面白いぐらいハモったな。だが魔術師か……これはもう、確定だな)
 強斎も加わっているのだが、聞き役に徹している。
「はい、火精、水精、土精、風精、光精、闇精の六精霊からお力を借り、魔術を扱う者です。扱うには適性が必要ですが」
(王道ファンタジーだ[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 内心フィーバーな強斎であった。
 …………
 ……
 ……


 強斎がフィーバーしているうちに目的地についたようだ。
 メイドは豪勢な扉の前で止まる。
「こちらです」
 強斎以外は息を呑む。
 そして肝心の強斎と言えば……。
(どうせあれだろ? 王様の娘が「ようこそおいでなさいました、勇者様」とか言うパターンだろ? テンプレじゃん。あ、でも勇者か……言われてみたいな)
 と、斜め上を行く考えを持っていた。
「ホルス様、連れて参りました」
 メイドが閉まったままの扉に向かって声をかける。
「うむ、入れ」
 すると、中から男性の太い声が聞こえてきた。
「では、皆様どうぞ」
 そして、目の前の扉がゆっくりと開いた。




 扉の奥には何ともいえない、広い空間だった。
 そして、左右には防具をつけた兵士がズラリと並んでいる。
 この部屋の最奥。そこにはかなり豪勢な椅子があり、そこに見た目は三〇代の男性が座っていた。
 その男性がスッと立ち上がる。
 髪の色金髪で、爽やかなイメージがある。
 身長は大地や勇志より少し高く、体型は服でわからないが太ってはいないだろう。
「おお、君たちが……!」
 興味深く五人を観察した後少し首を傾げたが、また笑顔になった。
「あの……」
「おお、すまんすまん。私の名はホルス・ドレット。このドレット王国の王だ!」
「えっと……」
「ん? 言葉は通じているようだな!」
「ええ、まぁ」
 先程から勇志の言葉が通っていない。
「それよりひとついいですか」
「む? なんだ?」
 いつもと違う態度の鈴が一歩前に出て、誰もが気にしていたが誰も口にしなかったことを言った。


「――私たちは元の世界に帰れますか?」
 メイドの話を聞いてから……あるいはその前から、ここが日本でないことがわかっている。
 誰もが疑問に思ったが、口に出す事は出来なかった。
 怖かったからもあるのだろう。
 そして、その答えは目の前の男から出された。


「――今は無理だ」
「なっ!」
 怒りを極力外に出さずに、勇志は声をあげる。
「では、僕たちは貴方達の勝手な都合で、ここに連れてこられたわけですね」
「貴様! ホルス様になんて口の利き方を!」
 他の兵士より良さそうな防具を装備した兵士が、勇志に向かって怒鳴る。
「よい、お主は下がっておれ」
「しかし……」
「下がれと言っておる」
「……はい」
 若干睨まれたが、おとなしく引き下がる。
「すまんな、許せ」
「いえ」
 勇志もその兵士を一瞥しただけで、それ以上は何もしなかった。
 そんな勇志をしっかり見て、ホルスは申し訳なさそうにする。
「確かにこちらの都合で勝手に君達を招き入れた。そして、今は元の世界に戻すことも出来ん。すまない」
 そう言って頭を下げるホルス。
 兵士達がザワザワと騒ぎ出し、さっき下がった兵士が声をあげる。
「ホルス様! こんな奴らに頭を下げる等……」
「黙れ」
「……はい」
 頭を上げたホルスは話を続ける。
「確かに今は無い。だが、方法はある」
「本当ですか?」
「ああ。魔王を倒し、神の封印を解いてくれ。勇者達よ。そうすれば、必ずや戻ることができるであろう」


 暫くの沈黙。
 そんな中、強斎は殆ど呆れていた。
 だが、それを破ったのは勇志であった。


「わかりました」
「なっ、勇志!」
 あっさり了承した勇志に鈴が文句を言おうとする。
「鈴。多分だけど、この世界はもう危ないと思う」
「え?」
 勇志の険しい顔に、鈴はほんの少しだけ戸惑う。
 そのすきに勇志は話しだした。
「僕が見る限り、この人は本当に僕たちに悪い事をしたと思ってる。でも、こうするしかないから僕たちを呼んだ。ですよね?」


「理解が早くて助かります」


 勇志はホルスに言ったつもりだったが、勇志の問に答えたのは女性の声だった。
 そして、その女性がホルスの後ろから出てきた。
 澪より背は小さいが、容姿はほぼ同等。
 髪はホルスと同じ金髪だ。
「初めまして、勇者様の皆様。私の名はヴェレス・ドレット。ドレット家の次女でございます。そして、皆様をお呼びした時空魔術師でございます」
 そう言って、深々と礼をするヴェレス……が、途中で止まって、ガバッと顔を上げた。
「どうしました?」
 こういう時は、やはり勇志だ。
 しかし、このヴェレス・ドレットは、とんでもないことを言い出した。




「――――――勇者様は四人のはずですが?」




 暫く空気が固まる。
 そして、ヴェレスは恐る恐るといった感じで語りだす。
「恐らくは、私の手違いで一人多く召喚させてしまったみたいです……。皆様、『ステータス』と念じてみてください」
 強斎以外の四人は緊張が見られたが、強斎は……。
(さて、念願のチート設定を拝見するか)
 といった感じで浮かれながら自分のステータスを見る。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV 一
 HP 一〇〇/一〇〇
 MP 二千/二千
 STR 一五
 DEX 二五
 VIT 二〇
 INT 三〇
 AGI 二〇
 MND 五〇〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 MP自動回復速度上昇LV1
 未設定
 未設定
 未設定
 未設定
 属性
 未設定


 #
(み、未設定? それに、MPとMND、LUKが他に比べて高いな……。てか、これってチートか? そんなに高いように見えないが……。だが、超解析か……もしかしたらこれがそうなのかもしれん。使ってみるか)
 と、使おうとした時勇志が声を上げた。
「すいません、超解析ってなんですか?」
「超解析はありとあらゆるもののステータスを覗ける、レアスキルの一種です」
 へーっと頷く強斎以外。全員超解析持ちのようだった。
 それにより、ますます不思議に思うようになった強斎。
「皆さん、私に向かって『解析』っと念じてみてください。
 とりあえずは他の人のステータスを見なければ比べようがないので、強斎はヴェレスに使うことにした。


 #
 ヴェレス・ドレット
 LV 二二
 HP 二四六/二四六
 MP 一七/三四二
 STR 四六
 DEX 五一
 VIT 四七
 INT 六〇
 AGI 五〇
 MND 六八
 LUK 五〇
 スキル
 超解析
 作法LV3
 解読LV2
 剣術LV4
 時空術LV6
 属性
 時空魔術(ユニーク)


 #


(王女様強っ! 俺より強ぇ……ってことはもしかして……)
 そう言って強斎は他の四人にも超解析を使った。
 #
 ユウシ・スズキ
 LV1
 HP 千/千
 MP 千/千
 STR 一〇〇
 DEX 一〇〇
 VIT 一〇〇
 INT 一〇〇
 AGI 一〇〇
 MND 一〇〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 聖騎士
 剣術LV10
 状態異常耐性LV5
 火属性LV3
 水属性LV3
 土属性LV3
 風属性LV3
 光属性LV5
 闇属性LV3
 HP自動回復速度上昇LV3
 MP自動回復速度上昇LV3
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 ダイチ・タカミ
 LV1
 HP 一二〇〇/一二〇〇
 MP 八〇〇/八〇〇
 STR 一二〇
 DEX 九〇
 VIT 一二〇
 INT 八〇
 AGI 八〇
 MND 八〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 盾LV8
 大盾LV5
 大槌LV5
 剣術LV8
 刀LV5
 状態異常耐性LV5
 火属性LV2
 土属性LV2
 光属性LV4
 HP自動回復速度上昇LV4
 属性
 火・土・光
 #
 #
 リン・ハネダ
 LV1
 HP 八〇〇/八〇〇
 MP 一二〇〇/一二〇〇
 STR 七〇
 DEX 一二〇
 VIT 八〇
 INT 一二〇
 AGI 九〇
 MND 一二〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV3
 体術LV3
 状態異常耐性LV5
 火属性LV5
 水属性LV5
 光属性LV5
 闇属性LV5
 MP自動回復速度上昇LV5
 魔術攻撃力上昇LV5
 属性
 火・水・光・闇
 #
 #
 ミオ・トウヤ
 LV1
 HP 七五〇/七五〇
 MP 一三〇〇/一三〇〇
 STR 七〇
 DEX 一〇〇
 VIT 七五
 INT 一五〇
 AGI 一二〇
 MND 一三〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 回復特化
 付属魔術
 料理LV7
 作法LV4
 僧侶Lv5
 ヒール・ハイヒール・エリアヒール・ヒールライト・リジェネ
 状態異常耐性LV6
 HP自動回復速度上昇LV3
 MP自動回復速度上昇LV4
 属性
 回復特化(ユニーク)
 付属魔術(ユニーク)
 #


(おいおい……まじかよ……)
 強斎は内心絶望に近い状況におちいってしまった。
 そんな強斎を何とも言えない目で見ているヴェレスを含む五人。
 ついでに言うと、皆の解析にはこう見えていた。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV 一
 HP 一〇〇/一〇〇
 MP 二千/二千
 STR 一五
 DEX 二五
 VIT 二〇
 INT 三〇
 AGI 二〇
 MND 五〇〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 MP自動回復速度上昇LV1
 属性
 なし
 #
 強斎はもう一度周りを見渡して、ため息をついた。
「どうやら俺みたいだな」
「強斎……」
 澪は強斎を心配そうに見ていた。
 しかし、強斎は澪を一瞥しヴェレスに話しかける。
「なぁ、王女様」
「なんでしょう?」
「俺はこれからどうすればいい?」
 ヴェレスがほんの少しだけ言葉を詰まらせる。
 そんな中、大地が一歩前に出た。
「勇者じゃないから、俺たちと同じように扱わない……って訳じゃないですよね?」
 少し睨みながら、新たに質問した。
 大地の質問は答えられるようで、ヴェレスはしっかりと頷く。
「ええ、それは保証しましょう。幸いキョウサイさんは勇者様には劣るもの、平均より高いですし同じようにレベル上げをしていただきます」
 その言葉を聞いた途端、強斎以外の四人からは隠しきれない安堵の表情が見れた。
 強斎は大地を睨むように見る。
 大地は何かを勘違いしたのか少し笑ったが、強斎はそんな気分では無い。
(余計な事言うなよな……)
 強斎は何かと理由をつけてこの異世界を観光するつもりだったのだ。
 |匿《かくま》ってくれるのは嬉しいが、チートでも何でもない自分が足手纏いになり、借りが出来てしまうのが嫌というのが本音だが。
 ここで、一人の兵士がホルスに耳打ちした。
「部屋の準備が出来たみたいだ。外にいるメイドの指示に従ってくれ」
 こうして小鳥遊強斎は、勇者たちに巻き込まれたのであった。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名を常時受け付けております。
説明もつけてくれるとやりやすいです。
最初からチートだと思った? 残念!
そんなことしたら、勇者たちと別れられないじゃないですかー
未設定ってなんだろー(棒
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]3話 宴会の事件っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
グロが入ります。ご注意を
[#ここで字下げ終わり]




 メイドに各部屋を案内され、少し経ってから強斎の部屋に集合することを提案した澪。
 そのことについて、廊下で討論が始まった。
「で、なんで俺の部屋なんだ?」
「どうせ呼んでも来ないでしょ? だから強斎の部屋」
 誇らしげにその豊富な胸を張る澪。
 確かに強斎は呼ばれても来ないつもりだった。
 面倒くさいというのもあるのだが、自分にできる事など無いと言うのもある。
 強斎はその事を告白すると、鈴に呆れられた。
「あんたさ、自分は私たちと違うと思ってるんでしょ? ほんっと馬鹿ね」
「お前より成績は良かったはずだが?」
「い、今はそんな事関係無いでしょ!」
 顔を真っ赤にして反論する鈴。
 だがそれも一瞬のことで、鈴は一息ついてから強斎の目を睨むように見る。
「さっき王女様に『俺はこれからどうすればいい?』って訊いた時、ここから出ていくつもりだったんでしょ?」
 強斎は否定も肯定もせず、無言だった。
 そのことは織り込み済みだったのか、鈴はそのまま言葉を続ける。
「言っておくけど、そんな事全員気が付いてたから。だから大地は確認するように王女様訊いたの。あそこで同じように扱わないって言ったら、私たちも出ていったわ」
 勇志、大地、澪は同時に頷く。
 だが、強斎はそれを見て眉を顰めて呆れていた。
「お前ら馬鹿だろ、成績云々じゃなくてな。何故俺が出て行ったらお前らも出て行くんだ? 優遇されるのに何故わざわざそれを蹴る? それに、お前らにとって足手纏いの俺には出ていってもらった方が色々良いと思うんだが?」
「そ、そんなこと!」
 澪が喋ろうとするのを、鈴が手で抑える。
「私たちが馬鹿だったら、あんたは正真正銘の大馬鹿ね。成績云々じゃなくてね」
 キッと強斎を睨む。
「少なくとも私は[#傍点]強斎[#傍点終わり]に助けられているのよ? 気づいていないだろうけど。それなのにまともな恩返しすら出来てない。こんな大きな借り借りっぱなしじゃ嫌だから、返させなさいよ」
 話が少しだけズレている様な気がしたが、強斎にはこのような言い方に弱い。
 それに続いて、澪、大地、勇志が声を出す。
「私も、強斎に返しきれないぐらいの大きな借りがあるの! だから……その……私が強斎を守る!」
 顔を赤くしながら、半分叫ぶように言う澪。
「俺も強斎には大きな借りがある。だから、それ位返させろ」
 あくまでも冷静に言う大地。
「僕も強斎に借りっぱなしだからね。絶対に返すから、そのつもりで」
 にこやかに言いながらも、熱く言う勇志。
「これでわかった?」
 鈴はしっかりと強斎を見て確認を取る。
「ああ、お前らが優遇されるのに蹴る理由が何となくわかった……だが」
 強斎は全員をもう一度見渡す。
「何故俺にそこまで気を遣う? 俺はお前らにやった借りはしっかりと返させて貰ってるし、お前らは俺とは違う特別な存在だから――」
「「「「違う[#縦中横]!![#縦中横終わり]」」」」
 一斉に否定され、言葉を途中で止めてしまう。
 その瞬間、強斎は鈴に胸倉を掴まれた。
「あんた、ぜんっぜん理解してないわね! 冗談でもそんな事言わないでよ!」
 鈴とステータスも身長も大幅に離れている強斎は、鈴に掴まれてかなり苦しいはずなのだが、何も言わずに鈴の目を見ていた。
 その目は地球では感じたことのない怒りに満ち溢れていた。
 その横から、半泣きになっていた澪が声をあげた。
「そうだよ……! 強斎と違う特別な存在? なんで……! なんでそんな事言うの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪は必死に強斎に問い詰める。
 大地と勇志は二人に任すといった感じだが、二人共何かを言いたげだった。
 少しすると鈴が強斎の胸倉を離した。
「同じ人間で、同じ地球人で、同じ日本人で、同じ学校で、同じ学年で、同じ友達じゃない! 私たちが特別なら、あんたも同じ特別よ!」
 少し咳き込む強斎にそう言い放った。
 そして、鈴の瞳にはほんの少し涙が浮かんでいることに強斎は気付く。
(全く……こいつらは……)
 強斎は悪い気分では無かった。
(俺は……こいつらと違うという事を、否定してもらいたかったのかもな)
 強斎は冷静を演じているが、少し不安もあった。
 チートをもらえなかった脇役の転移者は、酷い生活をしていたという話を小説でよく見かけている。
 その不安が無くなって和らいだ。そんな感じだったのだ。
「澪」
 全員に睨まれながら、澪の名前を指す。
「え?」
「お前が頼むなら部屋も貸してやるし、参加もしてやる」
「え? え?」
 澪だけでなく他も理解していないようで、呆気に取られている。
 強斎は小さくため息をして、その理由を話す。
「勘違いするな。弁当の借りを返すためだ」
「……強斎」
「勘違いするなと言っている」
「えへへ……うん、わかった! じゃぁ、強斎! ちゃんと参加しなさいよね!」
「……ああ」
 澪はさっきとは全く違って、見るからに喜んでいた。
 その雰囲気がこの場を包む。
 その時、鈴が少し大きめの音で手を叩いた。
「よし、じゃぁ暫くしてから強斎の部屋にしゅーごーね」
「提案したの私だよー?」
「あは、そうだった?」
 勇志と大地も顔を見合わせて苦笑いしている。
「ところで皆。学校指定のソーラーパネル付き腕時計ちゃんとつけてる?」
 そう言って、腕を出す鈴。
「メイドさんに聞いたところ、この世界には時計が無いらしいの。でも、時間は地球と同じ一日二四時間。三時間毎に鐘が鳴るみたい。夜は鳴らないらしいけどね。それで、三時間刻みしか時間がわからないからこれを使って三〇分後に強斎の部屋に集合でいいわね?」
 そう確認取ってから、各部屋に戻る。
 この世界の時間は一日二四時間で一週間は七日、一ヵ月は三〇日で一年は一二ヵ月の三六〇日。と地球に近いのだ。
 曜日は火・水・土・風・光・闇・無で、無の日が日本で言う日曜日だ。
…………
……
……
 暫くして、強斎の部屋に全員集合した。
 初めに鈴が話し出す
「さて、私は色々な事を訊いてきたから、ちょっと聞いてね」
「流石だな、助かる」
「えへへ」
 大地に褒められたのがそこまで嬉しいのか、鈴は顔を緩めて照れくさそうに笑った。
 しかし、それも直ぐに終わる。
「こほん……えっと、まずは属性についてね。属性を持っている人は人口の三割以下らしいわ。そして、基本的に一人一つ。二つは珍しく、三つは全然いないらしいの。四つとユニーク属性はほんの一握りの数しかいないんだって。それから、ステータスなんだけど……ステータスは動くもの全てについているらしいわ。LUKは一生固定らしく、それ以外の二〇歳平均初期値は、計算上HPとMPが五〇~八〇でそれ以外は一〇前後だって。それでレベルについてだけど、レベルは経験値というのを手に入れて、それが一定まで達するとレベルアップするみたい。経験値はステータスを持っているものを倒すのが主な入手方法らしいけど、それ以外に訓練や運動等でも入るんだって」
 強斎以外は真剣に聞いている。
 強斎はステータスがあるならこの位当たり前だといった感じで聞いていた。
(それにしても、よくあんなに一気に喋れるなぁ……)
 余計な事も考えているようだ。
「鈴、ちょっと質問いい?」
「どうしたの? 澪」
 澪は疑問があったようで、鈴に質問していた。
「私たちは地球で運動とかしていたのに、どうしてLVが一なの?」
「それは私も訊いてみたけど、わからないって言われちゃった……」
「そっか……」
 強斎はこの疑問について、ある程度推測していた。
(恐らくだが、ステータスはこの世界独特な機能でこの世界で動くと認識された時にステータスが貰えるのだろうな。そして、俺達はさっきこの世界で動くと認識されたから、さっきステータスを貰った。本来、俺たちの歳になると、特例を除いてレベルアップはしているだろうから計算上なんだろう。QED証明終了っと)
 そして、その仮説はほぼ正解していた。
「スキルにも経験値があって、これは使えば使うほど上がるんだって。これは一気に上がる事もあるらしいし、どれだけ使っても上がらない事もあるらしい。それと、スキルは頑張れば取得できるものが殆どで、例外はレアスキル、属性スキル位らしいよ」
(これも王道だな)
 強斎がそんな事を考えていると、鈴の雰囲気が一気に変わった。
「今から戦闘について話すから、しっかりと聞いていて」
 流石の強斎も、こればかりは耳を傾ける。
「皆のステータスを見る限り。大地が盾で前衛、勇志が剣で中衛、私と澪が魔術で後衛になるわね。強斎はMPとMNDが高いから魔術師寄りなんだろうけど、適性属性がなしだから魔術は使えない……だから、私にはどこに配置すれば良いかわからないの……ごめんね」
「別にいい」
(なしじゃなくて未設定なんだが……見えていないっぽいな。まぁ、教える必要は無いだろう。それに……)
 強斎はもう一度全員のステータスを見る。
(やはり俺がいると効率が悪いな。機会を見計らって別れるか……。まぁ、その時まではこいつらに甘えるか)
 やはりひねくれている性格であった。
 この後、雰囲気も和み冒険者がどうたらから結婚は一五歳からがどうたらの話になったので、強斎は散歩すると言って部屋を出た。
 結婚の話になった時に鈴と大地がチラチラお互いを見ていたが、不思議なことに一回も目が合わなかったのでイライラしていたのもある。
「大丈夫? 迷子になったらダメだよ?」
 澪に本気で心配されてしまった。
「その辺を少し歩くだけだし、大丈夫だ」
(迷子になったら、人に訊くだけだしな)
「そ、そっか。じゃぁ、いってらっしゃい」
「ああ」
 結婚の話になった時の澪の目線には気がついていない強斎であった。


…………
……
……




「迷った……」
 フラグ回収お疲れ様でした。


 強斎がフラフラと歩いていると、不意に声が聞こえた。
 その人に道を訊こうと思い、強斎は声の聞こえる方に向かう。
 しかし……。
「本当に勇者を召喚しやがって……これじゃあ、ドレット王国が有利になるじゃねぇか……」
(ん? あれは……ああ、あの時の兵士か)
 勇志の態度に怒鳴った、他の兵士とは違う兵士がそこにいた。
 様子がおかしいので強斎は暫く聞き耳を立てていると、とんでもない事を聴いてしまった。
「こうなったら、宴会で勇者を始末するか……。幸い、レベルはまだ低いはずだからな」
(おいおいおい! 始末ってなんかやばくないか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ってか、あの兵士。王に一番忠誠誓ってる感じだったが、他国のスパイだったのか……?)
 こうして、強斎はそそくさと撤退するのであった。


…………
……
……


 結局戻れたのは宴会直前で、澪に説教される事になったのである。
 強斎がいない間は恋愛トークになっていたらしいが、強斎には詳細を教えなかった。
 強斎もそれどころではなかったが。


…………
……
……


「勇者様方、こちらの御勝手な都合により、お呼び出ししてしまった事を深くお詫び申し上げます。私の最大限のおもてなしを――」
 勇志達がヴェレスの演説を聞いている中、強斎はあの兵士にばれないように監視をしていた。
「――では、お楽しみ下さい」
 ヴェレスがそう言って礼をした時、あの兵士が懐から何かを取り出し勇志達に向けて投げた。
「危ない!」
 強斎は大声で叫ぶと同時に自分からその石に向って行き、勇志達とは離れている場所で当たった。
 そして――――。




 ――――――強斎は消えてしまった。






「え?」
 強斎の叫び声に気が付いて、皆、強斎が消える瞬間を見ていた。
「くそっ!」
 そう言って、逃げ出そうとする兵士をホルスは見逃さなかった。
 逃げ出さなければ見つからなかったが、兵士は見つかったと思ったのだろう。
「あいつだ! 捕えろ!」
 こうして、兵士は一瞬にして捕えられてしまった。




「強……斎? ……強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「落ち着いて、澪」
「逆になんで鈴は落ち着いていられるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 強斎が消えちゃったんだよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪は我を失っていた。
「それはわかっている。ほら、犯人が捕らえられたから今から尋問が始まるわ」
 鈴も冷静ではないことがひと目でわかった。
 まさしく視線だけで殺せるような目で犯人を睨んでいる。
 勇志は気が付けなかったことを悔やんでいて、大地は兵士と一緒に犯人を押さえていた。
 そして、尋問が始まった。


「どうしてこんな事をした?」
 ホルスはかなりの威圧で、犯人に対して質問していた。
「ふんっ、どうせ失敗したから教えられる事だけ喋ってやるよ。俺は、ここにスパイとして潜り込んで、勇者の召喚を阻止しようと思ってたんだがな。見事召喚しやがって」
 心底嫌そうな顔をする犯人。
「お前は随分前から、我が王国の騎士団に居た筈だが?」
「ああそうさ。だが、俺は最初からこれを企んでいなかったな。いつからかは教えられない」
 随分とペラペラ喋る犯人である。
「では、最後に――」
「強斎をどこにやったの」
 ここで澪が割り込んできた。
「知らないね」
「ふざけないで!」
「ふざけてないさ、あれは転移石。そして、転移先を設定していない」
 ざわざわと騒がしくなる。
「……どういう意味?」
「ふっ、知らないみたいだから教えてやるよ。転移石は転移先を設定すれば設定した場所に行くが。設定してなければ……自分で考えゴフゥ!」
 犯人の腹を殴る鈴。
「答えろって言ってんだろうが」
「ごはっ……ふん、良い胸してんな嬢ちゃん」
 そして、犯人の顔に膝蹴りを入れる。
 その時に聞こえてはいけない様な音がしたが、それを気にする者はいない。
「いいから話せ。次は四肢を抉るぞ」
 完全にブチ切れた鈴がホルス以上の威圧を放つ。
「ガハッ……はぁ……はぁ……ふっ、いいだろう。転移先を設定場合は……完全にランダムで転移する」
「ランダム?」
「ああ、この世界の[#傍点]どこか[#傍点終わり]に転移された。そういえば、あいつは一般人だったな……。じゃぁ、もう助からねぇよ。この世界は普通に生活できる場所がかなり少ない。大半は海の底に転移するだろうな。そして溺れ死ぬ。陸地に転移できたとしても、人間が全然住んでいない砂漠か魔物の住処。魔界ってのもあるな。上手く人間が住んでいる土地に転移出来ても、盗賊に襲われボロ雑巾の様にこき使われるか、苦しめられて殺されるか。更に運よく街中に転移出来ても不法侵入で奴隷落ち。どう転んでもまともな人生は送れないな!」
 くつくつと笑いながら、喋り出す犯人。
 澪は強斎の運命を聞いて絶望し、気絶した。
 鈴も殆ど限界だった。
 そして、犯人が一層高笑いをして、「あいつには、死かそれ以上の苦しみしか待ってねぇぇ!」と言った時、鈴は崩れ落ち泣き始めた。
 そして鈴が泣き始めたと同時に、鈴の膝蹴りとは格が違う不気味な音と大量の|血飛沫《ちしぶき》が舞う。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり][#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 勇志が犯人の右肩を手刀で切り落とし、大地が蹴りで犯人の左膝を砕いていた。
「僕をここまで怒らせたのは、お前が初めてだよ」
 ゴミ以下を見るような冷たい目で見る勇志。
「本気で人を殺したいと思ったのは、産まれて初めてだな」
 勇志と同じような目で大地も犯人を見る。
「はぁ……はぁ……。はっ、殺すならさっさと殺しやがれ」
 あまりの痛みで神経が麻痺しているのか、笑いながらそう言った。
 言われないでもやると言った感じで、構える二人。
 だが……。


「待ってくれ」
 それを止めたのはホルスだった。
「そいつの始末は我にやらせてくれ。勇者様方も初めて殺人をする相手が、そんなクズ以下の奴では嫌であろう」
 そうして、ホルスは剣を持って犯人の前に来た。
「最後に訊こう」
「なんだ」
「お前に命令したやつは誰だ」
 すると、犯人はニヤリと笑い。
「死んでも教えねぇ」
「そうか。それと、お前は密偵として完全に不適切だったようだな」
「へっ、そのようだな」
 そして、この男の首が飛んだ。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》モンスター名、魔術名を常時募集してます。
説明をつけてくれるとやりやすいです。
主人公の口下手が不発だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
四千文字まで書いて、全て消えた時はorzみたいな感じになりましたねー
迷宮とかで別れると思った? 残念! 初日でした!
え? 大地と勇志が怒っているように見えない?
あれです、ブチ切れ過ぎて返って冷静になってるあれです。
クリ○ンの事かぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり] みたいな?
澪は怒りを外に出す前に気絶。
吐くシーンがありましたが、何か嫌だったんで訂正。
美女を吐かすなんて、書いていた自分に一発入れたい気持ちですね!
鈴は怒りと絶望が混ざってどうしたらいいのかわからない状況。
え? 鈴って強斎が好きなんじゃね? だって?
それはどうなんでしょうねー?
さぁ、飛ばされてしまいましたねー
主人公の運命はどうなるんでしょうか
そして、いつチートをGETするのでしょうか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]4話 チートを手に入れたっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
皆さんお待たせしました! チートですよ!
タイトルにやたら『っぽい』がついてるのはこの小説の定番だと思ってください。
決して、ソロモンの悪夢な駆逐艦ではありません。
どこぞの白露型四番艦を真似したわけではありません。
[#ここで字下げ終わり]




 この世界にはステータスが存在する。
 ここでのステータスを簡単に説明しよう。


HP 対象の体力。〇になると死亡、もしくは消えてしまう。
MP 魔術を使うために必要な数値。魔術に必要な数値以下になると、その魔術は使えない。
STR 力を意味する。
DEX 主に、命中率を上げる、加減が容易になる。その他には器用になる等。
VIT 防御力を意味する。
INT 魔術の攻撃力、回復量が上がる。
AGI 素早さを意味する。足の速さが上がるだけでなく、思考回路も早くなる。
MND 魔術の燃費が良くなり、魔術に対して耐性が大きくなる。
LUK 運を意味する。


 これが、この世界でのステータスの大雑把な意味である。
 そのステータスの中でもLUKだけは道具を使わない限り、変動する事は無い。
 しかも、この数値は『超解析』を使ってもこの世界の住人には見えない。
 かなり大雑把なことしかわからないのだ。
 どれだけ大雑把かと言うと。


 〇~一〇 LUK不運
 一一~五〇 LUK普通
 五一~ LUK幸運


 こんな風に見えている。


 だが、実際にはこんな感じだ。


 〇~五 超不運。半端なく運が悪い。まともな人生を過ごせないレベル。
 六~一〇 不運。運が悪い。五回に四回ジャンケンに負ける程度。
 一一~二五 普通。一般的なレベル。
 二六~五〇 微運。運が向いてきたかな? ってレベル。アイスで五本に一本はアタリがでる程度。
 五一~七五 幸運。嫉妬されるレベル。二属性以上持ちが多くなってくる。
 七六~一〇〇 激運。半端なく運が良い。努力では超えられない壁がある。
 一〇一~一五〇 超激運。運が良いじゃ済まないレベル。何となく宝くじをして、一等を当てるレベル。
 二〇〇 神運。もう、神じゃないか? ってレベル。運だけで億万長者も楽勝。
 三〇〇 \(^o^)/。運だけで世界征服もラックラク。




 これが、この世界におけるLUK値の意味。
 そして、強斎のLUK値は五〇〇。
 これがランダム転移されたらどこに転移されるのか?


    *


 ここはとある神殿のとある部屋。
 そこに一人の男が寝転んでいた。
 名前は小鳥遊強斎。勇者に巻き込まれて、異世界転移をした男。
(借りは返したからな)
 そして、強斎は勇者をかばい自らが転移するはめになったのだ。
 性格はひねくれており、貸し借りで物事を判断することがめっぽう多い。
 ここで強斎が借りたものといえば、一時でも強斎の心の支えになってくれたこと。


 むくっと起き上がり、辺りを見回す。
 生き物はいない。
 あるのは机とその上に置いてある、閉じたノートパソコンだけだ。
(何故ノートパソコン?)
 無用心にも近づきノートパソコンを開けた。
 どこから充電しているのか不明だが、問題無く電源がつく。
 そして―――。
『未設定プレイヤーの存在を確認。ID不明。一定以上のLUK値を確認。■■■の権限により、キョウサイ・タカナシのスキル・属性の設定が可能。スキル・属性を設定してください』
「お、おう」
 突っ込みどころ満載だが、強斎は突っ込まずに設定をクリック。
 スキル・属性という画面が出てきたので、まずはスキルを選択。
「うおっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 信じられない数のスキルが出てきた。


 ……脳内に。


(何故脳内なんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 流石に突っ込んだ強斎だったが、ニヤニヤが止まらなくなっている。
 この先の展開についてある程度予測がつき始めたからだ。
 次に属性の方を選択すると、スキルには遠く及ばないがかなりの数の単語が出てきた。


 ……画面に。


「なんでだよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 遂に言葉で突っ込んでしまう。
 そこで、とある文字を見つけた。
「?」
 そこにあった文字は『*』。
 かなり小さいが、確かにそう書いてある。
 それを慎重にクリックすると、目を見開き驚愕した。


『あなたにおすすめチートセット!
 スキル
 超隠蔽 ステータスを任意に偽装出来る。どれだけレベルの高い解析も、ものともしない。超解析の場合のみ名前・スキル・属性以外見破られる。


 スキル強奪 対象のステータスにあるスキルを強奪できる。しかし、対象に触れていない場合は不可。


 レベルアップ時ステータス倍 必要経験値を一〇倍にする代わりに、レベルがアップした時現在のLUK以外のステータスを倍に増やす。
 必要経験値一/一〇〇 レベルアップに必要な経験値が一/一〇〇になる。


 属性
 |想像魔術《SPユニーク》 想像した魔術を実際に発動させることができる。ただし、条件が必要。水素がある場所から水を出す、可。水素がある場所からオリハルコンを出す、不可。とのように条件がある。必要MPは不規則で、規模によって決まる。


 これがおすすめチートセットだよ!』


「チートきたぁぁぁぁぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 直ぐにOKを選択し、自分のステータスを確認しようとするが開くことができない。
 その原因は直ぐにわかった。
『レベルアップ時ステータス倍を選択したので、計算を容易にする為。HP、MPは一の位と一〇の位を〇に指定、一〇〇の位をランダムに変化。それ以外のLUK以外は一の位を〇にし、一〇の位をランダムに変化させます。設定が終わったので、キョウサイ・タカナシは、シッカ王国付近の草原に自動転移します』


「え? ちょっ、ま――」


 こうして、この男は本日三度目の転移をすることになった。


    *


 ここはとある草原のとある場所。
 そこに一人の男が寝転がっていた。
 男の名前は小鳥遊強斎。
 一日に三回も転移を経験した男。
 強斎は暗闇の中、無言でステータスを確認した。

 キョウサイ・タカナシ
LV1
HP 七〇〇/七〇〇
MP 二九〇〇/二九〇〇
STR 八〇
DEX 九〇
VIT 七〇
INT 九〇
AGI 八〇
MND 五九〇
LUK 五〇〇
スキル
言葉理解
超解析
MP回復速度上昇LV1
超隠蔽
スキル強奪
レベルアップ時ステータス倍
必要経験値一/一〇〇
属性
|想像魔術《SPユニーク》





「あはは……マジだ……マジだよな……? 勇者でも無いのに……ははは……」
 ステータスを見て、無意識に笑い出す。
 そして、ふと笑いが止まったと思ったら既に意識は夢の中だった。
…………
……
……
 強斎が目覚めたのは、太陽が昇り始めた時。
(そう言えば、昨日晩飯食えなかったな)
 空腹による違和感にたたき起こされ、冴えていない思考回路でこれからすることを考える。
(とりあえず食料確保か)
 早速、手に入れた魔術――――『想像魔術』を使う。
 自ら特殊な音波を出し、その周辺を調べた。
 簡易ソナーだ。
(近くに何かいる……)
 直ぐに反応があった方面に向かった。


 暫く歩いていると、反応があったものはそこにあった。
 ちゃんとした生き物だ。
 地球にも存在するし、そこまで珍しいものでもない。
 強斎も数回実物を見たことある生き物だ。
 だが、突っ込むしかなかった。


「なんでだよ!」


 強斎は地面に膝をつき、ありったけの声で叫んだ。
 その生き物の名前は――――。




 ――――――ワニだった。




「なんで草原にワニなんているんだよ! どこに水がある[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 辺り一面まっさらな草原じゃねぇか! 森すらねぇよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 数匹固まって群れをつくっているワニに、強斎は全力で突っ込んだ。
 ワニは強斎を警戒しているが、強斎は膝をついたまま動かない。


「ふっ……ふふふ……これがファンタジーか…………いいぜ、やってやるよ……! とことんファンタジーに付き合ってやる[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 勢いよく立ち上がり、風の刃を作り出して全員のワニの首を刈取る。
 そこで、集中していないと聴こえない程の小さな音が頭に響いた。
 ステータスを開けると、レベルが上がっている。

 キョウサイ・タカナシ
LV3
HP 七〇〇/二八〇〇
MP 二八八五/一一六〇〇
STR 三二〇
DEX 三六〇
VIT 二八〇
INT 三六〇
AGI 三二〇
MND 二三六〇
LUK 五〇〇
スキル
語源理解
超解析
MP回復速度上昇LV1
超隠蔽
スキル強奪
レベルアップ時ステータス倍
必要経験値一/一〇〇
属性
|想像魔術《SPユニーク》

「う、うおぉぉぉぉぉぉ[#縦中横]!![#縦中横終わり] すげぇ! すげぇ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ステータスを見てかなり興奮していたが、直ぐに空腹感に負けて冷めていく。
 そして、首を刈り取られたワニを凝視した。
(確か、ワニの肉って食べられたよな?)


 こうして、空腹から逃れるのであった。


[#ここから6字下げ]
スキル名、属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、魔術名を常時募集しています。
説明をつけてくれるとありがたいです。
漢字、カタカナ、厨二。全てウェルカム!
いいと思ったら小説に出します。


自分の火狐が呪われてる気がしてきた。
やっとの事でチートをゲット!
え? 奴隷?
なんで先読みしちゃうかなぁ?
勇者は暫く放置になるっぽい?
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]5話 盗賊っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
一日のアクセス数が四桁いってました! ありがとうございます!
今回は少し内容が変かもしれません。
[#ここで字下げ終わり]




 強斎が、チートを手に入れた三日後の朝。
 二日前に、トコトンファンタジーに付き合うと宣言してから、何があっても突っ込まないと内心思っていた強斎。
 しかし、この男。小鳥遊強斎は三日坊主ならぬ、二日坊主だった。


「なんでだよ……」
 強斎は既に語尾に「!」をつけるのも億劫な程、気が弱っていた。
「なんで、ワニしかいねぇんだ……」
 そう、強斎はここ二日、ワニにしか出会っていない。
 ついでにこのワニ、名前をアリーターと呼ぶ。
 完全に手抜きだ。
 アリーターのステータスは個体差があったが、どれも平均二〇歳初期値より少しばかり高かった。それでも二〇程度ばかりだが。その代わり、魔力とスキルは所持していなかったが。
 それよりも大切な事があった。
 そう、強斎はここ二日アリーターの肉しか食べていないのである。
 水や火は魔術で出せるが、調味料等は出せない。
 死ぬ事は無いが、流石に飽きるのである。


 考えてみよう。


 二日間全く同じ肉で、味付けは無い。飲み物は水のみ。
 胸焼けの一つでもするであろう。




「街をみつけよう」
 強斎はそう呟いてから、気合を入れ直した。


 強斎のステータスは、現在こうなっている。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV7
 HP 四四八〇〇/四四八〇〇
 MP 一八五六〇〇/一八五六〇〇
 STR 五一二〇
 DEX 五七六〇
 VIT 四四八〇
 INT 五七六〇
 AGI 五一二〇
 MND 三七七六〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 MP回復速度上昇LV2
 超隠蔽
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 |想像魔術《SPユニーク》
 #
 自重して欲しい位チートである。




(そう言えば、俺はシッカ王国? 付近に飛ばされたんだよな?)
 しかし、一面草原。
「いっちょ全力で飛んでみるか」
 ぴょんと垂直跳びをした。……全力で。
 すると、強斎は130m程飛び上がった。
「うおっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 高っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎は一瞬驚いたが、自分のステータスを見て納得がいった。
 ワニを倒しただけでこれだ。勇者も涙目である。
(っと、それより街だ街……お、街発見。最初っから、こうしていれば……ん?)
 タッと着地してから、もう一度ジャンプし、先程と同じ方向を見る。
(あれは……馬車だな。しっかし、護衛にしては人が多すぎないか?)
 着地して、街の方向へ歩きながら、考える。
(まてよ?)
 そしてもう一度ジャンプ。
(服装が全然違う……。それにさっきから全く動いていない……。…………ふっ、そうか……)
 着地してから、一気に駆け出す強斎。
「盗賊だな[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 流石王道ファンタジー。


    *


「おいてめぇら! 金と命置いてけや!」
 一回り大きい盗賊が声をあげる。
「ひ、ひいぃ……」
 商人らしき男はビクビクだ。
 護衛の男二人も剣を構えているが、足がガクガク震えている。
「ちっ、おいお前ら! 殺っちまえ!」
「「「「へい!」」」」
 男の号令で、男合わして五人の盗賊が馬車を襲う。
「う、うわぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 護衛の一人が盗賊に突っ込んだ。
「ふん。――――――『ファイアボール』」
 リーダーらしき男が何かブツブツと言って、ソフトボール並の火を作り出した。
「なっ! 魔術師だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 もう一人の護衛が驚愕の表情で、その盗賊を見る。
「死ね」
 盗賊は突っ込んできた護衛に、ニヤリと笑い、ファイアボールを飛ばす。
 だが、ファイアボールは、護衛の男に当たる前に消えた。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 誰の声かわからないが、その声が聞こえた数瞬後には、五人の盗賊が一斉に気絶した。


 …………
 ……
 ……


「い、いったい……」
 商人らしき人が呟くと、それに答えが返ってきた。
「大丈夫か?」
 強斎である。
「あ、あんたがやったのか?」
「じゃぁ、誰がやったと思う?」
「い、いや……すまない」
「別にいい。それよりあんた、商人だな?」
 すると、その男は少し驚いたようだが、改めて畏まった。
「ああ。私の名前はスピッツ。商人と言っても、奴隷商の駆け出しだが……」
 あははと笑うスピッツ。
(奴隷か……この世界にもあるんだな……)
 難しい顔をする強斎に、スピッツはオドオドし始めた。
「す、すまない。何か気を悪くしたか?」
 いきなり謝ったスピッツに、強斎は我に返った。
「いや、少し考え事をしていた。俺の名前はキョウサイだ」
「そうだったか。それでキョウサイ殿はやはり?」
「ああ、この先の街を目指している」
 すると、スピッツは明るい顔をした。
「でしたら、私と一緒に来てくださいませんか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 勿論、報酬は出しますよ!」
 すると護衛の一人が反応した。
「おい! 俺たちの報酬もあるんだろうな[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 先程ファイアボールを当てられそうになったやつだ。
 その言葉にスピッツが反応した。
「お前らみたいなヘタレ冒険者に、誰が報酬なんて出すか!」
「なんだと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 すると、もう一人の護衛が声を出した。
「よせ、スピッツさんの言ってることは正論だ。俺たちは何も出来なかった。……ですがスピッツさん。一応はここまで護衛したんです。流石に報酬〇なんて事はないですよね?」
 じっとスピッツを見た。
「いいでしょう、そっちの冒険者はともかく、君はしっかりと護衛をしてましたからね。さぁ、キョウサイ殿。盗賊を殺して、行きましょうか」
 しかし、強斎は……。
「すまないが、街に入るには身分証明書みたいなのが必要なんだよな?」
「ええ、そうですよ?」
「実は俺はそういうのを持っていないんだ」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] キョウサイ殿は冒険者じゃ……」
「違う。それに、俺はちょっと記憶が曖昧みたいでな……」
 完全に嘘である。
「そうだったんですか……」
 普通に信じてしまった。
「そして、教えて欲しい事があるのだが……」


 …………
 ……
 ……


(さて、早速試してみますか)
 強斎は盗賊のステータスを覗いた。
(リーダーが剣術LV2と体術LV2、それに火属性か。それ以外は一人除いて、剣術LV1か。料理LV1を持ってる奴がいるとは意外だったな)
 強斎は盗賊全員のスキルを強奪した。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV7
 HP 四四八〇〇/四四八〇〇
 MP 一八五六〇〇/一八五六〇〇
 STR 五一二〇
 DEX 五七六〇
 VIT 四四八〇
 INT 五七六〇
 AGI 五一二〇
 MND 三七七六〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 語源理解
 超解析
 剣術LV4
 体術LV2
 料理LV1
 火属性LV1
 MP回復速度上昇LV2
 超隠蔽
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火
 |想像魔術《SPユニーク》
 #


(属性まで追加されちゃったよ……)


 強斎がスピッツの話を断ったのは、スキル強奪を試す為である。
 口下手故に、意味のわからないことを言っていたが。
 ちなみに強斎が、スピッツに教えてもらった事は、金銭の事だ。


 この世界の金銭は一〇〇進法で、銅貨一〇〇枚で銀貨一枚。銀貨一〇〇枚で金貨一枚。金貨一〇〇枚で白金貨一枚。白金貨一〇〇枚で黒金貨一枚だ。
 ついでに、強斎はスピッツに銀貨三枚貰った。




 強斎は盗賊を縄(スピッツに貰った)で縛り上げ、叩き起こした。


「な、何なんだ! お前!」
 盗賊リーダーが、強斎に向けた第一声がこれだ。
「俺のことはどうでもいい。そんなことより、お前らの住処を教えろ」
 本来、盗賊の決まった住処なんてそうそうないが、強斎は何となくあるような感じがしたので、訊いてみた。
「ついでに言うと、魔術は使えねぇぞ」
「くっ……」
「で? あるんだろ? 住処」
「ひと思いに殺せ!」
 すると強斎はスッと立ち上がり、地面を殴った。
 ズドン! と言う音が響き、そこにはクレーターが出来ていた。
 そして、もう一度。
「あるんだろ?」
 …………
 ……
 ……




 結果、大収穫だった。
(まさか、大手の盗賊団だったなんてな)
 リーダー盗賊を脅迫して、無理矢理にでも吐かし、その場所に行くと物凄い人数の盗賊がいた。
 強斎は殺さずに全員無力化し、縄で縛り、スキルを強奪。
 レベルアップはしなかったが、スキルと金銭。武器も手に入った。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV7
 HP 四四八〇〇/四四八〇〇
 MP 一八五六〇〇/一八五六〇〇
 STR 五一二〇
 DEX 五七六〇
 VIT 四四八〇
 INT 五七六〇
 AGI 五一二〇
 MND 三七七六〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 語源理解
 超解析
 剣術LV7
 刀術LV1
 体術LV5
 槍術LV5
 弓術LV6
 盾LV3
 大盾LV1
 料理LV4
 火属性LV2
 水属性LV1
 風属性LV1
 MP回復速度上昇LV3
 HP回復速度上昇LV6
 アイテムボックス
 超隠蔽
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・風
 |想像魔術《SPユニーク》
 #


(金は結構あるな……。お、白金貨あるじゃん)
 アイテムボックスに突っ込まない強斎であった。


 結果手に入れた金銭は……。


 白金貨二枚 金貨七四枚 銀貨約五三〇枚 銅貨約二八〇枚だ。


(黒金貨は流石に無かったな)


 普通は見ることさえ無い黒金貨だから、当たり前なのだ。




(武器と防具は……使えそうなもんだけ装備するか。お、レア度なんてあるのか)
 強斎は今まで調べてこなかったが、ほとんどの物にはレア度がついている。
 順番にNノーマル、HNハイノーマル、Rレア、HRハイレア、SRスーパーレア、URウルトラレア、SCRシークレットレア、LGRレジェンドレア。
 これらが確認されている。


(NとかHNとかどこのカードゲームだよ……)
 武器、防具は殆どNやHNで、時々Rが混ざっているぐらいだった。
 強斎はHNとRのものだけ取っていくが、そこであるものを見つけた。


 #
 対魔術刀 SR
 何故か魔術攻撃を斬る事ができる
 #


(説明雑っ[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 強斎は刀を持って、そう呟いた。
(しかし、刀か……。刀レベルは低いが、日本人として使命感があるな。それに、性能も中々だ)
 そう呟いて、刀を装備した強斎は、この住処から出て行った。


 強斎の装備は軽装備で、真っ黒のコートに黒のブーツが防具だ。指貫手袋と眼帯は無い。
 コートの中は変わってないので、早急に変えなければならない。
 こうして、シッカ王国に向かった。
 …………
 ……
 ……




「え、あ、ああ。そうだ。身分証明書は無い」
「それで? 入国の目的は?」
「とりあえず冒険者になろうと」


 強斎の口下手のせいで、かなり遠まわしな感じだったが、ようやく本題に戻れた。


「そうか。今から犯罪歴が無いか調べてもらうから、こっちこい」
「了解した」
(テンプレだなー……)


 …………
 ……
 ……


「来たぜ! シッカ王国!」
 様々な魔道具を使って、犯罪歴が無い事が判明。
 ついでに、盗賊の住処を発見したと報告し、強斎は金貨五枚貰った。


(ほう、この世界にも屋台とかあるんだな。それに安いな)
 ここでの銅貨一枚は日本でいう一〇〇円だ。


 そこで、強斎はある店の前で止まる。


「…………奴隷商店」


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しています!
漢字、カタカナ、オールOKです
奴隷商店? 何が始まるんだろー(棒
感想待ってます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]6話 奴隷っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
後半、超カットしました
[#ここで字下げ終わり]




 強斎はとある店――奴隷商店の前で立ち止まっていた。


(奴隷か……俺はこの世界に疎いし、奴隷を買って、色々訊くのもいいな……。奴隷だったら安心して色々質問できるし、これからの旅でも役立ちそうだ)
 言い訳を唱えながら、奴隷商店に入っていくのであった
…………
……
……
「はい、いらっしゃい」
「お前は……」
「おぉ! キョウサイ殿ではないですか!」
 強斎を出迎えたのは先ほどあった男性。スピッツだった。
「早速来てくれたのですな!」
「ああ、この先旅をするからな。奴隷は必要だろう」
 スピッツは頷きながら共感するもの、少々声のトーンを落として話を続ける。
「ですがキョウサイ殿。資金の方は……大丈夫なのですか? 私の差し上げた銀貨三枚じゃ、流石に買えませんよ?」
「その心配は無いと思う。盗賊の根城を潰してきて意外に収入が入ってきたからな」
 あまりにも軽々しく口にした言葉に口を開けて驚愕するスピッツ。
 だが、それも数秒のことだった。
「いや、失礼……。キョウサイ殿は強いと思っていましたが……流石にここまでとは……」
「そうか? それよりも見せてくれ」
「わかりました。性別は女で?」
「ああ。それと、戦闘ができて常識がある娘にしてくれ」
「わかりました。こちらへどうぞ」
 強斎は一回だけ頷き、大人しくついていく。
 見た感じ冷静だが、内心はそんなことなかった。
(うおぉぉぉぉ! 買うのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 俺[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 女奴隷買っちまうのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 遂に童貞卒業か[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 全く冷静ではなかった。


「ここでお待ち下さい」
「ああ」
 案内された部屋の椅子に腰掛ける強斎。
 スピッツは奴隷を呼びに行ったのか、部屋から退出した。


(落ち着け……落ち着くんだ、俺。別に買ったからといって、ヤると決まったわけではない。たまたま読んだ小説にそういう描写が多かっただけだ……。この世界で奴隷とヤっていいとは限らんし……)
 必死に自問自答をしている間に、スピッツが戻ってきた。
「キョウサイ殿」
「……」
「キョウサイ殿?」
「ん? あ、ああ。どうした?」
「いえ、キョウサイ殿は奴隷に関して説明がいるかと思いまして」
「ああ、そうだが……。どうしてそう思った?」
「記憶喪失なんでしょう?」
(記憶喪失? ……あ、思い出した)
「よく覚えていたな」
「命の恩人ですから。それで、説明を受けるんですね?」
「ああ、頼む」
 スピッツは、強斎の向かいの席に座り淡々と説明を始めた。
「奴隷は基本物として扱われます。何をしても罪に問われませんが、奴隷が主人の命令で罪を犯した場合主人が罰せられます。奴隷には、主人の命令に対し絶対服従にするよう義務付けられています。質問はありますか?」
 質問を振られてキョトンとする強斎だったが、直ぐに戻り、質問する。
「何をしても罪に問われないとは?」
「そのままの意味です。自分の奴隷には何をしてもいいと言うことです。魔物に食わすのもよし、人体実験に使ってよしと……。他には?」
「奴隷は物と言ったが、宿代とかはどうなるんだ?」
「それは一人分として数えられます」
「そうか」
「他にはありますか?」
「後は……その……。亜人とかとヤると……産まれるのか?」
 その質問を待っていたかのように、スピッツはニヤリと笑う……。
「心配ありません。エルフや同種族以外との行為では、できませんから。それ以外にありますか?」
「いや、特に無い」
「そうですか。もうすぐ準備が終わると思いますので、少々お待ち下さい」
「ああ」
 そう言い残して、またスピッツは出て行った。
(奴隷は物……か。衣食住を安定させない世界なんだな)
 そう考えながら、机の上に紅茶が置かれていたことに気が付く。
 一応解析をして、安全であることを確かめてから口に含んだ。
(これからどうするかな……。常時チートを振舞っていると目を付けられて面倒くさくなる。目を付けられても安全な地位を取ることを優先するか……。確かこういうのって、冒険者で高ランク取ればいいとかあったよな。まずはその辺を検討っと)
 飲み終わった紅茶を、机の上に置く。
(それから、あいつらに逢いに行くか。どうやって逢うかは……これからじっくり考えるか。とりあえず、この世界に関して情報収集しながら安定した地位をとる。そのついでにあいつらと合流っと。こんなもんかな?)
 そう考えたところで、ノックが聞こえた。
 ドアが開き、スピッツが入ってきた。


「キョウサイ殿、準備が出来ましたのでこちらへ」
「ああ」
 こうして、強斎はドキドキしながらスピッツの後に付いて行った。
…………
……
……


「こちらです」
 案内された場所は、地下室だった。
(やはり、予想と一致したな。猫耳や犬耳……亜人か。それに、見た感じ大した飯は食ってなさそうだ)
「じっくりと見させてもらうぞ」
「どうぞごゆっくり」
 強斎は一人一人見ていった。
 最初は容姿を見ていき、その中で気に入った子の中から、解析でステータスとスキルを見ていく。
 その中に一人、気になる子がいた。


 狼耳を持ち、髪は銀髪。目の色は青で胸は中々に有り、鈴には劣るが、澪には勝っているだろう。身長は160cm程度で、痩せているが、肉が付けばかなり上質な女性だった。
 そして、ステータスだが……。



ミーシャ
LV26
HP 二四三/二八六
MP 一六二/一六二
STR 六一
DEX 六七
VIT 五四
INT 五〇
AGI 七六
MND 四九
LUK 二〇
スキル
体術LV2
剣術LV2
短剣LV3
料理LV1
土属性LV0
属性






(土属性LV0? どういう事だ?)
「お、いい子に目をつけましたね」
 解析でステータスを見ていると、スピッツに声をかけられた。
「その子、ミーシャと言うのですが、つい先ほど手に入ったばかりでね」
「それにしては、痩せていないか?」
「手に入ったと言っても、いきなりここにぶち込まれる訳ではありませんよ。色んな手続きをしてここまで来るのですから、時間が掛かってしまう訳です」
「そうか」
「で、どうするんです? 今逃したら、多分手に入りませんよ?」
「そうだな、じゃあこの娘と面会させてくれ」
「かしこまりました」


…………
……
……


 先程、強斎がいた部屋にスピッツ、強斎がいた。
 いち早く口を出したのはスピッツだった。
「ミーシャはこの世界には疎くありませんし、体術剣術の他に短剣が使えます。一応ですが、料理スキルも所持しています。しかし、魔術の才能は無く、土属性の適性を持っているもの土魔術は使えないのです。ですが、見てわかるように容姿は良く美人の部類でありましょう。どうですか?」
「そうだな……。やはり面会をしてみないとどうにも言えないから、席を外してくれるか?」
「かしこまりました」
 そうして、スピッツと入れ替わりに、ミーシャが入ってきた。
「ご指名……ありがとうございます」
「ああ。ところで訊きたいことがあるんだが……訊いてもいいか?」
「はい……」
「お前、土属性の適性があるはずなのに土属性が使えないって本当か?」
 そう質問した時、青色の目が哀しみに染まった。
「……はい」
「なぜだかわかるか?」
「わかりません……」
「そうか」
(可愛いから買おう……)


 こうして、ミーシャとの面会が終わった。


「どうですか?」
「値段にもよるな。確かに容姿は良いがあまり喋らないし、魔術が使えないのも痛いな」
「そうですか……。でしたら銀貨七〇枚でどうです?」
(安っ! 銀貨七〇枚って日本円で計算すると七十万だろ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 七十万で一人分の人生とか……)
 だが、強斎はあくまでも冷静でいた。
「わかった、それくらいなら出せる。俺は奴隷の適正価格なんてわからないからな。それくらいなんだろ?」
「いえ、本来でしたら金貨一枚ぐらいですね。ですがキョウサイ殿は命の恩人ですし、先ほど指摘を受けた所も痛い部分もあります」
(金貨一枚でも、一人分の人生としては安いな……)
「そうか、なら言葉に甘えさせてもらおう」
「お買い上げありがとうございます」
 頭を下げるスピッツに、強斎は質問する。
「奴隷って契約解除とかできるのか?」
 スピッツは頭を上げて、その質問に答えた。
「できますけど、普通はしませんね。奴隷契約解除には金貨一枚かかりますから、それをするぐらいなら奴隷を殺す事が多いです」
「そうか」


 こうして、強斎は奴隷を買ったのであった。


…………
……
……


 ミーシャに奴隷契約をして、奴隷商店を出た。
「よし、じゃぁ、飯でも食うか」
「はい、ご主人様」


 こうして飲食店を探し、二〇分ほどで見つけた店に入るのであった。


 店の中に入って席につくと、犬耳お姉さんが注文を訊きに来たので、犬耳お姉さんのおすすめを、二人分頼む。
 犬が食べられるなら、狼も食べられるだろうと安直な考え方だ。


「で、なんで俺の足元に座るんだ?」
「すみません、邪魔ですよね……。それよりも、ご主人様は沢山お食べになるのですね」
 強斎から少し離れて、地面に座り直すミーシャ。
「はぁ……。お前、何か勘違いしてないか?」
 そう言われ、ミーシャは耳をペタンとさせる。
「すみません……。ご主人様のおこぼれを頂けると思いまして……」
「それが勘違いと言っている」
「え?」
 キョトンとするミーシャに、強斎は優しく微笑みかけた。
「ちゃんと席に座れ。腹、減ってるんだろ?」
「ですが、ご主人様と同じ席に座るなど……」
「はぁ……。じゃぁ、初命令だ。席に座って、腹いっぱい食べろ」
「ご主人様……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「これが終わったら、お前の服や靴。俺たちの住む宿も探すからな」
「ふ、服を買っていただけるのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ミーシャは目を見開き驚愕している。
「ああ。他の奴らがどうかわからんが、少なくとも俺はお前を物扱いにはしない。服や靴を買うのは当たり前だ」
 珍しく、強斎がまともに伝えることができたのであった。
「あ、ありがとうございます! ご主人様!」
 ガバッと頭を下げるミーシャ。
 当然、店内でそのような行動は目立つわけで……かなりの注目を集めていた。
「いいから座れ」
 強斎は冷静だが、恥ずかしかった。
「はい!」
 ミーシャが座ったところで、料理が運ばれる。
 運ばれたのは分厚いステーキだった。
(あの犬耳お姉さん……肉好きか!)
 ふと、ミーシャを見ると強斎がステーキを食べるのを待っている感じだったので、強斎はステーキを食べ始めた。
 ミーシャは早々と食べ終わり、強斎が「おかわりするか?」と訊くと目をキラキラさせて「いいんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」と逆に訊かれてしまった。
 強斎は快く承諾し、ステーキを食べさせてからミーシャを観察する。
(随分と明るくなったもんだ)
 生き生きとステーキを食べるミーシャに、強斎はもう一度微笑んだ。
…………
……
……


 会計は銅貨一五枚だった。あのステーキ一枚で銅貨五枚は安いと思った強斎である。
 ついでに、あの犬耳お姉さんの名前はロコンと言う名前らしい。
…………
……
……


 それから、強斎達は服屋に行きミーシャ用と強斎用に服と下着を数着買い、ワンピースがあったので、それも買っといた。
「それは?」
「これはお前用に」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] そんな高価な……」
「いいから、いいから」


 こんな調子で靴も買っていき、宿を見つける頃には夕方だった。


「いらっしゃいませ。泊まりですか?」
 優しそうな二〇歳ぐらいの男性が受付にいた。
「ああ、一部屋頼む」
 すると、男性は強斎とミーシャを見てニッコリ笑った。
「はい、わかりました。お体を拭く用のお湯はいりますか?」
 この世界に風呂は存在するが、中々高価なものなのだ。
「ああ、頼む」
「かしこまりました。では、この宿の説明をさせていただきますがよろしいでしょうか?」
「ああ」
「この宿は、朝と夜に食事を取ることができます。昼も頼まれればおつくりしますが、その場合は別料金となります。よろしいですね?」
「ああ」
「では、何泊お泊りに?」
「二週間で」
「わかりました。560Eになります」
 この世界では銅貨一枚で1Eである。


 強斎は銀貨五枚と銅貨六〇枚を支払い、指定された部屋に入った。
「えっと……ご主人様」
「なんだ?」
「私! 覚悟できてますから!」
 唐突に宣言された事に戸惑ったが、なんのことか直ぐに思い当たった。
(まぁ、そりゃぁ……奴隷を買って、異性と同じ部屋で寝るなんて……。そういう考えになるか……。まぁ、相手も受け入れてくれるみたいだし、しっかりと応じてやるか)
「覚悟しておけよ」
「は、はい」
「それより、飯を食い行くぞ」
「はい!」


 その後、夕飯を食べ終わった強斎達は部屋に戻った。


「よし、体拭くか」
「は、はい!」
 強斎は平然としているようだが、内心はものすごく緊張していた。
(な、難易度が高い! 童貞には難易度が高いが……やってやる!)


 ミーシャに服を脱いでもらい、その生まれたままの姿を見て強斎は言葉を失っていた。
 少々痩せているが肌は白く、胸も服の上とは違い大きく形も整っていた。腰は少し小さくて尻尾がついている。足もスラリとしていて、地球にもこれだけの美人はそうそういないであろう。
「あ、あの……恥ずかしいです」
「す、すまん」
 まさか見とれていたとは言えず、強斎はミーシャの体をタオルで拭いていった。
 その後、強斎はミーシャに体を拭いてもらい今日買った寝巻きに着替え、ベッドに腰掛けた。
「はい、これ」
「これは……水ですか?」
「ああ、そうだ。とりあえず全部飲んでおけ」
「結構な量ですが……わかりました」
 強斎はミーシャに500mlぐらいの水を飲ませてから、話を始めた。


「なぁ」
「なんでしょう?」
「今度から、お前の事をミーシャって呼んでいいか?」
「[#縦中横]!![#縦中横終わり] ……はい! ありがとうございます!」
「変な奴だな……それよりもミーシャ」
「はい」
「なんで奴隷になった?」
「……」
「話せないなら話さなくていい」
「いえ……いいのです。私は親に売られました」
「そうか」
 強斎はそれ以降何も言わず、ミーシャも何も言わなかった。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しております。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]7話 冒険者に登録っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回は少なめです。
前回の描写ですが、感想が来なかった為、あのままでいこうと思います
作者の為にも感想下さい……orz
[#ここで字下げ終わり]




「どうしてこうなった」
 強斎が朝起きて、最初に放った言葉がこれだった。
「おはようございます、ご主人様」
「……」
「ご主人様?」
 強斎の目の前には、狼耳の美女がいた。
(よーし! 頭の中を整理しよう!
 Q.何故狼耳の美女がいるか……。
 A.俺が昨日買ったから。よし、一つクリア!
 Q.何故裸なのか?
 A.裸で寝たから。これもクリアかな?
 Q.この赤いのや白いのが入っている水は?
 A.貞操を卒業したから。……。
 ぬおぉぉぉぉぉぉぉ[#縦中横]!![#縦中横終わり]
 遂に……遂にやってしまったんだな! 俺!
 地球では彼女=嫁を貫き通したのに……)
「ああ、おはよう。それからミーシャ」
 外見だけは崩さない強斎。
「何でしょう?」
「今度からは俺の事を、キョウサイと呼ぶように」
「え……。は、はい[#縦中横]!![#縦中横終わり] キョウサイ様!」
 こうして、一日が始まった。
 …………
 ……
 ……


(この、赤いのや白いのが入った水は、まとめてポイだ!)
 ミーシャが着替えているうちに、昨日の行為の証拠を隠滅している強斎。
(ちっ、シーツにまで染み付いてら……。仕方ない……)
 強斎は水玉を作り、その中にシーツを入れて勢いよくかき混ぜた。
 満遍なく洗い、暖かめの風で乾かした。
「きょ、キョウサイ様は二属性持ちなのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
(そう言えば、俺に関して話してなかったな……)
「俺の事については、いつか話すよ。それより、今日は冒険者になろうと思う」
「冒険者ですか……。いいと思います」
「じゃぁ、さっさと朝食を食いに行くぞ」
「はい!」
 …………
 ……
 ……


 強斎達は朝食を済ませた後、冒険者に登録できる冒険者ギルドの場所を訊き早速向かった。


(そう言えば、冒険者に登録する時って、大抵絡まれるんだっけ……)
 そんな事を考えている間に、ギルドについてしまった。
「キョウサイ様、着きました」
「ん? ああ。じゃぁ、中に入るか」
 二階建ての建物の中に入った途端、苦笑いを浮かべる。
(想像した通りの風景だな……)
 ギルドの中は騒がしく、朝っぱらから酒を飲んでいる奴もいた。
 真っ直ぐ受付の元に向かうが、いくつか目線を感じた。
 それらを無視して、空いている受付の女性に声をかけた。


「ちょっとすまん」
「はい、なんでしょう?」
「冒険者に登録したいのだが……」
「わかりました。そちらの女性も一緒で?」
「ああ、よろしく頼む」
「ではこちらに、お名前を」
 さっと、紙を出す受付嬢。
「代筆も可能ですが」
「必要ない。それより、名前だけでいいのか?」
「はい、それだけで結構です」
 ささっと強斎とミーシャの名前を書く。
「書けたぞ」
「ありがとうございます。冒険者カードが出来上がるまで、この冒険者についての説明を受けますか?」
「ああ」
「この冒険者の仕事は雑用から討伐、護衛から偵察と幅広く仕事が出来る場所です。依頼を受けて達成したら報酬が貰えますが、逆に失敗した場合違約金として報酬の二割を支払ってもらいます。依頼にはランクがあり、最初はランク一から始めてもらいます」
(アルファベットじゃないのか)
 どうでもいい感想である。
「ランクが三になるまで討伐依頼を受けることができませんが、三ぐらいならすぐになれるので、安心してください」
 その後、ギルドでの注意事項を聞かされたが、普通にしていれば特に問題無かった。
「これで、説明は終わりです。何か質問はありますか?」
「いや、特に無い。ミーシャは何かあるか?」
「いえ、ありません」
「かしこまりました。では、こちら……冒険者カードです」
 銀色のプレートを渡された。
「そこに、ステータスと念じれば、見せたいステータスが他者にも見せられるようになっております。後ほどご確認下さい」
「わかった」
 帰るついでにランク一の採取依頼を受けた。
 こうして、強斎達は冒険者ギルドを後にするが……。




(絡まれなかったな……)
「キョウサイ様、どうしました?」
 冒険者ギルドをすんなりと出た後、強斎は立ち止まって空を見ていた。
「いや、なんでもない。それより、今日は街の外で魔物を狩るぞ」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 討伐はランク三からだって……」
「別に討伐じゃない。ただ、個人で魔物を狩るだけだ。それに、お前のレベルなら大丈夫だろ?」
「私の……レベル? ……まさか!」
「俺は解析スキル持ちだ。レベル位ならわかる」
(全部わかるけどな!)
「そうでしたか……」
「よし、じゃぁ行くぞ」
「はい!」
 そうして、二人は強斎が街に入ってきた門と違う門から外に出た。
 …………
 ……
 ……


「すみませんが、キョウサイ様」
「なんだ?」
「キョウサイ様のレベルはなんでしょうか?」
「七だ」
「えぇ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
(まぁ、そんな反応するだろうな。さっきの俺の言い方だと、俺のレベルの方が高いと思われるしな)
「俺のレベルは七レベルだ」
「キョウサイ様……」
「ん?」
(呆れられたか?)
「キョウサイ様は、私が絶対にお守りします!」
「お、おう」


 そうこうしている内に、森についた。


「この森は討伐ランク三のモンスターばかり出ますが、討伐ランク三と言ったらレベル一〇以上です。私が前衛で魔物を惹きつけ、キョウサイ様が止めをさしてください」
「ん? いや、大丈夫だから。レベル一〇も七も変わんないだろ」
「ダメです! ちゃんと私が――」
「あーはいはい。それじゃぁ行くか」
「キョウサイ様!」


 ミーシャにグチグチ言われながら進んでいくと、ファンタジーの定番――ゴブリンが現れた。


「お、あれはゴブリンか」
「はい、ではさっき言った通りわた――」
 ミーシャが話終わる前に、ゴブリンの首が飛んだ。
「うむむ……やはり刀LVが低いから使いにくいな……」
 そんなことをぼやいているが、ミーシャはそれどころではなかった。
「な、な、な……い、今のはキョウサイ様が?」
「そうだが?」
「ほ、本当にレベル七なのですか?」
「いや、今レベル八になった」
(あ、スキル奪うの忘れてた……)
「きょ、キョウサイ様はAGIが高いんですね……」
「ん? そうだな。そんなことより先行くぞ」
「は、はい……私の見せ場が……」
「なんか言ったか?」
「別になんでもありません!」
「お、おう」


 その日、強斎は昼も忘れて夕方まで狩りをし続けた。
 その結果、こうなってしまった。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV19
 HP 一八三五〇〇八〇〇/一八三五〇〇八〇〇
 MP 七六〇二一七六〇〇/七六〇二一七六〇〇
 STR 二〇九七一五二〇
 DEX 二三五九二九六〇
 VIT 一八三五〇〇八〇
 INT 二三五九二九六〇
 AGI 二〇九七一五二〇
 MND 一五四六六四九六〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 語源理解
 超解析
 剣術LV8
 刀術LV3
 棒術LV3
 体術LV5
 槍術LV6
 弓術LV7
 盾LV4
 大盾LV1
 料理LV4
 火属性LV2
 水属性LV2
 風属性LV2
 MP回復速度上昇LV4
 HP回復速度上昇LV6
 アイテムボックス
 超隠蔽
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・風
 |想像魔術《SPユニーク》
 #
(俺、どうなっちゃうんだろ)
 強斎はレベルが上がってくにつれて手加減が上手くなったのだが、自分のステータスを見て、つい現実逃避してしまう。
 ミーシャはどう思っているのかというと……。
(キョウサイ様はレベルが上がっているはずなのに、大して素早さが変わってない……。それに、最初より遅くなっている気がするのは気のせいかしら? 最初は全く見えなかったのに、最後ら辺は見えてきた……。もしかして、キョウサイ様は特殊な体質なのでしょうか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] レベルが上がるにつれて、AGIが下がるとかの[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 特殊な体質なのは間違っていないが、それ以外は間違っていた。




「よし、採取も終わったし帰るとするか」
「はい」


 こうして一日が終わったのである。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しております!
説明をつけてくださるとやりやすいです!
漢字、カタカナ、厨二っぽいやつオールOK!
よかったら、小説で使います!
冒険者といったら最初は絡まれるもんだと思った? 残念!
主人公のステータスの為に計算機を使いました。普通に計算なんてもう無理だ!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]8話 勘違いっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回も少なめです
ステータスを少し編集しました。
[#ここで字下げ終わり]




 強斎が冒険者になってから二週間後。
 強斎とミーシャのランクは五になっていた。
 ここ二週間は強斎がスキルを奪い、ミーシャが止めをさして、主にミーシャのレベリングをしていた。
 そのついでに依頼をこなし、二週間でランク五まで上がっていた。
 普通だったら少し早い程度だが、ついでに受けてこの速度は異常だった。


 そして、今日は宿の期限が切れる日でもある。


 それともう一つ、強斎はミーシャに自分の事を話そうと思っていた。
「ミーシャ」
「どうしました?」
「宿に戻ったら大切な話がある」
「……はい」
 ミーシャは悲しそうに答える。
 しかし、強斎はその事に気がつかずに、宿へ向かった。
 …………
 ……
 ……
 宿に戻って、盗み聞きされなように、風魔術で防音の部屋を作る。
「何の話かわかるか?」
「はい……」
「そうか、早速本題にいこう」
「今までありがとうございました」
 いきなり頭を下げたミーシャに、強斎は困惑していた。
(え? え? なに? 何で頭下げてんの? 今までありがとうございました? ちょっと、意味がわかりません)
 そんな事を考えている間に、ミーシャは言葉を続けた。
「短い間でしたが、キョウサイ様がご主人様で本当に嬉しかったです」
「ちょっと待て。それはどういう意味だ?」
「戦闘ができる奴隷を買うはずだったのでしょう? ですが、私は足手まといでした……挙句の果てには、レベル上げを手伝ってもらう事に……。ですから、私を売るのでしょう?」
 ミーシャは半泣きだった。
 そんなミーシャに強斎は絶句し、呆れた。


「お前は馬鹿か?」


「え?」
 久しぶりにお前と言われた事と、突然馬鹿と言われた事にミーシャは困惑した。
「何故俺がミーシャを売らなければならない? 俺が仲間を売るような奴に見えるのか? そんな風に見えるなら、一から叩きなおすぞ。大体、俺が奴隷を買った目的はこの世界について知るためだ。戦闘に関しては、直ぐにへばらない程度で良かったからな」
「じゃ、じゃぁ、私は……売られないのですか?」
「何度もそう言っているだろ。俺はお前を手放さない。無理矢理にでも奪う奴が出てきたら、迷わず殺す」
「で、ですが、キョウサイ様より強いのがきたら……」
「はっ、俺より強い? これを見てもそう言えるのか?」
 そう言って、強斎は自分のステータスをミーシャに見せた。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV25
 HP 一一七億四四〇五万一二〇〇/一一七億四四〇五万一二〇〇
 MP 四八六億五三九二万六四〇〇/四八六億五三九二万六四〇〇
 STR 一三億四二一七万七二八〇
 DEX 一五億〇九九四万九四四〇
 VIT 一一億七四四〇万五一二〇
 INT 一五億〇九九四万九四四〇
 AGI 一三億四二一七万七二八〇
 MND 九八億九八五五万七四四〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 剣術LV8
 刀術LV5
 棒術LV5
 体術LV5
 槍術LV6
 弓術LV7
 盾LV5
 大盾LV1
 料理LV6
 火属性LV3
 水属性LV3
 風属性LV3
 状態異常耐性LV2
 MP回復速度上昇LV5
 HP回復速度上昇LV6
 アイテムボックス
 超隠蔽
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・風
 |想像魔術《SPユニーク》
 #


「な……[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ミーシャは尻餅をついて、小刻みに震えだした。
(そりゃぁ、怖いだろうな)
 レベルでは負けているもの、ステータスが違い過ぎるのだ。
 そして、ミーシャはそのままパタリと倒れてしまった。
 …………
 ……
 ……
 その日の真夜中にミーシャは目覚めた。
「起きたか」
 その声にミーシャはビクッとさせるが、直ぐに声を返してくれた。
「はい……。その、すみません……」
「別に構わない。起きた早々悪いが、一つだけ訊かしてくれ」
「……はい」
「俺が怖いか?」
 少し、間が空いたが、返答は返ってきた。


「いいえ。怖くありません」
「無理しなくていい」
「無理なんかしてません。ステータスは高いですが、キョウサイ様は悪用したりしないでしょう?」
「ああ」
 この時、強斎は素っ気なく返事をしていたが、凄く嬉しかった。
「でしたら、怖くなんてありません。ですが、一つ訊いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
 ミーシャは少し溜めてから口を開いた。
「キョウサイ様は魔神の生まれ変わりなんですか?」
「魔神?」
「はい。その昔、魔神は低レベルにも関わらず、圧倒的なステータスを持っていて、配下にした魔物を強化し、神々と争ったと言われています。キョウサイ様はそのレベルで既に、十億超のステータス……。もしかしたらと思いまして」
 若干怯えながら、ミーシャは強斎に訪ねた。
「ああ、それでか。残念ながら、俺は魔神の生まれ変わりじゃない。ただ、この世界に疎いだけの人間だ」
「そのステータスで人間はありえませんけどね」
「ふっ、そうだな。それと、ミーシャに命令を下す」
「?」
「俺のステータスは絶対に口にするな」
「承知しました」
「それと――」
 この時、暗闇でわからなかったが、強斎の顔は微笑んでいた。
「危ないと思ったら、俺に頼れ。わかったな?」
「っ! はい[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「いい返事だ。俺はもう寝る」
「はい、お休みなさい」
 …………
 ……
 ……
 次の日、朝食を済ませ、この宿に、もう少し住まわせてもらうと言って強斎は、もう一週間分払った。




「この辺じゃ、弱い魔物ばかりで中々レベリングできないな……」
「キョウサイ様はもうレベルアップしても意味がないかと……」
「違う違う、俺じゃない。ミーシャだ」
「私ですか?」


 ミーシャのステータスはこうなっている。
 #
 ミーシャ
 LV30
 HP 三一〇/三一〇
 MP 一七九/一七九
 STR 七〇
 DEX 七八
 VIT 六〇
 INT 五八
 AGI 八九
 MND 五七
 LUK 二〇
 スキル
 体術LV4
 剣術LV3
 短剣LV5
 料理LV1
 土属性LV0
 属性
 土
 #
「流石に、ゴブリンやら低クラスの魔物ばっかり戦って、レベルが上がりにくくなってるだろ?」
「そうですね……。戦うって言うより、一方的な虐めですが……確かにもう上がりにくくなってます」
「だろ? だから、後一週間したらこの街から出ようと思っている」
「わかりました」
「よし、じゃぁ、早速奴隷買いに行くぞ」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] どうしてそうなるんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ここで口下手を発揮である。
「いや、街を出るから」
「説明になってないですよ……」
「大丈夫だ、今まで通り、夜でも可愛がってやる」
「っ! ……ず、ずるいですよ……」
 そんなこんなで、奴隷商店へ向かうのであった。
 …………
 ……
 ……
「はい、いらしゃいま――あ、キョウサイ殿ではありませんか」
「今日も奴隷を買いに来た」
「かしこまりました。前回と同じで?」
「ああ、頼む」
 強斎とミーシャは以前の部屋へ案内された。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しております!
次の奴隷どうしよう……
亜人ってどんな種類がありますかね?
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]9話 攻撃型の奴隷っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
新奴隷! 登場!
[#ここで字下げ終わり]




「実は、キョウサイ殿にオススメの奴隷がおりまして……」
「俺に?」
(何故俺なんだ? この言い方だと、俺しかいないような感じだな……)
「はい。どうなされます?」
「ふむ、見ていこう」
「では、こちらに」
「ミーシャはついてくるか?」
「よろしいのであれば」
「好きにしていい」
「では、ついていきます」
…………
……
……


 二人が案内されたのはとある扉だった。
「個室か?」
「ええ。彼女を売るには条件を付けられておりまして……」
「条件?」
(優遇しろとか何かか?)
「まぁ、入って見ていただければ……」


 緊張顔のスピッツは扉を開けた。
 扉の先は所々穴が空いた鋼鉄の部屋だった。
 奥には、その不気味な部屋には不釣合いな女性が丸まって座いる。


「またあんたか」
 女性は顔を上げ、スピッツを睨む。
「今度の方は、きっと貴女も認めますよ」
「ふん。いっつもそう言って、私を失望させたじゃないか」
 女性はさっと立ち上がり、雰囲気を変えた。
 スピッツは冷や汗を流し後ずさる。ミーシャは少し警戒レベルを上げた。
 強斎は……。
(な……ん……だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんだあの巨乳と耳は! 鈴と同レベル……いや、それ以上なのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 雰囲気も中々だ……ミーシャが銀だったらこいつは金だな)
 全く警戒していなかった。強斎も変態になったものである。


 この女性の身長はミーシャと変わらない。
 目の色は黄銅色。髪は薄い黄色のはずだが、ミーシャと同じくその美貌から金色に見えてもおかしくない程だった。服が汚れているのにも関わらず……だ。
 出ているところは出ていて、特に胸部は圧倒的だった。
 実に大人っぽい容姿だが、とある一点のせいで可愛らしく見えている。
 ――――耳だ。
 彼女の耳は、可愛らしい狐耳だったのである。
 声も男勝りの言葉だが、そんなのは関係ないほど、透き通った美しい声だった。
…………
……
……
「か、彼女の名前はレイア・アンジェリーク。とある貴族の娘でしたが、奴隷になってしまいました。で、やはり貴族の娘なので条件付きで申し出てきまして……。この、レイアを買う条件は――」
「私より強いことを証明しなさい。あなた、さっき私の威圧を受けてもビクともしなかったわね。中々の手馴れと見るけど?」
 その時、ミーシャが青い顔をしたのをレイアは逃さなかった。
 それを見て、レイアは鼻で笑った。
 ――こいつは大したことないと。
 ――威圧にも気がつかないほど、弱者だったと言う事。
 そして、強斎を哀れみの目で見た。
 強斎はレイアをじっと見て、解析をする。



レイア・アンジェリーク
LV32
HP 六四三/六四三
MP 一二〇/一二〇
STR 二三〇〇
DEX 七一
VIT 八八
INT 三五
AGI 三七〇
MND 七九
LUK 三〇
スキル
攻撃力異上昇
剣術LV3
大鎚術LV2
体術LV5
威圧LV3
HP自動回復速度上昇LV5
限界突破
属性
完全攻撃型(ユニーク)

(これじゃあ、確かに力比べで勝てるはず無いわな……)
 そう、レイアのステータスが平均を遥かに上回っていたのだ。
 STRに関しては勇者と張り合える程度に。


「で、やるの? やらないの?」
「いいぜ? かかってこい。で、ルールは?」
「私があなたを一発だけ殴るから、それを受け止めて押し返してきなさい。身体強化使ってもいいわよ」
(身体強化なんてあったんだ……)
「じゃあ、行くわよ?」
「ああ。かかってこい」
「死んでも知らないから!」
 そう言って、レイアは右腕に魔力を貯め始めた。
(あれが身体強化か……)
 そして、強斎をキッと睨み……。


 数瞬で強斎の懐に入り込み、殴った。




 ――が、強斎はそれを掴み取った。
「え……嘘……私の一撃を止めたって言うの……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「この程度か?」
「っ! なめないで……! ただ、止められただけでしょ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] こんなの……[#縦中横]!?[#縦中横終わり] あれ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 押し返せない……[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 何で[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
(そりゃぁ、桁が違いますから……)
 強斎は無言で押し返し、レイアの攻撃方向を上に変えた。
「くっ……何で……」
 レイアは納得いっていないようだった。
「まだ納得いかないか? だったら、何度でもこいよ」
「その言葉……後悔しなさい!」


 レイアは強斎を何度も殴った。
 しかし、強斎はその攻撃を全て受け止め、押し返した。


「はぁ……はぁ……」
「もう十分か?」
「ええ……私はあなたの防御は突破できない。でも……まだ、あなたの攻撃を受けていないわ。それが、私より強いとは証明できていない!」
(頑固だなぁ……。それに、こんな可愛い女の子傷つけたく無いんだが……)
「はぁ、じゃぁ、腕に全力で身体強化をしろ。勿論防御方面に」
「え?」
「俺の攻撃力を身にしみて知りたいんだろ?」
「そ、そうだけど」
「じゃぁ、早くしろよ」
「ちょ、ちょっと! 何で宣言してるのよ!」
「お前だって殴るって宣言しただろ?」
「でも、どこを殴るなんで言ってなかったじゃない!」
「そんな細かいことはいいから、腕に身体強化!」
「……わかったわよ」
 レイアは言われた通り、全力で腕に身体強化をかけた。
 しかし、レイアは完全攻撃型。防御はあまりうまくできていなかった。


「これでいいわ」
「そうか」
 強斎はレイアに近づく。
 ミーシャは物凄い冷や汗を流していた。
 スピッツは何がなんだがわかっていない。
「いくぞ?」
「私は防御してればいいの?」
「ああ、飛ばされないようにな」
「ふん! あなたみたいな防御特化の人に、飛ばされるわけ無いじゃない!」
「はいはい」
 そう言って強斎はレイアの腕に向かって、デコピン体勢を取った。
「は? あんた、なめてるの?」
「いいから防御に集中しろ」
「……わかったわよ」
 レイアが構えたところで、強斎は指を弾いた。
「きゃっ……!」
 物凄いスピードで飛ばされたレイアは、後ろの壁に激突する。










 ――――事は無かった。
「う……ん? あれ? 助かった?」
 壁に激突する寸前に、強斎が抱きかかえていた。
「お前、防御の身体強化は苦手だったのか」
「え?」
「腕見ろ、腕」
 レイアは目線を落とし、自分の腕を見た。
「いつっ!」
 レイアの腕は腫れて赤くなっていた。
「多分骨折だな。待ってろ、今ポーションかけてやる」
 強斎は上級ポーションを取り出し、躊躇いなく使用する。
 骨折は上級ポーション以上でないと治りが遅い。
 勿論、安くない値段である。
…………
……
……
 レイアの骨折を治して、ゆっくりと下ろした。
「もう大丈夫か?」
「あ、ああ……で、だな……あなたは私より攻撃も防御も強い……」
「ん? ああ、そうだな」
「それに、高級ポーションも出し惜しみ無く……」
 急に顔を俯かせ、ボソボソと喋った。
「え? なんだって?」
「だ、だから……!」
「だから?」
「私のご主人になって下さい! ご主人様ぁ!」
 ガバッと強斎に抱きついた。
「……へ?」
「私に相応しい主人は、この世界にご主人様しかおりません! 一生ついていきます!」
 強斎に抱きついたまま、キャキャと騒ぐレイア。
 その変わり様に状況が追いつけていない三人。
 そして、強斎が最も早く状況に追いつき……。
(心変わり早ぇぇぇぇぇぇ[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 内心絶叫していた。
…………
……
……
「で、キョウサイ殿」
「ん?」
 強斎は今、女性陣に抱きつかれていた。
 右腕に金色のレイア。
 左腕に銀色のミーシャだ。
 この二人は時々睨み合ったり、強斎の腕の感覚を味わって幸せそうな顔をしたり、強斎は大変だなぁ……と思っていた。


「レイアをお買いになされるんですよね?」
 その時、レイアは物凄く心配そうに強斎を見つめていた。
(し、下から目線っ! は、反則だっ!)
 ものすごく動揺しているが、表情一つ変えずに口を開く。
「ああ、買うつもりだ。いくらだ?」
 レイアはほっとした表情を見せると、おもいっきりスピッツに威圧をかけた。
 ご主人様が買える値段じゃ無い場合、どうなるかわかるよな? ああ?
 そう目線が言っている。
 スピッツは笑顔は崩さず、大量の冷や汗をかいていた。
「そ、そうですね……本来は金貨二〇枚でしたが……」
「む……高いな……」
 強斎は悪くない。素で言っただけだ。
 しかし、レイアはスピッツに向ける威圧を殺気に変えた。
「で、で、ですが、い、今まで何十人とも追い返されていて、値段が落とされているので……金貨じゅ――ひぃ!」
「?」
「な、なんでもありません! 金貨五枚でどうでしょう!」
「ふむ、随分と安くなったな。俺としてはありがたいが」
「きょ、キョウサイ殿は命の恩人ですので! これくらい雑作もありませんよ……ははは」
「それじゃぁ、今回もそれに甘えよう」
 そう言って、強斎は金貨五枚を渡した。
「ははは……ありがとうございました……はぁ」
 こうして、奴隷商店を出た。
…………
……
……


「もう、昼か……昼飯でも食べるか」
「「はい!」」
 こうして、昼食を迎える事になったが……。




 ――今回も問題がおこった。
 前回はミーシャが地面に座るという問題。
 今回は……。


「私がキョウサイ様の隣です!」
「私がご主人の隣だ!」


 強斎の隣の席の奪い合いである。
 今までは二人用の席に座っていたが、今回は四人用。
 それで、どちらが強斎の隣に座るかもめているのである。
 勿論、結構な声量で騒いでいて、どちらも超が付く程の美女。
 目立たないわけがない。


「二人共」
「「なんでしょう」」
「二人共隣同士で座れ。俺の隣は空席だ」
「「えー!」」
「お前ら、目立っているからな? 恥ずかしいの俺だぞ?」
 ミーシャとレイアは周りを見回した。
 確かに、こちらを注目していたが……。
「レイア」
「言われんでも」
 レイアの威圧で黙らした。
「お前らな……」
 変なところで息の合う二人を何とか説得して、席に着かした。


 そして、レイアの服や下着を買いに行ったが……。
「キョウサイ様!」「ご主人様!」
「「この下着どうでしょう[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
(なんで下着?)
 ここでもレイアとミーシャが争った。
「む? なんだ! 私が先にご主人に訊いたのだ!」
「違いますー! 私が最初ですー!」
「あ、いや。二人共。その下着買ってあげるから……」
「「ホントですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
「お、おう」
 ここでもキャキャと騒ぐ女性陣。
…………
……
……


 宿に戻ってもう一人分の宿賃を頼んだ。
「同じ部屋でよろしいですね?」
「ああ」
(バレてる! この人にバレてるよ!)
「かしこまりました。ベッドを大きめのに替えときますね」
 ニッコニコで強斎に微笑みかけた青年。
「あ、うん。お願いするわ」
 もう、色々と諦めた強斎だった。


 そして、その日の夜……。


「今日はこいつが加わったからな」
 そう言ってレイアを指す。
「ご主人様」
「ん?」
「私の事はレイアとお呼びください」
「お、おう。じゃぁ、俺の事はキョウサイと呼べよ?」
「嫌です」
「へ?」
「だって……ご主人様って呼ぶほうが……私の主人っぽいじゃないですかぁ~」
 クネクネと体をひねらして、照れ始めるレイア。
「「……」」
「ですから、私はご主人の事をご主人様と呼びます! いいですね?」
「はぁ……もうそれでいいや」
「ありがとうございます!」
「で、話を戻すが、今日からレイアが加わったから、夜の相手は二人同時にやろうと思う」
 ゴクリと唾をのむ二人。
「だが、俺も一対一で相手したいときがあるかもしれん。その時はいいか?」
「「はい!」」


「しかし、ミーシャ」
「はい?」
「今日はレイアからヤってもいいか?」
「むー……仕方がないですね……その次は私ですよ?」
「ああ」
「あの、ご主人様。私……初めてなので……その……上手く出来ないと思いますが……」
「安心しろ。俺に任せればいいさ」
「……はい」


 こうして、全員で体を拭くために、服を脱ぐ。


「改めて見ると……レイアってでかいな」
「あんまりまじまじと……見てもいいですけど……恥ずかしいです」
 レイアの胸部に滅多打ちにされ、ミーシャが敗北感を覚えていた。
「安心しろ、ミーシャ。俺はお前のも好きだぞ」
「キョウサイ様……!」


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しております。


そろそろ、勇者達がどうなったのか入れようと思ってます
狐の亜人を勧めてくれた方! ありがとうございます!
それでは感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]10話 勇者達はこうしてるっぽい[#中見出し終わり]






 強斎がレイアを奴隷にした日……。
 勇者一行はとある迷宮に、お供を付けて潜っていた。


    *


「大地! 下がれ!」
「後は任せたぞ! 勇志!」
 大地が敵を惹きつけ、魔物が怯んだところに有志が大きな一撃を当てた。
 その一撃により、魔物は絶命した。
「あ、レベルアップした! これで大地と一緒だ!」
 キャッキャと騒ぐ鈴。
「う~……また鈴に差をつけられた……」
「しょうがないよ、鈴は攻撃魔術でラストアタックボーナス取ってるけど、澪は殆ど攻撃魔術使えないからね。でも、澪のおかげで回復の心配もないし、付属魔術のおかげで、安定して魔物を倒すことができるしね」
 勇志がそう解説した。
「殆どって……まぁ、そうなんだけど……」
「私が澪よりラストアタックボーナス取ってるのは事実だけど……。勇志が一番とってるじゃない!」
「まぁ、鈴。落ち着け」
「むー……大地が言うなら、しょうがないわね」
「大体、ラストアタックで多く経験値がもらえるだけで、別に経験値が俺らに入らない事は無いじゃないか。これのおかげで」
 そう言って、大地は自分の右手首を見た。
「そうね……。これ結構貴重品らしいね」
 澪がそう呟いた。
「簡単には買える物じゃないと思うね。これつけてる人、王宮にも全然いなかったし」
 その呟きに鈴が答えた。


 この勇者一行は、強斎が転移された翌々日に、この腕輪を渡された。
 この腕輪の効果は、同じ腕輪を装備している者がステータスがある物を倒すと、倒した者の〇・八倍の経験値が手に入る。という効果だ。


 勇者一行の経験値はこうなっている。


 #
 ユウシ・スズキ
 LV30
 HP 三五四八/四〇二〇
 MP 三千/三九〇〇
 STR 四一九
 DEX 三九三
 VIT 三九四
 INT 三九二
 AGI 四四八
 MND 四一九
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 聖騎士
 作法LV4
 剣術LV11
 状態異常耐性LV6
 火属性LV5
 水属性LV5
 土属性LV5
 風属性LV5
 光属性LV6
 闇属性LV4
 HP自動回復速度上昇LV5
 MP自動回復速度上昇LV5
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 ダイチ・タカミ
 LV27
 HP 四八三三/五一〇〇
 MP 二五〇〇/二九八〇
 STR 四五八
 DEX 三二四
 VIT 四五八
 INT 二九一
 AGI 二八八
 MND 二九五
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV4
 盾LV9
 大盾LV7
 大槌LV5
 剣術LV9
 刀LV5
 状態異常耐性LV7
 火属性LV4
 土属性LV4
 光属性LV6
 HP自動回復速度上昇LV7
 属性
 火・土・光
 #
 #
 リン・ハネダ
 LV27
 HP 二九〇〇/二九八〇
 MP 三四二〇/四八七〇
 STR 二五五
 DEX 四四二
 VIT 二九一
 INT 四六七
 AGI 三二〇
 MND 四七一
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV5
 体術LV5
 状態異常耐性LV6
 火属性LV7
 水属性LV7
 光属性LV7
 闇属性LV6
 MP自動回復速度上昇LV7
 魔術攻撃力上昇LV6
 属性
 火・水・光・闇
 #
 #
 ミオ・トウヤ
 LV25
 HP 二六五〇/二六五〇
 MP 二四八〇/四一〇〇
 STR 二四一
 DEX 三四四
 VIT 二六九
 INT 五六二
 AGI 三三七
 MND 四四一
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 回復特化
 付属魔術
 料理LV9
 作法LV6
 僧侶Lv7
 ヒール・ハイヒール・エリアヒール・ヒールライト・リジェネ・光の刃
 状態異常耐性LV6
 HP自動回復速度上昇LV4
 MP自動回復速度上昇LV6
 属性
 回復特化(ユニーク)
 付属魔術(ユニーク)
 #




「私達……強くなってるよね?」
 澪が唐突に呟きだした。
 その言葉に雰囲気が重くなる。
 お供達は勇者一行のペースについていけず、へばっていた。


「強くなってるはずさ。ホルス様も言ってただろ? 僕たちは既に最高クラスの騎士団長並に強いって」
 勇志が少し笑いながら言った。
「そう……だよね。でもね、時々不安になるの。本当に私達で魔神を倒せるのかって」
「倒せるのかじゃなくて、倒すのよ。もう、覚悟したじゃない。絶対に魔神を倒して、強斎を生き返らせるって。例え地球に帰れなくても」
 鈴が真剣な眼差しで澪を見た。
「……そうね。何年かかっても魔神を倒す。私は、強斎に伝えたい事がいっぱいあるから……」
 そうして、澪は二週間前を思い出していた。


    *


(ここは……私の部屋……じゃない……。じゃぁ、やっぱりあれは夢じゃないの……ね)
 強斎がランダム転移された翌々日。澪は王宮の一室で目を覚ました。
 むくっと体を起こすと、鈴が座って寝ていた。
 ずっと看病をしていたのだ。
「鈴……」
 澪は嬉しくて思わず、鈴の名前を呼び、頭を撫でた。
「ん…………み……お?」
(起こしちゃったかな?)
 澪はちょっと苦笑いをしたが、鈴は構わず起き出した。
「ごめんね。起こしちゃった」
「澪……澪[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ガバッと鈴は澪に飛びつく。
「澪……! よかった……よかったよ……!」
「もう……そんなに心配しなくても……」
「えへへ……でも、本気で心配したんだ……。私……ずっと不安だったの」
「鈴……」
「強斎がいなくなっちゃって、澪まで目を覚まさなかったんだから……。昨日一日大地と勇志も全然喋らなかったんだよ? このまま、バラバラになっちゃうんじゃないかって……」
「そう……」
 強斎がいなくなったことを改めて報告され、心が痛む澪。
「あ……ごめん……」
 その事に気がついて、シュンとなる鈴。
「……もう大丈夫だよ。勇志達のところに行こ」
「……うん」
 …………
 ……
 ……
「大地、いる?」
 鈴が大地の部屋をノックする。
 そして、中から大地が出てきた。
「澪……起きたんだな」
「うん、心配かけてごめん」
「そんなことはいい、あんな事があったんだ。仕方ないさ。それより、勇志のところに行くんだろ? 俺も行くぞ」
 こうして、勇志の部屋に向かった。
 …………
 ……
 ……
「勇志。入るぞ」
 大地が一声かけて、勇志の部屋に入る。
「やあ。澪、起きたんだね」
「うん」
 勇志は少し疲れ気味に椅子に座っていた。ろくに寝ていないのだろう。
「勇志……そんなに自分を責めるな」
「……」
「勇志!」
「わかっている……わかっているけど……。僕が油断したのは事実じゃないか。僕はここにきて、割り切れていなかった。ずっと地球の感覚だった。でも、強斎は違った。何で強斎が勇者じゃないのかがわからない。何で強斎が飛ばされたのかがわからない。王女様に訊いたけど、強斎のステータスじゃ生還している確率は殆ど〇。僕だったら何とかなったらしいけどね」
 乾いた笑いを出して、勇志は天井を見た。
「僕は、強斎に絶対恩を返すって言った。でも、結局は僕を庇って生きているかどうかわからない状態。もう死んでいると考えた方がいいってさ。いなくなったら、恩を返したくても返せないよね……」
 その言葉に、澪は心が締め付けられるような感覚を感じた。
(私は……私は強斎を守るって言ったのに……)
 その次の感情が上手く出せずに、俯いてしまう澪。
 それに気がついて、鈴が声をかけようとするが、ノックがかかった。


「勇者様方。おられるでしょうか?」
 大地が、みんなに確認を取って、ドアを開けた。


 ――声の正体はヴェレスだった。


「ミオ様、もうよろしいのですか?」
「あ、はい。もう大丈夫です」
「では、みなさん。少しお話があるので、ついてきてください」
 四人はとりあえずついていくことにした。
 …………
 ……
 ……
 着いた場所はとある一室で、そこにはホルスがいた。
「お父様、連れて参りました」
「うむ、ご苦労。とりあえず、座ってくれ」
 高級そうな長椅子に四人は座った。
「先日は残念だったな」
 その言葉に一気に空気が重くなる。
「あの男が言った通り、彼がドレット王国に転移していない限り、生存は無いと断言していいと思われる。が、しかし。一つだけ彼を元に戻す方法がある」
 その言葉に一同は目を見開く。
「ほ、ホントですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 勇志が、立ち上がって、ホルスに言いよった。
「まぁ、落ち着け」
「すみません……」
「確かに、ある。が……」
 ホルスは四人を見回した。
「――故郷には帰れなくなるぞ?」
 その言葉に、息をのんだ。
「我は魔王を倒し、神を復活させたら、何でも一つ願いが叶うと思っていた……が、それは間違いであった。神を復活させても、願いは叶わん。魔神を倒さなければな」
「「「「魔神?」」」」
「ああ、魔神だ。今現在もこの世界にいるであろう……」
 こうして、ホルスは魔神について色々話しだした。
 魔神を倒せば、強斎が生き返ると。
 魔神は人の手でも倒せるが、物凄く強いと。
 そして、ホルスは最後にこう言った。
「故郷に帰れなくとも……自分たちの命が危なくとも。それでも彼を復活させたいか?」
 この言葉に四人の答えは決まっていた。
「「「「勿論」」」」
 こうして、勇者達の魔神退治が幕を開けた。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、種族名、魔術名、武器防具名を常時募集しております
さて、主人公がウハウハしているのに、勇者達は物凄く頑張っていますね!
次は主人公視点に戻ります!
感想待ってます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]11話 出発っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
アクセス数が跳ね上がってました……。
読者の皆さん! 本当にありがとうございます!
[#ここで字下げ終わり]




「やぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 何とも可愛い声を出し、その声に相応しい美貌を持つ金髪のレイア。
 そして、その動作を終えた後、強斎の方を向き、最高級の笑顔で手を振っている。


 ――血だらけの巨大なメイスを持ちながら。




「えいっ!」
 こちらも、レイアに劣らずの美貌を持ち、凛々しくもどこか幼さを感じさせる、声。ミーシャ。
 魔物の急所を、的確に、素早く仕留め、どこか得意げな顔で強斎の方を向き、褒めて欲しいと言わんばかりに狼耳をピコピコ動かしている。


 ――短剣を何本もぶら下げながら。


 そして、二人が強斎を挟んで、睨み合う形になった。
「意外に早く終わったのね、レイア。力任せに魔物を退治するから、もうちょっと時間かかると思ったわ」
「ふん! 貴女こそ非力だから、もうちょっと時間がかかると思ったわ」
 バチバチと、目線だけで火花が散っているように見えるほど、睨み合っていた。
 そして、その中心にいる強斎というと……
(スキルが……スキルが奪えない!)
 全く無責任なものだった。
……
……
 レイアを買ってから、今日で一週間が経った。
 レイアも冒険者登録をして、今ではランク四になっていた。
 そして、強斎はこの一週間、全く魔物に触っていない。
 最初は二人の連携の練習をしていたのだが、既にこの森では、奥地でもオーバーキルだった。
 なので、強斎は二人に合った武器を選び、その練習をさせていた。
 だが、相手はスキル持ちの魔物。
 強斎は魔物に触れてすらいないので、スキルを奪っていない。
 そして、練習といえばもう一つ、ミーシャに変化があったのだ。
……
……
「二人共お疲れ様。ところで、ミーシャ、使えそうか?」
「はい。大分慣れてきました」
「そうか、ん? また魔物がきたな……。ゴブリンか……よし、ミーシャ、使ってみろ」
「はい」
 ミーシャは、ゴブリンから少し離れた位置から、それを始める。
「――――――『ソイルボール』」
 すると、ミーシャの前に土のソフトボール程の球体ができた。
 そして、その土の球体はゴブリンに直撃した。
「問題なさそうだな」
「はい。でも、絶命してません。まだまだ訓練が必要です」
「ああ、頑張れよ」
「はい!」
 そう言って、ゴブリンにとどめを刺す。


 実は、強斎はさっきの技は使えない。
 強斎の想像魔術は物を作り出すことは不可能なのだ。
 とある方法である程度改善されるのだが、それはまた別の話。
 閑話休題。
 ミーシャが、何故土魔術が使えるようになったのか。
 それは、強斎のとある助言によるものが、原因だった。


    *


『ミーシャ、ちょっといいか?』
『どうしたんですか?』
『ちょっと、土魔術使ってみてくれ』
『……すみません。私は……』
『いいから、使ってみて?』
『わかりました……。――――――『ソイルボール』』
 しかし、何も起こらなかった。
『これでおわかりに――』
『いや、これでいい』
『え?』
(MPはしっかりと減っている。一応発動しているわけだ。これをLV1まで繰り返せば……)


    *


 そして、強斎の予想は当たっていた。
 ミーシャの土魔術はLV1に上がったのだ。


「さて、そろそろ、宿に戻るか」
「「はい」」
「あ、それと。レイア」
「何でしょう?」
「今夜、大切な話がある」
「大切な……話ですか?」
 ミーシャが一瞬眉を潜めたが、何の話か察したようで、レイアの反応を窺っている。
「ああ、そうだ」
「……はい!」
(なんか、期待の眼差しってのを感じる……)
 こうして、ギルドにクエスト達成の報告をして、この街を出て行くことも報告した。
…………
……
……
「それで、ご主人様。大事な話とは?」
 レイアは真面目に強斎を見ているが、レイアの狐耳はさっきから、ピクピクと運動しているように動いていた。
「ああ、俺のステータスの事だ」
「……そうですか」
 見るからに落ち込むレイア。狐耳もシュンとなっている。
「どうした?」
「いえ、何でもありません。それより、本当に見せてくれるのでしょうか?」
「ああ、俺はお前を信用しているしな。だが、この事は言うなよ?」
 そう言って、強斎は以前と変わっていないステータスを見せた。
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 流石のレイアもこの数値には驚き、尻餅をついた。
「大丈夫か?」
 そう言って、強斎はレイアの手を取ろうとするが、レイアは反応しなかった。
(まぁ、仕方ないか)
 そう言って、レイアの手を掴もうとすると、ボソッとレイアの声が聞こえた。
「…………です」
「ん?」
「流石です! ご主人様!」
「んぁ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎を押し倒すような勢いで、抱きつかれた。が、強斎は踏ん張った。
「ど、どうしたんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ミーシャはレイアを剥がそうと動くが、その前にレイアが更にベタベタくっついた。
「やっぱり私の目に狂いは無かった! 強い強いと思っていましたけど、ここまで規格外なんて! 大好きです! 一生愛します! ご主人様ぁ~!」
 キャァー! と叫びながら、強斎の胸に顔を埋めるレイア。
「ご主人様ぁ~ご主人様ぁ~!」
「キョウサイ様!」
 レイアがベタベタしている時に、ミーシャが強斎に寄ってきて後ろに回り……。
「私も……一生愛します……大好きです。キョウサイ様……」
 ぎゅぅぅーっと抱きついた。
 強斎は無言で二人の頭を撫でて、「ああ」と言っていたが……。
(やばい! やばいやばいやばい! 二人同時に告白とか! 可愛すぎんだよ!)


 そして、強斎はこの後、二人を美味しく頂いた。
…………
……
……
「今まで世話になったな、今日でこの街を出ることにした」
 強斎は、朝食をとり、受付の青年にそう言った。
 ミーシャとレイアは、外で待ってもらっている。
「かしこまりました。あ、それと……」
「どうした?」
「昨日はお楽しみでしたね」
 ニッコリと、言われたくないことを言われた。
 やはり気がついていたのだ。
(別に、あいつらとするのが嫌じゃ無いんだが……。何か、言われると嫌だ!)
 強斎は「それじゃぁ」と言って、この店を出た。
…………
……
……
「お待たせ」
 強斎は、外で待っていた二人に声をかけた。
(この二人、時々アレだけど、いつもは仲いいんだよなぁ……)
 そう、二人は基本的に仲がいい。
 しかし、強斎の事となると譲らないのが二人だ。


「ご主人様! 早く行きましょう!」
 そう、レイアが強斎を急かす。
「レイア、あなた行き先わかってるの?」
 それを、止めるミーシャ。
「……ご主人様についていけば問題ないもーん!」
 そう言って、強斎の右腕に自らの腕を絡めるレイア。
 そして、その溢れんばかりの胸を押し付ける。
「あ! ず、ずるい! ……えっと……キョウサイ様……私も……」
「あ、ああ」
 その言葉を聞いて、パァァと明るくなり、笑顔で強斎の左腕に腕を絡めた。
 レイア程胸は無いが、ミーシャも十分ある。人によっては、巨乳に分類する程には。
 強斎は突然の事で少々困惑してきたが。もう、慣れてきたもので、直ぐに肩の力を抜いて、二人の頭を撫で始めた。
 ――大勢の人の前で。
 強斎は、その目線にいち早く気がつき、途中で止めたが、二人は不満なようだ。
 そして、ここでテンプレ的な展開が起こった……。


「おい、テメェ! いい女連れてんじゃん。俺に譲れよ」
 ニヤニヤと、強斎に言いよった男がいた。
 格好からして、まだ冒険者になって短いようだ。
(恐らく、ランク三の魔物で無双して、俺TUEEEってなってる奴だな)
 ステータスを見ても、ランク四より少し強い程度だった。


 強斎が解析しているのを無視と思ったのか、男は顔を赤くし激怒した。
「おい! 無視してんじゃねぇよ! テメェの耳は腐ってんな!」
 そう言って笑いながら強斎に殴りかかるが……。


「クズが。ご主人によるんじゃない」
「グハァっ!」
 レイアが男に蹴りを当て、男は数秒宙に浮いた。
 そして、その男の上にはミーシャがいた。
「あなたの様な人が、ご主人様に傷をつけられるのは、億が一にもありませんが……。ご主人様を侮辱した罪、受けてもらいます」
 ミーシャは男の背中に乗り、地面に叩きつけた。


 そして、空気が一瞬静まる……
 だが――。
「うおおおお[#縦中横]!![#縦中横終わり] 強えぇな! 嬢ちゃんたち!」
 歓声が湧き上がった。




「ご主人様……すみません、勝手に……」
「いや、いいよ。ありがとう、ミーシャ、レイア」
 そう言って、強斎は二人の頭を撫でた。


「そう言えばミーシャ」
「何でしょう?」
 嬉しくて狼耳が ピコピコ動いてるのはスルーする。
「どうして、あの時、俺の名前を呼ばずに、『ご主人様』って言ったんだ?」
「あ……すいません……。キョウサイ様の名前を出来るだけ知られたくなかったので……」
「そういう事か。なら、これからもそうしてくれ」
「はい」
 もう一度二人の頭を撫で、この街を出た。

ミーシャ
LV38
HP 三五五/三五五
MP 二〇一/二〇一
STR 九三
DEX 一一〇
VIT 七七
INT 七二
AGI 一一七
MND 七〇
LUK 二〇
スキル
体術LV6
剣術LV3
短剣LV7
料理LV4
土属性LV1
属性



レイア・アンジェリーク
LV39
HP 六八八/六八八
MP 一五二/一五二
STR 二七八五
DEX 八九
VIT 一〇〇
INT 四八
AGI 四〇五
MND 九九
LUK 三〇
スキル
攻撃力異上昇
剣術LV3
大鎚術LV6
体術LV6
威圧LV5
HP自動回復速度上昇LV5
限界突破
属性
完全攻撃型(ユニーク)



[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、|人名《カタカナ》、魔物名、種族名、魔術名、武器防具名を常時募集しております!
さて、主人公は三週間でこの街を出てしまいました……。
次はどんな街に行くんでしょうか?
感想待ってます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]12話 馬鹿な少年っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
昨日一日で、今までの総合PVが追い越されました。感謝感激です!
今回は二つに分けるため、短めです。
それと、ステータスが読みにくいという事で、強斎のステータスを少し変えました!
八話を見ていただければわかります!
[#ここで字下げ終わり]




 強斎達が街を出た数分後、レイアが強斎に質問した。
「ご主人様、結局どこに行くんですか?」
 強斎はこの質問に対して、ドヤ顔でこう言った。
「とりあえず、一番近い街だ」
「え……」
「レイア、よく聞くんだ。俺はここの土地については全く知らない。だから、俺ではなくミーシャに訊くんだ。ところでミーシャ。どこに向かっている?」
 大体予想していたのか、ミーシャは顔色一つ変えずに、強斎の質問に答えた。
「シッカ王国の城下町に向かってます」
「? さっきの街って、シッカ王国じゃなかったのか?」
「シッカ王国ですよ。王国なんですから、街なんてたくさんありますよ」
「そうだな」


 こうして、雑談をしながら歩くこと数時間。
…………
……
……
「ミーシャ、レイア」
「はい、わかっています」
「どうするんです? ご主人様?」
「とりあえず、あぶり出す」
 ――強斎達は、誰かに後をつけられていた。


「しかし、隠れるにしても下手だな……」
「キョウサイ様、これは罠かもしれません、こんなバレバレな尾行なんて……もしかしたら、本命がいるのかも……」
「その手も考えられますね……。どうです? ご主人様? 一気に仕留めて情報聞き出すとか」
「んー……」
(確かに、これは罠かもしれない……けど、それを考えても変だ。ドンドン俺たちに近づいてきている……。殺気を殺して、背後から仕留める気か? いや、それだったら、こんなバレバレな尾行するはずないな……)
「よし、捕まえてこよう」
「はい。ではレイア、私が――」
「ただいま」
 強斎は中学生ぐらいの少年を抱えて、そこに立っていた。
「……」
「流石ご主人様です! 捕まえただけではなく、気絶までさせてるなんて!」
「気絶?」
 その少年はぐったりと目を回していた。
「とりあえず、そこら辺に放置して、起きるまで待っとくか」
「いきなり襲いかかってきたら、めんどくさいですけどね」
 ちょっと機嫌が悪いミーシャが、強斎に言った。
「ん? そうだな……よし、これならいいだろう」
 そう言って、強斎は立ち上がって、適当な平地で寝転がった。
「そいつが起きたら、適当に黙らしといてくれ」
「え? あ、はい……縛らないのですか?」
 ミーシャが呆気にとられたような顔をしている。
「もう拘束したし、そいつには絶対に千切れないから」
「絶対……ですか?」
「ああ、レイアでも千切れないよ」
 急に名前を出され、キョトンとするレイア。
「「そうなんですか?」」
「ああ。その拘束の強度ってINTに依存するから」
「でしたら、無理ですね」
「確かに、私でも無理ですね」
 既に説明いらずである。
「そういうこと、ってことで俺は寝るわ」
 そう言って、パタリと寝てしまった。
 なんだかんだで、疲れていたのである。
……
……
 強斎の性格は他人とは違い、少々ひねくれている。
 そのせいで、完全に信用できる人など、そうそうできていない。
 そして、強斎はこの世界に来て、初めて信用できる人ができた。
 ミーシャとレイアだ。
 ミーシャは三週間、レイアは一週間しか、強斎と過ごしていないが、確実に信用を築いてきた。
 ミーシャ一人では、もしもの時があるので、強斎は常に周囲を警戒していたが、今はレイアもいる。
 二人だと、そうそうそんなことは起きないだろうという事実が、強斎の肩の荷を下ろしたのだ。
 そんな安心感に包まれながら、強斎は眠りに就いた。
……
……
 強斎が目を覚ましたのは、朝方だった。
(ほぼ半日寝てしまったな……)
 そう言って、体を起こすと、ミーシャとレイアがこちらを向いた。
「あ……おはようございます……」
「おはようございます……ご主人様……」
「おはよう、二人共。まさか、寝てないのか?」
「ええ、見張りのために……」
「起こしてくれれば良かったのに……」
「キョウサイ様はここ最近、無駄に警戒して、疲れていたでしょう? それなのに起こすことなんて出来ませんよ」
「ふっ、そうか」
 そう言って、強斎は二人の頭を撫でる。
 レイアは半分寝ているようだ。
「二人共、寝ていいぞ」
「あ、ありがとうございます……」
 そう言って、ミーシャは強斎の太ももを枕にして、寝てしまった。
 レイアは「ずるい……」と言いながら、こちらもミーシャと反対の太ももを枕にして寝てしまった。
 そして、もう一度二人の頭を撫でた。
(あの少年、どーすっかな……。ま、あいつから襲ってきたし、放置でいいか)
 見知らぬ人の事など、考えない強斎であった。
 二人が目を覚ましたのは、昼頃だった。
…………
……
……
「こいつ、いつから起きてた?」
「昨日の夕方からです」
「どうやって黙らした?」
「適当に威圧で」
 ミーシャ、レイアの順である。


「おい! お前! 金目の物置いていけ! 命だけは助けてやるぞ!」
 ギャァギャァと木を背に座り、騒ぐ少年。
「無様な」
 そう言って、レイアが威圧で黙らす。
「ひっ……」
 そして、黙る。しかし、喋る。
「ふ、ふん! そこの男! 聞いて驚け! 俺は解析スキル持ちだ!」
(確かに解析スキル持ちだな。LV1の)
「恐ろしくて、声も出ないか!」
 そうして、レイアが黙らそうとするが、強斎が止めた。
「お前、馬鹿そうだから解析スキル知らないんだろ! 解析スキルってのはな、相手の大体の強さがわかるスキルなんだ! すごいだろ!」
(そんなに使い勝手が悪いのか……)
「そして、俺の解析によると、お前は俺より弱い!」
「ほう……」
 その瞬間、ミーシャとレイアは青い顔をしていた。
 しかし、少年は解析に頼りすぎたせいで、強斎の雰囲気の変わりように全く気がついていなかった。
「なんで俺が動けないかわからないが、女が何かしたんだろ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] その二人は俺より強いからそうに決まってるな。さぁ、そこの二人! ここの男はお前らより弱いから、殺して、俺について来い! 俺は近々冒険者になって、偉大になる男だ! 今の内に従っとけば、一番弟子にしてやってもいいぞ!」
 ついでに少年のステータスはこうだ。



アルノ
LV9
HP 八〇/八四
MP 七九/七九
STR 二三
DEX 二〇
VIT 二一
INT 二一
AGI 二〇
MND 一九
LUK 二五
スキル
剣術LV1
体術LV2
解析LV1
水魔術LV0
属性


 召喚されたての強斎より弱かった。




 自分の主人を殺せと見知らぬ人に命令された、ミーシャとレイアはこれでもかと言わんばかりの殺気を向けていたが、少年は気がついていなかった。
 そして、強斎は少年に一言言った。


「お前、馬鹿だろ」
「なに[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「大体、自分のスキルを明かす時点で馬鹿。スキルに頼り、第六感が鈍ってるに至っては論外だな」
「なっ!」
「そもそも、お前奴隷って何か知ってるか?」
「それぐらい知っている!」
「こいつらは、俺の奴隷だ」
「それが、どうした!」
「お前、馬鹿だろ」
「馬鹿ですね」
「一回死んでこい、クズ」
 レイアの言葉が汚いのはスルーする。
「なんだと[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 俺のどこが馬鹿なんだ! 計算だってできるぞ!」
「七の二乗は?」
「は? 二乗?」
「ほれみ、馬鹿だろ」
「……」
「……」
 強斎はいきなり黙った、二人を不審に思い、二人を見た。
 レイアはサッと目を逸らし、ミーシャはどこか考えている。
「まさか……お前ら……。いや、そんなことはいい。とりあえず、お前の知っている奴隷はなんだ?」
「そういう職業だろ」
 本物の馬鹿だった。


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、人名(カタカナ)、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しております!
さて、馬鹿な少年登場!
ついでに、この世界にも初等関数はちゃんと存在してます。
そう言えば皆さん、お好きな亜人とかいますか?
その亜人の萌えポイントを教えていただきたいです!
感想待ってます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]13話 二人の新しい武器っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回はいつもに増して少ないです……
PVが六桁行きました! 読者の皆様! 本当にありがとうございます!
[#ここで字下げ終わり]




「お前、何歳だよ」
「あん? 一七だが?」
「ペラペラと喋るんだな」
「う、うっせぇ!」
 ミーシャとレイアはギロりと睨みつけるが、やはり気がつかない。
「レイア、威圧使っていいぞ」
 威圧を使って、雰囲気がおとなしくなった。
(しかし、こいつどうするかな……。俺的には放置したいんだが……)
 そう少年を見る。
(放置したところで、拘束は千切る事出来ないし、死ぬよな……)
 直接殺すわけではないが、やはり強斎は日本人。腐ってても、そのような心はあるのだ。


「はぁ……」
 強斎は一息ついたところで、とあることに気が付く。
 レイアが、威圧をしっぱなしだった。
 もう、少年はガクガクブルブルである。
「レイア、もういいぞ」
「ふん! お前、ご主人に感謝するんだな!」
「ふ、ふふ……俺は、お前なんかに感謝しないぞ!」
「黙れチルノ」
「アルノだ! ……あ」
「ホント、ベラベラと喋るよな。で、お前はどこから来た?」
「ふん! 喋るもんか!」
「そうか、ってことでレイア」
 言う事聞かないとこうだぞ。と言う様な雰囲気で強斎はレイアに指示を出した。
「ひぃ!」
「で、どこから来た?」
「ず、ずっと遠くの村だ!」
「そうか」
 そう言って、強斎は拘束をなくした。
 さっさと次の街に行きたかったのである。
「さっさと行け。仕方ないから、見逃してやる」
「何言ってんだ? それは俺のセ――」
 少年は言い終わる前に気絶してしまった。
(付き合いきれん)
 やはり、強斎の仕業だった。
 ……
 ……
 気絶したアルノを一瞥して、ミーシャとレイアに声をかけた。
「もう行くぞ」
「キョウサイ様、この馬鹿から装備品はぎ取りましょう」
「ご主人様、このクズを殺しときましょう」
 二人共、物凄く怒っていた。
 そして、強斎はとある事を思い出した。
(あ……、装備品といえば、盗賊から盗んできたものがあったわ……。うわー……失敗したなー……、ミーシャとレイアの装備品って買ったやつじゃん……そこまで値は無かったけど)
 怒りについては突っ込まない強斎であった。ごもっともであろう。
「とりあえず、放置しとけ。ここは魔物も出ないし、放置してもそいつは死なないだろう」
「キョウサイ様、そんなのでいいのですか? こいつはキョウサイ様を……」
「いいさ、お前らならともかく、俺はあの程度言われても構わない」
「キョウサイ様……」
「ご主人様……」
 二人の頬は少しばかり赤かったが、強斎は考え事をしていて、その事には気が付かなかった。
(あの程度……か……。そう言えば、鈴にもそんなこと言ったっけ……)
 強斎は空を見て、そんなことを思う。


「キョウサイ様?」
「ん?」
「どうしたんですか? 空なんか見て」
「いや、なんでもない。じゃぁ、行くぞ」
「「はい」」
(今頃あいつら会っても厄介なだけだし、別に会わなくていいか。会いに行こうにも遠いしな)
 ミーシャの情報によると、安全にシッカ王国からドレット王国に行く為には、馬車を使っても一年は余裕でかかるとのことだ。


 こうして、強斎達はシッカ王国城下町に向かうのであった。


 そして、数分後――。


「ミーシャ、レイア」
 強斎は二人を呼び、メイスと短剣をあるだけ出した。
「こ、これは?」
 ミーシャが、強斎に質問する。
 レイアは武器に夢中だ。
「ああ、武器を沢山持っていた事を忘れててな。とりあえず、好きな武器を選べ」
 ミーシャの短剣は全てN。レイアのメイスはHNだった。
 事情を説明し、二人にそれぞれ武器を選んでもらった。
 ミーシャはRの短剣を三本、HNを三本。レイアはRのメイスを選んだ。
「よし、これでいいな。ミーシャの余った短剣は、投擲ナイフの代わりでいいか」
「投擲……ナイフですか?」
「ああ。元々、ミーシャに短剣を多く持たせてるのは、投擲目的でもあったんだ。ナイフより、短剣の方が威力あると思ってな」
「は、はい! 頑張ります!」


「レイアはどうだ? そのメイス」
「はい! とっても使いやすいです! しかも、このメイスに魔力を込めると、攻撃力が上がるなんて!」
 どうやら、お気に召したようだ。
 …………
 ……
 ……
 更に一時間程歩くと、魔物が出るようになった。
 以前の森より、討伐ランクが高く、同じ魔物でもレベルが少々高いのが出てくるようだった。
 二人は自らの新武器を使い慣らし、更にミーシャが投擲LV1を覚えた頃に、強斎がとある言葉を言った。
「次からは俺が魔物を倒す」
「ご、ご主人様が[#縦中横]!?[#縦中横終わり] この先にはそんなに強い魔物が……」
「いないと思う」
「はい、いません」
「単に、お前らに任せるだけじゃ悪いと思ってな」
(レベリングがしたいだけなんだけどね)
 中々の悪である。
「そ、そんな。キョウサイ様の手を煩わせる等……キョウサイ様は気付いていないと思いますが、キョウサイ様は既にこの世界でさい――」
 と、その瞬間強斎が消えた。
「俺も、刀をマスターしたいしな」
 ミーシャから少し離れた場所に強斎は立っていた。
「……はぁ、それなら……」
「うーし、狩るぞー!」
「はい! ご主人様!」
 レイアの目は強斎が魔物を倒したあたりから、キラキラと輝いていた。
 ……
 ……
 そして、強斎は二日間、自重なしでスキル強奪とレベリングをしていた、そして今日、途中で自分のステータスを見て、苦笑いをしていた。
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV48
 HP 九京八五一六兆二四一八億四八七二万九六〇〇/九京八五一六兆二四一八億四八七二万九六〇〇
 MP 四〇京八一三八兆七一六二億三〇四五万一二〇〇/四〇京八一三八兆七一六二億三〇四五万一二〇〇
 STR 一京一二五八兆九九九〇億六八四二万六二四〇
 DEX 一京二六六六兆三七三九億五一九七万九五二〇
 VIT 九八五一兆六二四一億八四八七万二九六〇
 INT 一京二六六六兆三七三九億五一九七万九五二〇
 AGI 一京一二五八兆九九九〇億六八四二万六二四〇
 MND 八京三〇三五兆一一八一億二九六四万三五二〇
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 剣術LV9
 刀術LV8
 二刀流LV2
 細剣術LV1
 投擲LV5
 大槌術LV3
 棒術LV6
 体術LV6
 槍術LV7
 弓術LV7
 盾LV6
 大盾LV2
 威圧LV3
 隠蔽LV2
 解析LV2
 料理LV6
 潜水LV2
 火属性LV3
 水属性LV5
 風属性LV5
 闇属性LV3
 状態異常耐性LV4
 MP回復速度上昇LV6
 HP回復速度上昇LV7
 アイテムボックス
 超隠蔽
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・風・闇
 |想像魔術《SPユニーク》
 #


「キョウサイ様? どうしたんです?」
「いや、これから二人が止めさしていいぜ……」
「? わかりました」
「急にどうしたんです? ご主人様?」
「なんでもないよ」


[#ここから6字下げ]
スキル名、ユニーク属性名、人名(カタカナ)、魔物名、魔術名、武器防具名を常時募集しております!
さあ、少年は置いてっちゃいましたね~
これから、少年との関わりはあるのだろうか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
というか、この世界の人ってベラベラ喋る人多いですねー(棒
ステータスがなんか凄くなってきました……
ですが、まだ自重はしませんよ?
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]閑話1 鈴と強斎 前編っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
なんだかんだ、鈴が気に入っている自分です。
ちょっと全体を少し修正しようと思います
[#ここで字下げ終わり]




 鈴は中学生の頃、女子からは陰口等を受けていて、男子からは|厭《いや》らしい目線を向けられていた。
 高校生になったら変わる……。そう思ってずっと耐えてきた。
 しかし――。
(変わらない……中学の時の最初もこんな感じだった……)
 ヒソヒソと聞こえる声、男共のいらやしい目線。
 殆ど変わっていなかった――。
…………
……
……
 鈴は指定のクラスに着き、入っていった。
 やはり目線が集まるが、何か違った。
 鈴は疑問に思いながらも、指定の席に座り、その時間を過ごした。
…………
……
……
 入学式などが終わり、自由の時間が与えられた。
 鈴はさっさと家に帰りたかった。
 そして、何となく周りを見る。
(あれ?)
 男共の目線は、多数がこちらを向いていたが、自分だけじゃないような気がした。
 鈴はその事が気になり、今まで向いていなかった後ろを振り向いた。
 鈴は絶句した。
(なんで……)
 そう、後ろの女性は、どれだけ視線を向けられても、堂々としていた。
 視線を向けられるのが快感に思っている様子もない。
 他の女子にも積極的に話しかけて、まるでイジメの怖さを知らないみたいに。
 鈴は知りたかった。
 どうして、そこまで堂々とできるのか。
 勇気を出して、鈴はその女性に声をかけた。
「あ、あのっ……!」
 その女性は少しビックリしていたが、すぐ笑顔になり……。
「どうしたの?」
「えっと……その……」
「?」
「なんで、そんなにも堂々としていられるの?」
 その女性は、キョトンとして、全てを察したかのように、優しい目で鈴を見た。
「そっか……、貴女も苦労したんだね」
「えっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
(貴女〝も〟? ってことは……!)
「うん、私も昔いじめられてたから……。大体の事はわかっちゃうんだ」
 その女性はてへへと可愛らしく笑った。
「あ、ご、ごめん……」
「いいの、もう大丈夫だから」
 その女性は、どこか安心した雰囲気を出していた。
 そこで、鈴は本題に戻そうとする。
「なんで、大丈夫なの? 怖くないの?」
 鈴は怖かった。
 特に男共の目線が怖かった。
 いつもいやらしい目線で見られていて、時には襲って来るんじゃないかと思う時もあった。
 その答えが聞きたかった。
「うん、怖いよ。でも、大丈夫」
「え?」
(怖いけど……大丈夫?)
 ますます、鈴はわからなかった。
「それって……」
 どういう意味? と訊こうとした時、彼女に変化があった。
「守ってくれる人がいるから」
 そう恥ずかしがりながら答えた。
「守ってくれる……人?」
「うん、守ってくれる人。ちょっと抜けて、何考えてるかわからないけど――」
 彼女は自然とにやけていた。とても楽しそうにそして、恥ずかしがりながらこう言った。
「とってもかっこよくて、とっても優しくて……とっても強い人かな?」
 鈴は思った。
 そんな理想の人なんているのかと。
 ただ、彼女に惚れただけの人じゃないかと。
 だから訊いた。
「その人って男の子?」
「そうだよ」
「親戚とか?」
「違うよ。ってどうしたの?」
「その……大丈夫なの? 血の繋がっていない男の子を、そんなに信用して……。いやらしい目で見られていないの?」
 彼女はその時、ふふっと笑い出した。
「うん、確かにちょっとえっちかも」
「なら――」
「でもね」
 彼女は、鈴の瞳をしっかりと捉えてこう言った。
「私は多分、世界で一番彼を信用してる。親よりも、自分と同じぐらい……彼をね」
 自分と同様に信用できるなんて意味がわからなかった。
「意味が……わからないよ……」
「いつか、わかるよ」
 鈴はそう思えなかった。
 ここまで信用できる人など見つかるわけがない。
 そして、彼女はこう言った。
「じゃぁ、わかるその時まで私があなたを守ってあげる」
「え……」
 彼女はニコッと笑い話を続けた。
「私の名前は洞爺澪。あなたの名前は?」
 突然だったが、鈴は何故か冷静になれた。
「羽田……鈴」
「じゃぁ、よろしくね。鈴」
(なんだか……安心できる……)
 鈴はその感情に良い心地を感じながら、澪に返事を返した。
「うん、よろしく。澪」
 こうして、鈴と澪は出会った。
…………
……
……
 鈴が高校生になって、もう二ヶ月が経った。
「もう……鈴、そろそろ友達作ったら?」
「友達いるし」
「って言っても数回喋った程度でしょうが」
「むー……もう、私先行くね!」
「あ、ちょっと! 鈴!」
 今日は移動教室で、先ほど授業が終わったところなのである。
「もう、仕方ないなぁ……」
 走っていった鈴とは違い、澪はゆっくりとした足取りで教室に戻っていった。
…………
……
……
(確かにさ、未だに友達と言える友達が、澪だけってのも何かアレだけどさ……。話しかけるって難しいんだよ……)
 鈴は早歩きで教室に戻っていく途中だった。
 そして、考え事をしていたため、人とぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「おっと」
 ドサドサと落ちる教科書。
 しかし、鈴が地面につく事はなかった。
「あー……すまん考え事してたわ。大丈夫か?」
「あ、あ、え……」
(男の人……!)
 鈴はそのぶつかった男性に抱えられていた。
「す、すみません!」
 鈴はさっと離れて、急いで教科書を拾い、そそくさと自分の教室に戻った。
「俺、なにかしたか? ……ん? あ、さっきのやつの忘れ物か……」
…………
……
……
「あれ? どうしたの鈴?」
「うー……さっき、男の人とぶつかった……」
「そう言えば、鈴って男の人と喋ってるとこ見たことないわね……で、どうだったのその人は?」
「あんまり、顔覚えてない……すぐ逃げてきたし」
「あちゃー……そういう出会いを大切にしなきゃ。あ、私ちょっと用事あるから行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
 澪が出て行った後、鈴は考え事をしていた。


(出会いね……男の人が苦手なのに、そんな人出てくるのかな?)


 そんなことを考えていると、珍しく女子から声をかけられた。
 男子はナンパでよく声をかけられている。
「えっと……羽田さん」
「……」
「羽田さん?」
「え? わ、私?」
「このクラスに羽田さんは一人しかいないよ。それより、羽田さん呼び出されてるよ」
 そう言って、その方を見ると、メガネをかけた男子生徒が立っていた。
「あー……わかった……」
 そう言って、鈴は男子生徒によって行く。
 本当は適当に断ってもらいたいのだが、そんなことが頼める澪はこの場にいない。


「なんのようですか?」
「え、えっと……羽田さん! これ!」
 そう言って、|男子生徒《メガネ》は鈴に手紙を渡した。
「じゃあ、これで!」
 そう言って、メガネ(男子生徒)はささっと出て行った。
 さっきのメガネもやはり、鈴の胸に釘付けだった。


(はぁ……。また、こんな人か……。しかも文通って……)
 そうして、鈴は手紙を捨てようとした時に、数人の女子生徒が騒がしかった。
 また、私のことかな? と、思っていた矢先、声をかけられた。


「ここに羽田鈴って奴はいるか?」


 教室の外から、男子生徒に。
「え?」
 また、この手の人か? と思った鈴だが、その人の顔を見て、そうではないと思った。
(ぶつかった人だ……)
 そう、先ほど鈴とぶつかった男子生徒であった。


「っと、いたいた」
 彼は鈴を見つけた途端、鈴に寄り、とあるものを渡した。
「さっきは済まなかったな。教科書の忘れ物だ」
「え、あ、ありがとう……」
「ふっ、これで借りは返した」
 そう言って、男子生徒は教室から出て行った。
(さっきの人……ずっと私の目を見てた……)
 鈴は、同年代の男子と話す時に、初めて胸への視線を感じなかったのだ。
 そんなことを考えながら、自分の席に戻ると、さっきの女子生徒が少し慌てた声で、鈴に話しかけた。
「は、羽田さん!」
「ど、どうしたの?」
「た、小鳥遊君から何もらったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「小鳥遊? メガネの?」
「メガネ? あ、最初のメガネじゃなくて、次の人!」
「え、それは……」
 と、そこで答えようとした時、他にも女子生徒が寄ってきた。
「ねぇ、羽田さん! 小鳥遊君とどんな関係なの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「関係も何も、廊下で……」
「「「廊下で?」」」
「助けてもらった人?」
「ううー……いいわねー!」
「私なんて喋ったこともないのに……」
「この胸か! この胸のおかげなのか!」
 そう言って、女子生徒が鈴の胸を揉み始めた。
「やっ! ちょっと! く、くすぐったいって!」
「このっ! このっ! 小鳥遊君はね、男子生徒ランキング五位の人気者なのよ!」
「ちょ、なによそれ!」
 鈴は強引に手を引き剥がす。
「いいわ、教えてあげる! 小鳥遊君は容姿、勉強、運動が全て上位なのに、ちょっと子供ぽかったり、意外に大人だったりとギャップがあって、母性本能をくすぐられる男子なの! そして、幾度もの女子生徒を振っているのよ! 小鳥遊君から話しかけられるなんて……」
「ちょっとわけわかんない! 話が噛み合ってないから!
「このやろー! こうしてやる!」
「私、女だからね[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 後、胸揉まないで!」


 こうして、鈴は新しい友達を作ったのであった。


「あ! 澪! 助けて!」
「ん? 鈴、お友達できたんだね~」
「何か澪が幸せな顔してる! あ、ちょ……いやーーーーーーー[#縦中横]!![#縦中横終わり]」


[#ここから6字下げ]
自分はもう、ロリコンでいいや……
本来なら、澪を先に書かなければならないのに、鈴のストーリーを思いついてしまった……
それと、皆さんにお詫びです。
自分の都合により、更新速度が落ちます。すみません。
感想待ってます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]閑話1 鈴と強斎 中編っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
まさかの中編ww
[#ここで字下げ終わり]




 高校生になってから初めての夏休み。
 この少女――羽田鈴はとある問題を抱えていた。
(また、胸が大きくなっちゃったのかな……?)
 下着のサイズである。
(澪に今度の日曜日ついて行ってもらおっと)
 思い立ったが吉日、鈴は澪に電話した。


『もしもし?』
「あ、澪。今ちょっといい?」
『うん、大丈夫だよ』
「今週の日曜日、予定空いてる?」
『あー……ごめんね、その日はちょっと……』
「あ、そっか。なら仕方ないね」
『うん……ごめん』
「いいのいいの! それじゃ!」
『ほんっとにごめんね……』
「もう、いいって言ってるじゃない。それじゃぁ、切るね」
『うん、ありがと』


 そうして、会話を終了した。
(友達は出来たけど、澪ほどの友達はできてないからな……。はぁ、どうせ日曜日一人で行くなら、今から行こっと。もうすぐ夕飯だけど、外食でいっか)
 鈴は親に一言入れ、下着を買いに行った。
…………
……
……
(はぁ……やっぱり大きくなってた……)
 下着を買い終わった鈴は、夜道をトボトボ歩いていた。
 人通りが無いと気がつかずに。


(考えても無駄だなぁ、もう諦めてどこか食べるところを――)
 その時、鈴は誰かにぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「っと! あぶねぇ……な……」
「す、すみません」
「……ほう」
 ぶつかった男が鈴を見て目の色を変える。
「君さ、謝って済むと思ってる?」
「え?」
「だからさ、さっき君がぶつかったせいで、この服、汚れちゃったんだよね。ジュースこぼしてさ」
「あ、あの……」
「これじゃあ、洗っても、シミ取れないなぁ……。ってことで、五十万」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「五十万円払えって言ってんの。買い換えるから」
「そ、そんなお金……」
「へー! 持ってないんだ。だったらさ、君の体で許してあげるよ」
 そう言って、男は鈴の腕を取った。
「や、やめて下さい!」
「大声あげても無駄だよ。この辺は人通りが悪いからね。さぁ、こっちに来るんだ!」
「いやっ!」
 鈴は必死に抵抗するが、男と女。力負けをして、ズルズルと連れて行かれる。
(なんで……。なんでこんなことに……)
 何とか抵抗するもの、全く歯が立たなかった。
 声をあげようとも、直ぐに口を押さえられてた。
「んー! んー!」
「ひっひっひ……これから楽しみ……だ……」
 男はいきなり脱力し、膝をついた。
 鈴はその隙を逃さず、一気に離れた。
 そして、周りを見渡すと、男の後ろに一人の男が立っていた。


「はい、強制わいせつ未遂っと……」
「な……なんだ……?」
「おっさんさ、手口が古すぎるんだよ。一応一連の動きを録音さしてもらったから」
「き、きさま!」
 そう言って、男はその男に襲いかかった。
「馬鹿だろ、お前」
 そして、また脱力する男。
「何で、自分が脱力した理由がわかんないわけ? 全身にビリビリってきただろ」
 そう言って、男は鈴を襲った男を蹴る。
 その一撃で、鈴を襲った男は気絶してしまった。
「しかも、弱っ。っと、そんなことより大丈夫か?」
 その男は鈴の方へ向かってきた。
 鈴はさっきの事件から、男に対してかなりの恐怖心があったが、向かってきた男の顔が月明かりに照らされた時、鈴は警戒心を解いた。
「小鳥遊……君?」
「ん? お前は……羽田鈴か?」
 鈴を助けた男は小鳥遊強斎だった。
…………
……
……
「お、万札はっけーん、一枚持ってこ」
「た、小鳥遊君……そんな人からお金を巻き上げるのは……」
「あ? お前、あんな目にあったのに、よくそんなこと言えるな」
「それとこれとは……」
「一枚ぐらいいいだろ、どうせこいつを警察に突き出すしな」
「そう言えば、何でこの人はいきなり脱力したの?」
「俺がやった」
「どうやって?」
「スタンガンで」
「スタンガン[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんでそんなもの持ってるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ちょっとした趣味でな」
「趣味って……。じゃあ、あの録音ってのも……」
「それは嘘だ」
「え?」
 強斎は男の荷物を確認して、一万円と免許を奪い取った。
「そんなことより、羽田鈴」
「は、はい!」
「お前、強制わいせつされそうになったこと、誰かに知られたいか?」
 鈴は首を横に振った。
「そうか。あ、すみません警察ですか? 実は――」
…………
……
……
「ありがとう、小鳥遊君」
「別に俺は収入が入ったからいいがな」
「でも、小鳥遊君が助けてくれなかったら私、何されてたかわかんないし……今度、改めてお礼をさせて……ね?」
 そこで、鈴は強斎の目線に気がついたら。
「ど、どうしたの?」
 あまりにも堂々と全体を見られているので、ちょっと引き気味になっていた。
 強斎は鈴を見終わると、「よし」と声を出して、鈴に説明した。
「お礼なら、今すぐしてもらおうか」
「……え?」
「あ、荷物大丈夫か? 一旦帰るか?」
「大丈夫だけど……」
「よし、なら付いて来い」
 強斎はくるっと後ろを振り向き、歩き出した。
 その時、強斎がなんだか厭らしい笑みを浮かべていたことを、鈴は見逃さなかった。
(小鳥遊君もそんな人なのかな……? あ、でも小鳥遊君なら……いいか……な? 他の男子と何か違うし……ちょっと……かっこいいし……)
 そんなことを思いながら、鈴は強斎の後に付いて行った。
…………
……
……
「着いたぜ……!」
 その言葉にバッと顔を上げる鈴。
 そこは――。
「レストラン?」
「ああ、そうだ」
(そう言えば、夕飯食べてなかったな……。でも、なんで小鳥遊君はここに連れてきたんだろ?)
 そんなことを考えていると、強斎は鈴の手を取った。
「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり] た、小鳥遊君[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
(な、な、なんで手を[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 心の準備が……って、そうじゃなくて!)
「よし、行くぞ。とりあえず、少し我慢してくれ」
「~~[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 少し心を許した男性に迫られると、弱い鈴であった。




「いらっしゃいませ。……カップルでございますか?」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 小鳥遊く――」
「ああ、そうだ」
(ええぇぇぇぇ!!!?? ど、ど、ど、どうして[#縦中横]!!?[#縦中横終わり])
「かしこまりました……。ですが、そちらの女性。少し戸惑っているような――」
『鈴、すまん!』
『え[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
 耳元で囁かれたのもビックリしたのだが、その次の行動によってもっとビックリする羽目になった。
「よっと。……これでどうだ?」


 ――――お姫様抱っこである。
「え……?」
 鈴は少しの間放心状態だった。
「ふふっ、かしこまりました。では、こちらをどうぞ」
 そう言って、店員はとあるカードを強斎に渡す。
「ああ、済まないな」
「では、ごゆっくりどうぞ」
 こうして、強斎は放心状態の鈴を下ろして、席に向かおうとするが……。
「鈴?」
 鈴がボーっとしていたのだ。
 おかしいと思った強斎が、鈴の肩にポンっと手を置いたとき――。


 プシュー……。
 と聞こえる程顔を赤くしてしまった。
「うおっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 大丈夫か[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 流石に不審に思い、強斎が鈴の額に自分の額を当てた時。
 鈴は状態異常になってしまった。
「だ、大丈夫! 大丈夫だからぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ぱっと離れて、鈴はそそくさと席に向かった。
(どうしよう……! どうしようどうしよう! ほんっとにどうしよう! ドキドキが……ドキドキが全然止まんないよぉ……! そういえば、小鳥遊君は私をカップルって? あー! うー[#縦中横]!![#縦中横終わり] 考えられない! 冷静な判断ができないよぉ……)
 それでも、鈴は空いている席を見つけて、そこに座った。
 少ししてから、強斎が追いついてきた。
「ったく、いきなり止まったり走ったりと大変な奴だな」
 そう言って、強斎も鈴と同じ席に座る。
「あ……うん、ごめんなさい」
 俯きながらゴニョゴニョ言う鈴。
(直視できない……。恥ずかしくて直視できない……!)
 そんなことを考えていると、店員が来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ああ、そうだな。鈴、注文決まってるか?」
「は、はひぃ!」
「じゃぁ、俺はこれで。鈴は?」
「わ、私も同じで!」
「かしこまりました。以上でよろしいですか?」
「あと一つ」
 強斎は先ほど店員に貰ったカードを見せて……。


「――カップル限定パフェを頼む」


…………
……
……
 強斎達が頼んだ食べ物を食べ終わると、デカイパフェが運ばれてきた。
 ついでに言うと、鈴はずっと無言である。
「きたきたー! これこれ!」
 そう言って、強斎はありとあらゆる果物が乗った巨大パフェを手にかけた。
 そこで、鈴が口を開いた。
「あのさ……小鳥遊君」
「んあ? 小鳥遊って言いにくいだろ、強斎でいい」
(名前OK[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 強斎って言う方が言いにくいと思うけど! なんか嬉しい!)
「じゃ、じゃあ……強斎は……さ」
(強斎は私のこと、どう思ってるんだろう……?)
 それを訊きたかったのだが……。
「こ、今週の日曜日って空いてる?」
(ちっがーう[#縦中横]!![#縦中横終わり] 私の馬鹿! へたれーーー! って、よくよく考えたらこれって、デートに誘ってない? 私、強斎をデートに誘ってない[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 と、考えているうちに、強斎が口を開いた。
「ん? ああー……すまんな、日曜は図書館で友達と勉強をする予定だ」
「そ、そっか……」
(そんな都合のいい展開――)
「よかったらお前も来るか?」
(きたーーーー! 都合のいい展開来たよ!)
「え? いいの?」
「ああ、大丈夫だ」
「あ、でも……その友達って……男の子?」
 強斎には異常な程に心を開いている鈴だが、他の男は変わらずなのだ。
「いや、女子だが?」
「そ、そう……なら、行ってもいいかな?」
(なんだろう……強斎が女子と勉強するって分かった途端……心が……少し痛い……)
「ああ、いいと思うぞ。っとそれより、このパフェ食べてみるか? 結構うまいぞ」
「あ、じゃあ。もらおっかな」
 そして、鈴は強斎に食べさせて貰って気がついた。


 ――間接キスだということを。


「あ……ああ……!」
「ん? どうした?」
 そのまま食べる強斎。
「はぅ……」
「うお[#縦中横]!?[#縦中横終わり] またか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」


 こうして、なんだかんだ強斎達は楽しい時を過ごした。




「ありがとうございましたー」
 レストランを後にし、鈴を家に送る強斎。


「私がお礼するはずだったのに……おごってもらっちゃった……」
「ん? お礼ならちゃんと貰ったぞ?」
「え? 私なんにもしてないよ?」
「何言ってんだ? 今日一日、俺の恋人役になってくれたじゃねぇか」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] そ、それが……お礼? そんな……たった一日の恋人で……? 助けてもらったお礼?」
「ああ、しっかりとした対価だったぞ」
「そ、そっか……」
(たった一日……たった一日の恋人で、そこまでの対価があると思ってくれるなんて……)
 その時、鈴の胸は一段と大きく高鳴る。
(だ、ダメ! 聴こえちゃう! 強斎に聴こえちゃう! 止まって! 止まって!)


 その後、何も喋らずに鈴の家に着いた。


「ここか?」
「……うん」
(もう、ついちゃった……)
「んじゃ、また日曜日な」
「うん、図書館で……」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
 そうして、強斎は暗闇に消えてしまった。


「……行っちゃった」
 鈴は自分の唇に手を当て、間接キスをした時を思い出し、一気に胸が高鳴り始めた。
(……強斎)
 こうして、鈴は家に戻った。


 その日、鈴は初めて異性を思いながら自慰行為をした。
(強斎……! 強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり])
「んっ! んっっっ~~~[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
 一通り終えた鈴はぐったりとする。
「はぁ、はぁ……。ん……」
 鈴はもう一度唇に手を当て考えた。
(私……恋しちゃったのかな……)


 こうして、一日が終わった。
…………
……
……
 日曜日……。
 鈴は服装に張り切っていた。
(聞いたところ、強斎の女友達になるという事は物凄くレベルが高いらしい……今日、強斎が勉強を一緒にする女子はかなり親しい女子のはず……。負けない!)
 よくわからない意気込みをして、鈴は服装を選んだ。


 白色のワンピースに決まった。


…………
……
……
 鈴は支度をし終わったあと、時間を確認して、集合の少し前に着くように家を出た。


 そして、図書館に向かう途中……。
 鈴は歩道橋に強斎がいる事を確認した。


「きょ、強斎!」
 強斎は鈴に気がついたのか、しっかりと鈴の方を見た。
 鈴は待ちきれずに、走って歩道橋の階段を登る。
 そして、最後の段を踏もうとした時。


 ――――足を踏み外してしまった。


「え……」
 鈴は何もかもがスローモーションに見えた。
 後ろに倒れる自分。
 色々と諦めた時。


 ――――温もりを感じた。
(強斎[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 強斎が、鈴を抱えて一緒に落ちたのである。


 数秒の時が流れた。


 鈴は恐る恐る目を開けた。
 どこも痛いところは無かった。
 しかし――――。


「強斎……?」
 強斎が目を開けないのである。
 鈴は強斎の腕から抜け出し、もう一度強斎を見る。
 ――――やはり目を開けない。
「強斎……強斎……」


 いくら揺すっても、起きる様子がない。


 鈴は不意に強斎の頭に触れてしまった。


 ピチャ……。


 手が濡れた感覚がした。


 恐る恐る自分の手を見る鈴。


 ――――血が付着していた。


 もう一度、血が付着したところを確認する鈴。


 やはり、強斎の頭部だった。


 そして、鈴は頭の中で整理をする。


 そして、現実を見た。


(いや……)


 ポタポタと瞳から涙が落ちる。


(嫌だ嫌だ嫌だ[#縦中横]!![#縦中横終わり])


 どれだけ心の中で叫んでも、ピクリともしない強斎。


「起きてよ! お願いだから……! 起きてよ! ねぇ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 強斎! 起きてよ! ……ねぇ! お願い……お願いだから…………」


 しかし、強斎は動かなかった。


 そして、鈴はそこでヘタリ込み、人前にも関わらず泣いてしまった。


[#ここから6字下げ]
なんと、鈴の初恋は強斎でしたね。
さて、これからどうなってしまうんでしょうか?
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]閑話1 鈴と強斎 後編っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
さぁ、後半です。
めっちゃ眠いです
[#ここで字下げ終わり]




 ――どれぐらい泣いたのか。
 そう考えるのも鬱陶しくなるほど鈴は弱っていた。


 あの後、救急車で強斎は運び出された。
 鈴も一緒に付いて行ったが、強斎を見ていると心が痛くなり、命に別状は無いと知らされると。鈴は逃げるように病院から出た。


(私のせいなのに……私のせいなのに……! 看病の一つもできないなんて!)
 何度も戻ろうとするが、結局鈴は戻ることができなかった。
…………
……
……
 次の日、起きたのは昼頃だった。
 学校が始まっていたら完全に遅刻である。
 鈴は昨日、殆ど寝付けなかった。
 何故、あの時、病院から逃げるように出て行ってしまったのか。
 鈴は一晩考えて、答えにたどり着いた。


 ――――恐怖。


 それが、鈴の出した答えだった。
 医療費を請求される位ならまだいい。
 鈴が最も恐れたこと、それは――。
(強斎に……嫌われたくない……)
 それだけだった。
 それだけだったのだが……。
(会いに行きたいのに……行けない……)
 そう、強斎に嫌われるかもという不安だけが、鈴を止めていた。
 そして、鈴は気がついた。
(私……ここまで強斎に依存していたんだ……)
 こうして、ドンドンと時間は過ぎていった。
…………
……
……
 鈴が意を決したのは事故から五日後だった。
「よし」
 こうして、鈴は病院に向かった。




 病院の廊下で、鈴は思わぬ人物とすれ違った。
「あ、鈴!」
「澪……?」
 そこには、ポニーテールを下ろした澪がいた。
「鈴、どうしたの?」
「あ、いや……ちょっとびっくりして……」
「?」
「そんなことより、澪こそどうしてここに?」
 すると、澪は「はぁ……」と息を出して、愚痴るように鈴に言った。
「私ね、日曜日に用事あったじゃない?」
「うん、そんなこと言ってたね」
「その日にね、待ち合わせした友達が運ばれたって言うのよ! もう、ビックリしちゃって……」
「う……ん?」
 鈴は少し不思議に思ったが、澪が続きを話し出したので、思考を止める。
「それでね、急いで病院に来たんだけど……」
「来たんだけど?」
「階段で転んだだけだって言ったのよ!」
「えー……それで運ばれたの?」
「そうらしいのよね……、で、その友達が病室から逃げ出したから、今探してるのよ」
「病室から逃げ出したの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「そうなのよ……。もう、おとなしくしてほしいわ……」
 ため息をついて、だるそうな仕草をするが、どことなく嬉しいきもちを隠せていない澪。
「どうしたの? そんなに嬉しそうにして?」
「あ、わかっちゃった?」
「えへへ」と照れ始める澪。
 鈴はその仕草に少し引いてしまった。
「あ、うん。それで、どうしたの?」
「うん、実はねこういう書き置きがあったの!」
 バンっ! と澪は一枚の紙切れを鈴に見せた。


『プリン食べたい』


 鈴は目眩がした。
「ちょ、ちょっと! 澪!」
「ん?」
「あんた、まさか友達を探すついでに、プリン買ってくるんじゃないでしょうね?」
「よくわかったね~うん、友達は滅多に頼み事しないから、プリン買ってきて驚かせようと思って!」
 赤面する澪に、鈴は気が付かなかった
 呆れていたのである。
「あー……、まぁ、頑張って」
「うん! 頑張る!」
 こうして、鈴は澪と別れた。
……
……
 鈴は強斎の病室の前で立ち止まっていた。
(もう……決めたんだ……! 嫌われていても、謝るって! ……少し怖いけど)
 そして、鈴は深呼吸をして、強斎の部屋にノックをしようとした。
 その時、背後から声がかかってやめてしまったが。


「あれ、鈴じゃねぇか。どうしたんだ?」
 勿論、こんな状況で不意をつかれたら、戸惑うのが当たり前だろう。
「あ、あ、きょ、強斎?」
「誰に見えるんだ?」
「そ、そうだよねー」
「?」
「……」
 鈴は無言になってしまった。
 そして、鈴は落ち着きを取り戻した。
「あのさ」
「どうした?」
「怒ってない?」
「怒る?」
「じゃ、じゃあ! ……私のこと……嫌いになっていない?」
「ちょっと待て、意味がわからん」
「だ、だって! 私のせいで歩道橋から落ちたんだよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「お前のせい? 何を言っているんだ?」
「え?」
「俺はあの時、ただ無性にタックルをしたくなっただけだ」
「……」
「……」
(強斎がおかしくなった[#縦中横]!![#縦中横終わり] どうしよう! やっぱり頭を打って……!)
「あー[#縦中横]!![#縦中横終わり] 冗談だ! 冗談! だから、そんな可哀想なものを見るような目で、泣きそうにならないでくれ!」
「……本当?」
「ああ、本当だ。どこもおかしくなってない。それに、怒っても嫌ってもいない。てか、どうしてそう思った?」
「だって、私のせいで……」
「俺なら、あの程度構わない」
「で、でも……」
「はぁー……まぁ、いいや。だったら一つ、お願いがある」
「わ、私に出来ることなら!」
「じゃあ、ついて来い」
…………
……
……
 鈴が連れてこられたのは、とある病室だった。
「おい、大地。俺だ、入るぞ」
「強斎か」
「ああ、どうぞ」
 そう言って、強斎はとある病室に入っていった。
 鈴はそれについて行く。
「お、おじゃまします……」
(男の人だ……)
 鈴は無意識のうちに、強斎の服を掴んだ。
 大地と呼ばれた男は少し驚いた顔で、強斎に話しかける。
「強斎の彼女か?」
 その時、鈴は強斎の言葉に少し期待したが……。
「いや、ただの友達だ」
 少し、心が痛んだだけだった。


「そうか、で、何で連れてきたんだ?」
「お前の新しい話し相手になるんだ、当然だろ」
「「え?」」
「ってことで、鈴。後は任せた」
「ちょ、ちょっと! どういうこと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「借りを返したいんだろ? だったら、頼むわ。後、あいつは信用していいから」
「え?」
「それじゃあ、大地。……またな」
「強斎……。俺も説明が欲しいのだが」
「俺はお前に借りを作った。だけど、返すことができそうにないから、こいつにバトンタッチだ」
「え? え?」
「んじゃ、またな」
 そう言って、強斎は出て行ってしまった。
「……」
「……」
「えっと……君、名前は?」
「え? あ……羽田鈴……です」
「そうか、俺の名前は鷹見大地。強斎とはちょっとした仲だ」
「え、えっと……強斎は……どんな人ですか?」
「敬語はやめないか? ムズ痒い」
「あ、うん。だったら……強斎はどんな人なの? 好みの女のタイプは? 好きな食べ物は――」
「あー……一気に喋ったらわかんないんだが……」
「あ、ごめん……」
「そうだな、強斎は――」


 これが、大地と鈴の出会いであった。
 鈴は強斎の事を知ろうと大地に近づくのだが、次第に大地に興味を持つようになる。
 第一印象が強斎と一緒であった。


 そして、次の日――。


 強斎は、病院にいなかった。




「鈴は、強斎がいなくなった理由を知ってるか?」
「知らない……」
「そっか」
「知ってるの?」
「ああ、だけど、教えていいのだろうか?」
「教えて」
 グイっと大地に詰め寄る。
「わ、わかった。教えるから、少し離れてくれ」
「あ、ごめん……」
「はぁ……実はあいつ――」
 その言葉を聞いた途端、鈴は力が入らなくなってしまった。


 実はあいつ――――手術するんだよ。




 鈴の目の焦点は合わなくなっていた。
 強斎が手術する理由など、一つしか思いつかなかったから。
 その理由が、自分にあるから。
 鈴は何かに押しつぶされそうだった。
(あの時……強斎が異常が無いって言ったのは……嘘だった……の?)
 考えれば、考えるほど、鈴は何かに潰される。
(強斎の性格だったら、そんな重要な事も平気で嘘つきそうだしね)
 目に涙が溜まる。
 強斎に合わせる顔が無い。
 そう思い、一筋の涙を流した時。
 ぽんっ。
「え?」
 頭の上に、大地の手が置かれた。
「心配するな」
 その一言だけ言って、微笑んだ。
「鈴が何したかわからないが、あいつはケロッと戻ってくるさ。そういう奴だろ?」
「でも……」
「大丈夫だ、と言うか心配するだけ無駄だぞ?」
「え?」
「じきにわかる。だから、強斎が戻ってくるまでの間――」
 大地はしっかりと鈴の目を見てこう言った。
「俺が、お前を守る」
「……大地」


 この出来事がきっかけで、鈴は大地と普通に話すようになる。
 それからしばらくして、鈴と大地はとある事件に巻き込まれる。
 それがきっかけで、鈴は大地に恋をした。
 強斎と同じぐらいの想いで。


…………
……
……
 夏休みが終わり、鈴は学校に行く準備をする。
(結局、決められなかった……)
「はぁ……」とため息をつきながら、自分の髪を結び始める。
(結局、強斎のいる病院もわからなかったし、心の整理も出来なかった)
 学校へ行く支度をしてから、鈴は家を出る。
(私、強斎も大地も同じぐらい好き……。でも、二人は私のことどう思ってるんだろう?)
 途中で澪と出会ったので、一緒に登校する。
 ――そして。
 前方には強斎がいた。
(強斎……。私はどんな顔して話しかければ……)
 その時、鈴は大地の言葉を思い出す。
(うん、そうだよね。考えるより、まず声をかけなきゃ!)
 そして、鈴は声を出す。


「きょ――」
「強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 しかし、隣にいた澪が走り出した。
「え?」
 鈴はよくわかっていなかった。
 そして、そのまま時間は流れ……。


「強斎……! 強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 澪が強斎の背中に抱きつく。
「え? ちょ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] な、なんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「強斎……! 心配したんだよ……! 急に違う病院に行っちゃったりするんだから!」
「あ? 澪か? とりあえず、離れろ。見られてるからな」
「え?」
 そう言って、周りを確認し、サッと離れる澪。
 鈴は既にその近くにいて、澪の顔を見て思ってしまった。
 澪の顔は恥ずかしがっていたが、どこか満足し、幸せそうな顔をしていた。
 周りを気にしてるものの、チラチラと強斎を見てはにやけている。
 その時、鈴に衝撃が走った。
(そう……か……そうなのね……)
 澪は強斎に恋をしている。
 自分と同じ……いや、それ以上に。
 そして、初めて澪と話した時の言葉。
(強斎が……澪の守ってくれる人なんだね)
 すると、鈴の心は少し痛んだがどこかスッキリした。
(これじゃあ、大地を選ぶしかなくなったじゃない……)
 そんなことを思いながら、鈴は駆け出す。


「とうっ!」
「ぬわぁ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 鈴は強斎にドロップキックをかました。
「な、なにするんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「それはこっちのセリフよ! どれだけ心配かけさせたの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ちょ、ちょっと。鈴……」
「澪は少し黙ってて! 強斎!」
「ど、どうした? てか、お前本当に鈴か?」
「澪に謝りなさい! 後、私は正真正銘、羽田鈴よ」
「そうか……? てか、どこに謝る要素が――」
「いいから! 心配かけたんでしょうが!」
(私のせいなんだけどね!)
「心配って……」
 すると、澪は少し涙目になった。
「ほんと……心配したんだから……!」
「ちょ、何故に泣き出す[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 一段落したところで、鈴は一言入れて、教室に向かう。
 その時、鈴の通った道に数滴染みが出来ていたことには、誰も気が付かなかった。


[#ここから6字下げ]
ちょっと無理矢理終わらせ過ぎちゃいましたかね?
ついでに言うと、強斎が手術した理由は鈴と全く関係ありません。
今回は書く時間は結構ありました。
ですが、ついついゲームをやってしまって……
東方紅魔郷EXを上半分隠してプレイするっていう……
次からは本編に戻ります。お待たせしました。


自分はこれを書いている途中に思い出したんですよ……
自分が小説を書き始めた理由を!
まぁ、思い出したからといって、変わんないんですけどね
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]14話 想像魔術の力っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
馬鹿な少年の人気のなさが凄いw
鈴の話が、少し無理矢理だったので、じきに修正します
あとがきに強斎のステータス発表
[#ここで字下げ終わり]




「そう言えば、キョウサイ様」
 ミーシャが魔物を倒した時、強斎に話しかけた。
「なんだ?」
「キョウサイ様の想像魔術ってなんですか?」
 レイアも興味があるのか、じっと強斎を見つめた。
「そうだな……、まぁ、見てもらった方が早いだろ。ちょっと見られたら困るから、見通しの悪い……ここでいいか」
 そう言って、強斎は何をしようか考える。
(そう言えば、この魔術って存分に使ったことないな……。転移とかも場所がハッキリしてないと使えなかったし……ん? じゃぁ、ハッキリしていれば使えるのか?)
 そう思って、レイアの後ろをじっと見る。
「ご主人様? どうしたん――」
「ふむ、場所さえハッキリしていれば使えそうだな」
「わぁっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 いきなり後ろから声がかかったので、ビクッと飛び跳ねるレイア。少し体勢を崩したので、強斎が支えた。
「あ、ありがとうございます」
「驚かせてしまったな」
「キョウサイ様?」
「どうした? ミーシャ?」
「早く、魔術を見せて下さい」
 少し不機嫌なミーシャが、何故かレイアを一瞥し、また強斎を見る。
「え? さっき見せたじゃんか」
「これくらいなら、いつもやってるじゃないですか」
「へ?」
「いっつも、一瞬で消えますよね?」
(あ、そっか……普通に移動してるだけなんだが、そう見えちゃうわけか……)
「あれは、普通に移動してるだけだ」
(そう言えば、消えて見えるって事は、速度とかどうなってるんだ? 服とか燃えてないよな……。移動の余波で何が起こってるってわけでもないし……。この世界の法則どうなっているんだ? …………法則?)
 急に真剣な顔になった強斎に、ミーシャとレイアは周囲を警戒し始める。
「キョウサイ様、どうしましたか?」
 しかし、強斎は聞こえていないのか、その言葉に反応しない。
(この世界の法則は、地球とは全く違うと言っていい……。俺がスキルを手に入れたとき、一瞬で頭の中にスキル一覧を見せるなんて、地球では無理だったはずだ。それに、IDがどうとかも言っていた。そして、俺のIDは不明……。この世界の人では無いから……っ!)
 そこで、強斎が目を見開いた。
 そして――。
「そうか……」
「「え?」」
 二人は強斎の心配をして、声をかけようとしているのだが、何故かためらった。
「ふふっ……ははは……[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
(そうだ、俺はこの世界の人間じゃない……って事は、この世界の法則をある程度無視できるかもしれない!)
 そして、強斎は考えた。
(恐らく、俺は一つのプレイヤーだ……。だが、可能なデバッグモードを探すことは出来る……!)
 ニヤニヤしだす強斎に、本格的にやばいんじゃないかと考える二人。
(そう、この世界はゲームに近い|世界《ファンタジー》……! そして、ゲームにあるものと言ったら……)
 強斎は頭の中でとあるものを、懸命に想像する。
 そして――。
(やっぱり、想像魔術はすげぇや……。スキルや属性に関するバグは使えなかったけど……)
 強斎は頭の中に出てきたそれを見て、心が躍る。
(それ以外だったら、自由度が高いぜ……!)
 強斎が作ったそれ……。




 ――――メニューだ。




(しかし、セーブ&ロードは不可能か……。まぁ、やり直しが効くオンラインゲームなんて無いからな、それはしょうがないか……。だが、この機能はあって良かったぜ……)
 強斎はメニューのとある機能を見て、満足気に頷く。
(やっぱり、マップがないとな! ……だが、このマップ少し不便だな……。俺が思い描いたマップはこの世界全体のマップだったんだが……)
 そう、このマップは、強斎を中心に半径1kmしかマッピングされていない。
(要するに、ちゃんとマッピングしろってことか。まぁ、いい。この機能があれば……)
 強斎はマップのとある場所を見つめ、そこに転移する。
(やはり、マッピングした場所なら、移動可能っと……、しっかり半径1km上書きでマッピングされてるし、これも問題ない)
 そうして、先ほどの場所に戻る。
 ミーシャとレイアが物凄くアタフタしていたが、強斎は気がつかない。
(マップの他には……よし、スキルの説明とかも書いてある……。想像魔術マジ便利)
 そこで、強斎は何となくスキルの『レベルアップ時ステータス倍』の説明を読んだ。


『必要経験値を一〇倍する代わりに、レベルアップした時、LUK以外の数値が倍になる。一定のレベルまで上がると、新スキル取得可能:未取得』
(相変わらず、説明が雑だが……新スキル? なんだそれは?)
 そう、考えたところで、強斎の耳にやっとミーシャの声が届いた。


「……どうしたんだ?」
「やっと戻って来てくれましたか!」
「ご主人様が急におかしくなったので、物凄く心配したんです!」
「ん? ああ、すまなかった」
「で、キョウサイ様は何をやっていたんです?」
(恐らく、メニューの説明をしても、こいつら、わかんないだろうな……)
 強斎はそう結論を出し、説明を省いた。
「ちょっと、やってみたいことをな」
「「?」」
「とりあえず、俺の魔術見せてやろう」
 そう言って、強斎はあるものを念じる。
(この魔術は物を作ることは出来ない。しかし法則をある程度無視できるのは実験済みだ……。だから、この魔術の穴をつく!)
 強斎は以前ゲームで見た、とある技を思い浮かべる。
(魔力で形を作り、そこに光を集める……。いくぜ! 白色だけど、スピア・ザ・グングニル!)
 五億程のMPで作られた4m級の槍が強斎の手に出てくる。
(ふっ、効果付属まで出来るから、張り切ってしまった。光槍と名付けよう)
 強斎はめんどくさがって、この光槍の解析をし忘れていた。
 光槍の解析結果はこうである。

光槍(時間消滅) |ULGR《アルティメットレジェンドレア》
STR100万以上で重さ〇・八倍
STR50万~百万で重さ一・〇倍
STR30万~五十万で重さ三・〇倍
STR10万~三〇で重さ一〇・〇倍
STR5万~十万で重さ五〇・〇倍
STR4万九九九九以下装備不可
全属性付属
不死属性殺傷可能
弱体化不可
吸収不可
反射不可
命中補正
クリティカル補正
神が作ったとしか言い様がない槍。
作成はこの世界にいる生き物では不可能。
扱うことすら困難と言える。
神話級武器を軽く凌駕するほどの重大禁忌指定兵器
重さは五億グラム

 物凄い物を作ってしまっていた。




「どうだ? これが俺の想像魔術だ。俺は光属性を持たないが、こういうのだって作れる」
「ご主人様?」
「どうした?」
「なんか、その武器から物凄いオーラを感じるのですが」
「気のせいだろ。持ってみるか?」
「あ、はい」
 そうして、強斎はレイアに光槍を手渡そうとするが……


 バチバチッ[#縦中横]!![#縦中横終わり]


 そんな音がして、レイアを弾いた。
「きゃっ!」
「大丈夫か[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「は、はい」
「そうか……。とにかく危ないから、俺が使ってみるわ」
「すみません」
「お前が謝ることはない」
 そう、レイアに微笑みかけて、誰もいない方向にひと振りする。




 ――――――災害が起きた。




 この日、大規模な自然破壊が起きたのであった。


「「「……」」」
 三人はしばし硬直して、今起きていることを判断する。
 そして、現実逃避を試みた。
 幸いであったのは、後方には余波が全くなかったことであろう。


「キョウサイ様。それは危険です。今すぐに処分してください」
「ああ、そうだな。この武器を使う人間が出てきてしまったら、世界が変わってしまう。良かったなレイア、この武器使えなくて」
「はい、ご主人様に迷惑かけたくありませんから」


 そして、強斎はこの後、大変な間違いをしてしまう。


「これは魔力でつくった武器だから、じきに消えるだろう」
 そう思い、投擲体勢に入る。
「キョウサイ様[#縦中横]!![#縦中横終わり] それは――」


 ――遅かった。


「せいっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎は斜め上空におもっきり投げた。
 こうして、光槍は一瞬で消えた。


「キョウサイ様! 何やってんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「え?」
「あれが、もし地面に刺さったら大変なことになりますよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] しかも斜めに投げてしまって! あれだと、土地が高い場所に突き刺さります!」
「あ……。まぁ、時間で消滅するから大丈夫だ」
「ほんとに、それが幸いですね……」
 この時、強斎の頭にレベルアップ音が鳴り響いたが、強斎は先ほどの自然破壊の時のレベルアップだと思い、特に気にしなかった。


    *




 ここは、人間が住んでいる場所から遠く離れた、通称竜の山脈。
 この世界の竜はトカゲのような形をしている。
 そして、この竜の山脈には人間で言う王国が存在する。
 そして、その中にある一つの王国をまとめる黒竜王は自分に絶対的な防御の自信があった。
 その慢心故に、黒竜王は無防備に寝ていたのである。
 そして、この眠りは黒竜王の永遠の眠りでもあった。
 突如、何かが黒竜王にあたり、黒竜王は粉々に砕け散ってしまった。
 とある証言によると、光の槍だったとあるが、そこには槍すらなかったという……。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しています!
特に、魔術名と魔物名と武器名[#縦中横]!![#縦中横終わり]
文章にして思っている事を伝えるってほんと難しいですね……
いつか鈴と大地のストーリーを書こうと思います
あれだけですと、鈴が大地に速攻で惚れた感じだったので
黒竜王を倒したのは強斎の投げた光槍です
光槍は新レアです
ステータス貼ります、数値は気持ち悪くなるかもなので、飛ばして結構です。見たい方はどうぞ。
それ以外の方はとりあえず、強いと思ってください

 キョウサイ・タカナシ
LV122
HP 一八六〇|澗《かん》九一九一|溝《こう》九四〇九|穣《じょう》八八八二|予《じょ》二二二〇|垓《がい》六五三二|京《けい》九八八四兆三九二四億八二四〇万六四〇〇/
一八六〇澗九一九一溝九四〇九穣八八八二予二二二〇垓六五三二京九八八四兆三九二四億八二四〇万六四〇〇
MP 七七〇九澗五二二三溝七五五五穣二五一二予〇六二八垓四二〇八京〇九四九兆六二五四億九八五四万〇八〇〇/
七七〇九澗五二二三溝七五五五穣二五一二予〇六二八垓四二〇八京〇九四九兆六二五九億九八五四万〇八〇〇
STR 二一二澗六七六四溝七九三二穣五五八六予五三九六垓六四六〇京九一二九兆六四四八億五五一三万二一六〇
DEX 二三九澗二六一〇溝三九二四穣一二八四予八五七一垓二二六八京五二七〇兆八五〇四億六二〇二万三六八〇
VIT 一八六澗〇九一九溝一九四〇穣九八八八予二二二二垓〇六五三京二九八八兆四三九二億四八二四万〇六四〇
INT 二三九澗二六一〇溝三九二四穣一二八四予八五七一垓二二六八京五二七〇兆八五〇四億六二〇二万三六八〇
AGI 二一二澗六七六四溝七九三二穣五五八六予五三九六垓六四六〇京九一二九兆六四四八億五五一三万二一六〇
MND 一五六八澗四八九〇溝三五〇二穣六二〇〇予七三〇〇垓二六四九京二三三一兆一三〇八億〇六五九万九六八〇
LUK 五〇〇
スキル
言葉理解
超解析
剣術LV9
刀術LV8
二刀流LV2
細剣術LV1
投擲LV5
大槌術LV3
棒術LV6
体術LV6
槍術LV7
弓術LV7
盾LV6
大盾LV2
威圧LV5
竜の威圧波動LV84
調教LV82
隠蔽LV2
解析LV2
料理LV6
潜水LV2
火属性LV3
水属性LV5
風属性LV5
闇属性LV3
状態異常耐性LV4
MP回復速度上昇LV6
HP回復速度上昇LV7
アイテムボックス
超隠蔽
スキル強奪
レベルアップ時ステータス倍
眷属ステータス分配
眷属スキル分配
必要経験値一/一〇〇
属性
火・水・風・闇
|想像魔術《SPユニーク》


竜関係のスキルは竜を倒したことにより、その竜より強いと判断され追加されました
竜殺しはこのスキルを全員持っています
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]15話 竜の威圧波動っぽい[#中見出し終わり]






「うあぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「「どうしました[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 急に叫びだし膝をついた強斎に、心配する目を向けるミーシャとレイア。
「まさか、ご主人様でも耐え切れなくなる程の状態異常ですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「お、落ち着きなさいレイア! キョウサイ様のMNDを覆す状態異常の使い手なんて、この世界にはいないはずです!」
「お、お前こそ落ち着け! このご主人の姿を見てみろ! 明らかに混乱か恐怖、そのどちらかにかかっている! とりあえず、状態異常を治すポーションを……」
「キョウサイ様でもこうなってしまう状態異常にHNの万能ポーションが効くとは思いませんが……。気休めにはなるでしょう!」
 ミーシャはもしもの時のために渡されたHNの万能ポーションを取り出す。


 アイテムにもレア度があり、このレア度に応じて効果が違う。
 しかし、同じレア度でも適性がある。
 たとえば毒状態の時、HNの毒消しポーションと万能ポーションでは毒消しポーションの方が効き易い。
 しかし、万能ポーションは効果は弱いがどの状態異常にも効くので使い勝手がいい。


「ミーシャ! 早くするんだ! ご主人が頭を抱えて震えだした!」
「そ、そんな[#縦中横]!![#縦中横終わり] あのキョウサイ様のステータスで、ここまで抵抗なく状態異常にするなんて!」
 ミーシャはポーションを頭からぶっかけた。
 ポーションはかけるとスっと消えるので、服が濡れることはない。
 しかし、強斎に変化は無かった。
「クソッ! あの時から症状は始まっていたのに……! 私は気がつけなかった!」
「レイア[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 心当たりが[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「さっき、ご主人が急に笑い出し光の槍を作って森を半壊させただろう[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 普段のご主人はそんなことはしない……」
 レイアはガクッと膝をつき足元にポタポタと目元から出る雫を落とし始めた。
「私は……ご主人の変化に気が付けていなかった……一生愛すと決めていたのに……」
 力いっぱい地を殴り、悔しさを最大限に表している。
 すると、ミーシャは何かを思い立ったように苦悶の表情を浮かべた。
「レイア……あなたの責任ではありません……私もキョウサイ様に愛を誓いました……なのに、あの時に気がつけなかっ――あの時?」
 すると、ミーシャは何か考え込むような仕草を一瞬して、怒りの表情に変える。
「もしかしたら犯人がわかったのかもしれません」
「……なんだと?」
 レイアは目元を拭い、勢いよく立ち上がった。
「レイア、思い出してみなさい。キョウサイ様が本当におかしくなった時を」
「…………っ[#縦中横]!![#縦中横終わり] まさか[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「そう、あのクズに会ってからです。最初は何を言われても動じず、無償で逃した心の広い方で納得していましたが……」
「ああ、私もそれで納得していたが……確かにおかしいな」
「やはり聞いていたんですね」
「まぁ、な。本当に優しい方だよ、ご主人は」
「ええ、定期的に所持金の確認をして、頭を抱えるキョウサイ様を見て何度心が痛んだことか……」
「私も同感だ。本来なら奴隷である私たちはただの道具に過ぎないはずなのに、裕福な暮らしをさせてもらって……!」
「遠慮をすると『命令』まで使うぐらいで……しかも私たちの体調まで、しっかりと把握する程、気を使っていました……」
「ああ、しかも金銭のことを私たちに一度も愚痴をこぼしていない……。私を買った時、金貨五枚という大金を払って痛かったはずだ……」
 二人の口からは本音しか出てきていない。
「確かに、それからキョウサイ様はいつもより依頼を多く受けるようになりました……レイアを買ってから一週間で街を出たのも、金銭的にきつかったのでしょうね」
「それを悟られないように武器を持っているのに、新たな武器まで買ってもらって……かなり厳しいはずだったのに」
「それなのに……」
「「あのクズから金銭を巻き上げないのはおかしい」」
「その後のキョウサイ様の行動もおかしかったです、急に戦いたい等言い出して……」
「やはり、あのクズが何かしたとしか考えられないか……」
「ええ、もしかしたらキョウサイ様の内部に何かを入れたのかもしれませんね」
 二人共既に冷静な思考をしていなかった。
 確かに外部からより、内部からの方が状態異常になり易いが、強斎のステータスではそれもであり得ない。
 そう、なのに何故強斎がこうなってしまっているのかというと……。
(ステータスが! ステータスが何かおかしい[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 自分のステータスに悩んでいた。
(なんだよ竜の威圧波動って! そんなスキル奪ってねぇよ! しかもレベルクソ高ぇ[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 更に「うおぉぉぉぉ……」と呻く。
 その言葉に二人は反応してしまった。
「っ! キョウサイ様……」
「ここまで弱っているご主人に何も出来ないなんて……」
 ミーシャは強斎をやさしく包む。
「すみません、私に出来ることはこのぐらいです。キョウサイ様が動かないならば、私は一生ここから動きません」
 レイアもそれに続いた。
「ご主人様、私もここにいます。怖くなんてありません」
 強斎はというと……。
(んー……この竜の威圧波動って、威圧とどんな違いがあるか気になるな……使ってみようかな? ってあれ?)
 この状況にやっと気がついた様子である。
 ついでに説明する、と二人の推理は間違っている部分がいくつかある。
 強斎は基本的にお金が好きなのだ。
 だから、定期的に自分の所持金を日本円で換算して、頭を抱えてニヤニヤしている。
 次に、レイアを買って一週間で宿を出たのは、強斎に目的地がある為だ。
 本来は直ぐに出て行くところ、ミーシャと連携を取れる用に一週間の期間を与えたのだ。
 武器は全く無理して買っていない。その後に盗賊から取ってきた武器があったことを思い出して、少し勿体無いと感じたぐらいだ。
 アルノを逃したのは単にめんどくさい事と、大してお金を持っていないだろうとの判断だ。


「お前ら、何やっているんだ?」
「キョウサイ様[#縦中横]!![#縦中横終わり]」「ご主人様[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 今にも泣きそうな顔で二人は抱き締める。
「お帰りなさい! お帰りなさいませ! キョウサイ様[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「ご主人様! ご主人様ぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」
 よくわかっていない様子だが、とりあえず二人の頭を撫でて考える。
(ああー……ずっと考え事してたもんな……)
 そして、言ってしまう。
「ああ、ただいま」
 遂に二人は泣き出してしまった。
(えー……)
 よくわかっていない強斎は、とりあえず二人をそのままにした。




 少し経ってから、ミーシャが強斎に言葉をかけた。
「ぐすっ……キョウサイ様がこうなってしまった原因はやはり|あれ《クズ》が原因ですか?」
 強斎はなぜステータスの事を知っているか疑問だったが、地面に穴が(レイアが殴った)空いていることを確認すると、無意識に自分が殴ってしまっていたと勘違いし……。
「ああ、どうやらあれ(光槍)が原因みたいだ」
 そこで、強斎は竜の威圧波動の効果を知りたくなり、静かに立ち上がり上空を飛んでいた鳥に使った。
 二人には、あのクズに何かを向けているのだろうと思ったが……。
 突如、二人にも異変が起こった。
「「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 それはもう、大変だった。
 竜の威圧波動は単独竜殺しに与えられるスキルであり、その竜と同等の威圧を出すことができる。
 その威圧に比例して大抵のものは従ってしまうため、調教スキルも手に入るわけだが。




 さて、強斎が出している竜の威圧波動は黒竜王を倒した時に手に入ったスキル。
 黒竜王と同等の威圧を、ただの鳥に向けたのだ。
 幸い、強斎は慣れていないのと遊び半分でやったため、一/二〇〇以下程度の効果しか発揮できていない。
 しかし、一/二〇〇以下で十分であった。


 そもそも威圧LVとは何か。
 レベルが高ければ高いほど、威圧に効果が出るのは当たり前。
 しかし、威圧LVだけではなくLUK以外の平均ステータスにも比例するのだ。
 おわかりいただけたであろうか?
 もう、大変である。


 飛んでいた鳥は真下に落下し、その周りだけシンと静かになってしまった。
 強斎の周りもその効果があるのか、虫一匹動けなくなっている。
 ミーシャとレイアも強斎の仲間で信頼性も高く、高い好意を抱いているはずなのに、息をすることすら困難だ。
 普通に気絶ものである。
 一/二〇〇以下の余波でこの威力。
 では、この威圧を受けた鳥は?
 それは想像にお任せしよう。


「あ……あ……」
 何とかレイアは少しだけ声を出せるようだが、全く動けない。
 ミーシャは息をするだけで精一杯だ。
 絶対的な存在。
 無意識のうちに、膝をつき頭を下げてしまう。
 どうやっても勝てないと認識させられる。
 意識あるものは、意識を無くしてしまったら失礼と本能で理解させられる。
 それ程の威圧であった。


 そして、ミーシャとレイアは出来る限りの思考で考える。


 あのクズは死んだと。
 この世で、この方に勝てる存在などいないと。
 この方に愛されている自分は幸せ者だと。


(うわー……あの鳥落ちちゃったよ……)
 強斎は後ろの二人の様子に気がついていない。
(でも、鳥だからこんなもんか)
 明らかにオーバーキルです。


 実験が終了し、強斎が竜の威圧波動をやめた途端、ミーシャとレイアは両手両膝をつき、汗だくになっていた。
「お、お前らどうしたんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「はぁ……はぁ……。きょ、キョウサイ様……」
 ミーシャが強斎を見つめながら言う。
「ど、どうした?」
「私たちは……ご主人様に見合わないかもしれません……ですが」
 次はレイアだ。
「「一生愛させて下さい」」
 強斎はその言葉に驚くもの、しっかりと冷静に判断し、答えた。
「ああ、俺はお前らを守り、愛させてもらうよ」


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しています!
特に魔物名と魔術名と武器防具名!
今の強斎が持っている好感
ミーシャ=レイア〉勇者達〉〉〉スピッツ〉その他〉〉〉〉〉〉〉アルノ
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]16話 眷属スキルっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
いつの間にか百万PV!
いつもありがとうございます!
[#ここで字下げ終わり]




(っと、そう言えば、また何かスキル増えていたな)
 強斎はステータスに追加された新スキルをメニューで見てみる。
『眷属ステータス分配自分に絶対に逆らえない契約を交わし、尚且つ主人の信頼度と忠誠心が一定以上である四人が対象。このスキルを持つ者のLUK以外のステータスの一/十万以下を、それぞれ分け与えることが出来る。ただし、与えた場合元に戻すことは不可能。〇/四対象有り』
『眷属スキル分配自分に絶対に逆らえない契約を交わし、尚且つ主人の信頼度と忠誠心が一定以上である四人が対象。このスキルを持つ者のスキルを与えることが出来る。ただし、与えた場合そのスキルは消滅する〇/四対象有り』


(あれ? これって俺のスキルと合わしたら、ミーシャとレイア最強じゃね?)
 とんでもないスキルを手に入れたようだ。
(ってか、いつの間にこんなスキル手に入ったんだ? ……あ、まさか)
 そう言って、強斎はとあるスキルをメニューで見てみる。
『レベルアップ時ステータス倍必要経験値を一〇倍する代わりに、レベルアップした時、LUK以外の数値が倍になる。一定のレベルまで上がると、新スキル取得可能:眷属ステータス分配・眷属スキル分配・未取得』


(やっぱりこれか……てか、まだ未取得ってあるのかよ……)
 若干苦笑いをする強斎に、ミーシャが話しかけた。
「キョウサイ様、どうしました?」
「いや、ちょっと……な……」
 そこで、改めてミーシャとレイアを見る強斎。
「「?」」
(対象有りって、こいつらしかいねぇよな……)
「ちょっと二人共、嫌だったら断っていいんだが……」
 そこで、二人は真剣な顔つきになる。
「二人で、とあることを実験したい」
「実験……ですか?」
「ご主人様がそのような事を言われるなんて、珍しいですね」
 ミーシャは心配そうな顔をして、レイアは何とも言えない顔をしている。
「ああ、もしかしたら二人に異常が起きてしまうから、嫌だったら降りていい」
「キョウサイ様、それはどういった実験なのですか?」
「ああ、それは――」
 ゴクッと息を飲む二人。
 いつもの強斎なら、絶対に二人を実験になんて使わないことを、ミーシャとレイアは理解している。
 自分たちは、本来の使い方よりかなり丁重に扱われていると認識するほどに、大切にさせて貰っている。
 夜はいつも壊されるが……。
 そんな強斎が実験をするというのだ。
 やはり、不安になるだろう。
 そして、強斎のその答えは――――。


「――俺と一緒になる実験かな?」
「「やります[#縦中横]!![#縦中横終わり]」」
 二人は言ってる意味がよくわからなかったが、強斎により近づきたいと言う一心で即答した。
「お、おう? ほんとにいいのか? 体に異変が起きるかも知れないのだぞ?」
「大丈夫です、キョウサイ様と一緒になるのに、どこが変化しても異変なんてありえませんから」
「さっさと始めましょう、脱げばいいんですか? 脱げばいいんですね?」
 そう言ってレイアが脱ぎ始める。
 それに続き、ミーシャも脱ごうとする。
「ちょ、ちょっと待て! こんな場所で脱ぐな!」
「大丈夫です、ご主人様。周りに誰もいませんし……。それに、見られるんじゃないかっていうゾクゾク感も……」
「私はキョウサイ様以外に見られるのは嫌ですが、キョウサイ様が今すぐ一緒になると言うならば……」
 そう言って更に脱ごうとする二人。
 それを、強斎は何とか止めた。
「大丈夫だ、脱がなくてもいい。それに、レイア。そういうプレイが好きならいつかやってやる」
「本当ですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ああ、だから今は脱ぐな」
 そして二人は着直した。




「よし、二人共。とりあえず目をつむってくれ」
「「はい」」
 そう言って目をつむる二人。
(さて、どうしようか……何となく目をつむらせたが……んー……まぁ、いいや。眷属ステータス分配!)
 そう強く念じると、頭の中に何かが流れ込んできた。
『眷属ステータス分配対象ミーシャレイア・アンジェリーク』
(おおー……出てきたな……とりあえず、二人にHPとMPは五百万、それ以外は五十万ずつ与えるか)
 そう念じると、二人は急に膝をついた。


「だ、大丈夫か[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「す、すみませんご主人様……何故か急に脱力感が……」
 そして、二人は倒れてしまった。


 …………
 ……
 ……
(一気にステータス与え過ぎたかな……俺の場合は、なんにもなかったんだが……。まぁ、異世界人だし、こういう反動は俺にはないのかもな)
 そんなことを考えていると、レイアが起きた。
「大丈夫か?」
「あ、ご主人様……。私たちは一体……」
「ああ、済まないな。俺のせいだと思う」
「いえ、謝らないでください。それで、実験はどうでした?」
「ああ、大成功だ」
「それは良かったです。それで、どのように変わったのですか?」
「自分のステータスを見てみろ」
「? …………[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ご、ご主人様[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
「ああ、それが今回の実験の成果だ」
 #
 レイア・アンジェリーク
 LV41
 HP 三九五六六八/五〇〇〇七〇二
 MP 七三四七五/五〇〇〇一六一
 STR 五〇三〇一二
 DEX 五〇〇〇九三
 VIT 五〇〇一〇六
 INT 五〇〇〇五二
 AGI 五〇〇四一九
 MND 五〇〇一〇四
 LUK 三〇
 スキル
 攻撃力異上昇
 剣術LV3
 大鎚術LV7
 体術LV6
 威圧LV6
 HP自動回復速度上昇LV6
 限界突破
 属性
 完全攻撃型(ユニーク)
 #


「どうだ? 気に入ったか?」
「っ! はいっ[#縦中横]!![#縦中横終わり] ありがとうございます[#縦中横]!![#縦中横終わり] ですが……」
「どうした?」
「こんなステータスを見られて大丈夫なんでしようか?」
「あー……その辺はミーシャが起きたら説明しよう」
「はい!」


 ミーシャが起きたのは夜だった。


「キョウサイ様?」
「ん、起きたか。もう大丈夫か?」
「はい、ですが私はどうして……」
「それは、俺の実験のせいだ。済まなかったな」
「いえ、私が望んだことですから。それで、実験はどうでした?」
「ああ、成功だ。自分のステータスを見てみろ」
「? …………[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」


 #
 ミーシャ
 LV41
 HP 三六八五四二/五〇〇〇三七九
 MP 三一〇四三九/五〇〇〇二一四
 STR 五〇〇一〇〇
 DEX 五〇〇一一九
 VIT 五〇〇〇八二
 INT 五〇〇〇七九
 AGI 五〇〇一二五
 MND 五〇〇〇七五
 LUK 二〇
 スキル
 体術LV6
 剣術LV3
 短剣LV7
 投擲LV4
 隠蔽LV1
 料理LV4
 土属性LV1
 属性
 土
 #


「キョウサイ様……[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「気に入ってくれたか?」
「はい[#縦中横]!![#縦中横終わり] ですが……」
「見られてもいいのかと?」
「はい、私は一応隠蔽スキルがありますが、まだLV1ですし……」
「その辺を話そうと思ってな。って事で、レイア」
「はい」
「集めてくれたか?」
「はい、ご主人様のくれたステータスのおかげで、容易に」
 レイアは巨大な袋を二つ、強斎の目の前に置いた。
「よし、じゃあ二人共。もう一度目をつむってくれ」
「「はい」」
 目をつむったのを確認してから、強斎は袋を一つの開ける。
 そこには、気持ち悪くなるほどの量のコウモリがいた。
(うわー……すげぇ量……)
 強斎はこのコウモリのスキルを全て奪う。
(コウモリ一匹につき、隠蔽LV5か……どうなるのやら……)
 こうして、全てのコウモリのスキルを奪い取った。
(これからは、普通のコウモリとして生きろよ……)
 魔物であったようだ。


 一つの袋に入っていたコウモリを逃がし、自分のステータスを見る。
(ふむ、隠蔽LV64か……これくらいでいいだろう)
 これを、ミーシャに与える。
(ついでに、手に入れた闇属性LV44もあげるか……あ、それと――)
 そんなことを色々としながら、もう一つの袋も開ける。
(さぁ、お前らも普通のコウモリになってもらうぞ)
 …………
 ……
 ……
「終わったぞ」
 スっと目を開ける二人。
「とりあえず、二人には隠蔽スキルを渡した。同レベル以上の解析じゃない限りバレないだろう」
「キョウサイ様……」
「どうした?」
「いえ……なにか色々とスキルが増えているのですが……」
「ああ、二人にプレゼントだ。じきにアイテムボックスも渡そうと思う」
「「……」」
「ん?」
「ご主人様、もう寝ましょう」
「あ、ああ」
「私は今まで寝てたので、見張りをやっときます」
「そうか、じゃあ頼むわ」
「「おやすみなさい」」
 強斎は流れるままに、寝かされた。
 …………
 ……
 ……
「ミーシャ、今いいか?」
 夜遅く、強斎が寝付いた時にレイアはミーシャの横に座った。
「レイアじゃない。どうしたの?」
「わかってるくせに、よく言うわね」
 ミーシャは少し笑ったあと、本題に入った。
「それで?」
「ご主人の事なんだけど……」
「キョウサイ様に不満でもあるの?」
「それは絶対にありえない。その逆だ……」
「と、言うと?」
 レイアは少し溜めてから言葉を続けた。
「何で、私たちに力を与えたのだと思う?」
「そんなの、キョウサイ様の性格を考えれば、直ぐにわかるでしょう?」
「私たちを安心させるため……だろ?」
「それ以外に考えが?」
「それが、一番大きい理由なんだが……。ご主人の性格を考えると、もう一つある可能性が出てきてな……」
「言葉がおかしいわよ」
「ちっ……うるさいな……」
「で、その可能性って?」
 すると、レイアは少し顔を赤くし戸惑った。
「なによ、さっさと言いなさい」
「わ、わかってる! ……その、夜のご奉仕の事なんだ……」
「っ! ……やっぱりレイアも……。確かに、そう考えると私たちのステータスアップの理由の一つに繋がるわね」
「ああ、そう考えると、不安でな……。興味をなくされるのが怖いのだ」
「キョウサイ様は、そんなこと無いと思うけど」
「なぜそう思う?」
 ミーシャは何かを思い出すように、夜空を見る。
「私ってさ、元々レイアより全然ステータス低いじゃん?」
「……」
「でさ、キョウサイ様は、もう、出会った頃から規格外だったの。私はその頃レベルも低いし、直ぐに壊れちゃうし……。でも、今も変わらず愛してくれているわよ?」
「それはミーシャが気に入られてるわけで……」
「レイアって意外に弱いのね?」
 そう言って、ミーシャはレイアの顔を見る。
「なっ……」
「ステータス云々じゃなくて、精神的に。あんなイケイケ型だったのに、不安になるとこうなっちゃうなんて」
「それは……」
「大丈夫よ、あなたは捨てられない。もし捨てられるなら、最初に私かな?」
「何故そう思う?」
「嫌味か」
「は?」
「レイアは自分の美貌と胸に誇りを持ちなさい」
「お前も、人のこと言えんぞ? 確かに、胸は私より小さいが……」
「うっさい。レイアが買われる時、どれだけ私は不安になったかわかる?」
「…………ああ、何となく」
「そ、ならいいわ」
「ご主人は、また新しく奴隷を買うのだろうか?」
「それは私にもわからない。私を買ったのは、記憶喪失のせいで無くなった常識を知るため。レイアを買ったのは私を安心させるため。次はどんな理由で買うのかしらね」
「おい、なにげに、ミーシャが私よりご主人に気に入られている風に言うんじゃない」
「事実じゃない」
「さっきまでは、自分が先に捨てられるとか言ってたのによ」
「そうだっけ?」
「あー……もういいや」
 そう言って、帰っていくレイア。
「ちょっと待ちなさい」
「なんだよ」
「話相手がいなくてつまらなかったの、朝まで付き合いなさい」
 レイアは少し考えてから、別に眠くないからという理由で了承した。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しております!
特に魔物名と魔術名と武器名!
さて、パーティー強化しましたね~
これからどうなってしまうのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
そして、奴隷は増えるのだろうか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
感想待ってます!
次の奴隷はロリにしy……ゲフンゲフン
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]17話 決意っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
ちょいとグロ入ります
[#ここで字下げ終わり]




「で、どうします? キョウサイ様」
「ああ、半殺しでいいぞ」
「半殺しですか?」
「ミーシャとレイアはまず、手加減に慣れてもらわないとな」
「「わかりました」」


 強斎達は今、囲まれている。




 ――――盗賊に。




「女さえ置いていけば、楽に殺してや――」
「それ以上喋るな、クズが」
 レイアが、威圧で盗賊一行を怯ませる。
「この程度で動けなくなる実力でご主人に挑むなど、笑止千万!」
「良かったですね、ご主人様の命令であなたたちは半殺しで済みますから」


 ここからは、ただのワンサイドゲームであった……。
…………
……
……
「平均LV25の盗賊六人を無力化に一一秒か……一桁いけると良かったんだけどな」
「すみません、キョウサイ様。どうも手加減が難しくて……」
「まぁ、しょうがないさ。これから慣れていこう」
「「はい」」
「さて、お前らにご褒美だ!」
 そう言って、強斎は眷属スキル分配を使って、とあるものを渡した。
「ちょうど、こいつらの中にアイテムボックス持ちが二人いたからな。これで、お前らもアイテムボックス持ちだ!」
「ありがとうございます! ご主人様! ……で、こいつらどうするんですか?」
 その言葉に対して、強斎は顔を曇らせた。
 この世界に来てから二度、この顔をした。
「あ、え……すみません……ご主人様」
「あ、いや……済まない。ちょっと、向こう行っててくれるか?」
「ご主人様……」
「…………キョウサイ様」
「……」
「何をするのかわかりませんが、私はキョウサイ様の奴隷です。そして、どんなことがあっても、気持ちは変わりません。ずっと愛し続けます」
「わ、私もです! ご主人様を好きになることはあっても、嫌いになることはありませんから……だから――」
 そこで、強斎は二人の頭の上にポンと手を当てる。
「……ありがとう。それじゃあ、少し向こうに行っててくれるか?」
「「はい」」
 そう言って、強斎は二人をこの場から立ち去らした。




 二人が立ち去ったのを確認して、強斎は刀を取り出す。
(恐らく、これで逃げてしまったら、これからもずっと逃げ続けるだろうな……)
 そして、刀を一人の盗賊の首筋に当てる。
(俺は、今までこの行為を避けてきた。どんなに高いステータスを持っていても、怖かった。でも……)
 ギュッと目をつむる。
(今、引き金をひかなければ、俺はあいつらを守れない……!)
 思いっきり目を見開き、強斎は刀を振り抜いた。
 とある人物達を思い浮かべながら。
 その数瞬後には盗賊の首が落ちた。
 その姿を見て、強斎にとある感情が込上がってきた。
(人殺しって、気持ちいいもんじゃねぇな……。それに……)
 強斎はこの世界にいる友人達に向けて、苦笑いをした。
(怒るだろうな……。あいつらは人が良すぎるからな……。ますます会いにくくなっちまったな)
 強斎は内心謝罪しつつ、残りの盗賊を見る。
(俺は、既に人殺しをした。だから、もう躊躇わない)


 こうして、強斎は人生で二度目の人殺しをした。


…………
……
……


「ご主人様……辛そう」
「ええ、私もあんなに辛そうなキョウサイ様は初めてです」
 強斎に立ち去れとの命令を受けたが、見るなとの命令を受けていなかったので、ミーシャとレイアは強斎が何をするのかを見ていたのである。
「まさか、私たちに人殺しするところを見られたく無かったと言う理由だったなんて……」
 レイアがそう呟く。
「私は、薄々勘付いていたわ。アレを見てから様子が変だったもの」
 そう言って、苦笑いをするミーシャ。
「あの時は凄かったな……。強化されたはずの私たちが、ご主人の威圧の余波で、二秒と持たずに気を失ってしまったからな……」
…………
……
……


「これは……酷いな……」
 レイアがそれを見て、そう呟く。
「……」
「キョウサイ様?」
「なんでもない」
「そんな曇った顔をして、なんでもないわけありません。キョウサイ様のそんな顔、初めて見ます」
「そうだったか」
「はい。ですが、これ。どうしましょう……私も、同じ女として憎しみしか湧いてきませんが」
 そう言って、ミーシャはそれ……。何度も犯され、ボロ雑巾の様になっている女性を見た。
「もう、死んでいますね」
 レイアがそう言い、言葉を続けた。
「まだ臭が残ってますし、恐らく終わったばかりでしょう。魔物にも食べられていませんし」
「これは盗賊の仕業ですね。まだこの近くに――いましたね」
 周りにゾロゾロと盗賊が出てきた。
「へへっ! 今日は運がいいぜ! こんな上玉――」
「おい」
 今まで黙っていた強斎が、口を開いた。
「この女を殺したのはお前らか?」
「あ? こいつが勝手に死んだんだよ」
「もう一つ訊く。この女を強姦したのはお前らだな?」
「ああ、中々いい女だったぜ」
「そうか」
「だから、お前を殺して、後ろの女を――」
「死ね」
 強斎は今までにない怒りを放っていた。
 そして、一/二で竜の威圧波動を発動する。
 バタバタと倒れる盗賊たち。
 ミーシャとレイアもほんの少しだけ持ったが、直ぐに倒れてしまった。
 直ぐに、竜の威圧波動を解除し、喋っていた盗賊の頭を持ち上げる。
「どうして、俺がこんなに怒っているかわかるか? わからねぇよな」
 ぐしゃりと盗賊の頭を潰す。
 次にまた違う盗賊を拾い上げる。
「なんせ、俺にもわからないんだからな」
 近くにあった木に盗賊をぶつけて、木ごと盗賊の上半身を粉砕した。
 次々に盗賊を拾い、蹴散らしていく。
「俺は、あの女と喋ったこともない。というか一切知らない」
 自分の服が血で汚れるのも気にせずに、盗賊を殺していく。
「でもな、俺はあの女の姿をまともに見ることができねぇんだよ。確かにお前らは一人の女に対して犯し過ぎた。そのせいで、あの女は死んだ」
 最後の一人になったところで、強斎は一度行動を止めた。
「だけどな、それだけじゃねぇ……俺が怒っている理由はそれだけじゃねぇんだ!」
 強斎は最後の盗賊の頭を持ち、地面に叩きつけた。
「あの女を見ているとな[#縦中横]!![#縦中横終わり] あいつと……澪と重なるんだよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 何度も何度も地面に叩きつけた。
 そこには頭などなく、ただの肉の塊があったが、それでも叩きつけた。
「クソッ……なんでだ……なんでだ[#縦中横]!![#縦中横終わり] ……少し似ているだけなのに……種族すら違うのに……[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 だんだんと、叩く力が弱くなってくる。
「なんで……こんな気持ちにならなきゃいけないんだ……」
 強斎は手を止めて、周りを見渡す。
 足元にはクレーターが出来ていて、血の匂いが漂っている。
 そして、もう一度強姦された女性を見た。


 種族は犬。髪の色は茶色で長めのポニーテール。
 顔立ちは澪ほどではないが、整っている。
 だが、澪に似ていた。
 直ぐに見分けがつくが、それでも似ていた。
 強斎はゆっくりとその女性に歩み寄り……。


「済まない」


 そう言って、その女性を燃やした。


…………
……
……
「あの後、私たちが目を覚ました時は普通のご主人だったが……」
「ええ、何か変わってましたね」
「ああ」
「あれが、今回の決意のきっかけだったと言うことでしょうか」
「決意?」
「キョウサイ様は今までに人を殺していません。ですが、今回は殺しました。初めて人を殺すという事は何かしらの決意が必要なのですよ」
「ふーん……。ん? それだと、ミーシャは殺したことがあるのか?」
「ええ、ありますよ。と、言うよりレイアもでしょう?」
「ばれたか」
「当たり前です。さぁ、こんな物騒な話をしていると、キョウサイ様に怒られますよ」
 強斎が、二人の方に向かってきた。
「そうだな――」
「キョウサイ様!」「ご主人様!」
「「お帰りなさいませ!」」


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しております!
魔術名、魔物名、武器防具名とか特に!
何か、おかしいような気がする……
さて、強斎が澪に対して何か思い始めてきたんじゃないでしょうか?
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]18話 魘されてるっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
空いてしまいましたが、投稿です!
少し書き方を忘れてしまってました……
[#ここで字下げ終わり]




「キョウサイ様」
「なんだ?」
 もう、森も出るであろうというところで、野宿している強斎一行。
 そして、夜遅くミーシャとレイアが、見張りをしている強斎に話しかけた。
「キョウサイ様の目的とはなんですか?」
「私も気になっていました。ご主人様は、シッカ王国の城下町にたどり着いたところで、また旅に出るつもりですよね?」
(何故わかった[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 そう、強斎は何の目的もなく旅をしているわけではない。
 確かに、観光もしているが、本当の目的は――――。
(俺の目的か……。そうだよな……。俺の目的は地球に帰る事。その為に旅を……魔界を目指していた……だが)
 そこで、強斎はミーシャとレイアを見る。
(もしも、俺が帰ったらこいつらはどうするんだ?)
 強斎は今頃そのことに気がついた。
(いや、全く考えていなかったわけではないな。……俺が無意識に逃げていただけか)
 そこで、ため息を出す強斎。
 その行動に別の意味で解釈してしまった二人。
「違ってましたか?」
「いや、ミーシャ。確かにその通りだ。俺は城下町に着いてから、少ししてから旅に出る」
「では、さっきのため息は……」
「あれは、俺の無能さに呆れていたせいで、出たため息だ」
「ご主人様!」
 そこで、レイアが声をあげた。
「ご主人様、……もう、無理をしなくていいですよ。私たちは知っていますから」
 その言葉に対して、ミーシャは何か察したのか、強斎を力強く見つめた。
 強斎はというと……。
(え? 知ってる? 何が?)
 少し困惑していた。
 が、しかし、先ほどの会話から整理すると……。
 目的は何か→地球に帰る事だが、奴隷をどうするか考える→無理しなくていい、知っているから→異世界出身だと知っている
(いやいやいやいや! それはないだろう! そもそも、話したって信じないだろうし……いや、しかし、それ以外に……)
 そう、悩んだ時に、ミーシャが話し出した。
「失礼ながら、盗賊に襲われた時、キョウサイ様がトドメを刺す瞬間を拝見しました」
「っ!」
 そこで、強斎は不思議な感情に包まれた。
(なんだこれ……? 居心地が悪い……)
 その疑問に答えたのはミーシャだった。
「その様子だと、ご自分でも気がついていなかったのですね」
 さっきまで地球に戻るとしたら、奴隷をどうするか考えていた強斎だが、物凄く居心地が悪い感情に押しつぶされそうになり、考えを止めてしまっていた。
「キョウサイ様はあの時……私たちが気絶した時に、初めて盗賊を殺しましたよね?」
 どこか責めるような口調で言うミーシャ。
 少しレイアがミーシャを睨みつける。
 しかし、レイアの目線を無視してミーシャは話を続けた。
「キョウサイ様はそれを無意識に罪だと思っているようです」
「……罪?」
「ええ、自分で決めた罪です」
「……」
「気づいていないでしょうが、キョウサイ様はあれから時々、夜に魘されているのですよ。それがどれだけ私たちに、不安にさせるかわかりますか?」
 少し怒気を混ぜた口調で、ミーシャは淡々と喋る。
「……すまない」
 簡単に謝った強斎にミーシャが何か言おうとしたが、レイアがそれを止めた。
「レイア!」
「ミーシャの気持ちは十分にわかる。しかし、これ以上ご主人様を苦しめるのは私が許さない」
「だけど、この状態が続くとキョウサイ様が――」
「知ってる、だけど、一度苦しめたって変わらない」
「……」
「ご主人様」
 ミーシャが黙ったところで、レイアが話し始めた。
「ご主人様は確かに強いです。この世界で最も。ですが――――」
 その時、レイアは一瞬悲しそうな顔をして、強斎を見つめた。
「心は普通の優しい人間なんです。私たちは獣人なので、説得力がないと思いますが、人間の心は物凄く脆いです。ですから……」
 そこで、レイアは目元から一粒の雫を出し、すぐに拭ってからもう一度強斎を見つめた。
「辛い時は辛いって言ってください……。ミーシャも言いましたがご主人様が夜な夜な魘されるお姿を見て、私が正気でいられる自信がありません……。ご主人様が苦しんでるのに、何も出来ない苦しさ……私……私……どうにか……なってしまいます……」
 ポロポロと涙を流し始め、それを毎回拭うが、それでも止まらなかったので、レイアはしゃがんで手で顔を覆った。
 その行動に強斎はビックリしたが、同時にどこか楽になった気がした。
(俺は何やってんだか……)
 強斎はレイアの近くに寄って、そっと頭を撫でた。
「ありがとう、少し楽になった」
 そこで、強斎の背中に柔らかい感触が当たる。
「ミーシャ?」
「キョウサイ様。私も、物凄く心配したんですよ?」
 その言葉は少し涙声に近かった。
「そっか、済まなかったな」
 そこで、強斎は二人を抱き寄せた。
「二人共、ちょっと聞いてくれるか?」
 小さく頷く二人。
「俺はな、怖かったんだ。人を殺した自分が。お前らに嫌われることが。それ以外にあるんだが、うまく言えないな……。とにかく怖かった」
 そっと二人を離す。
「でも、お前らはそんな俺でも付いて来てくれた。そして――」
 そこで、強斎は苦笑いをした。
「これからも、ついてきてくれるか?」
 その後の二人の反応は当たり前だった。


…………
……
……
「キョウサイ様。もう魘されてないね」
「ああ、どこか安心したような顔だ」
 強斎の寝顔を見て、先ほどのやり取りを思い出し、赤くなる二人。


「ミーシャ」「レイア」
 話しかけたのは同時だった。
「ど、どうしたの? レイア」
「み、ミーシャこそ、どうしたんだ?」
 そして、暫く沈黙が続いた。


 ポツリと呟いたのはレイアだった。
「私たち、愛されていたな」
「ええ。夜の玩具としてではなく、一つの存在として」
「やっぱり、嬉しいな……」
「ええ、物凄く……」
 そして、もう一度強斎を見る二人。


「でも、結局ご主人様の目的は聞けなかったわね」
「レイアが話を変えるからでしょう」
「でも、結果的に良かったじゃん」
「まぁ、そうだけど……」
 そこで、二人は強斎が寝る前の事を思い出した。
「あれは……卑怯だったな……」
「うん……」
 二人は自分の額に手を当てる。
((ここに不意にキスされるなんて……))
 また顔が赤くなるミーシャとレイアであった。


…………
……
……


「あ、キョウサイ様! 見えてきました!」
「あれが、シッカ王国の城かー……でかいなー」
「さぁ! ご主人様! 早く行きましょう!」
「ああ、そうだな」
 こうして、強斎一行は城下町に向かうのであった。


[#ここから6字下げ]
どこかおかしくありませんでした?
書き方を少しだけ忘れていたので、そういうのがあると思います。
では、感想待ってます!


あ、艦これのイベント始まりましたね!
チマチマとやっていますw
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]19話 買い物っぽい[#中見出し終わり]






「お前らに話しておきたいことがある」
 城下町につき、宿を借りたその日の夜。
 強斎は唐突に話を切り出した。
「俺の目的だ」
 その言葉に、真剣に耳を傾ける二人。
「俺の目的は魔界に行くことだ」
「そうですか」
「ご主人様。魔界なら、転移門を使って死の草原を越えれば魔界です」
「え? そ、そうか」
(意外に驚かないんだな……)
 強斎は魔界に行くと言ったら、多少なりとも驚くと思っていたが、普通に受け入れられた。
「魔界って危険なんだよな?」
「当たり前じゃないですか」
「魔界行くための死の草原には、ランク一〇以上の魔物が。その後の森ではランク一二以上がうようよ居ますね。物凄く危険です」
 順にミーシャ、レイアである。
 何を当然な事をと言わんばかりに強斎を見ている。
「そんなに危険なのか……」
「「何言ってるんですか」」
 口を揃えて反論された。
「危ないと言うのは、普通の冒険者の基準です。というか、キョウサイ様にとって、この世に危ない場所等存在しません」
「死の草原とその後の森なら、私かミーシャ単独で制圧できますね。一日で」
「というより、キョウサイ様は何しに魔界へ? 征服でもする気ですか?」
「え? 征服なんてできるのか?」
「ご主人様がその気になれば、今からでも日が出てくるまでに、征服できますね。魔界は基本的に強者が上に立つと聞きますから。それに、恐らく魔王より、私たちの方がステータスが高いでしょう」
「そんなに低いのか……」
「「……」」
 強斎の言葉に呆れる二人。
「キョウサイ様、キョウサイ様を基準に考えてはいけません。低いのではなく、私たちが高すぎるのです」
「私の知る限りでは、上級魔族でも五桁でしょうね。流石に魔王だと六桁かもしれませんが、あっても十万程度でしょう」
「マジかー……。じゃあ、俺の目的も直ぐに達成できそうだな」
「キョウサイ様は、魔界で何を?」
「調べたいことがある」
「「調べたいことですか?」」
「ああ、そのことに関してはいつか話すよ」
 適当にはぐらかした強斎だが、色々と複雑だった。
(もうそろそろ、俺が異世界出身だって言ったほうがいいのか? いや、しかしな……)
 強斎は迷っていた。
 この世界にとって、異分子の扱いがどうなっているのかわからない。
 簡単に奴隷になってしまうぐらいだから。
 勇者達は保護されているとして、強斎は違う。
 奴隷達に話したら、いつ情報が漏れるかわからない。
 その結果、異分子と言う理由で食べ物すら与えられなくなっては、流石の強斎でも生きるのは困難だ。
(まだ……まだやめておこう)
 こうして、何度目かの言い訳を述べるのであった。
…………
……
……
「よし、今日はありったけの食料を買うぞ」
 何故か意気込んでいる強斎であった。
「どうしたんですか? いきなり」
 意味もなくやる気満々の強斎を見て、不思議に思うミーシャ。
「あ、いやね。この城下町は、食料の種類が最も多いらしいからな。いつ長旅に出るかわからんし、とりあえず三年は贅沢して喰える程の量を……」
「どれだけ買う気ですか……」
「はぁ……」とため息をつくミーシャ。
「ご主人様って結構食事に拘りますもんね。殆どご主人様が料理してましたし」
「お前に任せると、大変な結果になるからな。ミーシャはまだいいとして、何故レイアはできない?」
「え……それは……その……」
「まぁ、いい。それより買いに行くぞ」
「うー……ご主人様ぁ~」
「ふっ」
「ミーシャ! 笑うな!」
「全く、女とあろうものが料理もできないなんて……惨めですね」
「うがー! ミーシャだって最初はできなかったくせに!」
「最初から出来る人なんていませんよ。私は練習しましたからね」
「~~~~~っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「お前ら何をしているんだ?」
「いえ。それより、早く買いに行きましょう」
「あ、ああ」






「な……ん……だと……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「キョウサイ様、どうしたんですか?」
 ミーシャが声をかけるが、強斎は気がついていない。
(これは……これは……!)
 そう、強斎が目にしているものそれは……。
(米だ! この世界にも米があった!)
 解析しても、日本にある白米と近い部類だった。
「おっちゃん! これを一トンくれ!」
「お前正気か?」
 変な目で見られたが、強斎は気にしない。
「一トンもないのか?」
「いや、倉庫から出せばあるかもしれんが……一トンって言ったら銀貨五〇枚だぞ?」
「それぐらい大丈夫だ」
 バンっと金貨をカウンターに置く。
「それと、そこにある肉とパンをこれで買えるだけくれ」
「お、お前……何者なんだ……」
「そうだな……食王とでも呼んでくれ……」
「ショクオウ……ふっ……お前ほど大胆に食材を買う奴は初めてだ」
「だろうな」
 そう言って、米とパンと肉を準備するおっさん。
「かなりの量がある。持っていけるか?」
「ああ、俺はアイテムボックス持ちだ」
「ほう、それだったら安心だな」
 アイテムボックスはレアスキルだが、持っている者は多いのだ。
「んじゃ、またどこかで会おうぜ。米のおっさん」
「よくわからんあだ名だな……まぁいい。また会おうショクオウ」
 こうして、強斎はこの場を去った。


「私たち、完全に蚊帳の外だったな」
「そうですね」
 その後をついていく奴隷二人であった。




(凄い……凄いぞ! 卵とか塩とか売っている! お! 砂糖もあるのか! あ、でも高いな……)
 片っ端から食材を買っていく強斎。
 それを何か諦めた目で見る奴隷二人。
 それが終わったのは夕方だった。


「かなり買ったな……」
「ええ、ホント。物凄く買いましたね」
「ミーシャ、これは仕方ないことなのだよ」
 ドヤ顔で決める強斎。
「ところでご主人様」
「どうした?」
 そこにレイアが入ってきた。
「ずっと気になってたんですけど、何か冒険者多くないですか?」
「城下町だから、こんなもんじゃねぇのか?」
「そうでしょうか……?」
「んじゃ、ちょっと訊いてくるか。おい、そこのお前」
 いきなり失礼なやつである。
「あ? なんだ?」
「急に止めて悪かったな。ところで、この冒険者の数はなんだ? これが普通なのか?」
「いや、今回は魔族が出たって噂があってな」
「魔族?」
「ああ、この近くに森があるだろ?」
「あるな」
「その森が、最近半壊したんだよ」
「「「……」」」
「それで、そこから少し離れたところで、無傷の動物が集団ショック死でな。魔物は全くいなかったらしいぜ」
「そ、そうか……それで、魔族か?」
「いや、それだけじゃねぇ。また少し離れたところには大量のクレーターがあったって噂だ。これはもう魔族しかねぇと皆が思ったってわけよ」
「そ、そうだったのか……ありがとう。それと引き止めて悪かったな」
「いや、第一印象は悪かったが、そこまで悪い奴じゃないみたいだしな。気にしてない」
「そう言ってもらえると、助かる」
「ああ、じゃあ。俺はもう行くわ」
「ああ」
 こうして、通りすがりの冒険者は立ち去った。
「キョウサイ様」
「ああ」
「あれって、全部キョウサイ様がやったことですよね?」
「……ああ」
「森の半壊と集団ショック死は仕方ないとして、クレーターってなんですか。クレーターって」
「実は、魔術の練習を……」
「……もう、何も言いません」
「そうしてくれると助かる」
 こうして、宿に戻る強斎一行であった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しております!
実は今回は感想にあったとあるプレイを参考にして、書こうとしたんですが……
どう描写を書けばいいのかわからなかったです、はい
下半身に刺激を与えるように見えない鎖で縛って、街中を歩き回るという描写です
ね? 難しいでしょ?
それと、遂にiPhone5sに変えました!
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]20話 3ヶ月後っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
必殺!
~後!
[#ここで字下げ終わり]




「あれ? ショクオウさん? クエストじゃないのですか?」
 冒険者ギルドの犬耳受付嬢が、いつもの違う強斎を見て、少し不思議に思った。
「ああ、今日からクエストは受けない」
「え……」
 強斎の突然の告白により、少々戸惑っている。
「ちょっとギルマスに通してくれるか?」
「は、はい!」
 こうして、受付嬢はパタパタと奥に入っていった。
(食王……か……)
 このあだ名を付けられたのは、いつ頃からだろうと思う強斎。
 今では『キョウサイ』というより、『ショクオウ』として呼ばれている。
(もう、三ヶ月か……)
 強斎がこの城下町に着いてから三ヶ月は経っていた。
(初めは一週間のつもりだったんだが……ここの街の食べ物、美味すぎたんだよな……)
 こんな理由で三ヶ月も居座っていたのである。
 そのような事を考えていると、受付嬢が戻ってきた。
「大丈夫だそうです。というより、ギルドマスターは基本的に暇なので、わかっていましたが」
 少し呆れた顔で説明する受付嬢。
「そうだったな、あいつは基本的に暇だもんな」
「ええ、早く仕事を終わらせすぎなんですよ」
「いいことじゃないか」
 そう言って、奥の部屋に向かう強斎。
「ショクオウさん」
 それを、受付嬢が止めた。
「どうした?」
「……」
「?」
「いえ、なんでもありません。すみません、止めてしまって……」
「……そうか」
 この受付嬢はわかっていた。
 今日で、強斎がこの街から出て行くという事を。
 何故か、わかってしまっていたのだ。
「じゃあ、行ってくる」
「……はい」
 受付嬢は何も言えずに立ったままだった。






「よう、何の用だ? 暴食にして最強の冒険者」
「やめい、長ったらしい。……それに、わかってるんだろ?」
 そう言って、強斎は椅子に座る。
 座った後、少しの間を置いて、男が口を開いた。
「……考えを改めないか?」
 真剣な顔つきになる三〇代後半の男。
 このシッカ王国城下町でのギルドマスターにして、元シッカ王国最強の冒険者。ベルクだ。
 このベルク。実はエルフである。
「ああ、俺はこの街を出て行く。やることがあるしな」
「お前の目的は、何かわからんことを調べることだろ? この王国じゃダメなのか?」
「ああ、ダメだ」
「お前の目的は何だ? それさえわかれば俺だって――――」
「いや、これは俺の問題だ」
「……」
「それに、俺はこの街が好きだ。でもな、それでも出て行かなくちゃならない」
「……お前程の奴を動かす、その理由は何だ?」
「さぁな……俺にもわからん」
 そう言って、強斎は天井を見る。
「なぁ、ベルク。俺たちが初めて会った時のこと覚えているか?」
「どうしたんだ、いきなり」
 強斎は目線をベルクに戻し、「ふっ」っと笑った。
「俺は、お前に会って良かったと思ってるぜ」
「ふん、俺は久しぶりに恐怖を感じたね。下級とはいえ竜。その大群を一瞬でひれ伏せさせるなんて、竜王かと思ったな」
「……そんなこと思っていたのか」
「まぁ、そのおかげで助かったのも事実だ。俺も、この街も」
「そのせいで、ランクは急激に上がって英雄扱い。まぁ、金には困らなくなったからいいんだが」
 そうして、強斎は約二ヶ月前を思い出す。
…………
……
……
「ここの飯、超うめぇー……」
「まだ食べられるのですか?」
「ホント、ご主人様は物凄く食べますね」
「いや、だって美味いもん」
「でも、この料理……」
「ご主人様が作った方が美味しくなりますよね?」
「言ってやるな。まぁ、レシピ覚えたから、ここより上手く作れるかもな」
 そう言ったところで、どこからか声が聞こえた。
『この街にいる冒険者に告ぐ! 今すぐ大広場に集合してくれ!』
「何かあるのか?」
「どうします、キョウサイ様?」
「んー……とりあえず、お前たちは新しい宿探してきてくれ」
「「わかりました」」
(さて、じゃあ行ってみるか)












 強斎が大広場に着くと、そこは冒険者で埋め尽くされていた。
(うわー……人がゴミのようだ……)
 実際に強斎が力を振るえば、ゴミのように蹴散らされるが。


 ふと、強斎が上を見ると何かが降ってきた。
(あれはー……紙か?)
 上から降る紙を一枚取り、そこに書いてある内容を読む。
(竜……ね。面白そうじゃん)
 こうして、ワンサイドゲームが開幕した。








(さて、ここからはただスキルを奪うだけの単純作業だ)
 強斎は人目につかなく、竜の大群がいる場所に移動し、単純作業を開始しようとしていた。
(あ、その前に殴られてみよう)
 強斎は一匹の竜の前に出て、尻尾で殴られた。
 だが、強斎はビクとも動いていない。
(STR5000ってこんなもんか……。全然痛くねぇ……お、こいつら竜の威圧波動持ってやがる)
 一方的にスキルを奪う強斎。
 奪ったら殺し、奪ったら殺しを続けた。
「まぁ、こんなもんだろ」
 と、一息ついたところで、近くに大量の竜の気配があった。
「…………よし、試してみるか」
 こうして、強斎はその大群にピクニック気分で向かった。








(おー……いるいる)
 強斎は今までに無い竜の大群を見て、驚いていた。


(よし、ちょっくらやってみるか!)
 強斎は一瞬で範囲を指定し魔術を使った。
(アースペネトレイター!)
 地面から大量の槍が生えてきて次々と竜を串刺しにする。
(うわ……エグ……)
 第一感想がこれだった。
 そして、強斎はそそくさと立ち去ったのである。








(今日は異常に竜が多いな……)
 強斎の前に立ち塞がる下級竜。
 そして、何となく強斎は竜の威圧波動を使った。
(おー……全員がひれ伏してる)
 そこで、強斎はふと竜以外の気配を感じた。
「誰だ」
「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
 少し離れたところに脚を怪我した男がいた。
「まさか、見たのか?」
「っ!」
 そして、強斎は未だに威圧をかけていたことに気がつき、威圧を解除した。
「はぁ……はぁ……」
「今の……見たのか?」
「あ、ああ」
 これが、強斎とベルクの出会いであった。
…………
……
……
(あの後、色々と脅迫したっけなぁ……)
 その事を思い出し、嫌な笑みを浮かべる強斎。
「で、ショクオウ。お前は何が言いたいんだ?」
「いや、最後に釘を刺そうと思ってな」
「いや、お前の規格外さはこの街では結構広まってるぞ? なんせ、この俺をボッコボコにしやがったからな」
「そうだっけか?」
「ああ、そうだ」
「そうか」
「……」
「……」
 こうして、暫く沈黙が続いた。


 そして、沈黙を破ったのは強斎が立ち上がった音だった。
「……もう、行くのか?」
「ああ」
「そうか……達者でな」
「ふっ、俺はお前みたいに長生きはできんぞ?」
「そう言えば人間だったな」
「何を今更」
「……また、いつでもいいから戻って来い。歓迎してやる」
「……ああ、楽しみにしておく」
 こうして、強斎は部屋から出た。








「あ、ショクオウさん……」
 強斎が部屋を出ると、先ほどの犬耳受付嬢がいた。
「よう」
「……」
「……俺は今日でこの街を出て行く。手続きを頼む」
「わ……私!」
「ん?」
 受付嬢は一歩踏み出し、強斎に近づく。
「私! アイルと言います!」
 急に名前を教えた受付嬢に強斎は驚く。
「どうしたんだ? このギルドは、基本的に名前を教えないんじゃないのか?」
「いいんです! 今日だけは!」
 そして、アイルは少し下がってから、ガバッっと頭を下げた。
「ショクオウさん! 本当にありがとうございました!」
「は?」
 強斎が呆気に取られたところ、アイルは素早く頭を上げ、強斎に近づいた。




 ――――――そして、強斎の頬にキスをした。


「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「で、では! ショクオウさん! また来てください!」
 そう言ってサササッと逃げていった。
 そして、強斎は思った。
 何故、キスをされたのか?
 そして――。
(手続きやってもらってねぇ……)
 仕方なく、別の受付でやってもらうことにした。
…………
……
……
「待たせたな二人共」
「女の匂いがします」
「ご主人様、何ヤってきたんですか」
「すげぇなお前ら!」
「「で、なにしてきたんですか?」」
「あ、いや……ちょっとキスされた……」
「レイア、この建物潰すのに何秒必要だと思う?」
「そうだな……五秒ぐらいで終わるんじゃないか?」
「何の相談だよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そして、必死に説明する強斎であった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前募集しております
中二な名前だと比較的やりやすいです
今回はちょっとした伏線です
感想待ってます
あ、ツイッターやってます! やり方難しい!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]21話 何かすごいっぽい[#中見出し終わり]






 奴隷の暴走を抑えた強斎は、ギルドを一瞥して、とある場所に向かった。
「キョウサイ様、やはり転移門へ?」
「まぁ、確かにそうだが、とりあえず、冬物の服をな」
 そう、この世界はもうすぐ冬になる。
「それを買ったら出発だ」
「「はい!」」
 …………
 ……
 ……


「よう! ショクオウ! お前さん、本当にこの街から出て行くのか?」
 ミーシャとレイアが服を決めているところに、この店の店長がやってきた。
 おっさんだ。
「ああ、短い間だったが世話になったな」
「ガハハ! それはお互い様だろ! お前さんがいたおかげで、最近は迷惑な客なんざ来なかったからな!」
「そりゃよかった」
「ところで、お前さんのランクは何だ?」
「教えなきゃダメか?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。今までは、どれだけ強い冒険者が常連になってもうるさい奴が出てきたんだが……お前さんがこの店の常連になった途端、うるさい奴が来るどころか、繁盛してるんだ。どれだけ圧倒的な力でねじ伏せた?」
「俺は何もやってねぇよ。まぁ、ランクぐらいは教えてやる。これで盾でもなんでもしやがれ」
「おっ、ありがてぇな」
「俺のランクは三八だ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!?? 三八ぃぃぃぃ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「うるせぇよ」
「い、いや……済まない……三〇台のランクなんて聞いたこと無いからついな……」
「たかが、ギルマス相手に無双しただけなんだがな」
「ほんっとバケモンだな」
「もう、聞き慣れた」
 そこで、ミーシャとレイアが服を選び終わったようだ。
「キョウサイ様! これ、どうですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ご主人様! 見てください!」
「おう、二人に似合いそうだな」
「「はいっ!」」
(はっきり言って、何がいいのかわからんな……)
 そんなことを考えていると、店長から声がかかった。
「よっしゃ! さっきの服、タダでくれてやらぁ!」
「おお! マジか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「おうよ。お前さんには世話になったし、これからも名前を使わせていくしな!」
「サンキュー。おーいミーシャ、レイア! その服持ってこーい」
 こうして、冬服を貰った強斎であった。


「ショクオウよ……また、戻ってくるよな?」
「どうしたんだよ、服屋のおっさんらしくねぇな」
「おっさん言うな。まぁ、なんていうかな。本当に短い間だったが、お前さんのおかげで、楽しくてな。なんつーか……寂しくなるわけだ」
「ふっ、何か変なものでも食ったか?」
「なんだとっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 俺は――」
「戻ってくるよ」
「へ?」
「戻ってくるとも。この街はもう俺の家だ。たった三ヶ月だったが、俺もすげー楽しかった。この街が俺を受け入れてくれる限りは、俺は戻ってくる」
「ショクオウ……」
「だから、そんな顔すんな。服屋のおっさん」
 そう言って、強斎は布を出す。
「これを服屋のおっさんに貸す。だから、俺が戻ってきたら返せ。いいな」
「この若造が……ああ、いいだろう! これは、お前と俺の貸し借りだ! 後、おっさん言うな」
「最後のが邪魔だな」
「うるせぇ……」
「じゃ、俺はもう行く。……俺が帰ってくるまでに死ぬんじゃねぇぞ?」
「ふんっ、そうそう死んでたまるか!」
 強斎と服屋のおっさんは拳をあわせ、再会を約束した。




「あれ? また私たち蚊帳の外だな」
「レイア、それ以上はいけない」


 …………
 ……
 ……
「キョウサイ様、人気ですね」
 強斎は道行く人に話しかけられては、別れを惜しまれている。
 時には乙女の目で強斎を見る輩もいるので、レイアが威圧している。


「流石、ご主人だな」
「ええ、流石です」


 しかし、感動もつかの間……。
 遂に奴が現れた…………。






「ふはははは[#縦中横]!![#縦中横終わり] アルノ様! 到着!」
「ちょっとこっちに来い」
 速攻でレイアが駆けつけ、フルボッコにしてから裏路地に置いてきた。


「レイア、私にも殴らせなさい」
「ああ、いいぞ。だが、ご主人には見つかるな。この国が消し飛ぶ可能性がある」
 以前の、竜の威圧波動の余波を、身をもって思い知ったミーシャとレイアは身震いをした。
 この後、滅茶苦茶ボコボコにした。








「お前ら、どこに行っていたんだ?」
「ちょっと、虫を発見しまして」
 笑顔で答えるミーシャ。
「虫?」
「はい、害虫です。ご主人様の敵です」
 その言葉にムッとなる強斎。
「まさか……そいつはGか?」
 そして、ミーシャは少し考えて、答えを出した。
「はい、|G《ゴミ》です」
 すると、強斎から圧倒的な殺意が感じられた。
「そいつはどこにいる。今すぐ消し飛ばさなければならない」
「だ、大丈夫です! ご主人様! 私たちが始末しましたから!」
 すると、強斎の殺意が無くなった。
「済まないな。お前らには辛かっただろう……」
「いえ、キョウサイ様のためなら……」
「ご主人様のためなら、辛くても喜んで殺りますよ」
 こうして、一つの勘違いが生まれた。
 …………
 ……
 ……
 強斎一行が城下町を出て、少し経ってから強斎が立ち止まった。
「よし、じゃあ、お前らのレベルを確認する」
 #
 ミーシャ
 LV58
 HP 七〇〇〇四八〇/七〇〇〇四八〇
 MP 五〇〇〇二五四/五〇〇〇二五四
 STR 六〇〇一三四
 DEX 七〇〇一六四
 VIT 六〇〇一〇一
 INT 六〇〇〇九九
 AGI 八〇〇一七七
 MND 六〇〇〇九二
 LUK 二〇
 スキル
 体術LV18
 剣術LV19
 短剣LV22
 投擲LV9
 隠蔽LV65
 解析LV6
 空間把握LV30
 危機察知LV30
 料理LV7
 火属性LV24
 水属性LV14
 土属性LV37
 風属性LV23
 闇属性LV45
 属性
 火・水・土・風・闇
 #


 #
 レイア・アンジェリーク
 LV59
 HP 七〇〇一八三二/七〇〇一八三二
 MP 七〇〇〇二〇五/七〇〇〇二〇五
 STR 九〇三三〇四
 DEX 六〇〇一〇三
 VIT 六〇〇一五五
 INT 六〇〇〇七一
 AGI 七〇〇五六三
 MND 六〇〇一四〇
 LUK 三〇
 スキル
 攻撃力異上昇
 剣術LV5
 大鎚術LV35
 体術LV7
 威圧LV34
 隠蔽LV65
 解析LV6
 空間把握LV30
 危機察知LV30
 料理LV2
 HP自動回復速度上昇LV8
 火属性LV21
 水属性LV18
 土属性LV22
 風属性LV20
 闇属性LV44
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・闇
 完全攻撃型(ユニーク)
 #
 数字にバラつきがあるのは理由がある。


「ここ三ヶ月で随分上がったな」
「ご主人様の『ぱわーれべりんぐ』のおかげです!」
「で、ご主人様のステータスはどうなっているのですか?」
「あー……ちょっとね……」
「「?」」
「ちょっと、この世界が諦めたみたい」
 #
 キョウサイ・タカナシ
 LV145
 HP 1・56105E+四六/1・56105E+四六(-一千四百万)
 MP 6・46721E+四六/6・46721E+四六(-一千二百万)
 STR 1・78406E+四五(-百五十万)
 DEX 2・00707E+四五(-百三十万)
 VIT 1・56105E+四五(-百二十万)
 INT 2・00707E+四五(-百二十万)
 AGI 1・78406E+四五(-百五十万)
 MND 1・31574E+四六(-百二十万)
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 剣術LV65
 刀術LV72
 二刀流LV5
 細剣術LV3
 投擲LV10
 大槌術LV5
 棒術LV42
 体術LV44
 槍術LV56
 弓術LV48
 盾LV24
 大盾LV5
 威圧LV2
 竜の威圧波動LV85
 調教LV83
 隠蔽LV2
 解析LV2
 料理LV19
 潜水LV2
 吸血LV48
 灼熱の息
 極寒の息
 落雷操作
 天変地異の発動
 無双
 召喚魔術
 死霊魔術
 火属性LV43
 水属性LV55
 土属性LV33
 風属性LV43
 闇属性LV34
 状態異常耐性LV99
 MP回復速度上昇LV18
 HP回復速度上昇LV14
 アイテムボックスⅡ
 超隠蔽Ⅱ
 限界突破
 超越者
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 眷属ステータス分配
 眷属スキル分配Ⅱ
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・土・風・闇
 |想像魔術《SPユニーク》
 竜の王(ユニーク)
 世界を破壊する者(???)
 神を超えた者(???)
 #


「「……」」
「何か、奪ってないスキルまであるんだけど。てか、なんだよ、世界を破壊する者って。どんな属性だよ。しかも神を超えたって……」
 暫くの沈黙……。


「まぁ、いい。突っ込んだところで無駄だ。さっさと転移門に向かうぞ!」
「キョウサイ様。E+ってなんですか?」
「ん? ああ、E+ってのは一〇の+乗って事だ」
「「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」」
「あー……そう言えば、わからないんだっけ……」
 悩んでいると、ミーシャが何かを思い出したように、声を上げた。
「そうです! 思い出しました!」
「ど、どうした?」
「この、何とか乗って言う計算。学者さんが使っていました! それ以外では使われているところを見たことがありません」
「うっそん……ってか、なんで知ってるんだ?」
 すると、ミーシャは少し暗い顔をした。
「実は私が親に売られる時――」
「あー! 悪かった! 辛いなら話さなくていい」
「ありがとうございます」
「んー……でも困ったな……まぁ、要するにE+二だったら一〇〇を掛けるE+四だったら一万を掛けるって事だ」
 掛け算だったらわかるのか、二人共頷いた。
 その後、目を見開いた。
「ご主人様! そんなことしたらステータスが!」
「何もしてないよね[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 この後、一〇分ほどレイアのパニックが続いた。
 ミーシャは「流石です」とだけ言って終わっていた。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しています
中二大歓迎です
感想待ってます
MFブックスの応募、十万文字なんですね……
頑張らなければ……
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]22話 新しい勇者っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
これで……十万文字だ!
これで寝れる!
[#ここで字下げ終わり]




 強斎が街を旅立った頃。
 ホルス・ドレットの耳にとある情報が入ってきた。


「なに? ライズ王国がか?」
 ゆったりと座っているホルスは興味ありげな顔で、その言葉に耳を傾ける。
「はい、ライズ王国が勇者召喚に成功したので、共に魔族を滅ぼそうと申し出てきました」
「ほほう」と微笑しながら、考えるホルス。
「ライズ王国には異世界から召喚する手段があったのか……? 。まぁいい。こちらとしては賛成だが、勇者様方の意見も聞かねばな」
「では、国王様は賛成と言う事で?」
「ああ」
「承知しました」
 情報を伝えた者は立ち去ろうとするが、ホルスはそれを止めた。
「で、何故ライズ王国は勇者を召喚したのだ?」
「実は……シッカ王国に、下級竜の大群と魔族が現れた様で……」
「ほぅ、ようやくあの国が潰れたか」
 愉快そうにニヤけるホルス。
 ドレット王国とシッカ王国は敵対しているのだ。


 しかし、直ぐに真剣な顔つきになる。
「いえ、シッカ王国は全くの無傷です」
「なに?」
「傷があるとすれば、その城下町周辺にある、魔物が出る森が、魔族のせいで半壊したぐらいでしょう」
「あの森を半壊だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ええ」
「それほどの魔族が現れて、何故無事なのだ!」
 怒鳴り声を出すホルス。
 この男は、シッカ王国に対して異常なまでの敵対心を持っている証拠だ。
「魔族はそれっきり現れなくなったそうです」
「森を半壊させる程の魔族が……」
「半壊だけではなく、いくつものクレーター、森に現れる上位魔物の不可思議な集団逃走。中位魔物は気絶。下位魔物や動物に関してはショック死。そのような場所があったそうです」
「上位魔族か……」
「はい。恐らく、人間には興味がない魔族かと」
「そうでなければ、既にシッカ王国は無い……。それで? 下級竜の方は何なんだ?」
「とある冒険者が、蹴散らしたようです」
「それは、あのベルクとかいう男か?」
 ホルスは、シッカ王国にいる、この世界でも指折りの冒険者の名前を出した。
 しかし、情報を伝えた者は首を横に振る。
「確かに、それ程の冒険者でしたら下級竜一〇匹ぐらいなら倒せるでしょう……ですが」
 一つ間を置き、ホルスの目をしっかりと見る。
「現れた下級竜は三桁でした」
「なんだと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ホルスは目を見開き、立ち上がる。
「そのような大規模災害が起きて、何故無傷なんだ!」
「ですから、とある冒険者が蹴散らしたと言ったでしょう」
 少し強い口調になるその者は、言葉を続けた。
「その冒険者は、他の騎士や冒険者が出撃する前に、駆逐したとのことです。しかも、対人戦でも優れており、あのベルクが赤子の様に遊ばれたとのことです」
 口を開いたまま止まっていたホルスだが、何とか帰ってきた。
「そのような奴が……そやつが森を半壊させた魔族ではないのか?」
「それは違うようです。聖水を飲んでもピンピンしていたようですし」
「飲んだのか……。で、その冒険者の名は?」
「その冒険者の名前はショクオウ。性別は男で女性二人とパーティーを組んでいるそうです。そして、何より食に目がないと……」
「そんな奴が、シッカ王国等にいたとはな……。まだ、戦争を吹っかけるのは早いか……」
「ええ、その冒険者が協力するならば、勝ち目は無いでしょうね」
「そうだな……よし。物は試しだ。使える物は使ってその冒険者を引き抜きに行け」
「承知しました」
 そう言ってその者は立ち去った。
 そして、ホルスは考えた。
(ショクオウ……この男が勇者様方と協力してくれればどれだけ心強いか……。それに、ライズ王国との協力か……。魔族の破滅は我が代で決めてみせる!)
 そう、誓うのであった。


    *


 同時刻、とある迷宮で。


「一七年の波紋!」
「鈴[#縦中横]!?[#縦中横終わり] それ何のネタ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ってか、四九五年なんじゃ……」
 突っ込む澪を無視してオリジナルの魔術を使う鈴。
 オリジナル魔術は消費が大きく、しっかりとイメージを描いた属性技しか使えないが、使い様によっては中々の効果を発揮する。
 余談だが、オリジナルを使えるようになると、ある程度詠唱破棄、無詠唱が出来る。
 勇者一行がいる場所は、アンデッド系の魔物が出るエリアだ。
 このエリアがある迷宮はドレット王国よりライズ王国寄りにある。


 鈴が出した魔術はアンデッド系の弱点である光属性を圧縮して、指定した球体空間まで広がり、数回反射すると言う技だ。


「やった~! レベルアップ!」
「この階層は鈴にとって都合のいい場所だな。そしておめでとう」
「えへへ」
 大地に褒められてニヤける鈴。


「皆、一度ステータスを確認しよう」
 そう言って、指示を出す勇志。
 #
 ユウシ・スズキ
 LV68
 HP 七七五〇/八二〇〇
 MP 七八〇〇/八千
 STR 八〇四
 DEX 七九九
 VIT 八〇〇
 INT 七九八
 AGI 八六二
 MND 八〇五
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 聖騎士Ⅱ
 作法LV6
 剣術LV15
 威圧LV7
 状態異常耐性LV9
 火属性LV9
 水属性LV8
 土属性LV8
 風属性LV9
 光属性LV10
 闇属性LV7
 HP自動回復速度上昇LV8
 MP自動回復速度上昇LV8
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 ダイチ・タカミ
 LV64
 HP 九八二一/一〇六〇〇
 MP 六五〇〇/六八〇〇
 STR 九七八
 DEX 六五七
 VIT 九七七
 INT 六二〇
 AGI 六二二
 MND 六五四
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV6
 盾LV12
 大盾LV11
 大槌LV11
 剣術LV11
 刀LV7
 威圧LV5
 状態異常耐性LV10
 気配察知LV6
 火属性LV7
 土属性LV8
 光属性LV9
 HP自動回復速度上昇LV10
 属性
 火・土・光
 #
 #
 リン・ハネダ
 LV62
 HP 五九〇〇/五九六〇
 MP 七九一〇/九一八〇
 STR 五〇〇
 DEX 九三一
 VIT 五七四
 INT 九九四
 AGI 六三七
 MND 一〇二九
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV8
 体術LV8
 威圧LV5
 状態異常耐性LV9
 火属性LV11
 水属性LV12
 光属性LV14
 闇属性LV10
 MP自動回復速度上昇LV9
 魔術攻撃力上昇LV10
 属性
 火・水・光・闇
 #
 #
 ミオ・トウヤ
 LV59
 HP 五二〇〇/五二〇〇
 MP 三三六〇/四一〇〇
 STR 四七六
 DEX 六五〇
 VIT 五四一
 INT 一一四〇
 AGI 六七八
 MND 八五〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 体術LV4
 回復特化
 付属魔術
 威圧LV3
 料理LV14
 作法LV11
 僧侶Lv10
 ヒール・ハイヒール・エリアヒール・ヒールライト・リジェネ・光の刃・解呪・状態異常回復
 状態異常耐性LV9
 HP自動回復速度上昇LV7
 MP自動回復速度上昇LV9
 属性
 回復特化(ユニーク)
 付属魔術(ユニーク)
 #


「私、もうすぐ勇志と10LV差だ……」
 がっくりと肩を落とす澪。
「あはは……」
 思わず苦笑いをする勇志。
「笑い事じゃないよ~……ただでさえステータス低いんだからさ……」
「よく言うわね。澪のステータスでも騎士団長圧倒できるじゃない。魔術なしで」
「でもさ、こう……皆と比べるとね……」
 大きくため息をつく澪。
 その時、どこからか大きな物音が聞こえた。
「今のは[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 鈴が思わず口に出した。
「上から聞こえたから、地上に近いね。でも、ここまで音が聞こえる魔術なんて……普通の冒険者じゃないね」
 真剣な顔つきで分析する勇志。
「とりあえず行ってみよう。もしかしたらユニークモンスターかもしれん」
 そう大地が提案する。


 ユニークモンスター、別名『亜種』。
 姿は元の魔物に似ているが、形や色が違う。
 特に変わっているのはステータスである。
 最弱のユニークモンスターでもランク八に相当する。




「そうだね、急ごう」
 勇志の合図と共に、勇者一行は駆け出した。


 …………
 ……
 ……
 勇者一行が上に登って行き、地上に近くなって来た時、魔物と戦闘している者達がいた。
「やっぱりユニークモンスターか……」
 魔物を見て噛み締める大地。
「あれは、ゴブリンの……大地が正解だったね。見た感じ結構ピンチみたいだから、助太刀しよう。……鈴はあの魔物の動きを止めて! 澪は僕たちに強化魔術をかけた後、あの人たちを回復させて!」
「「了解!」」
 大地と勇志が地面を蹴り、その間に澪が二人に強化魔術をかける。
 魔物が二人に気がつく前に、鈴が魔術で魔物の足止めをする。
「アクアミスト!」
 濃密な霧が魔物を襲い、視界を塞ぐ。
 襲われていた者達も驚いていた。
 魔物が急な出来事に驚いている隙に、大地がメイスで魔物を殴る。
 鈍い音がして、数メートル魔物が吹っ飛んだ。
 しかし、魔物は絶命しておらず、さらに霧の外に出てしまっていた。
 だが、確実に怯んでいた。
「縮地!」
 その隙に、勇志が一瞬で距離を詰めた。
 そして、UR級の聖剣に魔力を込めて一閃した。
 その一撃により、魔物は絶命した。




「ふぅ、君達、大丈……夫……?」
 勇志は少々驚いていた。
 なぜなら――。


「澪……ちゃん?」
「ひな……ぎ……? 緋凪じゃない!」
 助けた人達が日本人顔だったのだ。


 …………
 ……
 ……


 勇者一行が助けた人は、|松前《まつまえ》|緋凪《ひなぎ》 女
 |蓬莱《ほうらい》|琴音《ことね》 女
 |帆刈《ほかり》|信喜《しき》 男
 佐々|木《ささき》|仁《じん》 男


 全員日本人だ。


 緋凪の身長は澪より少し低い程度。それでもって、胸も澪より少し小さい。
 しかし、スタイルも顔立ちも驚く程整っており、サラサラの黒髪は少し長めだが、笑顔がかなり似合っている明るい女性。
 澪とは中学校からの幼馴染み。高校も一緒の予定だったが、学力が足りずに別の高校になった。


 琴音は澪と同じぐらいの身長だが、若干胸が大きい。
 少し茶色が入っているサイドテールで、少し長めだ。
 無口で大人っぽい印象があるのだが、寂しがり屋。


 信喜はガッツリとした体型で、身長も大地並み。それでいて太っていなく、顔もイケメンの類に入るであろう。
 自己中心的で少々自慢するところがあり、その度に緋凪を見ている。が、無視をされ続けている。
 仁は勇志と同じ身長、体格をしている。そして、勇志とはまた別のイケメンだ。
 勇志がさわやか系だったら、仁はクール系になる。
 髪も男にしては長く、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
 だが、何故か勇志を尊敬する目で見ている。




 お互いに自己紹介が住んだところで、勇志が口を開いた。
「君たちは何故この世界に?」
 それに答えたのは、このグループである緋凪だ。
「何か、私達は勇者で、魔神を倒してくれって言われたのよ。それで、魔神を倒したら地球に帰れるって。ものすっごい嘘臭いよね」
 諦め半分といった感じで笑う緋凪。
 そして、緋凪は言葉を続けた。
「君たちはさ、行方不明になった高校生だよね? まさか、澪ちゃんも入っているとは思っていなかったけど……。って、あれ? 行方不明になったのって五人じゃなかったっけ?」
 そう言って、琴音に訊く緋凪。
 しかし、信喜が答えた。
「ああ、五人だったはずだ」
「え、あー……うん。ありがと。……で? 最後の一人は? 誰なの?」
 緋凪は軽い気持ちで訊いたのだが、勇志達は、悔しみと感じられる暗い顔をした。
「え? ええ? ど、どうしちゃったの?」
 その変わり様に慌てる緋凪。
 次に口を開いたのは澪だった。
「緋凪……最後の一人はね………………強斎だよ」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 すると、緋凪はこれまでにない程明るくなった。
「ホント[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 強斎君が[#縦中横]!?[#縦中横終わり] どこに……どこにいるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪の肩を揺する緋凪。
 向日葵の様な笑顔の陽凪とは対照的に、暗い顔して目を合わせない澪。
 その行動に緋凪は不審に思った。
「澪ちゃん? どうしたの?」
「……」
「ねぇ、聞いてるの?」
 無言を貫く澪に、不安になる緋凪。
 そして、重い空間を更に重くする人物が現れた。
「おい! 澪と言ったか? 緋凪が質問してんだろ! 答えろよ」
 信喜だ。
「……」
「っ! ……てめぇ」
 無視をしたと思った信喜は澪に近づく。
「やめなさい」
 それを琴音が止めるが、信喜はお構いなしに歩み寄り、琴音を飛ばす。
「きゃっ」
「おっと、大丈夫かい?」
 少し離れていたはずの勇志が琴音を受け止める。
「あ、ありがとうございます……」
「いや……いいさ」
 勇志は琴音を立ち直らせ、スっと信喜を睨んだ。
 そして、行動に移す前に、信喜を止めた者がいた。


「あんた、女の子突き飛ばして、『ごめんなさい』の一つも言えないの?」
 鈴が立ち塞がった。
「うっせぇよ。お前みたいなチビが俺を止められるとでも思って――」
「はぁ?」
 同時に威圧をかける鈴。
「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
「この程度の威圧で怯むなんてね。あんた、それでも前衛?」
「……っ」
「ふん、人間なんだから喋りたくない事ぐらいあるでしょうが。それぐらい――」
「いいの」
 察しなさいよ、と言おうとしたところで、澪が口を開いた。
「澪……」
「辛いのはみんな同じ。緋凪だって、いつか知ることになると思うから」
「わかった」
 信喜を蚊帳の外にして会話が終わった。


「澪ちゃん……どういう事? 喋りたくない事? 辛い? いつか知ることになる? わけがわからないんだけど……」
「大丈夫、今から説明するから。強斎はね、この迷宮にはいないよ」
「もー……もったいぶらないで教えてよ……久しぶりに強斎君とお話したいし」
 強斎の話に戻った途端、期待を膨らませる緋凪。
 だが、その中には不安もみられる。


「強斎は……強斎はね……」
「え? 澪ちゃん……どうして泣いてるの……?」


 中学校では一度も見られなかった澪の泣き姿に戸惑う緋凪。
 しかし、その緋凪を無視して澪はとある一言を言った。






「――――――強斎は…………死んじゃった」






「え?」
 緋凪は処理が追いついていなかった。


「なんて……言ったの?」


 確かに聞き取れていたはずだが、聞き間違いだと願ってもう一度訊いた。
「強斎はもう、この世界にいない。日本に帰ったとかじゃなくて、帰らぬ人になったのよ……!」


 ポロポロと涙を流しながら緋凪を見る。


「強斎はね、私たちのせいで死んだの! 巻き込まれてこの世界に転移して、属性もなし、スキルも一般的、ステータスも私たちより全然低い! それで、私たちが浮かれていたせいで、強斎は無差別に転移された! ……知ってる? この人間界の地上に転移する確率、単純計算で0・3%未満だよ? 上手く地上に転移したとしても、魔物に殺られるか、餓死するか、盗賊に襲われて死ぬか、死ぬより酷い目にあうかだよ? この世界の冒険者って無償で人助けなんてしないから、盗賊と一緒だし……。街中に転移しても、一文無しだから不法侵入で奴隷堕ち……。それが三ヶ月前だよ?」


 殆ど八つ当たりに近い言葉を受けた緋凪は、その場で崩れ落ちた。


「そんな……強斎君が? ……嘘……嘘だよね? 嘘って言ってよ……! 澪ちゃん!」
「……」


 澪の悲しき目を見て、これが嘘ではないと本能的に感じる緋凪。
 この空間は一人を除いて暗くなった……。
「強斎……君……なん……で、なんで先に……逝っちゃうの……? 置いて……いかないでよ……逢いたい……逢いたいよ……」


 緋凪は溜まっていた涙を流し始めた。
 緋凪もまた、強斎を一途に想い続けた一人だ。
 信喜はその姿を見て、チャンスかと思ったのか、緋凪に寄っていく。
「おい、緋凪。泣くんじゃねぇよ。……俺がついているからさ。な? だから、強斎なんて奴どうでもいいじゃ――――」


 ――――殺気。


 信喜が『強斎なんて奴どうでもいい』と言った瞬間に圧倒的な殺気が信喜を襲った。
 それは物理的にも行われていた。
 鈴の適度な威圧で怯んだ信喜が、四人全員から全力の威圧を浴びさせられていた。
 勇志は剣先を、大地もメイスを向けている。
 鈴は無詠唱でのファイアボールを、澪も光の刃を出していた。
「[#縦中横]あ゛[#縦中横終わり][#縦中横]あ゛[#縦中横終わり][#縦中横]あ゛[#縦中横終わり]……」
 信喜は今までにない恐怖を感じて、その場に尻餅をついた。
 それを勇志は冷ややかな目で見て、口を開いた。
「君さ、女性をおとすのに、強斎なんてどうでもいいなんて言葉、使わないでよ。強斎を敵に回すなら……例外なく僕らの敵だから」
 ギロリと信喜を睨む。
「ひぃっ!」
 信喜は情けない声を出すと同時にコクコクと頷く。




 未だに絶望している緋凪に澪は話しかける。
「緋凪」
「……」
「私たちはね、日本に帰らない」
「……」
「強斎を生き返らせるために」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 その言葉に異常な程に反応する緋凪。
「で、できるの……?」
「わからない。でも、魔神を倒したら願いが叶うって言うのを、今は信じなくちゃならない。嘘臭くてもいい。希望が消えない限り、諦めない」
 まるで、自分に言っているように呟く澪。
「だからさ、一緒に倒そ? 魔神。緋凪たちを巻き込んじゃうけど、それでもいいなら」
 緋凪の決断は即決だった。
「いいよ。でも、残念ながら私のメンバーを巻き込むことは出来ない」
 緋凪一人が良くても、他の面々は良くないだろうとの決断だ。
 しかし、その言葉を良い意味で裏切る。
「私は別にいい。殆ど諦めていたしね。それに、地球よりこっちの方が面白そう…………勇志君もいるし……」
 そう言ったのは琴音だった。
 最後の方は誰にも聞こえなかったが。
「俺も、かまわぬ。勇志殿に剣術をご指導願いたいしな」
 今まで無口だった仁も賛成した。
「え? 僕?」
 唐突に名前を出された勇志はキョトンとしていた。
「ええ、俺は動体視力にも自信がありますが、あなたの剣筋は全く見えなかった……師匠になって欲しい」
「は、はぁ……」


「お、俺も一緒についていく! 俺は緋凪をまも――」
「皆、ありがとう!」
 信喜が言い終わる前に緋凪がガバッと頭を下げた。
「でも、皆ならそう言ってくれると信じてたよ!」
 満遍の笑みの緋凪に皆どこか癒された。
「あ、それと澪ちゃん!」
「どうしたの?」
「強斎君が生き返ったら……負けないから!」


 緋凪の目は色々な感情が混ざっていた。


 不安、安心、絶望、希望、決意、恋、闘争心
 少なくともこれだけは混じっていた。
 そして、今、澪に向けているのは闘争心。


 宣戦布告だ。


 澪はその挑戦を快く受けた。


「いいよ、中学の時の続きしようか。でも、私にアドバンテージがあるわよ?」
「そんなの、私の想う気持ちで強斎君の心を奪ってやる!」
「む……! 緋凪にそんなことできるの? 中学では、ろくに話せてなかったじゃない」
「で、できるもん! 強斎君の心だって……て、貞操だって貰うんだから! 全力で処女を守っている私を、なめんじゃないわよ!」


 高々と宣言した緋凪。


 だが、言葉が言葉だった。
 信喜は崩れ落ち、密かに強斎が生き返らないことを願った。
 他の面々はちょっとひいていた。


 ――――澪を除いて。


「わ、私だって、強斎の童貞を貰って、私の処女をあげるんだから!」
 何気に失礼な事を言う澪。
「澪! キャラが! キャラが崩れているよ!」
 その言葉にハッと我に返る澪。
「と、とにかく! 私は緋凪の挑戦は受けるわ。でも、負ける気なんてサラサラ無いから」
「強がってるのも今のうちよ!」
 バチバチと、火花が見えそうな視線で睨み合う二人。
 しかし、二人同時に「ふふっ」っと笑った。
 そして、二人はまたもや同時に言葉を放った。
「「そのためには魔神を倒さないとね!」」
 と。
 こうして、ドレット王国とライズ王国の協力が決まった。
 …………
 ……
 ……
 迷宮から出ようとする勇者達。


 その時、澪が緋凪に話しかけた。
「ところで、四人のステータスだけど……」
「ステータスがどうしたの?」
「いや、ちょっと見ていい?」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] そんなことできるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「うん、超解析ってスキルでね」
「うわー……プライバシーってなんだろう……」
「緋凪は見れないの?」
「そんなスキルないからね、まぁいいよ、私たちのステータス見て」
「ん、ありがとう」


 #


 ヒナギ・マツマエ
 LV8
 HP 六八二/六八二
 MP 九四三/九四三
 STR 五四
 DEX 六〇
 VIT 五九
 INT 九四
 AGI 七一
 MND 八四
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV3
 体術LV3
 状態異常耐性LV4
 火属性LV2
 風属性LV2
 光属性LV3
 MP自動回復速度上昇LV3
 属性
 火・風・光
 #
 #
 コトネ・ホウライ
 LV6
 HP 五四一/五四一
 MP 九六六/九六六
 STR 五一
 DEX 五六
 VIT 六一
 INT 九〇
 AGI 四六
 MND 九二
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 料理LV5
 状態異常耐性LV2
 水属性LV5
 光属性LV5
 HP自動回復速度上昇LV2
 MP自動回復速度上昇LV3
 属性
 水・光
 #
 #
 シキ・ホカリ
 LV7
 HP 一〇五五/一〇五五
 MP 五二〇/五二〇
 STR 一〇二
 DEX 五三
 VIT 八八
 INT 四九
 AGI 四二
 MND 六七
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 体術LV5
 剣術LV4
 大槌LV3
 盾LV2
 状態異常耐性LV3
 土属性LV3
 風属性LV3
 HP自動回復速度上昇LV3
 属性
 土・風
 #
 #
 ジン・ササキ
 LV6
 HP 八一九/八一九
 MP 七九八/七九八
 STR 七四
 DEX 七二
 VIT 七八
 INT 八〇
 AGI 八八
 MND 一〇〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV7
 刀LV5
 状態異常耐性LV4
 風属性LV3
 闇属性LV3
 隠蔽LV5
 HP自動回復速度上昇LV3
 MP自動回復速度上昇LV3
 属性
 風・闇
 #


「どうかな?」
「うーん……平均よりは強いけど……ぶっちゃけ、私たちには劣るね……」
「えー……」
「まぁ、スキルも多少あるし、属性も全員が二属性以上だから、強くなれるよ」
「はぁ……そう言ってくれると嬉しいね……。ところでさ、ステータス見れるスキルがあるなら、何で勝手に見なかったの? ステータス見られたかどうかなんて、わかんないし」
「あー……これは……癖かな?」
「癖?」
「そう、癖」
「ふーん……」
 これ以上追及しない緋凪であった。


    *


「勇者様方、実は、話があるのだが」
 あれから迷宮で攻略した勇者達は、久しぶりに王宮に戻ってきた。
「どうしました?」
 ホルスに対応したのは勇志だった。
「うむ、ライズ王国と同盟を結ぼうと思ってな。あそこも勇者を召喚したから、一緒に戦ってもらおうと……」
「それなら既に戦ってますよ?」
「え? マジ?」
「はい、マジです」


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しています!
強斎に出会った! 女性は魅了にかかってしまった!
こんな状態ですね、はい。
主人公モテ過ぎです。
緋凪→新ヒロイン?
琴音→勇志に一目惚れ?
信喜→緋凪が好きで、嫌な奴
仁→言葉が少しおかしい勇志の弟子
こんな感じですね
感想待ってます!


強斎「あ? 貞操? ミーシャにあげたけど?」
報われない女性陣! (ニヤニヤ
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]23話 雪合戦後の戒(ギアス)少女っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
遂に新奴隷!
[#ここで字下げ終わり]




「よし、雪合戦をやろう」
 強斎が城下町を旅立ち、現在山を登っていた。
 冬が近いという事もあり、途中からは、一面雪で覆われていた。
「「雪合戦ですか?」」
 二人同時に首を傾げている。
 この世界に雪合戦という遊戯は無いようだ。


「雪をこう……丸めてから、投げ合う遊戯だ」
 そう言って、ポイッっと雪を投げる強斎。
 しっかりと加減は出来ている。
「で、この雪玉が当たった方が負け。本当は色々とルールがあるんだが……今回は俺がルールを決めよう」
 そう言って強斎はルールを決めた。


 魔術、武器の使用可能。
 雪玉が当たった方の負け。
 雪崩が起きても試合続行。
 審判は強斎。


「まぁ、こんなもんだろう」
「えっと、キョウサイ様? このような遊戯をしていてもよろしいのでしょうか? 急いでいるのでは……?」
「別に急いでいないぞ? 地道に程々に進めばいい。あ、それと勝った方にはご褒美な」
「「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 ご褒美という言葉に反応する二人。
「ご、ご主人様……ご褒美とは……?」
「そうだな……勝った方の唇を奪ってやる」
 と、半分冗談で言ったのだが……。


「レイア、今から貴女は敵よ」
「そんなものは百の承知。全力で貴様を叩き潰す」
「何を戯れごとを。寝言は寝てから言いなさい」
「はっ、貴様は私の敵にすらならない事を証明してくれる」


(あれ? あいつらの目……ヤバくないか?)
 レイアとミーシャの目が『絶対に勝つ』と言っているのが、これでもかと言わんばかりに伝わってきた。


 強斎はどう思っているのかというと……。
(まぁ、いっか。俺も熱い雪合戦見たいし……あ、一対一だから合戦じゃなくて一騎打ちか?)
 何とも無責任な私情であった。


 言い合いが終わったのか、二人は距離をとり、強斎を見た。
「キョウサイ様」「ご主人様」
「「合図を!」」
「え? あ……じゃあ、はじめー――――うおっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 試合開始と同時に起きる突風。
 二人同時に、音速を遥かに超える速度で動き始める。その速度、実にマッハ三〇〇超だ。
「すげぇ……あれだけの弾幕の中、両者掠ってすらいねぇ……」
 それを見切る強斎もデタラメである。


「お、ミーシャが雪で壁を作っ……レイアがメイスで破壊か……何か、俺の知ってる雪合戦と違う……」
 無数の雪玉が飛び、その一つ一つが雪とは思えない程の破壊力を持っている。
 しかも、そこに自然破壊と思える魔術がバンバンと飛び交じる。
 魔術には威力と規模によって~級と指定されている。
 初級、下級、中級、上級、特級、精霊級、王級、帝級、神級。
 他にもあるのだが、これらが主に使われる言葉である。
 二人は下級の魔術を無詠唱で飛ばしているのだが、威力だけ見れば精霊級に近い特級である。


 超轟音が響く中、強斎はとある事に気がついた。
(あ、防音にしてねぇ……)
 と、遅くなりながらも巨大防音室を風魔術で作る。
(まぁ、こんな山奥に人なんていないだろ)
 と、思いながらも一応マップで確認する強斎。




 ――――四人。




「はぁぁ!??」
 強斎は思わず声を上げてしまった。
 そう、この1km圏内に四人いるのだ。
 しかも……。
(かなり近い……あの一騎打ちに巻き込まれたのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 そう思い、強斎は直ちに止めに入る…………が。


「おい、お前ら今s「ドォォォォォン[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
「ちょ、きこえt「ズシャァァァァァアン[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
「いい加減n「グシャァァァァン[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」


 全く聞こえていない。
(くそっ、こうなったら!)
 強斎はマッハ三〇〇超のミーシャとレイアを、ピンポイントで空気の檻に閉じ込める。
「「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」」
 急に、殆ど動けなくなることに驚愕する二人。
「ミーシャ! レイア! 雪合戦は中止だ!」
 何故中止にするのかわかっていない二人。
 雪崩でも中止はしないと言っていたはずなのに。と。
「この辺に人がいる! 恐らく、この雪に埋もれている!」
「「[#縦中横]!![#縦中横終わり]」」
 強斎の言葉に驚く二人。
 だが、強斎はにやりと笑った。
「大丈夫だ、もう見つけた」
 そう言って一直線にとある場所に向かう。
 ミーシャとレイアも空気の檻から解放され、強斎に寄っていく。
 二人が強斎の元にたどり着く頃には、強斎の腕に一人の少女がいた。
 その少女を見て、ミーシャとレイアは驚愕の表情を浮かべる。
 強斎も違う意味で驚いていた。


「キョウサイ様……その少女は……まさか……」
 ミーシャが恐る恐る呟く。
「知っているのか? ミーシャ?」
「……はい。その少女は兎族の少女でしょう……ですが……」
 強斎の腕の中にいる少女は白い兎の耳が付いていることから、兎族とわかった。
 しかし――――。
「その兎族は……紫髪の呪われし兎です……」
 そう、この少女は紫色の髪をしていたのだ。
 そして、強斎はなにか思い当たったのか、納得した表情だった。
(やはり……そうだったのか……)
 そう、強斎が驚いた理由……それは――――。

ルナ
LV12 (呪い)全ステータス一/四、魔術使用不可、スキル使用不可、状態異常耐性低下
HP 六/四二 (一六九)
MP 四四六/四四六 (一八六四)
STR 七 (二八)
DEX 八 (三一)
VIT 一二 (四八)
INT 一三 (五三)
AGI 一〇 (四二)
MND 一五 (六一)
LUK 一〇 (四〇)
スキル
(体術LV1)
(棒術LV2)
(状態異常耐性LV2)
(MP回復速度上昇LV4)
(魔物召喚)
(意思疎通)
属性
(|召喚魔術《ユニーク》)



 そう、この少女……ルナのステータスだ。
(これは……あまりにも……)
 と、思ったところで、レイアが声にならない悲鳴をあげていた……。
「どうした[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ご、ご主人様……この子…………|戒《ギアス》をつけられています……[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「!!!??」
 レイアの言葉にミーシャが目を見開く。
 続いいてミーシャの顔が強張った。
「こんな……こんな子に|戒《ギアス》をつけるなんて……!」
 ギリっとミーシャ歯を食いしばった。
「ミーシャ、|戒《ギアス》とはなんだ?」
 この中で一人、地球人である強斎には、わからなかった。
「|戒《ギアス》というのは、一種の呪いです……。効果は――――奴隷にならなければ死んでしまう。奴隷としてしか、生きられないという事です」
 そう言ってミーシャはルナの左肩を見せる。
「これが、|戒《ギアス》の刻印です。この刻印の状態は、主がいない状態ですね……。このままではこの子は死んでしまいます」
 そう言って、ミーシャはルナの肩を撫でる。
「主がいなくなると……どれぐらいで死ぬんだ?」
「……三日です。そして、この刻印の黒さから今日が三日目なのでしょう……」
 確かにルナの呼吸は弱々しく、息をしていないんじゃないかと疑うほどだった。
「紫髪の呪われし兎だとしても……|戒《ギアス》はやり過ぎだ……!」
 レイアも苦痛の表情を浮かべていた。
 そして、その二人の行動を見て、強斎は決心する。
「ミーシャ、レイア。奴隷が一人増えるがいいか?」
「「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 その強斎の言葉にギョッとする二人。
「キョウサイ様……いいのですか?」
「ああ、お前らがいいならな」
「ご主人様! 是非お願いします!」
「私からもお願いします!」
「ああ、わかった。……で、どうやるんだ?」
「|戒《ギアス》持ちの場合は、主となる者の血を数滴、|戒《ギアス》に垂らしてください。そして、今から私が言う詠唱を唱えてください」
 淡々とミーシャは説明する。
「ああ、わかった」
(って、何でそんなこと知ってんだ?)
 そう思ったが、口に出さない強斎であった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しております!
勇者達使う魔術とか武器とかお願いします!
さて、新奴隷ですね……
一応、ロリです。詳しい描写は次回で!
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]24話 呆れるっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回、奴隷が手に入りましたが、性的な描写は入りません!
[#ここで字下げ終わり]




「う……んんー……」
「お? 起きたか?」
 ルナを奴隷にした後、半壊した山の人目につかないところで、強斎たちはかまくらを作り、そこで野宿していた。
 ルナが目を覚ましたのはその日の深夜……強斎の見張り番の時である。
「私……は……?」
 むくりと起き上がるルナ。
 今現在、起きているのは強斎とルナだけである。
「よっ」
「っ!!!??」
 強斎の顔を見るや、縮こまるルナ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
 ガタガタと体を震わすルナ。
(これは……重症だな……)
「おい、とりあえずこっち向け。まずは自己紹介だ」
「ごめんなさい……え? 自己……紹……介……?」
 ゆっくりとこちらを向くルナ。
 すると、震わせていた体を止めた。
「あなた……は?」
「俺は強斎。そして、お前の主だ」
「新しい……主様ですか?」
 ルナは左肩を見た。
 そこには肌の色とほぼ同色した刻印があった。
 すると、ルナは目元に涙を浮かべた。
 しかし、強斎の目はじっと見続けた。
 そして――――。


「ありがとう……ございます……」


 礼を言った………………絶望した顔で。
(何故そんな顔をするんだ? 命は助かったっていうのに……まるで死にたかった様な………………そうか、そういう事か……)
 強斎は思い出した。
 この世界にとって、奴隷は道具だということを。
 ルナは呪い持ちという事で、散々酷い目に合わされてきたのであろう。
 死にたくなるぐらいに。
 そして、強斎はルナの容姿をじっくりと見た。


 身長は鈴と変わらない程度の身長で、胸はどちらかというと貧乳。だが、絶壁と言う程ではなく、わかる程度の膨らみはある。
 目は大きく、少し赤みがある瞳をしている。
 髪の色は紫色で、肩に微妙にかかる程度のショートカットだ。
 声もどこか幼声で、どこか愛らしい。
 声、容姿が幼い上に、兎耳に露出度が高いボロボロの服を着ているのである。
 とある趣味を持つ人は一瞬でノックアウトである。


 強斎はやせ細ったルナを見て、一つため息をついた。
「お前、名前は?」
 わかっているのだが、一応訊く。
「……ルナ、です……」
「そうか。じゃあ、ルナ。お前に初めての命令を与える」
「……はい」
「とりあえず飯を食え」
「え?」
 ルナの疑問を無視し、強斎はアイテムボックスから様々な料理を取り出す。
 これは強斎が作った料理だ。
「ほれ、どれでもいいから腹いっぱいになるまで食え。ついでに毒なんて入っていないからな」
 そう言って適当な料理を食べる。
「どうして……ですか?」
「あ?」
「どうして、奴隷にこんなにも豪勢なご馳走を与えてくれるのですか……?」
「そりゃぁ――」
「それに、私、紫髪の兎族ですよ……? こんな生きているだけでも無駄な生物に……どうしてですか?」
 強斎は呆れてしまった。
「はぁ……そんなもの、関係ないだろ?」
「……え?」
「俺の奴隷は俺の仲間だ。本来の奴隷の使い道じゃないかもしれんが、俺は奴隷を一人の存在として扱う。そして、仲間に呪いもクソも関係ない。そんなくだらない事を訊く前にさっさと食え、命令したはずだぞ?」
 本来、主が奴隷に命令し、それを実行しなかった場合信じられない程の激痛が奴隷に襲いかかるのだが、ルナにはその痛みは来なかった。
 強斎が本当の『命令』を使っていない証拠である。


 ルナはかなり驚いた顔をして強斎を見たが、強斎はそれ以上何も言わなかったので、有り余る料理の中の一つを食べ始める。
「おいしい……」
 その一口がきっかけでルナの手は止まらなくなった。
 そして、数口食べたところで泣き始めた。
 しかし、食べる手は止めなかった。
「ひぐっ……おいしい……おいしいです……」
 ルナのその泣き笑いは絶望の顔ではなかった。
 何とも幸せそうな顔をしていた。
「はぁ……おかわりは沢山ある。しっかりと食っとけ」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
 強斎はその様子を黙って見届けた。
 …………
 ……
 ……
「えっと……ミーシャさん、レイアさん。これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
「ああ、よろしく」
 昨日ルナは、食べられなくなるまで料理を食べ、その後泥のように眠ってしまった。
 そして、朝方に起きたらミーシャとレイアが寄ってきて、自己紹介が始まったのである。


「えっと……ミーシャさんとレイアさんは私が怖くないのですか?」
 ミーシャとレイアは頭に「?」を浮かべていたが、すぐさま呪いのことだと気が付いた。
「別に怖くないよ? 確かにルナちゃんは紫髪の兎族で、呪い持ちかもしれないけど……キョウサイ様の奴隷だったら、そんなもの関係ありませんから」
「そうだな、ご主人様だったら呪いのことが何かわかるであろう」
 うんうんと頷く二人。
 その光景を見てルナは少し驚いていた。
「主様は凄い人なのですね?」
「そうです」「ああ」
「でしたら、私の症状を教えれば何かわかるかもです……」
「ルナちゃんの症状?」
「はい……。私、属性を持っていないんですよ……。これだけだったら珍しくありませんが、どれだけ練習してもスキルは覚えられなくて……レベルアップしてもステータスは全然上がらないのです……それに、よく病気にかかってしまって……」
 ションボリとするルナ。
 うさ耳もシュンとしている。
「まぁ、こういうのはご主人に任せるだな。ところで、ルナは何歳なんだ?」
 レイアは自分ではどうしようもないと結論付けたので、話を変える。
「え? 一七歳ですが?」
「「え?」」
「……え?」
 ルナの意外な年齢に驚くミーシャとレイア。
 その反応に「どうしたの?」と思うルナ。
「い、意外と近いのね……」
「ああ、意外だ」
 ついでにミーシャは一八歳、レイアは一九歳である。


 と、そこで強斎がむくりと起き上がった。
「キョウサイ様、おはようございます」
「ご主人様、おはようございます」
「主様、おはようございます」
 順にミーシャ、レイア、ルナである。
「ん? ああー……おはよう三人とも。早速だが、朝食にしようか」
「「「はい」」」
 …………
 ……
 ……
 テーブルと椅子を取り出し、その上で食事をしていると、ミーシャが強斎に話しかけた。
「キョウサイ様」
「ん?」
「ルナちゃ……ルナの事なのですが」
「別に気を使わなくていい」
「では……、ルナちゃんの事で相談なのですが……」
「ほう」
 すると、ミーシャはルナを見て、合図を送る。
「え、えっと……主様。私、多分呪われています」
「知ってる」
「どれだけ練習しても、スキルが手に入らないんです」
「知ってる」
「レベルアップしても、全然ステータスが上がらないんです」
「知ってる」
「それと病気にかかりやすくて……」
「知ってる」
「…………」
「それに、属性もないよな?」
「そうです……」
「ルナ、お前まさか自分の呪いについてわからないのか?」
「え? あ、はい……」
「ステータスに何も書いてないのか?」
「書いていません……」
 その言葉に少々驚く強斎。
(超解析の方が詳しくわかるってことか……)
 実際、この世界の人はLUKが数値化されていないことから、色々と違いがあるのだが。


「じゃあ、教えてやろう。お前の呪いは。全ステータス一/四、魔術使用不可、スキル使用不可、状態異常耐性低下。これだ」
 強斎の言葉にしばし固まる三人。
 そして、ルナが恐る恐る口を開いた。
「……主様は一体……」
「人間だ」
 何故か即答した強斎。
 そして、言葉を続けた。
「後、お前は属性もしっかりとある。しかもユニーク属性」
 にやりと笑う強斎。
「ほ、ほんとですかっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ああ、本当だ。後、ルナが知りたいだろうと言う事も解決出来る」
「私が……?」
「ああ、俺は恐らく呪いを解呪できる」
「「「!!??」」」
 ルナだけではなく、ミーシャとレイアまでもが驚く。
「きょ、キョウサイ様! ど、どうやって[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ご主人様は光属性を持っていないはずじゃ……」
「あー……お前らにまだ見せていないものがあったな。ついでだ、ルナも俺のステータスを見ろ」
 #


 キョウサイ・タカナシ
 配下数一四
 LV145
 HP 1・56105E+四六/1・56105E+四六(-一千四百万)
 MP 6・46721E+四六/6・46721E+四六(-一千二百万)
 STR 1・78406E+四五(-百五十万)
 DEX 2・00707E+四五(-百三十万)
 VIT 1・56105E+四五(-百二十万)
 INT 2・00707E+四五(-百二十万)
 AGI 1・78406E+四五(-百五十万)
 MND 1・31574E+四六(-百二十万)
 LUK 五〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 剣術LV94
 刀術LV97
 二刀流LV78
 細剣術LV65
 投擲LV67
 大槌術LV87
 棒術LV78
 体術LV90
 槍術LV77
 弓術LV81
 盾LV69
 大盾LV52
 調教LV99
 料理LV76
 潜水LV62
 吸血LV48
 生活魔術
 灼熱の息
 極寒の息
 落雷操作
 天変地異の発動
 無双
 魔物召喚
 死霊指揮
 火属性LV87
 水属性LV90
 土属性LV92
 風属性LV88
 闇属性LV89
 光属性LV78
 MP回復速度上昇LV91
 HP回復速度上昇LV87
 アイテムボックスⅢ
 超隠蔽Ⅱ
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 帝王の威圧Ⅴ
 限界突破
 超越者
 覇者
 聖騎士
 竜殺し
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 眷属ステータス分配
 眷属スキル分配Ⅱ
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・土・風・闇・光
 |想像魔術《SPユニーク》
 竜の王(ユニーク)
 召喚魔術(ユニーク)
 死霊魔術(ユニーク)
 竜の上に立つ存在(???)
 世界を破壊する者(???)
 神を超えた者(???)
 #


「「……」」
 やはり無言になるミーシャとレイア。
 ルナに至ってはガタガタ震えている。
「キョウサイ様……どうしてこうなったんですか?」
「えっと、寝付けない時があったから、その時に抜け出して、ドレット王国目指して走ってたら、何かの秘境に着いた。そこで色んな魔物をテイムしてた」
「もう……滅茶苦茶ですね……」
 ミーシャが目元を方手で覆う。
「って事で、ルナ。もう、呪いはなくなったから安心しろ。|戒《ギアス》は無理っぽいけど」
 しかし、ルナはガタガタ震えるだけだった。
「そりゃあ、ご主人様のステータス見たらこうなりますよ……」
「ふむ、やはりまだ子供か……」
「子供じゃなくてもこうなりますね。普通失禁ものです。後、キョウサイ様。ルナは一七歳ですよ」
「はぁぁあ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
(俺と同い年かよ[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 こうして、紫髪の兎族、ルナが仲間になった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しています
普通の人、勇者が使うような魔術、武器防具とか……
何故今回、性的な描写が出てこなかったって?
雪山で性行為って鬼畜じゃないですか!
感想待ってます。


緋色月下、狂咲ノ絶を大音量聴いていて、テンションめっちゃ上がってました。
それ以外も聴いていましたよ?
いや、オーエン最高っす!
その後、紅魔郷EXやったらスコアが一億五千万しかいかなかった……orz
あ、自分はキーボードです
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]25話 召喚魔術っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回は短めです!
[#ここで字下げ終わり]




「主様! 肩はこっておりませんか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「いや、大丈夫だ。てか、そんな歳じゃない」


「主様! 履物を磨きましょう!」
「履物なんて直ぐに綺麗にできるから……。後、これ一応防具な」


「主様! 足を舐めましょう!」
「…………」


 ルナが調子を取り戻した時から、このようなやり取りが続いている。
 紫髪が、段々と青色に近づきつつあるルナ。
 先日までの絶望が嘘であったかのような、生き生きとした目をしていた。
 そして、何かと強斎に尽くそうとする。流石に足を舐めると言った時は、強斎からきついお叱りを貰っていた。


 そして、ミーシャとレイアが無詠唱魔術の練習をしている時、またしてもルナが強斎に話しかけた。
「主様! 何か、私にできることは――」
「あー……そうだな、魔術の練習をしよう」
「魔術ですか?」
「ああ、お前の属性は召喚魔術。ユニーク属性だ。……って俺も持ってるから、ユニークでもなんでもない気がするが……。まぁ、その辺は置いといて……。お前はMPが高い、だからある程度の魔物は召喚できるはずだ」
「は、はい! ……ですが、主様。どうやって魔物を召喚するのですか?」
「ああー……簡潔に言うと。魔物をテイムして、召喚できるように設定する。とまぁ、こんな感じかな」
 何となく理解した様な表情をするルナ。
 その表情に安堵する強斎。
 詳しく説明しろと言われても、口下手な強斎には無理なのだ。


「よし、じゃあちょっと手本を見せてやる」
 そう言って、強斎は少し離れたところに魔物を召喚する。
 指定した場所に多くの光が集まり、その魔物は姿を現した。
 その魔物が現れた瞬間、ルナは尻餅をつき、ミーシャとレイアは無詠唱を失敗した。
『主よ、何の用だ?』
 その魔物は一見、巨大な白馬。4m近くある。
 しかし、違うのは大きさだけではない。
 羽と角があるのだ。
 ユニコーンとペガサスを連想させる雰囲気を持っている。
「ぬ、主様……この魔物は……?」
「あ? …………お前、種族は?」
 強斎は知らずにテイムしてきたらしい。
『我が種族は|一角天馬《ペガサスユニコーン》だ』
「「「ええぇっ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」」」
 強斎以外の三人は驚愕の声を出した。
 強斎といえば……。
(痛い! ネームがイタすぎる! 一角天馬でペガサスユニコーンって……!)
 別のところで驚愕していた。
 無詠唱の練習を中止したミーシャが、強斎の元に走ってくる。
「きょ、キョウサイ様! なんて魔物をテイムしているのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「え? ダメだった?」
「ペガサスユニコーンと言えば神話級の魔物ですよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 神話級って一体討伐するのに、人間界全戦力使っても難しいって言われてる程なんですよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「へ、へー。でも、こいつ程度だったらミーシャやレイアでも倒せるはずだぞ?」
「ええ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎の言葉に驚くのはルナだった。
「ミーシャさんとレイアさんってそんなに強いのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 その疑問に答えたのはレイアだった。
「ああ、私たちのどちらかが、単独で魔王と遊ぶ程度にな」
「ま、まさか主様より強い奴隷なんて……」
「お前は何を言っているんだ? ご主人のステータスを見ただろ? 私たちなんて、念じただけで死ぬレベルだぞ?」
「念じただけで死ぬとか、ちょっとわかんないです……。主様のステータスを見ましたが、そこまで大きくありませんでしたよね? E+とかついていましたけど……」
 ルナはスキルの多さにビックリしていたようだ。
 だから、失禁まではしなかったという……。
「あー……E+ってのはな――」


 少女説明中…………。


「……レイアさん。主様って何者ですか?」
「ご主人はご主人だ。どれだけ変わろうが、私の愛しのご主人には変わりない」
「レイアさん。それはちょっと違います」
「なに……?」
「レイアさんのではなく、私たち奴隷の主様です」
「ほう、お前も言う様になったな」
「私も一人の女として負けたくありませんから」
 そこで、ルナは強斎の方を見た。


「ですから、人前では絶対に召喚してはいけませんよ?」
「わかってるって。そもそも、召喚魔術自体使わないから」
「ならいいですが……。……そう言えばキョウサイ様? まさか、残りの一三体の魔物がこのクラスの魔物なわけありませんよね?」
「そんなわけ無いだろ? そもそも神話級の魔物なんて……あ」
「どうしたんですか?」
「いや、多分こいつクラスならいくつかテイムしたわ」
 そう言って強斎は全ての魔物を召喚する。
 そこに現れたのは……。
 不死鳥(フェニックス)
 不死の王(ノーライフキング)
 グリフォン
 炎竜王
 水竜王
 ユニコーン×三
 ペガサス×三
 スライム


 上の三つに至っては神話級である。
「……キョウサイ様?」
「どうした?」
「この世界をどうするおつもりですか? この魔物達が居なくなる事により、大変なことになりますよ?」
「大丈夫だ、召喚する時以外はちゃんと元の位置にいるし、召喚しても俺の作ったクローンがいる」
「そうですか……。と、いうより、何故スライムがいるのです?」
「いや、最弱の魔物をレベリングするのって楽しいじゃん?」
「……」
 こうして、強斎の召喚魔術ショーが終わった。
…………
……
……
「さて、ルナ。少し遅くなったが、召喚魔術を練習しよう」
「は、はい!」
「まずは魔物探しだ!」
 そう言って、強斎はマップで魔物を探す……が。
「あれ? 魔物いないぞ?」
「え? いないのですか?」
 それもそうだろう。
 ミーシャとレイアが、雪合戦という自然破壊をしていたのだから。


「はぁ……しょうがない。移動するか」
「すみません……」
「お前が謝ること無い。そろそろ移動しようかと思っていたところだ」
 強斎はミーシャとレイアを呼ぶ。
「よし、そろそろ行くぞ」
「「「はい」」」
 こうして、新しい仲間と共に雪山から出るのであった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前募集しております!
さて、ルナはいつ、スキルをもらえるのでしょうか?
そして、最初の魔物はなんなのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]26話 魔神と強斎っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
どうも、少し熱を出してしまって投稿遅れました
せっかくのGWがぁぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]
[#ここで字下げ終わり]




「主様! できました!」


 強斎達は山を下山し、少し歩いたところで草原に出た。
 そこで、初級魔物のウルフと出会ったのである。
 強斎は、ルナに指示をしてウルフを弱らせテイムさせたのだ。
 ミーシャとレイアは周辺を探索していた。


「よくやったな」
「はい!」
 ルナの頭を撫でる強斎。
 見た感じは小学生と高校生だが、同い年だ。


 そこで、ミーシャから声がかかった。
「キョウサイ様、この先に迷宮を発見しました」
「迷宮?」
「はい、どうなされます?」
「迷宮……ああ、迷宮ね。どんなところだっけ?」
「そう言えば、記憶喪失でしたね。迷宮とは魔物が生息していて、地下に行くほど魔物の強さは強くなります。どういう原理かはわかりませんが、階段やフロアがあり、モンスターハウスやボスフロアなどがあります。最深階のボスを倒すと、その迷宮を手に入れられる様になっております。手に入れてからはそこで商売するのもいいし、魔物刈りをしてレベルアップするのもいいですね」
 と、そこまで説明されたところで、強斎の好奇心が動いた。
「……迷宮を手に入れる?」
「はい。迷宮を手に入れて人間を誘い込み奴隷にするのも良し。魔物を増やして、テイムした魔物を育てるのも良しですね」
「ふむ……面白そうだな。ちょっとその迷宮を制圧しに行くか」
「所有物の場合はどうするんです?」
「殺してでも奪い取る」
 そこで、レイアが戻ってきた。


「ご主人様。迷宮があったので、制圧してきました」
「仕事早いな!」
「ありがとうございます!」
 尻尾を振りながら笑顔で答えるレイア。
 強斎はもっと突っ込みたかったが、その姿を見ているとその気になれなかった。


…………
……
……


 強斎達が迷宮に向かっている途中、奴隷達はルナのウルフを見て、ルナを褒めていたが、強斎が爆弾発言をしたことにより、静まり返った。


「本気で魔術を使ってみたい」
 そう呟いてしまったのである。
 その言葉にミーシャとレイアが顔を青くし、ルナは召喚魔術しか見たことないので、どんな反応したらいいのか困っていたが、とても大変な事だとは察することができた。
「キョウサイ様! やめて下さい! この世界が滅んでしまいます!」
「いや、冗談だからな? ちょっと空にやってみようと思っただけだからな?」
「ご主人様が本気で魔術を放ったら、時空の壁を割りそうですね! ですから上空に放つのもやめて下さい!」
「えー」
「「えーじゃありません!」」
 初めて奴隷からお叱りを貰った強斎であった。


「しょうがない、新魔術で我慢するか」
 そう言って強斎は手を前に出す。
 そこに濃密なエネルギーが流れていることは目に見えてわかった。
 強斎が初めて魔術で集中しているのだ。
 そして、刹那の集中後、強斎はその言葉を口にした。
「『終焉』」


    *


 強斎は全ての属性を無理矢理に合成し、一つの属性魔術を蘇らせた。


 ――――虚無属性。


 ありとあらゆる物を破壊する為、封印された精霊。
 その精霊が今、目を覚ました。


    *


 強斎の手のひらには、白に近いが白ではない。そのような球体が存在していた。
「キョウサイ様……それは?」
 圧倒的な存在感を放つ球体に奴隷達は釘付けだ。
「ああ、これは全属性の神級魔術を圧縮して、無理矢理合成させたらこうなった」
 さらっと強斎は言っているが、これは惨事で済まないほど大惨事なのである。
 まず、この世界に一つの属性の神級魔術を使える者は数える程しかいない。
 そのどれもがエルフ等長寿の生物だ。
 しかも神級魔術は使うのに多大な時間とMPが必要なのである。
 しかし、その威力は折り紙付きで、戦争であれば一気に形勢が逆転するほどである。
 その事を理解したのか、また真っ青になるミーシャとレイア。
 ルナまでもが真っ青だ。
 強斎はその姿を見向きもせず、上空の一点を見た状態で上空に手を向けた。
 そして、強斎は上空に『終焉』を放った。
『終焉』は弾丸の様に一直線に進み、圧倒的なエネルギーのせいで空間が一瞬歪む。
 それでも、周囲に被害が無いのは、強斎がそのエネルギーすら『終焉』に使ったためだ。
 その圧倒的なエネルギーを持った『終焉』だが……。


 パァン[#縦中横]!![#縦中横終わり]


 ――――――何かにぶつかって霧散したのである。


「「「え?」」」
 その出来事に強斎以外の三人が驚く。
 しかし、強斎だけは当然だと言う様に微動だにしなかった。
 そして、強斎は口を開いた。
「いい加減出てこいよ。俺には見えてるんだぜ?」
 奴隷達はその言葉の意味がわかっていなかったが、それも数瞬だった。
「――――まさか、本当に見えてるなんてね」
 先ほどの『終焉』が霧散した場所から声が聞こえたのだ。
 そして、その声の正体が姿を現した。


 その正体は女性だった。
 身長はミーシャやレイアと変わらない。
 胸も手で収めるのが難しいほどある。
 そして、スタイルも完璧だった。
 髪の色は銀色と紫色を混ぜた様な色だった。そして、長さは腰まで届くほど長く、その全てが輝いて見えるほど綺麗だった。
 肌の色は白く、かと言って雪のように白いわけではない。
 顔立ちはかなり良い。ミーシャやレイア、澪や鈴を凌駕するほどに。
 先ほどの声も透き通っていて、幼さと落ち着きさ、大人っぽさと凛々しさが感じられた。
 全てのパーツを完璧に揃えてバランス良くし、更に美しくしたような女性であった。
 しかし、一つ問題があった。
 そう、この女性……。


 ――――――生まれたままの姿なのだ。




 強斎は浮いている女性に話を続けた。
「いつから居た?」
「あなたが魔術を使った辺りから」
 そう言って、その女性はゆっくりと降下し、地に足を付けた。
「でも、驚きだわ。私の姿を見ることができるなんて……。あなた、どれだけの魔術耐性力と適応力があるのよ」
 その女性は、少しだけ頬を膨らませる。
 そして、奴隷達を睨んだ。
 ルナは気絶し、ミーシャとレイアは息を詰まらせている。
「そこの二人も只者じゃないわね。私の威圧波動を受けて気絶しないなんて……。まぁ、一番只者じゃないのは……あなたよね?」
 そう言ってその女性はもう一度強斎を見た。
「あなたに向けて威圧波動を使ったはずなのに、ピンピンしてるなんて……。人外にも程があるでしょ」
 その女性は呆れた様子でため息を吐く。
 強斎はその疑問に答えた。
「人外なのはお互い様だな。ルナは仕方がないとして、俺のミーシャとレイアを威圧の余波だけでああにもできるなんてな」
 ふっと鼻を鳴らし、一つ間を置いてから言葉を続けた。
「……お前、何者だ」
「あら? 名を訊く時は先に名乗るのがセオリーでしょ?」
 ふふふと笑う女性に強斎は驚いていた。
「お前、その意味がわかるのか……?」
 そう、強斎はシッカ王国に居る時、不意にその言葉を使ったのだ。
 しかし、全く意味が通じないことから、この世界にない言葉だと思っていた。
「名前を訊くのか、言葉の意味を訊くのかどっちかにしなさい」
 そう言われ、改めて冷静になる。
「そうだな、俺の名前は強斎。ちゃんとした人間族だ」
「あなたが人間? 笑わせないで」
 その途端、ミーシャとレイアがパタリと倒れた。
「威力を上げてどうするつもりだ?」
「ほらね? ここまでの威圧波動を受けて、気絶しない生物なんていないわよ? それに、さっきと全く変わらずピンピンしてる。本当にあなた人間? 神かなんかじゃないの?」
「だから、人間だと言っている。それに、さっきの答えを聞いてないぞ。お前は何者だ」
「あら、ごめんなさいね。私は虚無の精霊。名前は無いけど、かつて魔神と言われたことならあったわね」
 強斎はその言葉に納得した。
(魔神……ね。確かに表示上はレベル低いな)
 強斎は以前、ミーシャに魔神について少しだけ教えてもらっていた。


 ――――レベルが低いのに物凄く強い。


 こういう意味だったのだ。

???
LV10(三千五百万)
HP 千/千(4・32991E+三四/4・32991E+三四)
MP 千/千(7・10526E+三六/7・10526E+三六)
STR 一〇〇(5・46208E+三〇)
DEX 一〇〇(4・94052E+三〇)
VIT 一〇〇(5・57430E+三〇)
INT 一〇〇(2・78821E+三二)
AGI 一〇〇(5・10284E+三〇)
MND 一〇〇(3・72448E+三一)
LUK 一〇(一五〇)
スキル
(状態異常無効化)
(呪系統無効化)
(火属性LV90)
(水属性LV90)
(土属性LV90)
(風属性LV90)
(光属性LV90)
(闇属性LV90)
(虚無属性LV99)
(調教LV80)
(HP自動回復速度上昇LV90)
(MP自動回復速度上昇LV90)
(魔術攻撃力増加LV90)
(魔術防御力増加LV90)
(物理攻撃力増加LV90)
(物理防御力増加LV90)
(回復系統魔術Ⅸ)
(限界突破)
(超越者)
(覇者)
(超隠蔽)
(精霊の威圧波動Ⅳ)
属性
(火・水・土・風・光・闇・虚無(オールアトリビュート))
(神の|回復魔術《SPユニーク》)
(虚無の精霊王(???))
(世界を破壊する者(???))





「どうしたの? 私をじっと見て」
 強斎がこの女性のステータスを見ていると、不審に思ったのか話しかけられた。
「とりあえず、服を着ろ。色々と危ない」
 強斎はアイテムボックスからコートを出す。
「あら、あなたも男の子なのね。でも、無理。私に命令できるのは私より強い人って決まってるんだから」
 そう言って、受け渡しを断った。
 そして、強斎はその女性の目を見てこう言った。
「元から俺と手合わせするつもりだったんだろう?」
 その言葉に、女性は微笑む。
「理解が早くて助かるわ。私以外に虚無の属性を操れる者が現れて、やっと私が動けるようになったの。これくらいいいでしょ?」
「俺に何のメリットもないな」
 その言葉に少しむすっとする女性。
 そして、何か思いついたのかパンっと手を叩いた。
「じゃあ、こうしましょ? この戦いに勝った方が相手をモノに出来る。これならいいでしょ?」
「奴隷みたいなもんか?」
「そう。精霊契約を使うから、奴隷とちょっと違うけどね。違うところは、衣食住と生命を保証させる事とそう簡単には解除できないところね」
「なぜ、その提案をするんだ?」
「私が、あなたを欲しいからよ。虚無属性の使い手なんていないからね。過去に精霊以外で使えた人いないよ?」
「使い手がいないのに、お前は存在していたのか?」
「その頃は私、消されなかったからね。私は虚無の空間から生まれた精霊。一度目はそういうところから生まれるけど、二度以降の転生は使い手が現れないと無理。私は他の精霊王や神と戦って負けちゃったからね、それで消えちゃったわけよ」
 そして、その女性は「さて」と言い……。
「さっきの話を聴いてわかったと思うけど、私は神と同等の力を持っている。まぁ、故に魔神って言われたんだけどね。で、その私と戦って私の下につかない? 色々と優遇するわよ?」
「いい提案だと思うけど」と付け加えた。
「じゃあ、もし俺が勝ってお前を配下にした場合、俺に何のメリットがある?」
「そうねー……万が一私に勝てたら、ある程度の精霊は操れる様になるんじゃないかしら?」
「操る?」
「そ。まぁ、上級以上の精霊はわからないけど、中級以下なら、どんな属性の精霊でも命令できるようになるんじゃないかしら?」
「属性が違うのにか?」
「ええ、属性が違っても私は精霊王。精霊王を配下にしたってだけで、言う事聞くでしょうね。上級以上は、その属性の精霊王じゃないと聞かないと思う」
「そうか……」
「どう? やる気になった?」
「ああ、いいだろう。お前と戦ってやる!」
「そうこなくっちゃ!」


 こうして、魔神対強斎の戦いが始まった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前募集です
この魔神ちゃんの名前も募集です!
一糸まとわぬ超美女……閃いた
感想待ってます!
実は自分、熱を出すと時々とある事が起きるのですよ。
あらゆるものの自信とやる気を無くすんですよね。
昨日パズドラを始めたのですが、それも直ぐに放置でしたね。
あ、今は違いますよ? 普通にパズドラ楽しんでますよ? 後、モンストも
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]27話 魔神VS強斎っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
PVが二百万超えてました! 読者の皆様! 本当にありがとうございます!
不定期ながらこれからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!
魔神ちゃんの名前候補が結構来ててびっくりしました……!
[#ここで字下げ終わり]




「どうする? ここで戦う?」
 魔神と呼ばれていた虚無の精霊の女性は強斎の奴隷を見て、強斎に問う。
「いや、ここじゃ草原が大変なことになる。場所を移そう」
「当てはあるの?」
「あそこに地下への入口があるだろう? あれは迷宮だ。あの中で戦おう」
「そんな広い空間あるのかしら?」
「無くてもお前だったら簡単にできるだろう? 魔神さんよ」
「それもそうね」
 そうして、強斎達は奴隷を連れて迷宮に向かった。
「その子達も連れてくの?」
「ああ、いくら強くても気絶してたら危ないだろ」
「奴隷に親切なのね」
「仲間だからな」


…………
……
……


 強斎と魔神は問題なく迷宮の最下層にたどり着いた。
「全く、下級魔物じゃ準備運動にすらならないじゃない」
「流石は魔神様だな」
「あなたこそ、見ただけで殺すとか何者よ。もしかしたら私より強いんじゃない?」
「それはどうかな? それより、この最下層を改造するぞ。ここはまだ発展途中だ。後、一つ上の階層の安全エリアにこいつらを置いていく」
「素直に私に頼みなさいよ」
「はいはい。俺はこいつらを安全エリアに監禁するから、その間広い部屋を作っておいてくれ」
「りょーかい。でも、迷宮ってすごいわね。何かの結界かしら?」
「どういう事だ?」
「どれだけ下に行っても、どれだけ横に広げても終わりが見えないのよ。上は別だけど」
「そうか。なら、うんと広い空間を作ってくれ」
「ふふ、楽しみにしてなさい。オールアトリビュートどうしの戦いだもの。人間界ぐらいの面積にしてあげるわ」
「そこまでしなくていい。街一つぐらいの大きさで十分だ」
「そんなの一瞬じゃない」
「それでいい」
「むー」
 魔神は可愛らしく頬を膨らませた。
(……見た目じゃ全く魔神に見えんな)
 そう思って、強斎は一つ上の階層に向かった。
…………
……
……
「作るのはえーよ」
 強斎が奴隷達を安全な場所に[#傍点]監禁[#傍点終わり]して、最下層に戻ってきた時には膨大なフロアが広がっていた。
「だから言ったでしょ? 一瞬だって。あなたの様子を見る暇もあったわ。わざわざ、中から出れない様にしなくてもいいんじゃない?」
「言ったろ? 仲間だって」
「ふーん。私と互角以上に戦える自信があるわけ?」
 その問いに強斎は静かに首を振った。
「いや、ワンサイドゲームだろうな」
「わんさいどげーむ?」
「流石にわかんないか。一方的な戦いになるってことだ」
「へー……わかってるじゃない。降参するなら今のうちよ?」
「何を言っている。お前が一方的に負けるんだよ」
「私が? 言っておくけど、私。どの精霊王よりも強いのよ? そして、力は神にも等しい……その私が一方的に負けるとでも?」
 若干苛立ちが見えてきた魔神。
「ああ、そうだ。お前は俺に一方的に負ける。なんなら俺に全力で殴ってこいよ。魔術でもいいぜ?」
 すると、魔神は不敵に笑い出した。
「ふふふ……この私相手にここまで余裕なんてね……。いいわ、その言葉……後悔しなさい!」
 そう言うと、魔神はふわりと浮き出した。
「属性『世界を破壊する者』発動[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 すると、魔神の周りを透明なモヤが覆った。
 しかし、それだけでは終わらなかった。
「『限界突破』発動! 『超越者』発動[#縦中横]!![#縦中横終わり] 『覇者』発動[#縦中横]!!![#縦中横終わり] 『終焉』と『虚空』を合成!」
 不可視のオーラと言うべき物が魔神を覆っていた。
 手には白に近い球体と、闇よりも深い、宇宙の様な色をした球体が混ざり合っていた。
 その不思議な光景に強斎が見とれていると、魔神が口を開いた。
「ふふふ……何事かと思っているわね……。いいわ、説明してあげる。属性『世界を破壊する者』はSTRとINTを五倍にする属性よ。そして、『限界突破』はLUK以外の全ステータスを二倍。『超越者』はLUK以外のステータスを三倍。『覇者』はLUK以外のどれかを一〇倍にするスキルよ……」
 そして、魔神は強斎を見下ろしながら話を続けた。
「そして、今発動している魔術は、虚無属性以外で造った属性の神級虚無魔術と、虚無属性で造った神級虚無魔術……。そうね、『|混沌《カオス》』とでも名づけましょうか」
 そして、その『混沌』を強斎に向ける。
「私をナメた事を後悔することね」
「おいおい、俺を消し飛ばしていいのか? 俺が欲しいんだろ?」
「大丈夫よ、消し飛んだ瞬間に治してあげるから」
「あっそ……。まぁ、その程度の魔術じゃ俺には効かないがな」
「へ、へぇ……まだ余裕でいられるの? 言っとくけど、私のINT元の三〇〇倍よ? 精霊王のINTの三〇〇倍よ? 魔術の元である精霊の王の中でも、最強の私の全力の三〇〇倍よ? わかってる?」
「いいから撃ってこいよ。その程度、魔力弾で黙殺できるわ」
 そう言って強斎は手に魔力を込める。
 魔力弾とはMPさえあれば、属性がなくても使える初歩の初歩魔術である。
「ここまでナメきってるなんてね……いいわ、消し飛びなさい!」
 そう言って魔神は『混沌』を強斎に放った。
 空間が歪み、地形や空気の流れが一瞬変わる。
 そのような威力が強斎に放たれた。
 しかし……。
「ふっ」
 強斎は鼻を鳴らし、余裕の表情で魔力弾をぶつける。




 そして――――――。




「え?」
『混沌』がいとも簡単に消し飛ばされ、更に、威力を殺さないまま、魔力弾は魔神の右頬の真横を通った。
 その一連の出来事に魔神の思考はフリーズした。
 しかし、それを気にもせず強斎は口を開いた。
「初めて魔力弾を使ってみたが……本気出さなくてよかったな。これ、本気出したらヤバくないか?」
 そして、魔神のフリーズした思考に、鈍器で殴られたような衝撃が走った。


 ――――本気ではない。


 強斎はこう言っていた。


「う……そ…………あの威力の魔力弾が本気じゃない……? なんなのよあなた……。……本当に生物? 人外や化物なんてレベルじゃないわよ…………! 神より全然強いじゃない……!」
 魔神は強斎の規格外さに恐れ始めてきてしまった。
 冷汗を流し、小刻みに体が震えている。
 若干目元に涙を溜めていた。
 何も知らない人がその光景を見たら、全裸の超美女が目の前の男に犯されそうになり、恐怖で震えているようだ。確実に通報ものである。


 その魔神とは思えない雰囲気を出している魔神に、強斎は近寄る。
「おい、この程度なのか?」
「ひぃっ!」
 何とも可愛らしい声で、小さな悲鳴をあげる魔神。
 そして、この姿を見て、強斎はとある事を思っていた。
(やべぇ……超楽しい……)
 サディスト強斎の誕生である。
「この程度なのかと言っている!」
 大声をあげた強斎にびくりと怯える魔神。
 小刻みではなく完全に震えている。
「あ……あ……あ……」
「あ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんて言ったんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ひぃっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎が声を出すたびにびくりと反応する魔神。
 遂に丸まってしまった。
「おい、さっきの余裕はどこに行ったんだ? いいから立てよ、そして続けようぜ? 戦いをよ」
 その時、魔神は強斎の顔を見て、完全に恐怖を感じた。
 まるで、悪魔の様ににやりと笑っていたのだ。
 強斎はただ、魔神の反応が面白くてにやけているだけなのだが、魔神にとっては、たまったもんじゃない。
 そして、その顔を見てから魔神は狂った様に声をあげた。
「うああぁぁぁぁぁ[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
 ガバッと起き上がり、強斎に殴りかかった。
 その不意に強斎は驚き、無防備の体に拳が当たる。
 空間が歪むほどの攻撃力。
 その拳を、無防備な体に当てられても全く痛みを感じていないような人間。……いや、化物。
 それを魔神が一番実感していた。
「っ! っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 何発も殴るが強斎にダメージは与えられない。
 悪魔の様ににやけているだけだ。
 強斎は半泣きで殴る超美女に、罪悪感で苦笑いをしていただけだが。


「なんでっ! なんで[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 一点集中の身体強化で殴る。
 至近距離での『混沌』を発動する。
 あらゆる方向から、あらゆる神級魔術を当てる。


 ――――その全てが強斎には無駄だった。


「そんな……そんな……!」
 何をしても無駄だとわかった魔神は、その場でへたり込む。
 そして、その魔神に強斎は止めの一言を言った。
「言っとくが、俺は攻撃型だ。防御より攻撃の方が圧倒的に高い」
 魔神にはこう聞こえてしまった。
『俺は防御力より攻撃力の方が高い。だから、お前など簡単に消し飛ばせる』
 と。
 その瞬間、魔神の涙腺は崩壊し、戦意を喪失した。
「ひぐっ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「え? あ、ああ」
 戦意を喪失したといえ、先ほどの強気の女性とは全く思えない。まるで子供のようだった。
「私の……負けです……ひぐっ……だから……なんでもしますから……殺すのは……やめて下さい……ぐすっ……もう……一人は嫌なんです……」
 そして、強斎は大きな罪悪感に浸かった。


 この女性は、ただ構って欲しかっただけだったのだ。


 実体がある時は、圧倒的な力のせいで必然的に一人。
 そして、一人のまま消されてしまった。
 それから幾年もの間、一人で虚無の属性を使える者を、無限と思える時間待たされ続けた。


 そこまで考えてから、強斎は胸が痛くなった。
(ったく! 何やってんだ俺は[#縦中横]!![#縦中横終わり])
 ただ楽しいから。そんな理由でこの女性をからかっていた。
 そう、魔神とはいえ女性だ。
 その事実が更に強斎を苦しめる。
 強斎はもう一度、泣いている女性を見る。
(全く……どうしてこう……同じようなことが起きるのかね……)
 ふと思い出したのはこの世界のどこかにいる、一番最初の親友。
(この姿を見ていると、あの時の澪を思い出すな……)
 そこで大きなため息をついた。
 そして――――。


「おい」
 強斎はその女性に声をかけた。
 未だにビクビクしている。
「負けを認めろ。そして、俺について来い。俺がお前を孤独から守ってやる」
「え?」
 突然の強斎の言葉により戸惑う女性。
「お前は今まで孤独だったんだろ? じゃあ、俺がお前の仲間になってやる。一番最初のな」
 段々と意味を理解してきた女性。
 そして、その女性は口を開いた。
「……はい。私の負けです」
 その時、女性の体を光が包み込む。
 その出来事に、強斎は驚きを隠せなかった。


「……これは?」
「精霊契約で、私があなたの……いえ、主人の配下になった時の現象です」
「これが……」
「はい、それでは主人。私に名前を下さい」
「名前か……そうだな……」
 そして、強斎は虚無の精霊王にて魔神の女性に名前をさずけた。
 その名前は…………。






「――――――お前の名前は『ゼロ・ヴァニタス』だ。これからよろしくな。ゼロ」
「はい、主人」
「それと敬語はやめろ。さっきまで敬語じゃないのにいきなり敬語とか。お前も嫌だろう……?」
 レイアの場合はどうなるんだと誰かが突っ込んだだろう。
「そうだな、ちょいと敬語は疲れる。心が弱くなると自然と敬語になってしまうのだな?」
「それは知らん」
「だが、ありがとう。これから私は『ゼロ・ヴァニタス』……ゼロとして生きるわ。よろしくね、主人」
「ああ」


 こうして、最強の仲間を手に入れた強斎であった。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しています。
今回のゼロ・ヴァニタスの意味ですが
ゼロはお馴染みの、無、全ての元、と言う意味で使わせていただきました!
で、ヴァニタスですが、ラテン語で虚無や空虚と言う意味らしいので……
虚無の元と言う感じで決めました!
たくさんの名前、本当にありがとうございます!
次回は閑話の澪ルートか勇者視点を考えています。
もしかしたら、普通に進めるかもしれませんがw
では、感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]28話 狂ってしまうほど愛しているっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今気がついたんですが……
ゼロのステータスのE+三〇超って、強斎の時は普通に表示させていましたよね……?


今回は閑話に近いけど、閑話じゃない……
宣言します、伏線です。
[#ここで字下げ終わり]




「……お…………み……お…………澪[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎がゼロを仲間にする少し前の深夜。
 ドレット王国の王宮では澪を呼ぶ声が聞こえていた。
 その声で呼ばれた本人、洞爺澪は静かにまぶたを開ける。


「……鈴?」


 そう、澪を呼んでいた声の正体は、羽田鈴であった。
「よかった……やっと起きた」
「どうしたの? こんな夜中に」
「どうしたの? じゃないわよ……」
 そう言って鈴は澪の頬に指を当てる。
「ひゃっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 急な出来事に軽く混乱する澪。
 しかし、月明かりに照らされた鈴の顔を見て、混乱は晴れた。
「……鈴? 本当にどうしたのよ? そんな悲しい顔しちゃって……鈴らしくないよ?」
 そう言って澪は鈴の頬に手を当てようとするが、その前に鈴の指が離れた。
「……私の心配をする前に、自分の心配をしなさいよ……ばか」
「え?」
 鈴の指を見て澪は一瞬固まり、鈴に触れようとしていた手を自分の頬に当てる。
「……あれ? ……なんで? …………なんで、私…………泣いているの? ……いやだな……なんでだろ……あはは……」
 澪は無理矢理笑おうとしているが、それを裏切るように涙は勢いを増していった。
「ぐすっ……なんで……? なんで……止まらないの……?」
 何度も拭うが、止まる様子はない。
 その姿を見て、鈴は堪らず澪を抱きしめた。
「……我慢しなくていい。おもっきり泣きなさい。澪」
 すると、何かが吹っ切れたように澪は泣き出した。
「逢いたい……! 逢いたいよ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 強斎に会って話がしたいよ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 強斎……! 強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 鈴にしがみつき、そう涙声で言う澪。
 鈴はそれを無言で受け取った。


 暫くすると澪が泣き止み、ポツリポツリと話し始めた。
「私……|魘《うな》されてた?」
「ええ。とっても苦しそうに。見ているこっちが不安だったわ」
「そっか……」
 澪と鈴は数週間前から同じ部屋で寝るようにしている。


 澪はキュッと鈴にしがみつくと、「あのね……」と話をしだした。
「私、夢を見てたの……すっごく残酷な夢。今まで生きてて、ここまで残酷な夢なんて見たことなかった」
「……」
 そして、澪は一層強く鈴を抱き締める。
「……強斎がね、目の前で殺される夢……。何度も何度も何度も何度も何度も……[#縦中横]!![#縦中横終わり] 叫んでた……! 苦しいって! 痛いって! 助けてって[#縦中横]!![#縦中横終わり] それなのに私は身動き一つ取れずに、ただ強斎が殺されるのを見せられ続けた[#縦中横]!![#縦中横終わり] ……なんで[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで強斎があんな目にあわなきゃならないの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 何で力無き人をあそこまで楽しく殺せるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 何でこんな夢を見るの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」


「澪、落ち着きなさい」


 澪が発狂しそうだったので、鈴が囁くように止めに入る。
 現に、澪の出していた魔力のせいで、窓に少しヒビが入っていた。
「…………ごめん、取り乱した」
「そうよ、器物損壊になるところだったわ」
 そう言って澪を少し離し、「ふふっ」っと笑いかける。
「ねぇ、強斎の事、教えてもらってもいいかな?」
「え?」
 突然のことにより、澪は驚く。
「私さ、強斎の事は高校からしか知らないし……澪はもっと前から強斎の事が好きだったんだよね?」
「……うん」
 静かに答える澪に、苦笑い混じりに鈴が話しかける。
「だから教えて? 澪にとって強斎はなんなのか。澪は強斎にどんなことをしてきたのか。強斎は澪にどんなことをしてきたのか」
 すると、澪は地球にいた頃の事を思い出し、今度こそ本当の笑顔を見せた。
「いいわ、教えてあげる。何から知りたい?」
「そうね……。じゃあ、強斎以外と結婚する気ある?」
「ない」
 即答だった。
「じゃあ、付き合うつもりは?」
「ない」
 こちらも即答だった。
「ふふっ、澪らしいな。じゃあ、澪はどれだけ強斎が好き?」
 すると、澪は一瞬息を詰めるが、鈴の目を見てしっかりと答えた。
「大好き。この気持ちは絶対に負けて無いぐらい好き」
「そ、そうなの……?」
 澪の気迫に押される鈴。
「うん。私ね、小学生の頃に、強斎の体操服の匂いを嗅いだこともあるんだから」
「へ?」
 突然の告白に鈴の思考はフリーズしかけた。
 しかし、澪の告白はまだまだ続く。
「リコーダーだって交換したし、プールの時間にズル休みして、その……ぱ、パンツを被ったり……」
「はぁぁ!!??」
 もう、何が何だかわからなくなっていた鈴だった。
 澪はピュアなイメージがあったが、強斎のことになると理性が持たないらしい。
 それでも、人前ではその姿を見せないので、犯罪まではいかなかったみたいだ。
「中学の時は、キャンプで寝込みを襲う計画を立ててたねー……で、実行したらそこで緋凪と出会ったわけ」
「……」
「勿論、夜這いは無理だったわ……」
「あ、はい」
 もう、澪と言う存在が、わからなくなってきた鈴である。
「それにね、携帯で盗撮も何十回……あれ? 何百回かな? それぐらいして、強斎専用のメモリも買ったんだから」
「……」
 もう、ドン引きである。
 しかし、そんな鈴の様子に気がつかずに、澪はドンドンヒートアップする。
「それでね! 私の家と強斎の家って近くてね……。それで、家の用事で中学の時、泊まったこともあるの!」
 キャー! と両手で顔を隠す澪。
「その時はね、強斎がおっきい方の用でトイレを使った時、私も直ぐに使っちゃったんだ! 勿論洋式だから……その……ね? もう、お尻に当たる生温かさとか、トイレに充満する強斎の匂いとか……色々興奮を抑えられなくて……その……しちゃったんだ……自慰行為……強斎の家で……」
 顔を真っ赤にさせ、俯く澪。
 鈴はもう、無言を貫き通している。
 そして、澪はガバッと赤い顔を上げると、これが本命と言わんばかりで言葉を続けた。
「でねでね! 私、強斎がお風呂入っているのを狙って、覗き見しちゃったんだ……! でも、強斎のたくましい体を見れたのは良かったんだけど、覗きがバレちゃって……。嫌われると思ったんだけど……。その時、強斎はなんて言ったと思う?」
「え? あ……え?」
 もう、何が何だかわからない鈴は、混乱状態だった。
「一緒に入るか? って言ってくれたんだよ[#縦中横]!![#縦中横終わり] もう、今にも飛び込みたかったけど……その……下が濡れちゃってて……ね? 恥ずかしかったから、脳内撮影して、直ぐに立ち去ったんだけど……私、濡れてるだけじゃなくて、鼻血まで出してたの……! もう、危なかったわ~……見られたら恥ずかしさで死んじゃうところだったよ」
 そこで、話が一段落したので、続きが来る前に、フリーズした思考を戻した鈴が話し始めた。
「はぁー……もういいわ、澪がどれだけ強斎を好きなのか。私じゃ相手にならないほどに、強斎を愛しているのね」
「え?」


 そう、その言い方はまるで――――。


「…………まさか、鈴も……なの?」
「ええ、そうよ。私も強斎が好き」
「でも、鈴は大地を……」
「大地も好き。でも、強斎も同じぐらい好き。友達としてじゃなくて、一人の男として」
 鈴の目は本気だった。
 そして、言葉を続けた。
「でも、今はそんなの関係ない。澪、あなたの大好きな強斎は、落ち込んでる澪を好きになれるかしら?」
「え?」
「だから、強斎は、落ち込んで自分を責めるような人を好きになると思う[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「……思わない」
「そう、だから落ち込まない! 次に泣くときは強斎の胸で泣きなさい」
「鈴……。ありがとう」
「私は昔話を[#傍点]聞かされた[#傍点終わり]だけよ?」
「うん、それでも。私、もう一度自信を持てるようになったよ。改めて強斎に対する想いを振り返って」
「そう、なら良かったわね。あ、そうだ――」
 鈴はにやりと笑い、鈴にとある言葉を言った。
「この世界は一人の女性が何人もの男性と結婚するのも、その逆も認められているから。……クヨクヨしていると、私が強斎を奪っちゃうね」
「なっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「んじゃ、お休み、澪」
「ちょっと! どういうことよ!」
「ZZZ……」
「あー……もう!」
 その時、日が顔を出した。
 そして、その日を見て、澪は決意する。


(強斎に会うまで、私は泣かない。次に泣くときは強斎の胸で泣く。そして、想いを伝える)


 そう、思いながら澪も二度寝を開始した。


[#ここから6字下げ]
ね、眠い……
澪の強斎に対する想いを書いてみましたが……
『これ、ヤンデレ化するんじゃね?』
と思いながら書いていました、はい
ヤンデレ予定は入れていません。
リクエストが多ければ新しいヒロイン追加しましょう。
自分の書きたいヒロインは一通り揃ったので。


そう言えば、作中の中で地形とかわかりにくい話ありました?
あったら感想で言ってください。できるだけ頑張って直します
それと、ルビ確認ができるようになったので、それも追々直していきたいです
感想待ってます!
うおお……舌がダルイですわ……
小説書いている時にドタ☆バタ紅魔館歌ってましたから……
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]29話 ゼロと奴隷っぽい[#中見出し終わり]






「ゼロ、お前に聞きたい事がある」
「どうしたの? 主人」
 ゼロとの契約が終わって、奴隷達を監禁している部屋に戻る時に、強斎は今まで気になっていた事を訊いた。
 今のゼロはちゃんと服を着ている。
 ……コート一枚だが。
「お前、何で『セオリー』って言葉知ってたんだ?」
 ゼロは少し微笑し、からかおうと思ったが、強斎の真剣な顔を見てそれはやめておこうと思った。
「私が消える前に使われていたんだけど……今の時代じゃ、使われていないみたいだね」
「なに? それはいつ頃だ?」
「んー……私が消されたのは、いつだっけな……あんまり思い出したくない時間だから覚えてないや」
「そうか、それは悪かったな」
 そう言ってゼロを見たが……。
「ちょっ、おま……! 何やってんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「いや、このコート着てると膝上が痒くて……」
「だからって脱ぐな!」
「えー」
「えーじゃない!」
 ゼロはコートを脱いで全裸に戻っていた。
「ミーシャに許可取って服を貸してもらうから。それまで我慢しろ、な?」
「ちぇー……主人がそう言うならしょうがないか」
 そう言ってゼロはコートを着直す。
 そして、言葉を続けた。
「そう言えば主人の足元まであるコートは頑丈だよね? 私の『混沌』を受けても消し飛ばないなんて……。どんなマジックアイテムなのよ?」
「いや、普通のロングコートだぞ? ただ、ちょっと俺から漏れる魔力を吸収して、防御力に変換してるだけの」
「あ、そのコートが魔力の遮断をしてたんだ。意図的にじゃなくて」
「ああ。意図的にもできるがな」
「ふーん……。まぁ、魔力が漏れてたら大体の強さはわかってたしね。でも、魔力を吸収して防御力に変換するコートって普通のロングコートじゃなくない?」
「やっと突っ込んだか」
「え?」
「いや、なんでもない。コートに魔力を流し込んだら、ある程度の属性設定ができるようになってな。それからずっとこの調子だ」


 ついでにコートのステータスはこのようになっている。



|黒ノ絶対防御《ノワールアイギス》 ???
使用者により名前とレア度が変化する。
使用者の漏れる魔力を吸収し、防御力と自動再生に変換する。
使用者が意図的に魔力を吸収させることも可能。
現在の状況
魔力:吸収中
VIT測定不可能
MND測定不可能
魔術耐性MAX
物理耐性MAX





「じゃあ、あの奴隷達から魔力を感じなかったのも……」
「ああ、このロングコートと同じだ」
「へー」
 そう駄弁っている内に、奴隷達を監禁した場所にたどり着いた。
「うわ……どれだけ頑丈にしたのよ……。この頑丈さって、私のいた時代の魔王じゃ壊せる奴居ないわよ?」
「お前の時代の魔王って弱いんだな」
「主人が強すぎるのよ」
「でも、お前だったら壊せるだろ?」
「まぁ、そうだけど……中に影響が出ずに破壊するのは難しいかな?」
「そうか?」
 そう言って、強斎は手をパーにして開けて、壁に向ける。
「主人? 何を――」
「きゅっとして……」
 強斎が何もないところで手をゆっくりと握り始めた。
 すると、壁から淡い光が漏れて――。
「――ドカーン!」
 そう強斎が完全に握り、お子様口調で言った途端に、光は強く輝き出し、バラバラと崩れだした。
 ゼロは何が起きたのかわからず、フリーズしているようだった。
 いや、何が起きているのかわかっているのだが、方法がありえないと思っていたのである。
「しゅ、主人……まさか――」
「キョウサイ様[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ゼロが何か言いかけたところで、ミーシャが飛び出してきた。
 ミーシャに続きレイア、ルナと続く。
「ご主人様、一体何が?」
「主様、当たり前ですが、無事だったのですね」
 口々に強斎に言うが、全員、隣の女性に気がつき一旦止めた。
 ルナは「誰?」って思っていたが、ミーシャとレイアはそれどころではなかった。
 一瞬で間をとり、戦闘態勢に入っている。
「へぇ……中々いい実力者じゃない。私の時代の魔王より強いわね」
「あなた、何者ですか? 只者じゃありませんよね?」
 ミーシャが落ち着いてゼロに問う。
「そうね、神を除けば元最強と言えばいいかしら?」
「なに?」
 小さくレイアが疑問を口にする。
「まぁまぁ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。先輩?」
 その言葉に驚く二人。
 ルナはあわあわとしていた。
 そこで、ようやく強斎が入ってきた。
「あー……説明するから。ミーシャ、レイア。こいつは大丈夫だから殺気を抑えろ」
「「わかりました」」
 スっと警戒を薄める二人。
「よし。こいつは俺たちの新しい仲間、ゼロ・ヴァニタスだ」
「そゆこと、ゼロって呼んでね。あ、ついでに私は主人の配下で、奴隷じゃないからね」
 手をひらひらさせて自己紹介をするゼロ。
 すると、ミーシャが一歩前に出て、自己紹介を始めた。
「私はミーシャ。ちょっと腑に落ちないけど、よろしく」
 すると、それにレイアとルナが続いた。
「レイア・アンジェリークだ」
「る、ルナと言います!」
「ふふ、よろしくね。ミーシャ、レイア、ルナ」
 そう笑顔でゼロは答えた。
 その笑顔でミーシャ達の警戒は完全に解けた。
「ゼロ、悪かったわね。今まで完全に警戒してたわ」
「それが普通よ? ミーシャ。ある程度の実力者になると、漏れてくる魔力で大体の実力がわかるのだから。敢えて魔力を漏らしていて正解だったわ」
 すると、ゼロから何かがなくなったような、そんな雰囲気になった。
「ルナはまだわかっていないみたいね。主人? ミーシャとレイアに比べて、ルナの実力が離れすぎていない? 何で?」
「まぁ……色々と事情があって……」
 苦笑いをする強斎。
 それに、レイアが言葉をかけた。
「そう言えばご主人様? さっきの壁は、やはりご主人様が造ったのですか?」
「そうだが?」
「やっぱりそうでしたか。さっきの部屋を出てみてわかったのですが、さっきの壁と部屋の外にある壁じゃ強度が全く違いましたからね……。通りで全力で殴っても壊れなかったわけです」
 何かを納得したレイア。
 すると、その言葉を聞いてゼロが驚愕した。
「まさか主人……。この部屋全てにこの強度の壁を……?」
「そうだが?」
「……はぁ。まさか、この壁を造った後で私と戦うなんてね……。しかも、さっきの破壊魔術……。魔術の適性も、MPの総量も私とは桁が違うってことね……」
「「「?」」」
 奴隷達はよくわかっていなかった。
 それに気がついたゼロは説明しようとするが、一度強斎に目線で許可を取った。
 強斎は別にいいといった感じだったので、ゼロは言葉を続けた。
「いい? あれ程の強度の壁を造る魔術って神級を超えているの。ううん、神級すら弱っちく見えるわね。それをこの部屋全体に張るなんて……普通ありえないわよ? それにさっき壁を壊したでしょ? あれ、数千……いや、数万もの精霊級魔術を同時発動してたわ……無音でね」
 もう、呆れた様子で強斎を一瞥するゼロ。
 奴隷達の回答は……。
「キョウサイ様ですから当たり前です」
「ご主人様だからしょうがない」
「主様ですもんね。主様以外でしたら驚きますが、主様ですもんね」
 やはり驚くのを諦めていたようだ。
「はぁ……私も慣れなくちゃいけないのか……精霊王の私が魔術で驚くなんてね……世界は広いわー」
「「「え?」」」
 同時に固まる奴隷三人
 一番最初に口を開いたのはミーシャだった。
「ぜ、ゼロ? あなた、なんて言ったの?」
「私も慣れなくちゃ?」
「その後」
「私が魔術で驚く?」
「その少し前」
「んー……なんて言ったっけ?」
「あなた、精霊王って言わなかった?」
 すると、ゼロは一つ頷いた。
「言ったね。で、精霊王がどうしたの?」
「そ、それって本当なの?」
「あれ? あ、ここら辺は紹介してなかったか……。うん、本当だよ。私は基本属性最強……失われた虚無属性の精霊王。そして、あなたたちの言う魔神ね」
「「「魔神!!??」」」
 この後、パニック状態になり、強斎が頑張った。
 ゼロはニヤニヤしていただけである。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集してます
感想待ってます
さて、キスクルしなければ……
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]30話 迷宮を作成してる途中っぽい[#中見出し終わり]






「主人、少し訊きたいのだけど」
「なんだ?」
 ゼロはミーシャからもらった服を着て、強斎に尋ねた。
 今、ゼロと強斎は迷宮の階層を増やしている。
 冒険者達に気がつかれないためだ。
 他の奴隷達は上の階層を迷宮らしくしている。
 ついでにルナのレベル上げだ。
 よって、今は二人っきりである。
「主人は記憶喪失なんかじゃないよね?」
「……」
「肯定と受け取るわ」
「何も言ってないぞ?」
「わかり易過ぎるのよ。他の子も薄々……いや、もう気が付いてるのでしょうね」
「……」
「後、これは私の勝手な予想だけど……」
 ゼロは地面に手を置き、その数メートル下目掛けて魔術を使う。
 すると、大きな音が聞こえた。
 新しい階層ができた証だ。
 そして、ゼロは立ち上がってから強斎の目をしっかり見てこう言った。
「主人ってこの世界の住人じゃないよね?」
「…………は?」
 強斎は内心動揺するもの、いつものポーカーフェイスでやり過ごす。
「全く表情を変えないなんてね……。これは私の予想が外れたかしら?」
「なぜそう思った?」
「ん? なんとなくよ。普通、主人みたいな人がのうのうと放浪してるわけないでしょ?」
「目的はあるんだがな……一応」
「へー……どんな?」
「魔界に行くことだ」
「なに? 魔神になるつもり? まぁ、主人だったら神々の討伐もできるでしょうね」
 ゼロも強斎の扱いに慣れてきた。
 その言葉に、強斎は苦笑いを浮かべる。
(神々の討伐って……ん? 神様討伐したら、元の世界に帰れるのか?)
 そのことに疑問を持ったので、早速ゼロに訊く。
「なぁ、神を討伐したらどうなるんだ?」
「え? ほんとに討伐しちゃうの?」
「するわけねーだろ。まぁ、敵対してきたらその限りじゃないけどな」
「ふーん……。まぁいいわ。神を倒したら、その神の持ついくつかの権限が手に入るわね」
「権限?」
「そ。例えば……主人は竜を倒したことある?」
「ああ、あるな」
「そしたらさ、竜の威圧波動ってスキル手に入ったでしょ? それと一緒」
「ほう、そうだったのか……」
 ゼロと強斎は先ほど造った部屋に行き、瓦礫等を回収する作業に入った。
 …………一瞬で終わるのだが。


「話が戻るけど、主人は魔界に行って何する気? まさか、本当に魔神になるつもり?」
「いや、ないから。てか魔神なんてそう簡単になれんだろ」
「私の主人になった時点で魔神を名乗れば魔神よ……歴代最強のね」
「歴代最強って……流石にそれは言い過ぎじゃないか?」
「何言ってるのよ。私、四代目の魔神だけど、初代から三代の魔神を一瞬で消したのよ?」
「へ、へー……って、初代と二代目がいるのに、三代目がいたのか?」
「基本そういう奴らって寿命で死なないからね。強さを認められれば魔神を名乗れるのよ」
「魔神って人気の職業なんだな」
「少なくとも、私はなろうと思ってなったわけじゃないけどね」
「魔神魔神って言ってるから、好きでなったと思ってたけどな」
「魔神って言ったほうが上下関係が保てるでしょ?」
「このぼっちが」
「ぼっち?」
「なんでもない。とにかく、俺は魔神になるつもりはない。魔界には情報収集しに行くだけだ」
「情報収集だけに魔界に行くって……どこの調査隊よ」
「別に、俺たちだったらそこまで危険じゃないだろ?」
「そうね、ルナ以外だったら全く危険じゃないと思うわ。私の知ってる魔界だったらね」
 ちらりとゼロを見ると、ジト目で睨んでいることに気がついた。
「な、なんだよ……」
「いや、ミーシャとレイアって主人が強化したんでしょ? あそこまで強い奴隷なんて普通いないから」
「まぁ、そうなんだが……」
「じゃあ、何でルナも強化しないの?」
「だから、色々あって……」
「色々って何よ、色々って」
 そう、強斎は眷属ステータス分配について、とある可能性を考えていた。
 それは――。
「あ、まさか……えっちしたか、どうか……とか?」
「うぐっ……」
 流石の強斎もポーカーフェイスを保っていられなかった。
 そう、強斎はこの可能性もあると考えたが、直ぐに捨てたのだ。
 理由は一つ。
 同性だった場合、実行が困難な為である。


「あら? 図星?」
「いや、それは一つの可能性であって……」
「だったら、試すしかないわね」
「は? お前何を言って――」
 そこまで言った時、強斎はゼロの唇で唇を塞がれた。
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 数秒後に、ゆっくりと唇を離すゼロ。
「ふふっ……主人の唇って……甘い」
 トロッとした目で強斎を見る。
 すると、ゼロは着ている物を脱ぎだした。
 完璧以上に完璧な肌が、顕になる。


「お前……正気なのか?」
「至って正気よ? 実際に試さないとわからないでしょ? それに、私は主人のことが好きなのよ? 嫌がるどころか、喜んで処女をあげるわ」
 そして、完全に生まれたままの姿になったゼロは、強斎にふわりと抱きつく。
「主人も満更じゃないのね」
「うっさい」
「ふふっ、戦いでは完全に主導権を握られたけど、こっちでは私が勝ってみせるわ」
「……はぁ、ここじゃあいつらが帰った時に、気まずくなる。場所を変えるぞ」
 そう言って、新しく部屋を造る強斎。
「あら、ヤる気満々じゃない……主人も男の子ね」
「うるさい。こっちでもワンサイドゲームにしてやるよ」
「それはどうかしらね?」
 こうして、強斎とゼロのもう一つの戦いが始まった。


…………
……
……


 一方奴隷達は、強斎達が造った階層を迷宮らしくしていた。


「あ、魔石発見しました!」
 そう言って瓦礫に混じっている綺麗な石を、ルナは拾い上げた。
 魔石とは、テンプレ通り魔力がこもっている石である。
「キョウサイ様はこのような魔石を何に使うのでしょうか?」
 ミーシャは手のひらに乗る程度の魔石を眺める。
 魔石の使い道は様々で。魔術を入れてもよし、中にある魔力をMPに変換してもよし、売ってもよしの優れものである。
 しかし、いくつかの欠点があった。
「ところどころ大きい魔石もありますが……どの魔石も強斎様の魔術に耐えられませんね……」
 そう、魔石は大きさに比例して、込められる魔術の大きさが違うのだ。
「ご主人の魔術に耐えられる魔石なんて、この世に存在しないから」
「それもそうですね」
 レイアの応答にあっさりと肯定して、魔石をアイテムボックスに入れる。
「さて、この階層はどのような感じにしましょうか?」
「さっきみたいな迷路じゃちょっとつまらないから、ボス部屋みたいなの作ったら?」
「そうね、そうしましょう。ちょうど、ここは一五階ですし」
 レイアの提案に頷いてから、土魔術で壁を造っていくミーシャ。
 その作業が数分したところで、ルナが二人に疑問をぶつけた。
「そう言えば、ミーシャさんとレイアさんって、どうして奴隷になったのですか? お二人共ものすっごく強いですよね? それなのに、奴隷になってしまったのですか?」
 その言葉に苦笑いする二人。
 そして、最初に口を開いたのはレイアだった。
「私たちがここまで強いのは、ご主人のおかげだよ。なんか楽して力が手に入って、色々と罪悪感があるけど……。ご主人は『力に応じて渡しているから気にしなくていい』の一点張りでね」
「力に応じて?」
 その疑問に答えたのはミーシャだった。
「そう、もっと与える事が出来るらしいけど……元の私たちが弱いから、これ以上は危ないんだって」
「そうだったのですか……主様って凄い人なんですね……! あ、じゃあ私も頑張ってレベルを上げたら……」
「ええ、ルナちゃんもキョウサイ様からもらえるでしょう」
 すると、ルナの目の色が変わった。
「わかりました! 頑張ってレベル上げします!」
「その前に迷宮を造らないとな」
 そうレイアからお叱りをもらったのであった。


…………
……
……


「もう……ダメ……力…………全……然…………入んない……」
「こんなもんか?」
「はぅ……主人のいじわるです…………。頭の中が真っ白になるくらい気持ちよくさせられて、途中から主人のことしか考えられなくなってしまって……。でも、私気づいちゃいました」
 ゼロの顔は真っ赤に火照り、目はトロンとして強斎しか視界に入っていない。
 そして――――。


「主人っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ゼロは強斎に思いっきり抱きついた。
 本来だったら粉々だが、そこは強斎だから仕方がない。
「お前、一体――」
「私、やっとわかった」
 強斎の言葉を遮るように囁く
「私は主人が好き。一人から助けてくれた主人が好き。名前をくれた主人が好き。その名前で呼んでくれる主人が好き。ちょっといじわるな主人が好き。えっちな主人が好き。一目見た時から好き。好き! 好き[#縦中横]!![#縦中横終わり] 大好き[#縦中横]!!![#縦中横終わり] 私は主人が大好き[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「ちょ、お前――――どうしちまったんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「私……もう、壊れちゃった……」
 ゼロは強斎に抱きつく力を弱めて、頬に口付けをする。
「主人を欲しいって気持ちが抑えられない……。私、主人がいなかったら正気を保てる自信がない」
「お前と出会ったのは最近のはずだが……」
「私は一目見た時から主人が好きだった。強い主人を見てもっと好きになった。一人から守るって言ってくれた時から、名前をくれた時から、優しくしてくれた時から、もっともっと好きになった。今までに無かった素晴らしいものを主人はくれた。だから好き」
 火照った顔で微笑み、ゼロはもう一度強斎の唇を奪った。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しております
魔物名とか……
今回はゼロがチョロインに見えてしまいましたかね?
強斎と一線を越えて、自分の気持ちに気がついたって感じにしたかったのですが……
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]31話 大迷宮っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
少し空いてしまいましたね……
大量の誤字脱字を修正しました。指摘してくれた方、本当にありがとうございます。
[#ここで字下げ終わり]




「なぁ、もうちょっと離れてくれないか? 動きにくいんだが……」
「やっ!」
「嫌ってお前……」
 只今、強斎とゼロは迷宮の一〇〇階層を作成している途中である。
 しかし、全く進んでいないのだ。
 その原因はゼロにあった。
「いい加減、俺にぶら下がるのをやめて――」
「やっ!」
 そう、ゼロは強斎にべったりなのだ。
 強斎の首にしがみつき、そこから動こうとしていない。


「ったく……何で離れてくれないんだ?」
「主人のことが好きだから」
(えー……)
 殆ど諦め半分で作業しようとするが、何故かゼロが邪魔をする。


「ゼロ。ミーシャ達が来てもやめないつもりか?」
「うーん……。主人にくっつきたいのは山々なんだけど、ミーシャ達の関係も保っておきたいから、ミーシャ達が来たらやめてあげる」
 その時、一層強く強斎を抱き締めるゼロ。
「だから、それまでこうしてる!」
 ゼロは物凄い笑顔だった。
 しかし、その笑顔も一瞬でふてくされた様な顔になった。
「はぁ……もう来ちゃったか……」
 スっとゼロが離れた瞬間に、簡単に造った階段から三人が出てきた。


「キョウサイ様! 九九階までの迷宮作成終わりました!」
 ミーシャ達だ。
「おう、ご苦労さん。この一〇〇階で終わりにしようと思うがいいか?」
「ご主人様? 一〇〇階の迷宮って普通に大迷宮クラスですよ? しかも、この迷宮。家として使うのですよね? 深くする必要があったのですか?」
 余談だが、ミーシャとレイアにはゼロとの行為は気がつかれていない。
 しっかりと消臭済みなのだ。
「まぁ、それにはいくつかの理由があってな。まずは、俺たちの存在についてだ」
「まぁ、そうですよね。キョウサイ様は当たり前ですが、私たちの存在ですら国に見つかったら危ういですもんね」
「そうだ。しかも、魔神のゼロまで加わった。武力では何とかなっても、それ以外では安心かどうかわからないからな。ルナ以外は隠蔽を持っているから大丈夫だと思うが……まぁ、一応だ」
「主人は一応で大迷宮を作成するのね」
「褒め言葉として受けておく」
 と、そこで強斎は疑問を感じ取った。
(そう言えば、俺は何でゼロのスキルを見ることができたんだ? 俺の超解析はⅡでもなんでもないのに……)
 そう、ゼロは超隠蔽のスキルを持っているのに、強斎はゼロのスキルを見ることができたのだ。
 超隠蔽と超解析が同じレベルだった場合、超解析は超隠蔽に対して名前、スキル、属性のみ見ることが出来ない。
 しかし、強斎は同レベルにも関わらず、見えてしまったのだ。
(……まさか、属性か?)
 今すぐに調べたかった強斎だが、今は迷宮を作成した意味の説明をしている途中だと我に返る。
「まぁ、他にも色々理由があるんだ。この迷宮の七〇階から九九階を俺とルナの配下置場にしようと思っている。勿論、神話級の魔物や竜王以外だ」
「結構な階層を使うのですね」
「いい質問だレイア。実はな、これだけじゃ足りないぐらいなんだ」
「どういうことですか? ご主人様の配下数は、神話級の魔物と竜王を抜いたら七体ではありませんでしたっけ?」
「実は、ゼロを配下にしたことによって、中級精霊以下が配下になってたんだ」
「「「……」」」
「ああ、通りでさっきから精霊が静かだったわけね」
 ゼロは精霊王のため、すごいと思っていないが、奴隷達は流石に驚いた。
 この世界の魔術に関しては、精霊が最も優れている。
 最下級の精霊ですら、精霊級の魔術を扱う程に。
 だが、見える者は殆どいないので、悪用は出来ない。
 精霊も好戦的でないので(ゼロを除く)、基本何もしない
 そもそも、この世界の人々は精霊から力を貸してもらって、魔術が使えると思っているが、ゼロ曰く半分正解で半分不正解らしい。
 確かに、魔術は精霊がいないと使えないが、力を貸しているわけではないそうだ。
 少し話が逸れたが、つまり精霊はこの世界の源と言われる程なのだ。
 それを、強斎はあっけなく配下にしてしまったわけだ。


「てか、精霊って多すぎだろ。中級精霊以下ってこんなに多いのか?」
 そう、強斎は配下数を見て苦笑いしか出てこなかった。


 ――――――配下数九九九九九+


 カンストしていたのだ。


「あれ? 主人知らなかったの? 精霊なんてありとあらゆるところにいるのよ? 中級以下なら人間界の人口の三倍ぐらいはいるんじゃない?」
 ゼロの言葉に反応したのはミーシャだった。
「で、キョウサイ様は、ありとあらゆるところにいる精霊をこの家に集めると?」
「そうだな……流石にそれはやばいから、十万ぐらいでいいか」
「十万の精霊がガーディアンをしている大迷宮なんて、どんな鬼畜迷宮なんでしょうか……?」
 強斎の発言に声を震わせるルナ。
 この迷宮に挑む冒険者に同情しているのだ。
「ルナ、大丈夫だぞ。七〇階までたどり着く奴なんていないから」
 何かかわいそうに見えたので、強斎がフォローする。
「……そうでしょうか?」
「ああ、そうとも。五〇階あたりから竜を入れるつもりだからな」
 ルナは更に顔を青くする羽目になった。
「どうした?」
「い……いえ……」
「? ……まぁ、話を続けよう。今日からここが俺たちの拠点となるが、まずは魔界に着かなければならない。だから、帰ってくるまで精霊と魔物にこの迷宮の管理をしてもらう」
 こうして、一つの大迷宮が出来上がった。
 しかし、この頃の強斎は知らなかった。


 ――――この迷宮が伝説の最凶最悪大迷宮として名を轟かすことを。


[#ここから6字下げ]
色々な名前を募集しております!
やっとここまで来たお……
もう、最後らへんなんて突っ走ってるような気がしますね
感想待ってます!
プロフィールにも追加しましたが、ここにもツイッターのURL貼っておきます
<a href="https://twitter.com/729Kai">https://twitter.com/729Kai</a>
これでいいはず……
時々出没するのでフォロー? よろしくお願いします!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]32話 ルナの気持ちっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです!
多分文章力が鈍っています
[#ここで字下げ終わり]




「ルナちゃん……大丈夫?」
「はい……なんとか……皆さんも大丈夫ですか?」
 ミーシャの問いに辛うじて答えるルナは、周りを見る。
「私は大丈夫よ、ちょっと立てそうに無いけど」
「私も大丈夫だ。同じく立てそうにないな」
 そう言ってゼロとレイアは苦笑いをする。
 そう、ここにいる女性陣全員が、倒れ伏せているのだ。
 場所は――――。


「キョウサイ様も凄いですよね……こんな大きいベッドを造る[#傍点]知識[#傍点終わり]もあるんですね」
 そう、ここは大迷宮のとある一室だ。
 強斎は「家なのに家具がないのはおかしい」と言ってチート級の魔術とステータスを使って、造れる限りの家具を造ったのだ。
 そして、今女性陣がいるのはベッドの上。


 ――――縦一八メートル、横一〇メートルの巨大ベッドだ。


「魔物の毛皮とか綿とかあったしな。しっかし、魔物って凄いんだな……質が良すぎる……」
「キョウサイ様? 竜の皮とか使っていたら当たり前ですよ?」
 何を今更ってと言わんばかりに指摘をする。
「そう言えば使っていたな。竜って柔らかい部分少なかったから、使い勝手が悪かったっけ」
「もう驚きませんよ?」
 そう言ってミーシャは立とうとするが、上手く立てないようだ。
「あー……お前ら大丈夫か?」
「私たちこそ、キョウサイ様を満足させることが出来なくてすみません……」
 そう、女性陣が立てない理由……。
 強斎の夜の相手をしたためだ。
 どうしてこのような状況になったのかというと……。


…………
……
……
「キョウサイ様、せっかく家を造ったのですから、一週間程住んでみてはどうです?」
 魔物の配置をしている強斎に、ミーシャはそう提案した。
「ああ、最初からそのつもりだ。家具とかも造りたいしな」
「そうでしたか」
 と、ミーシャがそこまで言ったところで、ルナが強斎に寄ってきた。
 ルナの顔は緊張に満ちていた。まるで、好きな人に想いを伝える少女のようだ。


「ルナ? どうした?」
 何故緊張しているのかわからない強斎は、首を傾げている。
 ミーシャも一瞬わかっていなかったようだが、何か察したのだろう。立ち去ろうとしたのだ。
 しかし、ミーシャが立ち去る前にルナがガバッと顔を上げた。
「主様!」
「おう?」
 ルナの顔は赤く染まり、若干声が震えている。
 何か言おうとするもの、中々声が出ない様だ。
 強斎は声が出るまでじっと待つ。
 ミーシャは既に居ない。
 数秒後、ルナは大きく深呼吸をして、声を絞り出した。
「その、嫌でなければ…………私とえっちしてください!」
「…………」
「……主様?」
 ルナの顔はますます赤くなり、手を胸のところに当てている。
 若干の不安が感じ取れていた。
 強斎は大きく息を吐き、口を開いた。
「ミーシャ、レイア。そこにいないで出てこい」
 すると、壁がガラガラと崩れ去り、そこに金銀の美少女達が居た。
「……流石キョウサイ様ですね。魔力の流れを完全に遮断して、周りの壁と全く同じ造りだったのに……どうしてわかったので――」
「二人共そこに正座」
「「……はい」」
「ルナも、二人の横におれ」
「わかりました……」


 こうして、強斎の質問攻めが始まった。
「まず、お前ら。ルナにいつ、どんな風に、何を言った」
「えっと。ご主人様の造った部屋に閉じ込められている時に、夜のご奉仕について語っていました……」
 レイアが恐る恐る答える。
「ほう」
「それで、盛り上がってしまいまして……ルナちゃんもキョウサイ様が好きなら、言ってみては? と提案しました……」
 ミーシャもレイアと同じく恐る恐る答える。
 強斎の事が好きと言った時に、強斎はほんの少し動揺し、ルナはかなり動揺した。
「……ほう。それで、この結果か。ルナは嫌がらなかったのか?」
 何だかんだ気になる強斎である。
「いえ、嫌がるどころか興味津々でした。若干濡れ――」
「あー[#縦中横]!![#縦中横終わり] ミーシャさん! それ以上はダメです[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 何か、ミーシャが恥ずかしい事を言おうとするところで、ルナが止めに入った。
 その光景を見て、強斎の頬が若干緩む。
 そして口を開いた。
「いいぜ」
「……え?」
「ルナとヤってもいいと言っている。というより、俺が覚悟できたら誘おうと思っていたしな」
「ほんとに……ほんとにいいのですか?」
「お前から誘ったんだろ? ……って、なんで泣く」
「いえ……嬉しくて……」
「なんでそう思う?」
「私、好きな人とえっちすること……夢でしたから。私は呪いのせいであらゆる人から嫌われ、奴隷に堕ちてからも女として扱われた事がありませんから……」
「そうか……悪かったな」
「え?」
「俺がルナとの行為を避けていた理由……別に俺はルナが嫌いなわけじゃない。ただ……その……見た目が……な?」
 そう言われて、ルナは涙を拭い自分の体を見て、ミーシャとレイアを見た。
「……胸ですか」
 悲しい顔で自分の胸を触る。
「いや、違うぞ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] お前ってあれだろ? 小さいだろ?」
「そうです……私は胸が小さいのです……! ……でも! 絶壁ってほどじゃありません! ちゃんと膨らみはあります! 触って確かめてください!」
「それは後で確かめるから!」
「ほんとですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「あ、ああ。って、俺の言いたいことは……お前、体が子供だろ?」
「そうですね。私の年齢でこの身長は低いですよね」
「それでな、子供に手を出すって感じで何かな……」
「でも、一二歳で結婚する人もいますから私みたいな身長なんて……」
「え?」
「え?」
 この後、ミーシャが結婚制度について強斎に説明を始めた。
 そして、話が終わった頃に強斎が一つの提案をした。
「どうせなら、巨大なベッドを造ってみんなでヤろう」
 こうして四対一の戦いが始まるのだった。


…………
……
……
「俺は水を浴びてくる。お前らも足腰がしっかりとしたら水浴びしろよ」
 魔術だと一瞬なのだが、これは雰囲気である。
 こうして、強斎は部屋から出て行った。


「ルナちゃん、どうだった?」
 強斎が部屋から出て、ミーシャがルナに声をかけた。
「凄かったです……これがえっちなのですね……」
 ぼうっと顔を赤く染めながら、ルナが呟く。
 そこに、レイアが入ってきた。
「なぁ、ミーシャ。ご主人様ってドンドン上手くなっていないか?」
「そうね……最初は乱暴で、ちょっと痛かったけど……さっきの感覚だと、私たちの感じやすい場所を把握して、上手く使われたって感じ」
「流石主人ね……焦らす時は焦らせて、逝かせる時は逝かせる……その全てに愛情がこもっていて、快感しかなかったわ」
 ゼロも頬を染めてぼうっとしている。
「私、わかったことがあります」
 ルナが少し疲れた顔で全員を見る。
 皆もルナを見る。
「主様は…………世界で一番○○○な主様です!」
「……ルナちゃん、それは口にしちゃダメだよ」
 ミーシャが指摘をするが、ルナは言葉を続ける。
「そして、最も素敵な主様です! 私、さっきの行為の中でわかりました……愛情を貰ってわかりました……私、主様が好きみたいです……」




 その時、強斎の頭の中にとある言葉が出てきた。




 眷属が四人になりました。これよりサードスキルを解放します。


[#ここから6字下げ]
自分はロリコンのはず……なのに……何故ルナの性的描写を書いたとき、全部消してしまったのだ……?
何故、ロリータに対して紳士になってしまうのだぁ!


お久しぶりです。
急に長期休暇してしまったことをお詫び申し上げます。すみません。
このような事がこれからもあるかもしれないので、これから小説情報をTwitterで少しだけ呟こうと思います。
Twitterでも答えれる質問OKです。
なろうのメッセージで応答しない場合はTwitterでお願いします。
これからも、『巻き込まれて異世界転移する奴は、大抵チート』をよろしくお願いします!
感想待ってます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]33話 強斎VS眷属っぽい[#中見出し終わり]






「はぁ……。やっぱりサードスキルもあったか……」
 強斎は一人でそう呟いていた。
 先ほど、頭の中にサードスキルが解放されたとの報告が来たのである。


(セカンドスキルは微妙だったんだよな……)
 そう、強斎は一度この感覚を味わっている。
 セカンドスキルの効果は、『眷属に与えられるスキルの量を調整出来る』という、何とも微妙な効果であった。
(サードスキルぐらい期待してもいいよな?)
 そう少しだけ願ってメニューから効果を見る。


『眷属スキル:3rd眷属の正確な現在地と、ステータスがわかる』


「…………」
 強斎は絶句した。
 もう、言葉も出ない様だ。
 そして、内心で叫んだ。


(どこのヤンデレストーカーだよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 もっともである。


…………
……
……


「ルナ、ちょっといいか?」
「どうしました?」
 強斎はあの後直ぐに立ち直り、ルナにステータスを分け与えようと、ルナに会いに行った。スキルを使ったら、大迷宮だろうが一瞬でわかったのである。
「気絶するかもしれんが、我慢してくれ」
「え?」
 そう言って、強斎はルナに合ったステータスとスキルを配分する。
 すると、ルナに変化が起きた。
「主……様…………? なに……を……?」
 そこで、ルナの意識は途絶えた。


「やっぱり気絶しちゃったか……結構レベル上がってたから大丈夫だと思ったんだが……」
 気絶したルナを抱えて、部屋に向かう。

ルナ
配下数一五七
LV42
HP 三七八/六〇〇〇三七八
MP 二〇三九/一〇〇〇二三〇九
STR 五〇〇〇八八
DEX 五〇〇〇九六
VIT 五〇〇一二五
INT 五〇〇一三九
AGI 五〇〇一〇六
MND 五〇〇一五二
LUK 四〇
スキル
体術LV60
棒術LV60
弓術LV50
料理LV5
調教LV40
威圧LV70
隠蔽LV63
空間把握LV30
危機察知LV40
状態異常耐性LV70
火属性LV70
水属性LV70
土属性LV70
風属性LV70
闇属性LV70
光属性LV60
HP回復速度上昇LV70
MP回復速度上昇LV75
魔物召喚
意思疎通
属性
火・水・土・風・闇・光
召喚魔術(ユニーク)



(結構配分したな……。またスキル上げしないとな)


 この後、ルナが目を覚まして騒ぎになったことは言うまでもない。


…………
……
……


「そろそろ、ここを出ようと思う」
 大体の階層の配置が終わり、力がある精霊に迷宮の指揮官を任せた次の日、強斎がそう言った。
 強斎の提案に全員賛成するが、強斎は言葉を続けた。
「その前に、お前たちと手合わせしたい」


 ――――場が凍りついた。


 皆一斉に顔を青ざめ、固まっている。
 ゼロは以前戦ったことを思い出したのか、汗を流していた。


「そこまで怖がらなくてもいいだろ。ちゃんとハンデもやるし」
「キョウサイ様と手合わせをするのに、怖がらない方がおかしいです。ハンデがあっても勝負になる気がしません」
 皆揃えて頷く。
「ハンデの内容を聞いてからにしような[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ……ハンデは、まず四対一で手合わせをする。俺は視覚聴覚を遮断して、お前たちへの攻撃はしない。するとしたら、防御とか受け流しとかだな。それと魔術は一切使わないしスキルの威圧も、お前たちに向けない。勝利条件は俺に攻撃らしい攻撃を与える事。敗北条件は一時間の間に勝利条件を満たせなかった時。これぐらいでいいか?」
 すると、ゼロが強斎に質問した。
「主人、それは可能なの? 私たちは漏れる魔力の完全遮断ができるのよ? 勿論、ルナもね」
 そう、ルナも強斎から配分された時から、ゼロに教えてもらっていたのだ。
「まさか、気配察知と感覚だけで全部避けきるつもり? 魔術だったら一瞬魔力の流れが出るから避けられると思うけど、物理は無理でしょ?」
 すると、強斎は小さく鼻を鳴らした。
「ようやく、やる気になってくれたか」
「やる気も何も、これじゃあ、勝負にならないじゃない」
「別にそれならそれでいい。で、やるのか?」
 すると、ゼロはニヤリと笑って。
「いいわ、手合わせしましょう」
「お前たちはどうする?」
 強斎は他の面々にも訊く。
「キョウサイ様を攻撃するのは気が乗りませんが……何か考えがあるのですね?」
「まぁな」
「でしたら、手合わせしましょう」
「私も、いいですよ」
「わ、私も……」
 レイア、ルナと続く。
「よし、だったらお前たちに『命令』だ、俺と手合わせしろ」
「「「「はい」」」」
…………
……
……
「こんな感じでいいかな……ゼロ、確認してくれ」
 強斎は目元を闇属性の魔術で覆い、耳を風属性魔術で完全に聞こえなくした。
「うん、大丈夫みたい……ね!」
 ゼロは、強斎のハンデの確認をした瞬間に横腹に蹴りを入れた。




 ――――はずだった。




「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 しかし、その蹴りは強斎の腕で防御されてしまった。
「へ、へぇ……やるじゃない」
「いきなり不意打ちか? まぁいい、スタートだ!」
 こうして、四対一の手合わせが始まった。


…………
……
……




「くっ……。主人……化け物すぎるでしょ……」
 試合開始から四〇分、眷属たちは、強斎に全く歯が立たなかった。
「本当ですね……キョウサイ様の視覚聴覚が遮断されているのか、疑うレベルです」
「ゼロ、本当に確認したの?」
 レイアがゼロに疑いをかける。
「ええ、完全に視覚聴覚を遮断してあったわ。……王級クラスのね」
 ゼロは苦笑いをする。
「もう驚きません」
 ルナはこの言葉を何回も言っているが、実行は中々難しいようだ。


 その頃、強斎だが……。
(このサードスキル……正確すぎるだろ……)
 ストーカースキルを使っていた。
(それにしても、ゼロって光速を圧倒的に超えてないか? AGI20を時速一六だと考えて、光速は約時速十億八千万だから………………うわ、光速の約三垓七千八百京倍かよ……恐ろしいな)
 その相手をしながら計算する強斎も馬鹿げている。




「こうなったら、範囲魔術を使って攻撃を当てるしかないわね」
「ゼロ? それはちょっとズルくない?」
 ゼロの提案に、ミーシャは否定気味だ。
「だったら、それ以外に攻撃を当てられるの? 私たちが全速力で攻撃を当てようとしても、主人は数歩しか動いていないのよ?」
「それは……」
「ミーシャ、諦めろ。ゼロの言う通りだ。ご主人に攻撃を当てるには、この方法以外ないかもしれん」
「レイアまで……」
「私もそう思います。でも、この方法でも避けられると思いますが……」
「ルナ、大丈夫よ。主人は魔術を使わない。使ったら負け、でも避けるには当たるしかないからそれでも負け。ちょっとズルいけど、これがいいのよ」
「……わかったわ」
 ようやくミーシャが了承した。
 そこで、ルナがゼロに作戦内容を訊いた。
「何の魔術を使うのですか?」
「|全属性《オールアトリビュート》よ」
「全属性って火・水・土・風・闇・光の六属性ですか?」
「それに、私の属性『虚無』が合わさって|全属性《オールアトリビュート》よ」
「「「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」」」
「あれ? 聞いたことない?」
「初耳だな、虚無属性っていう属性か?」
 レイアの言葉に皆頷く。
「私も虚無属性なんて属性聞いたことありませんね。ユニーク属性ですか?」
 ミーシャがゼロに質問する。
「基本属性よ」
「私の知る限りじゃ、そのような属性を持っている人なんて居ませんでしたね」
「私もだ」
「私もです」
 すると、ゼロはクスクスと笑って答えた。
「当たり前じゃない。だって、虚無属性の使い手はこの世界に、私と主人しか居ないもの」
 一同は絶句した。
「ゼロって凄かったのですね……キョウサイ様と同じ属性を持っていたなんて……」
「あ、私に驚いてたの……」




「ゼロさん、その虚無属性でどうするんです?」
「まず、虚無属性ってのは破壊特化の魔術なの。その魔術を全力でこのフロア全体に放つわ。勿論、私たちは隅に移動して、結界を張って魔術が当たらないようにするけど」
「でも、その一撃だけだと全属性じゃないですよね?」
「そう、だからこの規模の属性魔術を連続で使うわ、あなたたちならフロア全体に範囲魔術使えるでしょ?」
 こうして、眷属四人による対強斎魔術が開始された。


    *


(……ん? あいつら、魔術を使う気か? まぁ、このフロア全体に魔術を連続で使うっていう、簡単な戦法だろうがな)
 そう、内心呟くと強斎はニヤリと笑った。
(じゃあ、全力ってのを使ってみますか……!)
 すると、強斎の頭上から、真横から、前方から、後方から、あらゆるところから、あらゆる魔術が放たれた。


    *


「メテオストーム……六四連[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ミーシャは、神級に近い帝級魔術の火・土オリジナル合成魔術『メテオストーム』を六四発連続で強斎に放った。
 メテオストームは、かなり強固な岩に超高温な炎を込めて、着地と同時に大爆発を起こすエグい技である。


「ダークネスドレインブレイク……六四連[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 レイアは闇属性帝級魔術『ダークネスドレインブレイク』を放った。
 この技は元々威力も強いが、一定以下の衝撃を吸収して更に攻撃力に上乗せできる。
 ミーシャのメテオストームの余波を吸収して、さらに攻撃力も上がっている。


「コールド・ヘル……です!」
 ルナは水・風・光属性のオリジナル神級魔術『コールド・ヘル』を放った。
 この技は、氷の粒を竜巻に乗せて、氷の粒一つ一つからレーザーを出して攻撃する魔術だ。


「破滅ノ世界[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 最後にゼロはオリジナル虚無属性神級魔術『破滅ノ世界』を放った。
 強斎と考えた魔術で、『混沌』の様な玉が無数に降り注ぐが、その一つ一つの威力は『混沌』を凌駕している。
 しかし、魔力を膨大に使うため、ゼロですら連発は出来ない。


 そして、ちゃんと全て発動したことにゼロは微笑した。
「さすがの主人でも、魔術なしでこれを回避するのは無理でしょう……」
『破滅ノ世界』を放ったあとは反動が来るため、膝をついている。
 その状態でゼロはその場を確認する。




 ――――なにかがおかしい。




 ゼロは、そう直感した。
 精霊は、生まれつき魔力の流れが見える。
 先ほどの魔術がまだ続いている為、濃密な魔力が充満している。
 しかし、その中で見たことのない何かが留まっていたのだ。
 他の魔力と色が違う。だが、ミーシャ達に確認しても何も見えていないようだから、魔力であることは確か。
 そこで、魔術の連鎖が終わった。
 だんだんと魔力の流れがなくなっていく中、その何かだけは何も変わらなかった。
 ゼロは不思議に思いそれをよく見た。……見てしまった。
 そして、それを理解した瞬間、全身に鳥肌が一瞬で立つ。


「はは……ははは…………そうね……そうよね……」
 突然乾いた笑いをするゼロに、三人は疑問に思った。
「どうしたの?」
 ミーシャが心配して声をかけるが、応答はない。
(ホント……主人が戦闘狂でなくてよかったわ……。そして、主人に勝負を挑んだあの頃の私を、本気で殴りたい……無謀だって)
 そう、ゼロが思った瞬間、砂煙やら色々なものが晴れた来た。
 ゼロを除く三人は、その砂煙を見て不思議に思った。
 とある場所だけ、何かがユラユラとなっているのだ。
 そして、全員そこに誰が居るのか理解した瞬間、砂煙は完全に晴れた。


「……やはり、キョウサイ様は無傷でしたか……。それにしてもあれはなんでしょう?」
 そう、強斎は無傷だった。
 その代わり、強斎を中心とした半径2m程の半円が、未だに揺れているのだ。
 その疑問に答えたのは、ゼロだった。
「……あれは魔力の流れよ」
「魔力の流れ? それはありえません。魔力の流れはあなたたち精霊と、一部のエルフ以外は見えないはずですよ?」
 そうミーシャは完全否定した。
「そう、普通の魔力だったらね……でも、あれは違う。……見たことない? 主人が魔術を使う時、一瞬空間が歪んだ気がする時があるでしょ?」
「あれは錯覚じゃなかったのですか?」
「違うわ。強すぎる魔力は空間が歪んで見える。更に強い魔力は目に見える。もっと強い魔力は空間に穴を開ける。……でも、あれはそれを軽く超えている……空間に穴を開けることすら許さない『威圧』……時空間さえひれ伏すなんて、最高神でも不可能よ……」
 その言葉を聞いたとき、他の面々もその恐ろしさを理解して小さく震えた。
 そして、ゼロは言葉を続けた。
「あの中には絶対に入っちゃダメ。多分、私たちに対して効果は極小になってると思うけど……それでも大変な事になるわ」
「えっと……例えばどんなことになるんですか?」
 ルナが恐る恐る訊く。
 それに対して、ゼロは苦笑い気味に答える。
「ひれ伏す事以外は許されないと強制的に思わせられるわ。そして、勝手に体がひれ伏すのよ。死ぬことも、気絶することも、息をすることも、心臓の鼓動すら動かす事も許されない……ひれ伏す以外の事は出来なくなるんじゃないかしら?」
 その後、「私たちじゃない場合も聞きたい?」とゼロが提案したが、ルナは全力で断った。
 すると、ゼロはスっと立ち上がり背伸びをした。
「ごめん、私、主人のこと甘く見てたみたい……。これだけのハンデがあれば勝てると思ってた……」
「私は、最初からキョウサイ様に勝てると思っていませんでしたから」
「あれだけの威圧を見ても、微動だにしないのね」
「キョウサイ様ですから」
「ご主人だから」
「主様ですから」
 その言葉にゼロは苦笑いをする。
「そうね、主人だもんね」
 そこで、強斎が動き出した。
 強斎の視覚聴覚は遮断されていない。
 そして、四人の前まで来てこう言った。


「俺の勝ちみたいだな」


 こうして、強斎と眷属の戦いは、強斎の勝利で幕を閉じた。


[#ここから6字下げ]
今回はバトルっぽい!
そろそろ勇者達を書こうと思います。
それでは感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]34話 迷宮の名前っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
時間が欲しい……orz
[#ここで字下げ終わり]




(やっぱりこれだったか……)
 強斎は、何故ゼロのステータスが見ることができたのか調べていた。
 ある程度目星は付いていたので、一番怪しいのを調べたら、ドンピシャであったのだ。
(属性、『神を超えた者』……か)
 強斎はこの詳細を見たとき、苦笑いしか出なかった。
『神を超えた者
 一部の神を超えた何か
 以下の効果を常時発揮する
 全てのレアスキルが一段階上昇
 全てのノーマルスキルが一〇段階上昇
 スキルの上昇速度絶大上昇
 スキル取得超簡易化
 以下の効果は任意で発揮する
 この属性を保持している何かを中心とし、半径20m以内の不可視な物を見ることが可能』
(レアスキル一段階上昇……これのせいだな。それと、スキルの上昇速度が早かったのもこれのせいか……。俺、何かしたか? なんだよ何かって……せめて、者って書けよ……)
 強斎は一人、「俺は人間だ」と呟き始めた。
 決して自覚してきたわけではない。
…………
……
……
「あ、キョウサイ様。もう、準備はよろしいのですか?」
 強斎が迷宮の確認をし終わった後、隠し通路から地上に出たら、ミーシャ達が待っていた。
 ついでにこの隠し通路、この五人以外に動かせる者はいない。強斎作だ。
「ああ、後はこの板をつけるだけだな」
「板ですか?」
 強斎はアイテムボックスから板を取り出し、迷宮の入口に貼り付けた。
「これでよしっと……」
 強斎が貼り付け終わったら、四人は一斉にその板を見る。
「『コトリアソビ』……ですか?」
「ああ、この[#傍点]家[#傍点終わり]の名前だ」
「ご主人様……。さすがにこの[#傍点]迷宮[#傍点終わり]の難易度で、その名前は……」
 レイアが微妙な顔でその板を見る。
 それに続き、ルナも発言した。
「そうですね……名前は小鳥さんの遊び場という意味合いで、簡単に攻略できそうですが……」
 ルナはその先を口にしなかった。
 恐らく強斎以外は理解しているのだろう。
 しかし、強斎はなんと言われようと変えようとは思わなかった。
 それは、強斎の故郷……日本に関係している。


(本当は『タカナシ』にしたかったんだけどな……一応迷宮だし、それだとおかしいからな……)


 少し苦笑いをして、話を変えた。


「なぁ、ミーシャ。ここから魔界への転移門まで、どれぐらいかかる?」
「ここから魔界でも、刹那もかかりませんね」
「冗談はよせ」
「本気です」
 ミーシャの目は本気だった。
 そして、ゼロが言葉を発した。
「この私ですら、ここから魔界まで刹那の間に到着するなんて簡単よ。その代わり周りの被害がやばいけど」
 そう言って、強斎を一瞥してため息を出す。
「どうした?」
「なんでもないわ……」
「? そうか……。まぁ、とりあえずこいつのレベリングもしたいからな」
 そう言って、強斎は一瞬で魔物を召喚させる。
「……なんですか? これ?」
 ミーシャはその魔物を見たことないようだった。
 いや、見たことはあるのだが、受け入れていないだけだ。
「スライムだが?」
「何故、金色なんですか?」
「魔術で付属したらこうなった」
 これで、ミーシャとそれ以外の三人も全て察した。
 強斎が出した魔物……確かにスライムなのだが、形以外の全てが違う。
 色は金色、大きさも倍ほど。
 ステータスに至っては下級竜相当だ。
 ――そして。
「こいつ、魔術も使えるから」
 最強スライムの誕生であった。


「もう、レベル上げする必要ありませんよね? そのスライム……」
 ミーシャが呆れた様子で強斎に言う。
「いや、コイツ自身のレベルは低いからな……まぁ、俺の趣味だ。付き合ってくれ」
 そう言って微笑みながらミーシャの頭を撫でる。
「……ずるいです」
 ミーシャは顔を赤く染め、ポツリとそう呟く。
 その後、全員から口々に言われたのは言うまでもない。


…………
……
……


 あれから二ヶ月後。強斎達は転移門付近の森にいた。
 この森は人間界でも、高難易の魔物が出てくるのである。
 そして、ここでしか取れない食材もある。
 案の定強斎は、食材に釣られてこの森に留まっていた。
 勿論、スライムのレベル上げもしているが、既に敵無しである。
 そんなある日……。
「よし、今日は自由行動の日だから好きにしていいぞ」
 そう、強斎は七日の内三日を自由行動の日と決めている。
 と言っても、やることはそう変わらない。
 眷属同士の手合わせや、魔術などの訓練。
 料理やらも強斎に教えてもらっている。
 それ以外にも、森の散歩やら色々遊んでいる。
 今日はルナが森を散歩するようだ。
「主様! 今日は美味しい食材を採ってきます!」
 散歩などではなかった。
「お、そうかそうか。楽しみに待ってるぞ」
 そう言って、ルナは去っていった。
 強斎はそんなルナの背中を見ながら、ここ二ヶ月を振り返った。
(別に変わったことはないな。ルナとゼロにアイテムボックスを渡して、全員にポーションやら揃えるのが難しかったぐらいか……後は、ポーション事件か)
 強斎はそう内心呟くと、一つ背伸びをした。
「今日は一日中寝るか……」
 そう言って、強斎は横になった。
…………
……
……
「主様……! 主様……!」
 ルナが強斎を揺り起こす。
 強斎はゆっくりと瞼を開けた。
「……ルナか? ……どうした?」
 むくっと起き上がる。
「お休み中にすみません……。少し急ぎで主様にお願いしたいことがあったので……」
「急ぎ?」
「はい、えっと……ポーションが足りなくなってしまって……」
「ん? そうか。万能ポーション二〇本でいいか?」
 そう言って、強斎はアイテムボックスから、超が付くほど高価なポーションを取り出す。
 強斎がポーションを作っているのだが、あまりにも使わないため、貯まる一方なのである。
 強斎はポーション作りのスキルを所持しているが、スキルレベルは低い。しかし、強斎が作るので最低でも効果は特級(約SR)以上である。
「えっと……中級(約R)一〇本ほどで良かったのですが……」
「それだったら、それ一本で五〇本になるぐらい水で薄めるといい」
「……やっぱりやめておきます」
 ルナはポーション作りに少々トラウマがある。
「そうか、とにかくその二〇本は既にルナの物だ。好きにすればいい」
「ありがとうございます……! それと、このポーションを他の方々に使う許可を……」
「お前の物だって言っただろ? 好きにすればいい。だけど、俺の名前は出すなよ? 作り方とか訊かれたら面倒くさい」
「わかりました。それと、今日は帰りが遅くなるかもしれません」
「ルナなら大丈夫かもしれんが、気をつけろよ?」
「はい!」
 そう言って、ルナは去っていった。


「…………さて、二度寝するか」


 ルナはその日の夜に帰ってきた。


[#ここから6字下げ]
次回、勇者視点予定
そろそろ閑話を入れたいと思います。
テーマは眷属たちですね
感想待ってます!
友達に「小説見てもらいたいなら、ツイッターで拡散希望って付けてもらったら?」と言われたので前回からつけてみました!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]35話 王女が加わったっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
多数の会話って難しいですよね……
[#ここで字下げ終わり]




「これで終わらせる! 『サンダーレイン』[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 勇志がその言葉を発した時、魔物の頭上に淡い光を放つ魔法陣が展開される。
 魔法陣が展開された数瞬後、いくつもの雷がこの階層のボス……スケルトンに直撃し、一瞬で絶命した。
「師匠……先ほどの技は?」
 勇志の魔術を見て、関心と驚きが隠せない仁。
 それもそのはず、仁はこの魔術の存在を知らないのだ。
「新魔術の『サンダーレイン』の事? あれは、オリジナル混合魔術だよ。強さで言うと特級かな?」
 その説明を聞いて、仁は目を見開いた。
 あまりにも呆気なく言っている勇志だが、人間の中では破格の規格外さなのだから。
「師匠はオリジナル技で特級まで使えると……剣の腕だけではなく、魔術の腕も人間最強クラスか……」
「まぁ、剣と魔術の混合の魔術剣士だったら、もう人間相手に負ける気はしないかな? 魔術だけだったら、間違いなく鈴が最強だけどね」
 そう言って、勇志は鈴を見る。
「鈴はやろうと思えば、王級魔術まで使えるらしいから……」
 そう言って、苦笑いをする勇志。
 そこに、鈴が入ってきた。
「確かに攻撃魔術だったら、私が人間最強かもしれないけど……攻撃以外だったら、あそこの二人の方が凄いよ。だから、魔術師最強は名乗れないかな?」
 鈴はその二人を指差す。
 その二人とは――――――。




 ――――――澪と王女のヴェレスだった。




「あの二人の連携は凄いよな」
 鈴と勇志と仁の話の中に、大地が入ってくる。
 そして言葉を続けた。
「澪の補助魔術だけでも凄いが、その補助魔術に[#傍点]ヴェレス[#傍点終わり]の時空魔術で効果と時間を上乗せ……更に、澪のMPを俺たちに配分することも可能で、澪のMPがなくなったら、ヴェレスのアイテムボックスからMPポーションを取り出している……。まさに、あの二人は人間最強の補助コンビと言っていいな」
 三人は大地の言葉に頷く。
「そうだね、特に王女さ……ヴェレスには驚いたね。まさかこの経験値を共有出来る腕輪の製作者だったなんて……」
 そう言って勇志は自分の腕を見る。
「しかも、ステータスも十分強い。まさか騎士団長まで倒すとは思わなかったね」
 …………
 ……
 ……
「お父様。私も勇者様方と戦いたいです」
 ある日、ヴェレスは唐突にこのようなことを、ホルスに言ったのだ。
 勿論、ホルスはいい気味ではない。
「どういうことだ?」
「私も勇者様方と戦いたいと言っております」
 ホルスは威圧気味に言うのだが、ヴェレスは全く動じない。
「どうして、そのような事を言うのだ?」
 その質問に対して、ヴェレスはしっかりと目を見て答えた。
「私は今まで考えておりました……勇者様方を無断でこの世界に引き込み、その後は任せるだけ……そんなことが許されるのかと」
 ヴェレスはそこで一瞬戸惑い、また口を開いた。
「……それに、私の作った転移石のせいで、勇者様方の大切な人を亡き者に……」
 そう、あの強斎を転移させた転移石は、ヴェレスが作ったのだ。
 本来転移石の効果は、転移石の数メートル以内に居るなら転移できる。
 しかし、ヴェレスが作った転移石は、本来数ヶ月かかる作業を数日に短縮したため、対象は一人だけだったのだ。
 見た目は少し違うが、効果は普通の転移石と一緒なので、ヴェレスはこの転移石を定期的に作っている。
 スパイの兵士は転移石を使ったことがなかったため、違いに気がつかなかったのだ。


「それに、私は十分強くなりました。今では騎士団長様にも勝てます」
「なんだと?」
 流石のホルスもその言葉には驚いた。
「……そう言えば、お父様は私のステータスを知っていますか?」
 ホルスは無言であった。
 実際、ヴェレスのステータスを最後に見たのは数年前だ。
「知らないでしょうね」
 その冷たい目線にただ耐えるホルス。
 その目線には様々な気持ちがあったのだが、ホルスは理解できなかった。
 数秒沈黙があったが、ホルスはそれを破った。
「例え、お前が強かろうと、お前は第二王女。承諾するのは不可能だ」
「でしたら、第二王女をやめます」
「なにぃ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 その発言に対して、ホルスは怒鳴った。
「お前……その言葉の意味を理解しているのだろうな?」
「はい、しっかりと承知しております」
 ヴェレスは馬鹿ではない。
 本来なら冗談でもそんなことは言わなかったはずなのだ。
 第二王女と言う地位をしっかりと理解した上での発言だったのだ。
「…………何がお前をそこまで動かす」
「罪悪感、責任感、そして――――」
 ヴェレスは少し顔を染めてこう言った。


「――――恋……です」


 その瞬間、ホルスは何かに打たれたような衝撃が走った。
 しかし、この衝撃は憎悪などではなく、愉快なものであった。
 ホルスは自分の過去を見ているような気持ちになった。


「……そうか、だったら、今日からお前は第二王女ではない。ドレットの名も捨てろ」
「はい……ありがとうござ――」
「ただし」
 ヴェレスが言い切る前に、ホルスが遮った。
 そして、小さく微笑し、こう言った。
「この国内であったら、第二王女の名を名乗ることを許そう。……しっかり勇者様方のお役に立つんだぞ?」
「っ! ……はい!」
 この後、ホルスの仕事がかなり増えたのだが、嫌な気持ちではなかったという。
 …………
 ……
 ……


「皆! 一度集まってくれ!」
 勇志の声で勇者一行は集まる。
「そろそろ、レベル上げする場所を変えようと思う」
 その提案には全員賛成した。
「確かに、そろそろ上がりにくくなってきてるしね。いいと思う」
 澪がそう発言した。
「私たちはちょっと辛いかもしれないけど……まぁ、勇志君たちに守ってもらいながらなら、大丈夫かな?」
 自信なさげに言う緋凪。
 ライズ王国の勇者達は皆その考えのようだ。
「私は大丈夫です。このところステータスの上昇が大きくなっているので」
 ヴェレスはそう言っていた。
「で、どこでレベル上げするの?」
 一番の疑問を鈴が言った。
「魔界へ行く転移門の近くに森があったよね? あそこでレベル上げしようと思う」
「そこって、結構レベル高いですよね?」
 琴音が心配そうに発言する。
「大丈夫だと思う。確かにレベルは高いけど、大体がランク八前後らしいから」
 先ほどのネクロマンサーはランク一〇だ。
「まぁ、勇志君達が守ってくれるなら……」
 ちゃっかり期待している琴音であった。


「お、俺も何かあったら緋凪を守るからな……」
「いや、私より信喜の方が弱いでしょ」
「うぐっ……」
 ついでに、勇者達のステータスはここまで成長している。
 #
 ユウシ・スズキ
 LV84
 HP 一〇四〇〇/一〇四〇〇
 MP 一万/一万
 STR 九八〇
 DEX 九七二
 VIT 九七八
 INT 九七〇
 AGI 一〇八六
 MND 九八九
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 聖騎士Ⅱ
 作法LV9
 剣術LV21
 威圧LV10
 状態異常耐性LV12
 火属性LV16
 水属性LV18
 土属性LV17
 風属性LV17
 光属性LV19
 闇属性LV16
 HP自動回復速度上昇LV15
 MP自動回復速度上昇LV15
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 ダイチ・タカミ
 LV82
 HP 一三六八〇/一三六八〇
 MP 八四二〇/八四二〇
 STR 一二三一
 DEX 八二一
 VIT 一一七八
 INT 七八二
 AGI 七八八
 MND 八一九
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV8
 盾LV19
 大盾LV17
 大槌LV20
 剣術LV15
 刀LV10
 威圧LV10
 状態異常耐性LV16
 気配察知LV11
 火属性LV15
 土属性LV17
 光属性LV15
 HP自動回復速度上昇LV19
 属性
 火・土・光
 #
 #
 リン・ハネダ
 LV81
 HP 七四九〇/七四九〇
 MP 一二二二〇/一二二二〇
 STR 六三五
 DEX 一一六一
 VIT 七四七
 INT 一二二八
 AGI 七九一
 MND 一三三九
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV11
 体術LV13
 威圧LV10
 状態異常耐性LV13
 火属性LV23
 水属性LV21
 光属性LV21
 闇属性LV20
 MP自動回復速度上昇LV17
 魔術攻撃力上昇LV15
 属性
 火・水・光・闇
 #
 #
 ミオ・トウヤ
 LV79
 HP 八八〇〇/八八〇〇
 MP 七五〇〇/七五〇〇
 STR 六一六
 DEX 八一五
 VIT 六九〇
 INT 一四九〇
 AGI 八三八
 MND 一一〇〇
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 体術LV7
 回復特化
 付属魔術
 威圧LV9
 料理LV20
 作法LV16
 僧侶Lv21
 ヒール・ハイヒール・エリアヒール・ヒールライト・リジェネ・光の刃・解呪・状態異常回復
 状態異常耐性LV13
 HP自動回復速度上昇LV15
 MP自動回復速度上昇LV16
 属性
 回復特化(ユニーク)
 付属魔術(ユニーク)
 #
 #
 ヒナギ・マツマエ
 LV63
 HP 三九八二/三九八二
 MP 四八二〇/四八二〇
 STR 三八四
 DEX 三九〇
 VIT 三九五
 INT 四八一
 AGI 四二八
 MND 四七三
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV11
 体術LV9
 状態異常耐性LV9
 火属性LV8
 風属性LV8
 光属性LV9
 MP自動回復速度上昇LV8
 属性
 火・風・光
 #
 #
 コトネ・ホウライ
 LV61
 HP 三三〇八/三三〇八
 MP 五五五二/五五五二
 STR 三二六
 DEX 三三〇
 VIT 三四一
 INT 四七七
 AGI 二六八
 MND 四八一
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 料理LV11
 状態異常耐性LV6
 水属性LV9
 光属性LV9
 HP自動回復速度上昇LV7
 MP自動回復速度上昇LV7
 属性
 水・光
 #
 #
 シキ・ホカリ
 LV62
 HP 四四七五/四四七五
 MP 二七二〇/二七二〇
 STR 四八七
 DEX 三二八
 VIT 四六九
 INT 三二〇
 AGI 三一一
 MND 三九七
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 体術LV8
 剣術LV9
 大槌LV7
 盾LV6
 状態異常耐性LV8
 土属性LV9
 風属性LV8
 HP自動回復速度上昇LV7
 属性
 土・風
 #
 #
 ジン・ササキ
 LV61
 HP 四二四九/四二四九
 MP 四〇九八/四〇九八
 STR 三四九
 DEX 三四七
 VIT 三四〇
 INT 三五三
 AGI 四二九
 MND 四八七
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV13
 刀LV9
 状態異常耐性LV8
 風属性LV6
 闇属性LV8
 隠蔽LV10
 HP自動回復速度上昇LV6
 MP自動回復速度上昇LV6
 属性
 風・闇
 #
 #
 ヴェレス・ドレット
 LV 六九
 HP 三七六九/三七六九
 MP 四九八七/四九八七
 STR 二五〇
 DEX 四四一
 VIT 二八九
 INT 四八一
 AGI 三五八
 MND 四八五
 LUK 五〇
 スキル
 超解析
 作法LV17
 解読LV9
 剣術LV10
 体術LV7
 料理LV5
 威圧LV5
 状態異常耐性LV5
 時空術LV12
 アイテムボックス
 属性
 時空魔術(ユニーク)
 #




「ヴェレスさん、転移お願いしていいかな?」
 勇志は方針を全員に伝えて、了承を得てから、ヴェレスに転移魔術を使うようにお願いした。
「はい、一度あの森に行った事があるので、問題なく行けます」
「よし、じゃあ、明日は転移門付近の森でレベリングだ!」


 …………
 ……
 ……
「はぁ……はぁ……くそっ!」
 信喜はやけくそに魔術を使う。
「信喜、落ち着きなさい!」
 その行為を緋凪が注意する。
「お、おう……。だけどよ、このまま防戦一方だと押し切られるぞ」
 そう言って、信喜は周りを見る。
 ヴェレスを含む自分達を、ドレット王国勇者が守るように戦っている。
 そう、今は大量の魔物に囲まれているのだ。
 そして、今にも突破されようとしているのだ。
「何でランク一〇以上の奴らがこんなにもいるんだよ……」
 ポツリと信喜が呟いた瞬間、遂にその時が来た。
「ヴェレスちゃん! MPポーションを!」
「…………[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ミオさん! MPポーションが切れています[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「そんな! 私ももうMPが……!」
 補助がなくなっては、今まで通り守りながらは難しくなってくる。
 すると、必然的に魔術が多くなる。
 その魔術も遂に底が来た。
「しまった[#縦中横]!![#縦中横終わり] 三匹そっちに行った!」
 魔物が三匹勇志達を突破する。
 その三匹はランク一二で、補助なしのライズ王国勇者では難しい。
「師匠! こっちは大丈夫だ! 今はそっちに集中してくれ!」
 いつも無言の仁が、先陣切って漏れた魔物を相手する。
 それに続いて、信喜が一匹、緋凪と琴音が一匹を相手する。
 しかし、それも長くは続かなかった。
「MP切れ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] やばい[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 魔術師の鈴のMPが切れたのだ。
「くっ!」
 何とか攻撃を回避する鈴。
 しかし、魔物はその隙を狙って、勇志達を突破する。
 万事休すかと思ったその時。澪、鈴、ヴェレスが同時に反応した。


 そして――――。


「「「伏せて[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」」」
 三人は威圧を使って発したため、ライズ王国の勇者は、行動を中止してしゃがんだ。
 勇志と大地は威圧は効かなかったが、指示通りしゃがんだ。
 その刹那、確かな異変が起こった。
 全ての魔物が氷漬けにされていたのだ。
 九人はその光景に唖然としていた。
 その中でも、澪、鈴、ヴェレスは若干冷汗を流していた。
 この三人は理解しているのだ。
 この魔術は王級以上の魔術だと。
 そして、無詠唱で放たれたことも。
 この魔術を使ったのは誰なのか……。
 この中で一番魔術に長けている鈴が、放った魔術師の位置を大体特定する。
 そして、その人物を見た瞬間。鈴は目を見開いた。


「大丈夫ですか?」


 何と、そこには紫に近い青の髪の色をした、鈴と変わらない身長の兎族がいたのである。


[#ここから6字下げ]
王国の規則とかわからん!
ステータス考えるのがホント疲れる。
さて、紫色に近い青色の髪の兎族……?
身長は鈴と変わらない?
誰なんでしょうね?
感想待ってます
それと、遂に熱を出しました
ですが、以前のように完全無気力状態ではないので、小説は書けます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]36話 勇者と兎族の少女っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
えっと、読者の皆様。
主人公のせいで、勇者が弱く見えた方が多いのではないのでしょうか?
ここで、勇者がどれだけチートなのか説明したいと思います。
それと、勇者は人間限定で最強なだけであって(強斎は除く)亜人などは含まれておりません。
ここでは一番強い勇志に例えましょう。
まず、握力ですが二トンはあります。
パンチングマシーンで殴った場合、七五〇〇キロは超えます。
時速120km超の大型トラックに潰されても死にません。怪我は負うと思いますが。
数百メートル離れた林檎の芯を鉛筆投擲で砕けます。
全力で走ると、時速850kmぐらいで走ります。
それをご理解した上でどうぞ
追記 こう考えると、この世界の魔物ってかなり恐ろしいですよね
[#ここで字下げ終わり]




「大丈夫ですか? どこかお怪我とかは……」
 突然勇者の前に現れた青髪の兎少女は、先ほどの魔術がさも当然だと言わんばかりに、全く疲労を見せていなかった。
 鈴は色々な事に唖然とし、声が出なかった。
 その、行為に兎族の少女は不安気になる。
「えっと……人族ですよね? 言葉は通じているはずですが……」
 その少女の顔を見た鈴はハッと我に返る。
「あ……。う、うん。私は大丈夫。でも、仲間が怪我をしていて……」
 返事が返ってきたことに一安心した少女は、一瞬安堵の表情を見せ、直ぐに顔をしかめた。
「わかりました。直ぐにお仲間を集めてください。何人程ですか?」
「私を含めて九人……です」
「九人……わかりました。直ぐに戻ってきますので、この中にお仲間を」
 少女は少し空いているスペースに、土魔術で簡易な小屋を造った。
 勿論、九人は余裕で入るし、かなり頑丈だ。
 ただそれだけのことなのだが、鈴の口は塞がらなかった。
(嘘……でしょ……? これだけの大きさ、頑丈さがある小屋を造るのに、ノータイムで魔術を使うなんて……この子、何者なの[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 鈴は気になってその少女のステータスを除く。
 しかし、ここでも鈴は驚愕した。
(そ、そんな……何で……)
 鈴が見たステータスはこうであった。

ルナ
LV10
HP 八〇/八〇
MP 一五〇/一五〇
STR 二〇
DEX 一八
VIT 二三
INT 二一
AGI 二六
MND 二八
LUK 四〇
スキル
体術LV2
水属性LV1
土属性LV1
属性
水・土

 鈴は直感した。
 確実に、このステータスは本物ではないと。
 そもそも、MP自体全く減っていない。
 さっきの魔術は第三者が……という疑惑も一瞬脳内を|過《よ》ぎったが、直ぐに打ち消した。
 魔術に長けている鈴だからこそわかる。
 この少女からは魔力がほんの少ししか漏れていない。
 本来の魔術師なら、嘲笑うだろう。
 しかし、鈴はそう思うことは出来なかった。
 漏れる魔力が完全に一定なのだ。
 明らかに調整しているとしか思えない程に一定だ。
 大魔術を使った時だけ、一瞬でありえないほどに大きくなり、直ぐに一定になる。
 そこまで考えた時、鈴は恐ろしくなった。
 雰囲気から敵ではない事がわかる。
 しかし、この少女の実力が全くわからないのだ。
 今までは超解析のおかげで相手のステータスを把握することが出来た。
 しかし、それが通用しないのだ。
 未知への恐怖。
 まさに、それだった。


「大丈夫ですか?」


 急に声をかけられ、声を上げそうになるが、鈴は何とか堪えた。
「え、ええ」
「? では、私は少し行ってくるので、お仲間をそこの小屋によろしくお願いします」
「わかったわ」
 鈴は一度後ろを向き、もう一度その少女を見ようと向き直るのだが……。


「……本当に何者なの?」


 そこには誰も居なかった。


…………
……
……
「これで、全員ね」
 少女が造った小屋に全員が集まり、頷いた。
 しっかりと、全員座れるスペースもある。
 そこで、澪が最初に口を開いた。
「ねぇ、鈴。やっぱりこの小屋を造ったのって……」
「ええ、私たちを助けてくれた人よ」
「その人は一体……」
「その質問の前に、ヴェレスに質問があるわ」
「何でしょう?」
「兎族って、戦闘種族なの?」
「いえ、違いますよ。私たち人間族より非戦闘種族です。ですが、何故そのような…………ま、まさか……」
「ええ、私たちを助けた恩人が兎族の少女なのよ……」
「そ、そんな! 何かの間違いでは……! あれ程の大魔術……エルフや精霊様でないと……」
 ヴェレスが先ほどの魔術を思い出しながら、鈴に問う。
 しかし、鈴は首を横に振った。
「確かに兎族だったわ……。それと、驚くところはそこだけじゃないのよ」
 すると、鈴は一度全員を見てこう言った。
「私は、あの子の本当のステータスを見ることが出来なかった」
 その言葉に、ヴェレスとドレット王国勇者が驚愕する。
 ライズ王国勇者はイマイチ理解していないようだ。
「鈴。どういうことだい?」
 勇志が少し動揺しながら鈴に訊く。
「そのままの意味よ。あの子のステータスは、あまりにも一般的過ぎた」
 大半の者がその意味を理解できた様だ。
 しかし、理解できていない者もいた。
「それなら、それが普通なんじゃねぇのか?」
 ――信喜だ。
 信喜の言葉に若干鈴がイラつく。
「ほんっと馬鹿ね」
「なに[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「じゃあ、今からこの小屋の壁を壊してみなさいよ。言っておくけど、この壁は全くのノータイムで造られた壁だから」
 すると、信喜はにやりと笑う。
「いいだろう。やってやるよ」
 ちらりと緋凪を見て、信喜はスっと立ち上がった。
(全くのノータイムってことは、せいぜい初級か下級程度だろう……見てろよ緋凪、今日こそお前を振り向かせてやる!)
 そう言って、信喜はUR級のメイスを取り出し、そこにあるだけの魔力で強化して、思いっきり叩いた。
 ――――しかし。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 その壁にはヒビひとつ入らなかった。
「これでわかった? 一般的なステータスを持つ子が、こんな異常な壁を造るのよ? それが異常だって言ってるの」
 鈴は一つ溜息をして、話をヴェレスにふった。
「ねぇ、ヴェレス。何かわかる?」
 この中でこの世界に一番詳しいヴェレスに訊いた。
「……恐らく、『超解析』と対のスキル『超隠蔽』だと思われます……しかし……」
 歯切れの悪い回答に、勇者達は疑問に思った。
 そして、ヴェレスは言葉を続けた。
「『超解析』は『超隠蔽』に対してステータスだけは、見えるはずです……。ですが、ステータスすら見えないとなると……考えられるのは三つですね」
 一拍置いてから、ヴェレスは自分の考えを話した。
「まず一つ目は、ユウシ様の様なレアスキルのレベルアップであること。二つ目は、『超隠蔽』と『隠蔽』を両方所持していること。最後は……絶対の確率で有り得ませんが、伝説のユニークスキル所持者だということ……このくらいですね」
「二番目が一番有り得るな」
 大地の言葉に皆頷く。
「でも、そのユニークスキルって?」
 澪が気になってヴェレスに訊いたその時……。


「皆さん、お待たせしました」


 兎族の少女が帰ってきたのである。
 そして、鈴以外の全員がやはり驚いた。
 最初に口を開いたのは澪である。
「あ、あなたが私たちを助けてくれたの?」
「食材を探していたら、魔物の群れに襲われていたので……勝手なことをして、すみませんでした……」
 ペコリと少女は頭を下げた。
 その姿を見て、澪は急いで誤解を解く。
「いやいやいや! 謝らないでくださいよ! こっちは物凄く感謝しているんですから」
 すると、少女は顔を上げ、ニコッと笑った。
「そう言っていただけると幸いです」
 一同は何故か押し黙ってしまった。
 しかし、勇志はその空気を崩そうと、その少女に声をかける。
「君は小さいのに、しっかりとしてるんだな」
「私、一七歳ですよ?」
『え?』
 全員の声が一致した。
 その完全一致に少女は頬を膨らませる。
「いいですよ。どうせ私は、そこの人のように胸もありませんから……。子供に見えてもしょうがないです」
「あ、いや……すまないね……」
 勇志もこれは失礼だと感じて、罪悪感が出てくる。
 しかし、その少女は直ぐに機嫌を戻した。
「もう慣れてますから、お気になさらずにです。それと、皆さん怪我をしてますよね? よかったら……これを」
 そう言って、少女は何もない空間からポーションを取り出す。
 アイテムボックス持ちだとすぐにわかったが、超解析持ちは違う意味も理解した。
 そう、この少女はアイテムボックスのスキルを所持していない。
 それだけで十分だった。
「えっと、アイテムボックスはそんなに珍しくないはずですが……」
「あ、いや。すまない。続けてくれ」
「続けるもなにも、このポーションを皆様に差し上げます。一本で十分ですが、もう一本差し上げますね。あ、毒は入っておりませんから」
 そう言って、その少女は全員に見せるように一本飲む。
 そして、全員にポーションを配った時、少女は場の変化に気がついた。
「どうしましたか?」
 ヴェレス、勇志、大地、鈴、澪が皆冷汗を流していたのだ。
 最初に口を開いたのはヴェレスだった。
「ま、まさか……このポーション……特級ですか? しかも万能の……?」
「あ、よくわかりましたね。そうです、皆様にお配りしたポーションは全て万能ポーションの特級ですよ。ですので、安心して飲んでください」
 安心とかの問題じゃないと誰かが内心で叫んだ。
 ひとまず、勇者一同はそのポーションを飲んでみた。


「……これが、特級……」
 ポツリと鈴が呟く。
 皆、その効果に驚きを隠すことができなかった。
「本当に凄い……HPやMPだけじゃなくて、疲労まで全回復するなんて……」
 緋凪が自分の手を開いたり閉じたりしている。
 そこで、少女が声を出した。
「そう言えば、皆様はなんでこの森へ?」
 その疑問に答えたのは勇志だ。
「ちょっと、レベル上げにこの森に来たんだ。ランク一〇前後の魔物を狩るつもりだったんだけど……。何故かランク一〇以上の魔物に囲まれてしまってね。本当に助かったよ」
 すると、その少女は少し目を逸らして苦笑いをしていた。
「そ、それは大変でしたね……! それよりレベル上げですか……ここであったのも何かの縁です、手伝いましょう!」
 急に話題を変えられた事に少し不審に思ったが、この少女の提案が魅力的だったので、そこまで深追いはしなかった。
「いいのかい? 食材を探しているんじゃ……」
「大丈夫ですよ、もう大体集まりましたから」
 すると、その少女はスっと手を出した。
「私の名前はルナ。今日一日よろしくね」
 勇志は躊躇いなく握手をした。
「ああ、僕の名前は勇志。今日一日お世話になるよ、ルナさん」
 こうして、勇者のレベル上げが始まった。




「じゃあ、早速魔界行こっか」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ルナが魔界行きの提案をしてしまったので、魔界でのレベル上げだ。


[#ここから6字下げ]
なんと、兎族の少女の正体は強斎の奴隷であるルナでしたー(棒
この先、強斎と勇者は再開するのか?
それとも、すれ違ってしまうのか?
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]37話 勇者の自信と弱点っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
書いてたら、PCが勝手に再起動しやがりました
[#ここで字下げ終わり]




「ここら辺で休憩をとりましょう」
 ルナと、魔界の死の森でレベル上げを手伝ってもらって、少し経った頃。
 疲労が見える者が出てきたので、ルナは休憩を取り入れた。
 ルナは一人木にもたれながら座り、考え事をしていた。
(やっぱり、少しおかしいですね……死の草原では、なんの変化も無かったけど、この森と転移門付近の森だけ、異常に魔物が活発かつ複数いますね……。まぁ、大体は予想がついていますが……)
 そう言って、ルナは深い溜息を出す。
(……主様の存在しか有り得ませんね……。主様、草原には何の手も加えていませんでしたから、そこに弱い魔物が集まり、残った強い魔物は、何とかして生き延びようと集団で生息するようになった……こんなもんでしょう)
 そこまで考えたところで、澪がルナの隣に来て腰を下ろした。
「ルナさん、何か悩み事ですか? 溜息してましたけど……」
 疲労を見せない澪がルナに言葉をかける。
「いえ、もう解決しましたから……。それと、ミオさん……でしたよね?」
「あ、はい……って、自己紹介しましたっけ?」
「いえ、お仲間がそう呼んでいたので」
「凄いんですね、ルナさんって」
「それほどでもありませんよ。……そう言えばミオさん」
「はい」
「ミオさんって……いえ、他のヴェレスさん、ユウシさん、ダイチさん、リンさんって『超解析』のスキル持っていますよね?」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「その反応で十分です」
 ルナはその場でスっと立ち上がった。
 澪は固まったままだったが、何とか声を絞り出した。
「な、なんで……もしかして、最初から……」
「いえ、私も最初からわかった訳ではありません。一緒にレベル上げをしてるうちにわかったんですよ……。私が魔物に攻撃した時、異常に驚いていましたから。……それに――――」
…………
……
……
 澪がルナと話している間、ヴェレス、勇志、大地、鈴は話し合っていた。
 お題は、勿論ルナについてだ。
「私、ちょっと魔術師として自信を失ったんだけど……」
 早速鈴が愚痴らしき言葉を発した。
「俺も重戦士としての自信を失ったな……」
 珍しく、大地も凹んでいた。
「僕も聖騎士として、魔術剣士としての自信が……」
 勇志が一番凹んでいるようだ。
 そして、この中で一番まともなヴェレスが、話題を変えようとする。
「皆さん! 今は落ち込んでいる場合ではありません!」
「って、言ってもね……数十匹のランク一二以上の魔物を、数瞬でHP1桁になるよう加減して、気絶までさせてから、私たちにラストアタックを取らせる化物よ? しかも、その化物が私たちと同い年で、非戦闘種族なんだもん……。そりゃ、自信もなくすでしょ?」
 そこで、また大きく溜息をつく三人。
 だが、大地は直ぐにそこから立ち直り、本題に入った。
「素早さ、防御力、攻撃力、魔術、剣術、その何もかもが群を抜いている……やはり、加えるべきじゃないか?」
 そう、ルナを仲間に加えようと思っているのだ。
「そうだね……僕もそう思うよ。さすがに魔神討伐って言ったら、頭おかしいと思われると思うから、ルナさんには魔王討伐として仲間に入ってもらおう」
 勇志のその提案に、反論は無かった。
 魔神を討伐するためにレベル上げしていると言ったら、普通に心配される。
 この世界で魔神とは、架空の存在に近いのだから。
 だったら、自分たちが勇者だと話して、魔王を討伐すると言ったほうがいいだろう。という決断だ。


「ん? 澪が戻ってきたみたいだぞ」
 結論が出た数秒後に、ルナのことを少しでもわかろうと出撃した澪が、戻ってきた。
 しかし、トボトボと歩きながら戻ってくるところから、大した成果はないだろうと四人は推測する。
 そして、澪が四人の前で止まった時。
 予想外の言葉を発したのである。


「…………ルナさんが化物すぎる」


 そう言って、ガクッと膝をついてから、手を地面につけた。
「え……澪[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 何があったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 鈴は澪の肩を揺らすが、しばらくは反応しなかった。
…………
……
……
「あいつら、何やってんだ?」
 澪が放心状態になっている時、ライズ王国勇者は普通に休憩をしていた。
 疲労を見せた者たちだ。
 信喜は澪と鈴が、コントをやっているように見えたらしい。
 それに答えたのは琴音だった。
「多分、澪さんがルナさんに話しかけて、何か言われた……。そんな感じじゃないかしら?」
「ふぅ」と小さく息を吐きながら琴音は立ち上がった。
「それにしても、ルナさん凄かったわね……」
 その言葉に誰もが共感した。
「ほんとにあのルナって奴は一七歳の非戦闘種族なのか?」
「おい、信喜。『さん』をつけろ『さん』を『様』でもいいんだぞ」
 仁が信喜に注意をする。
「お前は、慕い過ぎだ」
「当たり前だ。師匠を圧倒的に超える方だぞ」
「あー、はいはい。そーですねー」
 この後信喜は、仁の力説をスルーし続けた。
…………
……
……
「そんな……『超解析』がバレていたなんて……」
 澪が復帰し、一番最初にこの事を伝えた。
 鈴は先程の言葉と同時に足元がふらつく。
「鈴……大丈夫?」
 弱々しい声で鈴を心配する澪。
「ええ、大丈夫よ……ちょっと、チートって意味がわからなくなっただけ」
「それは俺も同感だ。あれだけのスペックにここまで頭がきれるとは……俺たちがチートだとしたら、ルナさんはバグの部類に入るな」
 大地が苦笑い気味に言う。
 それに続くように、澪が話し出す。
「ルナさん、本当に凄かったの……私たちの弱点とか、色々と教えてもらった……」
「「「「弱点?」」」」
「うん、弱点」
「ルナさんはなんて言ってたの?」
 鈴が若干不思議に思いながら、話を聞く。
 この勇者チームはバランスが取れていて、連携も取れている。
 弱点など、そうそうないはずだった。
「えっと……それはね……」
「じれったいわね。早く言いなさいよ……」
「うん……えっとね、ヴェレスを含む私たち五人の弱点は……」
 澪はしっかりと、鈴を見てこう言った。




「鈴……あなただって」




 五人はしばらく黙っていた。
 連携とか戦術とかではなく、個人がそのグループの弱点だと指摘されたのだ。
 しかし、鈴はどこか吹っ切れたようだった。
「そっか……やっぱり私だったか……」
「どういう事だ? 鈴?」
 大地が不思議に思い声をかける。
「私、最近自覚し始めたことがあってね……。私、精密に魔術を放つ事が苦手みたい……」
 そう、鈴はいつも広範囲魔術を使っていたのだ。
 精密重視の魔術が苦手だとわかってから余計に……。
「多分、このせいだと思う……」
「それもありますが、もっと基本的なところから見直してみましょう」
 鈴が苦笑いをした時、澪の後ろからひょこっとルナが出てきてそう言った。
 しかし、全員驚くことは無かった。
 普通に近づいて来るのが見えたからだ。
 そして、ルナは言葉を続けた。
「リンさんは物凄く魔術に長けております。ですが、その強力さのせいで、無駄な消費をしている事にお気づきでしたか?」
「え?」
「やはり、気がついていなかったのですね。リンさんが魔術を使う時、魔力が全て魔術に使われていないのですよ。そのせいで、思ったような魔術が完成せず、精密度を中心に劣化しているのです」
「えっと……もう少しわかりやすく……」
「そうですね……」
 ルナは両方の手のひらを鈴に見せるようにした。
 そして、その手から二つの火玉が出てきた。
「魔術の同時発動……」
 そこに居た魔術師三人はここでも驚くことになった。
 しかし、ルナはそのようなことを気にも止めず、話を続けた。
「リンさん、この二つの火玉のうち、弱い方はどちらかわかりますか?」
 鈴はその二つの火玉を見比べる。
 右の方は安定した形を保っているが、左は右よりほんの少し小さく、球にブレがある。
「えっと……左」
「はい、正解です。ですが、この火玉、同じ量の魔力を使っているのですよ?」
「え……? じゃあ、まさか……」
「そうです、リンさんが放とうとしている魔術は右の魔術。ですが、実際に出てくるのは左の魔術。こういう事です」
 ルナはスっと火玉を引っ込めて、話を続けた。
「ですので、リンさんにはまず魔力の操作から練習した方がいいと思いますよ?」
 ニッコリとルナはそう言った。
「あ、あの……ありがとうございます……」
 ちょっと恥ずかしかったが、鈴ははっきりと、そう言った。
「いえ、ここで会ったのも何かの縁ですから。さて、レベル上げを始めましょう」
 こうして、レベル上げが始まった。
…………
……
……


「今日はありがとうございました」
 すっかり暗くなった頃には、全員転移門付近の森にいた。
「いえ、こちらも楽しかったですし」
 勇志の言葉にこう返すルナ。
 そこで、勇志が何かを決心したような顔になった。
 その変化にルナは気づき、何事かと思う。
「どうしました?」
「えっと……実は、ルナさんに僕たちの仲間になって欲しいんだ」
「仲間ですか?」
「はい。実は、僕たちは人族の勇者でして……」
「確かに、普通の方と比べて、かなり破格の強さでしたね」
 ここで、ほとんどの人が内心で突っ込んだ。
「それで、僕たちと一緒に魔王を討伐しませんか? ルナさんの様な方がいてくれれば、かなり心強いのですが……」
 勇志は恐らく承諾してくれるであろうと思っていた。
 しかし、現実は違った。
 ルナが困ったような顔をしてこう言ったのである。
「それは、私では決めかねます……主様に訊かないと……」
『え?』
 そう、ルナは確かに『主様』と言ったのだ。
「え、えっと……主様とは……? この森の精霊様とか、何か?」
 勇志は若干焦り気味に言った。
「いえ、違いますよ。私たち、少し前からこの森に居候してるんですよ。で、主様は私の主様で、私は主様の奴隷なんです」
『奴隷[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
 全員、物凄く驚いた。
 そうだろう、何故ここまでの力を持ちながら奴隷なのか。
 その質問を、この中で最も適任者でない奴が訊いてしまった。
 信喜だ。
「なんでそこまでの力があるのに、奴隷なんだ? その主様って奴に騙されたってか? だったら、その主様って奴はクズや――」
 そこまで信喜が言ったところで、信喜は何も言えなくなった。
 いつの間にか尻餅をついていたが、気にもならなかった。
 ルナの目が殺気に満ちていたのである。
 そして、それが勘違いでないことが、ルナの次の言葉で確信になった。


「それ以上主様を侮辱するなら、殺しますよ?」


 ルナは威圧すら使っていない。
 ただの殺気でこの場を支配したのだ。
 しかし、その殺気も少し収まり、ルナは言葉を続ける。
「主様は気になさらないと思いますが、私[#傍点]たち[#傍点終わり]が許しませんからね。それと、お仲間のお誘いですが、やはり主様に訊かないとどうにもならないので……すみません」
 そう言い終わる頃には、既に殺気は消えていた。
 しかし、一同は喋ることは出来なかった。
「では、私はこれで……また機会があったらもっとお話しましょう」
 そう言って、ルナは暗闇の森の中に消えてしまった。
 ルナが消えた後も、勇者達は動くことが出来なかった。


[#ここから6字下げ]
なんと主人公の話題が一切出ずに別れてしまいました。
さて、ルナに殺気を向けられた勇者達はこれからどうするのでしょうか?
次回もお楽しみに!


えっと、少し質問なのですが。
自分の小説の書き方ってどうですか?
個人の意見でいいので、どこがダメで、どこがいいとか、簡単にでもお願いします。
勿論、言わなくても結構ですよ。
それでは、感想待ってます!
あ、Twitterやメッセージでの質問も受け付けております!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]38話 重い空気っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
沢山の感想ありがとうございました!
様々な方から様々なご意見を頂いて、本当に嬉しかったです!
これからも頑張ります!
[#ここで字下げ終わり]




「はぁ……」
 誰かがため息を出す。
 ここはドレット王国の食堂。
 そこに八人の勇者とヴェレスが朝食をしていた。
「リンさん、食事中にため息はお行儀が悪いですよ?」
 ヴェレスが先ほどため息をした鈴を注意する。
 ついでに、ヴェレスが仲間に加わってから、呼び方が『様』から『さん』に変わっている。
「あー……ごめん……」
「まぁ、ため息を出す気持ちもわかりますが」
 ヴェレスと鈴はそう短く会話をして、また無言になる。


 この重い空気の中、澪がポツリと呟いた。
「……私、ルナさんの言う『主様』って人……悪い人じゃないと思う」
 そう、この重い空気は昨日のルナと関係している。
 昨日、ルナを仲間に加えようとし、失敗した。
 そこで話に挙がったのが『主様』の存在だ。
 転移門付近の森からドレット王国に転移した時、琴音が『主様』について考えを述べた結果でもある。


 ――――ルナさんの『主様』に対する信仰が異常。


 その言葉に誰も否定出来なかった。
 そして、琴音は続けてこう言った。
『ルナさんってもしかしたら、その『主様』って人に、『命令』であんな風にされてるんじゃないかしら?』
 勇者達は奴隷について様々な事を聞かされている。
 悪い部分だらけだったので、奴隷持ちは勇者達の中で『外道』と認識されている。
 だから、このような発言が出てきても誰も否定しなかったのだ。
 しかし、今日の朝食で、『主様』が外道ではないと言う発言が出た。


「ミオさん? どういうことですか?」
 ヴェレスが澪の発言に対して疑問を感じた。
 ヴェレスも勇者達の同じように、奴隷制度に強く反対している。
 しかし、自分と同じように反対している人から、奴隷持ちは悪人では無いと聞かされれば疑問を持つだろう。
「えっとね……特に根拠はないんだけど……何か、ルナさんの『主様』って…………いや、なんでもない。ごめん、忘れて」
 澪はルナの『主様』に何か感じるところがあったみたいだ。


 澪の不明な発言が終わり、少しすると食堂の扉が開いた。
「あっ……お父様!」
 ヴェレスがいち早く反応する。
 扉を開けたのはドレット王国の国王、ホルスだった。
「食事中すまないが、少しいいだろうか?」
 ホルスは九人を見て、そう言った。
 皆、一斉に頷く。
「実は、以前から勇者様方に加えさせようとしていた人物がいてな……」
 そこで、ホルスは若干暗い顔をする。
「その人物に接触する前に、魔物に襲われ、接触に失敗した。そこで、悪いのだが、勇者様方直々に接触を試みて欲しい」
「……急ですね」
 ヴェレスがそう問いかけた。
 一回接触に失敗したからといって、勇者達に頼むというのは少しおかしいと思ったのだ。
「少しでも早くその人物を引き抜いて欲しいのだ」
「何か、理由があるんですね?」
 ヴェレスがホルスの目をしっかりと見て言う。
「ああ」
 ヴェレスはホルスを少し見てから、勇志を見る。
 この中で行動の決定権は勇志にあるのだ。
「僕はいいですよ」
 あっさりと了承した。
「すまないな……。ではその人物について説明をする。その前に朝食を済ませてくれ」
…………
……
……
 朝食を済ませた勇者一同は、先ほどの食堂でホルスの話を聞いていた。
「まず、その人物の名前は『ショクオウ』、性別は男で金と銀の女と三人パーティーを組んでいる。そして、実力は……」
 ホルスはスっと目を細め、言葉を続けた。
「対人戦、魔物戦、共に最強の冒険者と言われる程だ」


 ――――最強の冒険者。


 これだけで、勇者達の顔は引きつった。
 勇者達は人族の中では最強である。
 しかし、それはあくまでも人族限定であって、亜人等は含まれない。
 冒険者の中には勿論、亜人も含まれる。
 その中で最強と言われているのだ。
 どんな人物か気になるであろう。
「そんな人が仲間になるでしょうか?」
 勇志が最もらしい事を訊く。
「……わからん。だが、なんとしても引き抜いて欲しい……」
 ホルスが焦り気味に答える。
 その行動にヴェレスは不思議に思った。
「お父様、何故そんなに焦るのです? 確かに、そのような冒険者がいて下されば、魔神討伐も楽になりますが……。そもそも、その冒険者はどこにいるのですか?」
 ヴェレスの問いにホルスは一瞬動揺する。
 その動揺をヴェレスは見逃さなかった。
「……お父様?」
「……」
「お父様!」
 ヴェレスはバンッと机を叩く。
 国王にこのような態度をとれるのは、恐らく血族以外にはいないだろう。
 家名を捨てても、このように振る舞える証拠だ。
「ヴェレス、落ち着くんだ」
「ゆ、ユウシさん……ですが……」
 勇志がヴェレスを止めに入る。
 そして、そのまま言葉を続けた。
「国王様、その冒険者が居る場所を教えていただけないと、向かおうにも無理があります」
 そう勇志が言うと、ホルスに反応があった。
「……そうだな。その冒険者が居る場所、それは…………シッカ王国だ」
 その言葉を聞いた瞬間、ヴェレスが勢いよく立ち上がる。
「……っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ヴェレスは物凄い勢いでホルスを睨む。


 そして――――。


「……失礼します」
 そう言って、ヴェレスは食堂を出て行った。
「ヴェレス!」
 勇志がそう言って、ヴェレスの後を追う。
「あ、ちょっと! 勇志!」
 鈴が席を立って、勇志の後を追いかけようとするが……。
「待ってくれ」
 ホルスがそれを止めた。
 鈴は立ち止まり、ホルスを睨む。
「国王様さ、この状況をわざと作ったんでしょ?」
 すると、ホルスはため息をした。
「流石、勇者様だ……。ヴェレスにはあまり聞いて欲しく無い話題だからな。ユウシ殿が出て行ったのは驚いたが……、まぁ、後で聞いてもらう」
 鈴は席に戻り、その続きを聞くことにした。
「……もしかしたら来年……戦争になるかもしれん」
 その場にいた全員は、固まってしまった。
…………
……
……
「ヴェレス、待ってくれ!」
 少し先を走るヴェレスに、勇志はすぐに追いつき手を取る。
 手を掴まれたヴェレスは立ち止まった。
「ユウシ……さん」
「ヴェレス……まさか――」
 勇志はヴェレスを止めたことを少し後悔してしまった。
 ヴェレスの声を聞いて、とあることに気がついてしまったのだ。
 そして、ヴェレスは勇志の顔を見る。
 そう、ヴェレスは――――。


 ――――泣いていたのだ。


 勇志は自然とヴェレスの手を離す。
 しかし、ヴェレスは逃げなかった。


「……なんで、泣いているんだい?」
「あ……すみません……」
 ヴェレスは急いで涙を拭う。
 涙を拭い終わったヴェレスは、少し無言になり、勇志にこう言った。


「……場所を変えてお話しませんか?」


 勇志は無言で頷くことしか出来なかった。
…………
……
……
「――――と言うことだ。だから、ヴェレスには黙っておいて欲しい」
 ホルスの話が終わった頃には、皆、疲れたような顔を見るしていた。
 そして、鈴がポツリと呟いた。
「……どの世界も、人間ってのはこんなものよね」
「……すまないな、だが――」
「わかってる、国王として仕方ない事なんでしょ? 私も国王様が悪い奴には思えないしね。だけど、協力する気もない。私たちは、強斎を生き返らせるためにいつも通りレベル上げをさせてもらうわ」
「今はそれで十分だ……」
「それと、ヴェレスの護衛は任せて。その辺は魔物だろうが人間だろうが関係ないから」
 鈴がそう言って立ち上がる。
「もう、話はないわよね?」
「ああ、時間を取らせてすまなかったな」
「ならいいわ。……あ、そうだ」
 鈴は立ち去ろうとするが、その行動を一時中断した。
「澪、緋凪、琴音。後で私の部屋に来なさい」
 ニヤリと笑って鈴は立ち去っていった。


[#ここから6字下げ]
今回は少し無理矢理終わらせました。
前編だと思ってください。
感想待ってます!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]39話 恋っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
眠いです
時間が欲しいですね
[#ここで字下げ終わり]




「はぁ……。あの顔は絶対何か悪巧みしている顔だわ……」
 澪が先ほどの鈴の顔を思い出す。
 ため息しか出なかった。


 澪、緋凪、琴音は現在、鈴の部屋に向かっている途中である。


「私は、何となくわかるかなー……」
 苦笑い気味に緋凪が言う。
「私も……何となくわかったような……」
 琴音にも心当たりがあるようだ。
「えっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 私には全然心当たりなんて……」
「んー……まぁ、澪ちゃんだし、しょうがないかな?」
 緋凪はそう苦笑いをする。


 そうしているうちに、鈴の部屋までたどり着いた。
「はぁ……結局、なんのことかわからなかったな……」
 澪は少し不満のようだ。
「その答えは、鈴ちゃんから聞けばいいじゃない。私の考えが合ってるかどうかわからないんだから」
 緋凪はそう言いながら、部屋をノックする。
 すると、中からツインテールの少女、鈴が出てきた。
「あら、案外早かったわね。まぁいいわ、どうぞ入って」
 鈴は、三人を部屋に招き入れる。


 四人が腰を下ろしたところで、鈴が喋りだした。
「さて、お題はもうわかっていると思うけど……あ、澪以外」
「なんで[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪が図星を突かれたような動揺で、鈴に突っ込む。
「いや、実際わかってないでしょ?」
「うっ……。まぁ、そうなんだけど……」
「まぁ、そういうところが澪らしいんだけどね」
「私のことはいいから、答えを教えてよ」
「はいはい。……そこの二人はわかっていると思うけど、勇志とヴェレスについてよ」
 すると、緋凪と琴音は同時に頷く。
「やっぱりわかるわよね」
 鈴も満足気に頷く。
 しかし、澪だけはイマイチ理解していないようだった。
「えっと……どういうこと?」
「……澪ってさ。よくそれで女子高生やってたね」
 呆れた顔で、鈴がそう言った。
 すると、澪は頬を膨らませる。
 その光景に、一同は、思わず小さく笑ってしまう。
 先ほどの暗い話など無かった様な雰囲気だ。
「ふふっ……ごめんごめん。ちゃんと澪にもわかるように説明するね」
「最初っからそうしてくれれば良かったのに。……鈴の意地悪」
「だから、ごめんって言ってるじゃん。っと、話を戻すわね」
 鈴はそこまで言うと、先ほどと同じようにニヤリと笑った。
「ぶっちゃけ言いますと、ヴェレスと勇志をくっつけちゃうってことよ」


…………
……
……


 ここはドレット王国城内にある、広い庭。
 その広い庭には人は少なく、今は二人しかいない。
 その二人は椅子に座っていた。
 ヴェレスと勇志だ。


「すみません、こんなところで……」
 ヴェレスが申し訳なさそうに勇志に謝罪する。
「いや、とても素晴らしい場所だよ。……ところで、一体どうしたんだい?」
 そう、ヴェレスはホルスのとある言葉により、食堂から逃げ出したのだ。
 それを勇志が追い、ヴェレスを止めようとしたのだが、ヴェレスの涙により何も言えなくなってしまった。
 そして、ヴェレスが場所を変えて話がしたいという要望に従い、ここまで来たのである。


「…………実は、このドレット王国とシッカ王国は長年、敵対関係……と言ってもこちらが一方的に思っているだけなんですが……。まぁ、そんな関係なんです。……ですから――――」
「ショクオウと言う冒険者を引き抜く理由も、それに関係している……と?」
「……はい」
 すると、ヴェレスの目に潤みが見えてくる。
 勇志はそれを見て、不思議に思った。
「……なぜだい?」
「……え?」
「なぜ、ヴェレスはそんなに悲しむんだい?」
「……」
「戦争が嫌いだからってだけじゃないよね?」
「……それは」
「それは?」
 勇志はそこで、ヴェレスがポロポロと目から雫を落としていることに気がつく。
 それを見て、謝ろうとするが、その前にヴェレスが喋りだした。
「私が……私が力不足のせいなんです……」
「え?」
 勇志はの思考回路は一瞬止まってしまった。
 なぜその言葉が出てきたのか理解が出来なかった為である。
 しかし、ヴェレスは話し続けた。
「私は、自分が許せないのです……。いくら国の為といえども、勝手にこちらの世界に呼び出し、挙句の果てにお友達まで死に至らしめ、更にはこちらの勝手な事情にまで巻き込んで……それだけでも申し訳ないのに、その責任感に負け、私はお父様に当たってしまいました……。そんな自分が許せないのです……!」
 ギリっとヴェレスから歯軋りの音が聞こえる。
 それを見て、勇志はとある事を思った。
(……強斎だったら、こんな時どうするんだろう?)
 そう今は亡き友人を思い出し、心が少し痛むが、勇志は行動に出た。




 ――――――ポンッ。




 勇志はそっとヴェレスの頭の上に手を置き、撫で始める。
 さっきまで全身に力を入れていたヴェレスの顔が、驚きに変わる。
「ユウシ……さん?」
 ヴェレスの入れすぎた力は、完全に元通りになるが、次に、顔がドンドン赤く染まっていく。
 そして、そのヴェレスに勇志はトドメを刺した。
「ヴェレスは本当にしっかりとしているよ……」
「あの……えっと……はぅ……」
 ヴェレスの顔はもう真っ赤である。
 しかし、ヴェレスは勇志から顔を逸している為、勇志は気がついていない。
 そして、勇志は手を離してヴェレスに問いかけた。
「ヴェレスってさ、確か僕たちより二つ歳下だったよね?」
「はぃ……」
「だったらさ、まだそんなに責任感を背負わなくていいと思うんだ」
「ですが、私はこの王国の王女で……もうやめましたが……」
「王女だろうとなかろうと関係ないよ」
「え?」
 その事に驚いたのか、ヴェレスは勇志と顔を合わせる。
 思ったより至近距離だったようで、ヴェレスは少々動揺する。
 しかし、勇志はそれに気づくこともなく優しく微笑んだ。
「王女でも王女じゃなくても関係ない。ヴェレスが一五歳には変わりないから。だから、そんなに自分を責めなくていい。わがままの一つぐらい、親に反抗するぐらい、大丈夫だから」
 すると、ヴェレスはポカンと口を開いたまま止まってしまった。


 しかし、直ぐに元に戻りクスクスと笑い出した。
「ユウシさん、言っていることが滅茶苦茶ですよ?」
 勇志は、それに苦笑いで答えるしかなかった。


「ですが、ありがとうございます。何か楽になった気がします」
「それは良かった」
 すると、ヴェレスは椅子から立ち上がり、勇志の方を向いた。
「ところでユウシさん。私から一つ、わがままを言ってもいいでしょうか?」
「うん、僕でよければ」
 そう言って、勇志も立ち上がる。
「では、言わせてもらいますね?」
 ヴェレスは右手を握手をするかのように出した。
「ユウシさん」
「え? あ、うん」
 勇志はその手を握った。


 しかし、その瞬間勇志はグイっと引っ張られ――――――。






「――――――――好きです」








 耳元で告白された。


…………
……
……


「と、まぁ、こんな感じな訳よ」
 鈴は勇志とヴェレスの関係について、澪にもわかるように説明していた。
「まとめると、ヴェレスは勇志の事が好き。勇志も少しながら好意を持っているってところかしらね?」
 鈴はそこまで説明すると、小さくため息をした。
「鈴先生!」
「はい、澪君。なにかね?」
「私と強斎の関係と何が違うの? 同じ恋なんだよね?」
「「「……」」」
 一同は黙るしかなかった。
…………
……
……
「えっと……ヴェレス? 今のは……?」
 勇志が先程の言葉の意味を訊くが、ヴェレスは顔を真っ赤にしてモジモジしていた。
「えっと、その……告白……です」
「そ、そう……」
 そして、沈黙が流れる。
 しかし、その沈黙も数秒だった。
「えっと……その、お返事は……」
 ヴェレスがそう勇志に問う。
「あ、ああ。……僕は、嬉しいよ」
「え[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 先ほどのモジモジから、喜びが伝わるようになってきた。
「うん、いいよ。僕もヴェレスの事気になってたし……。付き合おうか」
「本当ですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 グイっとヴェレスは勇志に寄る。
「う、うん。でも、レベル上げとかは今まで通りやるよ?」
「大丈夫です! 全っ然大丈夫です!」


 それからヴェレスは、少しの間はしゃいだ。
 年相応の少女のように。
…………
……
……


「はぁ……はぁ……流石にここまで言えばわかったでしょ?」
「うん! 要するに私たちの劣化版ね!」
「ちっがーう[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 只今、鈴と澪は激闘を繰り広げていた。
 澪の恋愛に関する知識が、おかしい事になっていたのである。
 緋凪と琴音は諦めて指スマしていた。


「もー、何が違うの?」
「だから、澪と強斎は異常で、ヴェレスと勇志は一般的ってこと」
「私たちが異常なわけないよ?」
「いや、異常だから」
「どこが異常なのさ」
「まず、澪と強斎が異常。特に澪は危険」
「私が危険?」
「そう、もうヤバイ程危険。病気レベル」
「ひどいなー」
「……もういいわ。とにかく、そろそろ作戦会議を――――」
「鈴たち。そこに居るかい?」
 鈴が言い終わる前に、扉越しに勇志の声が聞こえた。
「ありゃ、ご本人来ちゃったか……。いるわよー」
 鈴は立ち上がり、扉を開ける。
「はいはい、何のご……よ……う?」
 そこにいたのは、勇志だけではなかった。
 ヴェレスもいたのだ。
 それだけなら不思議等ない。
 しかし、一つ不思議な事が起きていた。


「えっと、なんで手繋いでるの?」


 そう、勇志とヴェレスは手を繋いでいたのである。
 しかも、ヴェレスは今までにないほどニコニコしていた。
 そして、鈴の質問に勇志が答えた。


「えっと……僕たち、付き合う事になったんだ」
「へ、へー」
 もう鈴はそれしか言えなくなっていた。
「だけど、安心して。今まで通りレベル上げもするから。ただ、僕たちが付き合うことになっただけ。それ以外は変わらないよ」
「そうじゃないと困るわよ……」
 鈴はちょっと苦笑い気味にため息をした。
「どうしたんだい?」
 その器用なため息に疑問を持った勇志。
「なんでもないわよ。ただ、手間が省けたって思っただけ」
「?」
「ところで、他の面々にはもう言ったの?」
「ああ、説明したよ」
「じゃあ、あなたたちも部屋に入りなさい」
「いいのかい? こんな女の子だらけの……」
「いいからいいから。その代わり、澪に説明してやりなさい」
「?」


 この後、勇志が大苦戦したのは言うまでもない。
 しかし、勇志はなんとか勝利したのである。


[#ここから6字下げ]
これで勇者視点は終わりかな?
それと、一章的なのも終わりかな?
頭の中にサイドストーリーをいくつか考えています。
今、考えているサイドストーリーは
強斎&澪
強斎&大地
鈴&大地
です。
そういえば、新規小説作成ができないのですが……
タイトルを入力しても、入力してくださいって出ます
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]40話 打ち明けるっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです!
二章っぽいもの開幕です!
[#ここで字下げ終わり]




「ゼロ、魔王がどこに居座っているのかわかるか?」
 ルナと勇者が別れて数日後、強斎は唐突にそうゼロに訊いた。
 他の奴隷達は、ここにはいない。
「突然ね。どうしたの?」
「まぁ、もうそろそろ、魔界に行こうと思ってな。それと、新しい食材が欲しい」
「要するに、飽きたのね?」
「否定はしない」
「はぁ……。主人はブレないわね」
「で、魔王はどこに居座っている?」
「魔王って、どこの魔王?」
「え?」
「え?」
 二人同時に首をかしげた。
 最初に口を開いたのは、強斎だった。
「どこって……魔王は一体じゃないのか?」
 すると、ゼロは少し呆れた顔になって答えた。
「当たり前じゃない。この人間界と同じで、魔界にも王国ぐらいいくつかあるわよ」
 その言葉を聞き、強斎はある事を確信した。
(……やはり、魔王を討伐したら帰れるってのは嘘だったか……。まぁ、かなり嘘っぽかったしな)
 すると、強斎の中で何かが吹っ切れた。
「……主人?」
 強斎の微妙な変化に、ゼロは気が付いたみたいだ。
 その、疑問に答えるように強斎は小さく笑った。


 そして――――――。


「今から、大切な話をする。ミーシャ達を呼んでくるから、ゼロはここで待っていてくれ」
 強斎は眷属たちに、とあることを打ち明ける決心をした。
 …………
 ……
 ……
「遂に出発ですか?」
 ものの数秒で、眷属たちを集めた強斎にミーシャがそう問いかける。
「ああ、今日でここを出る。だが、今からするのは、その話じゃない」
 いつにも増して真剣な強斎に、眷属たちは息を呑む。
 そして、強斎は話を続けた。


「――――俺の正体についてだ」


 一瞬、時間が止まったように固まったが、それも直ぐに動き出す。
「主様の正体…………」
 ルナがそう呟いた。
「そう、俺の正体についてだ。……まず、みんなに謝っておこう。そして、俺は、記憶喪失なんかじゃない。俺は――――」
「この世界の人間じゃない。でしょ?」
 ゼロが強斎の言葉を遮ってそう言った。
「……気付いていたのか?」
 すると、ゼロは小さく笑う。
「何を今更。そんなこと、皆知ってるわよ」
 強斎が周りを見回すと、全員頷いた。
(まさか、本当に気がつかれていたとは……)
 以前、ゼロとそのような会話をしたことを思い出す。
「……いつから気がついていた?」
 やはり、気になるのがそれだ。
 全員、確信を持って頷いていたので、それなりの理由があるはずだった。
 最初に答えたのはミーシャだ。
「私は、キョウサイ様が魘されている時に気がつきました。この世界にはない言葉を使っていましたから」
「前者に同じく」
 レイアもミーシャと同じ理由だったようだ。
「ルナはどうなんだ?」
 強斎は、自分が魘されていることを突かれるのが少し恥ずかしかったので、ルナに質問した。
「私も、ミーシャさんやレイアさんと少し似ていますね。魘されているとは違って、主様の独り言からです」
「……俺、なんて言ってた?」
「ゼロさんに出会う前に、『すたんがん』という単語が聞こえてきまして……。その続きを聴いていたら、明らかにこの世界の言葉じゃなかったので」
(あー……あの時か……)
 強斎は苦笑いをするしかなかった。
 ルナが召喚魔術を普通に使えるようになり、ルナの接近戦について考えたのが、事の始まりだ。
(結局、納得がいくスタンガンは完成しなかったな……)
 強斎は今からでも試行錯誤をして作ろうと、少し考えてしまった。
 しかし、その考えも振り切り、最後にゼロに訊いた。
「……ゼロはなんでだ? 一番過ごしている時間が少ないはずだが?」
 軽く訊いたのだが、帰ってきた答えは凄まじく破壊力のある回答だった。


「え? だって、私、別世界に行ったことあるもん」
「…………は?」


 強斎は、数秒動くことができなかった。
 だが、その数秒後。強斎は声を振り絞ってもう一度訊き直した。


「ゼロ……一体、なんて言ったんだ?」
「だから、私はこの世界じゃない世界に行ったことがあるの。異世界ってやつね」
 すると、ゼロはどこか遠い物を見るような目になる。
 しかし、強斎はそんなことを気にもせず、ゼロに質問を続ける。
「その世界は何と言う世界だったか知ってるか?」
「ごめんなさい。知らないわ」
「そうか……。じゃあ、その世界から、どうやってこの世界に戻ってきた?」
「それが、よく覚えてないのよ……。まるで、その出来事が夢だったかのような感じ。まぁ、数えるのも億劫になるほど昔のことだし、ただ忘れているだけなのかもね」
 ゼロはそう懐かしむように笑う。
 しかし、強斎はこれだけで十分だった。
(初めから、打ち明けておけば良かったかもな……)
 そう、この世界から抜け出す方法があるという事実だけで十分だった。
 しかし、それと同時に強斎は胸を痛めた。
(そう……だよな。こいつらとも別れが来るんだよな……)
 少しながらでも、この世界から抜け出せる事を喜んでしまった事に、強斎は胸を痛めたのだ。


「キョウサイ様?」
 ミーシャには不思議に思われてしまったようだ。
「……訊かないんだな」
 ポツリと強斎は呟いた。
 その言葉は全員が察することが出来た。


 そう、その意味は――――。


「なんで、俺が元の世界に帰るかどうか訊かないんだ?」
 そう、こういうことだ。


 その疑問に答えたのは、ゼロだった。
「答えを聞いたって意味ないからよ。……だって、最終的には主人が決めるわけだし。それに――――」
 ゼロは全員を一瞥してからこう言った。
「答えを聞きたくない時もあるのよ」
 強斎は初め、この言葉の意味がわからなかった。
 それを見抜いたのか、ゼロが言葉を続ける。
「……それだけ、私たちに愛されているのよ」
 その時のゼロの笑顔は、いつもより数段美しかった。
 …………
 ……
 ……
「さて、出発する前にステータスの確認だ」
 先ほどの話題が一段落し、ここ数ヶ月行っていなかったステータスの確認のしあいをすることになった。
「そう言えば、私、主人のステータス見たことないわ」
 ゼロがそう言って、強斎を見る。
「あー……そうだったな。まぁ、この機会だ。全員のステータスも確認しておけ」
「わかったわ。主人のは最後にするわね」
「なぜだ?」
「楽しみは最後に取っておくものでしょ?」
「ちょっと、言っている意味がわからんな」
「そんな事、どうでもいいじゃない! さ、まずミーシャから見せて」


 #
 ミーシャ
 LV77
 HP 一二〇〇〇五九六/一二〇〇〇五九六
 MP 一二〇〇〇三六一/一二〇〇〇三六一
 STR 九〇〇一九六
 DEX 一〇〇〇二三三
 VIT 九〇〇一四〇
 INT 九〇〇一三六
 AGI 一二〇〇二五五
 MND 九〇〇一三一
 LUK 二〇
 スキル
 体術LV78
 剣術LV79
 短剣LV92
 投擲LV89
 弓術LV77
 料理LV23
 威圧LV86
 隠蔽LV65
 解析LV42
 空間把握LV58
 危機察知LV53
 状態異常耐性LV80
 火属性LV89
 水属性LV86
 土属性LV96
 風属性LV94
 光属性LV81
 闇属性LV88
 HP自動回復速度上昇LV71
 MP自動回復速度上昇LV70
 超隠蔽
 アイテムボックス
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 レイア・アンジェリーク
 LV78
 HP 一五〇〇二〇一二/一五〇〇二〇一二
 MP 一〇〇〇〇三〇一/一〇〇〇〇三〇一
 STR 一七〇三五九〇
 DEX 九〇〇一四一
 VIT 九〇〇二〇二
 INT 九〇〇〇九二
 AGI 一〇〇〇七〇九
 MND 九〇〇一九一
 LUK 三〇
 スキル
 攻撃力異上昇
 剣術LV85
 大鎚術LV90
 体術LV88
 弓術LV70
 料理LV12
 威圧LV87
 隠蔽LV65
 解析LV40
 空間把握LV52
 危機察知LV60
 状態異常耐性LV81
 火属性LV88
 水属性LV87
 土属性LV90
 風属性LV85
 闇属性LV86
 光属性LV80
 HP自動回復速度上昇LV74
 MP自動回復速度上昇LV69
 限界突破
 超隠蔽
 アイテムボックス
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 完全攻撃型(ユニーク)
 #
 #
 ルナ
 配下数一五七
 LV65
 HP 八〇〇〇四八一/八〇〇〇四八一
 MP 一八〇〇二四〇二/一八〇〇二四〇二
 STR 七〇〇一三二
 DEX 七〇〇一四七
 VIT 七〇〇一九六
 INT 七〇〇二一四
 AGI 七〇〇一五三
 MND 七〇〇二三一
 LUK 四〇
 スキル
 体術LV74
 棒術LV77
 剣術LV72
 弓術LV80
 料理LV15
 調教LV86
 威圧LV82
 隠蔽LV63
 解析LV38
 空間把握LV50
 危機察知LV52
 状態異常耐性LV82
 火属性LV82
 水属性LV83
 土属性LV82
 風属性LV80
 光属性LV78
 闇属性LV84
 HP回復速度上昇LV80
 MP回復速度上昇LV83
 超隠蔽
 アイテムボックス
 魔物召喚
 意思疎通
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 召喚魔術(ユニーク)
 #
 #
 ゼロ・ヴァニタス
 LV35000000
 HP 4・32991E+三四/4・32991E+三四
 MP 7・10526E+三六/7・10526E+三六
 STR 5・46208E+三〇
 DEX 4・94052E+三〇
 VIT 5・57430E+三〇
 INT 2・78821E+三二
 AGI 5・10284E+三〇
 MND 3・72448E+三一
 LUK 一五〇
 スキル
 剣術LV70
 棒術LV70
 弓術LV70
 料理LV20
 調教LV85
 隠蔽LV50
 解析LV50
 空間把握LV60
 危機察知LV60
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 火属性LV90
 水属性LV90
 土属性LV90
 風属性LV90
 光属性LV90
 闇属性LV90
 虚無属性LV99
 HP自動回復速度上昇LV90
 MP自動回復速度上昇LV90
 魔術攻撃力増加LV90
 魔術防御力増加LV90
 物理攻撃力増加LV90
 物理防御力増加LV90
 回復系統魔術Ⅸ
 限界突破
 超越者
 覇者
 超隠蔽
 精霊の威圧波動Ⅳ
 アイテムボックス
 属性
 火・水・土・風・光・闇・虚無(|全属性《オールアトリビュート》)
 神の|回復魔術《SPユニーク》
 虚無の精霊王(???)
 世界を破壊する者(???)
 #


「ゼロって本当に強かったのね」
 ミーシャが驚きを隠せない様子で、ゼロのステータスを見ていた。
「あなたたちも、かなり強いわよ? 私の知る限りの魔王と、五対一で遊べるぐらい。それに……」
 ゼロは視点を強斎に移す。
 すると、自然と全員の視線が強斎に集まった。
 そして、ゼロは口を開いた。
「主人のステータスを見たら、こんなことも言えなくなるんでしょ?」
「キョウサイ様と比べてはいけませんよ」
 ミーシャが苦笑い気味に言う。
 レイアとルナも力強く頷いていた。
「どんなステータスなのか、楽しみね」
 ゼロは小さく笑って強斎をじっと見る。
「…………」
 しかし、強斎は無反応だった。
 そもそも、確認すると言ってから、ピクリとも動いていないような気がするほど、固まっていた。
「主人?」
 ゼロが強斎の体を少し揺すると、強斎は我に返った。
「はっ……!」
「『はっ……!』じゃないわよ。一体どうしたのよ?」
「いや、今までステータスを確認しなかった自分が、情けなく思ってた」
「ちょっと、主人? 本当にどうしちゃったの?」
「まぁ、俺のステータスを見てくれ」


 強斎が見せたステータス。


 それは、とんでもないものだった。


 #


 キョウサイ・タカナシ
 配下数九九九九九+
 LV193
 HP 4・39397E+六〇/4・39397E+六〇(−三千五百万)
 MP 1・82035E+六一/1・82035E+六一(−四千万)
 STR 5・02168E+五九(−三百三十万)
 DEX 5・64939E+五九(−二百六十万)
 VIT 4・39397E+五九(−二百五十万)
 INT 5・64939E+五九(−二百五十万)
 AGI 5・02168E+五九(−二百九十万)
 MND 3・70349E+六〇(−二百五十万)
 LUK 五〇〇


 スキル
 言葉理解
 超解析Ⅳ
 剣術LV90
 刀術LV99
 二刀流LV99
 細剣術LV99
 投擲LV50
 大槌術LV50
 棒術LV50
 体術LV90
 槍術LV97
 弓術LV50
 盾LV96
 大盾LV93
 調教LV99
 解析LV12
 空間把握LV80
 危機察知LV92
 料理LV94
 潜水LV82
 吸血LV50
 薬剤生成LV33
 武器生成LV42
 生活魔術
 灼熱の息
 極寒の息
 落雷操作
 天変地異の発動
 無双
 魔物召喚
 意思疎通
 死霊指揮
 火属性LV80
 水属性LV80
 土属性LV80
 風属性LV80
 闇属性LV80
 光属性LV80
 虚無属性LV60
 HP回復速度上昇LV75
 MP回復速度上昇LV75
 アイテムボックス
 超隠蔽Ⅱ
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 全てを超越した威圧
 限界突破
 超越者
 覇者
 聖騎士
 万能騎士
 竜殺し
 神殺し
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 眷属ステータス分配
 眷属スキル分配Ⅱ
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・土・風・闇・光・虚無(|全属性《オールアトリビュート》)
 |想像魔術《SPユニーク》
 竜の王(ユニーク)
 召喚魔術(ユニーク)
 死霊魔術(ユニーク)
 竜の上に立つ存在(???)
 世界を破壊する者(???)
 神を超えた者(???)
 神を殺した者(???)
 最強の宿命(???)
 #


「「「「…………」」」」


 ――――無言。


 既に慣れたはずの眷属たちが、何も言えずに無言になっていた。
 眷属たちは皆、しっかりと受け入れている。
 しかし、どこか受け入れてはいけないと、ストップをかけているのだ。
 強斎ですら、戸惑っている。
 このステータスを、直ぐに受け入れろと言う方が無理なのだ。


 無言になること数分。
 ようやくミーシャが口を開いた。
「……キョウサイ様。一体、いつ神様を殺したのですか?」
 ミーシャはどこか遠い目をしていた。
 その質問に強斎はこう答えた。
「……覚えていない」


 こうして、一つの神がこの世から消え去った。


[#ここから6字下げ]
さて、強斎は一体何の神を殺してしまったのでしょうか?
この数ヶ月、何があったのでしょうね?
追記
主人公のステータスですが、ここで一度おさらいです。
E+は+分だけ〇が追加されます
HPで例えるとE+六〇なので
四〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
四那由多ですね!


次回もお楽しみに!


今週と来週は自分の都合により更新速度が激減します。
本当に申し訳ございません。
これからも『巻き込まれて異世界転移する奴は、大抵チート』をよろしくお願いします。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]41話 ポーション作りっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです!
今回は自分の欠点の一つである、誰が何を話しているかを意識して書きました!
[#ここで字下げ終わり]




 強斎が出発を宣告する約一ヶ月前。
 この日、一つの神が消え去った。


    *


「今日はポーションを作る」
 食事中に、強斎はそう言い出した。
 そして、一番最初にそれに対して口を開いたのはミーシャだった。
「突然、どうしたんです? 回復は必要ないと思いますが……」
 皆、同じような考えだったようで、全員が頷く。
 そして、その問いに強斎はこう答えた。


「だって、面白そうじゃん」


 何とも強斎らしい答えだった。
「それに、いざという時があるだろ? 備えあれば憂いなしだ」
 こうして、ポーション作りが始まった。
…………
……
……
「よし、とりあえず必要な材料を集めてくれ」
「え? 用意してないの?」
 ゼロがキョトンとした表情で、聞き返す。
「さっき思いついたからな。てか、ポーションって薬草と水でいいんだよな?」
「主人って考えなしなのね」
「悪かったな」
「そこが主人らしいのだけど。……まぁ、確かに簡易ポーションならそれでいいはずよ」
 少し微笑んだゼロはそう答えた。
「簡易?」
「そう、下級ポーションとかね。しかも、万能じゃない特化型しか作れないわ」
「ほう、だったらどうやったら作れるんだ?」
「わからないわ」
 そう、肩をすくめて答えた。
「……そうか。まぁ、とにかくこの森にある薬草集めてきてくれ」
「ご主人様は?」
 レイアが強斎はその間どうするのかを訊いた。
「俺か? そうだな……新魔術でも――――」
「すぐ採ってくるので、何もしないでください[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ミーシャが、そう声をあげて森の中に消えていった。
 それに続き、レイア、ルナまでもが血相を変えて薬草を採りに行った。
 そして、最後に残ったゼロがこう言った。
「魔術を使っちゃダメよ。新魔術なんて|以《もっ》ての|外《ほか》だから」
 こうして、ゼロも薬草を取りに行った。
 若干、冷や汗が出ていたことに、強斎は気がつかなかった。
…………
……
……
「とりあえず、私はこれだけ採ってきました」
 数分後、強斎の目の前にあったのは、薬草の山だった。
 先ほど、ミーシャが出したので最後だ。


「……こんなに採ってきて、この森大丈夫か?」
 強斎が、苦笑い気味に薬草の山を見て呟く。
 すると、ゼロは少し考える素振りをして、口を開いた。
「大丈夫なんじゃない?」
「根拠は?」
「薬草なんてすぐ生えてくるし。だから大丈夫よ」
 その答えに強斎は頷き、元々ポーションが入っていた物を取り出す。
 腰を下ろして、強斎は作業に入った。
(この中に薬草と水を入れて…………どうするんだ?)
 いきなり詰んだ強斎である。
 それを見て、ルナが近寄り意見を言った。
「加熱とかどうですか?」
「加熱か……まぁ王道だな」
「え? 王道?」
「いや、なんでもない」
 危うく記憶喪失ではない事がバレそうになるが、なんとか誤魔化す。
「とりあえず、やってみるか」
 そこで、強斎は火を使う魔力を流し込む。
 そう、流し込んだのだ。
 魔力を魔術に変換する前に、その入れ物に流し込んでしまったのだ。
 そして、その結果は――――。




 ――――失敗だ。




 小さな爆発を起こしてしまったのだ。
 そして、その被害はルナのみが受けた。


「あうぅぅぅ! 目がぁぁぁぁぁ! 目がぁぁぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ルナは目を押さえて転げまわっている。
 さっきの爆発の衝撃を強斎の次に近くで受けていたのだ。
 この時、強斎の頭の中にレベルアップ音が響くが、全く聞こえていない。
「ルナ! 大丈夫か[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 とりあえず、ルナのステータスを確認する。
(HPは、ほんの少ししか減っていないから大丈夫か。しかし、状態異常盲目か……)
 と、そこで強斎は周りを見る。
「お前らは大丈夫だったか?」
 全員、しっかりと頷いた。
「よし、ゼロ。ルナは盲目状態だ。治せるか?」
「そんなもの一瞬よ」
 ゼロがルナを一瞥し、また強斎に向き直った。
「はい、終わり。元々治りかけだったから、直接触れなくても良かったわね。それと、主人は焦りすぎよ。盲目状態なら光属性や水属性でも治せるし、それ程危険な状態異常じゃないわ」
「そ、そうか……」
「それと、ルナも大袈裟過ぎよ? 盲目程度で、あそこまで――――ん?」
「どうした?」
 ゼロが何かを考えたが、それも一瞬だった。
「えっとね、なんでルナが状態異常にかかるのか疑問に思ったんだけど……主人が使った魔術だから、しょうがないかなと」
 地味に痛い言葉だった。
「そ、それより……。ルナ、大丈夫か?」
 強斎は、ゼロの痛い目線から逃げるようにルナに話しかけた。
 ルナはフラフラと立ち上がり、ゆっくりと目を開ける。
「は、はい……すみません、迷惑をかけてしまって……盲目状態にはなったことあるんですが、何か凄い痛みを感じてしまって……」
 すると、ゼロが何とも言えない顔になって、話し出した。
「ごめん、多分それ、失明一歩手前の危ない盲目状態だったわ」
 ルナは身震いするが、その後の「まぁ、失明だろうが体が真っ二つになろうが、HPがあれば完全に回復できるけどね」と言うゼロの言葉にほっと一息をつく。


 この後、注意しながらポーションを作っていたら、スキルが手に入り、何とか作れるようになった。


    *


 この森、転移門付近の森は大変な事になっていた。
 そう、薬草が生えてこないのだ。
 原因は、この森の薬草を管理する小さな神の死。
 ポーションの爆発の元になったせいで死んでしまったのだ。
 この薬草の神は薬草と同じ形をしているが、本来引っこ抜くことすらできない。
 燃やしても、それを上回る回復力で燃え尽きないのだ。
 しかし、その異常な回復力のせいで爆発が起きたのも事実である。
 火の魔力と回復力が反発し合い、燃えるだけの現象が小爆発まで発展してしまったのだ。
 そして、その爆発はその異常な回復力を凌ぐ早さ……というより、回復する前に一瞬でHPを削り取ってしまったのである。
 これが、小さな神……転移門付近の薬草神はこの世から消え去ってしまった。


    *


「んー……やっぱり覚えがないな……」
 強斎は自分のステータスを見ながら、そう呟く。
「金スライムが倒してしまった。って事はないしな」
 そう言って、金スライムを見る。
(そもそも、テイムしている魔物が倒しても、経験値は入ってこないしな)
 そして、その金スライムを召喚魔術師特有の空間に入れる。
 と、そこで強斎はとあることを思いつく。


「なぁ、お前達」
「ご主人様? どうしました?」
 レイアが一番初めに答える。
「魔界に行くとか言っときながら、悪いんだが、ちょっとの間ドレット王国に行ってきていいか?」
「そう言えば、前も言ってましたね」
 レイアが首を傾げながら言う。
「まぁ、色々と事情があってな。直ぐに戻ってくると思うから待っていてくれないか?」
「食事に夢中になって戻ってこないとかはなしよ?」
 ゼロが真顔でそう言った。
「大丈夫だって、そん時はお前らも連れてくるから」
「あ、可能性はあるんだ」
「まぁ、善処する」
 そう言って、強斎は眷属たちから少し離れる。
 そして――――。




 ――――――ロングコートから黒い竜の羽を生やした。




「「「「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」」」」
 それには流石の眷属も、驚きを隠せなかった。
「んじゃ、行ってくるわ」
 その瞬間、強斎は消えてしまった。


 その数瞬後、ゼロが口を開いた。
「これも、主人だからしょうがないのかしら?」
 その問いにミーシャが答える。
「そう考えるしかありませんね」
「……そうね」
 そう言って、ゼロはため息をした。
 そして、ゼロは一度周りを見て、再度口を開いた。
「ちょっと、主人について話したいことがあるわ」
 その時のゼロの顔は、かなり真剣な顔つきであった。


[#ここから6字下げ]
次回、ドレット王国に到着っぽい or ゼロの推理っぽい or その他
お楽しみに!


計算技術検定受けてきました。
それと、最近モンストとアヴァベルオンラインにハマってます。
外出先でもやってましたww
まぁ、東方と艦これは不動ですがね。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]42話 強斎VS信喜っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです。
実はこの一週間、特に忙しかったわけではないのです。
すみません、溜まりに溜まってたアニメを観てました。
[#ここで字下げ終わり]




(やべぇ……超楽しい……!)
 強斎は只今飛行中である。
 しかも、魔術は使っていない。
 属性『竜の王』で漆黒の翼をロングコートから生やし、それを使って飛行しているのだ。
 飛び立つ瞬間は魔術を使ったが、飛んでからは使っていない。
 速度は音速程度だ。
 強斎にとって翼で飛行するというのは中々の新鮮を味わっているため、テンションが異常なまでに高い。
(今、俺は風になってるぜ!)
 風どころか光さえも軽く超えられるのだが、今の強斎にそんな冷静さはない。
 そんな状態で魔物に遭遇したらどうなるか?
「前方に巨鳥発見! レベルは八〇程度! 直ちに抹殺する!」
 勿論、ただの|虐殺《いじめ》になるだけだ。
 もう一度言おう、強斎は異常なまでにテンションが高い。
 そう、忘れがちだが強斎は想像豊かな高校生だ。
 そんな自称人間がスーパーハイテンションになった場合、どうなるのか?
「抹殺される哀れな鳥には、俺の技の実験にでもなってもらおう!」
 …………ちょっと痛い子になるのである。
…………
……
……
「お、見えてきた」
 暫く飛んでいると、ドレット王国の領域に入った。
 強斎は自然と口元が緩む。
 しかし、それと同時に不安にもなる。
(あれから五ヶ月……。あいつら、元気にやってるかな? ……そもそも、俺はあいつらに会っていいのか?)
 様々な思考が強斎の中で回っていた。
(……そうだな、今日は伝えることだけ伝えて、さっさと戻ろう。それがいい)
 とある仮定を思い浮かべてしまった強斎は、さらに速度を上げてその仮定を振り払う。
 しかし、そう簡単には振り払うことなど出来なかった。
「くそっ……!」
 一旦悪い方向に考えてしまったら、中々切り返しが難しい。
 強斎はその状況に陥っている。
(あー……そうこう考えている間に、目の前まで来ちゃったよ……。そろそろ着地しないと――)
 と、そこで強斎はとあることに気がつく。




 ――――――着地方法を知らない。




「え、あれ? これどうやって着地する――」
 そこまで言ったところで、強斎の言葉は遮られた。
 そう、窓に突っ込んでしまったのである。
 直前までネガティブ思考だったせいでもあるが……。
(うわー……何か人が集まってきた……。面倒くせぇ……)
 メニューで周辺を確認して、ため息をする。
 そして、強斎はアイテムボックスに何故かある、厳つい仮面を被った。
 顔がバレたら面倒なことになるかもしれないという考えだ。
 しかし、この行為がさらに面倒なことになると、強斎は知らなかったのである。
 数秒すると、強斎に声がかけられた。
「誰だてめぇ!」
 声をかけられた時、強斎は内心驚いていた。
 振り向くと、二人の男が立っていたのである。
 しかし、強斎が驚いたのはそこではない。
(この二人……人間にしては異常な速さででここまで来たな……)
 強斎は少し興味を持ち、その二人のステータスを覗いた。

シキ・ホカリ
LV72
HP 五三九五/五三九五
MP 三〇二三/三〇二三
STR 五三六
DEX 三六九
VIT 五二五
INT 三七七
AGI 三六〇
MND 四八七
LUK 八〇
スキル
言葉理解
体術LV9
剣術LV11
大槌LV8
盾LV8
威圧LV5
状態異常耐性LV8
土属性LV11
風属性LV11
HP自動回復速度上昇LV8
属性
土・風


ジン・ササキ
LV74
HP 五〇一四/五〇一四
MP 四七六二/四七六二
STR 四〇一
DEX 三九八
VIT 四一一
INT 四二四
AGI 五三一
MND 六〇一
LUK 一〇〇
スキル
言葉理解
剣術LV15
刀LV13
威圧LV6
状態異常耐性LV10
風属性LV7
闇属性LV9
隠蔽LV15
HP自動回復速度上昇LV8
MP自動回復速度上昇LV8
属性
風・闇



(うわ……こいつら本当に人間か?)
 眷属たちが聞いていたら、必ずつっこんだであろう。
 なんてことを考えていると、ガタイのいい男から声がかかった。
「てめぇ! 無視してんじゃねぇ!」
「信喜、少し落ち着け」
 もう一人の男が信喜という男を止めに入る。
「ちっ……ってもよ仁。こいつ、見るからに怪しいじゃねぇか。羽生えてるし、何か悪魔の――まさか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 信喜は戦闘態勢のまま、強斎をさらに強く睨む。
 強斎は、そこで羽を出したままだと気がついた。
 すると、仁と呼ばれた男が口を開いた。
「ああ、恐らく魔族だろう」
(はぁ[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 二人を観察していた強斎だが、流石にその言葉は聞き捨てならなかった。
 しかし、強斎が何か言おうとする前に、話はどんどん進んでいく。
「師匠たちが出かけている間に仕掛けてくるか……。信喜、急いでこの辺にいる人たちを避難させろ。その間、俺が時間を稼ぐ」
 仁は集まってきた兵士を見て、信喜に指示をする。
「はっ、嫌だね」
「信喜! 今はふざけている場合じゃないぞ!」
「ふざけているのは仁。てめぇだ」
 ビシッと信喜は仁を指差す。
 そして、信喜は言葉を続ける。
「自分のステータスをよく見ろ。明らかに俺のほうが時間稼ぎに向いているだろう」
「それは……」
「いいから、てめぇはさっさと避難誘導しろ。そして、直ぐに戻って来い……いいな?」
 仁は何も言い返せなかった。
 正論を言われたという事もあるが、何より信喜の目が決意の目であったのだ。
 それを潰すことなど、仁はできなかった。


「……絶対に戻ってくる」
「当たり前だ」
 こうして、仁は全力で走っていった。


(うわぁ……)
 強斎は内心苦笑いしか出来なかった。
 そんな強斎に、信喜は一歩近づいて話しかけた。
「……なんの目的でここに来た」
 強斎はその問いに普通に答えようとした。
 しかし、先ほどのテンションが少し残っていたのである。
「ふっ、お前には用はない。俺が用があるのは勇者だ」
「勇者……ねぇ。残念ながら俺も勇者だ」
「なんだと?」
(まさか、また勇者召喚でもしたのか?)
 強斎が少し考える素振りをすると、信喜は強斎に斬りかかった。
 しかし、強斎はそれを軽く避ける。
「くそっ!」
 嫌な顔を隠さず強斎に向ける。
「遅いな。その程度で勇者だ? 笑わせるな」
 信喜は強斎から大きく離れ、魔術を放つ。
 大岩がありえない速度で強斎に直撃した。


 ――――しかし。


「魔術もこの程度。よくこれで俺に勝負を仕掛けたもんだな」
 やはり強斎は、全くのノーダメージだ。
 しかし、信喜は屈せず身体強化をして、強斎に斬りかかる。
 強斎は、それをわざと受けた。
「なっ……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 さすがの信喜も驚きを隠せなかった。
 何せ、斬った方が弾き飛ばされたのだから。
 直ぐに信喜は体勢を立て直し、何度も何度も斬りつける。
 しかし、強斎には全然ダメージを与えられない。
 いい加減面倒になった強斎は、[#傍点]以前の感覚で[#傍点終わり]極限まで弱めた魔力で作った魔力の壁を、撫でる様に信喜に当てる。
 そもそも、魔力の壁は普通に使ったら精々、息が苦しくなる程度だ。
 強くても、小さな衝撃になる程度。
 しかし、強斎が加減を間違えた魔力の壁はそんなものではなかった。
「がはぁっ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
 撫でるように当てたはずだが、信喜は弾丸のように地面と平行に吹っ飛んでいった。
 それを見た強斎は、冷や汗を止められなかった。
(対人戦なんて久しぶりだからな……以前の感覚は捨てたほうが良さそうだな……)
 そこまで考えたところで、遠くで大きな音が聞こえた。
 信喜が壁に激突した音だ。
(しかし、あいつもすげぇな。あれでも死んでないぞ)
 死んではいないが、粉砕骨折等大変なことになっている。
「信喜[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎が様子を見に行こうとしたところで、仁という男が返ってきた。
 仁は遠くにいる強斎に注意しながら、信喜の元に向かう。


「信喜! しっかりしろ!」
「仁……か?」
「ああ、そうだ。少し待ってろ、ルナさんに貰ったポーションがある」
 勿論、強斎とかなり離れているため、強斎には聞こえていない。
 聞こうと思えば聞こえるが。


 ポーションを飲んだ信喜は、普通に喋ることが出来る程度には回復した。
「一体何があったんだ」
 仁は真剣な顔つきで信喜に問う。
 その問いに、信喜はこう答えた。
「お前は逃げろ」
「……どういうことだ?」
 信喜の答えにイラつきを隠さない仁。
 そんな仁を無視して、信喜は語りだす。
「今の俺たちじゃ、あいつには絶対に勝てない。勇志がいても同じだろうな。ルナってやつじゃないと対等以上に戦えないだろう」
 信喜はその場から動かない強斎を強く睨む。
「俺が飛ばされた時だって、何されたか全くわからなかった。魔術を使った動作もしなかったし、俺に触れる事もなかった……」
 そう言って、粉砕骨折した左腕を見る。
「実力の差ってのを思い知ったぜ」
 そう言って、信喜は仁に自分の剣を渡す。
「……なんのつもりだ」
「お前ならわかってるんだろ? 愛用の剣を渡すっていう行為の意味が」
 そう言って、信喜はゆっくりと立ち上がる。
「早く行け。数秒なら命に代えても稼いでやる」
 そう言って、信喜はゆっくりと強斎に近づく。
 だが、仁はそれを止めた。


 ――――――物理的に。


 仁は問答無用で信喜を足払いし、転ばせてから信喜の剣を信喜の顔の真横に突き刺す。
 信喜が何か言おうとするが、仁は魔力を使った威圧で黙らせた。


 そして――――――。


「次は俺の番だ。お前だけ戦わせねぇよ」
 仁の雰囲気が変わった。


[#ここから6字下げ]
なんと、勘違いされたまま戦うことになってしまった!
主人公の変なテンションはいつ終わるのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
そもそも、勇者はどこにいるのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
次回もお楽しみに!


最近、学園恋愛ものにはまっています。
いつか書いてみたいです。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]43話 強斎VS仁っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回はかなり短いです
[#ここで字下げ終わり]




(威圧に魔力を込めて、威圧を強化……か。そんな方法もあったんだな)
 仁の魔力を込めた威圧を受けながら、強斎はそんなことを考えていた。
 そして、強斎は仮面の中でにやりと笑っていた。
(しかも、雰囲気もガラリと変わっている。それに、あの短時間で、新スキルを取得するか……あいつは中々の奴かもな)
 仁が取得した新スキル。


 それは――――――。


「『限界突破』!」
 LUK以外の全ステータスを二倍にする、レアスキルである。
(だが、覚えたスキルを直ぐに使うってのは、ちょっと残念だな。効果、わかってんのか?)
 強斎は行き着く先を見たくなり、仁の行動を観察する。
 すると、仁は尋常じゃない速度で距離を詰めた。
「ほう……」
 普通の人間が見たら一瞬で強斎の懐に入った仁を、興味ありげに強斎は見た。
 仁はそれを戸惑いと見たのか、迷わず抜刀する。
 しかし、強斎はそれを翼で防いだ。
「なっ……!」
 今まで全く動かなかった翼が、今の仁でさえ目で追えない速度で動いたため、仁は思わず声を上げた。
 しかし、強斎は少し不満そうだった。
(やっぱ、翼は中々使いこなせないな……。少し練習が必要だな)
 そう思いながら、いつの間にか距離をとった仁を見る。
 そして、口を開いた。
「さっきのでわかっただろう。お前達は絶対に俺には敵わない」
 しかし、仁はそんな強斎の言葉にも耳を傾けず、攻撃を仕掛けた。
 強斎はその攻撃を全て紙一重で避ける。
 仁は攻撃速度を上げて攻撃するが、強斎にはそんなもの関係なかった。
「くそっ……!」
 それでも攻撃速度を上げる仁に、強斎は少々失望しかけていた。
(さっきの奴は、俺に敵わないとわかったら他の攻撃をしてきたが……。こいつは『限界突破』のせいか、冷静さが無くなっている。期待した俺が間違っていたか?)
 暫く避け続けていると、見てわかるように仁は疲れきっていた。
 その姿を見て、強斎は仁に語りかける。
「『限界突破』も、もう切れかけているんだろう。いい加減諦めろ」
「はぁ……はぁ……くっ!」
 仁は、ようやく強斎から離れた。
 そして、魔術の詠唱を始めた。
「……諦めろと言ったはずだが?」
 だが、仁は強斎の言葉など気にせずに魔術を放った。
 仁が放ったのは風の刃。カマイタチだ。
(見えない刃なら当てられると思ったのか……? しかも、不完全かよ)
 強斎は小さなため息をして、仁を見て口を開いた。
「スキルもそうだが、ある程度扱えるようになってから使ったほうがいい。無駄に魔力を消費するだけだ」
 強斎はそう言って、仁のカマイタチを素手で弾く。
 それと同時に仁は膝をついてしまった。
「時間切れだな」
 強斎はそうポツリと呟いて、仁に歩み寄る。
「おらぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎が数歩歩いたところで、信喜が走ってきた。
 信喜は膝をついている仁を追い抜き、強斎に斬りかかった。
 強斎はそれを軽く避け、信喜を転ばした。
 そして、強斎は信喜に対してとある事を訊いた。
「お前、怖くなかったのか?」
 そう、信喜は先ほど、強斎に粉砕骨折等、大怪我を負わされている。
 それなのに、信喜は迷いなく強斎に斬りかかったのだ。
 強斎の疑問に対して、信喜は起き上がりながらこう答えた。
「はっ、あんなもの恐怖でもなんでもないね!」
 そう言って、信喜はまた強斎に斬りかかる。
 そして、強斎は信喜の斬撃を避けた後、とある事をした。
「「……っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 すると、仁は膝だけでなく手まで使って体を支えるようになり、信喜も同じように膝をつき、何とか体を支えていた。
「な、なに……を……」
 信喜が必死に声を出して、強斎に問う。
「俺はただ、この服の能力を解除しただけだ」
 信喜と仁は、強斎の言っている意味がわかっていなかった。
 このロングコートの効果は、『使用者の漏れる魔力を吸収し、防御力と自動再生に変換する』という効果だ。
 そう、強斎は自ら漏れる魔力だけで、勇者であるこの二人を制圧したのだ。


「この服のことはどうでもいい。それより本当に、ここに勇者はいないんだな?」
 ここでいう『勇者』は勇志達ドレット王国勇者の事を表している事が、二人にはわかっていた。
「……ああ」
 信喜は渋々そう答えた。
「そうか」
 そう言って、強斎はゆっくりと立ち上がった。
 二人は殺されると思っているのか、目を瞑っている。
 しかし、そんな二人に強斎はこう言った。
「勇者達に伝えておいてくれ。魔王は一体ではない。とな」
「「え?」」
 強斎は自ら漏れる魔力を完全に抑えて、信喜と仁を解放した。
 そして、強斎はアイテムボックスから一本の剣を取り出した。
「これは俺からのプレゼントだ。これぐらい装備出来ないと、魔王討伐など無理だと思え」
 そう言って、強斎はその剣を地面に突き刺した。
 すると、突風が発生し、信喜と仁は反射的に目を瞑ってしまった。
 二人が目を開けた時、強斎の姿は無かった。


「……あいつは何しに来たんだ?」
「……わからぬ」


    *


「キョウサイ様について?」
 強斎がドレット王国に向かった直後、ゼロがいきなり言った問に、ミーシャが思わず聞き返す。
「ええ、そうよ。ちょっと、主人についてあなた達に言っておきたいことがあるの」
「ご主人がいる時じゃ、言えないことなのか?」
 レイアの質問はもっともなことであった。
「そんな事ないわ。だけど、主人がいない方が話易いだけ」
 そこまで言うと、レイアは「そうか」とだけ言って下がった。
「とりあえず、みんなに言っておきたいことがあるの。実は……」
 ゼロは一つ間を置いて、強烈な一言を放った。








「――――――私、妊娠したの」
『えっ』
 見事に声が揃った瞬間だった。


[#ここから6字下げ]
続きが気になる書き方って、こんな感じですかね? (ニヤニヤ
VS仁が思ってたより早く終わってしまいましたorz
こ、こんなはずじゃなかったのに!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]44話 これからの行き先っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
五百万PV突破しました!
読者の皆様、本当にありがとうございます!
これからも、応援よろしくお願いします!
それと、誠に勝手ながら、感想の返信より、小説を書く事を優先さしていただきます。
感想は全てしっかり目を通していますので、これからもよろしくお願いします。
[#ここで字下げ終わり]




「え……? ……妊娠? ちょっと、どういうこと……?」
 ゼロのとんでもない発言により、場が固まってしまい、声を出せるのはミーシャだけだった。
 そして、ゼロは真剣な顔つきのまま、口を開いた。






「――――――まぁ、冗談はここまでにして、そろそろ本題に入りましょうか」


『………………』




 ――――――――ピキッ。
 何かが切れる音がし、その数瞬後……。


「れ、レイアさん! 落ち着いてください! 武器をしまってください[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「ルナ、放しなさい! 今こいつを半殺しにしなくちゃいけないから!」
 レイアが暴れだし、ルナが押さえる形になる。
 しかし、ステータスの差により、レイアはルナの拘束から抜け出した。


「言って良いことと、悪いことがあるでしょうがぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「あはは、ごめんね。それに、主人のことについてって言ったでしょ?」
 レイアは半殺しと言っていたが、振り下ろされたメイスは魔力で強化され、レイア自身も身体強化を使っていた。
 地球の場合、軽く地形を変える威力である。
 しかし、ゼロはそのメイスを、涼しい顔をしながら素手で掴んだ。
 その時の衝撃により、周りの木々が吹き飛ぶ。
 レイアはメイスを押し込もうとするが、ピクリとも動かなかった。
 その間に、ミーシャがゼロに質問をする。


「で、なんで、そんな冗談を言ったの?」
「ちょっと|揶揄《からか》おうとしただけなんだけど……。それと、一度は言ってみたかった」
 ミーシャの質問に苦笑い気味に答えるゼロ。
 ミーシャは大きくため息をすると、ゼロを睨めつけるように見る。
「ゼロが真剣な顔になると、ゼロは冗談で言ったつもりでも、私たちは冗談に聞こえないのよ。気をつけなさい」
「本当にごめんね。レイアも、ルナも」
「許さん!」
「あ、はい。大丈夫です」
 順にレイア、ルナである。


「レイア、そろそろ本題に入りたいんだけど……」
「一発殴らせろ」
「そんな暴力好きな女性は、主人に嫌われるわよ?」
「うぐ……」
 すると、レイアはメイスに入れる力を弱め、ゼロから離れた。
「う……その……許す。だから……」
「大丈夫よ。元は私が悪いんだから」
 そう言って、ゼロは周りを見渡してから口を開いた。
「さて、本題だけど、さっきも言ったように主人のことについてだから」
 そうゼロが言うと、皆頷く。
「じゃあ、一つ問題ね。私たちの周りの木々は、どうして吹き飛んだと思う?」
 その問題にルナが答える。
「えっと、レイアさんの攻撃をゼロさんが受けたときの衝撃でこうなりました」
 その答えにゼロは満足気に頷き、口を開いた。
「そう、その通りよ。それじゃあ、ルナ。ちょっと全力で走って、この森から出てから戻ってきて」
「……え? 何故ですか?」
「それは後で説明するわ」
「わかりました」
 そう言って、ルナは全力で走り出した。
 無事だった木々もルナが通ったところだけは無事ではなくなった。
 その速さはマッハ七四〇超。
 勿論、一瞬で戻ってきた。
「ただいまです」
「はい、おかえりなさい」
 ゼロが笑顔で迎えた。
「ゼロさん、何故私は走ったのですか?」
「そうね、さっきルナが走ったところを見てみなさい」
 そう言って、一同は先ほどの通路を見る。
 そして、ゼロは言葉を続けた。
「木々が大変な事になってるでしょ?」
 その言葉の意味を理解している者はいなかった。
 しかし、次のゼロの言葉によって、全員が理解することになる。


「じゃあ、主人がさっきみたいに走って戻ってきた場合、どうなってた?」


 そう、その答えは……。


「何も起こらない。ですね」
 ミーシャのつぶやきに皆頷いた。


「そう、主人の場合、このような事にはならない。そのことについて、いくつか推測してみたわ」
 ゼロがそう言って三本の指を立てる。
「最も有力だと思った三つを話すわね」
 ゼロは皆が頷いた事を確認し、指を一つ立てて、口を開いた。


「まず一つ目、主人が意図的にそうしている。普通は、毎回精密に衝撃を消すなんて、簡単なことじゃないのだけど……主人だから、この考えが合ってる気がした」
 次に指を二つにする。
「次に二つ目、主人のスキル、もしくは属性の効果。主人のスキルの中には、私の知らないスキルや属性があったわ。もしかしたら、その効果かもしれない」
 そして、三つ目の指を立てる。
「最後に三つ目、主人の特殊能力」
『特殊能力?』
 普段聞かない言葉に、皆首を傾げる。
 その疑問の答えをゼロが話す。
「そう。まぁ、例を挙げるとするなら、私たち精霊ね。精霊と一部のエルフは魔力を見ることが出来る。これも特殊能力の一つよ」
「特殊能力ってのは皆が持っているのか?」
 レイアの質問に、ゼロは静かに首を横に振る。
「いえ、普通は持たないわね。というより、特殊能力持ちは普通じゃないわね。私が知っている中で、魔力を見る以外の特殊能力持ちは、本当に極一部の神だけだったわ」
 少しの時間、場が静まり返った。
 最初に口を開いたのはミーシャであった。
「ゼロの言いたいことはわかったわ。それと、キョウサイ様が居ない時に、この話をする理由も」
 ゼロはキョトンとした顔で、ミーシャをみた。
 そんなゼロにミーシャは微笑みかけ、言葉を続けた。
「ゼロも、本当にキョウサイ様が好きなのね……」
 すると、ゼロの顔がみるみる赤くなる。
 そんなゼロを無視して、ミーシャは話を続ける。
「大体予想はつくわ。キョウサイ様は、自分が異世界人だということを、中々打ち明けなかった。それは、私たちに避けられると思ったから。そこに、特殊能力の話まで来たら、キョウサイ様がどうなってしまうのかわからない。そういうことでしょ?」
 こくりとゼロは頷いた。
 未だに顔は赤い。
 ミーシャは微笑みながら、口を開いた。
「ほら、そんな真っ赤な顔だと、キョウサイ様に心配されますよ? 恐らく、もうそろそろ戻ってきますから」
 すると、ゼロはため息をして、苦笑いをした。
 そして、ミーシャはゼロのそばに寄って、ゼロ以外には聞こえないような声量でとあることを言った。
『そう言えば、本当に妊娠してないんですよね?』
「今[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
『しっ! 声が大きい』
『あ、ごめん。……ええ、本当に妊娠はしていないわよ。とある方法じゃないと、私たち精霊もあなたたちと同じように、異族との子供はつくれないわ』
『とある方法?』
『それは後々話すわ』
 その言葉を最後に、お互いが離れる。


「何をしていたのですか?」
 ルナは少し興味があるみたいで、先ほどのやり取りを訊いてきた。
「特に何もしてないわよ」
 そうゼロが言うと、ルナは少し不満そうだったが、それ以上は訊かなかった。


 強斎が帰ってきたのはその数分後であった。


…………
……
……
「よし、早速魔王に会いに行くか」
 転移門を潜った後の強斎の第一声がこれだ。
「やっぱり、ここから一番近い魔国に行くの?」
 ゼロの問いに、強斎は頷いた。
「ああ、とりあえずな。でも、もう魔国に行く意味無いような気もするんだが……」
「そうかしら? ここから一番近い魔国は、魔界で二番目に知識が豊富な国よ?」
「どういうことだ?」
 ゼロの言っている意味が、強斎にはうまく伝わっていなかったようだ。
「主人は、知識を求めて魔界に来たんでしょ?」
「まぁ、そうだが……」
 少し躊躇いがちに答えた。
「その知識って、魔術に関係することなんでしょ? それが、二番目に豊富な国なの」
「……そうか」
 強斎は少し悩んだが、元々魔国には行くつもりだったので、結局そこに行くことになった。
「よし、じゃあそこに行こう」
「で、主人はなんで悩んでたの?」
 行き先が決定した途端、ゼロがジト目で強斎に質問する。
「あ、いや……ちょっとな……」
「どうしたのですか?」
 ミーシャまでもが加勢する。
 すると、強斎は苦笑い気味に口を開いた。
「……俺、魔界の通貨持ってない」
『あ……』
 レイア、ルナまでもが口を合わせて呟いた。
 やはりというか、場が静まり返った。
 すると、ゼロが何かを思いついたように顔を上げ、口を開いた。
「その魔国の頂点に立てばいいじゃない」
「……は?」
 強斎以外は、何故か皆納得していた。
「いやいや、お前ら。何納得してんだよ」
「主様、魔界では強いものこそが上に立つ。そう人間界で言い伝えられているのです」
 ルナの言葉に、皆揃えて頷く。
 そして、それに続くようにゼロが口を開く。
「まぁ、言い伝えも何も、それが正解よ。魔界では力が全て。地位の高い魔族は[#傍点]基本的[#傍点終わり]に高ステータスね。あ、主人と比べたらダメよ?」
 最後の付け足しは、言われなくてもわかっていた。
「でも、頂点とか面倒だろ」
「主人、それは他人任せでいいのよ」
(うわ、適当だな……)
 強斎は口に出すのを何とか堪えた。
 そんな強斎を見て、ゼロが不敵に微笑んだ。
「だったら、私たちの誰かに任せてもいいのよ? 本来、奴隷とかってそういうものだし」
 そうゼロが言い終わると、強斎は一つため息をして、苦笑いをした。
「今回ばかりは、頼むかもしれんな」
「今回ぐらい頼まれないと、私たちが嫌ね」
 そうゼロが言うと、他の面々も同じだったのか、深く頷いていた。
 いつの間にか、乗っ取る前提で話が進んでいるが、誰も気づいていなかった。
「さて、じゃあ、乗っ取りに行く前に……」
 強斎はそう言って周りを見る。
 いつの間にか、魔物に囲まれていたのだ。
「ちょっと、お前たちの連携というものを見せてもらお――「主様」……ん?」
 強斎が言い終わる前に、ルナが口を挟んだ。
「どうした?」
「いえ、今回の件、私に任せてください」
「この魔物の撃滅か?」
 すると、ルナは一泊間をおいて、真剣な眼差しで強斎を見た。
「魔国の乗っ取りも含めて。です」
「……ほう、珍しいな」
 普段とは違うルナに、少し驚く強斎。
 そして、ルナは言葉を続けた。


「……私は、この中で一番弱いです。ですから、他の事で、主様に尽くしたいのです」
 ルナの目は真剣だった。
 強斎は、「気にするな」と言おうとしたが、それはルナの尽くす心を壊す様な感じがしたので、強斎はそれを言わなかった。
 その代わりに強斎はルナの頭に手を置いて、口を開いた。
「そうか。頼りにしてるぞ」
「っ! ……はいっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 その後、ルナは笑顔で魔物を蹴散らしに行った。




「主人、あれって無自覚でやったの?」
「何をだ?」
「いや、もう……なんでもない」
 ゼロは半分呆れていた。


[#ここから6字下げ]
次回は魔国へ乗り込みです!
お楽しみに!


前書きで感想の返信が遅れると書きましたが、それで感想がピタリと来なくなったら泣きますからね?
本当ですよ? 本当に泣いちゃいますよ? 自分は心も体も脆いのですよ?
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]45話 魔国襲撃っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
新・女性キャラ登場!
[#ここで字下げ終わり]




「ほーう……、確かに近かったな」
 強斎は、上空からとある場所を見ていた。
「まぁ、近いって言ってもちょっと微妙なんだけどね」
 強斎の隣にいるゼロは、苦笑いをしながらその問いに答える。
「森を越えたらすぐだったじゃないか」
「普通の人間は、森の前の草原すら越えられないわよ」
 ため息をして、ジト目で強斎を睨むゼロ。
 強斎は、それを苦笑いでスルーする。
「それより、あの国はなんていう国名なんだ?」
 そう、現在、強斎とゼロは魔国を見下ろしているのだ。
 そんな強斎にゼロは小さく鼻を鳴らし、一言。


「知らないわ」


 自信満々にそう言った。
「は?」
「私が知るわけないじゃない」
「いや、だってお前、この国のこと結構知ってたじゃねぇか。それなのに、国名は知らないのか?」
「ええ、知らないわ。だって、今の王が誰なのか知らないし」
「ああー……。王の名前で国名がコロコロ変わる訳か」
「そんなところね」
 ゼロはもう一度魔国を一瞥し、その後強斎に再び話しかけた。
「主人、そろそろ下りましょう」
 強斎は頷き、ゆっくり降下を始めた。
 ゼロも強斎に続き、降下する。


 数秒後、地に降り立った強斎とゼロに、奴隷達が寄ってくる。
「キョウサイ様、どうでした?」
 ミーシャが魔国の様子を訊く。
「街の中心部に、かなりでかい城があったな。国の大きさは、城を中心に半径20km程の円だろう」
「魔国の周りには魔物がうじゃうじゃいたけど、まぁ大丈夫でしょ」
 ゼロが強斎に続いて答えた。
 その答えをミーシャはルナに向ける。
「ルナちゃん。できそう?」
「はい、大丈夫です」
 ルナはしっかりと頷いた。
「一応、俺たちもついていく。ただし、緊急時以外は手を出さないつもりだ」
「はい、ありがとうございます。……少し恥ずかしいですが」
 強斎の言葉に、苦笑い気味に答えるルナ。
 その意味をレイアが訊いた。
「どういうことだ?」
「えっと、何か主様に、城の攻略を見定められるみたいな感じで……」
「見定めるぞ?」
 強斎は当然とばかりに答えた。
「うぅ……やっぱり……」
「だが安心しろ、付ける条件は一つだけだ」
 にやりと笑う強斎に、ルナは不安になりながらその条件を訊く。
「そ、その条件とは……」
「魔物は殺してもいいが、魔族は殺すな」
「えっと……はい。わかりました」
 ルナはなぜ殺さないか訊こうとしたが、何か考えがあると思い訊かずに了承した。
「よし、じゃあ出発するぞ」


    *


 ここは、とある魔国のとある王室。
 そこの王座に一人の女性が腰掛けていた。
 この王室には、この女性以外誰もいない。
「……暇だ」
 王座に腰掛けている女性は、そう一人呟く。
 勿論、返事など返ってこない。
 女性はスッと立ち上がり、軽く背伸びをした。


 この女性の髪の色は、ミーシャの灰色に近い銀ではなく、白に近い銀だ。
 その銀髪は、全て根元から腰まで伸びている毛先まで全く傷んでいない。
 スタイルは少々胸が寂しいが、全く無いという訳でなく、しっかりと服の上からでも確認はできる。
 しかし、キュッと引き締まった痩せすぎていない腹部と、ムッチリとした|臀部《でんぶ》。それに、すらっとした健康的な脚。
 身長はゼロと変わらない位で、顔立ちは少し目つきが悪いが、かなり整っているといっていいだろう。
 しかし、それ程のスペックが気にならない程特徴的な物を、この女性は身につけていた。


 ――悪魔の翼だ。


 悪魔の翼と言っても、かなりの種類があるが、一番多いのは黒竜のような漆黒の翼だ。
 この女性はこの悪魔の翼を生やしているが、大きさは普通の悪魔の倍ほどの大きさである。
 今は邪魔になるので最小限に小さくしているが。
 今は見えていないが、彼女には尻尾も生えている。


「あー、勇者って名乗る奴から襲撃来ねーかな」
 タンクトップにショートパンツ、ニーソと言った目のやり場に困る格好なのだが、口調はやや男勝りであった。
 そして、この女性の正体……それは――――――。


「全く。魔王ってのも暇だよなー」
 そう、この女性は魔界で魔王の称号を持っているのだ。


 魔王はポスっと王座に座り、天井を見上げた。
 そして、とある人物を思い浮かべながら舌打ちをし小さく呟いた。
「……アイツさえ居なければ、今からでも人間界に喧嘩売るのによ……」
 そう魔王が呟いた時、扉が凄い勢いで開かれた。
「ま、魔王様[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 突然開かれた扉の先には、魔王より小さな翼をもった男性が、息切れをしていた。
「んだよ、今イライラしてんだ。早く用件を言え」
「ば、化物が! 化物がここを攻め落とそうとしています!」
 その言葉で魔王は機嫌を取り戻したのか、にやりと笑う。
「ほう、化物とな」
「は、はい。幹部クラスの魔族が、揃って気絶させられました」
「気絶? 殺されてはいないのか?」
「はい。幹部どころか、全ての魔族は一人たりとも死んでいません」
「中々興味深いな……人数は?」
「えっと……それが……一人と四人です」
 そこで、魔王は少し眉を寄せた。
「五人と言え、五人と」
 しかし、悪魔は困った顔のままそれを否定した。
「実は、戦闘しているのは、その一人だけなのです……」
「はぁ? 一人だぁ? じゃあ、四人を襲えばいいじゃねぇか」
「そ、それが――――――」


「あ、あそこが王室っぽいですね」


 空いた扉から、声が聴こえた。
「き、来ました!」
「あ? さっきの声の主がそうだって言うのか? それはねぇだろ、だって――――――」


「お邪魔しまーす……」


「――――――女じゃねぇか。しかも幼女」
 扉からひょっこり顔を出したのは、兎族の少女、ルナだった。


「あ、えっと……魔王ですか?」
「ん? ああ、そうだが……」
「女性だったのですね……あ、主様! 魔王を発見しました!」
 ルナがそう言って手を振ると、手を振った方向から強斎達が入ってきた。


「魔王って女だったのか……」
 強斎から苦笑いが出てくる。
 そのついでに、魔王のステータスを覗いた。

キャルビス
LV8000
HP 一三五四〇八/一三五四〇八
MP 八六八八一/八六八八一
STR 一二〇〇三
DEX 九七二一
VIT 九九八二
INT 一〇〇一一
AGI 九五五三
MND 八八〇六
LUK 一二〇
スキル
剣術LV43
体術LV50
調教LV43
状態異常耐性LV35
火属性LV40
水属性LV30
風属性LV30
闇属性LV48
HP自動回復速度上昇LV43
MP自動回復速度上昇LV37
限界突破
隠蔽LV30
魔王の威圧波動LV20


属性
火・水・風・闇
魔族の王(???)

「おい、ゼロ」
 強斎は、早速ゼロにとあることを言おうとする。
「ええ、わかってるわ」
 しかし、ゼロは予測していたのかため息をして、言葉を続ける。
「五対一で遊べるというのを、五〇対一で遊べると言うのに訂正させてもらうわ。どうやら、感覚がおかしかったみたい」
 そう、魔王が弱すぎたのだ。


「ほう、お前みたいな少女がよくここまでたどり着けたな」
 魔王キャルビスは、ルナを見て、不敵な笑みを浮かべる。
 しかし、ルナは首を傾げながら口を開いた。
「あなたは、本当に魔王なのですか?」
 すると、キャルビスの不敵な笑みが消える。
「どういうことだ?」
「いえ、何か……」
 ルナは強斎を困った顔で見た。
 しかし、強斎達は、いつの間にかそこにあった椅子に座って、くつろいでいた。
「あ、やっぱりミーシャさんやレイアさんも気がついていたんだ……」
 ルナは椅子のこと等スルーして、そう呟いた。
 しかし、キャルビスはその事を気に召さなかったのか、苛立ちが見えてくる。
「おい、どういうことなのかと訊いている」
「あ、すみません……まぁ、闘っていただければわかると思います」
「ほう、この私に闘いを挑むか……」
 キャルビスはそう言うと、ニヤリと笑ってルナを挑発するように手招きする。
「いいだろう、いつでもかかってこい。一〇秒後に生き延びていたら生かして帰してやろう」
「えっと、じゃあ行きますよ?」
「ふっ! 地獄の|狂想曲《ラプソディ》の開演――――グハッ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 地獄の|狂想曲《ラプソディ》は、ものの一秒未満で終わってしまった。
「ぐおぉぉぉ…………」
 キャルビスは腹を押さえて倒れ込んでいた。
「あれ? 気絶しませんでしたね……防御特化ですか?」
「はぁ……はぁ……」
 キャルビスはフラフラと立ち上がると、自分のステータスを確認した。
(今の一撃で十万も削られてやがる……しかも、動きが全く見えなかった……こいつ、本当にあの兎族か?)
 キャルビスはルナを睨みつける。
 ルナはそれを微笑みで返した。
(くそっ……。あんまり取りたくない方法だったが……やるしかないな)
 すると、キャルビスは巨大な火の玉を出現させた。
「残念だったな。お前のお仲間さんはここで死んだよ」
「?」
 ルナは理解できていないのか、不思議なモノを見る様な顔で、キャルビスを見た。
「今にわかる……さ!」
 そう言うと、キャルビスは巨大な火の玉をルナの後方――強斎に向けて放った。
 巨大な火の玉は、音速並の速さで強斎に当たり、爆発した。
 キャルビスはルナの顔を窺うが、さっきと全く変わらない表情に疑問を感じた。
「お前、悔しくないのか? 仲間が死んだんだぞ?」
「死んだ……ですか? 何か勘違いしてませんか?」
「……なんだと?」
「もしかして、ここまで来れたのは私が守って連れて来たとでも思っていますか?」
「あ? 違うのか?」
「当たり前じゃないですか。言っておきますけど、私はあの中で一番弱いですよ? そして、一番強いのが――」
 ルナは、先ほど火の玉が当たった場所を見る。
 そこには、やはり無傷の強斎がいた。
「私の主様……あなたが火の玉を当てたお方ですよ」
 ルナは強斎を見て、にっこりと笑うが、それも直ぐに引いてしまった。
 それどころか、若干冷汗が出てき始めてきた。
 キャルビスはその変わりように疑問を持ったが、今はそれどころではなかった。
「おい、どういう事だ。お前が一番弱くて、あいつが一番強い? 全く意味がわからん」
「あ、えっと……とりあえず、謝ったほうがいいです。何か主様、不機嫌になっていますから」
「は? 謝る? ますます意味が――――」
「おい」
 遂に、強斎が椅子から立ち上がり、キャルビスの方に歩みだした。
 その顔は確かに不機嫌であった。
 そして、強斎は口を開く。
「ルナ。お前はここまででいい、合格だ」
「えっと、主様?」
「お前、キャルビスって名前だな?」
 ルナを無視して、強斎はキャルビスに話しかける。
「ああ、そうだ。ってかなぜわかった」
「そんなことはどうでもいい。貴様は俺を怒らせた」
「……は?」
 キャルビスはまるで心当たりが無いのか、それとも状況の変化に追いつけていないのか、呆気にとられていた。
 キャルビスに心当たりがない。これは当然だろう。
 強斎が不機嫌な理由、それは――――――。




「――――貴様のせいで、コーヒーが蒸発しちまったじゃねぇか」
 どうでもいいことで怒っているのだから。


[#ここから6字下げ]
後半、眠くて走ってしまいました
キャルビスという名前は友達に考えてもらいました
次回もお楽しみに!


実は親のiPhone5sがリンゴループに陥ってしまいまして……
仕方なく、iTunesで初期化したんですが、その後のアクティベートができないんですよねー
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]46話 賭け事っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お待たせしました!
[#ここで字下げ終わり]




「こーひー?」
 キャルビスは聞きなれない言葉に戸惑っているが、ルナは少し考え事をしていた。
 そして――――。


「主様、誰のイタズラですか?」
 今まで無視していた強斎だが、その一言にはびくりと反応してしまった。
「な、なんのことだ。俺はコーヒーが――――」
「それがおかしいと言っているのです」
 ルナは強斎に寄って、目をしっかりと見た。
 その時、強斎の目が泳いだ事をルナは逃さなかった。
(……あやしいです)
 何かを感じたルナは、視線だけをとある方向に向ける。
 そこには、口を押さえて笑いを堪えているゼロと、苦笑いのミーシャ、レイアが座っていた。
 それだけで何かを直感したルナは、大きくため息をして、ジト目で強斎を見ながら口を開いた。
「主様、これはゼロさんの仕業ですね?」
「……」
 強斎はシラを切る。
「いや、シラを切っても無駄ですよ? ゼロさんが笑ってる時点でバレてますから」
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎はゼロの姿を見るなり、目元に手を当て盛大なため息をした。
(これじゃあ、罰ゲームにならねぇじゃねぇか。……まぁ、俺はそれでいいんだが)
 強斎は当てていた手を元に戻し、ルナに向き直った。
「どうしてわかったんだ?」
「主様でしたから」
「……は?」
 回答になっていない回答に、強斎は戸惑っていた。
「ですから、主様でしたからわかったのです。主様は、お飲み物一つをなくされたぐらいで、怒るなんてありえませんから」
「それに」とルナは言葉を続ける。
「相手は女性ですしね。尚更ありえません」
 そんな褒め言葉混じりの説明に、強斎は苦笑いをするしかなかった。
「結構うまく騙せると思ったんだけどな」
 そんな強斎の言葉に、ルナは強斎と同じように苦笑い気味に答える。
「最初は私も騙されていましたよ。理由を聞くまで、冷汗が止まりませんでした。どうやったらあんな雰囲気出せるんですか?」
「まぁ、色々事情があるんだよ」
 ルナは、これ以上深追いは止そうと直感し、「そうですか」と一言返してゼロ達の方に歩んで行く。
 ついでに、キャルビスはまだ悩んでいる。
 そんなキャルビスに、強斎は一言。
「おい、キャルビス」
「む? なんだ?」
「さっきはすまなかったな」
「お? おう?」
 キャルビスは、なんのことかわかっていない様子だった。
「お前、まさか馬鹿なのか?」
「な、なんだと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「はぁ……、まぁいい。最初っから教えてやるよ」
…………
……
……
「ゼロさん、どうして主様にあんなことを?」
 ルナはゼロに寄ると、早速先ほどの説明を求めた。
 ゼロはツボっていたのか、目元にあった涙を拭き取り、口を開いた。
「あれはね、主人が決めたルールなのよ」
「ルール?」
「そうね……最初から説明すると――――――」


    *


「ルナ無双だな……」
 強斎は目の前に起こっている出来事を苦笑いしながら呟いた。
「そりゃそうよ、やろうと思えば城ごと潰して終わらせることができる子なのよ?」
 強斎の呟きにゼロがそう答えた。
「まるで反則級だな」
「「「どの口が言っているんでしょうか」」」
 ミーシャ、レイアまでもが突っ込んだ。
「主人が何を基準に物事を見てるかわからないけど、主人から言われると皮肉にしか聞こえないわよ?」
「そりゃすまなかったな」


 この様にいつも通り会話をしているのだが、第三者から見ればとてつもなくシュールである。
 何故なら、ここは魔王が住んでいる城。
 そして、ルナが|交戦《おあそび》中だ。
 勿論、この四人も狙われる。
 しかし、どんな攻撃も、避けたり弾いたり弄んだり……。
 それを、先程のような会話をしながら行っているのだ。


「それにしても暇だな」
 強斎はそう呟いて少し考え事をする。
 眷属たちも同じ気持ちだったのか、強斎の発言に賛同していた。
 考えがまとまったのか、強斎は再び口を開いた。
「よし、何か賭け事をしよう」
「却下ね」
「……ゼロ、理由を訊いてもいいか?」
 そんな強斎の質問をゼロはため息混じりに答えた。
「賭け事って、私たちが一回でも勝てたことがあったかしら?」
「たまたま俺の運が良かっただけだ」
「そんなわけないで――――――いえ、しましょう。賭け事」
 ゼロが急に否定から賛成になったことに、強斎は疑問を感じる。
 ミーシャやレイアもそのようだ。
「ゼロ、どうしたの?」
 ミーシャが先陣切って問う。
「まぁ、楽しみにしておきなさい」
「あまりキョウサイ様に迷惑はかけてはいけませんよ?」
「それは無理」
「おいおい……」
 ゼロの無理発言に思わず突っ込む強斎。
「さぁ、そんなことどうでもいいわ。賭けの内容は……次、ルナが黙殺する魔術の属性を当てる。ってのでどう?」
「まぁ、いいだろう」
「えっと、私はやめておきます」
「私もだ」
 ミーシャ、レイアはパスのようだ。
「主人と一騎打ちか……あ、主人は未来予知とか使っちゃダメよ?」
「使えねぇよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎の言葉にやや微妙な顔をする三人。
「キョウサイ様なら……」
「ご主人様だったら……」
「まぁ、主人だし……」
「「「ねぇ?」」」
 そして、声を揃えて言ったのだ。
「お、お前ら……俺をなんだと思ってるんだ……」
「キョウサイ様」
「ご主人様」
「主人」
「答えになってねぇ!」
 何度も説明するが、強斎たちは、八方向から様々な攻撃を仕掛けられている。
 そのうえで、こんなコントみたいなことをやっているのだ。
「はぁ、とりあえず……ルナが次に仕掛けられる魔術の属性は、水属性だ」
「じゃあ、私は闇属性」
 と、その数瞬後に、ルナに向かって大量の水が頭上から襲いかかった。
 しかし、ルナは[#傍点]剣[#傍点終わり]を使ってその水を斬る。
「今回も俺の勝ちみたいだな」
 強斎は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
 しかし――――。
「いえ、今回ばかりは主人の負けよ」
 ゼロはニヤリと笑いながらそう言った。
「なんだと?」
「今回も主人は運が良かったわね。運良くハズレを引いた」
「……まさか」
「そう、そのまさかよ。今回の勝利条件は外し続けること。勝利条件を訊かなかった時点で、主人は負け決定なのよ」
「っ! ……くそっ」
 強斎は悔しそうに膝をつく、そこを狙って魔族たちは一斉に襲いかかるが、ミーシャとレイアに止められた。
 そして、二人は一言ずつ……。
「なんて醜い勝ち方なのかしら」
「恥を知れ」
 順にミーシャ、レイアだ。
「う、うるさいわね! こうでもしないと勝てないじゃない!」
 二人に文句を言われ、半分やけくそに抗議するゼロ。
 それを止めたのは強斎だった。
「いや、ここは俺の負けだ。勝利条件を訊かなかった俺のミスだ」
「キョウサイ様……」
「ご主人様……カッコイイです!」
 二人はうっとりとした目で強斎を見ながら、魔族の持つ武器を破壊していく。
「って、ことで主人にばつげーむ? だっけ? それを実行しまーす」
「え? 聞いてない」
「訊かないのが悪い」


 そして、ゼロが強斎に下した罰ゲームとは――――――。


「ルナにバレないような演技で適当に因縁つけて、ルナと交代、そして魔王と戦って」


    *


「と、まぁこんな感じだ」
 強斎はキャルビスに、先ほどの出来事を簡潔に言葉にした。
「そういうことだったのか……」
 キャルビスは納得したのか、うんうんと頷いている。
「で、どうするんだ? 俺と戦うのか?」
「いや、遠慮しとく。私の負けだ」
 キャルビスのあっけない降参に、強斎は少々戸惑っていた。
「何か意外だな。お前は戦闘大好きっ娘って感じがしたんだが」
 強斎のその言葉に、キャルビスは小さく鼻を鳴らして答えた。
「確かに、私は戦いが好きだ。一部の奴らには戦闘狂と言われているほどにな。そして、私は強い者に挑むのも好きだ。いや、強い者と戦う為に戦闘を好んでいると言ったほうがいいだろうか」
「だったら、何故俺と戦わない? 自分で言うのもなんだが、俺は強いぞ?」
 キャルビスは、その言葉を待っていたと言わんばかりに微笑する。
「強い? お前はそんな言葉で収まる程度の実力じゃないだろ。私は強い者と戦うのは好きだが、ケタ違いの化物と戦うのはゴメンだね」
 そう言って、キャルビスは降参の表しか、両手を挙げた。
「さぁ、さっさと私を殺せ」
「いや、殺さねぇよ?」
 強斎の言葉にキョトンとするキャルビス。
「何故だ? お前は人間界から来た、勇者と名乗る奴らなんだろ?」
「勇者は俺じゃない」
「では、お前は人間にして魔王になりたいと願っているのか?」
「嫌だよ面倒くさい」
「じゃあ――――「俺は」……ん?」
 強斎はキャルビスの言葉を遮り、不敵に微笑しながら、自らの目的を伝えた。




「俺は、この国を乗っ取りに来た」
 キャルビスは数秒唖然としていた。


…………
……
……


「ゼロさん、いくら主様に勝てないからって、そんな勝ち方は……」
「もう、いいわよ、わかってるわ……わかってるわよ……」
 ゼロは何故か異様に落ち込んでいた。


[#ここから6字下げ]
魔王になることとこの国を乗っ取ること。
その違いとは?
この話を書いているときは、大変でした……
暑さでやる気を削がれたり……
左肘に違和感を感じたり……これ、今も続いているんですが、地味に痛いんですよね。
それと、友達に小説の書き方を教えていると、自分も成長したなーって実感できます!
自分、感覚派なので、まともに教えれていませんが[#縦中横]!![#縦中横終わり]
では、次回もお楽しみに!
あ、iPhoneですが、結局修理に出しました。
問い合わせたところ、どうやら本体に異常があったそうです。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]47話 解読不可能の本っぽい[#中見出し終わり]






「ここを……乗っ取るだと?」
「そうだ、ここを乗っ取る」
 キャルビスはその言葉の意味を少し考えるが、諦めてその意味を強斎に訊いた。
「それは魔王になるのとは違うのか?」
「ああ、違うな。お前の魔王の地位はそのままだが、俺の指示は出来るだけ聞いてもらう」
「絶対服従とは違うのか?」
「ああ、違う。お前も俺に意見を言っていいし反論もいい」
「結局は魔王と変わらんではないか」
「さっきも言っただろ? 魔王なんて面倒だ」
 そう言って強斎は一拍置いてから、とある方向を見て声を上げる。
「おい、そこにいる魔族。出てこい」
 強斎がそう言うと、物陰から魔族が出てきた。
 その魔族は、ルナが部屋に入って来る前に入ってきた魔族だった。
「さっきの話は聞いてたな?」
「え、いや……あの……」
 魔族は恐怖を感じているのか、強斎と目を合わそうとしない。
「随分内気な性格だな……魔族ってイメージじゃねぇぞ」
「いや、お前に恐怖するなんて当たり前だから」
「なんにもしてないけどな」
「嘘をつけ」
 キャルビスが早々とツッコミを入れる。
「そんなことより、さっきの話は聞いていたな?」
「は、はいっ!」
 強斎が睨むように言うと、魔族は背筋を伸ばし、しっかりと答えた。
「俺はこいつとこの国を支配する。その事を上手く国民に知らせろ。まぁ、同盟を組んだとでも言っておけ」
 強斎は一回演技をしたのがいけなかったのか、テンションが高い。
「キョウサイ様、話は終わりましたか?」
 強斎が魔族に指示をした後に、ミーシャ達が強斎の方へ寄ってきた。
「まぁ、一応な。おい、キャルビス」
 キャルビスはどこか疲れた顔で強斎に応答する。
「……なんだ」
「こいつらも俺と同じ待遇をしろ、いいな」
「……ああ」
 キャルビスは気力なく答えた。


「ご主人、どこかおかしくないか?」
「レイア、これも全てゼロのせいよ」
「ミーシャよ、私は何もやっていないわ」
「でも、前科がありますよね?」
「ルナ、もうやめて、反省してるんだから……」
…………
……
……


「はぁ、この国ももう終わったかな……」
 強斎たちに部屋を与えた後、キャルビスはそう呟いていた。
「魔王様……あれは本当に人間なのでしょうか?」
 先ほどの魔族がキャルビスの呟きに答える。
「わからん。だが、あのキョウサイと言う男とゼロという女。あいつらだけには逆らってはいけない。絶対にな」
「まさか、魔王様……見たのですか?」
「ああ、数秒だけな。だが、やはり数秒でもきついものだ」
「それはお疲れ様です。それで、いくつだったのですか?」
 魔族は興味ありげに魔王に訊いた。
 この様に図々しく魔王に質問できることから、かなり地位の高い魔族だとわかる。
「まず、あの兎族だが……ランク四千以上だ」
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 四千[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 神獣の最上級レベルの一〇倍[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 魔族の男は顔を真っ青にしていた。
「私のランクが七〇ちょっと……私レベルが一〇〇人……いや、二〇〇人いても勝つのは難しいだろう」
「そんな……通りで幹部達が次々と……」
「呆れるのはまだ早い。あの兎族が言ったように、兎族自身はあの中で最弱だった」
「このレベルで最弱と……?」
「ああ、次にあの狼族と狐族……。あいつらは、二人共ランク六千を超えていた……」
「六千[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「その通りだ」
 キャルビスは目元に手を当て、必死に状況の整理をしている。
「しかし、魔王様の『特殊能力』……計り知れないですね」
「ああ、私もここまで測れるとは思っていなかったよ。……だが、やはり限界があったな」
「絶対に逆らってはいけないと言う程の二人……ですか?」
「ああ、その通りだ。そうだな……お前はどれだけの数を言える?」
 魔族の男は少し戸惑ったが、やがて答えた。
「京……ですかね」
「そうか、確か京は億の次だったか?」
「億の次は兆ですよ」
「…………まぁ、私には億が限界だ。それで、お前はこの文字を見たことがあるか?」
 キャルビスは壁に『E+』という文字を書いた。
「いーぷらす……ですか?」
「なんて読むのかは知らん。だが、あの二人にはこれが見えた」
「……どのように見えたのですか?」
「あのゼロという女は3・5E+二八と見えたな」
「……あまり高そうに見えませんが」
「私もそう思ったさ。だがな、その後に続いて見えるものを見たら、そんな事言えなくなったな」
「い、一体何が……」
 魔族の男はゴクリと喉を鳴らし、キャルビスの言葉を待つ。
「数値オーバー……桁数が多すぎて表示しきれていないらしい。初めて見たな、あんな説明」
「桁数が多過ぎる……と?」
「ああ、そうらしい」
「それで、あの男の方は……?」
「3E+六〇……はっきり言って、どっちが大きいのかわからんが、恐らくこの男の方だろう」
 キャルビスは盛大にため息をして、上を見た。
「……この国も終わったな」
 そして、同じことを呟いたのである。
…………
……
……
「ここが、この国の図書館か……」
 強斎はキャルビスに案内され、この魔国……キャルビス王国の王城地下図書館に来ていた。
 少し薄暗いが、確かに図書館であった。
「ああ。お前には、ここにある最も厳重な警備が施されているフロアにいてもらう。今、お前が動けるのはこのフロアと与えた個室だ。しばらくしたら、自由に動けるようになると思うから待ってろ」
「ああ、了承した」
「よし、一通りこのフロアを案内する」
 そう言って、キャルビスはパチンと指を鳴らす。
 すると、フロア全体が明るくなった。
「魔族なのに、光属性が使えるのか?」
 勿論、強斎はキャルビスが光属性を持っていないことを知っている。
 怪しまれないように先ほどのように訊いたのだ。
「いや、光属性は使えない。火属性を変換しているだけ……らしい」
「らしいって……」
「私が詳しく知るわけないだろう」
 そう言って、キャルビスは歩き始める。
「このフロアにある、とある場所に置いてある書物は、何代もの魔王が解読できていないらしい。勿論、私も何を書いてあるのかさっぱりだ」
 暫く歩き、少し目立った柱の前で止まった。
「ここからお前たちの部屋に繋がる簡易転移装置を作る。いいな?」
「ん? ああ、頼む」
「何か考え事をしていたのか?」
「まぁ、ちょっとな」
「そうか。私はもう戻るが、お前はこのフロアにいるんだろう?」
「ああ。それと、ミーシャ達を連れてきてくれ」
「……? まぁ、いいが……」
 そう言ってキャルビスは去っていった。
 強斎は暫く去っていった方を見ていたが、向きを向き直り、小さく呟いた。
「解読できない本……か」
 そして、強斎はその解読できない本がある場所に向かう。


 強斎はその中から一冊取り出して、微笑んだ。


 そして――――――。


「『通常スキル一覧表』……か」


 強斎は解読できない本をあっさりと読み上げてしまったのである。


[#ここから6字下げ]
さて、強斎は何故こうもあっさりと読み上げてしまったのか?
スキルの言葉使いのおかげか?
属性のおかげか?
それとも魔術?
それとも……
次回もお楽しみに!
えっと、感想の返信ですが、活動報告を使って返信をやってみたいと思います。
できるだけ直接返信しますが、保険としてです。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]48話 世界の秘密の一片を考えるっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
友達にルナを描いてもらいました!
あの少ない説明だけでよく絵にできたなと思いましたねww
普通に上手かったです
それと、自分は少し心を入れ替えました!
以前の様な感じで自分自身、楽しく書きたいと思います
なので、めちゃくちゃになるかもしれませんが、それでもいい方はどうぞ!
[#ここで字下げ終わり]




 強斎は持っている本を『読む』。
 今まで、この本は『読む』ではなく『見る』だった。
 しかし、ここに来て初めて『読む』者が現れた。
 それが、自称人間にして最強生物の、小鳥遊強斎という男である。
 この者はステータス、スキル、属性どれをとっても最強の名にふさわしい程圧倒的だ。
 しかし、この本を『読む』にはどれだけ圧倒的でも、読むことはまず不可能。
 だが、この者はこの文字を読めてしまった。
 いや、この者にとっては読めて当たり前だったのだ。


 そう、この者は自称人間の最強生物。


 そして――――――




 ――――――――地球という別世界から来た異世界人なのだから。




    *


 強斎は本を片手に一人考え事をしていた。
(この世界はスキルの種類が豊富だと知っていたが……流石に多すぎるな……。これ、スキル名だけびっしりと書いてあるだけなのに、辞書だぜ辞書。それに、火属性とか剣術とかならわかる……が、なんだよ性欲って……性欲スキルってなんだよ! 後は、スキルNEETとか……これ絶対ふざけてるだろ。思わず吹いちまったじゃねぇか)
 強斎はため息をしながら本を閉じる。
 疲れているように見えるが、強斎の頬は緩んでいた。
 理由は簡単だ。


(……だけど。久しぶりに見たな――――――日本語)


 そう、数ヶ月見ていなかった懐かしい文字……日本語を見たのである。
(それにしても、解読不可能か……そりゃそうだよな、この本、日本語で書かれてんだから)
 強斎は日本語で書かれていた『通常スキル一覧表』と言う本をまた開く。
(そう言えば、この世界に来て直ぐに転移された時、目の前にあったのはノートパソコンだったな……この日本語といい、あの時のノートパソコンといい……。確実に何かあるな……)
 と、強斎はそこでとあることに気がつく。
(そう言えば、この本は五十音順になっているが……やはり超解析がないな……通常スキルってことは、やはりレアスキルの本もあるのか?)
 強斎は本を閉じて、元の場所へ戻す。
 そして、改めてどんな本があるのかを見た。
(通常魔物、レア魔物、ユニーク魔物……魔物にそんな区別が付けられていたなんてな……。そういえば、俺もかなりこの世界に慣れたな……。最初の頃はツッコミまくっていたのによ……途中から驚くのに疲れて慣れてしまった……か。いや、テンプレ世界だからって無理やり納得したんだっけか)
 と、そこまで考え事をしたところで目的の本が見つかった。
(あったあった、『レアスキル一覧表』……意外に近くにあったな)
 先ほどの『通常スキル一覧表』とは違い厚さはそれ程厚くなく、『通常スキル一覧表』の五分の一程度で中身もギッシリ書かれていない。
(だが、これも名前だけか……説明とかな――――――誰だよこんなスキル取得する奴。『性欲狂』ってなんだよ、危険臭プンプンするんだが……まさか[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 強斎は咄嗟にとあるスキルを探す。
 そして、安堵した。
(流石にNEETのレア互換はなかったな。……さて、とりあえず、どんなものがあるのか一通り見るか)
 そして、強斎は一人本に没頭した。


…………
……
……
「ふぅ……」
 そう息を吐いて、強斎は『レアスキル一覧表』を閉じた。
(レアスキルでも、かなりの量があったな……だが)
 強斎は自分のステータスを確認する。
(『天変地異の発動』『無双』『全てを超越した威圧』『神殺し』『スキル強奪』『レベルアップ時ステータス倍』『眷属ステータス分配』『眷属スキル分配』『必要経験値一/一〇〇』――――――これだけは見当たらなかったな。レアスキルに『虚無属性』があったのは驚いたが)
 強斎は本を元に戻して、一通り本棚を見る。
 そこで、強斎はとあることに気がつく。
(そう言えば、あいつら遅いな……)
 そう、キャルビスにミーシャ達を呼んでくるよう頼んだのだが、来ていないのだ。
(こういう時にサードスキルっと……あ、もう目の前だったか)
 強斎がそう確認した直後、このフロアに人が入ってきた。
 ミーシャ、レイア、ルナ、ゼロの四人である。
「キョウサイ様ー。どこですかー?」
 ミーシャが可愛らしい声で呼んでいるので、呼ばれている本人の強斎は自然と頬が緩んでしまった。
 強斎は自分の位置を知らせるために、適当に作った光玉を打ち上げる。
「あ……帝級クラスの光玉が打ち上がった……ご主人だな」
 レイアがいち早く光玉に気がついたようで、皆に知らせていた。


 暫くすると、強斎のところにやってきた。
「主人お待たせー。ちょっと遅れちゃった」
 ゼロがそう苦笑い気味に言う。
「いや、別にいい。それより、今日からしばらくの間、用意された部屋とこのフロアが俺たちの行動範囲だ。いいな?」
『わかりました』
「よし、じゃあゼロ」
「ん?」
「魔界語、龍界語、精霊界語を皆に教えてやってくれ」
「え? え? な、なんで?」
 ゼロは突然強斎に、言葉を教えてやれと言われ、戸惑っていた。
「そもそも、主人って龍界と精霊界の存在知ってたの?」
「…………まぁな」
 強斎の一瞬の溜めにゼロは疑問を感じるが、それには触れずにゼロは口を再び開く。
「まぁ、いいわ。それで、なんで急に教えろなんて言い出したの?」
 そんなゼロの問に、強斎はやや真剣に答える。
「覚えておいて損はないからな。喋る言葉は同じでも、文字がわからなかったら不便だろう。……それに」
「それに?」
「もしかしたら、近いうちにそのどちらかに行くかもしれない」
「ふーん……わかったわ。ミーシャ、レイア、ルナ。付いてきなさい、お勉強の始まりよ」
 ゼロは強斎の顔を見て納得したのか、別の場所に移動し始めた。
 ゼロ以外はよくわかっていない様子で、とりあえず言われるがままゼロについていった。
 その光景を見て、強斎は思う。
(やはりゼロは、この世界全ての文字がわかるのか……。助かったが、どう言い訳をしようか……)
 強斎は龍界と精霊界に近いうちに行くと言う、言い訳を考えていた。
(何か、嫌な予感がするんだよな……。このまま魔界に留まっていたら……)
 強斎はその嫌な予感をいろいろ考えるが、|埒《らち》があかないので考えるのをやめた。
(さて、通常スキルでもレアスキルでもないスキル……一体どんなスキルなんだろうな……)
 勿論、強斎が所持しているチートスキルのことである。


 強斎は『通常スキル一覧表』『レアスキル一覧表』以外のスキル一覧表を探すが……。


「…………ない」
 思わず声に出してしまうほど見つからないのだ。
(どういうことだ? 俺の予想だと、あのノートパソコンにある内容は、ここにあると思ったが……別の場所に保管でもしてあるのか?)
 そこで、強斎はとあることに気がつく。
(そもそも、なんで日本語なんだ? なんで、こんなにも日本語で書かれている本が集まっているんだ?)
 強斎は適当な本をとり、それを開く。
(人種……か。これもおかしな話だ。何故日本で名前が存在している種族しかこの世界にはいない? ミーシャは狼。レイアは狐。ルナは兎。ゼロは精霊。……神話も含まれているが、全て名前が日本で存在している種族だ。ここに書いてある人種もそうだ。種類は多くはないが、それでも少なくはない。なのに、全てどんな人種か想像できてしまう……。人間族と亜人族では子孫は残せない……では、何故こんなに亜人が多い? 戦争でも起これば絶滅するだろうに……。くそっ、全然わからねぇ……)
 強斎は本を閉じ、そっと元にあった場所に戻す。
 そして、また適当に取り出す。
(……これも日本語だ。料理本? めっちゃ便利だな。これで、作れる日本料理も増えたな)
 強斎はそっとその本をアイテムボックスにしまう。
(これは盗むわけではない。無断で借りているだけだ。しっかりと借りは返す主義だから安心して欲しい)
 そう強斎は自分に言い聞かせて、考えを元に戻す。
(この世界は日本と関わりがあると考えたほうがいいな。以前、ドレット王国で見た信喜と仁という奴ら……。あいつらも日本から転移させられたんだろう。こうも日本から転移された例が二回もあるんだから、この世界は日本に関わっている。よし、クオドエラトデモンストランドゥムで終わり……んなわけあるか! 日本と関わりがあるからってなんにも意味ねぇじゃん!)
 強斎はため息をして、また本棚を眺める。
(あー……考え過ぎて、自分自身何を考えていたのかわからなくなったわー……まぁ、今は考えなくていいか)
 そして、強斎はまたまた適当に本を取る。
 その本のタイトルを見て、強斎は少し首を傾げた。
(『称号属性一覧表』? なんだ、称号属性って……?)
 強斎はその本を開いて読み始める。
 読んでいると、強斎はドンドン冷汗を流していた。
(これ、相当ヤバイな……今までと違って、説明があるから尚更ヤバイ……)
 説明等は強斎が作ったメニューでわかるのだが、強斎は何故かそれを使わない。
 今、強斎が見ているページはこれだ。
『称号属性LV2:竜の上に立つ存在ユニーク属性『竜の王』保持者であることと、『竜の王』保持者を二体以上討伐or配下にすることが条件。効果:MP500消費『竜の王』専用スキルの効果超上昇:自動STR・DEX・AGIを二時間倍、HPを一/二〇回復、HP回復速度を微上昇させる。二時間おきに使用可能:任意』
(この説明を見ると、相当危ない属性だな……称号属性ってのは。他のページに称号属性LV1ってのがあったが、それでも十分危ない。身体強化だけじゃなく直接攻撃用の属性もあるな)


 強斎はペラペラとめくっていると、ある確信をした。
(称号属性ってのは(???)がついている属性だな。この本には『世界を破壊する者』や『神を殺した者』が載っていた……が、何故『最強の宿命』だけがないんだ?)
 と、そこまで考えていたところで、肩に重荷がかかる。
「主人は何読んでるの?」
 ゼロだった。
 ゼロは強斎を後ろから首に抱きつくようにして、密着している。
 勿論、その豊富な胸は遠慮なく強斎の背中に押し付けていた。
 普通の男性だったら一発KOで理性を破壊され襲いかかるか、気絶するかのレベルでフェロモンを撒き散らしている。
「ん? ああ、ちょっと気になった本があってな」
 だが、強斎はもう慣れている。
 二人っきりの時は、いつもこの様に女らしさをアピールし、ベタベタしてくるのだから。
 ゼロも一向に自分を襲わない強斎に(強斎はただ、時間と場所をわきまえているだけ)むすっとしていたが、頼めばしっかりと行為してくれることがわかってから、そのような態度は見せなくなった。
 だが、本人はこのスキンシップを辞める気はないらしい。


「主人が本を読む姿なんて中々新鮮ね。どんな本?」
 ゼロは背後から抱きついたまま、器用に強斎の読んでいた本をとる。
 強斎は別に取られてもいいかと考えていたので、取り返そうとはしなかった。
(どうせ読めないしな)
 そう強斎は気楽に考えていた。


 だが、強斎はその考えを一瞬で打ち消した。




 何故なら――――――。




「しょうごうぞくせいいちらんひょう?」




 ゼロが日本語を読み上げたのだから。


[#ここから6字下げ]
な、なんと! ゼロが日本語を読んでしまった! しかも漢字!
しかし! 次回は勇者視点で書きます! 残念!
次回もお楽しみに!


金曜日から艦これイベントですね。
活動報告を使ってちょくちょく状況を書いてみたいですねー
そもそも、活動報告ってどうやって返信するんですかね?
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]49話 強斎が去った後っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです!
感想でのご指摘により、結構書き換えました。
話の内容自体変わっています。
ご迷惑をおかけしました。
[#ここで字下げ終わり]




「はぁ、はぁ……くっ!」
 ここは、とある街のとある訓練場。
 そこに膝をついている者と、それを見下ろす者がいた。
 そして、見下ろす者が膝をつく者に語りかける。
「ドレット王国の勇者ってのは、こんなに軟弱なのか?」
 そして、その言葉をかけられた膝をつく者――――――ドレット王国勇者、鈴木勇志は剣を杖に立ち上がる。
 そんな姿を見て勇志を見下ろしていた者――――――シッカ王国ギルドマスター、ベルクは呆れながら言葉を続けた。
「いい加減諦めろ。お前は俺には勝てない」
「そんなの、最後まで闘わないとわからない……!」
「既にわかりきっているはずだ。『限界突破』まで使ったんだろ? それでもこの差だ。お前は俺に勝てない」
「はぁ、はぁ……なら、もう一度『限界突破』を使うまでだ! 『限界突破』[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 その瞬間、勇志は薄く淡い光に包まれた。
 限界突破を発動した証拠だ。
「本当に馬鹿な男だ。一日で二回使うのすら辛いはずの限界突破を一回の戦闘で二回使うとは……。何故、そこまでショクオウの事が知りたい」
「なんでだろうね。具体的な理由は特にないかな」
『限界突破』を使ったことにより勇志はHP、MP、疲労がある程度回復していた。
「国王に命令されたから……とは言わないのだな」
 勇志の答えに、少々疑問を感じたベルク。
「強いて言うなら、会わないといけない……そう僕の中で直感しているんだ」
「直感……ねぇ。だが、やはり教えるわけにはいかないな。教えて欲しければ――――――」
「あなたを倒す事……だったよね? 覚悟してね、さっきのようにはいかないから」
「ふん、二回目の『限界突破』状態の奴がよく言うぜ」
 そうベルクが口にした瞬間、勇志が動き出した。


    *


 強斎がドレット王国から出た数時間後、とある用事を終わらした仁・信喜を除く勇者一行はドレット王国に戻ってきた。
 しかし、戻ってきたドレット王国はいつものような騒がしい雰囲気ではなく、どこか暗い雰囲気であった。
「ユウシさん……何か、怖いです……」
 ヴェレスに至っては、この異常な変わり様に少し恐怖を感じているようだ。
 それ程なまでに、あの騒がしいドレット王国が静寂に包まれていたのだ。
「……勇志、早く王城に戻ろう。嫌な予感がする」
「そうだね。確かにこの雰囲気は異常だ……。僕たちがいなかったこの半日で何が起こったんだろうか?」
 大地の問に勇志は少し焦り気味に答えた。
「勇志、少し落ち着きなさい。焦る気持ちはわかるけど、あの二人なら大丈夫よ。……あれでも一応勇者なんだから」
「そう……だよな。ありがとう。鈴」
 勇志が焦っていた理由は、この王国にもしもの時のために置いてきた二人の安全。
 ホルスから、そろそろ魔族が動き出すという忠告を受けて、全員で王国を離れる事を少なくしていたのだ。
「よし、皆。急ごう」
 勇志がそう言って、動き始めた。
…………
……
……
「王城も……か」
 大地が不意にそう呟く。
 その呟きに答えるかのように、緋凪は口を開いた。
「ねぇ、なんかおかしくない? 王城までこんなに静かなんて……。魔族が来たならわかるけど……どこも荒れた形跡なんてないし……」
「確かに、緋凪の言う通りね。人の気配は……今のところしないね」
 澪は王城に入ってから気配を探っていたようだ。
「国民はちゃんといたけどね」
 鈴はもっと前から気配を探っていたようだが。


 少し歩いたところで、鈴と澪は同時にピクリと反応した。
「人がいたのかい?」
 勇志の問に二人は頷いた。
 そして、澪が口を開く。
「反応があったのは二人。二人共人間ではありえないぐらいの魔力だから、恐らく……」
「信喜と仁……か」
 澪は勇志答えに無言で頷く。
「とりあえず行ってみましょう」
 鈴はそう言って他の皆を案内するのであった。
…………
……
……


「し、師匠!」
 信喜と仁がいたのは部屋ではなく、廊下であった。
 仁はフラフラと立ち上がりながら、勇志達に寄っていく。
「仁、信喜。一体何が……?」
 勇志たちは周りを見て、ここで戦いがあったのだと察した。
「実は……」
 仁は数瞬の間唇を噛み締め、その後に口を開いた。
「――――――魔族が来ました」
 その言葉に、若干の重みがあるのか、勇志は少しずつ焦り始める。
「やっぱりか……それで? その魔族は――――「勇志」」
 焦り始めていた勇志の言葉を、輪が遮った。
「少し落ち着きなさい。まずはその二人の回復が優先よ」
「そ、そうだね……すまない」
 鈴は落ち着いた勇志を見てため息をし、言葉を続ける。
「場所を変えましょ。ヴェレス、あの部屋を使っても大丈夫かしら?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
 鈴は少し離れたところにある扉を指差して、そうヴェレスに言った。
 しかし……。
「ですが、どうしてあの部屋なのですか?」
 そう、部屋は他にもあるのだが、鈴は少し離れた部屋をわざわざ指名した。
 目の前にもあるのにも関わらずだ。
 その事を指摘すると、鈴は苦笑いする。
「えっと……まぁ、とりあえず移動してから話すわね」
 と言って、そそくさと部屋に向かってしまった。
 それに続いて、勇志達もその部屋に向かった。
 しかし、ヴェレスは立ち止まって心を落ち着かせ、冷静に周りを見る。


 窓ガラスは割れ、所々壁や床にヒビが入っている。
 少し離れた曲がり角の壁は、小さなクレーターがあった。
 置物であろう剣は床に深々と刺さって――――――。
「って、なんで剣が刺さってるんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「「今更[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 緋凪と澪が反射的に突っ込んでしまった。
 その隣で琴音は苦笑いしている。
 既にここには、ヴェレス、澪、緋凪、琴音しか場にいない。


「す、すみません……あまりにも周りが変貌していたので、些細な変化に気が付きませんでした……」
「些細って……ヴェレスちゃん、ここに住んでいたんでしょ……?」
 緋凪はジト目でヴェレスを見ながらそう言った。
「ええ、まぁ……」
 苦笑い気味に答えるヴェレスに何かを感じたのか、澪が真剣な眼差しでヴェレスを見て、恐る恐る口を開く。
「これが天然……!」
「澪ちゃんだけには言われたくないと思うよ? それと、天然とはちょっと違うかな?」
 澪はかなり頭のいい方なのだが、こういう知識に関してはやや浅いようである。
 緋凪はその事に関しては理解しているので、そこまで驚かない。
 だが……。
「……これが天然」
「…………え?」
 流石に琴音の発言に緋凪は驚いてしまった。
 琴音は少々無口に近いが、愛想は悪くなく、頭も顔も高めの部類に入る。
 緋凪はそんな琴音なら、常識的であると信じてきていた。
 しかし、その琴音が天然を理解していないとなると、自分が間違っているんじゃないかと思うのも事実。
 緋凪は一瞬の間でここまで思考を巡らせて、我に返った。
 余談だが、緋凪も中学の時強斎を襲おうとし※[#縦線](未遂)、今でも罪悪感すら抱いていない状態なので、常識人だとはとても言えない。
「えっと……天然っていうのは――」
「ヒナギさん」
 緋凪が説明しようとしたところで、ヴェレスに声をかけられた。
(質問かな? まだ説明していないのに……?)
 と、緋凪がそこまで考えていたところで、ヴェレスが口を開く。


「早く行かないと、リンさんに怒られますよ?」




 その一言で、緋凪はビクッと体を震わせ、ゆっくりと動き出した。
 笑っているが、目だけが笑っていない。
 流石のヴェレスでも、怒っている事ぐらいはわかった。
 理由がわかっていないだけだ。
 そんな緋凪が、ゆっくりとヴェレスの方に近づいていく。
 そして、ヴェレスの前で立ち止まり……。
「ひ、ヒナギさん? 一体どうし――」
「そぉい[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「わぁ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 緋凪は手刀でヴェレスの脳天をチョップしようとするが、ヴェレスは紙一重で後ろに避けた。
 勿論、避けられることがわかっていての攻撃だったし、ヴェレスに当たっても大丈夫な力量だった。
「ちっ」
 しかし、避けられた事は素直に悔しいので、緋凪は舌打ちをする。
「ど、どうしたんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] いきなり攻撃してくるなんて! というより、なんで怒っているんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「いや、鈴ちゃん凄いって思ったから」
「理由になってませんよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 と、ヴェレスと緋凪が言い合っているところに、琴音が止めに入ってきた。
「えっと、そろそろ行きましょうか。澪さんも、さっきから呆れて動いてませんし」
 ぴくっと緋凪が琴音の言葉に反応した。
「澪ちゃんが呆れて動いていない? そんな馬鹿な」
「最近、ヒナギさんが怖いです」
 ヴェレスの言葉は無視して、緋凪は澪の方を見る。
 確かに澪は動いていなかった。
 いや、唖然としていたのだ。
「……澪ちゃん?」
 緋凪は澪の驚き具合に驚いていた。
 数瞬、何に驚いているのか考えた緋凪だったが、澪の目線を追ってみるとそこには刺さった剣があるだけ。
 緋凪はその剣に何かがあると確信し、澪に問おうとする。
 だが、緋凪が喋る前に澪が口を開く。
「ねぇ、ヴェレス……。『超解析』って物にも使えるっぽいね」
「ええ、まぁ」
 ヴェレスは、いきなりそのような事を訊かれ、少し戸惑っていた。
「でさ、あの剣に『超解析』使ったんだけど……ちょっと気になる項目があるから質問していい?」
「いいですよ? というより、私が直接見た方が――――」
「同じように見えているとは限らないでしょ?」
「……そうですね」
 澪の謎の雰囲気に押され気味のヴェレス。
 緋凪や琴音も口を出せなかった。
 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、澪はヴェレスにとある質問をした。


「『この解析レベルでは、表示できません』ってどういうこと?」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 その言葉を聞いた瞬間、ヴェレスは顔を青くし自分も剣に対して、『超解析』を使った。
 すると、ヴェレスは震えながら、その剣から離れようと後ずさりをする。
「そ、そんな……そんな……」
 ヴェレスは剣から目を離し、澪に対して『超解析』を使う。
 そして――――――。
「……ミオさん。もしかして、『製作者』と『作品名』が『解析不可能』って見えていますか?」
「ええ、その通り。で、その下の説明に――――――」
「『この解析レベルでは、表示できません』ですよね?」
 何故かヴェレスは怯えているが、澪はその原因がこの質問の答えだと悟り、質問を続ける。
「解析レベルって、『超解析』のことだよね? 武器にも『超解析』を超える『隠蔽』が存在するの?」
 すると、ヴェレスは恐る恐る口を開く。
「……順を追って説明します。まず、この『超解析』で解析できないものは基本的にありません。自分自身がわかっていない状態異常等でもわかるのですから。ですが、この『超解析』でも解析できないのが――」
「『超隠蔽』だったよね?」
 澪の答えに、頷くヴェレス。
 そして、ヴェレスは言葉を続ける。
「そうです。ルナさんみたいな感じです……ですが」
 そこで、ヴェレスは剣をじっと見て、冷汗を流す。
「武器に『超隠蔽』が付いているなんて、普通ありえません」
「なんで?」
 澪の問にヴェレスはしっかりと澪の目を見て答えた。
「武器に普通のスキルは付けられないからです」
「えっ……でも……」
「ええ、ミオさん達が所持している武器にはそれっぽいものがありますよね? ですが、違うのです。それは、普通のスキルではなく『付属スキル』といいます」
 そこで、ヴェレスは自分の武器(杖)を取り出して説明を始める。
「武器というのは、作成する人によって効果が違います。武器のステータスはSTR。付属スキルや効果はINTとMP。安定度や装備条件等はDEX。そして、それに補正をかけるのが武器生成スキルです。この杖は基本的なステータスこそ低いですが、消費MP減少に効果範囲拡大と非常に使い勝手がいいのです。ですから、|UR《ウルトラレア》という高レア度になっています」
 と、そこで澪にとある疑問が浮かんだ。
「ちょっと待って。さっき聞いた内容だと別に不可能じゃないっぽいけど……」
 と澪が言うと、ヴェレスはゆっくりと口を開いた。
「武器に『付属スキル』スキルを付けるというのは、並大抵の武器職人では不可能です。MP・INTが共に高く、更に武器生成レベルが高くなければ無理です。そうですね……例えるなら、この武器(杖)を作った方は、INT250、MPが一五〇〇、武器生成レベルが一五の超職人さんでした。これ以上の武器はダンジョンで造られた宝箱の中身ぐらいでしょうか」
 と、そこまでヴェレスが説明したところで、澪は刺さっている剣の恐ろしさを理解した。
 ヴェレスはその反応を見て、言葉を続ける。
「そうなのです。『超隠蔽』並の『付属スキル』を付けることは人間には不可能です。いえ、人間でなくても不可能に近いでしょう。そして、もう一つ言える事……それは……」


『不明※[#米印、1-2-8] (LGR)
STR2000以上で装備可能
全属性付属
LUK以外の自全ステータス一・五倍
MP消費超絶減少
魔術効果範囲超拡大
魔術威力超上昇
自動HP回復速度超上昇
自動MP回復速度超上昇
不死属性殺傷可能


歴代最強クラスのLGR武器。
LGRの中でも破格の性能を誇る。
製作者は不明※[#米印、1-2-8]
※[#米印、1-2-8]この解析レベルでは、表示できません』


 ヴェレスはこの剣を見て、途切れた言葉を続ける。
「この剣を作成できるのは、神に等しいかそれ以上の力を持っている人物ですね」
「……そっか」
「もう、神が作った武器と考えたほうが妥当ですね」
 と、そこまで言ったところで、ヴェレスはとある疑問を感じた。
「ところでミオさん」
「ん? 何?」
「どうして泣きそうなのですか?」
「え……?」
 そう、澪の目元はちょっぴり赤く、目は潤んでいた。
 澪は目をこすり、苦笑いをする。
「な、なんでだろうね……。別に悲しくもないのにね……」
 しかし、澪の言葉は段々と涙声になっていく。
「あはは……。何か、勝手に涙が……。強斎に会うまで泣かないって決めてたのに……こんな……こんな武器で……」
 澪は目元を拭うが、少しするとまた涙が溢れてくる。
「ミオ……さん」
 ヴェレスが心配そうな顔で澪を見つめる。
「澪ちゃん? 大丈夫?」
「澪さん……」
 今まで蚊帳の外だった緋凪と琴音も澪の心配をしている。
 そして、澪はゆっくりと口を開く。
「神様が作った武器ってあながち間違ってないかもね……」
「え?」
 突然先ほどの話に戻り、少々ヴェレスは混乱した。
 その答えを言うように、澪は言葉を続ける。
「だって、この剣から感じる魔力って、どこか懐かしくて、温かくて、安心できて、心強くって……まるで……」
 澪はそこまで言うと、拭う手を止め、微笑んだ。


「強斎みたいな剣だもん!」


[#ここから6字下げ]
前書きでも書きましたが、ここでも謝罪をさせていただきます。
わかりにくい部分があったのなら、遠慮なく書いていってください


強斎みたいな剣……だって、強斎が作ったんだもん!
さて、何故強斎は製作者は自分だと言うことを隠したんでしょうね?
作品名は恥ずかしいからという理由っぽいですが。
しかし、前半ではあのギルマスとの戦闘っぽい描写……
なんであんなことになったんでしょうね?
次回もお楽しみに!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]50話 仮面の魔族っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです。
前話を大幅に修正しました。
話の内容自体変わっているので、そちらを読んでから読んでください。
本当にご迷惑をおかけしました。
[#ここで字下げ終わり]




「えっと……澪ちゃん。もう大丈夫?」
「うん、ありがとう。緋凪」
 澪が涙を流したのは数秒の間だったが、それでも心配してくれる仲間に澪は思わず笑みで返してしまう。
 その笑みを見て、安堵する一行。
 しかし、緋凪は直ぐにむすっとした顔になってしまった。
「で、説明してもらいましょうか」
「え?」
 緋凪の質問の意味がわかっておらず首を傾げる澪。
 なぜ今の流れで察することができないのか不思議に思う緋凪であったが、構わず説明[#傍点]しようとする[#傍点終わり]。


『[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』


 しかし緋凪が口を開く瞬間、心臓を鷲掴みにされたような威圧が全員に向けられた。
 緋凪は、背中から感じる圧倒的な威圧の正体を見極めようとするが、体がいうことをきかない。
 本能的に振り向くことを拒否しているのだ。
 唯一緋凪の後ろを見ることが出来るのは澪だが、何故か澪は冷汗を異常なほどまでに流して頬を引きつらしていた。
 そして、次の澪の一言で全てを察することができた。


「鈴……さん……?」


 そう、この威圧の正体はご機嫌斜めの鈴であったのだ。


…………
……
……


 澪、ヴェレス、緋凪、琴音は只今正座中である。
「あの……鈴さん? そろそろ威圧を解いてくれないと――」
「却下」
「うぅ……」
 澪が鈴に対して威圧を解いてくれというが、鈴はそれをあっさり却下してしまった。
 ついでに、この中でまともに話せるのは澪だけである。
 ヴェレス、緋凪、琴音は小さくなって怯えている。もう少し威圧を強くすれば、半泣きになるであろう。
「信喜と仁の体調、状態異常、ステータスの変化やら確認している時に、私を置いて楽しくガールズトークとは……いい度胸ね?」
 ギロりと鈴は澪を睨む。
「ひぃぃぃ…………」
 澪はその視線から目をそらすように縮こまる。


「……はぁ」
 しかし、睨んだのも数秒で、更に威圧も解いた。
「今回はこれぐらいにしてあげるわ。……大体予想はつくし」
「よ、予想ですか?」
 鈴の最後の呟きに、ヴェレスが反応した。
「ええ、どうせ[#傍点]あの剣[#傍点終わり]について戸惑っていたんでしょう? 特に澪」
「ば、バレてる[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪のその反応に小さく鼻を鳴らした鈴は言葉を続ける。
「当たり前でしょ。何のためにこの部屋を指定したと思っているのよ」
 すると、その言葉に緋凪が質問する。
「えっと、鈴ちゃん? ちょっといいかな?」
「ん? どうしたの?」
 緋凪は数瞬間を置いて鈴の目をしっかりと見る。
 そして、ゆっくり口を開いた。
「……あの剣が強斎君みたいって、どういうこと?」
「っ!」
 緋凪の質問に、思わず息を詰まらせる鈴。
 鈴は目を逸らそうとするが、少し考えた結果諦めた。
「……わかったわ。その話も含めて、今から話し合いましょう」
…………
……
……
「先に、信喜と仁の状態から説明するね」
 あの後、澪が信喜と仁の状態を確認し、その間に勇志達は剣の確認をしていた。
 そして、それぞれが一通り終わったところで話し合いが開始された。
「『超解析』で確認したところ特に異常があったわけでもない。一応、回復魔術を使ったし大丈夫だと思う」
「まぁ、それは私も確認したし心配はなかったわ」
 澪の報告に、鈴が答えた。
 そして、そのまま鈴は言葉を続ける。
「で、どうだった? 魔族と闘った感想は?」
「「…………」」
 鈴は軽い気持ちで訊いたのだが、信喜と仁は悔しそうに俯いてしまった。
 それを見て、少なからず緊張が走る鈴。
「…………あれは闘いなんかじゃねぇ」
 信喜は俯いたまま小さく呟いた。
「闘いじゃない? どういうこと?」
 鈴が信喜に聞き返すが、信喜は黙ったままだった。
 代りに、仁が口を開く。
「圧倒的だったのだ……魔術も接近戦も……何もかもが通用しなかった……。直前で覚えた『限界突破』まで使ったのにだ……」
 仁は悔しそうに歯を強く食い縛る。
 しかし、仁の言葉にヴェレスは疑問を感じた。
「ちょっと待って下さい。互角に闘ったのではなく、圧倒的に負けてて見逃されたってことですか?」
 少々刺がある言い方だが、信喜と仁は気にせず頷いた。
 すると、ヴェレスは途端に深刻な顔になる。
「ヴェレス? どうしたんだ?」
 勇志が声をかけると、ヴェレスはゆっくりと口を開く。
「……魔族の中には人間に興味のない者がいると聞きます。その場合、攻撃しない限り、害はないとは言い切れませんが、ある程度大丈夫なのです。しかし……」
「人間に興味がない奴がここに来るはずない……か」
 大地の答えにしっかりとヴェレスは頷き、言葉を続ける。
「はい、その通りです。そして、魔族の中には実力を認めた者なら見逃す者もいますが……」
 ヴェレスは信喜と仁を一瞥して、再び口を開く。
「……圧倒的に負けたとなると、その可能性はほぼ皆無でしょう……」
「だったら、何故……」
 琴音がそう質問するが、ヴェレスは静かに首を振る。
「わかりません……」
 ヴェレスがそう言うと、皆無言になってしまった。
 しかし、それを破ったのは、意外にも黙っていた信喜であった。
「なぁ、ヴェレス。魔族ってのは全員仮面をつけているのか?」
「仮面をつけた魔族だったのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「お、おう」
 質問で質問を返された信喜は戸惑い気味に答えた。
 しかし、そんな信喜を無視して、ヴェレスは目を見開いて口を震わせていた。
 少しするとヴェレスは脱力し、ブツブツと呟き始めた。
「そんな……まさか……いや、でも事実でしたら…………しかし……」
「えっと、ヴェレス? 何があったんだい?」
 ヴェレスの異常ともいえる焦りっぷりに、勇志は少々戸惑い気味になっていた。
 しかし、ヴェレスの顔を見た途端、そんな戸惑いはなくなった。
「…………本当にどうしたんだ?」
 ヴェレスの顔はいつもの大人っぽい顔ではなく、ただの一五歳が怯えているような顔になっていたからだ。
 ヴェレスは勇志の顔を確認すると、恐る恐る手を伸ばし、勇志の服を摘んだ。
「ヴェレス……?」
「ごめんなさい、ユウシさん……。少し……少しでいいですから、こうさせてください」
「……ああ」
 勇志は無言でヴェレスを抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
「…………この方が落ち着くでしょ?」
「はい……ありがとうございます……」






「よく堂々といちゃつけるわね。見てるこっちが恥ずかしいんだけど」
「鈴ちゃん。あれがカップルだよ、生暖かい目で見守ろうよ」
「緋凪、今すっごく深刻な話してたよね? そんな見守っていて大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そ、そう? それより、琴音から何かオーラを感じるんだけど。これって嫉妬――――」「それ以上いけない」
「…………そうね。ありがとう」
「いえいえ」


 外野では、鈴と緋凪が言い合っていた。


…………
……
……
「お恥ずかしいところをお見せしました……」
 ようやく落ち着いたヴェレスの顔は、もう真っ赤であった。
 人前で抱き合ったのだから、それもしょうがないだろう。
 勇志も、誰とも目を合わそうとしない。
「で、ヴェレスはどうして、あそこまで怯えていたの?」
 鈴がそう言うと、ヴェレスの顔は真剣そのものになり、さっきまでの真っ赤な顔が嘘のようになった。
「皆さん、ここからは真剣に聞いて下さい」
 勇志も元に戻り、全員が一斉に頷いた。
 ヴェレスは深呼吸をし、ゆっくりと口を開く。
「|率直《そっちょく》に言います。もうじき魔神が復活するかもしれません」
『[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
 ヴェレスの告白に、全員驚きを隠せないようだ。
 ヴェレスはそのまま言葉を続ける。
「仮面の魔族はその予兆でしょう。遥か昔、魔王と同レベルの実力を持った魔族が魔神の直属の配下にいたと言われています。それが、仮面の魔族です。仮面の魔族でしたら、戦争時以外は滅多に人間を殺さないと記録に残っていますので……。シキさん、ジンさん、仮面の魔族は何か言っていましたか?」
「あ、ああ。魔王は一人じゃないとか、あの剣を装備できるまで強くなれとか……」
 突然話を振られ戸惑った信喜と仁だが、信喜がしっかりと答えた。
「……そうですか」
「何かわかったの?」
「いえ、全くわかりません」
 澪の質問に答えになっていない答えを出したヴェレスは、深呼吸をしてゆっくりと口を開いた。
「…………ショクオウさんを仲間に誘いに行きましょう」
 その言葉に先ほどまでではないが、全員が驚いた。
 ヴェレスは以前、ショクオウを仲間に入れることに反対をしていたからだ。
 しかし、その答えをヴェレスは自分で言った。
「勿論、ショクオウさんを仲間に入れる予定だということは、お父様に黙っておいてください。戦争しかねませんから」
 そう言うと、ヴェレスは何もない場所を睨んだ。
 恐らく、どこかにいるホルスを睨んだのであろう。
 ついでに、ホルスや他の皆の場所は、信喜と仁が伝えてある。
「ええ、わかったわ。私たちも戦争には反対だし」
 鈴はそう言うと、全員が頷く。
 鈴は全員が頷いたのを確認すると、言葉を続けた。
「さて、最後は…………あの剣についてね」
「やっとだね。鈴ちゃん、あの剣が強斎君みたいってどういうこと?」
 剣の話になると、緋凪が食いついた。
 しかし、鈴は表情を変えずに、その答えを言う。
「わからないわ」
「え?」
 あれだけ引張いておいて、答えが答えなだけに唖然とする緋凪。
 そんな緋凪に鈴は言葉を続ける。
「本当にわからないのよ。でも、あの剣の魔力を感じた時、真っ先に思い浮かんだのは強斎だった。それだけは言える」
 未だに魔力を感じ取ることができない緋凪からしたら、どんな気持ちなのか見当もつかないが、恐らく澪に訊いても同じだろうと思った。
「さて、あの剣で色々試したい事があるわ。皆、外に出てきて」
 鈴は不自然にそう言うと、そそくさと外に出てしまった。
 その不自然さは緋凪以外にはわからなかったらしく、皆鈴に続いて外に出て行く。
 そんな中、一人緋凪は思ったのであった。


(逃げられた[#縦中横]!?[#縦中横終わり])


[#ここから6字下げ]
あの時仮面をつけていたせいで、とんでもないことに……!
さて、あの剣で試したい事とは一体何でしょうね?
次回もお楽しみに!
終盤に近づくと走ってしまう癖をなんとかしたいです。
最近、バイトしたいなーって思う様になりました。
自分は本屋でバイトしたいですね!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]51話 鈴の仮説っぽい[#中見出し終わり]






(全く……動揺させてくれるわね……)
 鈴は刺さっている剣を目の前にして、先ほどの緋凪の言葉を思い出していた。
(強斎を思い出して泣きそうだったなんて、恥ずかしくて言えるわけないじゃない……)
 そう、鈴も澪と同じく、剣の魔力を感じ取った時に涙腺が緩みかけたのだ。
(でも、これで私の勘違いじゃない事がわかったわ……。この剣は間違いなく――――――)
「強斎に関係しているな」
「っ!」
 一瞬心臓の鼓動が跳ね上がるが、鈴は直ぐに冷静さを保つ。
「まさか……私の思考を読んだの?」
「それこそまさかだ。いくらなんでも出来るわけないだろう。ただの勘だ」
「大地の勘は鋭すぎるのよ」
 いつのまにか鈴の隣にいた大地は、小さく鼻を鳴らした。
「デタラメに言ってみたが、図星だったようだな」
「……」
 鈴は少し頬を膨らませ、大地を睨む。
「まぁ、そんなに睨むな。少し嫉妬するが、鈴が強斎の事を好きだってことは知っている」
「……マジですか」
「ああ、流石に俺はあいつ程鈍感じゃないからな。反応を見れば大体はわかる。そして、この剣を見て懐かしむような顔をしていれば、大体は察することができる」
「デタラメなんかじゃないじゃない……それに、私は――――」
 と、鈴がそこまで言ったところで、大地が人差し指を鈴の口元に当て、言葉を防いだ。
「そこから先はまだ言わなくていい。今はこの剣についてだろう?」
 鈴の顔は真っ赤になり、一歩下がってから小さく頷いた。
 すると、後方から声がかかる。
「おいそこのリア充。爆発するかここに連れてきた説明するかどっちかにしやがれ」
 さっきまで、鈴にカップルは生暖かく見守れと言った緋凪であった。
 そして、鈴は今までのやり取りを聞かれていたと理解した途端、更に顔を赤くした。
「あっ、ちがっ、違うの! これはその……違うのっ!」
「何が?」
 緋凪は真顔で鈴に質問する。
 真顔だが、内心ニヤニヤしていることは容易に想像できる。
「あぁ! もう! 説明する! 説明するわよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 鈴は大きく深呼吸をして、自分自身を冷ます。
「まず、この剣の装備条件なんだけど……STRが二千以上と超人外レベルに設定されているわ」
「STR2000以上といえば、人間界では……数える程度しかいませんね……。そのどれもが人間族ではありませんし……」
 ヴェレスの解説に、鈴は頷いて言葉を続ける。
「ええ、そして……緋凪、ちょっとこっちきて」
「え? 私?」
 鈴は緋凪を手招き、剣の前に立たせる。
「ちょっと、この剣を引き抜いてみて」
「別にいいけど……」
 鈴の指示に従って緋凪は剣を掴んだ。
 しかし……。


「きゃっ!」
 突然バチバチッと鳴り、緋凪の手を弾いた。
 緋凪は驚きのあまり、尻餅をついてしまう。
 そんな緋凪を一瞥し、鈴は口を開いた。
「と、こんな感じに条件を満たさないと弾かれちゃうの」
「鈴ちゃん知ってたの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 緋凪は鈴に訴えるような目で訊く。
 そんな緋凪を見て鈴は小さく鼻を鳴らし……。
「ええ、知っていたわ」
 ニッコリと天使のような笑みで言った。
「酷い! 鈴ちゃん酷いよ! 鬼! 悪魔!」
「さて、それで試したい事だけど……」
「スルーされたぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 うるさい緋凪を無視して、鈴は勇志に確認する。
「勇志って、確かSTR1000超えたよね?」
「まさか……」
 勇志はそれで全てを察して苦笑いする。
「さっすが勇志。理解が早くて助かるわ」
 ポニーテールの悪魔は、先ほどと変わらない笑みで平然と言ってのけた。
 そんな鈴から勇志は一歩下がるが、逃げられないと悟り諦める。
「はぁ……。わかったよ」
「よろしい」
 勇志は鼻を鳴らし、剣に近寄った。
 そして――――――。


「『限界突破』」
 そう呟いて、剣を掴む。
 先ほどのように手を弾くことなく、しっかりと剣を握ることができた。


「あっさりと掴めたわね」
 鈴はそう言っているが、どこかほっとしたような感じだった。
「じゃあ、引き抜くね」
 勇志は一言入れてから剣を引き抜く。
 今度もあっさりと引き抜くことができた。
 しかし、勇志はそんな事はどうでもよかった。
「……凄い」
 そう、勇志は自分自身の変化で手一杯であったのだ。
「どんな感じ? ステータス一・五倍って」
「ああ、凄いとしか言えないね」
 鈴の問に少し嬉しそうに勇志は答えた。
 鈴は勇志のステータスを確認する。
「殆どが三千超えとか……ほんっとチートね」
 その場にいた全員は苦笑いをするしかなかった。
…………
……
……
 勇志の『限界突破』が終わったところで、勇者一行は解散した。
 勇志とヴェレスはホルスに王国の安全を伝えに行き、それ以外は街の住人に安全を伝えに行った。


「…………」
 そんな中、鈴は人通りの少ない物陰の椅子の様なところに座っていた。
「はぁ……」
 鈴はため息をして、考え事をしていた。
 そんな時、自分以外の気配がしたので一瞬警戒をする。
 しかし、警戒も本当に一瞬だった。
「鈴。サボっていると澪に怒られるぞ?」
 その相手が大地だからだ。
「あはは……ごめん」
「……」
 そして、大地は無言で鈴の隣に座る。
「……大地?」
「大丈夫だ」
「え?」
「澪はその考えに至っていない」
 大地がそう言うと、鈴は苦笑い気味に空を見る。
 そして、ゆっくりと口を開いた。
「……なんでわかったの? また思考でも読んだの?」
「だから、俺は思考は読めない。……俺も、ヴェレスに訊いたからな」
「そう……」
 すると、鈴は上に向けていた顔を俯かせ、力強く拳を握った。
「……本当にこの世界は狂ってる」
 弱々しく鈴は呟き、さらに続ける。
「人間すら道具の一部にできるなんて……人の命をなんだと思って……!」
「鈴、落ち着け」
「でも!」
「落ち着くんだ」
「……わかった」
 鈴が落ち着いたのを確認し、大地は口を開いた。
「別に、この世界の誰もが人を材料にしているわけじゃない」
「そう、ね」
「それに、あの剣が強斎で作られたと決め付けるのは、まだ早いんじゃないか?」
「……」
「鈴?」
 今までとは明らかに違う雰囲気に、大地は思わず声をかける。
「……あのね、大地」
 すると、鈴は少し震えた声で話し始めた
「以前、澪が夢をみたの」
 大地は黙って話を聞く。
「その夢の内容はね…………強斎が[#傍点]殺される[#傍点終わり]夢だったらしいの」
「強斎が殺される?」
「うん。強斎の死に方は誰も知らないはず……。でも、澪はそう言っていた……。私は、この夢は何か関係があるのかと思っていたけど……これって……」
 その続きは言わずとも大地に伝わった。
「考え過ぎだ。澪がみたのも、ただの夢なんだろう?」
「そうだけど……そうだけど……! 一度考えちゃったら、この考えしか出てこないの[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 鈴は俯きながら叫ぶように言った。
「わかってるよ、この考えもただの仮説に過ぎないって……。でも……この仮説が一番有力なの……! それ以外の仮説をどれだけ考えても、この仮説が一番現実味があるの[#縦中横]!![#縦中横終わり] そう、この狂った様な仮説が[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 鈴は顔を上げ、大地を睨むように見る。
 そして、言葉を続けた。
「ねぇ、なんで私はこんな狂った仮説しか立てられないの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんでこんな考えしか出てこないの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] この狂った世界に来たせいで、私自身まで狂っちゃったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そこまで言うと鈴の目元に涙が溜まり、泣きそうな顔になる。
 大地は無言で話を聞いている。
「なんでこの世界に来ちゃったんだろう……。私達、何か悪いことでもしたの? 今頃、高校二年生最後のテストの点数を見せ合って、強斎にからかわれて、私が殴って、澪に止められて、大地に共感されて、勇志に意見求めて……そんな楽しい生活を送っていたはずなのに……それなのに……」
 そこまで言ったところで、大地は優しく鈴を抱きしめた。
 鈴も何の抵抗もなく大地に身を寄せる。
 そして、大地が口を開いた。
「確かに、俺たちは不幸に巻き込まれてしまった。だけど、鈴は狂ってなんかいない。少し焦っているだけだ」
「でも……」
「俺は気の利いたことは言えない。だけど、今の鈴に同情はできる。だから……、今は強斎を生き返らせることだけを考えよう。あの剣の出処とかは考えずにな」
「……うん」
 大地は鈴が落ち着いた事を確認し、鈴から離れようとする。
 しかし、鈴は大地を離さなかった。
「……鈴?」
「もうちょっと、こうさせて」
「……」
 この時、二人の顔は互いに赤かったが、その事を知る者はいない。


[#ここから6字下げ]
やっと伏線が回収できました。
前回に続き、今回も強斎抜きのイチャイチャリア充でした。
鈴の場合、大地とじゃなく強斎とイチャイチャさせろって声がきそうですね。
そろそろ、現時点での主な登場人物のステータスと、その主な武器防具のステータスを公開しようと思います。
さて、大量の武器防具の名前を考えるか……。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]52話 『コウチャ』っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
段々とタイトルが適当になっていってる気が……
[#ここで字下げ終わり]




「ここが、シッカ王国……」
 勇志はシッカ王国の城下町の前でそう呟いた。
「やはり大きいですね……城下町とはいえ、これほど大きいとは……」
 勇志の隣にいるヴェレスは、勇志の呟きに答えるように呟く。
「それにしても……」
 勇志は自分の背後にある森を見た。
「さっきこの森を一通り見たけど、もう森とは言えなくなってたね。木々に囲まれた草原だった」
「二ヶ月前に魔族が暴れたって噂です。もしかしたら、その魔族というのは――」
「仮面の魔族……か」
 勇志の答えにヴェレスは小さく頷く。
「その確率が高いでしょう。こうしてはいられません。早くショクオウに接触しましょう」
「そうだね」
 こうして、勇志とヴェレスの[#傍点]二人[#傍点終わり]はシッカ王国城下町の門に向かった。


    *


「皆、ちょっと聞いて」
 勇志とヴェレスを抜いた勇者一行は食卓に集まっていた。
 そして、集まったところで鈴の声がかかったのだ。
「鈴、どうしたの?」
 いつもと少し違う鈴の雰囲気に、澪が少し心配する。
「今から大事な話をするわ」
「それだったら、勇志達がいた方が……」
 澪の発言に鈴はゆっくりと首を振る。
「勇志は別にいいけど、ヴェレスには聞かれたくないから」
「ヴェレスに?」
「ええ」
 鈴は澪の問に答えて、数秒目を瞑る。
 そして、目を開けゆっくりと口を開いた。


「――――戦争についてよ」


『[#縦中横]!![#縦中横終わり]』
 その言葉を聞いた瞬間、全員息を詰まらせた。
「簡単に説明すると、私達ドレット王国はライズ王国と同盟を組んだ。そして、それを良く思っていないメシア王国とフェリス王国が同盟に近いものを組み……」
「ドレット王国とライズ王国を潰す……ってこと?」
 澪の答えに鈴は深く頷いた。
「ええ、そうよ。でも……」
「でも?」
「ドレット王国とライズ王国を潰す意味がわからないのよ……それを今から皆に――――」
「「シッカ王国だな(だね)」」
 鈴が皆に考えてほしいと言い切る前に、澪と大地は同時に言った。
 同時に言われた鈴がキョトンとしていると、大地が澪に話しかけた。
「澪もそう考えたか……。戦術は俺の得意分野のはずなんだがな」
「こんなの戦術でもなんでもないよ。普通に思いつくしね」
「で、どうしてこの考えに至った?」
「大地も一緒でしょ?」
「過程が違うかもしれん」
 すると、澪は小さく苦笑いをして説明を始める。
「先に結論だけ言っておくね。結論はシッカ王国を手に入れて人間界最強の王国になること。シッカ王国を狙う理由はこの五大王国の中で一番強いからね。でも、一番強いって言っても流石に二つの王国を相手にするのは厳しい。だから、メシア王国とフェリス王国は手を組んでいるのよ。そして、こっちに戦争仕掛ける理由は、邪魔されるかもしれないドレット王国とライズ王国を先に潰しておけば、シッカ王国との戦争は比較的安全に勝利できるから」
 澪が一通り言うと、皆頷いた。
 大地も頷いたので、同じ考えだったのだろう。
 しかし、大地は澪に質問した。
「そこまでわかっているなら、欠点の方もわかってんだろ?」
 澪はしっかりと頷く。
「欠点?」
 鈴の質問にも頷き、澪は再び口を開いた。
「こっちの戦力を甘く見すぎているの」
「どうしてそう思うの?」
「簡単よ、ドレット王国とライズ王国は魔術に優れている。でも、人口が圧倒的に少ない。それに比べ、メシア王国とフェリス王国は人口数一位と三位で、三位のメシア王国は武器防具の技術がかなり優れている。ドレット王国に戦争仕掛けるとしたら、数で押し切ろうって考えが丸見えよ。……それに」
 澪は一通り言い終え、一息ついてから言葉を続けた。
「私たちの存在を知らない。これが一番大きいわね」
 ちらりと澪は鈴を見る。
 鈴はその目線の意図に気付くが、少し迷っていたので大地を見る。
 大地も頷き、そのまま無言だったので鈴は盛大にため息をした。
「……いっつもこういう役割なんだよね……」
 鈴はそう小さく呟いて、全員を見渡す。
 そして――――。
「皆、この戦争……始まる前に終わらせるわよ」
 鈴の言葉に、皆揃って頷いた。


    *


「……ショクオウさんってこの国で有名人ですね」
 ヴェレスはそう勇志に問いかけた。
「そうだね。でも、もうこの国にはいないみたいだね」
「で、行き先を知っていると思わしき人物が……」
 ヴェレスは目の前の建物を見上げる。
 そして、言葉を続けた。
「ここのギルドマスター……ですか」
「そうみたい。……とりあえず中に入ろうか」
 ヴェレスが頷いたのを確認し、勇志はゆっくりと扉を開ける。


 建物の中は騒がしかったが、これといった野蛮な輩はいなかった。
「賑やか……ですね」
「賑やかというより……騒がしい。かな?」
 そんなやり取りをしながら奥に進むヴェレスと勇志。
 しかし――――――。


「ユウシさん、どうやってギルドマスターに接触しましょうか?」
「うん、僕もそれを訊こうと思ってた」
 そう、二人はそのことについて悩んでいた。
 すると、勇志の肩に人がぶつかった。
「あ、ごめん」
 勇志は咄嗟に謝った。
「いや、こちらこそ前を見てなかった。すまない」
 ぶつかった方も素直に謝る。
 勇志にぶつかった人物は、中学生ぐらいの少年だった。
 勇志はその少年が去るのを待っていたが、その少年は勇志をじっと見て一向に去ろうとしない。
 不審に思った勇志はその少年に声をかけようと思ったが、その前に鼻で笑われた。
 そして……。
「お前、只者じゃないな?」
「[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 急にそんな事を言われた勇志は息を詰まらせる。
「まぁ、そんなに警戒するな。ここじゃ騒がしいだろ。場所を変えよう」
 そう言うと、少年は建物の扉へ向かった。
 ヴェレスは心配そうに勇志を見ていたが、勇志は優しく微笑み、建物の外へと足を運んだ。
…………
……
……
「よくついて来てくれたな」
「そりゃ、あんな事を言われたからね。話も聞きたくもなるよ」
 勇志達は喫茶店の様な店にいた。
 しかし、店の中は満員だったので外にある席に座る。
 |所謂《いわゆる》オープンテラスという所だ。
「二人共、『コウチャ』でいいか?」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「こ、コウチャ?」
 前者は勇志、後者はヴェレスで全く違う反応だった。
 少年はこの反応を疑問と捉えたようで、説明を始める。
「あー……まだそこまで広まってないか……。実はな、四ヶ月ほど前かな? とある人間が薬草を飲み物に使った事が事の発端らしい。未だに味は安定しないが、それでもかなりの人気だ」
 そう言って少年は『コウチャ』を三つ頼み、「まぁ、飲んでみろ」とだけ言った。


「ちょっといい?」
「ん? なんだ?」
 少年が『コウチャ』を頼んだ数瞬後、勇志が少年に向けて質問をした。
「その人の事、何か知ってる?」
「『コウチャ』の製作者の事か?」
 勇志は無言で頷く。
 しかし、少年は首を振った。
「すまない、俺は二ヶ月前にここに来たんだ。そいつに関しては知らないし、知る術もない。
「そうか……。ん? 知る術もないってどういう意味だい?」
「そのままの意味だ。何故かそいつの情報は隠蔽されていてな。誰が作ったとか当時の奴しか知らないし、そいつらも何故か話そうとしない。不思議なもんだろ?」
 少年がそこまで話したところで、『コウチャ』が運ばれてきた。
 少年は『コウチャ』をひと口だけ飲んだ。
 すると、少年は小さく鼻を鳴らし微笑む。
「今日は当たりっぽいな。まぁ、この人気を見た時からわかっていたが」
 そう呟いて、少年はもうひと口『コウチャ』を飲む。
 続いて、ヴェレスが少年の真似をしてカップに口を付けた。
「……おいしい」
 ヴェレスは数秒カップに入っている飲み物を凝視し、ぱあっと笑った。
「ユウシさん! これ、美味しいですよ! 飲んでみてください[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「あ、ああ」
 少年の方を見ると、温かい目で見られながら頷かれた。
 勇志はそっとカップに口をつけた。
(少し苦味もあるし、香りも不安定……だけど、これは間違いなく…………紅茶だ)
 そして、勇志はそっとカップを置く。
「ど、どうでした?」
 ヴェレスが恐る恐る訊く。
「ああ、美味しかったよ」
 勇志は笑顔でそう答えた。
「ですよね! 美味しかったですよね[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ヴェレスはそう言いながら更に『コウチャ』を飲む。
「こんな素晴らしいお飲み物を紹介してくださってありがとうございます。えっと……お名前を訊いてもよろしいでしょうか?」
 ヴェレスは恐る恐る少年に名前を訊いた。
「ああ、いいぜ。俺の名前はアルノ。まだ規模はかなり小さいが、とあるパーティーのリーダーをやっている」
「アルノさんですか。私はヴェレス、そしてこちらがユウシさんです」
 まだ普通の挨拶は慣れていないのだろう。
 ヴェレスは少しぎこちなく名前を紹介した。
「ヴェレスにユウシか……。聞いたことない名前だな」
 そう言ってアルノは勇志を見る。
 そんなアルノに勇志は質問をした。
「なぁ、アルノ君は――」
「アルノでいい」
「じゃあ、アルノは何故僕を只者じゃないと言ったんだ?」
 そう、勇志はこれを聞きにアルノについていったのだ。
 決して『コウチャ』を飲みに来たのではない。
 そんなアルノはニヤリと笑って勇志の質問に答えた。
「俺はな、解析持ちなんだよ」


[#ここから6字下げ]
ん? アルノの様子が……
四ヶ月前に『コウチャ』を広めた人間……?
イッタイダレナンダー(棒
前半部分であった戦略っぽいものは自分は苦手です。
どこかおかしいところがあったら遠慮なく書いていってください!
次回もお楽しみに!
あ、ひょんなことから新しい小説? を作ることになりました。投稿はしません。
いや、RPGツクールでちょっとしたゲームを作ることになりまして……
誰が面白い作品を作るかってなりまして……
それでカクカクシカジカ……
自分は恋愛系を作ろうと思ってます!
恋愛&一人称……
(´;ω;`)ブワッ
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]53話 馬鹿な少年の奢りっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
はい、お久しぶりです。
キリのいいところで終わらしてしまったため短いです
[#ここで字下げ終わり]




「解析持ち……?」
「そうだ」
 戸惑い気味の勇志の言葉に、アルノは小さく頷いた。
『ユウシさん、『解析』は『超解析』の劣化版です』
『あ、ああ』
 となりに座っているヴェレスが、勇志に耳打ちする。
 だが、勇志が戸惑っていたのは『解析』の意味がわからなかったことではない。
 そもそも、『解析』が『超解析』の劣化版だということは聞いてすぐわかったことなので、別に教えてもらう必要などなかった。
 では、なぜ勇志は戸惑い気味だったのか。
 それは――――――。
「ね、ねぇ。ちょっといいかな?」
「どうした?」
「どうして……。どうして、初対面の僕たちに自分のスキルを明かしたんだい?」
 そう、勇志が戸惑っていた理由はこれだ。
 全くの初対面のはずの人に自分のステータスを、一部とはいえ明かすのは少々おかしい。
 その事に戸惑っていたのだ。
 そして、アルノは小さく鼻を鳴らして答えた。
「俺はな……馬鹿なんだよ」
 アルノの目は勇志ではなく、どこか遠くを見ているような感じだ。
「俺がお前にスキルを明かしたのは、ある男に似ていたから。ただそれだけだ」
「似ていた?」
 勇志は少しだけ考えた。


 ――――自分のどこが似ているのか?


 しかし、これだけではあまりにも範囲が広すぎるので、勇志はアルノの言葉を待つ。
「ああ、なんていうかな……お前とぶつかった時、なぜかあの男が出てきたんだ。雰囲気……いや、匂い……かな?」
 匂いと言った瞬間ヴェレスの眉がピクリと動いたが、勇志はその事に気がつかずにアルノに訊く。
「……その男のこと、詳しく聞いてもいいかな?」
 勇志の目は真剣そのものだった。
 その真剣さがアルノには伝わっているのかどうかはわからないが、アルノは小さく笑って答えた。
「別にいいが……お前、冒険者ギルドに用があったんじゃないのか?」
 そう言われ、勇志とヴェレスは思わず「あっ」と声を出してしまう。
「そうだった……僕たちはギルドマスターに用があって……」
「あーギルマスは今は無理だぞ。俺もギルマスに用があったんだが、少し後にしてくれって追い返された」
「そ、そうだったの?」
「ああ」
 勇志とヴェレスは、互いに顔を見合わせて苦笑いした。
 そして、一息ついてから勇志は改めて訊く。
「じゃあ、その男の事聞かせて」
「んー、そうだな……」


 勇志はとある可能性を感じていた。
 勇志は地球にいた頃、とある事を言われたことがあった。


『勇志君と強斎君ってさ、何か似てるよねー」
『僕と強斎が?』
『うん、なんていうかな? 雰囲気? いや、匂い? そこがなんとなーくだけど似てる気がする』
『ふーん』


 そう、勇志が感じている可能性。それは――――――。




 ――――――――強斎が生きている可能性。




 勇志はアルノの話をしっかりと聞きながら可能性を探っていた。


 その男は奴隷を二人持っていて、その二人共女性だということ。
 アルノは自分に自信を持ちすぎていたために、その男のことを見下していたこと。
 そして、そのまま眠ってしまったこと。
 それから三ヶ月後、ここにたどり着いたこと。
 しかし、着いた瞬間その男の奴隷にボコボコにされたこと。
 その時服に刺さったナイフを見て、コツコツ頑張ると決めたこと。
 そのナイフはかなりの高レベル武器で、自分の適性ランク以上の魔物も倒せたこと。
 そして、そのままレベルアップをドンドンしていき仲間も増え、ここまでたどり着いたこと。


 そんな話をアルノは楽しそうに話していた。
 そんなアルノを見て、可能性を探っていた勇志は少しだけ罪悪感を感じた。
(これだけじゃわからないな……でも)
 この話だけでは、アルノのいう男が強斎だとは思えない。
 しかし、新たな可能性が出てきた。
 ヴェレスも気がついたようで、勇志の目をじっと見ている。
 勇志は軽く頷いた。
(恐らく、その男こそ『ショクオウ』なんだろう……。そして、『ショクオウ』に会えば全てがわかる気がする……)
 勇志は『ショクオウ』と接触することを心に決めたのであった。
…………
……
……
「っと、そろそろだな」
 話が一通り終わりお互い住んでいる王国の話をしていたとき、アルノは急にそう言って立ち上がった。
「そろそろギルマスにあってもいい頃合だろ、行ってこいよ」
「君も行くんじゃないのか?」
 アルノもギルマスに用があったはずなのだが、先に行ってこいと言うアルノに勇志は疑問を抱く。
 そんな勇志の質問にアルノは小さく鼻を鳴らして答えた。
「いくら俺が馬鹿だからといっても、イチャイチャカップルを長々と待たせる程落ちぶれていねぇよ」
 そう言われた二人は、ちょっぴり顔が赤かった。
 そんな二人を見て、アルノはニヤニヤしながら言葉を続ける。
「俺の用事はそんなに急ぐものでもないしな。ここは俺の奢りだからさっさと行け」
 そう言ってアルノは二人の背中を押す。
 二人はそんな力に逆らえないまま店を追い出された。
「適当な受付嬢にギルマスに用事があると言えば大体は通れるだろう。まぁ、通れなかったら俺の名前を出せ、わかったな?」
「……何から何まですまないね……アルノ」
「ふっ、……言ったろ? 俺は馬鹿なんだよ。まぁ、またいつか会うことになるだろう。そんときは奢ってくれよ? ……ユウシ」
「……本当に君は馬鹿だね。でも、僕はそういう馬鹿は嫌いじゃない」
「そうかい、褒め言葉として受け取っておくよ」
 そう言って、アルノは店に入っていった。
「……ありがとう」
 勇志もそう呟いて、ヴェレスと共にその場を去った。


「…………」
 アルノは勇志達が去ったのを確認し、席に座り直した。
 そして、ニヤリと笑いながら小さく呟いた。
「『コウチャ』ねぇ……」
 アルノは周りを見て「ふぅ……」と一息ついた。
(あいつの言う通り、こいつを飲ませたらかなり驚いていたな)
 目の前の紅茶に視線を落とし、考えを続ける。
(この店が繁盛しているのは、別にこいつがあるからってわけじゃない。そもそも、こいつはもうずっと前からこの国にある)
 アルノは紅茶を一気に飲みほす。
(流石にドレット王国にこいつがない事は驚いたが……まぁ、結果として上手くいったわけだ。四ヶ月前に広まったのはまた別のものなんだよな)
 そして、アルノは立ち上がり紅茶代を払う。
(さて、こっからはお前の仕事だぜ? ベルク)
 自分に指示を下した人物の無事を祈るアルノだった。

アルノ
LV38
HP 一七二/一七二
MP 一五〇/一五〇
STR 六三
DEX 五九
VIT 六〇
INT 五八
AGI 六一
MND 三八
LUK 二五
スキル
剣術LV3
短剣LV4
体術LV3
解析LV3
状態異常耐性LV2
水魔術LV2
自動HP回復速度上昇LV2
属性




[#ここから6字下げ]
アルノが知的? いえ、違います。
落ち着いただけです。
アルノが持っている武器は、ミーシャの使い捨て短剣です。
今回で勇者視点を終わらせるつもりでしたが……
ちょっと長くなるのでカットしました。
次はなるべく早く更新します!
次回もお楽しみに!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]54話 勇志VSベルクっぽい[#中見出し終わり]






「お前らか? 俺に用があるってのは」
 勇志達はアルノに言われた通り、受付嬢にギルドマスターに用があると伝えた。
 少し経つと二人は部屋に案内され、座っていた男にそう言われたのだ。
「実はお聞きしたいことがありまして――」
「却下だ」
 勇志の言葉を問答無用で却下した男にヴェレスは怒りを感じ、少々強い視線を送る。
 そして、口を開いた。
「少しぐらい耳を傾けてもいいと思いますが? ベルクさん」
 そんなヴェレスを見て、ベルクと呼ばれた男は小さく笑う。
「まさか、あのドレット王の次女からそんな言葉が聞けるとはな」
「っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 自分の身分を見破られたヴェレスは少しだけ動揺してしまった。
 そんな動揺を見て、ベルクは小さくため息をする。
「まさか、見破られないとでも思っていたのか? ヴェレス・ドレット」
「い、いえ……いつかは見破られる覚悟でした……変装もなにもしてませんし……」
「言い訳をしないあたり好感はもてる……が、これでわかっただろ?」
 何がとまで言わなくても、ヴェレスはわかっていた。
 しかし……。
「あなた方がドレット王国をよく思っていないのは承知しております……ですが、少しでいいですからお話を――」
「さっきも言ったが、却下だ」
「ど、どうして……」
「お前らドレットの名を持つ奴らは、大抵同じ話をしにくる。『ドレット側につかないか?』ってな」
 今度はベルクがヴェレスを睨んだ。
 スキルも何も使っていないのだが、少し睨まれただけでヴェレスは尻込みしてしまう。
 しかし、尻込みしたのも数秒で、ヴェレスは負けじと睨み返しながら口を開く。
「……確かに、ドレット家としてここに来たとしたらそうかもしれません……ですが」
 ヴェレスは少し溜めてから、意を決したように言った。
「私は、今はドレットの名を捨てております」
「ほう……」
 この意味がベルクにはわかったようだ。
「と、言うことは国としてではなく、個人的に来たということだな?」
「はい」
 そのことがわかった途端、ベルクから力が抜けるのがわかった。
「ひとまずは信じるとしよう。こちらが警戒しすぎていたようだ」
 そう言うと、今まで黙っていた勇志にベルクは話しかける。
「君は私の密偵に気がついたか?」
「……アルノ、ですね?」
「ほう、さすがはドレット王国の勇者だ」
 ヴェレスは二つの意味で驚いていた。
 一つはアルノがベルクの密偵だということ。
 もう一つは勇志が勇者だとバレていることだ。
 しかし、勇志は特に驚くことなくベルクに答える。
「少し考えればわかることです。この国に来て間もないという冒険者の名前を出しただけで、ギルドマスターに直接会えるなんて普通はありえませんから」
「では、俺がお前をドレット王国の勇者だと見破ったことに対しては?」
「それも大したことありません。だって、あなたはヴェレスがドレットの名を捨てたことを知っていたのですから」
「ゆ、ユウシさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり] それってどういう……」
 ヴェレスの慌てっぷりとは対照的に、勇志は落ち着いて答える。
「いくらなんでも簡単に信じすぎなんだよ。王族の血統が名字を捨てたなんて普通は信じるもんじゃない。それをこの人は簡単に鵜呑みにした……騙されやすい人だったらわかるけど、この人は冒険者のトップ……そんな事ありえないよ。そして、ヴェレスがドレットの名を捨てたことがわかっているなら、僕たちの存在を知っていてもおかしくない……そういうことさ」
 そこまで言ったところでベルクに問う。
「どうしてこんな真似したんですか?」
「本当に……流石だ」
「ですから、少し考えればわかると――」
「確かにお前も中々の名推理だが、俺が言っているのはお前じゃない」
「え……?」
「まぁ、お前には関係ないことだ。俺がこんな真似をしたのはとある奴に頼まれた。ただそれだけだ」
「頼まれた……? ギルドマスターであるあなたに? 一体誰が……」
「お前には関係ないと言っているだろう。で、なんの用だ?」
 今までは話終わる前に拒否してきたベルクだったが、今度は聞く耳をもっているようだった。


 ――――――内容を聞くまでは。


「えっと、実は『ショクオウ』と接触したいのです。ですから、『ショクオウ』の居場所を教えてもらいに来ました」
 勇志はベルクの返事を待っていたが、明らかに雰囲気が変わったので聞き返そうとする。
「えっと、ベルクさん?」
「……結局は王の命令か」
「え?」
 勇志に聞き取れない程小さく呟いたベルクは、すっと立ち上がって威圧気味に勇志を睨んだ。
「あいつの事を教えて欲しかったら、俺と手合わせをして勝ってみせろ」
「え? え?」
 何がなんだかわからない勇志は、ここで初めての焦りを見せた。
 そんな勇志を無視して、ベルクは話を続ける。
「今、調整中の訓練場がある。もう調整は終わっているがまだ開放していない。そこで俺と剣を交えろ」
「えっと、話が見えないのですが……」
「いいからついてこい」
 こうして、半ば強引に勇志達は誰もいない訓練場に連れて行かれた。
…………
……
……
「もう一度訊きます、戦う以外で『ショクオウ』を知ることはできないのですか?」
「愚問だな」
 ようやくスイッチの入った勇志は、あくまでも冷静にベルクを観察する。

ベルク・ローダン
LV276
HP 一六八五〇/一六八五〇
MP 一七三〇〇/一七三〇〇
STR 一四八六
DEX 一五〇一
VIT 一四七九
INT 一五八三
AGI 一四九五
MND 一五三二
LUK 八〇
スキル
剣術LV27
体術LV24
竜の威圧波動LV14
隠蔽LV12
状態異常耐性LV20
危機察知LV26
火属性LV18
土属性LV20
光属性LV15
HP自動回復速度上昇LV16
MP自動回復速度上昇LV12


属性
火・土・光



(ベルクさんのステータスはLUKを除いたら僕の一・五倍近く差がある……。普通に戦ったら僕の負けは確定かな……でも)
「わかりました、なんとしても勝ってみせます」
「せいぜい楽しませてみろ、ドレット王国勇者」
 勇志とベルクは戦闘体勢をとった。
 そんな様子をヴェレスは安全な場所から見ていた。
(ユウシさん……ベルクさんのステータスはユウシさんを上回っています。『限界突破』を使ったらステータスでは勝てますが……)
 ヴェレスはベルクを見て歯を食い縛る。
(悔しいですが、ベルクさんの実力は本物……。ステータスで勝っても勝負に勝てるとは限らないでしょう……)
 ヴェレスは祈ることしか出来ない自分に怒りを感じながら、この戦いを見届ける事を誓った。


「お前から来いよ」
 ベルクは勇志に初手の攻撃を許した。
 勇志も余裕がないので、それに甘えることにする。
「じゃあ行きますよ……『限界突破』[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 そう叫んでから一瞬でベルクの懐に潜り込み、切り上げる。
 ベルクはそれを軽く右に避けて、勇志を蹴り飛ばした。
「くっ……!」
 勇志は直ぐに態勢を立て直し、無詠唱で数個のかまいたちを作り攻撃を仕掛けた。
 続いて勇志もベルクに向かうが、かまいたちは全て弾かれ、いつの間にか現れた岩を高速でぶつけられた。
「ユウシさん!」
 ヴェレスは勇志を心配して声をかけるが、勇志は大丈夫だと言わんばかりに手を振る。
「『限界突破』をしてなければ今のでやられてましたよ」
「そうは言っているが、あまりダメージはなさそうだな」
「そんなことはない……ですっ!」
 勇志はまたベルクの懐に潜り込んで切り上げた。
「何度やっても同じだ」
 ベルクは先ほどと同じように右に避けて、勇志を蹴る。
 だが、勇志にその蹴りが当たることはなかった。
「なっ……」
「何度も同じことは繰り返しませんよ」
 勇志はベルクの背後にいたのだ。
 そのまま、勇志は剣を横に薙ぎ払う。


 どうして勇志が、何のためらいもなく人を斬ろうとしているかというと、理由はこの訓練場にあった。
 この訓練場で受けたダメージは外部の損傷ではなく、精神へ行く。
 痛みは受けるが、傷は全くつかないのだ。
 実はこのシステムを作ったのはつい最近……四ヶ月前にとある男が作ったのだ。


 ベルクは薙ぎ払われた剣を間一髪のところで自分の持っている剣で受け止めた。
 そして、その反動を利用し勇志から離れる。
「あの態勢からよく受け止められましたね」
「ああ、自分でも驚きだ」
 ベルクは小さく笑って、剣を構えなおす。
「やっぱり、お前は似ているよ……あの男……『ショクオウ』に」
「……そうですか」
「ああ、だから……俺も本気を出してやる」
 ベルクは威圧波動を勇志に向けて放つ。
 ステータスは勇志が勝っているが、それでも一瞬怯んでしまった。
「俺は魔術剣士だ。だから剣で戦う!」
 ベルクはそう言って、勇志の背後に回って薙ぎ払った。
…………
……
……
「はぁ……はぁ……くっ!」
 勇志は膝をついて息を切らせていた。
「ドレット王国の勇者ってのは、こんなに軟弱なのか?」
 ベルクはそんな勇志を見下ろしながらそう言った。
 勇志は歯を食いしばって、なんとか立ち上がる。
「いい加減諦めろ。お前は俺には勝てない」
「そんなの、最後まで闘わないとわからない……!」
 あくまでも反抗する勇志にベルクは小さく鼻を鳴らして答えた。
「既にわかりきっているはずだ。『限界突破』まで使ったんだろ? それでもこの差だ。お前は俺には勝てない」
「はぁ……はぁ……なら、もう一度『限界突破』を使うまでだ! 『限界突破』[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「本当に馬鹿な男だ。一日で二回使うのすら辛いはずの限界突破を一回の戦闘で二回使うとは……。何故、そこまでショクオウの事が知りたい」
『限界突破』を使ったことにより、落ち着きを取り戻した勇志は静かに口を開いた。
「なんでだろうね。具体的な理由は特にないかな」
「国王に命令されたから……とは言わないのだな」
 間違ってはいないので勇志は否定はしなかった。
「強いて言うなら、会わないといけない……そう僕の中で直感しているんだ」
 そう言って、勇志は剣を構える。
「直感……ねぇ。だが、やはり教えるわけにはいかないな。教えて欲しければ――――――」
「あなたを倒す事……だったよね? 覚悟してね、さっきのようにはいかないから」
「ふん、二回目の『限界突破』状態の奴がよく言うぜ」
 そうベルクが言った途端、勇志は動き出した。
 しかし……。
「遅いっ!」
 勇志が行動らしい行動をする前に、ベルクが勇志を斬る。
「くっ……! これでも……くらえ!」
 勇志は土魔術と風魔術で濃い土煙を出した。
「ふんっ、こんな目くらましで勝てるとでも思っているのか?」
 ベルクは集中をして、土煙から勇志が出てくるのを待つ。
 しかし――――。
(ん? 何故だ? 全く動いていないのか?)
 物体が土煙の中で動けば、土煙に何らかの変化がある。
 しかし、土煙はこれといった動きはなかった。
「こういう時、どうするか……僕は悩んでいたよ」
 すると、どこからか勇志の声がした。
 声の発生源をベルクは探る。
「僕のかつての友達だったらどうするか……そう考えていたら、とある事を言っていた事を思い出したよ」
「……そこか!」
 ベルクは声のする方に一直線に向かった。
 すると、土煙の向こうに勇志らしき人影が見えた。
 そして、その人影に向けてベルクは剣を振り下ろす。
 しかし、ベルクは物凄い力で弾き返されてしまった。


「――――|レベル《ステータス》を上げて|物理《ステータス》で殴れってね」


 勇志の手にはステータスを一・五倍にする剣が握られていた。
「な、なんだその剣は[#縦中横]!?[#縦中横終わり] どこから出した[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 流石のベルクも驚きを隠せなかった。
「ベルクさんには関係ない!」
 そう言って今までとは比にならない素早さと力で、ベルクを圧倒した。
…………
……
……
「……俺の負けだ」
 勇志があの剣を使ってからは一方的だった。
「ははは、僕もできればこの手段は使いたくなかったんだけどね……」
 そう言いながら倒れているベルクに手を差し伸べる。
「でも、約束は約束。『ショクオウ』の事を教えてもらうよ?」
 そんな事を言う勇志に苦笑いしたベルク。
 そして、勇志の手を借りて立ち上がった。
「わかったよ。あいつについて教えてやる……だが、とりあえずは、あの嬢ちゃんのとこに行ってやりな」
 そうベルクはヴェレスを顎で指す。
 今度は勇志が苦笑いをする番であった。


「ユウシさん!」
 勇志がヴェレスのそばに行くと、半泣きのヴェレスが勇志に抱きついてきた。
「心配かけたね」
 勇志はヴェレスの頭をそっと撫でる。
「……本当に心配しました。そして、なんの力にもならなくてすみません……」
 ヴェレスは勇志の服をギュッと握って悔しそうに言って、顔を上げた。
 だが、そんなヴェレスに勇志は微笑みながら否定する。
「そんなことないよ。ヴェレスの作ってくれたアイテムボックスがなかったら、あの剣は取り出せなかった」
 そう言って勇志は自分の左腰を軽く叩く。
 そこには小さな袋があり、それをヴェレスの時空魔術でアイテムボックスにしたのだ。
「そう言っていただけると……嬉しいです」
 そうニッコリと笑うヴェレスを勇志は直視出来なかった。


「さて、どっから話そうか……」
 勇志達は訓練場から出て、最初の部屋にいた。
 何を話そうか迷っているベルクに勇志から話し出す。
「別にプライベートまで話す必要はありません。『ショクオウ』の居場所さえ教えてもらえれば……」
「ぷらいべーとが何かはわからんが、あいつの居場所ははっきり言ってわからん」
「え……」
 そう言われた途端、勇志はあの激戦の走馬灯が見えた。
「だが、大体の予想はつくな」
「ほ、ホントですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 勇志は現実に戻ってきて、ヴェレスが答えた。
「ああ、ここから一番近い転移門はわかるか?」
 勇志とヴェレスは同時に頷いた。
「あいつはそっち方面に行くとか言っていた。だが、あいつのことだ。寄り道でもしてどっかの国で飯でも食ってるだろうよ」
 ベルクはそう言って笑い始めた。
 そんなベルクを見て、勇志は立ち上がる。
「ありがとうございます。僕たちが聞きたかった事はこれだけなので……とりあえず、転移門付近の村や町を探してみます」
「おう、すまんな。これだけのことしか言えなくて」
「いえ、いい経験になりました……」
 そう言って勇志はニッコリと笑う。
「ははっ、俺も久しぶりにマトモな人間に負けたよ」
「マトモじゃない人間がいるんですか?」
「ああ、自分は人間とか言っている怪物がな」
「是非あってみたいですね」
 勇志は『ショクオウ』を人間だと思っていないらしい。
「ふっ、その怪物こそ『ショクオウ』だよ」
「……まさか、『ショクオウ』って人間なんですか?」
「人間かどうかは会ってから判断するんだな」
「そうします……」
 そして、勇志たちはベルクにお礼を言い、部屋を出ようとする。
「あ、そうそう」
 だが、出る前にベルクに呼び止められた。
「実はな、『ショクオウ』ってのは本名じゃないんだ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、あいつの本名は――――――」


 勇志はその名を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立った。


 恐怖や悪寒などではない。


 悦びで鳥肌が立っているのだ。


 その名前は長いあいだ求めてきた人物……。


 今、最も再会したい人物……。


「そいつの本名は――――――キョウサイ・タカナシだ」


 死んだと思っていた、かつての親友だ。


[#ここから6字下げ]
ついに、強斎生存報告が勇者に知れ渡った!
これから、強斎の生存を知らされた勇者達はどうするのか……?
しかし! 勇者視点はここまで!
次回から主人公視点に戻ります!
次回もお楽しみに!
戦闘描写が難しかったです。
実はこれが初めてのマトモな戦闘だったりします。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]55話 強斎の勝手な考えっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
さて、久しぶりの主人公視点……
[#ここで字下げ終わり]




「な、なん……だと……?」
 強斎は唖然としていた。
 なぜかと言うと……。
「なんで……。なんで、この文字が読めたんだ?」
 そう、ゼロは強斎が持っている本……。


 ――――――日本語で書かれた本を読み上げたのだ。
 当の本人のゼロは、その日本語をじっと見続けていた。
「おい、ゼロ。一体どういう――――」
「わからないわ」
 強斎が答えないゼロにもう一度訊くが、言い切る前にゼロから答えが返ってきた。
 そして、ゼロは強斎から数歩離れ、本を持っていない方の手で頭に手を当てる。
「なんで……? どうして……? こんな字、見たことないのに……。なんで読めるの?」
「ゼロ……?」
「ごめん、主人……。少しの間一人で考えさせて」
 ゼロはそのままフラフラと本棚にもたれ掛かる。
 そんなゼロを強斎は無言で見守っていた。
 いや、ゼロの正体を考えていたと言ったほうが適切だろう。
 しかし……。
(ダメだ……情報が少なすぎる……)
 いくら考えても、ゼロと日本では接点がつかなかった。
(もしかしたらゼロが行った異世界ってのが日本なのかもしれんが……。それだったら、直ぐに思い出すはずだ。あいつはああ見えてかなり頭がいいからな)
 そう思ってゼロの様子を改めて見る強斎。
 その時、ちょうどゼロがため息をした。
「はぁ……ダメだわ。いくら考えても思い出せない。改めてこの字を見ても、全然読めないし……。無意識に読み上げるなんて本当にあるのね」
 そう言って苦笑い気味に本を強斎に返した。
「はい、これ。ごめんね、勝手にとっちゃって」
「別にいいが……」
「ああー……さっきの事は質問しないでくれると嬉しいんだけど……」
 強斎の表情から質問されると予測したであろうゼロは、強斎が質問する前に言った。
「……そうか」
「うん……本当にごめんね」
 強斎もゼロがこんなふうに弱々しく笑っているのを見るのは初めてなので、引き下がった。
「ところで、あいつらの調子はどうだ?」
 強斎の言う『あいつら』とは奴隷のことである。
「ああ、うん。そのことなんだけど――――」
「ゼロさん、魔界語の復習終わりました」
「あ、ルナ。お疲れさま」
 ゼロが言いかけたところで、ひょこっとルナが出てきた。
「ほう、ルナはもう覚えたのか……」
 この短時間で魔界語の復習が終わったルナを、強斎は素直に驚いていた。
「あ、いえ。私なんてまだまだですよ……。ミーシャさんとレイアさんなんて、もう次の精霊界語が終わりそうで……。最初はなんとか二人のスピードについていったのですが……」
「急に喧嘩になっちゃってねぇ……。まぁ、早く正確に覚えてくれることには越した事ないんだけどね」
 ゼロが苦笑い気味に付け加えた。
「まぁ、そういうことなので……。あ、でも今日中には全て終わりそうです!」
「そうか、頑張れよ」
 強斎は、生き生きとしているルナの頭を優しく撫でた。
「っ! はい!」
 そう言ってパタパタと去っていった。
 ルナが去ったのを確認した強斎は、ゼロの方に向き直った。
 だが、その時のゼロの雰囲気に強斎は違和感を感じた。
「どうした?」
 ゼロの頬が少し膨れていることから、ちょっとご機嫌斜めのようだ。
「別に」
 と、言っときながらも、何かを訴えるような目で強斎を見つめているゼロ。
 強斎はさっきのルナとのやり取りに原因があると考えた。
(あ……まさか……)
 強斎は無言でゼロに近寄り、ルナと同じように優しく頭を撫でた。
「えへへ~」
 すると、ゼロの機嫌は一気に元通りになり、気持ちよさそうにおとなしく撫でられている。
 そんなゼロの変わりように、強斎は微笑する。
「そう言えばゼロ」
「ん?」
 強斎はゼロを撫でるのをやめ、話をしようとする。
「あっ……」
 しかし、ゼロは名残惜しそうな顔で強斎の手を見ていた。
 だが、これ以上撫でていると話が進まないので、強斎は話を続ける。
「俺に用があったんじゃないのか?」
「あ、そうだった」
 ゼロはいつもの調子に戻って……いや、いつもより真剣な顔つきで強斎に質問する。
「ありえないとは思っているんだけど……。ルナに|戒《ギアス》を埋め込んだのって……主人?」
「いや、違うぞ」
 強斎はゼロの目をしっかりと見ながら答える。
 そんな強斎を見て、ゼロは脱力したように苦笑いをした。
「あはは、そんなにじっと見なくても、ちゃんと信用してるわよ。一応訊いてみただけ」
 そうは言っているが、ゼロは少なからず安堵していた。
「そう言えば、ゼロは|戒《ギアス》を消す事が出来るのか?」
「うん、出来るわよ」
「だったら、消してやってくれないか?」
「別にいいけど……。主人がルナの主人であるり続ける限り、|戒《ギアス》があろうとなかろうと関係ないわよ?」
「俺が嫌なんだよ……。|戒《ギアス》ってのはこの世界では相当な拷問なんだろ?」
「……ええ。|戒《ギアス》を埋め込まれるぐらいなら死んだほうがマシって思うのが大多数でしょうね」
 強斎は|戒《ギアス》についてほとんど知らない。
 だが、ミーシャやレイア、魔神であるゼロがここまで言うのだから、相当なものだと思っている。
「だからな、ルナをその呪縛から救ってやりたいんだ」
「……主人」
 ゼロはそっと強斎の頬に手を当てる。
「お、おい……」
 強斎は冷静のつもりだが、ゼロの悲しそうな瞳を見て内心少し焦っていた。
 そして、ゼロはゆっくりと口を開く。
「主人はさ、演技とか物凄く上手だけど……。目だけは騙せられないのよね」
「どういうことだ?」
「主人ってさ、いつか私たちを解放するつもりなんでしょ?」
「……」
「ほらね。やっぱり目だけは正直だ」
 そう言って、ゼロは強斎から離れた。
「ここ最近、若干私たちと距離を置いているのもそうなのね?」
「……」
 強斎は何も言えなかった。
 距離を置いていると言ってもほんの少し素っ気なく返事を返す程度だったが、それでもわかっていたらしい。
「主人は本当に優しい人……でもね、その優しさは時に人を絶望的なまでに傷つける……。その事を自覚して」
 ゼロは強斎の目を見ながら、しっかりとそう言った。
 強斎はその眼差しをしっかりと受け止めながら答えた。


「……あいつらはもう強い。そろそろ俺と言う鎖から抜け出す頃合だ」
「主人は鎖なんかじゃない」


「俺はもうこの世界には疎くない。だからあいつらが心配する要素なんてない」
「疎いとかそんなの関係ない。あの子達には主人が必要なの」


「あいつらは元々奴隷じゃない。奴隷生活は嫌に決まっている」
「主人の生活はそこら辺の貴族よりも裕福な生活よ」


「あいつらは……あいつらは――――」
「主人[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ゼロは強斎の手を取り、叫んだ。
「いい加減、本音を聞かせてよ……。主人は私たちと一緒に居たくないの?」
「居たいさ……。できれば、ずっとな」
「だったら、なんでそんな事を言うの? なんで私たちを幸せから離そうとするの?」
 ゼロは半泣きだった。
 そんなゼロを見て、強斎は心が痛くなる。
「[#傍点]嘘でも[#傍点終わり]そう言ってくれるのはありがたいな」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎がそう言った途端、ゼロの頬に一粒の涙が流れる。
「そんな……私は、嘘なんて――――」
「ゼロは嘘なんてついてませんよ」
 その時、物陰からミーシャが現れた。
「私たちは皆、心からキョウサイ様と共に居たいと思っています」
 暫くすると、ミーシャに続いてレイア、ルナも姿を現す。
 どうやらゼロの叫び声が気になって様子を見に来たようだ。
「私は初めて会った時言ったはずですよ? 一生ご主人様についていくと。私が奴隷でも……そうでなくても、一生付いていく覚悟です」
 レイアは笑顔でそう言った。
「私はまだ主様のことをよく知りません……。ですが、私は主様が大好きです。主様と離れるぐらいなら、|戒《ギアス》なんてずっと埋め込まれたままでいい程に」
 恐らくルナはさっきの話を聞いていたのだろう。
 その証拠に、ルナの服の胸のあたりはシワになっていた。
 ルナが言い終わると、ゼロは掴んでいた手を更に強く握って口を開いた。
「これでわかってくれた……? 私たちには主人が必要なの……。だから、別れを考えるのはもっと先でもいいんじゃない?」
 強斎は数秒呆気にとられていた。
 しかし、直ぐに我を取り戻す。
「ゼロが結論を急ぐなんて珍しいな」
「私だって、主人と離れるのは嫌だもん」
 ゼロだけではなく、ミーシャやレイア、ルナまでもがしっかりと頷いた。
 そんな様子を見て、強斎は小さく鼻を鳴らす。
「結論を急いでいたのは俺のようだな……」
「じゃあ……!」
 ゼロがキラキラとした目で強斎を見つめる。
 強斎は思わず微笑してしまい、そのまま言葉を続ける。
「ああ、これから暫く俺の下にい続けてもらうぞ?」
『はい!』
 ここが図書館だということも忘れて、眷属たちは大声で答えた。
 更に親密になったのは言うまでもないだろう。


[#ここから6字下げ]
違和感なく話の内容を変えるってのに挑戦してみたんですが……
どうでしたか?
それと、今日でこの小説が半年続いたことになりました!
皆様、本当にありがとうございます!
これからも頑張りますね!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]設定一覧っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
閑話は唐突にやってくる……!
この設定を書くに物凄く時間かかりました。
特に武器防具の名前と詳細ですね、はい。
飛ばしてもいいですよ~
[#ここで字下げ終わり]




『レア度』
 Nノーマル、HNハイノーマル、Rレア、HRハイレア、SRスーパーレア、URウルトラレア、SCRシークレットレア、LGRレジェンドレア、ULGRアルティメットレジェンドレア
『金銭単位』
 日本円で約一〇〇円=銅貨一枚
 銅貨一〇〇枚=銀貨一枚(日本円一万円)
 銀貨一〇〇枚=金貨一枚(日本円百万円)
 金貨一〇〇枚=白金貨一枚(日本円一億円)
 白金貨一〇〇枚=黒金貨一枚(日本円百億円)


『魔術階級』
 初級、下級、中級、上級、特級、精霊級、王級、帝級、神級。
『ステータス詳細』
 HP 対象の体力。〇になると死亡、もしくは消えてしまう。
 MP 魔術を使うために必要な数値。魔術に必要な数値以下になると、その魔術は使えない。
 STR 力を意味する。
 DEX 主に、命中率を上げる、加減が容易になる。その他には器用になる等。
 VIT 防御力を意味する。
 INT 魔術の攻撃力、回復量が上がる。
 AGI 素早さを意味する。足の速さが上がるだけでなく、思考回路も早くなる。
 MND 魔術の燃費が良くなり、魔術に対して耐性が大きくなる。
 LUK 運を意味する。
『異世界人のLUKの見え方』
 〇~一〇 LUK不運
 一一~五〇 LUK普通
 五一~ LUK幸運
『実際の運の基準』
 〇~五 超不運。半端なく運が悪い。まともな人生を過ごせないレベル。
 六~一〇 不運。運が悪い。五回に四回ジャンケンに負ける程度。
 一一~二五 普通。一般的なレベル。
 二六~五〇 微運。運が向いてきたかな? ってレベル。アイスで五本に一本はアタリがでる程度。
 五一~七五 幸運。嫉妬されるレベル。二属性以上持ちが多くなってくる。
 七六~一〇〇 激運。半端なく運が良い。努力では超えられない壁がある。
 一〇一~一五〇 超激運。運が良いじゃ済まないレベル。何となく宝くじをして、一等を当てるレベル。
 二〇〇 神運。もう、神じゃないか? ってレベル。運だけで億万長者も楽勝。
 三〇〇 \(^o^)/。運だけで世界征服もラックラク。
『ステータス』
 #
 平均的な一般人
 LV 五前後
 HP 八〇~一〇〇/八〇~一〇〇
 MP 八〇~一〇〇/八〇~一〇〇
 STR 一三~一七
 DEX 一三~一七
 VIT 一三~一七
 INT 一三~一七
 AGI 一三~一七
 MND 一三~一七
 LUK 一一~二五
 スキル
 二~四個
 属性
 〇~一個
 #
 #
 ドレット王国の騎士団長
 LV 八二
 HP 一九六一/一九六一
 MP 一五五七/一五五七
 STR 一四八
 DEX 一五二
 VIT 一二六
 INT 一三三
 AGI 一三二
 MND 一四三
 LUK 三〇
 スキル
 剣術LV11
 体術LV8
 威圧LV7
 状態異常耐性LV7
 火属性LV5
 風属性LV6
 HP自動回復速度上昇LV6
 MP自動回復速度上昇LV5
 アイテムボックス
 属性
 火・風
 #
 アルノ
 LV38
 HP 一七二/一七二
 MP 一五〇/一五〇
 STR 六三
 DEX 五九
 VIT 六〇
 INT 五八
 AGI 六一
 MND 三八
 LUK 二五
 スキル
 剣術LV3
 短剣LV4
 体術LV3
 解析LV3
 状態異常耐性LV2
 水魔術LV2
 HP自動回復速度上昇LV2
 属性
 水
 #
 #
 ベルク・ローダン
 LV276
 HP 一六八五〇/一六八五〇
 MP 一七三〇〇/一七三〇〇
 STR 一四八六
 DEX 一五〇一
 VIT 一四七九
 INT 一五八三
 AGI 一四九五
 MND 一五三二
 LUK 八〇
 スキル
 剣術LV27
 体術LV24
 竜の威圧波動LV14
 隠蔽LV12
 状態異常耐性LV20
 危機察知LV26
 火属性LV18
 土属性LV20
 光属性LV15
 HP自動回復速度上昇LV16
 MP自動回復速度上昇LV12


 属性
 火・土・光
 #
 キャルビス
 LV8000
 HP 一三五四〇八/一三五四〇八
 MP 八六八八一/八六八八一
 STR 一二〇〇三
 DEX 九七二一
 VIT 九九八二
 INT 一〇〇一一
 AGI 九五五三
 MND 八八〇六
 LUK 一二〇
 スキル
 剣術LV43
 体術LV50
 調教LV43
 状態異常耐性LV35
 火属性LV40
 水属性LV30
 風属性LV30
 闇属性LV48
 HP自動回復速度上昇LV43
 MP自動回復速度上昇LV37
 限界突破
 隠蔽LV30
 魔王の威圧波動LV20


 属性
 火・水・風・闇
 魔族の王(???)
 #


 #
 ユウシ・スズキ
 LV91
 HP 一二五〇〇/一二五〇〇
 MP 一一六〇〇/一一六〇〇
 STR 一〇九八
 DEX 一一〇六
 VIT 一一一三
 INT 一〇一七
 AGI 一一九五
 MND 一一〇二
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 聖騎士Ⅱ
 作法LV11
 剣術LV25
 威圧LV16
 状態異常耐性LV15
 火属性LV20
 水属性LV22
 土属性LV21
 風属性LV20
 光属性LV24
 闇属性LV19
 HP自動回復速度上昇LV18
 MP自動回復速度上昇LV18
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 ダイチ・タカミ
 LV89
 HP 一四三六〇/一四三六〇
 MP 八九一〇/八九一〇
 STR 一三〇五
 DEX 八八九
 VIT 一二一三
 INT 八一四
 AGI 八二一
 MND 八七五
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV10
 盾LV22
 大盾LV24
 大槌LV26
 剣術LV18
 刀LV11
 威圧LV17
 状態異常耐性LV20
 気配察知LV18
 火属性LV18
 土属性LV21
 光属性LV17
 HP自動回復速度上昇LV24
 属性
 火・土・光
 #
 #
 リン・ハネダ
 LV87
 HP 八〇一〇/八〇一〇
 MP 一二九七〇/一二九七〇
 STR 六九二
 DEX 一三〇一
 VIT 八〇三
 INT 一三一九
 AGI 八二八
 MND 一四二五
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV14
 体術LV18
 威圧LV16
 状態異常耐性LV16
 火属性LV27
 水属性LV24
 光属性LV25
 闇属性LV23
 MP自動回復速度上昇LV22
 魔術攻撃力上昇LV20
 属性
 火・水・光・闇
 #
 #
 ミオ・トウヤ
 LV85
 HP 九千/九千
 MP 七六三〇/七六三〇
 STR 六五五
 DEX 八七六
 VIT 七三二
 INT 一六一二
 AGI 八八六
 MND 一一八四
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 体術LV9
 回復特化
 付属魔術
 威圧LV12
 料理LV33
 作法LV19
 僧侶Lv28
 ヒール・ハイヒール・エリアヒール・ヒールライト・リジェネ・光の刃・解呪・状態異常回復
 状態異常耐性LV18
 HP自動回復速度上昇LV17
 MP自動回復速度上昇LV21
 属性
 回復特化(ユニーク)
 付属魔術(ユニーク)
 #
 #
 ヒナギ・マツマエ
 LV78
 HP 五〇二二/五〇二二
 MP 五九四〇/五九四〇
 STR 四二九
 DEX 四八〇
 VIT 四八七
 INT 五九三
 AGI 五〇五
 MND 五四二
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV15
 体術LV12
 状態異常耐性LV11
 火属性LV10
 風属性LV10
 光属性LV12
 MP自動回復速度上昇LV10
 属性
 火・風・光
 #
 #
 コトネ・ホウライ
 LV74
 HP 四一五六/四一五六
 MP 六六〇四/六六〇四
 STR 三九九
 DEX 四二一
 VIT 四五二
 INT 五五九
 AGI 三三〇
 MND 五八九
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 料理LV15
 状態異常耐性LV9
 水属性LV11
 光属性LV11
 HP自動回復速度上昇LV10
 MP自動回復速度上昇LV10
 属性
 水・光
 #
 #
 シキ・ホカリ
 LV74
 HP 五四二六/五四二六
 MP 三〇九五/三〇九五
 STR 五四二
 DEX 三七八
 VIT 五三三
 INT 三八六
 AGI 三七九
 MND 四九九
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 体術LV10
 剣術LV13
 大槌LV10
 盾LV9
 状態異常耐性LV11
 土属性LV12
 風属性LV11
 HP自動回復速度上昇LV10
 属性
 土・風
 #
 #
 ジン・ササキ
 LV76
 HP 五〇九六/四〇九六
 MP 四七七三/四七七三
 STR 四一三
 DEX 四一一
 VIT 四三〇
 INT 四三九
 AGI 五四四
 MND 六二三
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV17
 刀LV15
 状態異常耐性LV11
 風属性LV8
 闇属性LV12
 隠蔽LV16
 HP自動回復速度上昇LV9
 MP自動回復速度上昇LV9
 限界突破
 属性
 風・闇
 #
 #
 ヴェレス・ドレット
 LV 七四
 HP 三八九九/三八九九
 MP 五一二五/五一二五
 STR 二六七
 DEX 四三〇
 VIT 三一二
 INT 五〇一
 AGI 三八〇
 MND 四九九
 LUK 五〇
 スキル
 超解析
 作法LV21
 解読LV13
 剣術LV11
 体術LV9
 料理LV13
 威圧LV7
 状態異常耐性LV7
 時空術LV15
 アイテムボックス
 属性
 時空魔術(ユニーク)
 #
 #
 ミーシャ
 LV80
 HP 一二〇〇〇六二六/一二〇〇〇六二六
 MP 一二〇〇〇三八九/一二〇〇〇三八九
 STR 九〇〇二一二
 DEX 一〇〇〇二四五
 VIT 九〇〇一五一
 INT 九〇〇一四八
 AGI 一二〇〇二六九
 MND 九〇〇一四三
 LUK 二〇
 スキル
 体術LV85
 剣術LV82
 短剣LV93
 投擲LV90
 弓術LV78
 料理LV26
 威圧LV89
 隠蔽LV67
 解析LV45
 空間把握LV61
 危機察知LV58
 状態異常耐性LV83
 火属性LV90
 水属性LV88
 土属性LV96
 風属性LV94
 光属性LV84
 闇属性LV90
 HP自動回復速度上昇LV78
 MP自動回復速度上昇LV78
 超隠蔽
 アイテムボックス
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 レイア・アンジェリーク
 LV80
 HP 一五〇〇二一〇九/一五〇〇二一〇九
 MP 一〇〇〇〇三一五/一〇〇〇〇三一五
 STR 一七〇三六七〇
 DEX 九〇〇一四九
 VIT 九〇〇二一〇
 INT 九〇〇一〇二
 AGI 一〇〇〇七一四
 MND 九〇〇二〇〇
 LUK 三〇
 スキル
 攻撃力異上昇
 剣術LV90
 大鎚術LV95
 体術LV94
 弓術LV72
 料理LV17
 威圧LV90
 隠蔽LV69
 解析LV43
 空間把握LV62
 危機察知LV68
 状態異常耐性LV84
 火属性LV91
 水属性LV89
 土属性LV92
 風属性LV88
 闇属性LV88
 光属性LV84
 HP自動回復速度上昇LV78
 MP自動回復速度上昇LV73
 限界突破
 超隠蔽
 アイテムボックス
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 完全攻撃型(ユニーク)
 #
 #
 ルナ
 配下数二六九
 LV71
 HP 八〇〇〇五〇九/八〇〇〇五〇九
 MP 一八〇〇二四四三/一八〇〇二四四三
 STR 七〇〇一四四
 DEX 七〇〇一六二
 VIT 七〇〇二〇五
 INT 七〇〇二二二
 AGI 七〇〇一六一
 MND 七〇〇二四四
 LUK 四〇
 スキル
 体術LV80
 棒術LV81
 剣術LV78
 弓術LV82
 料理LV21
 調教LV88
 威圧LV84
 隠蔽LV68
 解析LV42
 空間把握LV55
 危機察知LV56
 状態異常耐性LV86
 火属性LV85
 水属性LV88
 土属性LV85
 風属性LV84
 光属性LV80
 闇属性LV88
 HP回復速度上昇LV80
 MP回復速度上昇LV84
 超隠蔽
 アイテムボックス
 魔物召喚
 意思疎通
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 召喚魔術(ユニーク)
 #
 #
 ゼロ・ヴァニタス
 LV35000000
 HP 4・32991E+三四/4・32991E+三四
 MP 7・10526E+三六/7・10526E+三六
 STR 5・46208E+三〇
 DEX 4・94052E+三〇
 VIT 5・57430E+三〇
 INT 2・78821E+三二
 AGI 5・10284E+三〇
 MND 3・72448E+三一
 LUK 一五〇
 スキル
 剣術LV85
 棒術LV85
 弓術LV85
 料理LV36
 調教LV99
 隠蔽LV70
 解析LV60
 空間把握LV90
 危機察知LV90
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 火属性LV95
 水属性LV95
 土属性LV95
 風属性LV95
 光属性LV95
 闇属性LV95
 虚無属性LV99
 HP自動回復速度上昇LV97
 MP自動回復速度上昇LV97
 魔術攻撃力増加LV99
 魔術防御力増加LV99
 物理攻撃力増加LV99
 物理防御力増加LV99
 回復系統魔術Ⅸ
 限界突破
 超越者
 覇者
 超隠蔽
 精霊の威圧波動Ⅳ
 アイテムボックス
 属性
 火・水・土・風・光・闇・虚無(|全属性《オールアトリビュート》)
 神の|回復魔術《SPユニーク》
 虚無の精霊王(???)
 世界を破壊する者(???)
 #
 #


 キョウサイ・タカナシ
 配下数九九九九九+
 LV193
 HP 4・39397E+六〇/4・39397E+六〇(−三千五百万)
 MP 1・82035E+六一/1・82035E+六一(−四千万)
 STR 5・02168E+五九(−三百三十万)
 DEX 5・64939E+五九(−二百六十万)
 VIT 4・39397E+五九(−二百五十万)
 INT 5・64939E+五九(−二百五十万)
 AGI 5・02168E+五九(−二百九十万)
 MND 3・70349E+六〇(−二百五十万)
 LUK 五〇〇


 スキル
 言葉理解
 超解析Ⅳ
 剣術LV99
 刀術LV99
 二刀流LV99
 細剣術LV99
 投擲LV98
 大槌術LV90
 棒術LV90
 体術LV99
 槍術LV99
 弓術LV84
 盾LV99
 大盾LV99
 調教LV99
 解析LV34
 空間把握LV99
 危機察知LV99
 料理LV95
 潜水LV99
 吸血LV50
 薬剤生成LV48
 武器生成LV54
 生活魔術
 灼熱の息
 極寒の息
 落雷操作
 天変地異の発動
 無双
 魔物召喚
 意思疎通
 死霊指揮
 火属性LV99
 水属性LV99
 土属性LV99
 風属性LV99
 闇属性LV99
 光属性LV99
 虚無属性LV99
 HP回復速度上昇LV99
 MP回復速度上昇LV99
 アイテムボックス
 超隠蔽Ⅱ
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 全てを超越した威圧
 限界突破
 超越者
 覇者
 聖騎士
 万能騎士
 竜殺し
 神殺し
 スキル強奪
 レベルアップ時ステータス倍
 眷属ステータス分配
 眷属スキル分配Ⅱ
 必要経験値一/一〇〇
 属性
 火・水・土・風・闇・光・虚無(|全属性《オールアトリビュート》)
 |想像魔術《SPユニーク》
 竜の王(ユニーク)
 召喚魔術(ユニーク)
 死霊魔術(ユニーク)
 竜の上に立つ存在(???)
 世界を破壊する者(???)
 神を超えた者(???)
 神を殺した者(???)
 最強の宿命(???)
 #


『メインキャラクターの称号&武器防具』
 勇者PT
 鈴木勇志
 称号 異世界からの勇者
 主武器 剣
『ヴォールソード SCR光属性付属HP・MP1000上昇HP・MP・LUKを除くステータス四〇〇上昇』
『??? LGR
 STR2000以上で装備可能
 全属性付属
 LUK以外の自全ステータス一・五倍
 MP消費超絶減少
 魔術効果範囲超拡大
 魔術威力超上昇
 自動HP回復速度超上昇
 自動MP回復速度超上昇
 不死属性殺傷可能』
 防具
『覇者のマント UR魔術耐性微上昇回復効果上昇自動HP回復速度上昇自動MP回復速度上昇』


 鷹見大地
 称号 異世界からの勇者
 主武器 メイス
『グランドクロス UR火属性付属風属性付属HP600上昇STR500上昇VIT400上昇』
 防具
『エッジコート SR物理耐性上昇魔術耐性上昇AGI200上昇』
 羽田鈴
 称号 異世界からの勇者
 主武器 杖
『ギガファクト URMP800上昇INT・MND300上昇魔術攻撃力上昇詠唱短縮』
 防具
『エレメンタルフィール UR魔術耐性上昇HP・MP500上昇INT・MND300上昇』
 洞爺澪
 称号 異世界からの勇者
 主武器 杖
『リープライフ UR補助魔術効果大上昇MP500上昇INT・MND200上昇』
 防具
『ブーフケーニギン UR魔術耐性上昇補助魔術効果微上昇MP400上昇INT300上昇MND200上昇』
 松前緋凪
 称号 異世界からの転移者
 主武器 剣
『デーゲンムーン SR闇属性付属HP300上昇STR200上昇』
 防具
『リュトムスリート SR魔術耐性上昇STR150上昇VIT200上昇』
 蓬莱琴音
 称号 異世界からの転移者
 主武器 杖
『ライフリント SR水属性付属魔術攻撃力上昇INT・MND200上昇』
 防具
『レーゲンローブ SR魔術耐性上昇物理耐性上昇水属性攻撃力上昇』
 帆刈信喜
 称号 異世界からの転移者
 主武器 剣
『オクセシュヴァート SR物理攻撃力上昇土属性付属HP200上昇STR100上昇』
 防具
『リーゼ SR物理耐性大上昇魔術耐性上昇』
 佐々木仁
 称号 異世界からの転移者
 主武器 刀
『アーベントベーテン SR闇属性付属STR300上昇AGI350上昇』
 防具
『ヒンメルヴェント SR魔術耐性上昇風属性付属AGI400上昇』
 ヴェレス・ドレット
 称号 王女の名を捨てた召喚者
 主武器 杖
『フェイトフィール UR補助魔術効果上昇消費MP減少効果範囲拡大』
 防具
『ヒールクリーレン UR魔術耐性自動HP回復速度大上昇補助魔術効果上昇MP400上昇』
 強斎PT
 ミーシャ
 称号 流星の銀狼
 主武器 短剣
『アオスシュテルベン ULGR
 全属性付属
 HP・MP15000上昇
 HP・MP・LUK以外のステータス六千上昇
 MP消費超絶減少
 魔術攻撃力超絶上昇
 魔術効果範囲超絶拡大
 自動HP回復速度超絶上昇
 自動MP回復速度超絶上昇
 不死属性殺傷可能』
 防具
『リュムトスフルムーン ULGR
 魔術耐性超絶上昇
 物理耐性超絶上昇
 状態異常耐性超絶上昇
 VIT・AGI・MND10000上昇
 魔術攻撃力超絶上昇
 魔術効果範囲超絶拡大
 自動HP回復速度超絶上昇
 自動MP回復速度超絶上昇』
 レイア・アンジェリーク
 称号 破壊神の化金狐
 主武器 メイス
『フェアデルブ ULGR
 全属性付属
 HP40000上昇
 STR50000上昇
 魔術攻撃力超絶上昇
 魔術効果範囲超絶拡大
 自動HP回復速度超絶上昇
 自動MP回復速度超絶上昇
 不死属性殺傷可能』
 防具
『ポーラルリヒト ULGR
 魔術耐性超絶上昇
 物理耐性超絶上昇
 状態異常耐性超絶上昇
 LUKを除く全ステータス七千上昇
 魔術攻撃力超絶上昇
 魔術効果範囲超絶拡大
 自動HP回復速度超絶上昇
 自動MP回復速度超絶上昇』
 ルナ
 称号 最強の非戦闘種族
 主武器 杖
『ウンゲホイアー ULGR
 全属性付属
 HP・MP20000上昇
 HP・MP・LUK以外のステータス五千上昇
 MP消費超絶減少
 魔術攻撃力超絶上昇
 魔術効果範囲超絶拡大
 自動HP回復速度超絶上昇
 自動MP回復速度超絶上昇
 不死属性殺傷可能』
 防具
『プラオヴェヒター ULGR
 魔術耐性超絶上昇
 物理耐性超絶上昇
 状態異常耐性超絶上昇
 MP100000上昇
 魔術攻撃力超絶上昇
 魔術効果範囲超絶拡大
 自動HP回復速度超絶上昇
 自動MP回復速度超絶上昇』
 ゼロ・ヴァニタス
 称号 歴代最凶の魔神
 主武器 特になし
『なし』
 防具
『ダークプリンセス ULGR魔術耐性異常上昇魔術攻撃力異常上昇魔術効果範囲異常上昇』
 小鳥遊強斎
 称号 自称人間
 主武器 刀
『なし』
 防具
『ノワールアイギス ??? 魔力吸収VIT『測定不可能』上昇MND『測定不可能』上昇魔術耐性超異常上昇物理耐性超異常上昇』
『小鳥遊強斎のステータス計算方法』
 ステータス×二^(レベル−一)
『その他』
 属性持ちは人口の三割以下
 一日二四時間
 一週間は七日
 一ヶ月は三〇日
 一年は一二ヶ月の三六〇日
 曜日は火・水・土・風・光・闇・無
 日本で言う日曜日が無
 勇志、大地、鈴、澪、強斎は腕時計を持っている


[#ここから6字下げ]
とりあえず頑張りました。
称号はぱっと思いついたものです。
奴隷達に倍率系装備をつけていないのは故意です。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]56話 ショクオウが殺されたっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
はい、暫く更新できないとか言っときながら更新してしまいます。
言い訳は後書きにて!
さて、前回の設定集でステータスが公開されました。
勇者が弱いとの声があがったので、どれだけ勇者が強いか再度説明します。
今回も勇志君でいきます。
まず、走ったら音速レベルまでいきます。
右ストレート一発で約5・5tの圧力がかかります。
上空1000mから飛び降りても死にません。
どうです? 人間じゃないですよね?
そうです、勇志君はチートです。
では、ここで主人公の小鳥遊君の説明をしましょうか。
広島の原爆の威力(爆風含む)の数兆倍の威力のパンチを秒間一万発なんて朝飯前です。
光速で目の前を通り過ぎる場合、通り過ぎるまでに人間の寿命が軽く尽きるぐらいゆっくり見ることができます。
ハイパーノヴァクラスの爆発を間近で食らっても多分大丈夫です。
これが自称人間の力ですね!
[#ここで字下げ終わり]




「おい、少しお前に頼みたいことがある」
 眷属たちの勉強が終わり、そろそろ暇になった時、キャルビスから強斎はそう言われた。
「頼み事?」
「ああ。お前の言う通り上手くまとめようとした結果だが……」
「結果だが?」
 キャルビスは少し納得してないのか、顔をしかめて答えを言う。
「……魔神様の使者ということになった」
「……は?」
 強斎も何故そうなったのか考えていたが、魔界の事は皆無といっていいほど知らないので考えるのを諦めた。
「そんな顔で私を見るな……。私だって納得していないんだ。いくらお前が強いからといっても、私たちの神の使者にするなんて……。もし、魔神様が復活したらどう言い訳をすれば……」
 キャルビスは途中から独り言になっていた。
 そんな中、強斎は少し離れたところで本を読んでいるゼロを見た。
「……」
「お前も魔神様が復活したら殺されるだろうが……。すまない、これしか方法が……」
 少しキャルビスを見て、再度ゼロを見る。
 すると、ゼロと目が合ったので小さく手を振ってきた。
「……」
「やはりお前も魔神様は怖いか……そうだろうな。今封印されている魔神様は歴代でも強さが異常だったらしいからな」
 ゼロはレイアに何かを言ったらしく、顔を真っ赤にしたレイアに叩かれていた。
「……」
「六属性全ての精霊王を相手に優勢し、数体の神々を無力化……。更にそば付きにいた魔人は全員、今の魔界最強の魔王レベルだったという……」
 ゼロはヘラヘラと笑いながらレイアに謝っていた。
「……」
「お前、私の話を聞いているのか? さっきから自分の女ばかり見やがって……」
「あ、いや。すまない……。ちゃんと聞いてはいる」
「はぁ……。とりあえず、お前は魔神様の使者として魔界に現れた。そこでお前に特別階級を与えることになった」
「ああ」
「そこで、お前の強さを証明することになった」
「何故[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 話の飛躍に強斎は思わずそう聞き返してしまった。
「本当にお前が魔神様の使者なのかとか言ってくる輩が出てきたからな」
「ああ、なるほど」
 強斎がそう言うと、キャルビスの顔は少し険しかった。
「……どうした?」
「未だにお前の目的がわからなくてな……」
「目的か……」
「いや、違うな。お前の存在そのものがわからない」
「俺は人間だぞ?」
「私の最大火力魔術をまともに受けて、ものともしない人間がいてたまるか」
「そんな事言われてもな……」
「まぁいい。また後で迎えが来るだろう」
 キャルビスはそう言ってこの場を立ち去ろうとする。
 だが、立ち止まって少し重みのかかった言葉を発した。
「お前は確かに強い。だが、魔神様が復活しても絶対に刺激したりするな。直ぐに逃げろ。わかったな?」
 そう言ってキャルビスは今度こそ立ち去った。
 少しすると、強斎のところにゼロが寄ってくる。
「なんの話してたの?」
「俺がゼロの使者になって殺されるらしい」
「えっ、なんで?」
「さぁな」
「というか、主人を殺すって……無理でしょ。精霊王と神を目隠しして同時に相手するより、無防備の主人にかすり傷を付ける方が数万倍難易度が高いっていうのに……」
「……俺って人間だよな?」
「……」
「俺って人間だよな?」
「……」
(キャルビスよ。お前の怖がっている魔神様は話を濁すことが苦手らしい……)
 この後、強斎は一人|黄昏《たそがれ》ていた。
…………
……
……


「見ろ! 人がゴミのようだ!」
 強斎は目の前の光景を見て無意識にそう言っていた。
 眷属は誰もその意味を理解していなかったが、強斎からみればそれは事実なので特に指摘もしない。
 強斎は強斎で、テンションが変な方向に上がっている。
 現在強斎達がいる場所は魔国の中心部にある城の上階。
 そこに群がる魔人達を見下ろしていたのだ。
 ついでに、まだ強斎たちは部屋から出てない。
「とりあえずお前は仮面を付けろ。人間と間違えられる」
「いや、俺人間だから」
 そうキャルビスに言われながらも、自前の仮面を付ける強斎。
「これでいいか?」
「ああ……」
「? どうした?」
 キャルビスはどこかそわそわしていたので、強斎は疑問に思った。
「いや、もし力を証明しろとか言われたら、山一つ破壊するぐらいの勢いでやっていいぞ」
「お、おう?」
 キャルビスから感じる違和感はこのことではない気がした強斎だが、何も言わなかった。
「よし、とりあえず行くか」
 強斎はそう言って民衆の前に姿を現した。


「……ここに密偵がいるとは思えんがな」
 キャルビスは強斎の背中を見ながらそう呟いた。
…………
……
……
 強斎が姿を現すと、民衆は一層騒ぎ出す。
「お前らぁ! よく聞け[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 何故かノリノリの強斎は、風魔術で声を大きくしていた。
 そのこともあってか、大分静かになる。
「俺は魔神の使者……。『暗黒騎士』とでも呼べ」
 強斎はそういうのと同時に、自らの魔力をほんの少しだけ開放した。
 魔力を感じ取れる者に若干の冷汗が出てくる。
「俺はつい先日、この魔国と同盟を組んだ。なに、お前らの生活は変わらんさ。安心しろ」
 強斎の上から目線の言い様に、若干批判の声が聞こえる。
 その批判の中に、『ショクオウ』という言葉が聞こえたので、強斎はそれを使うことにした。
「お前たちは『ショクオウ』という存在を知っているか?」
 思ったより騒ぎ出したので、これは線ありと見る。
「実はな……。『ショクオウ』はもういないんだよ」
 強斎は仮面の下でニヤリと笑う。
「『ショクオウ』は……俺が殺した」
「おおぉ……」という声が所々聞こえる。
 その中でも「どうせ嘘だろ」とか聞こえたので、強斎はアイテムボックスから剣を取り出した。
「これが奴の持っていた剣だ。この中に武器を鑑定できるやつはいるか?」
 強斎がそう言うと、数十人が手を上げた。
 強斎はその中から適当な魔人を選んで、その魔人に向けて魔術で剣を渡した。
「鑑定してみろ」
 そう言われ、魔人は面倒そうに鑑定をする。
 だが、その顔はみるみる驚愕色に染まっていき……。
「『ショクオウ』の剣だ……」
 そう魔人が呟いた瞬間、歓声が少しあがる。
 強斎は今だと思い、再度口を開いた。
「その剣だけだと、本当に俺が殺したかどうかわかんないだろ? お前ら、しっかり見とけよ」
 そう言って強斎は遠くにある山を指さす。
 なんだなんだと全員がその山を見たのを確認し、強斎は魔術を使う。
「まともな攻撃魔術を使うのも久しぶりだな」
 そう呟いてから、強斎の手のひらに闇玉ができた。
 大きさで言うとソフトボール程だが……。
「ふっ!」
 強斎は指さした山目掛けて、その闇玉を投げた。
 そして――――――。


 ――――――キャルビスを含め、民衆達は皆唖然としていた。


 半径数キロメートルの巨大な円球が山一つ……その場にあった空間一つを飲み込んでいた。
 威力も申し分なく、そこにあった空間が塵も残らず消し去っていく。
 そして、巨大な円球は小さくならずにドンドン巨大化していった。
「最上位帝級魔術だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり] それを無詠唱で……」
 キャルビスは少しだけ誤解をしていた。
 確かにこの規模だったら最上位帝級魔術で済むが、強斎が使った魔術はその程度ではない。
 放っておいたらこの円球の半径は数十、数百キロメートルと拡大し、超災害になる程の規模なのだ。
「まだまだぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎はそう言って、腕を上げ……。
「おらぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 勢いよく振り下ろしたその瞬間……。


 巨大な闇玉を覆う超極太レーザーが闇玉の真上から放たれた。


「神級魔術まで……」
 キャルビスはもう苦笑いしか出なかった。
 眷属たちは呆れ半分に見ている。
「あの魔術、二つとも神級を軽く超えているわ」
 キャルビスが聞こえないところで、ゼロはそう呟いた。
「そうね……。流石キョウサイ様です」
「流石って……。もうちょっと驚いてもいいんじゃない?」
 ミーシャの当たり前の様な答えに、ゼロは苦笑いで答える。
「私はキョウサイ様を評価出来るだけの資格は持っていませんから」
「……資格? どういうこと?」
「ゼロには関係ないですよ。さぁ、キョウサイ様がお呼びです。行きましょうか」
「あ、うん。そうね」
 こうして、強斎は魔人から『暗黒騎士』と呼ばれるようになり、眷属たちもかなりの支持を得るようになった。
…………
……
……
「そう言えばキョウサイ様」
「どうした?」
「ショクオウ殺してしまったら、どうやってシッカ王国に戻る気ですか?」
「……ガタッ」
「口で『ガタッ』と言ってももう遅いですよ?」
「その辺は全然考えてなかった……」
「まぁ、大丈夫でしょう。人間にばれなければ」
「そうだな、こんな場所に人間なんていないもんな」
…………
……
……
 同時刻、魔国の外にてキャルビスの違和感の正体がいた。
「まさか冒険者最強の『ショクオウ』が殺されていたなんてな……。これはやばいぞ……」
 男はそう呟いて魔物から逃げるように転移門へ向かう。
「こちとら人間同士の戦争が始まるっていうのに……。今ここで『ショクオウ』が死んでしまったら……」
 男は歯を食いしばって最悪の事態を想像する。
「……今は考えないようにしよう。とにかく生きて人間界に戻り、この事実を伝える。それだけだ」
 男は更に足を速めて人間界に向かった。


[#ここから6字下げ]
さて、まさかの勢いで自分自身を殺してしまいましたね……
人間、テンションが上がると後先考えずに行動してしまうこともありますからね。
さて、ここから物語は動き始める……
戦争編開幕[#縦中横]!![#縦中横終わり]
戦争編の見所はミーシャ&レイアVS勇者一行! (の予定)
これからもお楽しみに!
えっと、前話で書き直すと書いたのですが……
すみません、本当に自分勝手ですが書き直しは中断します。
理由ですが、自分自身書いていて楽しくない……という本当に自分勝手な理由です。
本当にすみませんでした。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]57話 それぞれの不安っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
最近、書いていると一瞬で書き方を忘れる時が……
[#ここで字下げ終わり]




「今ならお前が魔神様と言われても信用できる気がするな」
 キャルビスは目の前の光景を見て、吐き捨てるように言った。
「安心しろ。俺は魔神なんかじゃない」
 強斎は頑として否定しているが。
「『人間だ』……と?」
「ああ」
「いい加減そういう冗談はやめてくれないか?」
 キャルビスは本気で強斎を人間だと思っていないらしい。
 そう……なぜなら――――。
「こんなでたらめなオリジナル魔術を使う生物がいるってだけで驚きなのによ……」


 ――――新たな小国を作ってしまったのだから。


…………
……
……


 時刻は数時間前を|遡《さかのぼ》る。
 強斎が自らの失言を後悔していた頃だ。
「おい貴様」
 キャルビスが無謀にも、椅子に座っている強斎の頭を鷲掴みにした。
 その時眷属たちがピクリと反応したが、強斎が視線で制した。
「どうした。俺は今やっちまった感が半端ないんだ。戦闘は極力やりたくないんだが」
「お前と一戦交えるなんてこっちから御免だ。私はそんな話をしに来たのではない」
「じゃあなんだよ」
「……やり過ぎだ」
「は?」
 鷲掴みから解放された強斎は、座ったまま頭だけ振り向く。
 すると、キャルビスはピクピクと拳を震わせていた。
 そして――――――。
「確かに私は山一つぐらいなら破壊してもいいと言った! だが、山地一つを消し飛ばすなんてやり過ぎだ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 キャルビスはそうビシッと強斎を指差して叫んだ。
 その後、直ぐに脱力しへなへなと地面にへたり込む。
「ああー……もうお前が魔王やれよ。もう疲れたよ……」
 魔王も魔王でやはり大変らしい。
「嫌だよ面倒くさい」
「その面倒な事を私に押し付けるな[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 キャルビスは「うがー」と両腕を上げてへたり込んだまま強斎を襲おうとするが、その両腕は強斎に届く事はなく、地面に寝そべる形になる。
「魔王が地面に寝そべるなんて見られたら大変じゃないか?」
「ここにはお前ら以外誰もいないからいいさ」
 確かに、この部屋には強斎達とキャルビスの六人しかいない。
「それと、お前女だろ? いいのか? 清潔面で」
「ははっ、愚問だな。私は魔王だぞ?」
「だからどうした。それと、そんな格好だと全く魔王に見えんな」
「私の心も既に汚れているということさ」
 キャルビスは『も』と言ったが、強斎には理解できなかった。
(髪は毛先まで整えられていて、体臭も女性特有の匂いもある。服装もショートパンツにインシャツと少し露出が多いが、目立った汚れもないな……まぁ、一応王だし当たり前か。それと、見た感じ怪我もしていないしな……。後、汚れるといったら……)
 強斎は立ち上がってキャルビスの前に移動し、しゃがみこむ。
 そして――――――。
「お前、非処女か?」
「処女じゃボケェ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 キャルビスはガバッと起き上り、強斎の顎めがけて音速を超えた速度のアッパーする。
 しかし強斎はそれを軽く避け、その後にくる衝撃波もものともしなかった。
 ついでに眷属たちは見て見ぬ振りだ。
 流石にさっきのは強斎が悪いと思っているのだろう。
「で、一体何の用だ?」
 強斎は何食わぬ顔で仕切り直す。
「ああーそうだった。お前、土魔術使えるか?」
 キャルビスはスッと立ち上がり、服に付いた汚れを叩きながらそう言った。
「まぁ使えるが?」
「闇属性と光属性だけでなく土属性もか……お前、どこの種族だ?」
 この世界は種族によってステータスだけでなく、持っている属性までもが偏っている。
 例えば、魔族には闇属性持ちが多く光属性持ちが少ない。
 逆にエルフは光属性持ちが多く、闇属性持ちが少ない。
 その点人間はそのような偏りはないが、重複属性が少ない。
「その質問何回目だ?」
「表向きでは同盟になっているが、実際は違うだろ? その黒幕ぐらいの種族ぐらいは把握しておきたい」
「黒幕って……敵視する気マンマンだな」
「敵視もなにも敵だろう」
 キャルビスは「何を言っている?」と言わんばかりに首を傾げた。
「じゃあ、敵にあんな無防備な態度取るなよ……」
「無防備だろうが戦闘態勢だろうが、お前相手には変わらんだろ」
 強斎はそう言われると何も言えなかった。
「あー……もういいや。話が脱線した。で、俺の土魔術をどうしたいんだ?」
「ふん、まぁいい。貴様が消し飛ばした山地の埋め合わせだ」
 キャルビスは強斎を全力で威圧する。
「……ついでに訊くが、どれだけ酷い?」
「更地より酷いな。直径数十キロメートルの底の見えない穴があると言えばいいか?」
 キャルビスはどこか遠くを見て小さく笑った。
「実はな、これを金と時間で解決しようとしたら黒金貨一〇〇枚と三〇年はくだらんのだ」
 日本円で約一兆円である。
 強斎はここでようやく事の大きさに気がついた。
「ああー。そこで俺の土魔術ってわけか」
「まぁ、そういうことだ。どうせお前のことだ、神級魔術も使えるんだろ?」
 キャルビスも随分強斎の扱いに慣れてきたようだ。
「まぁ使えるが……」
「ならいい。神級土魔術なら半日で終わるだろう」
 そう言ってキャルビスは部屋の出口に向かった。
「怪我人が出る前にさっさと終わらしたい。ついてきてくれ」
 その言葉に強斎は反応した。
「なぁ」
 部屋を出ようとするキャルビスを強斎が呼び止める。
「どうした?」
「お前って何で魔王になったんだ? 少なくともお前が戦闘好きには見えんが」
 強斎がそう言うと、キャルビスは小さく笑う。
「その話は歩きながらでもできるだろう?」
「……そうか」
 強斎は眷属たちに一言言ってからキャルビスに続いて部屋を出た。


 強斎とキャルビスが部屋を出たのを確認したゼロは、静かに本を閉じる。
「さて、どんな感じに拷問しようかしら」
「ゼロさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ゼロの狂気じみた発言にルナが思わずつっこんだ。
「いや、だってあれ完全に主人に心許してるじゃん」
「まぁ、確かにそう見えましたが……だからって拷問までは……」
「そうですよゼロ。キョウサイ様はかなりモテていましたから。これはしょうがないことなのです」
「独占欲を否定するわけではないが、もう少しご主人を信用したらどうだ?」
「むぅ……」
 全員から口々に言われ、ゼロは頬を膨らませる。
 だが、その可愛らしい仕草は直ぐに終わってしまった。
「どうしたの?」
 ミーシャがいつもと違うゼロに少し真剣に声をかける。
「……怖いのよ」
「怖い?」
 ゼロには似合わない言葉に、レイアとルナまでもが驚いている。
「私は主人が大好き……。だから捨てられるのが怖い」
「捨てられるって……キョウサイ様に限ってそんな事――」
「それはわかってる。主人がそんな事をする人じゃないって。でもね……」
 ゼロは強斎のいない部屋を見渡す。
「最近、何となく……。本当に何となくだけど……。主人が本当に愛する人は私じゃない気がして……」
「……ゼロもですか」
「え?」
 ミーシャの予想外の答えに、ゼロは一瞬硬直する。
「実は、私も最近そう感じるようになったのですよ。最初はキョウサイ様が私たちと壁を造っている事が原因かと思っていましたが……」
「あー……それ、私もです」
「認めたくないが私もだ」
 ルナ、レイアまでもがそう思っていたらしい。
「ちょ、ちょっと待って[#縦中横]!?[#縦中横終わり] え? ここにいる皆そうなの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「……そのようですね」
「……主人に限って恋をしたことがないって事は……ありえるわね」
「それはありえますね。恋というもの自体知らないかもしれません。……ですが」
 ミーシャは一つ大きな呼吸をして、再度口を開いた。
「もしかしたら、気になっている女性が既にいるかもしれません」
…………
……
……
「くしゅんっ!」
「意外と可愛らしいクシャミだな」
「うるせぇ」
 強斎は鼻をすすりながら、先ほどの会話の続きをする。
「で、何でお前は魔王になったんだ?」
「いつの間にか?」
「すげー曖昧だなおい」
 そんな強斎の答えにキャルビスはクスクスと笑い始めた。
「流石に今のは冗談だ」
「だろうな」
「だが、あながち間違ってはいない。私はな、この魔界でも有名な狂戦士なんだよ」
「狂戦士は他人の安全なんて心配しないと思うが?」
「……そうかもな」
 強斎は、キャルビスの事を聞けば聞くほどわからなくなっていった。
(さっきの心『も』ってこともそうだし、一体何なんだ……?)
 聞きたいことはあるが、これ以上キャルビスに関して探るのは躊躇った。
「なぁ、一ついいか?」
 躊躇ったが、これだけは聞きたいと思い質問をする。
「なんだ?」
「何で敵である俺にここまで晒した?」
「……」
「お前、ここまで他人に晒したことないだろ? 態度にしろさっきの話にしろ……」
「……」
「……」
「……」
「……そうか。わかったよ」
 強斎はキャルビスの表情から読み取り、これ以上探るのはやめた。
「……すまない」
 キャルビスは、まるで自分に言い聞かせるように小さく言ったのだが、強斎には聞こえていた。
「別に謝ることはない。俺が一方的に訊いていたしな。俺が謝るべきだ、わるかった」
「ふんっ、お前に謝られると調子が狂う。……さて、もうすぐ着くぞ」
 そう言ってキャルビスは足を速めた。


[#ここから6字下げ]
はい、ここでこの世界の金銭が出てきました。
随分久しぶりな気が……。
と言うより金銭のこと忘れてましたごめんなさい。
さて、今回も後半は走ってました。
そろそろ主人公の奴隷たちも不安定になってきたかな?
え? 勇者PTの女性?
どうなっているんでしょうね? (ニヤニヤ
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]58話 『インヴァリデイション』っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
すいません、更新がかなり遅くなった上に短いです
[#ここで字下げ終わり]




(くそっ……イライラするな……)
 キャルビスは数歩後ろを歩く強斎を一瞥し、舌打ちする。
(何が『そうかもな』だ。なぜ私はあんなことを言ってしまったんだ……)
 キャルビスは強斎のやり取りを思い出そうとするが、急に恥ずかしくなり考えるのをやめた。
(普段の私だったら怪我人の心配なんて全くしないのによ……。無防備にあいつの前で寝たのもそうだ。どれだけ実力が離れていようとも、私はあんなことは絶対にしない……)
 そう、ここ数日のキャルビスの様子は少しおかしかった。
 自分自身がその変化を自覚できるようになった程に。
(いつから……いつからだ? 私が使者に任せずに、自分であいつに用事を告げに行ったのは……?)
 キャルビスは少しだけ後ろを向く。
「どうした?」
 強斎の返事には答えず、視線を前に戻した。
(やはり何かがおかしい……。本能的に目をそらしてしまった……)
 キャルビスはこの正体をひたすら考え続けた。
(精神関与系統魔術か? あいつならそれぐらい出来そうだが、なんか違う気がする……)
 いくら考えても答えの出ない感情に、キャルビスのイライラは増していく。
「おい貴様!」
 キャルビスは立ち止まり強斎の方を振り向く。
「貴様の名前はなんだ!」
「強斎だけど?」
「そうか! キョウサイか! 私はキャルビスだ!」
「知ってる」
 キャルビスはまた歩き出した。
 強斎は不思議そうにキャルビスについて行こうとするが……。
「私も知ってるわボケェェェェェェェ[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
 キャルビスのそんな声とともに拳が飛んできた。
 しかも、その拳には炎が|纏《まと》っていた。
 その炎がパンチのスピードとパワーをブーストしており、強斎が避けてしまってはその後方が大変なことになる。
 その事を一瞬で理解した強斎はあることを実行した。
「『インヴァリデイション』」
 強斎がそう呟くと、キャルビスの拳から炎が消えた。
「え? え? え[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 炎のブーストがなくなり、キャルビスはバランスを崩してしまった。
「おっと」
 そして、そのまま強斎の胸に飛び込んでしまった。
「おいおい、大丈夫か? さっきからおかしいぞ?」
 キャルビスは即座に離れて強斎を睨んだ。
「貴様……さっき何をした?」
「さっき? ああ、『インヴァリデイション』のことか?」
 キャルビスは無言で頷く。
「あれは魔術を無効化する魔術だな」
「魔術を無効化だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 キャルビスは、今までの感情など吹っ飛ぶ勢いで驚いていた。
 魔術を無効化されては、魔術師の意味がなくなる。
 この世界での戦力は魔術だけではないにしろ、あるとなしでは断然に戦力が違う。
 この魔術を使うものが多数現れては世界のバランスが崩壊しかねなかった。
「まぁ、この魔術は魔術が[#傍点]完了[#傍点終わり]するまでに使わないと意味がないけどな」
 その言葉にキャルビスは反応した。
「意味がないだと? さっきの魔術はちゃんと[#傍点]完成[#傍点終わり]していたぞ?」
 そう、先ほどのキャルビスの魔術は既に完成していて、後は放つだけだった。
「完了と完成は違う。俺が言っているのは、術式を完成させて放つまでの段階のことだ」
「ついでに、身体強化とかはどうなる?」
「魔力で身体強化するなら無理だろう。だが、魔術で身体強化した場合はできるな」
「……嘘だろ」
「残念ながら嘘でも何でもない。真実だ」
 キャルビスはこの魔術の恐ろしさで胸がいっぱいだった。
 この魔術を使われてしまえば、魔術を身に纏わせるのも不可能になり、毒にも薬にもなる。
 唯一使える身体強化も効率が悪い魔力の方だった。
「だが、この魔術は結構な格下じゃないと発動しないんだよな……」
「……格下?」
 その単語にキャルビスは異常に反応してしまった。
 女とはいえキャルビスは魔王。しかも戦闘狂と言われる程の。
 格下と言われればプライドが許さない……だが。
「そうか……格下か……」
 キャルビスはどこか納得したように歩き始める。
(私のこの変な感じは、格上に対する逃避だったのかもな……)
 少し違うのだが、キャルビスはそれで納得してしまった。
 強斎がついてくるのを一瞥すると、キャルビスは再び口を開く。
「先ほどの魔術……『インヴァリデイション』と言ったか?」
「ああ」
「あれは普通に取得できる魔術なのか?」
「お前の言う普通はわからんが、少なくともお前は無理だな」
「ほう、言ってくれるな」
 キャルビスは不気味に笑う。
「悔しくないのか?」
 そんなキャルビスに、強斎は疑問符を浮かべた。
「悔しいかもな」
「……わからん奴だ」
 強斎はそう言ってため息をついた。
…………
……
……
「おい、そろそろつくぞ」
「そうか」
 見ればわかるのだが、キャルビスは強斎に一応そう言った。
 そして、その現場にたどり着く。
「……これは酷いな」
 自らやったこととはいえ、苦笑いを隠すことは出来なかった。
「ああ、酷いだろ。これも全てお前がやったことなんだよ」
「へいへい」
 強斎はもう聞き飽きたといった感じだった。
「……できそうか?」
「まぁな」
 だが、空気は読める方なので、キャルビスの真剣な問にはしっかりと答える。
(土地は俺のよく知っているシッカ王国でいいか……だが、どれぐらいの時間がかかるか……)
 強斎は大穴を覗き込んだ。
(本当に底が見えんな……まぁ、あの魔術から推測すると大体10kmといったところだろ)
 適当な推測をして、キャルビスに下がるように指示する。
(想像魔術では土を作ることができないから、土魔術を使った後に想像魔術を使ってみるか……)
 強斎は全力で魔術を使おうと魔力を開放するが……。
「む? どうした?」
 キャルビスが見ているのでそれを躊躇った。
(別に俺の力がバレようと関係ないが……少し面倒になりそうだな)
 結局はここに行き着き、ある程度自重することになった。


[#ここから6字下げ]
二週間の間小説を書かなかったため(こっそりSS書いてましたが)少し違和感があったかもしれません。
えっと、どうしてこんなに遅れたのかといいますと……
はい、プライベートが大変でした。
更に風邪になってしまい、もう大変でした。
これを書いている今も風邪です。
次回からはなるべく早く更新したいと思います!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]59話 小国を作っちゃったっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
感想で言われましたが、『っぽい』を変える気はありません。
どれだけ変な言葉になろうとも!
[#ここで字下げ終わり]




「こんなもんか」
 強斎が魔術を発動してから数時間後……。
 底なしの大穴は小国になっていた。
「おい、貴様。あれはなんだ」
 勿論、キャルビスからのツッコミが入ってくる。
 ついでに、キャルビスはこの数時間席を外していたのでどうやってできたのかは知らない。
「あれって……見ればわかるだろ? 人がいない街だよ」
「そうだな。じゃあ質問を変えよう……」
 キャルビスは額を抑えて小さなため息をつく。
「どうやって街……いや。小国を作った?」
「土魔術でちょちょいと」
「建物は?」
「土魔術でちょちょいと」
「周りにある壁は?」
「土魔術でちょちょ――」
「ちょちょいで済むとでも[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 キャルビスは強斎の作った小国を指差す。
 直径数十キロメートルの大穴は見事な円形の小国になっていた。
 建物も簡易のものばかりだが、しっかりと『建物』と言えるほど。
 中央には城が建っており、そこだけは凝っている。
 そして、この小国を囲むように高さ一〇メートル程の[#傍点]綺麗に整えられた岩[#傍点終わり]の壁が囲んでいたのだ。
「あれって岩だよな[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 土じゃねぇよな[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 キャルビスは強斎の肩を揺すって力強く問う。
 強斎はされるがままだ。
「……岩だな」
 ようやく白状したところで揺するのをやめる。
「これだけの壁を全てただの土で作ったのなら神級魔術で済むだろう……。だが、岩なら話が別だ。何をやった」
 キャルビスの目は真剣だった。
「適当に地中から出てきた岩を切り取って……」
「切り取ってこの小国を囲む高さ一〇メートル程の壁を作ったとでも? この短時間で?」
「……ああそうだ」
 実際、強斎は嘘はついていない。
 ただ、土魔術だけではなく想像魔術まで使っているのだから、話を濁しているだけである。
 強斎は地中にある適当な岩石を引っ張り出して壁にしただけなのだ。
 だが、それでは壁が綺麗ではなかったので、想像魔術で余分な凹凸を切り落とす。建物もこれと同じだ。
(一〇メートルも引き抜いておいて、地盤沈下しないってのも不思議だがな)
 強斎はこういうのについては得意ではないので、あまり考えなかった。
「ふざけたことを言ってくれる……この規模の岩を操るなど、既に基本属性の域を――――」
「なぁ、キャルビス」
「な、なんだ?」
 不意に名前を呼ばれたキャルビスは少しだけ息詰まってしまう。
「オリジナル魔術って知ってるよな?」
「? 知ってるもなにも、お前に|無効化《インヴァリデイション》された魔術もオリジナル魔術だが……っ!」
 ようやくここでキャルビスは強斎の言いたいことを理解する。
「ああ、そうだ。これは俺のオリジナル魔術なんだ」
「馬鹿なっ! オリジナル魔術で神級超えクラスを使えるとでも言うのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「少し気になる点もあるが、その通りだ」
 強斎がそう断言すると、キャルビスは小国を眺める。
「今ならお前が魔神様と言われても信用できる気がするな」
 そう吐き捨てるように言う。
「安心しろ。俺は魔神なんかじゃない」
「『人間だ』……と?」
「ああ」
「いい加減そういう冗談はやめてくれないか?」
 キャルビスは小さく鼻を鳴らして言葉を続ける。
「こんなでたらめなオリジナル魔術を使う生物がいるってだけで驚きなのによ……」
「まさか、生物であることすら疑っているのか?」
「流石にそれはないが……あ、いや。うーん……」
「ごめんそれ以上考えないで」
…………
……
……
「ゼロ。ちょっといい?」
「ん……? ミーシャ?」
 ゼロは半分寝ていた意識を覚醒させ、椅子に座りながら体を伸ばす。
「余りにも暇過ぎて寝そうだったわ」
「でしょうね」
「で? どうしたの?」
「属性について教えてくれませんか?」
 そんな事を言うミーシャに、ゼロは首を傾げて不思議そうに問う。
「属性って……虚無属性以外なら、私が教えるまでもないぐらい知ってるでしょ?」
「私が知りたいのは『ユニーク属性』です」
 ミーシャのその一言でゼロは大体理解してしまった。
 ゼロはその事を心配していたが、ミーシャはそんな素振りを見せなかった。
 だが、やはり気にしていたのだ。
 自分だけが『ユニーク属性』を所持していないことに。
「やっぱりか……」
「何がやっぱりなの?」
「そうね、あなた資格がどうこう言っていたもんね」
「……」
 ゼロはミーシャの無言を肯定と判断した。
「キョウサイ様も気づいているのでしょうか……?」
「気づいているでしょうね。主人のステータス譲渡から見ても、それは殆ど明らかよ」
 ミーシャは自分の破格のステータスを確認する。
「確かに……。ステータス関与系の『ユニーク属性』を持っているレイアと比べても殆ど大差がないですね……」
「でも、やっぱり気になるんでしょ?」
「……はい。贅沢だとは思っているのだけど……」
「本当に贅沢よ……。『ユニーク属性』は大半が生まれ持った才能。後は努力で手に入れるか奇跡的に手に入れるかよ」
 ミーシャは肩を落として落ち込んでいた。拒否されたと勘違いしたのだろう。
 ゼロは立ち上がり、そんなミーシャの肩に手を置く。
「誰もダメなんて言ってないでしょ」
「え? では……」
 ゼロが頷くと、ミーシャはパァっと明るくなった。
(相当キていたのね……主人のちょっとした気遣いに気付かない程に……)
 ゼロはミーシャに少しだけ待つように言って、自分は部屋にある簡易転移門を使って図書館に転移する。
(奴隷として買われたのに奴隷として扱われず、何もしていないのに普通以上の裕福な生活をしている。戦闘においても主人の力を使っているようなものだし、家事だって主人の方がスキルは高い。魔界に来てから仕事を与えると言っていたけど、これも主人がやっていて自分は本を読むか勉強をするだけ。普通だったら奴隷にとって大当たりの人なんだろうけど、一部の奴隷は違うでしょうね……。裕福過ぎて自分の存在を否定されている様な感覚になる。『何故自分を買ったのか?』『自分じゃなくても良かったんじゃないか?』『居ても居なくても変わらないんじゃないか?』そんな不安が出てくる奴隷……。それがミーシャだったのね)
 ゼロは目的の本をいくつか手に持ち、小さく頷いて部屋に戻る。
(それに加えて、私たちをいつか解放するという主人の優しすぎる気遣い……。あれじゃあ、愛想尽かれて捨てられると思ってもしょうがないわね。私もそう思っちゃったし……。主人は暫く下にい続けてもらうって言ったけど、やっぱり直ぐにその不安が消える訳じゃない。そして、ミーシャは自分だけが『ユニーク属性』を持っていない事で劣等感を感じるようになり、好きな人に自分が捨てられてしまうのではないかと一層強く感じ始めている。捨てられることなんて絶対にないとわかっていても……)
 部屋に戻ったゼロは、持ってきた本を椅子の上に置いてもう一度確認する。
(更には主人の『気になる女性』の存在。これは私たちが勝手に作り出した存在だけど、恐らくミーシャもこの存在が十中八九いると思っているでしょうね。よくこれだけのことが起きて、気が狂わなかったものだわ……)
「さて、ミーシャ。ちょっとレイアを起こしてちょうだい」
「? わかりました」
 ミーシャがレイアを起こしたところで、強斎が部屋に戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり主人。早速だけど頼み事いいかしら?」
「ん? どうした?」
「ちょっと竜王を二匹貸して」
 突然、とんでもないものを強斎に要求した。
「別にいいけど、ここじゃ入りきらんぞ?」
 そのとんでもないものをあっさり了承する強斎も強斎である。
「あの窓から飛び移るから、そこら辺に召喚して」
「ん、了解」
 強斎はここから三〇〇メートル程の上空に竜王を二匹滞空させた。
「じゃあ、ちょっと草原に行ってくるわね」
「おう」
 強斎の許可も取れたところで、ゼロは窓を開ける。
「ミーシャ、レイア。私に捕まって」
「「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」」
 レイアはともかく、ミーシャも何をするのかわかっていないようだ。
「ああー……やっぱり私が捕まえるわ」
 そう言って、ゼロはミーシャとレイアを捕まえて両脇に抱えた。
「「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
「ルナはそこに置いてある本を主人に読んでもらってね」
「あ、はい」
「じゃ、行って来ます」
 ゼロは窓から飛び降りるように出て、そのまま上昇していった。
「……何があったんだ?」
「私にもよくわかりません」
 そう言って、ルナはゼロの持ってきた本を一冊取る。
「主様、これなんだと思いますか?」
 ルナに渡された本を強斎は軽く読む。精霊界語でルナでも読めるはずだったが、まだ少し難しかったらしい。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 最初は軽く読むつもりだったが、強斎はそう小さく声を出してからは真剣に読んでいた。
「主様?」
 ルナがそう声をかけるが、強斎からの反応はない。
 もう一度声をかけようとしたところで、強斎から少し気味悪い薄笑いが聞こえてきた。
「主様……?」
「いや、すまなかったな……ふふっ」
 強斎は本を閉じて、残りの本も確認する。
「やっぱりだ……」
「むー……。主様、じらさないで教えてください」
 ルナは強斎に抱きつく。
 身長差で強斎の腹部に顔をうずめる形になっているが……。
「そうだな、これはルナにも関係あることだしちゃんと教えてやらないとな」
 強斎は自分の腹部に顔をうずめているルナの頭を優しく撫でる。
 ルナは気持ちよさそうに小さく笑い、更に強く強斎に抱きついた。
 ルナも二人きりになると積極性が増すタイプなのだ。
「で、どんな本だったのですか? さっき見た感じですと、魔術系だった気がしますが……」
「確かに魔術系だ。しかも、たった一つの魔術のな」
 強斎は置かれている数冊に目を通す。
 この数冊全てが同じ魔術に関しての本なのだ。
「だが、どれも失敗に終わっている。理論はあっているが、何故か成功しない……何故だと思う?」
「その魔術を使える適正者がいなかった……ですか?」
「その通りだ。基本属性は全て試されている。そして、基本属性以外で俺とルナの共通属性と言えば……」
「召喚魔術ですか……」
「正解だ」
「ですが、主様は何故その魔術が召喚魔術用の魔術とわかったのです?」
「俺も召喚魔術でとある魔術を試していたが、成功と言える成功はしなかった。そして……」
「この本に載っている魔術が主様が試していた魔術……ですか?」
 強斎はしっかりと頷き、ルナの頭をポンポンと軽く叩いた。
 それを合図にルナは強斎から離れる。
「あいつらが帰ってくるまでにこの魔術を完成させるぞ」
「ずっと焦らされっぱなしでしたけど、結構どんな魔術なんです?」
「あ、それは済まなかったな……」
 強斎はもう一度ルナを撫でて許しをもらった。
「今から取得する魔術……それは――――――」
 強斎はアイテムボックスから剣を取り出した。


「――――――武器の遠隔操作だ」


[#ここから6字下げ]
さて、ゼロは一体何をする気なんでしょうか?
強斎の言う武器の遠隔操作とは一体……
そして、強斎がこうしている間にも……
次回もお楽しみに!
土の概念をアバウトにしました
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]60話 ミーシャとレイアのチートっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです! ちゃんと生きてますよ!
えっと、更新が遅れた理由ですが一一月が鬼畜的に忙しいというのもありますが……
とある企画に参加することになったのです
詳しくは活動報告を!
もしかしたら書き方とか変になってるかもしれません……
[#ここで字下げ終わり]




「お、おい! 何をする気だ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ゼロ、私も説明を求めます」
「それはついてからのお楽しみにってことで……お、いたいた」
 ゼロはレイアとミーシャを両脇に抱えながら空を飛んでいた。
「流石竜王というべきかしら? 少し見渡しただけでも直ぐに見つけられる程大きいわね。魔力の放出まで調整してるし」
 そのまま水竜と炎竜の二匹の竜王に向かう。
 ゼロたちに先に気がついたのは炎竜の方だった。
『貴様……何者だ?』
「主人の奴隷だけど?」
『主人……あの化物主人のことか?』
「多分あってるわね」
 ゼロは苦笑いをするしかなかった。
 やはり強斎はどこへ行っても化物らしい。
『それで、化物主人の奴隷が何の用だ』
「とりあえず、背中に乗せて」
 ゼロがそう言うと、炎竜は嘲笑うように唸り声をあげる。
『面白いことを言う小娘だな。化物主人ならともかく貴様みたいな小娘を背中に乗せろだ? 我は竜王だぞ。身の程を知れ。今なら見逃してやっても――――――』
「まさか……私に盾突く気?」
『『[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]』』
 ゼロがそう口にした途端、見ているだけの水竜までもが硬直した。
 両脇にいるミーシャとレイアも口出しできない。
「身の程を知れ? それはこちらのセリフよ。たかが竜の王如きで私に盾突こうなんていい度胸ね?」
 ゼロは威圧も何も使っていない。
 魔力を解放しただけで竜王を硬直させたのだ。
『この魔力……あの化物主人以上だと……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
「あら、主人ったらこの程度しか使ってなかったの?」
『貴様……っ! 一体何者だ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
「竜の王に教える義理はないわ。言っておくけど、私に盾突こうなんて思わない方がいいわよ? 私だってプライドがあるんだもん。私に盾突いていいのは……この子達だけだから」
 ゼロは両脇にいるミーシャとレイアを少しだけ持ち上げる。
「で、とりあえず背中に乗せてくれる?」
『承知した……』
 ゼロは水竜にも目で指示する。
 水竜も無言だが、確かに頷いた。
「さて、二人は水竜の方に乗って。私は炎竜の方に乗るから」
「ちょっ、こんな上空で投げ飛ば――――」
「たかが三〇〇メートル上空から落っこちても無傷でしょう」
 有無を言わさずまずレイアを投げ飛ばす。
「さて、次は……」
「ゼロ、まず落ち着いて――――」
「そぉい!」
 次にミーシャを投げ飛ばした。
 投げ飛ばされた二人は何とか水竜に捕まる。
 その事を確認したゼロは、自らも炎竜にまたがった。
「さて、じゃあこの先の草原に向かってもらおうかしら」
『貴様、何故自ら空を飛ばない?』
「だって楽しそうじゃない」
『……』
 炎竜は静かに目的地に向かうのであった。
…………
……
……
 相当危険な部類に入る魔物に何度も遭遇した三人と二匹だが、それでも足止めできる魔物は全くいなかったので問題なく目的地についた。
「到着っと」
 ゼロは炎竜から飛び降りる……五〇〇メートル上空から。
『高く飛べと言ったのはこのためか……なんと愚かな』
「とりあえず、あんたも降りてきなさい」
 ゼロは重力に逆らわずに自由落下をする……。
 そして――――。
「やっぱり小さいわね……」
 着地した衝撃で小さなクレーターを作ったのだ。
「ゼロ……あなたは馬鹿なのですか?」
「あらミーシャ。私がいつ馬鹿な事をしたと?」
「……もういいです。どうせその行為にも意味があるんでしょう?」
 先に到着したミーシャとレイアは少しだけそわそわしていた。
「そんなにそわそわしなくても、ちゃんと説明するわよ。あ、それと……この飛び降り着地には何の意味もないわ」
 ゼロの意外な発言に二人は驚愕するが、直ぐに元に戻る。
 呆れたレイアが先に口を開く。
「で、一体何をさせる気だ?」
「とりあえず、二人には『ユニーク属性』を身につけてもらうわ」
「「……え?」」
「そんなに驚くことじゃないでしょ?」
「ぜ、ゼロは『ユニーク属性』を手に入れるのは努力が必要だと……」
「それと才能ね」
 ゼロは自慢げに胸を張るが、ミーシャとレイアはイマイチ理解していない。
「理解していないって顔ね」
「当たり前だ、お前は何がしたい。それと、私の場合は既に開花していてこれ以上は増えようがない」
「才能で『ユニーク属性』が手に入れられるのは聞きましたが、私にはその才能がないはずですよ?」
 二人の質問を聞き終わったゼロは、少しだけ口元を釣り上げて説明を始めた。
「まず才能のことだけど、それはあなたたちの勘違い。あなたたちは、ある日を境にとある才能を手に入れたのよ?」
「「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」」
「まだわからない? 自分のステータスをよく見てみなさいよ」
「まさか……」
「これでわかった? あなたたちは亜人にしてはあまりにも破格なステータスを持っているのよ。これが才能と言わずに何と言うの?」
「だが、これはご主人が――――」
「じゃあ訊くけど、ただの亜人がそのステータスに耐えれると思うの?」
 二人はそう言われて口ごもってしまう。
『限界突破』等自身のステータスを上昇させるスキルがあるが、最終的にはそのステータスに耐え切れずボロボロになってしまう。
 時間に個人差があるのはこのためだ。
「その破格のステータスを所持できる才能……この世界の法則を一部無効化できる才能ね」
「「……」」
 そんなもの、才能でも何でもないただのズルだと思った二人であった。
(やっぱり、この才能を入手した経緯は二人には見当もつかないか……。まぁ説明しなくていいか。恥ずかしいし)
 ゼロは自分の下腹部をそっと撫でる。
「どうして顔が赤くなってるんだ?」
「あ、赤くにゃってなんかいにゃいわよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 レイアの質問に口を噛んで答えてしまった。
「というか、どうしてお腹を……いえ、その位置は子きゅ――――」
「さて[#縦中横]!![#縦中横終わり] 早速あなたたちに合った『ユニーク属性』を開花させましょうか[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ミーシャが言い終わる前に、ゼロは声を大きくして阻んだ。
「まぁ、顔が赤い理由は追求しないが……。まだもう一つ、私の質問に答えていないぞ?」
「私が何をしたいのかって質問?」
 レイアは無言で頷く。
「もしもの時のための悪あがき……今はそう思ってて」
 その時、ゼロからは何とも言えない雰囲気が漂っていた。
 その雰囲気のせいでレイアはこれ以上は踏み込めなかった。
「さて、じゃあ早速やってみましょうか」
「自分に合った『ユニーク属性』と言われてもピンときませんね……。そこの竜王を使うのですか?」
「いえ、あの竜王達は調教スキルのために持ってきただけだから」
『『おい』』
 竜王のツッコミをスルーしてゼロは話を続ける。
「とりあえず、ミーシャは亜空間移動してみましょうか」
「……え?」
「で、レイアは空間を破壊してみよう」
「……は?」
 ゼロの注文に唖然とする二人。
「あー……やり方がわかんないか……」
「当たり前でしょう。そもそも、亜空間ってなんですか?」
「亜空間ってのは簡単に説明すると、この世界とは別の空間ってことね」
「そこにどうやって移動しろと?」
「とりあえず、自分自身をありったけの魔力で包み込んで全力で移動してみなさい」
「……わかりました」
 ミーシャは深呼吸をし、全力で自分自身を魔力で包み込む。
 そんな姿を見て、ゼロは苦笑いを隠せていなかった。
「ちょっと見くびってたかな……。全然余裕じゃないの」
 そう呟いた瞬間、ミーシャが視界から消えた。
「……私から背後を取るなんて、そうそうできるもんじゃないのよ?」
「そう……ですね……」
 ミーシャの息は荒かった。
「これはちょっと堪えますね……続けて使うことは無理っぽいです」
「確かに効率が悪いわね。明らかに必要な魔力を超えていたもの」
「全力でって言ったのは誰ですか……」
「ふふっ、ごめんなさいね」
 まさか初回で成功させるとは思っていなかったゼロは、驚きを隠すために笑ってはぐらかした。
「さて……次は――――」
「いや、大体わかった」
 レイアはゼロが言い終わる前にそう言って拳に魔力を込めた。
「……思い出すな、ご主人と出会った時のこと」
 レイアは小さく鼻を鳴らし、昔を思い出す。
「ご主人の防御に比べたら、空間なんて豆腐未満の柔らかさだ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「どんな例えよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ゼロのツッコミと同時にレイアが何もない場所を殴った。
 そして……。
「……割れた……?」
 レイアの前方が物凄いことになっているが、ゼロはそんなものどうでもよかった。
「そんな……まさか……」
「ふふ……どうだ、驚いたか!」
「ええ、確かに驚いたわ……でもね」
「……?」
 ゼロは薄笑いしながら、戸惑いの説明をする。
「恐らく、この近くの模擬空間が破壊されたわ」
「は? 模擬空間?」
「ええ。空間を割るということは、別空間にいる何かを引っ張り出すって事なの。そして、別空間がなければさっきのように空間は割れない」
「別空間ってことはアイテムボックスとかのことか?」
「いいえ。アイテムボックスとは別の空間よ。アイテムボックスは……主人までとは言わないけど、相当なレベルじゃないと無理ね。ついでに私も無理」
「……というより、空間を破壊するってなんか地味だな」
「どこが地味なのよ」
「いや、別空間から引っ張り出すだけなんて……地味じゃん?」
 そんなことを言うレイアにゼロは呆れ顔でとある方向を指差す。
「あなたがさっき壊した空間に行ってみなさい」
「?」
 レイアは言われたとおり自らが壊した場所に近寄る。
「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
 ある程度近づくと、レイアは咄嗟に距離を取った。
「魔力が……おかしい?」
「おかしい……ね」
「どういうことだ? 何故ここだけ魔力の流れがおかしい?」
「あなたが空間を破壊したからよ」
「さっきと言っていることが違うじゃないか」
「ええ、違うわよ。だって、あなたは空間を破壊して別空間を割ったのだから」
「……よくわからんな」
「まぁ、今はわからなくていいわ。本命はこっちの破壊したほうよ」
 ゼロは何もないところで指を鳴らす。
「さて、ここに破壊した空間があるわ」
「……改めてゼロが化物だと理解させられたわ。私がどれだけの力で空間を殴ったと思っている?」
「そのことは置いときましょう。それに破壊した空間はレイアよりかなり小さいわ」
「わかった……」
「まぁ、やることは簡単よ。破壊した魔力と同じ波長の魔力で刺激を与えるだけ。すると――――」
「ちょっと待て。同じ波長ってどういうことだ?」
「説明が面倒だけど……。まぁ、自分の魔力ってことね」
「……」
「それで、その魔力で刺激を与えると……」
 ゼロは少しだけ場所を移動し、また指を鳴らした。
 そして――――。


 ――――――空間が爆発した。


「と、まぁこんな感じ。魔力の送り方はどんな風でもいいわ」


 ゼロは気が付いていなかった……。
 この日、この時間にミーシャとレイアに『ユニーク属性』を得させるということは――――。
 ――――――戦争の引き金を引くということと同じだということを。


「一度コツを掴めれば後は簡単だと思うわ。後は往復練習ね」
 ミーシャとレイアはしっかりと頷く。
「さて、私は……」
 ゼロは若干怯えている竜王を見る。
「竜騎士にでもなろうかしら」
 そう呟いてから炎竜に話しかけるのであった。




ミーシャ
ユニーク属性『亜空間移動』習得
レイア・アンジェリーク
ユニーク属性『完全攻撃型』→『攻撃型空間破壊』変化
ゼロ・ヴァニタス
レアスキル『竜騎士』習得


[#ここから6字下げ]
さて、伏線がぐちゃぐちゃになってて大変だと思ってきました。
ですがもう少し待っててください!
ちゃんと伏線は回収しますから!
勇者PTの伏線も回収しますから!
……さて、どれが伏線になっているんでしょうね?
次回もお楽しみに!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]説明回~スキル・属性について~っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
スキルや属性について簡単にまとめてみました!
読まなくてもストーリーには影響しません。
後書きにてこれまでのストーリーを超簡潔に説明します
[#ここで字下げ終わり]




 時は少し遡り、勇志とベルクが闘う少し前。
 仁の『限界突破』の開花で疑問に思った鈴が、ヴェレスに質問したことで始まった。
「ねぇ、ヴェレス」
「どうしました?」
 仮面の魔人の驚異が完全に去った今では、特に警戒する必要なく昼食をしていた。
「この世界のステータスってどうなってるの?」
「いきなりすごい質問きましたね」
「もうここに来てから五ヶ月は経つけど……やっぱりわからなくて」
「ステータスは未だに謎ですよ?」
「え? そうなの?」
「はい。まだまだわからない事だらけです」
 鈴は肩を落としてため息を吐く。
「ついでに、鈴は何の話が聞きたかったの?」
 澪が自分のステータスを確認しながら鈴に質問をする。
「いや、ステータスの差で年齢も、種族も、体格も、物理法則さえ無意味になることは理解したんだけど……。このスキルってのがよくわからないのよね」
「あ、それ私も思った。最初から持っているスキルが殆どだけど、行動次第では新しく手に入るもんね」
「そうなのよ……。仁が新しく『限界突破』のスキルを覚えたから、レアスキルもそれに該当するってことなのよね……でも」
「その条件が明確じゃない……でしょ?」
 鈴はまたため息混じりに頷いた。
「そうなのよね……。例えば『剣術』スキルを習得するには、『剣を振る』だけでいいのか『技術を身に付ける』でいいのか……。ここら辺も含めて曖昧なのよね」
「あ、そのことでしたら、いくつかわかっていることがあります」
 ヴェレスが鈴と澪の会話に、挙手をして入ってきた。
「ヴェレス、あなたさっきわからないって……」
「流石にステータスについてはわかりませんが、その中の一部なら多少わかります」
「そ、そうだったの……。じゃあ説明お願い」
「わかりました。……まずスキルですが、ミオさんが言っていた通り生まれつき持っているものもあれば、そうでないものがあります。まぁ、生まれつき持っているスキルはその人の『才能』と言ったほうがいいでしょうね」
「才能ってことは……その道に特化しているってこと?」
「間違ってはいませんが、少し違いますね。例えば、生まれつき『火属性』のスキルを持っていても、いつまで経っても使えない場合があるのですよ」
「属性には表示されてるの?」
「はい。MPも問題なくあるのですが何故か使えないようです」
「そんなことがあるんだ……」
「ですから、生まれつきの才能と言っても、その道に特化しているというわけではないのですよ」
「それで? 後から手に入る方は?」
「それは人にもよりますが、練習次第で習得できます。適正とかもありますが」
「レアスキルもそうなの?」
「それも例外ではありませんが……。レアスキルは通常スキルに比べて習得が遥かに難しいですし、習得方法がわからないものが多すぎますから……」
「何か例えとかない?」
「では、『竜騎士』とかなら想像つくでしょうか?」
 鈴はそれならと頷いた。
「『竜騎士』は習得が簡単な方だと言われています……が。それでも竜を調教出来るだけの実力と、かなり高い騎士の適正が必要になります。それでもかなりの年月が必要になりますが……。魔術特化の魔術師とかは絶対に無理ですね」
「私じゃ無理ってことね」
「どうでしょうか? リンさんは魔術師なのに、騎士よりかなり高いステータスですし……。『剣術』スキルを磨けば何とかなるんじゃないでしょうか?」
「いや、遠慮しとくわ……。ん? それじゃあアイテムボックスとかはどうなるの?」
「アイテムボックスについてはまだわからないのです……。生まれつき持っているという人もいれば、いつの間にかあったという人もいます。どれも共通性がないので調べようがないらしいです」
「ふーん。じゃあもう一つ。『ユニーク属性』について教えて」
「『ユニーク属性』にも種類がありまして……。普通では考えられないステータスの上昇や基本属性以外の魔術。そのどちらにも当てはまらない技。それらが『ユニーク属性』になります」
「属性は増やすことができないの?」
「そんなことはありませんよ? 『火属性』のスキルを習得すれば、属性にも『火属性』が追加されますし、『ユニーク属性』もその例外ではありません」
「ちょっと待って、そんなことできるの?」
「はい、ありえないほどの金額を払って教会で習得するみたいです。無理矢理に精霊様から力を頂くようなものですから、私は好きではありませんが」
「ありえないほど?」
「金貨五〇枚はかかりますね」
「わお」
「話を戻しますが、『ユニーク属性』は習得しようとは思わないほうがいいです」
「戻すんじゃなくて変えたね。で、なんで?」
「無理だからです」
「……なんで?」
「確かに自力で習得可能ですが、それ以外は並外れた才能と、途方も無い時間と努力が必要になります」
「前例はあるんだ」
「はい、竜ではないのに『竜の王』という『ユニーク属性』を習得したものがいます」
「うわー……なんか大変そう」
「私から言えるのはここまでですね」
「充分わかったわ、ありがとう」
 ヴェレスは「どういたしまして」と言ってから食事を再開させた。
(話をまとめると、スキルは生まれつき持っていなくても努力次第では手に入るし、レアスキルも例外ではない。属性もスキルを持っていれば追加される。『ユニーク属性』はステータス上昇系やら魔術系、更には特別な技等も含まれる。こんなところかな)
 鈴も食事を再開しようとするが、既になくなっていることに気がついた。
「あ、おかわり貰っていい?」
「鈴ってよく食べるのに全然身長伸びないよね。胸だけ大きくなるし」
 澪が鈴の胸と背丈の不釣り合いさを見てそう呟いた。
「なっ……! 澪だって充分大きいじゃない!」
「うーん、私は一般的だと思うよ?」
「あの、ミオさんの大きさで一般的って私どうなるんですか? 泣きますよ?」
 その後、男性陣が気まずくなったのは言うまでもないだろう。


[#ここから6字下げ]
今までの話の流れ
ある日、小鳥遊強斎は四人の勇者に巻き込まれて異世界転移してしまう。
だが、自分には高いラック値と魔術師寄りのステータスがあるだけで、魔術なんてものは使えなかった!
地球に帰るには魔王を倒さなければいけないと伝えられた矢先、他国の密偵から勇者をかばい転移されてしまう。
転移先はどこかの神殿で強斎はチートを手に入れた!
勇者たちの前では見せなかった子供のようなはしゃぎっぷりをするが、食べるものがワニの肉しかなかった。
暫く歩くと奴隷商人が盗賊に襲われていたので、強斎は「テンプレだな」と思いながらも助ける。
その後、盗賊団の住処へ乗り込みチートで無双し、スキルを奪いまくった。
強斎はシッカ王国に入国し、奴隷商店の前で足を止めた。
強斎だって夢見る高校生。しかも、ファンタジー系は好きなのでこういうテンプレには逆らえず、奴隷商店に入ってしまった!
そこで助けた奴隷商人に再開し、おすすめの品『ミーシャ』を買う。
ミーシャは最初、奴隷であろうとしたがそれを強斎が止めに入った。
冒険者登録をし、強斎がレベルをミーシャに伝えるとミーシャは気合を入れて強斎を守ろうとする。
しかし、ミーシャは強斎の人外的行動の前に何も動くことができなかった。
その後、ミーシャにステータスを見せたところ魔神と勘違いされるが否定をする。
暫くミーシャのレベリングをしたところで、強斎はまた奴隷商店に来てしまう。
そこで強気な少女『レイア・アンジェリーク』と出会った
レイアは実力を証明しろといって強斎に挑むが、全く歯が立たず完敗。
強斎の圧倒的な実力と優しさに心が奪われたレイアは、一生強斎についていくと決心する。
その後、現在の街をルンルン気分で出て行った強斎だが、強斎の頭の中にはやはり勇者達が残っていた。
その頃勇者達は強斎を生き返らせるために打倒魔神目掛けて必死にレベリングをしていた。
なんと、魔王を倒し神を復活させても願いが叶うというのは間違いで、魔神を倒さなければならないとのことだったのだ!
勇者がレベリングしている中、強斎は『アルノ』という少年に出会う。
その後、ミーシャとレイアに自分の魔術を見せるものの、誤って森を半壊させ、竜王を殺してしまった。
強斎は気にせず先に進むが、その先には澪に少しだけ似ている女性が犯されて死体となっていた。
その時、その女性を犯したであろう盗賊が出てきて強斎が激怒。
人生初の人殺しをしてしまった。
ますます勇者に会いにくくなった強斎は心の拠り所を無くしかけるが、ミーシャとレイアがその心の拠り所になる。
それから三ヶ月後、最強の冒険者『ショクオウ』となった強斎は食べ物が美味しいだけで留まっていたシッカ王国を出ることを決意する。
元最強の冒険者にしてギルドマスター『ベルク・ローダン』に止められるものの魔界に向けて出て行ってしまった。
その頃、勇者達がレベリングをしていた時、何と同じ地球人に出会ったのだ!
その地球人は勇者として召喚されたらしいが、ドレット王国の勇者とは劣っていた。
が、協力して魔神を討伐することに意義はなく、新たに勇者パーティーに仲間が増えたのだ!
そして、強斎はというと雪山を登っていた。
そこで、呪われた兎族にして|戒《ギアス》を埋め込まれている少女『ルナ』と出会う。
生きていること自体が絶望的な苦痛でしかないルナを助けるため、強斎はルナを自らの奴隷にし、呪いを解いたのであった。
ルナは召喚魔術の『ユニーク属性』を持っていたので強斎は召喚魔術を教え込む。
神級クラスやら出てきたが、何とか教え込み雪山を下山する強斎。
そして、暫く歩いていると強斎は全力を出してみたいと世界を壊滅させるような呟きをしたので奴隷たちは必死に止めた。
代わりに新魔術を開発し放つが、それが引き金となって失われた属性王にして最凶の魔神が復活してしまう。
近くの迷宮で闘うことになったが、またもや強斎の圧倒的勝利になる。
魔神は『ゼロ・ヴァニタス』と名付けられた。
実はゼロは強斎に一目惚れしたらしく自分のものにしたかったが、自分がものになるのも悪くないようだった。
その後、大迷宮『コトリアソビ』を作成しその中で奴隷たちとハンデをつけて戦うもの、やはり圧倒的勝利で終わる。
その二ヶ月後、強斎達は転移門前の森でゆっくりとしていた。
そして、同時刻。ヴェレスを加えた勇者一行も転移門前の森にレベリングに来ていた。
勇者一行が危険な状態になったところ、強斎の奴隷であるルナが助けに入る。
そして、ルナは勇者達を鍛えるが、強斎のことに関しては触れずに別れてしまった。
強斎がいざ転移門から魔界に行こうとした時、何を思ったのか強斎はドレット王国に旅立ってしまった。
その間、ゼロが「妊娠した」等言うが最終的には強斎の『特殊能力』の可能性について奴隷たちに説明する。
ドレット王国についた強斎は仮面を被り勇者と戦うい剣を床に刺していくが、何と魔人と勘違いされたまま去ってしまった!
その後、強斎は奴隷たちの下に帰り魔界へ足を踏み入れるのであった。
勇者一行は仮面の魔人が来たことにより、一層危機感を感じるようになる。
そこで、最強の冒険者『ショクオウ』に接触することを決心し、勇者はシッカ王国でベルクと戦うことになった。
見事ベルクに勝利したが、何と『ショクオウ』はもうこの街にいないと知らされる。
振り出しに戻った矢先、何と『ショクオウ』が死んでた思っていた友人小鳥遊強斎だと知らされるのであった!
その強斎は魔界のとある国をのっとり、『暗黒騎士』と名乗って魔王である『キャルビス』をこき使っていた。
そして、ゼロが日本語を読めたことにも驚きつつ、奴隷たちに本心を告白する強斎。
更に絆が深まった奴隷に強斎は感動する。
そして、ゼロと強斎は奴隷たちの強化を唐突に始めるのであった……




以上が簡潔な説明になります!
わからない点がありましたらこのように説明回を書いてみようと思いますので、感想やメッセージ。twitter等で知らせて下さい!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]61話 引き金っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです
[#ここで字下げ終わり]




「えっと……主様? 『遠隔操作』とはなんですか?」
 ルナは強斎に『遠隔操作』をマスターすると言われたが、意味を理解していなかった。
「あー……。まぁ、武器を手に持たずに、離れた場所で意のままに動かすことだな」
「そんなことができるのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「そんなことって……。ルナも使ってるはずだぞ?」
「え?」
 ルナは首を傾げ、自分がいつ使ったのか考えているが中々出てこないようだ。
「……すみません、ちょっと覚えてないです」
「まぁ、覚えてないじゃなくて自覚がないが正解か」
 そう言って、強斎は手のひらの上に『ファイアボール』を生成させた。
「ルナもやってみな」
「あ、はい」
 ルナも言われたとおり『ファイアボール』を生成した。
「この『ファイアボール』をこんな感じに――――壁に当たる瞬間に止めることはできるか?」
 強斎は『ファイアボール』を投げつけ、壁に当たる瞬間にその動きを止めた。
「はい、それくらいなら」
 ルナも真似して壁に当たる瞬間に動きを止める。
「じゃあ、次に止めた『ファイアボール』を自分の手のひらに戻すことは?」
「それも問題ありません」
 ルナと強斎は止まったままの『ファイアボール』を元の位置まで持ってきた。
「つまりは、こういうことだ」
 そう言って、強斎は『ファイアボール』を消した。
「どういうことです?」
 続いてルナも消す。
「さっきの『ファイアボール』を使った行動……あれが遠隔操作だ」
「さっきのが……。で、ですが武器の遠隔操作とは関係ないような気がします。どうやるのですか?」
「それを今から説明する」
 強斎は持っていた剣を、軽く放り投げる。
 そして、放り投げられた剣は放物線を描き地面に落ちる――――はずだった。
「剣が……止まった?」
「いや、魔力を圧縮した線みたいなものを繋げただけだ?」
「線……ですか?」
「ああ」
 強斎は頷いてから、ルナに感じ取れるように魔力を放出する。
「あっ」
「わかったか?」
「はい、主様から魔力の糸みたいな線が出ていて、それが剣に絡みついています」
「正解だ。そして、この線がこれから必要になってくる」
 強斎は、剣をそのままルナのところに持っていく。
「ちょっとやってみ。あ、最初は放り投げるなんてしないほうがいいぞ」
「はい」
 ルナは剣を受け取り、先ほど強斎がやったように魔力の線を剣に絡みつけ、ゆっくりと剣を離した。
「で、できました」
「よし、じゃあそのまま動かずに、外に剣を持って行ってみろ」
「? わかりました」
 ルナは言われたとおり、魔力の線を繋げたまま剣を外に持っていこうとした……だが。
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 剣がルナから一定の距離をとったところで、ルナの顔は驚愕に染まり直ぐに剣を手元に引き戻した。
「どうした?」
「す、すみません……。何故か、急に体から何かを吸い取られる様な感覚に襲われまして……」
「じゃあ、自分のステータスを見ながらもう一度やってみろ」
「わかりました」
 ルナは自分のステータスを開き、先ほどと同じように剣を触れずに動かす。
 そして、一定の距離まできたところで……。
「っ! 主様、MPの減りが十倍以上の速度になりました」
「ああ、もうやめていいぞ」
 ルナは直ぐに剣を手元に持ってきて、魔力の線を切る。
「これも……遠隔操作なんですよね?」
「そうだ、一応遠隔操作だが……あまりにも効率が悪過ぎる」
「はい、私のMPの量でもそんなに長くはもたないと思います」
「そこで出てくるのが召喚魔術だ」
「……理由を訊いてもいいですか?」
「知っていると思うが、召喚魔術は位置を指定してそこから召喚する」
「はい……ってまさか……」
「そのまさかだ」
 強斎はニヤリと笑って再度口を開く。
「指定した位置から、さっきの魔力の線を伸ばす」
 そう言って強斎はルナの背後を指差す。
 ルナはその指先を追うように振り向き、驚愕した。
「剣が回ってる……」
 そう、剣が空中で回っていたのだ。
「まぁ、こんな感じにしっかりとできるわけだ。伸ばす線も短いから長持ちするしな」
 そう言うと、剣が何もない空間に消えていった。
 強斎が召喚元に返したのだ。
「もしかしたら慣れるのに時間がかかるかもしれないから、これをルナにやるよ」
「……これは?」
 強斎はアイテムボックスから何かを取り出し、ルナに手渡した。
「それは、ショットガ――――まぁ『魔銃』と言っておこうか」
「『魔銃』ですか……」
「使い方はいたって簡単。『魔銃』に魔力を込めて引き金を引くだけ。魔力弾より圧倒的に効率がいいはずだ」
「ちょっと使ってみていいですか?」
「ああ」
 ルナは外に銃口を向けて魔力を込める。
「とりあえず五万でいきます」
「五万[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ルナ! やめ――――」
 強斎が止めようとした時には既に遅かった。
 五万ものMPを込めて引き金を引いてしまったのだ。
 その結果――――――。


「すみません、主様……」
 超極太のレーザーが銃口から放たれ、ルナの前方は跡形もなくなり部屋も衝撃波で崩れかかっていた。
「いや、俺が先に言わなかったのに否があるしな。それに銃弾の破壊力の割に衝撃波が少なかったからそこまで気にする必要はない」
「……ありがとうございます!」
 申し訳なさそうにするルナの頭を撫でると、ルナはすぐに笑顔になって元気になった。
「とりあえず、金髪ロールの魔法少女みたいに使えるように大量に作らないとな」
「金髪ロール? 魔法少女?」
「いや、こっちの話だ」
 そう言ってゼロ達の帰りを待つ強斎だった。


    ***


 ここはとある場所のとある空間。
 ここで四人の王が睨み合い、一人のギルドマスターがそれを見守っていた。
「で、結局我が国メシア王国と同盟を組んだフィリス王国と、そちらのドレット王国、ライズ王国が戦争する形でいいのか?」
「どうしても下につく気はないのだな?」
「あたりまえだ!」
 ドレット王はメシア王に最終確認を取るが、怒りを買っただけだった。
「わかった。ではシッカ王国代表のギルドマスター。人間界で最も大規模な戦争の開始を合図してくれ」
 ドレット王は静かにベルクにそう頼んだ。
「……本当にいいんだな?」
「いいと言っているだろう! ギルドマスターの分際で――――」
 メシア王がベルクに怒鳴りつけたところで、ベルクは威圧を使って静粛させた。
「ここでは全員対等だ。少しは静かに――――」
 そうベルクが言いかけたところで、地面が激しく揺れた。
「なっ、地震か[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ありえない! ここは秘密裏に作られた別空間だぞ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 地震など起こるはずがない!」
 ドレット王の疑問をベルクが全否定する。
「くそっ、一体どうなっているんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ベルクがそう吐き捨てた時、変化が起きた。


 ――――――パリン。


 そんな音が響いて空間が割れたのだ。
 そして……。
「こ、国王様方[#縦中横]!?[#縦中横終わり] どうしてこんな危険な場所に[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 人間界への転移門の近くに放り出されてしまったのだ。
 ベルクは目の前にいた男に話しかける。
「貴様が空間を割ったのか?」
「い、いえ。私はシッカ王国に報告することがあって、人間界に戻ろうとしたところなんです」
「報告すること?」
「あ、もしかしてベルクさんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ああ、俺がベルクだ」
「ちょうど良かった……。ベルクさん! 戦争を開始させないでください!」
「……訳を聞こうか」
 ベルクは後ろで警戒している王たちを横目で確認して、その王たちに聞こえないように言った。
「実は……――――『ショクオウ』が殺されました」
「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
 ベルクの余りにも大きな驚きっぷりに、王たちまでが驚いた。
「どういうことだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] あの『ショクオウ』が殺された? ふざけるのも|大概《たいがい》にしろ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 そして、いつも冷静なベルクが余裕がなく叫んでいることで、王たちもただ事ではない事を察知した。
「で、ですが本当なんです! 仮面の魔人が『ショクオウ』の剣を持っていて『ショクオウは俺が殺した』って言い、神級クラスの魔術を時間差なしで連発もしました!」
「仮面の魔人だと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 話を聞いていたドレット王が割り込んできた。
「ドレット王、知っているのか?」
「ああ、一度城内に侵入してきて、ライズ王国の勇者相手に圧倒的な実力差をつけて勝利した災害だ」
「……おい、勇者って何人いるんだ」
「今は八人だ」
(俺に勝ったあの勇者が八人いるってことか? だが、あの『ショクオウ』は勇者よりも遥かに強い……。本当に死んだかどうかはにわかには信じ難いな)
「おい、その仮面の魔人に付き人はいたか?」
「はい、四人いました」
(四人か……その仮面の魔人が『ショクオウ』ってことはなさそうだな)
 ベルクは冷静に考えているつもりだったが、傍から見れば全く冷静ではなかった。
 そして……。
「おい、ドレット王」
「……なんだ」
「ちょっと勇者借りるぞ?」
「……勇者方に言ってくれ」
「ちょっと待て! 戦争は――――」
「こんな時に人間界で戦争なんてしてられるか[#縦中横]!![#縦中横終わり] 俺たちが今から戦争するのは――――」
 ベルクはメシア王を睨めつけて、全力で魔力を開放した。
「――――ここ、魔界だ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」


[#ここから6字下げ]
今回で説明みたいな話は終わりです。
そして物語は動き出す……
次回はお待ちかねの勇者視点!
ですが閑話を考えています
それが終わったらちゃんと物語が動きます
ついでに、再会シーン決まりました
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]閑話2 強斎は地球でもチートっぽい 前編[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
閑話第二話目です!
今回の閑話は本編と関係あるので読んでくれると嬉しいです
え? 前回の閑話と『っぽい』の位置が違う?
気にしてはいけません!
[#ここで字下げ終わり]




「澪、MP大丈夫[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「余裕!」
「ヴェレスは[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「大丈夫です!」
 鈴は二人に確認をとったところで、前衛で戦っている四人に大声で呼びかけた。
「五秒後に決め技使うから下がって!」
『了解!』
「緋凪! 琴音! 前衛が下がれるように援護お願い!」
『わかった!』
 前衛に指示を出してから二秒経過している。
 それでも鈴は、余裕をもって目の前の迷宮ボスである魔物を見ていた。
(敵の残りHPも僅か。私も澪もヴェレスも『あの技』を使うのに充分なMPを温存している。心配なところは大地のHPが残り半分しかないってぐらいね)
 鈴は一瞬でそう解析すると、次は状況を解析し始めた。
(緋凪達の援護はもう始まって、勇志たちも撤退できそうね。澪とヴェレスの魔術の詠唱も完成しているっぽいし、私もやらないとね)
 そして、鈴は僅かコンマ五秒で詠唱を終わらす。
「皆! いくよ!」
 鈴は自らの目の前に巨大な火球を生成させ、そう叫んだ。
「属性強化」
「魔術強化」
 鈴の火球に澪とヴェレスはそれぞれブーストをかけた。
「人にかけるはずのステータス向上魔術を、魔術そのものにかけた威力……味わいなさい[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 口元を釣り上げ、その火球を弱った魔物に向けて放った。
(この魔術の弱点は私たち三人の息が合っていないと発動しないこと、それと消費MP、最後に放った後のスピードと操作不可ぐらい。リスクは大きいけど、そのリスクには似合わない程の威力を持っている)
 鈴の放った火球は遅いとまではいかないが、決して早くなかった。
 本来なら避けることができる魔物だったが、結構なHPを削られていたため直撃してしまった。
 そして――――。
「やばい! 伏せろ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 大地の叫び声がしたと思ったら盛大に爆発し、その爆発音が聴覚を支配していた。
 先ほどの魔術は威力だけなら帝級魔術に属する。
 明らかな|過剰攻撃《オーバーキル》だった。
「……やったか?」
「あの魔術をまともに受けて絶命しない生命なんて、そうそういないと思うけどね」
 信喜が煙越しの魔物を確認しようとするが、勇志が苦笑い気味に答えた。
「そもそも、あの魔術で死なない魔物だったら僕たちにはまともにHPが削られないよ」
「それもそうだな」
 煙が晴れ、魔物を確認するがどこにもいない。
 跡形もなく消し飛んだのだ。
「なんだかんだ、これが初めての迷宮制覇だな」
「そうですね、迷宮を制覇するとその迷宮の所有権が得られますので、この迷宮の魔物からは襲わられなくなります」
 大地の呟きに、ヴェレスは何かを探しながら答えた。
「何を探しているの?」
「あ、ミオさん。実は――――あ、ありました」
 ヴェレスは壁を思いっきり蹴って、その壁を壊した。
「やっぱりここでしたね。ここから、迷宮の所有権を持っている人は地上に戻ることができるんですよ」
「そ、そうなの……」
「どうしたんですか?」
「いや、なんかギャップが凄くて……」
「? なんのことかわかりませんが、もう地上に出ますか?」
「せっかくだから、もうちょっとここにいたいかな?」
 澪が代表して答えてしまったが、他の皆も特に異論はなさそうだ。


「そう言えば、私たちも変わったよね……」
 鈴が唐突にそう呟いた。
「ここに来る前は戦法とか全然わかってなくて、ゲームもあんまりやらないから魔物とかもわけわからなくて……。それが今ではこれだよ? たった五ヶ月しか経ってないのに人間って変われるものだよね」
「さっきの鈴ちゃんかっこよかったもんね! 何か本能的に逆らえないっていうか、勝手に体が鈴ちゃんの言う通りに動いちゃったもん」
 緋凪が素直に賞賛するが、鈴は苦笑いをするだけだった。
「ああ、強斎が今の俺たちを見たらびっくりするだろうな」
「私、あんまり変わってないんだけど……」
 大地の言葉に一番反応したのは澪だった。
「別に、強斎は変化なんて求めてないと思うよ?」
「鈴は大魔術が使えるから余裕だよね……」
「最強の冒険者様に自慢できるかわからないけどね。それに、本当の大魔術は澪とヴェレスがいないとできないわけだし」
「個人で王級魔術使える時点で、自慢以前に恐れられますけどね」
「ヴェレスも痛いところつくわね……」
 数日前、ベルクから強斎生存報告を受けた勇志は、早速全員にその事を告げた。
 その時の賑わいっぷりは、それはもう凄かった。
 特に、澪は飲んだことのない酒を倒れるまで飲んでいたのだから。
(あの日……強斎が死んだと思った日から私たちは変わってしまった……勿論、悪い方向に。だけど、今は違う……。強斎が生きていると知っただけで確実に良い方に変わり始めている)
 鈴はそう考えると思わず笑ってしまった。
「リンさん? どうしたんですか?」
「やっぱり強斎は凄いなぁって思って」
 鈴がそう言うと、ヴェレスは少し口ごもってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いえ……。前々から訊こうと思ってたことなんですが……」
「前から?」
「はい、ですが私の不注意故に起きた災害でしたから中々伺えなくて……」
「あー、強斎のこと?」
「……はい」
 ヴェレスはやはり申し訳なさそうにしていた。
 生きていると報告されてから少しは肩の荷が降りたはずだが、やはりどこか罪悪感があるようだ。
「よければ、皆さんの第一印象から教えてもらえませんか?」
「第一印象って……まぁいいけど」
 そう言われ強斎と出会った時を思い出す鈴。
「他の男とは違う男?」
「鈴は男の子苦手だったもんねー」
「澪だって強斎以外の男とはあまり遊ばなかったじゃない」
「あまりじゃなくて、一度も遊んだことないよ?」
「それもそれで怖いわ……」
 その時、ふと大地と目があった。
「そう言えば、私が大地と出会ったのも強斎のおかげだけど……大地は? 強斎の第一印象ってどんな感じに取れたの?」
「そうだな……一言で表すなら――――」
 大地は似合わない苦笑いを浮かべ、はっきりととんでもないことを言った。


「――――化物……だな」
「化物って……澪に怒られるよ?」
 鈴は澪の異常なまでの強斎愛を知っている。
 半分冗談抜きで冷や汗を流しながら澪を確認した。
 しかし、澪は怒るどころか……。
「……うん、確かにそうかも」
 肯定してしまったのである。
「あー、確かにそうかもね。うん。強斎は化物だったよ」
「私も澪ちゃん達と同感。強斎君は本物の化物……所謂チートってやつ?」
 勇志と緋凪も強斎のことを化物呼ばわりしていた。
「え? え? ちょっと待って。強斎が化物? どういうこと?」
「そのままの意味だよ。多分、この世界に来て強斎だけが弱くなったと思う」
「澪……それって……」
「うん。強斎は喧嘩に関しては化物レベル……ううん。本来ならありえないレベルで強かったの」
「ありえないって……流石に言い過ぎじゃない?」
「いや、そんなことはない」
「大地まで……」
「鈴は、俺の家系が総合格闘技を教えている事は知っているよな?」
 鈴は無言で頷く。
「総合格闘技って言うのは、ありとあらゆる格闘技をマスターしなければならない。故に、総合格闘技を極めた者こそ最強と言っても過言ではないんだ。そして、親父は世界レベルで強かった……だが」
「……」
「親父や、俺の兄弟含む門下生はたった三〇分で全滅したよ……強斎の手によってね」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ど、どういうこと[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「そのままの意味さ。強斎は世界レベルの親父だけではなく、総合格闘技を習っている者数十人を相手に戦い……いや、ワンサイドゲームをしたんだ」
「強斎は武器を使ったの?」
 大地は無言で首を振る。
「いや、強斎は使っていない。むしろ、門下生達が武器を使ったんだ」
「さっきから話を聞いてると、大地は参加しなかったように聞こえるけど……」
「ああ、俺は参加しなかったよ……と言うより」
 大地はその時を思い出しながらポツリと呟いた。
「強斎が参加したと言ったほうがいいな」


[#ここから6字下げ]
澪、鈴、ヴェレスの合体技の名前を募集しています
攻撃特化の火属性です!
次回から地球に戻ります!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]閑話2 強斎は地球でもチートっぽい 中編[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回は久しぶりの地球です!
[#ここで字下げ終わり]




「くっ……化物め!」
 誰かが、目の前の人間に吐き捨てるように言った。
「いい加減家に返してくれないか? お前たちじゃ練習相手にすらならない」
 化物と呼ばれた人間……鷹見大地はあくまでも冷静に答える。
 たとえ数人に囲まれていようとも。
「うるせぇ! 一年のテメェが目立ってるせいで俺の面子が丸つぶれなんだよ!」
「ただの逆恨みじゃないか」
「あぁ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なめてんじゃねぇよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 男はそう叫ぶと、大地に殴りかかった。
「なめられているのはこっちの方なんだがな」
 大地は男の拳を蹴りで叩き落とした。
 そして、そのまま裏拳で男の顔に打撃を与える。
「お前は馬鹿なのか? いい加減力の差を自覚しろ」
 男は大地の裏拳をまともに喰らい、数メートル吹っ飛んでいた。
 その結果だけでも、大地がどれだけ化物じみているか周囲の人間は充分理解した。
「ほ、本物の化物かよ……!」
 誰かのその一言がきっかけとなり、大地を囲んでいた男の仲間は男を残してその場を去った。
「……俺も帰るか」
 そして、大地も男を残してその場を去ろうと男に背を向けた……その時。
「がぁぁぁぁ[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
 顔をものすごい力で殴られたはずの男が、手に刃物を持って大地に襲いかかったのだ。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 大地もまさか男が意識を取り戻すとは思っていなかったらしく、驚愕で一瞬怯んでしまった。
 そして、手に持っていた刃物を見て、その怯んだ一瞬を後悔する。
(くっ……! 避けきれないっ!)
 大地は刺される覚悟で目を瞑った。
 しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこないことに疑問を感じ、恐る恐る目を開ける。
「おい、大丈夫か?」
 目の前には、先ほどの男とは違う男が立っていた。
 その男は大地と同じ制服を着ていて、しかも同じ一年生だった。
 だが、大地の気にするところはそこではない。
「……どこから来た?」
 刃物を持った男が倒れていることから、この男がやったのは間違いない。
 だが、人の気配には敏感な大地が、全く気が付くことなく目の前に男は現れたのだ。
「どこからって……普通にお前の後ろからだが?」
「俺の後ろから? そんな馬鹿な――――」
 と、そこまで言いかけたところで口を閉じて考え事をする。
(ちょっと待て、この男はどうやってあの男を撃退した? 俺が目を瞑っている間? そんな馬鹿な。俺が目を開けている時には周りに誰もいなかった。俺が目を瞑ってから刃物が当たるまでの時間は本当に一瞬だぞ? その間に誰にも気がつかれずに音もなく倒したというのか?)
 大地は自分の気配察知能力には少しだけ自信があった。
 だが、この男は文字通り気配を完全に消して大地の前に現れたのだ。
「てか、刃物持った奴から狙われるって……お前何者だ?」
「それはこっちのセリフだ。どうやって気配を完全に消したまま瞬間移動並みの速度で動けるんだ?」
「別に気配を消した訳じゃないし、俺は瞬間移動なんて使えない」
「……そうか」
(確かに、相手に自分の技を教える訳にはいかないもんな)
 大地は男が何かを秘密にしていると思い、これ以上探らなかった。
「すまないな。俺の家柄のせいで、どうしても知りたくなってしまってな」
「何を納得したかわからんが、わかった」
「さっきの質問だが、俺は逆恨みでこの男に襲われただけで、特にこれといった事情はない」
「そうだったか……それは災難だったな」
 男はそう言うと、大地に背を向けて歩み始めた。
「まぁ、こんなことそうそうないと思うがこれからも気をつけろよ? 俺はそろそろ帰るから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 大地は立ち去ろうとする男を呼び止める。
「お前の名前は……なんだ?」
「ああ、名乗ってなかったか。俺の名前は小鳥遊強斎。お前は?」
「鷹見……大地だ」
「大地……ね」
 強斎はそう呟くと、また歩み始めた。
「今度は普通に学校で会おうぜ」
「……そうだな」
 そして、強斎が去ったのを確認した大地は、刃物を持った男を一瞥して自分の家に向かった。
…………
……
……
「よぉ。遅かったじゃねぇか」
「ちっ」
 大地が家に帰ると、大地に少しだけ似た男が不気味に口元を釣り上げながら迎えた。
 大地は心底嫌そうに舌打ちをしてスルーする。
「おいおい、偉大なお兄様を舌打ちしてスルーとはいい度胸じゃねぇか? ああ?」
「うるせぇよ落ちこぼれ兄貴」
「なっ! へ、へぇ。お前も言うようになったな……。昔は俺にボコボコにやられたくせによ」
「昔は昔だ。今となったら兄貴は俺に戦うことすら拒むだろ? 俺にボコボコにやられるのを恐れて」
「き、貴様ぁ!」
 大地はそんな兄を放っておいて自室に向かう。
(昔はあんなのじゃなかったのによ……。稽古もサボらずやってたら、いつか親父に追いつくぐらい強くなってたのにな)
 大地は少しだけ兄を哀れんだが、その考えを直ぐに振り払った。
(とりあえず、今日は早めに寝よう。色々ありすぎて疲れたな)
 そして、大地は自室に入っていった。
 そんな大地に怒りの視線を送る人間がいた。
「あの野郎……覚えていろよ」
 大地の兄はそう言ってその場を立ち去った。
…………
……
……
「強斎、ちょっといいか?」
 大地と強斎が知り合って数日後、深刻な顔をした大地が強斎のクラスに訪れた。
「どうした、そんな顔して」
「実は……」
 大地は手に持っていた紙を強斎に渡した。
 強斎も慎重に貰いその手紙の内容を確認した。
「…………」
「俺はどうすればいい?」
「とりあえず爆発しろやぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「ごふぅっ!」
 強斎は大地の腹部を殴った。
「何か大変なことでも起きたのかと思ったら何だこれは[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ただのラブレターじゃねぇか!」
「だ、だから俺は強斎に助けを求めているんだ。俺はこういうのについては全く未経験でな……」
「俺だって未経験だよ! ていうかラブレターすらもらったことねぇよ[#縦中横]!![#縦中横終わり] マジで爆発しろよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「それは済まなかったな……だが、困ったぞ」
「別に俺以外の奴に訊けばよくないか?」
「生憎俺はそこまで話す方じゃなくてな。お前以外友達と言える奴はここにはいない」
「なんだボッチか」
「気にしてるからやめろ」
「で、話を戻すが……お前はどうしたいんだ?」
「とりあえず、断ろうと思う」
「まず爆ぜろ。で、なんで断るんだ? それと爆ぜろ」
「俺は恋愛とかは興味あるが、今はやりたいことがある。そっちを優先したい」
「総合格闘技か」
「……ああ」
「まぁ、やりたいことがあるならしょうがないな。ってことは、俺にどうやったら相手を傷つけないように断るかを訊きに来たのか?」
「まぁ、そんなところだったが……」
 大地は困ったようにため息を吐く。
 そんな大地の肩に、強斎は手を乗せてとある提案をした。
「この学校に小さい頃からの友達がいるんだ。そいつは女子だから、そいつに直接訊けば解決すると思う」
「だが……大丈夫なのか?」
「ああ、そいつは絶対に秘密を守る。ほかの奴にバレることはない」
「よくわからんが、大丈夫ならいいか。確かに渡してくれた女の子に悪いもんな」
「もう一度言う、爆ぜろ」
「……」
…………
……
……
「おーい。澪いるか?」
「あ、強斎! どうしたの?」
 澪と呼ばれた少女は、強斎が呼ぶと直ぐに駆けつけてきた。
「済まないな、用事があるならそっち優先していいんだぞ?」
「大丈夫! 用事なんて――――」
「澪さん、アンケートの集計終っ――――がふっ!」
「用事なんて何にもないから!」
 澪は何かを言いかけた男子生徒を突き飛ばして、言葉を遮った。
 高校に入ってからそこまで時間は経っていないはずなのに、物凄い馴染みっぷりだ。
「本当に何にもないのか?」
「うん!」
「さっきアンケートの集計って――――」
「何にもないよ!」
「そ、そうか。実は澪に教えて欲しい事があってだな……」
「私に教える事が出来るなら、なんでもいいよ」
 澪の了承を得たところで、強斎は少しだけ声のボリュームを落とす。
「実はあまり知られたくないことだから、内密に頼む」
「う、うん。わかった」
 強斎は周りに聞こえている人がいないか確認して、澪に質問をする。
「もしもの話になるんだが……」
「うん」
「もし、澪に好きな人がいるとするだろ?」
「っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ど、どうした? 具合でも悪いのか? 顔が真っ赤だぞ……」
「ふぇ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] な、にゃんでもない[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 澪はかなり動揺していて、その変化っぷりは物凄くわかりやすかった。
 強斎以外の人間は澪の動揺に気が付いているだろう。
「話を戻すが、澪がその男に告白したとする」
「ちょ、ちょっと待って! 準備! 心の準備するから!」
「お、おう」
「すー……はー……よし。うん、いいよ」
「それで、その告白が断られたとする」
「……え?」
「その時、どんな感じに断られれば傷つかない?」
「ちょっと待って……え?」
「いや、だから……まぁ、例えだけど。もし澪が俺の事を好きで俺に告白した時、俺はどう断れば澪は傷つかずに済む?」
「え? え? そ、それ答えなきゃ……ダメ?」
 澪は今にも泣きそうだが、強斎は澪の顔を見ていなかった。
(流石に俺と澪で例えちゃ不味かったかな……勝手に俺のことを好きという設定にしちゃったし……嫌がってなきゃいいけど……)
 罪悪感で顔を直視できていなかったのだ。
「本当に答えないと……ダメなの?」
「ん、まぁ……答えてくれると嬉しいな」
「……強斎の」
「え?」
「強斎の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ[#縦中横]!!![#縦中横終わり]」
「ぐはぁっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪はそう叫んで、強斎の腹部に強烈な右ストレートを打ち込んだ。
「例えの話でも……! そんなストレートに訊かないでよ! 馬鹿っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「え……ちょ……」
 澪は強斎の呼び止めに反応することなく、その場を早足に去っていった。
「……大地、これが結果だ。どんな感じに振っても結局は殴られるらしい」
「お前馬鹿だな」
「なっ、俺はお前の為に体まではったんだぞ! それを馬鹿呼ばわりとは失礼な!」
「流石に今のは俺でもわかったわ」
「……何がだよ」
「自分で気がつけ」
 大地は強斎に『気がつけ』と言っているが、大地自身も気がついていなかった。
 ずっと後を付けられていることに。


 結局、大地はやんわりと告白を断った。
 勿論殴られてなどいない。


[#ここから6字下げ]
今回の閑話は見ての通り大地メインです
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]閑話2 強斎は地球でもチートっぽい 後編[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです
PCと格闘しながらやっと投稿できました
いい加減携帯で投稿できるようにしておいた方がよさげかもしれません……
[#ここで字下げ終わり]




「た、小鳥遊君!」
(ん?)
 入学して暫く経ち、もう春というには暑いとある日。
 下校しようとした大地の耳に、知った人物の名前が入ってきた。
(校舎裏か……内容は大体予想つくが……)
 大地は少しだけ考えた末に覗く事を決意した。
 好奇心に負けたのである。


「小鳥遊君! す、好きです! 私と付き合ってください!」
「……」
 大地が目撃したのは、ちょうど女子が勇気を振り絞って告白した時だった。
 そこで大地はふと疑問に思った。
(あいつ、ラブレターもらったことないって言ってたが……。嘘だったのか?)
 強斎が手に持っているピンク色の手紙。遠目に見てもはっきりとわかる『ラブレター』である。
 強斎はその手紙を見て、ゆっくりと口を開いた。
「君に質問がある」
「は、はい!」
「何故俺なんだ?」
「それは……その……カッコイイし優しいし……」
 強斎は顔色一つ変えずに再度口を開く。
「君は婚約の予定とかあるのか?」
「こ、婚約[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ああ」
「え、えっと……その……あの……」
 強斎は暫く待つが、女子の方は少し経つと黙り込んでしまった。
 そして……。
「……そうか」
 そう言って、持っていた手紙を女子に渡した。
 そして、その意味は……。
「――っ!」
 女子は瞳に涙を溜めて、勢いよく走り去ってしまった。
 大地はその隙にこの場から離れようとするが……。
「おい、居るんだろ?」
 やはり見つかってしまった。
 大地はおとなしく強斎の前に姿を現す。
「人の告白を覗き見とは失礼なやつだな」
「お前の事だから告白とすら思っていないと思ったが、ちゃんと自覚はあったんだな」
「それこそ失礼だ。俺は女の子の好意に対しては敏感だと自負している」
「それだけは絶対にない」
 大地は大きなため息を吐いて、強斎を睨めつけるように見た。
「なんで断ったんだ?」
「? 断ったつもりはないが?」
 そして、強斎のその一言に唖然とした。
「あれで断ったつもりはないだと?」
「ああ」
「婚約どうこう言ってたじゃないか」
「付き合う前から結婚するかどうかなんてわかるわけないだろう。まぁ、付き合ったなら結婚までいきたいがな」
「手紙を返したじゃないか」
「? それがどうしたんだ?」
「……」
「どうした?」
 大地は強斎を何とも言えない目で見ていた。
(ここまでくると重症だな……いくらなんでも酷すぎる)
「なんだその目は」
「お前、ラブレターもらったことないって言ってたよな?」
「ああ、さっきのが初めてだ」
「初めてか……ならしょうがないのか?」
「何がしょうがな――――」
「ちょっと待って、誰か来たぞ」
「誰か? 誰なんだ?」
「……は? 何にも感じないのか?」
「? 感じるって何を?」
「気配とか――――」
「二人共はっけーん」
 大地が答えようとしたところに、一人の女子生徒が乱入してきた。
「強斎と大地はここで何をやっているのかな?」
「何だ、澪だったか」
 どこかいたずらっぽい雰囲気を漂わせる笑みで質問する澪。
 それを完全にスルーする強斎であった。
「何だとは何よ」
「いや、大地が大袈裟な事言うから警戒していたんだ」
「大袈裟?」
「ああ、気配がどうとか」
「大地……そういうのは中学二年生までにしようよ……」
「…………そうだな」
(気配を隠した俺には気付いて、澪には全く気が付かなかった? あの時の強斎が嘘をついているとは思えんし……)
「強斎、お前は一体何なんだ?」
「わお。唐突に難問出すなよ」
「そ、そんなことより早く帰ろうよ!」
 澪が少しだけ焦り気味だったが、二人はその焦りに気が付くことはなかった。
「あ、俺トイレ行ってくるわ」
「ん、いってらっしゃい」
 三人が校舎裏から出ようとした時、強斎はそう言って早々といなくなってしまった。
「……なぁ」
「強斎はね、多分生まれる世界を間違えたんだよ」
 大地が何かを言う前に澪がポツリと呟いた。
「それはどういうことだ?」
『生まれる世界を間違えた』
 そう言われたら本来なら軽く受け流す大地だが、この時ばかりは受け流さなかった。
「強斎、さっき告白されたでしょ?」
「……ああ」
「その時に何か疑問に思わなかった?」
「……三つほどある」
「……」
「まず、強斎はラブレターをもらったことがないと言っていたが、あれは嘘だろう?」
「残念。本当だよ。私の知る限りはね」
「高校に入学してまだ半年も経っていないんだぞ? それなのにもう告白されている……おかしいだろ」
「私達の母校は小中一貫だったの」
「それがどうしたって言うんだ?」
「そして、強斎は小学生の時事件を起こした。そして、それがきっかけで強斎は異常に怖がられるようになった……」
 その時、澪が歯を食いしばって苦しそうにしていたのを、大地は見逃さなかった。
「強斎の事を好いているのはその事件に関係があるのか?」
「あはは……やっぱりわかっちゃった?」
「あんなにもアピールしてたのにわからない奴は、強斎ぐらいだと思うがな」
「そんなにわかり易かったかぁ……」
「事件については訊かない方がいいみたいだな」
「うん、そうしてくれると助かる」
「二つ目、強斎はなんであんな質問をした?」
「婚約がどうこう言ってた?」
「よくわかったな」
「うん、あれはただひねくれているだけ」
「本当にそうなのか?」
「多分ね」
「じゃあ三つ目……澪、お前は何者だ」
「小鳥遊強斎の嫁です」
「……茶化すな。何故強斎は澪の気配を感じ取れなかった?」
「だから、そういうのは中学二年生までにしようよ……気配とか私もよくわからないし……」
「……本当か?」
「うん」
(あいつのことを知ろうと思ったら余計に謎が出てくる……。本当に何者だ……?)
 大地が今までの収穫を整理しようとした時、澪がそう呟いた。
「強斎帰ってくるの遅いね」
「俺が見に行ってくる」
(直接強斎に訊きたいこともあるしな)
 そして、大地はその場を一旦去った。
 そんな大地の背中を見て、澪はため息を吐く。
「ごめん、やっぱり全部を話せる勇気は私にはない……大地を信用していない訳じゃないけど、強斎以外の男性はちょっと苦――――っ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
「ちょっと眠っててもらおうか」
 いきなり背後から口を何かで塞がれ、何も喋れなくなった澪。
 校舎裏なので人通りもなく、助けも来なかった。
「んー! んー[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
(誰[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 誰が私……を……)
 そして、澪は急激な睡魔に襲われ眠ってしまった。
…………
……
……
「……何があった?」
 大地が強斎に合った時の第一声がこれだった。
「ちょっと肩がぶつかっただけだ」
「肩がぶつかっただけじゃ人は気絶しないぞ?」
 そう、二人の目の前には気絶した上級生が五人いたのだ。
「まぁ、いいじゃねぇか。大地、戻るぞ」
「あ、ああ」
 そして、二人がその場を立ち去ろうとしたとき、倒れている上級生の一人が不気味に笑った。
「もう……おせぇよ」
「……何がだ」
 何故か苛立っている強斎は、怒気を込めて問う。
「もう、鷹見さんがあの女を拉致した。俺達の勝ちだ」
「……鷹見?」
 強斎は大地の方を見る。
 大地の雰囲気は怒りに満ちていた。
「あの……クソ兄貴がぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 大地はそう叫んで走って去ってしまった。
「あ、大地! ……おい、拉致したってどういうことだ」
「そのままの意味だ。鷹見さんは弟の前でその女を犯すんだってよ」
「犯す? 何故だ」
「知らねぇよ。ただ、かなり可愛いらしいから羨ましい限りだ」
「その女の名前は?」
「は? 教える訳ね――――がぁぁぁぁ[#縦中横]!!![#縦中横終わり] 教えます! 教えます[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎は上級生の足を踏みつけて無理矢理にでも吐かせようとした。
「で、誰なんだ?」
「はぁ……はぁ……その女の名前は……洞爺み――――ぎゃぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 足がぁ! 足がぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 上級生の足は強斎に踏みつけられ、あらぬ方向に曲がってしまった。
「おい、澪はどこにいる」
「足がぁぁぁ……」
「足がじゃねぇよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「ぐふっ!」
 胸ぐらを掴み、無理矢理立たせてから腹部に膝蹴りを入れた。
「げほっげほっ!」
「いいからさっさと澪の居場所を吐けや[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 もう一度同じところに膝蹴りを入れる。
「ごめんなさいごめんなさい……」
「謝るより先に居場所を教えろって言ってるだろうが!」
 次に太ももを蹴る。
 鳴ってはいけない音が鳴り、五メートル程吹っ飛んだ。
「し、死ぬ……殺される……!」
 上級生は這いつくばって逃げようとするが、強斎は片手で頭を掴んで釣り上げた。
「なぁ、早く言わないと本当に死ぬぞ? お前」
「た、鷹見家です! だ、だから殺さないで!」
 強斎は手を離して、無言でその場を去った。
…………
……
……
(くそっ! 俺の家庭の事情にあの二人を巻き込んでしまった!)
 大地は全力で自宅に向かっていた。
 そして……。
「クソ兄貴はいるか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「結構早かったな」
 自らの家にたどり着き、兄の姿を見るや否や殴りかかろうとする。
「おっと、動くなよ。これが見えるならな」
「この……っ! 外道が[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 大地にナイフと眠っている澪を見せ付ける。
「はっ、生意気な……。まぁそれも今のうちだがな」
 大地の兄がそう言うと、ゾロゾロと門下生達が大地を囲んだ。
「お、お前ら……どうして……」
「すまん大地……許してくれ!」
 そう言って、大地に次々と殴りかかってきた。
「ちっ、これも兄貴の……どこまでも外道なやつだ」
 大地は大勢の門下生相手でも決して劣勢にならずに戦っていた……だが。
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 体が急に痺れて動かなくなってしまった。
「まさか……スタンガン?」
(あの野郎……ここまで堕ちたか……)
 大地が脱力したところを全員で取り押さえられてしまった。
「さて、やっと落ち着いたか」
「クソ……野郎……!」
「お前がどれだけ叫ぼうが、俺はお前の目の前でこの女を犯すだけだ。自分の女を目の前で犯される絶望を味わうがいい!」
「違う! そいつは関係ない!」
「近くで見れば見るほど可愛い顔してるじゃん。これからが楽しみ――――ぐはっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 大地の兄が澪に触ろうとした時、何かに殴られたように吹っ飛んだ。
「おい、何澪に気安く触ろうとしてんだ」
「強斎[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「大地、後からゆっくりと事情を聞かせてもらうぞ」
「あ、ああ……」
「もう一度問う。何澪に気安く触ろうとしてんだ」
「貴様……飛び道具なんて小癪な!」
「飛び道具? これのこと……かっ!」
 強斎は何もないところを[#傍点]殴った[#傍点終わり]。
 そして……。
「ぐっ!」
 またもや大地の兄は吹っ飛んだのだ。
「これはソニックブームと言ってな。手加減が難しんだ……よっ!」
 次に大地を取り押さえてる門下生達に向けてソニックブームを放った。
「まとめてかかってこいよ。澪が起きる前に片付けてやる」
 一対多数の喧嘩の始まりだった。
…………
……
……
「ば、化物だ……!」
 強斎は、大地と大地の兄を残して全て気絶させた。
 その時間、僅か五分。
(あの動き……人間に成せる動きを超越していた……澪が言っていた『生まれる世界を間違えた』とはこのことなのか……?)
 大地はだいぶ動けるようになった体を起こして、自らの兄を見る。
「ひぃっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 大地の視線に気がついた兄はその場から急いで逃げようとする。
「おい! 待ちやが――――強斎?」
 大地がそれを追いかけようとするが、強斎がそれを止めた。
「なんで止める[#縦中横]!?[#縦中横終わり] あいつは澪を――――」
「知っている」
「だったらなんで[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎は無言で大地の兄が逃げた方向へ指差す。
「もう捕まっているからな」
「どういうことだ?」
「誰かはわからんが居るんだろ? 出てこいよ」
 強斎がそう言うと、気絶した大地の兄の胸ぐらを掴んだ大人が出てきた。
「親父[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「……いつから気づいてた?」
「今さっきだ。かくれんぼが得意そうだなおっさん」
「この度は我が息子が無礼を――――」
「そんなんどうでもいいから、そいつ返せよ。骨でも折らないと気がすまねぇ」
「骨……か」
 そう言うと、大地の親は兄の腕の骨を折った。
 その痛みで目を覚ます。
「がぁぁぁぁ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり] お、親父[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「もう一本折っておくか」
 そして、その痛みでまた気絶してしまった。
「じ、実の息子だよな?」
 流石の強斎も動揺してしまっている。
 大地が無言で肯定したことにより、動揺に加え苦笑いまでしてしまった。
「まだ足りんか? 次は足を――――」
「い、いや。もう充分だ。俺は澪が起きる前に帰る」
 強斎は澪を抱き抱えて、その場を去ろうとするが……。
「ちょっと待ってくれ」
 大地の親に呼び止められてしまった。
「まだ何か用があるのか?」
「ああ、門下生達の無礼については本当に済まなかった。だが、この門下生達未熟とはいえは全て私が鍛えた者たち。その門下生達を僅か五分足らずで倒した君の実力が知りたい」
「……要するに俺と手合わせがしたいと?」
「ああ」
「強斎! やめるんだ! お前がどれだけ強かろうと親父には勝てない!」
「大地は黙っておれ!」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
(くそっ……本能が親父を怖がっていやがる……。何とかして強斎を止めないといけないのに……)
 大地は強斎の様子を見るが、強斎は全く動じてなかった。
 それどころか微笑していたのである。
「いいぜおっさん。条件付きなら手合わせしてやる」
「ほう。条件付きとな」
「ああ、俺が勝ったら焼肉奢れ」
「「……は?」」
 強斎は冗談抜きにこの条件を出したのだ。
 そのことが大地の親にもわかったようで、肩を揺らして笑いを堪えていた。
「ふふっ、面白いやつだ……。私に勝ったらその報酬に焼肉とな」
「ああ、それなら手合わせしてもいい」
「いいだろう。肉が嫌いになるまで食わせてやる!」
「ふっ、そう来なくっちゃ……。大地、澪を頼む」
「あ、ああ」
 強斎から澪を任された大地は未だに戸惑っていた。
(や、焼肉[#縦中横]!?[#縦中横終わり] あいつ、焼肉の為に親父と手合わせするのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 馬鹿なのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 そんな大地を置いて、強斎と大地の親は構えを取る。
「じゃあ行くぜ? おっさん」
「いつでもこい!」
 それを合図に二人は地面を蹴った。
…………
……
……
「んじゃ、焼肉食いにまた来るわ」
 強斎はまだ寝ている澪を抱えて大地の家を出て行った。


「……まさか。この私が大地と同じ高校一年生に遊ばれるとはな」
「親父……」
 結果は圧倒的強斎の勝利。
 しかも、開始十分後に澪が起きそうだという理由で瞬殺されたのだ。
「あいつは何者なんだ?」
「俺にもわからん。ただ――――」
 大地はまだ痛む体にムチを打って、家を出ようとする。
「馬鹿だということはわかっている」
 そして、大地は強斎のカバンを持って強斎の後を追いかけた。
…………
……
……
 大地が家を出てすぐに強斎と鉢合わせをした。
「お前、澪はどうした?」
「起きて殴られて逃げられた」
「やっぱ馬鹿だわ」
「うるせぇ」
 強斎は大地からカバンを受け取り、お礼を言おうとするが……。
「おい、大地」
「なんだ?」
「今すぐに病院に行け」
「は? なんでだ?」
(確かにスタンガンにやられたが……病院に行くほどダメージを受けてないぞ?)
「お前、そろそろ倒れるぞ?」
「……は?」
「足の方にダメージが行き過ぎている。手遅れになる前に病院へ行け。行かないと俺が無理矢理連れて行く」
「わ、わかった! 病院に行ってくる」
 大地はそう言って病院へ向かった。
「あんまり走るんじゃねぇ!」
「早く病院に行かせたいのか、行かせたくないのかどっちなんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そんなやりとりをしながら強斎は大地を見送った。
 そして……。
「済まないな。お前の足には何の異常もない。ただの胸騒ぎだ」
 そう言って、強斎はスタンガンを眺めた。
「規定値は超えていないから大丈夫なはずだがな……っと、もうこんな時間か」
 すっかり周りが暗くなっていることに気が付かなかった自分に苦笑いをして、強斎は歩み始めようとする……が。
「あれ? そう言えばもう来週から夏休みじゃん……。よし、夏休みに入ったらこのスタンガンを……ふふふ……」
 そうブツブツ言いながら自宅に帰るのであった。


[#ここから6字下げ]
そして、このスタンガンが鈴ちゃんを助ける武器となるのです!
で、大地くんはそのまま入院させます。
次回からは暫く勇者視点、その後再会まで強斎視点になるかもしれません。


皆さん、クリスマスはどう過ごしましたか?
自分はカラオケ行ってその帰りに車に轢かれそうになりました。
皆さんも車には気をつけましょう。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]62話 澪の制御が解けたっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
twitterでrt来た分だけの話数を更新すると調子こいたツイートをしてしまったせいで苦笑いしか出ません。
それと、あけましておめでとうございます!
[#ここで字下げ終わり]




「ふーん……そんなことがあったのね」
 鈴は大地と強斎の過去話を聞いて、どこか納得したように頷いた。
「私って、あの時襲われそうになってたのね」
「ああ、あの時強斎が駆けつけなかったら本当にやばかった」
 澪は半分笑っていたが、大地はそうでもなかった。
「本当にあの時はすまなかった……。家庭の事情にお前たちを巻き込んでしまって……」
「別にもういいって。もう二年近く前の話だし、結局は強斎のおかげで未遂になったわけだから」
「……そうだな、強斎がいる時にまた謝罪させてくれ」
「もう……人の話を聞きなさいよね」
 澪はそう言って立ち上がった。
「さて、もうそろそろ帰ろっか。お城に戻ってゆっくりと休みたいし」
「そうね、私もちょっと疲れちゃった」
 鈴も澪の意見に賛成のようだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
 勇志がそう言ってヴェレスが見つけた地上に転移できる場所を指差す。
 だが、勇志とヴェレスは動こうとしなかった。
「ユウシさん……」
「……ヴェレスは凄いな」
 勇志は若干焦り気味な苦笑いを浮かべていた。
「私はユウシさんの彼女なんですよ? それぐらいわかります。……嫌な予感がするんですよね?」
「ヴェレスは本当に凄いな……。僕のポーカーフェイスを見破るなんて、強斎以外にヴェレスが初めてだよ」
 ヴェレスは動こうとしない勇志の腕を強く引っ張った。
「多分、その予感は避けては通れない形で的中します」
「……なぜだい?」
「何となく……です」
「何となく……か」
 勇志は小さくため息を吐いて、されるがままに地上に戻った。
…………
……
……
「到着……です」
 ヴェレスの転移魔術でドレット王国に戻った勇者一行は、それぞれこの後何をやるか雑談していた。
 だが、そんな雑談も数秒で終わってしまった。
 近くに、勇志を上回る強い魔力を感じたのだから。
「敵だったらちょっとやばいかもね……」
「シャレになってないな」
 鈴と大地は既に戦闘態勢に入っていた。
「うん、確かにヤバいねー……。この感じだと勇志を完全に上回っているし、私たちも色々と消耗している。幸い一人だけだから、逃げることなら出来るよ……相手が気づいていなかったらね」
 澪は全員のステータスを見ながら笑顔で説明するが、どこかぎこちなかった。
 だが、勇志とヴェレスだけは違った。
「なぁ、ヴェレス」
「はい、ユウシさん」
「これって……あの人だよね?」
「はい、あの人ですね」
 そして、遂にその人物が姿を現した。


「ほう……お前らが勇者と呼ばれるもの達か」
「やはりあなたでしたか……ベルクさん」
 そう、シッカ王国のギルドマスターベルクである。
「勇志、知り合いか?」
「ああ、だから肩の力を抜いていいよ」
 その際、勇志はベルクについて簡単に説明をした。
 そして、再び口を開く。
「ベルクさん、ここまで来るなんて珍しいですね。ドレット王国とはそこまで良い仲ではないと聞きましたが」
「ああ、はっきり言って仲は良くない。と言うより悪い方だな」
「だったら何故?」
「お前たちに人間界を救って欲しい」
 唐突にそう言われ、フリーズしてしまった勇者一行。
「勿論、俺も協力する。恐らく人間界を救えるのは全ての冒険者を含めてもお前たちだけだ」
「……ベルクさん、事情を話してくれませんか? それに――――」
「冒険者最強って言われてる強さ――――『ショクオウ』じゃダメなの?」
 勇志の代わりに澪が質問をする。
 しかし、ベルクは静かに目を伏せた。
「人間界の危機……そして『ショクオウ』の存在……。この二つは繋がっている」
「……どういう意味ですか?」
 澪はベルクの顔から何かを察してしまったようで、声を震わせながらその意味を訊いた。
 だが……。


「最強の冒険者……『ショクオウ』は殺されたんだ」


 現実は残酷だった。
 そして、空気の温度が殺気でグッと下がった。
「……あんたさ。ギルドマスターだかなんだか知らないけど……殴るよ?」
 鈴は怒気を隠そうともしないで、ベルクにぶつけていた。
「殴りたければ殴ってもいい……それでこの夢から覚めるならな……」
 ベルクもベルクで冷静さをなくしていた。
「お前たちからしても『ショクオウ』が特別な存在だと、そこの勇者から聞いている。だが――――」
「それで、強斎を殺したのは誰?」
「澪[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 一番信用してなさそうな人物の言葉に、鈴は戸惑っていた。
「澪、あんた信じるって言うの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 強斎が生きていた事すら確かじゃないのに[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「私だって信じたくないよ? でも、この人の言うことは本当だと思う」
「なんで……なんで[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「強斎が死んだほうが色々と辻褄が合うから」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 鈴は感情に任せて澪の頬を叩いた。
「こんな時だけ優等生ぶってんじゃないわよ!」
「しょうがないじゃない! 私の直感がそう言ってるんだから!」
 その時、澪の髪を結んでいたゴムが音もなくちぎれて解けてしまった。
「数日前にこのゴムはちぎれたのよ! その意味が鈴にはわかる[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪の感情の制御も解けてしまったようだ。
「このゴムは強斎が初めてくれたプレゼントなのよ! そして、その時強斎が私に言った言葉は今でも覚えてる……『このゴムが俺の代わりに澪を守る』子供の時の戯れごとだけど、実際に今までそうだった……! だからどんな時でも冷静でいられた! 強斎が私たちの代わりに転移しちゃって死んだって言われたときも、生き返る可能性があるって知らされただけで立ち直れた! このゴムがまだ切れていない限り強斎とまた会えるって……!」
 叫ぶだけ叫んで澪は脱力し、膝を地につけた。
「本当はわかってる……地球とは異なる環境、過度な動きによるダメージ、それに寿命……。いつ切れてもおかしくなかった……だけど!」
 その場にいた全員は静かに澪の言葉を聞き、手に持っているゴムを見ていた。
「こんなタイミングで切れるなんてさ……いくらなんでもあんまりだよ……」
 そう、誰もがわかっていたことである。
 この中で最も冷静ではないのは澪であると。
 そんな澪を見ていると、鈴は冷静にはなったが叩いた罪悪感が込み上げてきた。
「さっき鈴は言ったよね? 優等生ぶるなって。私は今まで一度も優等生ぶったことなんてないし、優等生ですらない……今だって真っ先に出た理由がこれだよ。理論なんかじゃない感情論を優先しちゃってさ……。強斎がいないと精神が安定しない出来損ないなんだよ……」
 そこまで言ったところで澪は口を閉じてしまった。
 暫く誰も喋らなかったが、勇志がその沈黙を破った。
「ベルクさん。とりあえずはあなたの話を信じます……ですが」
「ああ、流石に俺もそこまで空気の読めない男ではない。また出直そう」
「ありがとうございます」
「いや、俺が無用心だった」
 ベルクはそう言って澪と鈴を一瞥する。
「暫くはドレットにいるつもりだから、覚悟が出来たら俺に言ってくれ」
「わかりました」
 ベルクはそう言ってこの場を去った。
 一刻を争うはずの要件なのだが、勇者達の心の整理を優先したのだ。
 ベルクがいなくなってからも沈黙は続いた。
 だが、暫くすると鈴が立ち上がり。
「私は……私は信じないから!」
 そう言って走ってその場を去ってしまったのだ。


[#ここから6字下げ]
いや、もう本当女の子の描写って難しいですね
まだまだ練習が必要なようです……
それと皆さん、今回の勇者視点が終ったら主人公と再会まで勇者視点は書かないつもりなので!
[#ここで字下げ終わり]
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[#3字下げ][#中見出し]63話 鈴と精霊契約っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
rt数が二〇を超えてました……
もう締め切らせてもらいます!
一月はほぼ毎日更新になるなぁ……
そして、感想返しもかなり遅くなります。
感想はしっかりと読ませてもらってますから!
[#ここで字下げ終わり]




「はぁ……はぁ……くっ!」
 鈴はドレット王国の王城から出て、人があまり通らない草原に走ってきた。
「おかしいよ……おかしいよ!」
 鈴は近くにいた攻撃しなければ無害な魔物を、魔術で焼き払った。
「私を含めて……皆おかしい!」
 跡形もなく消えた魔物の前に立った鈴は、自分の手のひらを見てから思いっきり握り締めた。
(澪だけじゃない……大地も勇志も私だって強斎がいないと精神が安定していない……! |異世界《ここ》に来たばかりの頃は無害そうな魔物には攻撃しなかった……だけど、今は何のためらいもなく殺す事が出来る。強斎の生死に関してもそう。勇志から強斎が生きていると報告を受けた時は本当に嬉しかった……だけど、皆その言葉を簡単に鵜呑みにした……。誰も強斎の姿を見ていないのに、敵か味方かわからない人の言葉に左右されて)
 先ほどの魔物の群れらしきものに囲まれた鈴は、広範囲魔術でその魔物を全滅させる。
 今の鈴のステータスでこの程度の魔物だったら、自動回復するMPで全滅させることなど容易かった。
(そして皆バラバラになる。強斎の名前を知っている時点で、強斎は生きていた事は事実だと思うけど……でもあいつが死んだって決め付けるのは――――)
『ショクオウなら死んだよ』
「……え?」
 鈴は咄嗟に思考を中止し、辺りを見回す。
 だが、先ほど焼き払った鈴の周りには人どころか、魔物すらいない。
「気の……せい?」
 遂に頭までおかしくなったのかと思ったところで、先ほどの声がまた聞こえた。
『気のせいなんかじゃない。私はちゃんとここにいる』
「え? え? ここって……どこ?」
『ふふっ、よかった。ちゃんと聞こえてる』
「あれ? 私、遂におかしくなっちゃった?」
 そう呟いた瞬間、目の前が激しく光り思わず目を瞑ってしまった。
 そして――――。
「えっと……誰?」
「こんにちは、リン」
 目を開け、最初に見たものは少女だった。
 体型は中学生ぐらいの少女だが、目を引くのはそこではなかった。
 瞳の色と髪の色――――。
 その二つが見とれる程に紅かったのだ。
「自己紹介したいところだけど、ごめんなさい。私には名前がないの」
「名前がない……? あなた、種族は……?」
「人間?」と言いかけたところでその言葉を呑み込む。
 人間にここまで紅い髪と瞳を持つ人間など見たことなかったからだ。
「私の種族は精霊。名前がないのは階級が中級以下だから」
「……は?」
「だから、名前がないのは中級以下だから――――」
「それじゃない。あなた……今、精霊って……」
「あー……そっか。人間にとって精霊って拝められる存在なんだっけ? 私、そういうの嫌いだからなしの方向で」
「ちょっと待って。本当に精霊なの?」
「うん」
 そう言って、精霊を名乗る少女は指を鳴らした。
 その瞬間、鈴の背後で轟音が鳴り響く。
「無詠唱での精霊級魔術。これで信じてもらえた?」
「え、ええ」
 鈴は戸惑いながらも精霊を名乗る少女のステータスを覗いていた。

???
LV5800
HP 五三四五六/五三四五六
MP 八万/八万
STR 六千
DEX 八四三三
VIT 五四九九
INT 九九九九
AGI 六八二一
MND 九九九九
LUK 一〇〇
スキル
状態異常耐性LV50
火属性LV75
HP自動回復速度上昇LV30
MP自動回復速度上昇LV50
精霊の威圧波動LV20


属性

火の精霊(???)

(精霊でもなければこんな化物じみている訳ないし、信じるしかないじゃない!)
 鈴は精霊のステータスを見て、肝を冷やしていた。
「? どうしたの?」
「な、何でもないわ……。で、精霊さん? なんで私の前に?」
「簡単に言うと、私と契約して……かな?」
「ごめん、もうちょっと詳しく」
「あなた、さっきショクオウのこと考えてたでしょ?」
「……」
「ショクオウは確かに死んだよ」
「なんでわかるの?」
「精霊は嘘をつかない。とある精霊が言ってたの『ショクオウは死んだ。新しい主人は暗黒騎士』ってね」
「まさか……」
「ええ、話はある程度聞かせてもらってるから大体はわかるわ。暗黒騎士は恐らく仮面の魔人。そして、その強さの秘訣は……」
「精霊を使っている……から?」
 精霊は無言で頷く。
「多分ね。しかも、かなりの数の精霊を使っているみたいよ? 私以外の中級以下の精霊は、皆そいつの配下になったみたい」
「あなたは無事だったの?」
「私はいつでも上級になれる能力値だからかな? 上級になれば名前とかもらえるけど、自由がなくなるからならないって決めてるのよ」
「おかしな精霊ね」
 鈴は先ほどの混乱が嘘のように微笑んで精霊と会話していた。
「それで? なんで私なの?」
「理由は簡単。あの中であなたが一番火魔術に長けていたから」
「本当にそれだけ?」
「……あなたの熱い想いが伝わったから」
 精霊は少しだけ恥ずかしそうに答えたが、鈴には何が恥ずかしいのか理解できなかった。
「と、とにかく! リンの気持ちを聞きたいわ」
「私の気持ち?」
 途端に空気が変わった。
「……暗黒騎士をどうしたい?」
「殺したい」
「……即答ね。暗黒騎士を殺してもショクオウは生き返らないわよ?」
「暗黒騎士を殺して魔神も殺す。本来の目的は魔神を討伐して強斎を生き返らせることだったから、殺す相手が増えたところで何も変わらない」
「……例え魔神に戦う意思がなくても?」
「ええ。強斎が生き返るなら可愛そうだけど犠牲になってもらう。私は、そのためなら鬼にでも悪魔にでもなれる」
「やっぱり、リンのそういうとこいいわね」
「こんな質問をするってことは、あなたにはそれを達成出来るだけの力があるってこと?」
「ええ、あるわ」
「じゃあ、あなたと契約する」
「契約内容も聞いていないのによく即答できるわね」
「だからさっき言ったじゃない。私はあいつの為なら鬼にでも悪魔にでもなるって」
「見た感じダイチという男があなたの想い人と思っていたけど……違ったのかしら?」
「……正解よ。私は大地が好き。そして、強斎も好き。だけど……この好きは多分違う」
「違う?」
「うん。最近になってわかってきた。強斎に寄せている想いは恋路とは違う何か……。それを理解するためにも強斎にもう一度あわなくちゃいけない。だから」
「……人間って不思議ね……。わかったわ、今から精霊契約をするわよ?」
「ええ、お願い」
「契約内容は私がリンの眷属になり、力を貸すこと。リンは私の衣食住を保証してちょうだい」
「え? そんなんでいいの?」
 精霊契約だからもっと大きい代償かと思っていた鈴は呆気にとられた。
「ええ、リンと一緒にいたら面白そうだしね」
「ふふっ、ありがと」
「いえいえ。これからもよろしくねリン」
「うん、よろしくファイ」
「ファイ?」
「あなたの名前。気に食わなかった?」
「……ううん。とっても嬉しい」
「……そっか」
 鈴はそっとファイを抱きしめ、耳元で呟いた。
「多分、私は……私たちはこれから壊れていくと思う。だけど、その度にファイが元通りにしてね?」
「……任せなさい。リン」
 ファイも震えている鈴をそっと抱き返して、耳元で呟いたのであった。


[#ここから6字下げ]
ファイちゃんはひんぬーです
精霊は嘘はつきませんが勘違いならします。
え? ゼロさんは例外ですよ精霊ですが
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]64話 澪VS緋凪っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
自分の使っているマウスがツンデレになりました
Bluetoothのマウスなんですが、デバイス検索に引っかかりません
[#ここで字下げ終わり]




「おい! 鈴!」
 大地が鈴を呼び止めたが、鈴は振り向きもせずに走り去ってしまった。
「勇志、俺は鈴を探してくる」
「……ああ、頼むよ」
 そう言って、大地もその場から去った。
「勇志君」
「なんだい? 緋凪さん」
「私と澪ちゃんで話がしたいから、悪いけど退席してくれないかな?」
 緋凪は申し訳なさそうにするが、勇志は悪い気にもならず、むしろ納得したように頷く。
「わかった。僕はベルクさんと話をしてくるよ」
「ありがとう」
 勇志に続いて他の面々も場を去って、遂に澪と緋凪の二人になった。
「澪ちゃん、私と勝負しなさい」
「……勝てると思っているの?」
 澪は声を低くして威圧をかけながらそう呟いた。
 緋凪はそれだけで怯んでしまうが、それも一瞬で、何事もなかったように再度口を開く。
「今の澪ちゃんに負ける気はしない」
「そう。でも私は緋凪と戦う理由がない。少しの間ほっといてよ……」
「嫌だ」
「……どうして?」
「澪ちゃんはそんな暗い顔しちゃダメなんだよ。いつも冷静で、明るくて、皆の中心にいなくちゃダメなんだよ! それをずっと言いたかった! この世界で澪ちゃんに出会った時から……! ずっと!」
「私は強斎がいないと何も出来ない。冷静にもなれないし、本気で笑うこともできない。皆の中心? 私がなれる訳ないじゃない。だって私は強斎に――――」
「澪!」
 途端に呼び捨てで呼ばれた澪は、顔を上げて驚愕していた。
 呼び捨てにされたからではない、緋凪が泣いていたからである。
「いい加減目を覚ましてよ! 現実を見てよ! 強斎君はもういない! いつまでも強斎君に執着しちゃダメだよ!」
 緋凪自身、この言葉を口にするのはかなり苦しかったはずだが、今の澪にそこまで考える余裕はなかった。
 立ち上がり、緋凪に向けて威圧をかける。
「緋凪に私の何がわかるって言うのよ!」
「……っ!」
「強斎が居ない世界? そんな世界考えたこともなかったわよ……!」
 そう言って、杖を緋凪に向ける。
「いいわ、緋凪の言う通り戦ってあげる。戦って、こんな世界から少しでも現実逃避したいから」
「……やっとその気になったわね」
 そして、緋凪も剣を向けた。
「ハンデとして威圧と広範囲魔術は使わないでおく」
「そうしてくれるとありがたいかな」
 緋凪は苦笑いしながらも冷や汗を流していた。
(いっつも危機感がない澪ちゃんだけど、実際に戦闘するとなると凄い存在感ね……。魔物たちはこの存在感に向かって攻撃していくんだ……。ちょっと尊敬するなぁ)
 そんなことを思いながらも緋凪は深呼吸をし――――。
「いくよ!」
 一瞬で二人の間合いを詰めた。
(この距離なら魔術は撃てない……! 避けられてもその度に間合いを詰めれば勝機はあるはず)
 そう確信し、澪に攻撃しようとするが……。
「……え?」
 緋凪の目の前に澪は居なく、攻撃が空ぶってしまった。
 そして……。
「緋凪、私は後ろだよ」
「っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そう声が聞こえた瞬間、緋凪は宙を舞った。
 地面に叩きつけられた緋凪は激しく咳き込み、澪を見上げる。
「な……んで?」
「緋凪は私が魔術を使うものだと思い込みすぎていた。それが敗因。言っておくけど、私は緋凪より物理攻撃も強い。だから言ったじゃない『私に勝てると思ってるの?』って。緋凪は私に勝負を挑んだ時から――――」
「そうじゃない!」
 緋凪はふらつきながらも立ち上がり、澪に問う。
「なんで……なんでそんなに強いのに強斎君を信じてあげないの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「っ!」
「澪ちゃんがそこまで強くなったのは、強斎君を想って頑張ってレベル上げをしたからでしょ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 強斎君の為にここまで頑張ってるのに、なんで強斎君を信じることはできないの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「信じるって……何を……」
「澪ちゃんの下に戻ってくることだよ」
「でも、強斎は……!」
「強斎君は死んじゃったかもしれない……だけど! 強斎君が黙って死ぬはずがないでしょ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 黙って私たちにお別れするなんてことはなかったでしょ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] また生き返って何事もなかったように笑ってくれるよ!」
「で、でも……。強斎はこの世界に来てかなり弱体化してるから、そうとは言い切れないんじゃ……」
 緋凪は静かに首を振る。
 だいぶ痛みもなくなってきたようだ。
「ここは、私たちの感覚で言うファンタジーなんだよ?」
「……うん」
「だからね――――」
 緋凪は澪を抱きしめて耳元で囁く。


「巻き込まれて異世界転移する奴は、大抵チートなんだよ」
「えっ?」
「強斎は澪ちゃんたちに巻き込まれて異世界転移したんでしょ? だったら絶対生きている。だって本で読んだことあるもん。そういう人たちはもう一度生き返って無双するんだよ」
「でも、そうとは限らないじゃない……」
「だから言ったでしょ? ここはファンタジーなの。そんな地球と同じ感覚で落ち込んでたりしてたら体も精神も持たないわよ?」
「でも――――」
「でもじゃない。強斎君のことを忘れろとは言わない。というか忘れたら斬る。でも、自分を責める必要なんてない。皆に言っといて。ここは地球とは違う世界、地球と同じ感覚じゃ皆バラバラになるって」
「それは緋凪が言えばいいじゃない」
 澪は緋凪から離れて、微笑しながらそう言った。
「私じゃ無理だよ。私にはそんなカリスマ性なんてないし、それに……」
「それに?」
「私はただ、強斎君が言いそうな言葉を言っただけだから」
「……ふふっ。確かにそうかも」
 澪は大きく背伸びをして、羽を休める。
「そうだよね。信じなくちゃダメだよね。ここは強斎が好きそうな|世界《ファンタジー》だもん。死んだら幽霊になってでも遊びそうな世界」
「うん、そうだよね……。強斎君なら奴隷ハーレムとかつくりそうだし」
「……やめてよそういう冗談」
「うん、私も自分で言ってて殴りたくなってきた」


 こうして、澪は緋凪によって救われたのであった。


[#ここから6字下げ]
うん、どうしてこうなったんだろう……
書く直前に大体の内容を決めるのですが、大幅にずれました。


一月七日は始業式……課題は何一つやっていない……。
はっきり言ってヤバい
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]65話 ファイの目的っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
死ぬ気で課題を終わらせてそのテンションで執筆しました
短いですが勘弁してください……
[#ここで字下げ終わり]




「……で、鈴? その子、誰?」
「えっと……その……女の子?」
「見ればわかるよ!」
 鈴と澪の最初の会話がこれだった。
「というか、その子のステータスおかしいよ? 表記バグ?」
「澪……逃げたくなる気持ちはわかるけど、これが現実よ。ファイのステータスはバグってなんかいないんだよ……これが精霊なんだよ……」
「そんな現実で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。というよりもう今更でしょ? こんな予想外の現実なんて」
「……そうだね。ここはファンタジーだもんね」
「そうそう、ここはファンタジーなんだから」
 そんな風に笑いあっている二人がいる中、一人の少女は驚愕しっぱなしだった。
「リンさん! ミオさん! なんでそんなに落ち着いていられるのですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 目の前に精霊様が居られるのに[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ヴェレスだった。
「に、人間で精霊様を直接見る事が出来たのは恐らく私たちが初ですよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] もうちょっと緊張感を持って――――」
「あ、ファイ。皆の事は知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「リンさーーん[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「へー精霊か……あ、ファイちゃんの髪サラサラー」
「ミオの髪もサラサラだねー」
「ミオさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 精霊に対する馴れ馴れしい態度を注意していいのか混乱しているヴェレスの肩に、勇志の手がそっと置かれた。
「ユウシさん……」
 勇志はニッコリと微笑んで、ファイに質問する。
「精霊さん」
「ファイでいいよー」
「じゃあ、ファイ」
「ユウシさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 勇志までもがこうなるとは思っていなかったヴェレスは声が裏返ってしまい、咄嗟に口を閉じる。
 その隙に、勇志はとある質問をした。
「ファイ、君は……味方か? それとも敵か?」
「ユウシも面白いね。実力差がかけ離れている相手に対してそんなことが訊けるなんて」
「……ファイは僕の実力がわかるのかい?」
「うん、大体だけど。それと、私は敵じゃない。味方だよ」
 そう言って勇志に向かってウインクをした。
 勇志は苦笑いで受け取り、話を変える。
「それで? ファイはなんで鈴と契約を?」
「……ちょっと話が長くなるけどいい?」
 ファイの雰囲気ががらっと変わったのを感じた勇志は、心して肯定した。
「とりあえず、私はあなたたちに事実を教えに来た」
「事実……とは?」
「もう、大体察してるでしょ? ショクオウは本当に殺された、暗黒騎士によってね。これは精霊達が言っていたことだから間違いないわ」
「……」
「それと、中級以下の精霊はほぼ全員と言っていいぐらいその暗黒騎士の配下になったわ」
「[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
「……どういう意味かわかってるようね」
「……ああ」
 勇志は事の大事さをより一層身に染みて感じていた。
「多分、暗黒騎士が神級魔術を連発出来たのは、精霊の力を借りた……いえ、精霊の力を吸い取ったからだと思うわ……」
「そんなことが可能なのかい?」
「不可能ではないわ……でも、幸いなことに上級クラスの実力を持った精霊は無事みたい」
「そこまで大事になっているのに、上級以上の精霊は動かないのは何故?」
「上級以上になると、その属性の精霊王様の命令がないと精霊界から出ることすらできないのよ」
 そこで、ファイは首をかしげて唸った。
「でも、なんで精霊王様達は誰ひとり動こうとしないんだろう?」
「気づいてないとか?」
「それはないと思う。精霊王様達は皆、自分より[#傍点]遥かに弱い[#傍点終わり]相手を監視することができる……人間たちじゃどうしようもできない状況……もしくは精霊達の危機に会った時はいち早く気づく事ができるわ」
「その精霊王より強いという可能性は……?」
「それこそありえないわ」
 ファイは即効で勇志の意見を否定した。
「精霊王様より強い奴が魔界側にいたらとっくに世界が滅んでるわよ。それだったら前者の方がまだ可能性はあるわ。精霊王様が寝てるとか遊んでるとか……」
「何か、僕の思い描く精霊王と離れてきたけど、そんなに強いのかい?」
 フィアは少しだけ困った顔で苦笑いをした。
「HPMPは五千万を超えて、LUKも幸運、それ以外のステータスだって百万超えてるのよ?」
「……確かに、それ以上強いという事はまずありえないだろうね」
「でしょ? ……まぁ、神には負けるけどね」
「流石に神様と比べたらダメだよ……」
「それもそうね。っと、話がずれちゃったわ」
 ファイは一息ついて、勇志の目をしっかりと見て再度口を開く。
「私のさっき言ったこの二つの報告……『ショクオウの死』と『中級以下の精霊たち』これだけ言えば私の目的も見えたんじゃない?」
「……暗黒騎士に直接あって倒す……か?」
「そう。まぁ、『ショクオウの死』についてはあなたたちを動かす理由でしかないのだけどね」
「中々腹黒いね……」
「それ程でもないわ。それと、暗黒騎士を倒すには私だけの力でも……あなたたちだけの力でも倒せないから」
「協力すれば倒せると?」
 ファイはしっかりと肯定した。
「まず、暗黒騎士の神級魔術の源である精霊達は私に任せて。神級魔術が使えなくなった暗黒騎士は多分魔王クラスの強さになるから、そこからは普通に戦闘よ」
「随分と単純な作戦な気がするけど……まぁそれがいいかもね」
「その作戦、俺も入れてくれないか?」
 ファイと勇志の間に、一人の男……ベルクが入り込んできた。
「入れるもなにも、ベルクさんがいないと厳しいですよ」
「いや、多分そんなことはない」
「どういうことですか?」
 勇志がそう質問すると、ベルクはニヤリと笑って懐から何かを取り出した。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ファイはそれを見た瞬間、今まで見たことのないような驚きっぷりを見せる。
「ファイ、これがなんなのか知ってるのかい?」
「……ええ。知ってるわ……そして」
 ファイはベルクを少しだけ軽蔑するような目で見る。
「これを使えば確かに安定して勝てるでしょうね」
 どこか冷やかな口調でそう結論付けたのであった。


[#ここから6字下げ]
ファイが軽蔑するような雰囲気を出すその理由とは[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
次回に続く!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]66話 ギアスの生贄っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回も短いです!
[#ここで字下げ終わり]




「ベルクさん、それは一体……?」
 ベルクが懐から何かを出した。
 ファイの表情から察するに良くないものだと思うが、訊かずにはいられなかった。
「精霊ってのは嘘ではないようだな」
「そんなことより、それは[#傍点]本物[#傍点終わり]なの?」
 ベルクはしっかりと頷いて肯定した。
「……どうやって確かめたの?」
「実際に使った。それだけだ」
 ベルクがそう言った瞬間、ファイの目線が更に鋭くなった。
「誰に使ったの?」
「実際に俺が手を下したわけではないが、兎族の少女に使ったらしい。その後、その少女に|戒《ギアス》を埋め込こんで――――」
 ベルクが言い終わる前に、二人は勇志の視界から消えた。
 遅れて轟音が聞こえたのでそちらを見ると、ファイがベルクの胸ぐらを掴んで壁に押し付けていた。
「ぐっ……ぁ!」
「ベルクさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 勇志は未だに状況を整理できていなが、とりあえず二人の下に向かう。
「あんた、非戦闘種族の女の子にそれを使ったの? しかも、その女の子に|戒《ギアス》まで埋め込んだ? 外道にも程があるでしょうが[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ファイはより一層力を込めて壁に押し付ける。
「ファイ! やめるんだ!」
「ユウシは黙ってて! この男は……!」
「さっき、ベルクさんは直接手を下してないって言っていたじゃないか!」
 そこまで言うとファイは渋々手を離す。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「ベルクさん、大丈夫ですか?」
「ああ……なんとかな」
「……ファイ、説明してくれるか? そのベルクさんが出したもの……そして、|戒《ギアス》のことも」
 ファイはベルクを睨みながらも無言で頷いた。
…………
……
……
「とりあえず、これ……パニッシュメントについて説明しましょうか」
 ファイはベルクの持ってきたものを勇志に差し出した。
「それは、指定した相手を呪い状態にする禁忌の魔具よ」
「禁忌の……魔具?」
「ええ、まぁ発動させるのにはちょっとややこしいのだけどね……」
「ややこしい?」
「指定した相手のHPを二割以下にして、名前を呼んで返事をさせる。それが条件よ」
「え? 名前を呼んで返事をさせる?」
「そうだけど……なんで驚いてるの?」
「あ……いや……何でもない」
 勇志はその仕組みをどこかで聞いたことがあったのだが、何も言わずに続きを聞く。
「じゃあ続けるわね。その呪いの状態なんだけど……これが中々酷いの。『全ステータス一/四』『魔術使用不可』『スキル使用不可』『状態異常耐性低下』この四つが付属されるわ」
「流石精霊だな。このことについては殆ど知られて――――」
「あなたは黙ってて」
「……」
「ユウシ、これがどれだけ酷いことかわかる?」
「確かに、この世界はステータスが全て……。そこまでされたら……」
「しかも、その呪いにかけられたのが非戦闘種族の少女だというのだから、余計にたちが悪いわ……。非戦闘種族……それに性別が女性となると、魔術系に偏るのが大半よ……その意味がわかる?」
「……魔術、スキルが使用不可になっているせいで唯一の長所が皆無になっている……」
「そう。それだけでも酷いのだけど、もっと酷いのが……|戒《ギアス》の存在よ」
「|戒《ギアス》……」
「ええ、ユウシは奴隷についてどこまで知ってる?」
「主人の命令には絶対服従、物として扱われて人としては扱われない」
「後者は正解だけど、前者は正解とは言えないわ」
「?」
「まず、一応だけど主人の命令に逆らうことはできるわ。激痛はするけどね。それに、聞こえてなければ命令は命令ではなくなる……。だけど」
「……」
「だけど|戒《ギアス》は違う、完全に絶対服従よ。主人から一定距離離れたら死ぬ。寝てても主人の命令には逆らえず、強制的に激痛で目覚めさせて行動させる。骨が折れていても無理矢理行動させられ、常に痛みで瀕死状態になるわ……。でも、一番酷いのは自分では死ねないこと……。自殺も過労死もできない事よ」
「……」
「まず、自殺しようとすると動けなくなるほどの激痛。過労死はもっと酷い……。痛みと引換にHPが回復して、もっと危険な状態に陥りそれでHPが減っても……といった過程をひたすら繰り返すことになるわ」
「それが……|戒《ギアス》」
「ええ、本当は死罪以上の重罪を犯した者に埋め込まれるのだけど……」
 ファイはベルクを一瞥して悲しそうな顔をする。
「さっきの話を聞く限り、ただの実験として使われただけみたいね」
「……確かに、シッカ王国の住人が行った。未然に防げなかった俺にも否がある」
「で? その少女は今どうしてるの?」
「雪山で魔物に襲われて、その主人は死んだらしい」
「……そう、安らかとは言えないと思うけど死ぬことができたのね」
「ああ」
(ルナさんみたいな兎族もいれば、そんな可哀想な事をされる兎族もいるんだね……。本当に人間と変わらない)
 勇志はそんなことを思いながらも自らの手にある『パニッシュメント』を眺める。
(その兎族の地獄の日々は無駄にしない……! 必ず暗黒騎士を倒してみせる!)
 そう心に決め、勇志は口を開いた。
「ベルクさん。作戦の決行はいつですか?」
「……本当にいいのか? 死ぬかもしれないんだぞ?」
「魔族といつ戦争になるかわからないのでしょう? それだったら戦争になる前に少人数で魔界に行ったほうが乗り込みやすいと思いますが?」
「……わかった。作戦決行は早めにして、それまでお前たちを強化しよう」
「よろしくお願いします」


 こうして、戦争開始の合図に着々と近づいているのであった。


[#ここから6字下げ]
さて、この生贄とは一体誰の事なのでしょうか?
実は登場人物の一人なんです!
ヒントは雪山、兎族、呪い、戒です!
[#ここで字下げ終わり]
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[#3字下げ][#中見出し]67話 『コトリアソビ』に向かうっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
皆さん、お久しぶりです
感想で呪いについての質問がありましたが、その質問の詳しい答え……正確にはいつ、どうやってるn……兎族が呪いをかけられたかは本編で書きますのでご安心ください。
ついでに自分はインフルエンザに襲われていました。
状態異常耐性欲しいです。
[#ここで字下げ終わり]




「皆、少し話がある」
 勇志、ベルク、ファイの話し合いが大体終わったところで全員を集めた。
「近々、僕たちだけで魔界に乗り込む事になる」
「やっぱり、暗黒騎士を倒しに行くんだよね?」
 澪の質問に無言で頷き、言葉を続ける。
「ベルクさん曰く、ショクオウ……強斎が殺されたことによって、魔界との戦争が近くなったらしい。だからその前に暗黒騎士を倒して、戦争を阻止もしくは延長させる。それが目的になるね」
「強斎が戦争の阻止力になってたの?」
「ああ、実はあいつがシッカ王国にいる時に大規模な討伐戦……そう、魔人討伐が[#傍点]計画[#傍点終わり]されていたんだ。シッカ王国は転移門から近いから、そういうのがごく希にある」
 鈴の問いにベルクが苦笑い気味に答える。
「計画されていたってことは、実行はしなかったのね?」
「しなかったじゃない、既に終わっていたんだよ。幹部級の魔人をたった三人で終わらせやがった」
『三人?』
 強斎の事を知っている者全員が首を傾げた。
 勇志も聞いていなかったらしい。
「ん? 言ってなかったか? ショクオウは女奴隷を二人連れて旅をしてたぞ?」
「女……奴隷……?」
「ああ、二人とも随分ととショクオウにベッタリで他の男なんて――――」
 ――――バリン[#縦中横]!![#縦中横終わり]
 ベルクが言い終わる前に、どこかで物が割れる音がした。
 その犯人は誰もが明確にわかっている。
「澪ちゃん、ちょっと落ち着こ」
「緋凪こそ落ち着いたら? 魔力を全力で開放しちゃってさ。今は戦う時じゃないよ?」
「私は充分落ち着いてるつもりだよ? 澪ちゃんこそ、そんなに魔力を放出させて何するつもり? 私達、今はHPMP全快なんだけど?」
「あら、緋凪が魔術使うと思ってね。この室内で」
「大丈夫だよ。私はそんな非常識じゃないから――――」
「はいはい、二人とも落ち着こうねー」
 言い合いがヒートアップする前に、鈴が二人の間に入って止めた。
「二人とも考えてみて? 確かに年頃の男の子だからしょうがないけど、あの強斎だよ? 他の女の子に手を出せると思う? どうせ『子供が~』とか言ってできないって」
「……確かにそうかも」
 鈴の考えに二人は納得したようで、とりあえずは収まった。
「えっと、話を戻すね? とりあえず、僕たちが魔界に乗り込むのは戦争になる前……それと、充分に強くなってからになる」
「今も充分強いと思いますが……」
 ヴェレスの意見に勇志は小さく首を振った。
「慢心はダメだ。魔王クラスの強さだと考えると、今の実力で勝率は半々ぐらいだろうからね……まぁ、魔王と戦ったことないんだけど」
 そう言って苦笑いをするが、直ぐに気を取り直して話を再開する。
「で、どうやって強くなるかなんだけど……。ベルクさん、お願いします」
「わかった」
 注目の的が勇志からベルクに変わる。
「実はな、シッカ王国付近にダンジョンが出てきたのだ。しかもダンジョン名付きでな」
「珍しいですね」
 ヴェレスが珍しいと言った意味が理解できてない地球人組の為に、ベルクがその辺も踏まえて説明する。
「本来、ダンジョンというのは最下層の『物』を守るために作られているからな。人目を避けるよう……だが、適度に招き入れれる様な場所や入口になっている。だが、名前があるダンジョンってのは完全にかかってこい状態だ、招き入れるしか生きていく方法がない最下級ダンジョンによくある。そして、今回はそこでレベル上げをすることになる」
「ベルク、言っておくけどそこらのダンジョン……しかも名前付きのダンジョンでユウシたちのレベルが上がるとでも?」
 ファイが疑いの目でベルクを見るが、ベルクはそれを微笑で返した。
「安心しろ。ダンジョンの名前は『コトリアソビ』。難易度は――――――未知数だ」
「……どういうこと?」
「そのままの意味だ。未だにダンジョンを踏破したものはいないし、時々行方不明も出てくる。しかも、最大二〇人同時で攻略可能のダンジョンだぞ?」
「……あなたの国の冒険者って弱いのね」
「精霊から見ればそうかもしれんが、少なくとも勇者達が強くなれるレベルの魔物はいるぜ?」
「ふーん。で、最高何下層まで行ったの?」
「三〇階だ」
「まぁまぁ大きいダンジョンね。|概《おおむ》ね四〇か五〇の大迷宮っていったところかしら?」
「多分な」
 そう言ってベルクは全員を見渡し――。
「というわけだ。レベル上げも|兼《か》ねて、そのダンジョン……『コトリアソビ』を攻略しに行くぞ」
 難攻不落、歴代最凶最悪の大迷宮に挑む決意を、全員がした瞬間だった。
…………
……
……
 ある程度の準備を終えた勇者一行は、迷宮の前で目の前の光景を唖然と見ていた。
「凄い人気……」
 琴音が無意識にそう呟き、皆もそれについては同感のようだ。
「ベルクさん、こんなにも人がいると……」
「あ、ああ。そうだな……。というか、何でこんなに人が多いんだ?」
「あ、私訊いてきます」
 澪がそう言って、人ごみの中に入って行ってから数分。
 ようやく戻ってきた。
「どうだった?」
「なんかね、迷宮内で凄いお宝が出てきたらしいの。それと、難易度も初心者からでも行けるような難易度だからとも言ってた」
 鈴の問いにやや疲れた感じで澪が答えた。
「どうします? ベルクさん」
「んー……時間も惜しいし、さっさと三〇下層まで行こう。大抵の迷宮には一〇下層毎に転移出来る部屋があるはずだからな。今日はとりあえず三〇だ」
 そう言って迷宮に向かおうとした時。
 ベルクは何者かに声をかけられた。
「ギルマスじゃないか。どうしてこんな場所に?」
「……アルノか?」
「はい」
「アルノこそ何でここにいるんだ?」
「冒険者だからな。ギルマスこそ、一度国に戻ってきたと思ったら直ぐに出て行って……。何やってたんだ?」
「今からこいつらと迷宮攻略だ」
 アルノは勇者一行を見渡し、目を見開いた。
「お前たちは……!」
「久しぶりだね、アルノ」
 アルノは勇志を見ただけで何かを察したようだ。
「迷宮の攻略、頑張れよ。あの迷宮は最初こそ本当に簡単だが、ボスを過ぎると難易度が跳ね上がる。今の最前線は三一下層だから三〇階のボスは倒せたらしい」
「ついでにアルノはどこまで行ったんだ?」
「俺のパーティーはまだ一五下層までだよ。お前たちなら今日中に踏破しそうだがな……」
「それだといいんだけどね」
 勇志は苦笑いで冗談だと受け止めているが、アルノは満更冗談ではないらしい。
「一応、一〇、二〇、三〇とまでは転移ポイントは確認されている。一度その下層まで行けばまた来れるというありがたい迷宮だから安心して挑むといい」
「わかった。情報提供ありがとう」
「おう」
 そう言って、アルノは立ち去っていった。
「……あいつも、変わったな」
「そうなんですか?」
「ああ、昔はただの馬鹿だったが、今はできる馬鹿だ」
「馬鹿から離れましょうよ……」
「自分で馬鹿と言っているのだからしょうがない。さて、そろそろ挑みに行くぞ。準備はいいか?」
 こうして、本格的に攻略しに向かう勇者一行であった。
 踏破不可能と知らないままに……。


[#ここから6字下げ]
ここでもアルノ君登場。
さて、勇者一行は何下層までたどり着けるのでしょうか? まぁ踏破は無理ですが。
何の事件もなくレベリングができるのでしょうか? まぁ踏破は無理ですが。
そして、この迷宮が主人公の作った迷宮と気付く事はできるのでしょうか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] まぁ踏破は(ry
皆さんも風邪とか病気には気を付けてくださいね!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]68話 強制転移の罠っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
フラグの立て方を勉強中です
あ、アルノは――――いえ、何でもないです
[#ここで字下げ終わり]




(こいつら……人間の域を超えてやがる)
 ベルクは目の前で起こっている戦闘を見て、真っ先にそう思った。
(ユウシに関しては以前戦ったはずだが……手を抜いていたのか? 動きが全然違う)
 現在コトリアソビ二九下層。
 次の階でボス部屋だ。
 なのにベルクは全く負ける気がしなかった。
 それもその通りである。
 勇者一行は以前と比べて、レベルが大幅に上がっているのだから。
 #
 ユウシ・スズキ
 LV105
 HP 一七四〇〇/一七四〇〇
 MP 一四二〇〇/一四二〇〇
 STR 一四四二
 DEX 一五〇九
 VIT 一五一四
 INT 一四六七
 AGI 一六二一
 MND 一六三四
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 聖騎士Ⅱ
 作法LV13
 剣術LV27
 威圧LV22
 状態異常耐性LV18
 火属性LV22
 水属性LV24
 土属性LV23
 風属性LV23
 光属性LV26
 闇属性LV21
 HP自動回復速度上昇LV21
 MP自動回復速度上昇LV21
 限界突破
 属性
 火・水・土・風・光・闇
 #


 #
 ダイチ・タカミ
 LV103
 HP 一七六六〇/一七六六〇
 MP 一〇〇一〇/一〇〇一〇
 STR 一八二三
 DEX 一〇二一
 VIT 一五三三
 INT 一〇〇一
 AGI 一〇〇四
 MND 一〇一六
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV10
 盾LV25
 大盾LV27
 大槌LV28
 剣術LV20
 刀LV14
 威圧LV21
 状態異常耐性LV22
 気配察知LV20
 火属性LV19
 土属性LV23
 光属性LV19
 HP自動回復速度上昇LV25
 属性
 火・土・光
 #
 #
 リン・ハネダ
 配下数一
 LV101
 HP 九五四〇/九五四〇
 MP 一五六七〇/一五六七〇
 STR 八二二
 DEX 一六三一
 VIT 一〇〇二
 INT 一七〇九
 AGI 一〇〇四
 MND 一八四三
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 作法LV15
 体術LV23
 威圧LV22
 状態異常耐性LV19
 火属性LV36
 水属性LV30
 光属性LV30
 闇属性LV29
 MP自動回復速度上昇LV24
 魔術攻撃力上昇LV24
 属性
 火・水・光・闇
 #
 #
 ミオ・トウヤ
 LV100
 HP 一万四千/一万四千
 MP 一〇六三〇/一〇六三〇
 STR 九九二
 DEX 一一〇二
 VIT 一〇〇五
 INT 二〇〇六
 AGI 一一三二
 MND 一六四四
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 超解析
 体術LV15
 回復特化
 付属魔術
 威圧LV20
 料理LV39
 作法LV22
 僧侶Lv30
 状態異常耐性LV22
 HP自動回復速度上昇LV20
 MP自動回復速度上昇LV25
 属性
 |回復特化《ユニーク》
 |付属魔術《ユニーク》
 #
 #
 ヒナギ・マツマエ
 LV87
 HP 六一二七/六一二七
 MP 七二四〇/七二四〇
 STR 五二九
 DEX 五九〇
 VIT 五七七
 INT 七二三
 AGI 六二五
 MND 六五二
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV20
 体術LV18
 状態異常耐性LV15
 火属性LV14
 風属性LV14
 光属性LV16
 MP自動回復速度上昇LV15
 属性
 火・風・光
 #
 #
 コトネ・ホウライ
 LV83
 HP 五〇二六/五〇二六
 MP 七九二四/七九二四
 STR 五一二
 DEX 五五四
 VIT 五七三
 INT 六二一
 AGI 四七二
 MND 六二一
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 料理LV17
 状態異常耐性L12
 水属性LV15
 光属性LV15
 HP自動回復速度上昇LV12
 MP自動回復速度上昇LV12
 属性
 水・光
 #
 #
 シキ・ホカリ
 LV85
 HP 六五二六/六五二六
 MP 三九九五/三九九五
 STR 六三二
 DEX 四七八
 VIT 六四三
 INT 四五六
 AGI 四七九
 MND 六〇九
 LUK 八〇
 スキル
 言葉理解
 体術LV14
 剣術LV18
 大槌LV20
 盾LV14
 状態異常耐性LV14
 土属性LV14
 風属性LV16
 HP自動回復速度上昇LV13
 属性
 土・風
 #
 #
 ジン・ササキ
 LV88
 HP 五二九六/五二九六
 MP 六一七三/六一七三
 STR 五三三
 DEX 五三一
 VIT 五〇〇
 INT 四〇九
 AGI 六五四
 MND 七四三
 LUK 一〇〇
 スキル
 言葉理解
 剣術LV20
 刀LV18
 状態異常耐性LV13
 風属性LV13
 闇属性LV15
 隠蔽LV20
 HP自動回復速度上昇LV12
 MP自動回復速度上昇LV12
 限界突破
 属性
 風・闇
 #
 #
 ヴェレス・ドレット
 LV82
 HP 四〇二一/四〇二一
 MP 五四二五/五四二五
 STR 三〇一
 DEX 四七三
 VIT 三八三
 INT 五九二
 AGI 四二一
 MND 五七三
 LUK 五〇
 スキル
 超解析
 作法LV25
 解読LV18
 剣術LV15
 体術LV12
 料理LV16
 威圧LV13
 状態異常耐性LV10
 時空術LV25
 アイテムボックス
 属性
 |時空魔術《ユニーク》
 #
 勇志、大地、鈴、澪の四人に関してはレベルが一〇〇に到達した瞬間、ステータスが大幅に上昇している。
 ヴェレス曰く、『勇者の特権』らしい。


「これが三〇下層のボス扉だね」
 勇志が全く息を切らした様子もなく、そう呟いた。
「ああ、そのようだな……。少しだけ驚いてる」
「ベルクさんが驚くなんて珍しいですね」
「もうここレベルになると、竜でも倒したことがある冒険者じゃなければ踏破は不可能なんだ。お前ら勇者やめて冒険者にならないか?」
「それは無理ですね。さぁ、行きましょう」
 勇志はそう言って、ゆっくりとボス部屋の扉を開ける。
 その時、鈴が澪の異変に気付いた。
「どうしたの?」
「んー……ちょっとわからない事があってね」
「澪がわからない事は、私にもわからないわね」
「……ちょっとぐらい聞いてよ」
「……で? 何の?」
「いやさこの迷宮のボスって、戦い終わったら補充されてるわけじゃん?」
「そうだね」
「今までの迷宮ではそんな事なかったよね? 何で皆疑問に思わないのかなって」
「それは私が説明しましょう」
 鈴と澪の間にヴェレスが入り込んできた。
「ですが、とりあえずは三〇下層のボスを倒してからですね」
「「ごめんなさい」」
 入り込んできたのではなく呼びに来たのであった。
 …………
 ……
 ……
「さて、ではこの迷宮に関して簡単な説明をしましょう」
 三〇下層のボスを難なく倒し、休憩をしている時にヴェレスの演説が始まった。
「先ほど澪さんが疑問に思ったとおり、このタイプの迷宮は非常に珍しいです。ボスが倒されたら数分後には補充されている、なんてことはヘタをしたら独占されてしまいますからね」
「確かに、ボスを周回できるようならレベリングも簡単にできるしね」
「なので、大抵はボスの上位種が一定確率で出現するようになっています」
「それって……」
「はい、一回目から上位種に当たる場合もあります」
「わお」
「私の説明は以上になります。澪さん、他にはありますか?」
「ううん、特にないよ」
 澪はそう言っているが、一つだけ疑問に思っていた。
(何か、この迷宮って強斎が作りそうな迷宮なんだよね……。名前もコトリアソビ――小鳥遊びで漢字に直したらタカナシだしなぁ)
 こんなことを言ってもわからないだろうと思って、一人胸の内に止めていたのだ。


「さて、とりあえず目標の三〇下層まで行ったが……どうする? 引き返すか?」
「いえ、まだ行きましょう。余裕ありますし」
 勇志の意見に誰も反対の声はあがらなかったが、鈴がファイの様子を不思議に思った。
「いつもより静かじゃない。どうしたの?」
「……何でもないわ」
 ファイは今まで補助としてしか戦っていないが、それは戦略である。
 ファイが普通に戦うと、大抵一発で終わってしまうので戦っていないだけなのだが。
「何でもないならいいのだけど……隠し事をしてるわね?」
「うぐっ……!」
「わお。こんなにもわかり易いとは」
「う、うるさいわね!」
「で、何隠してるの?」
「……嫌な予感がするの」
「嫌な予感?」
「ええ。この三〇下層まで精霊が一匹も見当たらない……ただそれだけなんだけど――――」
 ファイがそこまで言った瞬間……。
 ……琴音が消えた。
 文字通り、消えたのだ。
 唐突に、なんの前触れもなく。
 音もなく消えたのだ。
「……っ! 皆! この階層から早く逃げろ!」
「琴音ちゃんは[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 琴音ちゃんはどうするの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 逃げろと指示するベルクに向かって、緋凪が琴音の現状を訊く。
「あいつはまた後で探し出す! それより今はこの階から脱出だ! このフロア……強制転移の罠が仕掛けられている!」
 こうして、勇者一行は琴音を強制転移させてしまったのであった。


[#ここから6字下げ]
琴音が転移せれてしまいました。
決して出番が少ないからではありません。
次回、琴音視点!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]69話 琴音の小さな出会いっぽい[#中見出し終わり]






「う……ん……っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 琴音は、急な悪寒を感じ飛び起きた。
(ここは……?)
 周りを見渡すもの、特に変わったものは見つからなかった。
 そう、なにも見つからなかったのだ。
(さっきの感覚が勘違いじゃなかったとしたら、早くこの場を去った方がいいかもしれない……)
 自分の冷静さに驚きつつ、人一人入れそうな物影に隠れる琴音。
 その数分後、琴音の目の前に竜が通っていった。
(あのままだったら確実に見つかっていたわ……。でも、これで確信した。私は皆とは違うダンジョン、もしくはもっと下層に飛ばされてしまったのね)
 琴音はそのまま座り込み、小さく笑った。
(あーあ。私の人生、こんな風に終わっちゃうんだ……。誰かを庇って死ぬとか、そういう華がある死に方がよかったなぁ)
「誰にも気付かれずに死ぬって、こんなに悲しいんだ……」
 慌てて口を押さえるが、時は既に遅し。
 魔物に気付かれてないか、恐る恐る物影から出て確認する。
「誰も……いない……よね?」
「何やってんだ?」
「っ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
 琴音は素早くその場から離れて、声をかけてきた人物を確認した。
「……あなたは?」
「ここの製作者……とでも言っておこうかな」
 製作者を名乗る青年は、不敵に笑いながらそう名乗った。
「製作者?」
「ああ。というより、お前は一人でここまで来たのか?」
「えっと……ここは?」
「ここは八〇下層。普通ならたどり着けるレベルじゃないぞ」
「八〇下層[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ここって『コトリアソビ』ですよね[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ん、そのとおりだ」
 琴音は、その場で脱力して座り込んでしまった。
「……私は一人でここまで来たわけではありません。三〇下層で仲間とボスを倒した後だったのです」
「三〇下層から……?」
「ええ。ボスを倒して仲間と駄弁っていたのですが……」
「その時に飛ばされたと」
「はい」
 青年は難しい顔をして何かを考え始めてしまった。
「あ、えっと。ここは八〇下層なんですよね? だったら転移部屋があるは――」
「ボスの部屋は八五下層にある。ここはボス部屋でもなんでもない。問題なのは……」
 青年は向きを変えてため息を吐く。
 琴音は疑問に思ったが、そんなものは直ぐに吹き飛んだ。
「あ……あ……」
 上空から咆哮と共に竜が二人目掛けて飛んで来たからである。
「……」
「なにしてるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 早く逃げないと!」
 琴音はそう叫ぶが、青年は全く動こうとしなかった。
(まさか足がすくんで……[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 琴音は青年の前に立ち、竜と正面から向き合った。
(どうせ死ぬなら少しでもこの人を……!)
「私があの竜を引き付けるから、あなたは逃げて!」
 琴音は詠唱を開始し、迫り来る竜に向けて放った。
 だが、案の定全くダメージにはなっていない。
(次の魔術を詠唱する時間はもうない……。あんな竜に襲われたらひとたまりもないだろうし……)
 自分が死ぬことに対して恐怖はあったが、震えはなかった。
 こんな時でも冷静な自分に小さく苦笑してしまった。
「せめて、楽に死にたいなぁ」
 そんな言葉が自然と出てしまった……だが。
「死なせねぇよ」
 耳元でそう呟かれたと同時に、目の前の竜が爆散した。
「え? 助かっ……た?」
 死を覚悟した危機が去り、へなへなと座り込んでしまった。
 青年は申し訳なさそうに琴音に手を差し伸べた。
「すまない。これは俺の管理ミスだ」
「管理……ミス?」
 琴音は青年の手を取り立ち上がった。
「ああ。この迷宮には強制転移の罠なんて仕掛けてない。恐らく何者かの手によって――――」
「あ、あのっ!」
「……どうした?」
「さっきの竜は……あなたが倒したの?」
 自分が強制転移されたかよりも、今はそっちの方が気になっていた。
 琴音が見た限り、詠唱は全くしていなかったので、気になるのも当然と言えるだろう。
「まぁな」
「あなたは……何者なの?」
 青年は小さく鼻を鳴らし、不敵に笑った。
「ここの製作者……普通の人間だ」
 琴音はただ唖然とするしかなかった。
…………
……
……
 暫く時間が経ち、琴音のHPMPも回復したところで青年は琴音を連れて歩みだした。
「えっと、私の自己紹介がまだだったね……名前は蓬莱琴音。一応ライズ王国出身で、今はドレット王国に住んでる」
「蓬莱琴音……ねぇ」
 青年は懐かしむような目で琴音を観察していた。
「な、何?」
「いや、別に。で、お前はどうしてこの迷宮に?」
「レベル上げ……倒したい相手がいるから」
「倒したい相手?」
「うん」
 自らの仲間を思い浮かべながら話を進める。
「私の仲間の友達がね、そいつに殺されたらしいの」
「ほう」
「はっきり言って私には関係ないけど……。なんていうか、今のこの生活が楽しいから一緒に戦っているみたいな?」
「仲間のおかげだから、その仲間を悲しませた奴を許さないと?」
「まぁ、そんな感じ。相手は暗黒騎士って名乗ってる魔族らしいんだけど……」
「……」
「何か、めちゃくちゃ強いらしくて……。だから、君にお願いしたいの」
「……」
「私たちと一緒に戦ってくれない? 竜を瞬殺できる実力なら――――」
「すまないが、一緒には戦えない」
「……そっか。そうだよね。いきなり戦えって言われても困るもんね」
「……ああ、すまないな」
 青年はとある扉の前で立ち止まり、琴音の目をしっかりと見た。
「この扉の先に地上へと出ることができる転移ポイントがある。一方通行だから向こうからは来れないが、外には普通に出れるぞ」
「まぁ、そうだよね……」
 ほんの少しがっかりしている琴音の手に、青年は一枚のコインを握らせた。
「……これは?」
「黒金貨だ。迷惑料として受け取ってくれ」
 琴音は黒金貨の存在を知らないため、驚いていいのか戸惑っていた。
「えっと……とりあえずありがとう?」
「こちらこそすまなかったな」
「また、会えるかな?」
「……ああ、また会えるさ」
「そっか」
 琴音はそれだけを聞くと、部屋の扉を開けて転移する準備をする。
 その時に、もう一度だけ青年の方を向き別れの言葉を口にした。
「じゃあね」
 何気なく口にしたその言葉だが、帰ってきたのは驚愕の一言だった。
「ああ、次に会うときは敵として会うことになりそうだがな」
 琴音はその意味を訊く前に地上へ転移した。


[#ここから6字下げ]
迷宮の製作者を名乗る少年とは……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
次回、勇者視点です
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]70話 無事再会っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
感想で、何故製作者が竜を殺したかという質問が多かったのですが、その答えはネタバレになるので言えませんごめんなさい。
[#ここで字下げ終わり]




「地上……ね」
 琴音は周囲を確認し、迷宮の外だと理解すると背伸びをしてリラックスをする。
(なんか、絶叫系の乗り物に乗った気分ね……。恐怖は少しの間だけで、それが終わったらまるで夢だったかのようにいつも通り……)
 異世界に来ている時点でいつも通りではないことに気付くと、彼女はくすっと笑い自分のやるべきことを思い出した。
「皆、まだ地上に上がってこないかな……」
 やるべきこと……それは、自分の安全の報告である。
 どこかの男は、それをしようとすら思っていないが……。
 しばらく待っていても全く姿を現す気配が無いので、彼女は思い切った行動に出ようとする。
(私一人で三〇下層の探索……できるかな?)
 このまま待っていても良かったが、心配させている相手があの勇者たちである。
 力尽きるまで探し続けてもおかしくなかった。
 そう考えると、彼女は盛大にため息を吐く。
「全く……これでまだ三〇下層にいたら、どこまでのお人よしの人たちなんだろうね」
 そう呟いてから、再び迷宮の入り口に立つ。
(確か、一〇下層ごとに居るボスを倒せば、そこからはじめることが出来るんだよね?)
 自分自身に問い、思い切って迷宮の入り口に入った。
(お願い……! 三〇下層に着いて!)
 流石に琴音一人では三〇下層まで到達できないので、こればかりは祈るしかなかった。
 そして……。
「琴……音……?」
「あ、緋凪」
「琴音!」
 無事、再会することができたのである。
…………
……
……
 琴音が無事に戻ってきたところで、勇者一行はとりあえず地上へと出た。
「琴音さん、とりあえず無事で良かったよ」
「あ、ありがとうございます……」
 勇志に祝福されて、琴音は少しだけ照れてしまった。
 そんな琴音に立て続けで質問する。
「……琴音さんはどこに転移されたんだい?」
「えっと、多分ですけど……八〇下層です」
「八〇……よく無事だったね。魔物と遭遇しなかったの?」
「遭遇した……竜に」
 その瞬間、全員の顔が真っ青になった。
 ファイでさえも冷や汗を出している。
 そんな雰囲気を感じ取ったのか、琴音は焦り気味に何があったのかを説明する。
「え、えっとね。遭遇したって言ってもその竜一体だけだし、その竜も倒してもらったし……」
「倒してもらった?」
「うん。とっても不思議な人に」
「琴音、ちょっとその人のこと詳しく教えて」
 勇志と琴音の会話に突然澪が割り込んできた。
「その人の名前は?」
「名前は――――あ」
「あ?」
 名前を教えようとしたところで、琴音は頬を膨らませた。
「あの人の名前教えてもらってない……私は教えたのに」
「えー……」
「でも、その人からこんなものもらったよ」
 琴音は黒金貨を取り出し、ヴェレスに見せた。
「ヴェレスさん、これなんだかわかる?」
「あ、はい。これは黒金貨ですね……。普通は国とか階級の高い貴族が持っている金銭ですね」
 ヴェレスは王女なので普通に解説できるが、本来ならとんでもない代物なのである。
 イマイチ価値観がわからないまま澪が口を開いた。
「ってことは、琴音を助けたのはどこかお偉いさんってこと?」
「んー……どうだろ? あの迷宮の製作者とも言ってたし……」
「製作者?」
「うん」
 澪はそこで何かを感じ取ったらしい。
「それっておかしくない? 琴音を助けた人が迷宮の製作者で、その製作者が迷宮の竜を倒したんでしょ?」
「そうだよ」
「そうだよって……おかしいと思わないの?」
「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」
「だって、製作者は自分の駒を自分で倒したって言ってるのよ? 普通だったら屈服させるか何かするはずでしょ?」
「……それもそうかな」
「それに、普通だったらその……琴音が殺されてもおかしくなかったじゃない」
「あ、それについてはミスって言ってた」
「ミス?」
「うん。管理ミスだって」
「……わけがわからないよ」
「澪さん、私もわけがわからなくなってきました」
 お互いに苦笑いをして話が終わったと思いきや、琴音が小さく声を出して首を傾げた。
「琴音、どうしたの?」
 その変化にいち早く気づいたのは緋凪だった。
「えっとね、その人最後に気になること言ってたんだ」
「気になること?」
「次に会うときは敵として会うことになるって」
「本当に気になるね」
 そこで話は終わったらしく、それを見切ったベルクが口を開いた。
「ちょっとした事件もあったが、お前たちの実力は充分見せてもらった」
「それで、ベルクさん? はっきり言ってどうなの? 私たちは暗黒騎士に勝てるの?」
 鈴がベルクを睨むが、ベルクから帰ってきたのは鼻を鳴らした音だった。
 そして……。
「恐らく大丈夫だろう」
「私もそう思うわ」
 ファイもベルクと同じ意見だった。
「暗黒騎士のステータスは多分普通の魔王並。魔王は私より少し強いぐらいだけど、精霊たちをどうにかすれば暗黒騎士の魔術は封印できる。魔術を使えない相手だったら私よりも弱いに等しいし、それに加えあなたたちの実力が加われば負ける要素がなくなるわ」
「まぁ、そういうことだ。それに、暗黒騎士のHPを二割まで削ればいいしな」
 二人のお墨付きをもらった勇者一行は少しだけ気分が高揚した。
「遂に、ここまできたんだね……」
「ユウシさん……」
 中でも、勇志が一番嬉しそうだった。
「強斎が消えたあの日から僕はずっと考えていた。僕が強斎に出来ることを……」
「……」
「復讐って形になっちゃったけど、それでも僕は暗黒騎士を倒す……。そして、強斎の最期を聞く」
「ユウシさんは強いですね……。普通、大切な人の最期なんて知りたくありませんよ?」
「僕は強くなんかない……でも、以前よりは強くなったかな?」
「……はい。確実に強くなっていますよ」
 そのような会話が流れている中、一つの小さな影が近づいてきた。
 それにいち早く気づいたのはファイであった。
「……誰?」
 その人物から全員を守るように前に出るファイ。
 流石にそこまですると、全員がその小さな影に気づいた。
 そして……。
『ルナさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
「はい、皆さんお久しぶりですね」
 小さな影……ルナはニッコリと笑って答えた。
 だが、ファイとベルクだけは警戒心を中々解こうとはしなかった。
 ファイについては、今までにない焦りを見せている。
「皆さんはここで何をしてたんですか?」
「迷宮攻略よ」
「……あなたは? 初めて見る顔ですね?」
「名前を訊くときは自分から名乗りなさいよ」
「そうですね、失礼しました。……私の名前はルナ。以前皆さんとは少しだけ狩りをした仲間です」
「……そう」
 ファイも一応は警戒を解いたようだ。
「私の名前はファイ。火の精霊よ」
「そうですか。よろしくお願いしますね、ファイさん」
 ルナは、ファイが精霊と名乗っても特に驚くこともなくベルクの方に向く。
「あなたは?」
「あ、ああ……。俺はベルク・ローダン。シッカ王国のギルマスをしてる」
「シッカ……王国……ですか」
 ルナはその国名を聞くと、何かに怯えているように震えた。
 だがそれも一瞬のことで、誰も気づくことはなかった。
「よろしくお願いします、ベルクさん」
「ああ」
 挨拶が終わったところで、勇志がルナに疑問をぶつけた。
「ところで、ルナさんはここで何をしてるんですか?」
「私は……そうですね、人を待っているといったところでしょうか?」
 ルナは迷宮を眺めながら、更に一言呟いた。
「まぁ、長くなりそうですが」


[#ここから6字下げ]
ルナとも再会!
製作者の正体はもしや……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
この調子ですとあれですね
一ヶ月の間に二〇話更新できませんね……
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]71話 不機嫌なルナVS往生際の悪いファイっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
皆さんお久しぶりです!
足が二回ほど爆散しそうになったり、少しだけ吐きそうになるほど走って気持ち悪くなった挙句に強制送還されたりと色々大変でしたが無事帰還しました!
本当は昨日更新予定だったのですが……すみません
[#ここで字下げ終わり]




「人を待っている?」
「ええ」
 勇志は一瞬誰の事か理解できなかったが、ルナが信喜を睨んだことによって解決できた。
「ルナさんの主……ですか?」
「はい、その通りです」
「……ルナさん?」
「はい」
「えっと……機嫌悪いのですか?」
「……」
 先程から全く反応らしい反応をしなかったルナが、初めてピクリと動いた。
「……どうしてそう思うのですか?」
「だってルナさん……放出する魔力が不安定なんですから」
「それだけで私が不機嫌だと?」
「後は口調と雰囲気ですね。さっき僕たちに声をかけた時と今では全然違います。……何か失礼なことでもしましたか?」
 不安気に問うと、ルナは大きなため息を吐いた。
「そうですね、確かに気に食わない事がありました。ね? ファイさん?」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ルナがファイに目線を移した瞬間、ファイはルナに対して高火力の精霊魔術を遠慮なく放った。
 勿論、近くにいた勇志達に被害が及ばないように攻撃範囲を小さくして。
「ルナさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ファイ! ルナさんに何をするんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 未だに激しく燃えている場所に急いで水をかけるが、全く消える気配がない。
 勇志以外の勇者も今起きている状況を把握しはじめた。
「ファイ! あんたなにやってんのよ!」
 鈴がファイに対して怒鳴るが、全く聞く耳をもってない。
 それどころか、強く歯を食いしばって炎をじっと見守っていた。
 コトリアソビに来た冒険者たちも気になって大勢が見に来ている。
 そして……。
「……あなたは、どこまで主様に対する嫌がらせをするつもりですか?」
 勇志が水魔術で消せなかった炎が、声とともに一瞬で消えた。
 中から出てきたルナは全くの無傷……服にまで異常がなかった。
「皆! 急いでその女から離れなさい[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「どういうこと――――ぐっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 勇志がファイに問う前に魔力弾で弾き飛ばされた。
 他の勇者も同様に怯まされている。
 その数瞬後、その場にいた全員は顔を上げて唖然としていた……ファイとルナ以外。
「や、やめなさい! そんなことしたら……ここ一帯が消し飛ぶわ!」
「リンは黙ってて[#縦中横]!![#縦中横終わり] 今はこいつを……全力で倒さないといけないのよ!」
 ファイの上空には、濃密な魔力で作られた巨大な火の玉が出来上がっていた。
 完全に勇者の安全を無視しているほどの魔術を放とうとしているのだ。
 しかも、契約者であるリンの命令が発動していないことから、命令の内容を理解できていない事が分かる。
 どれだけ愚か者の冒険者でも、この状況は流石にやばいと思ったのだろう。
 皆、一目散に逃げてこの場には勇者一行とルナだけが残った。
「はぁ……冒険者の皆様がいなくなってしまったではないですか。なんのつもりですか?」
「あなたを殺すつもりよ」
「私を殺す? 何故ですか?」
「驚異だからよ。今は私と同じぐらいの強さかもしれないけど……いずれ、あなたはこの世界を支配するほどの力を手にするでしょう……。その前に私が殺す!」
 すると、ルナは小さく笑ってからそっと口を開いた。
『周りにいる精霊と関係があるのですか?』
 その言葉を聞き取れたのはベルク以外の全員……。
 つまりは精霊界語だったのだ。
「あなた……一体何者なの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「私はただの兎族ですよ。それより、私の質問に答えてください」
「質問に答える? その必要はないわ!」
 ファイは質問に答えるのではなく、上空でパワーアップしていく火の玉を動かし始めた。
「あなたはここで死ぬのだから!」
「……はぁ」
 ルナはため息を吐いた後、何もない場所から銃を取り出した。
「私があなたみたいな精霊に殺されるわけないでしょう」
 そして、ルナが引き金を引いた瞬間、火の玉は消し去った。
「えっ……」
 これにはファイも驚きを隠せないでいる。
 そんなものお構いなしに銃口をファイに向けた。
「私を殺せなかったですね。質問に答えてくれますか?」
「……くっ!」
 ファイは素早くルナの背後に回り込み、攻撃をしようとするが……。
「っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 横腹を蹴られ、吹き飛ばされてしまった。
 それでも体勢をなんとか立て直し、何度もルナに襲いかかる。
「|往生際《おうじょうぎわ》が悪いですね。既に決着はついているでしょう」
「うる……さい!」
 ファイは全身に炎を纏い、素早さと火力を上げてルナに挑むが……。
「無駄ですよ」
「ぐっ……ぁ!」
 銃で腹部を突かれて、直ぐに纏った炎が消えてしまった。
「これ以上は時間の無駄です」
「ゲホッ……まだ……まだ終わって――――」
 ファイが言い終わる前に、ルナは躊躇いなく銃の引き金を引く。
「っっっ[#縦中横]!![#縦中横終わり][#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「終わってるんですよ」
 右脚を打ち抜かれたファイは声にならない悲鳴で叫んでいた。
「いい加減、質問に答えてください」
「はぁ……はぁ……」
 ファイは息を切らしているものの、全く屈する様子はなかった。
 ルナも本当に困っているようだった。
「まだ屈する気はないんですか?」
「あたり……前よ……!」
「そうですか」
 そして、もう一度引き金を引いた。
 次は、先ほど打ち抜かれた場所からほんの少しズレた場所を打ち抜かれる。
「ぐっ……ああああああ[#縦中横]!![#縦中横終わり][#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「もうやめて[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ファイの痛々しい絶叫に鈴が耐えられなくなったのか、ルナの前に飛び出した。
「もう充分でしょう[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで必要以上にファイを傷つけるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ルナさんはこんな鬼畜だったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「リンさん、あなたには関係のないことです。どいてください」
「これも……こんな酷いことも、ルナさんの主が命令したことなの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 その瞬間、鈴の頬に一筋の切り傷が浮かび上がった。
 気が付いたら銃口を鈴に向けていたのである。
「これは私の独断です。主様は関係ありません」
「なら……なんでこんな酷いことを? 私に魔術を教えてくれた時のルナさんじゃないよ……」
「……そうですね、少し熱くなってしまいました」
 ルナは銃を[#傍点]消して[#傍点終わり]代わりにポーションを取り出す。
 そのポーションをファイに対して使った。
 いつの間にか気絶してしまったファイを一瞥すると、ルナは鈴に対してお願いをする。
「すみませんが、この精霊が起きたら訊いてほしいことがあります」
「訊いてほしいこと?」
「はい、まずは他の精霊になんと言われたか。次に何故ここまで口を割らなかったのか。最後に……」
 ルナは迷宮の入口を一瞥してから再度口を開く。
「なんで迷宮の入口を破壊しようとしたのか……これらを訊いておいてください」
 そして、ルナは静かにその場を去った。


[#ここから6字下げ]
あー……ファイちゃんとルナちゃんの人気下がりそう……
嫌いにならないであげてくださいね!
ファイちゃんとか超勘違いした挙句に自分勝手してたけど、理由あるから! あと美少女!
ルナちゃんも自分の主を思っての行動だから! あと美少女[#縦中横]!![#縦中横終わり]
嫌いにならないで!
以下余談
友達が強斎くんの絵を描いてくれました!
他人の強斎はこんなふうに映ってるんだーとか色々思いましたね
それと、自分の作品のキャラクターを描いてくれるって何かすっごく嬉しいですね!
以前、別の友達にも描いてもらった時もすっごく嬉しかったです!
色んな人の絵も見たいなー(チラッチラッ
友達の許可はもらってるので、自分のtwitterに載せてあります。
ホームから飛べるので是非フォローを(殴
後、自分の名前を調べても出てくると思うので!
じゃんじゃん絡んできてください!
それと、遅れてすみませんでした!
感想はしっかりと読ませてもらってます、少し多くなってしまったのでどう返そうかは検討中です、もう少しお待ちください。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]72話 反省っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
ルナさんマジぱねぇ……
まさか鈴の好感が落ちるとは思っていなかった
[#ここで字下げ終わり]




「うっ……ん……」
 ファイが目を覚ましたのは明け方だった。
 まだ完全に覚醒していないファイは周りを見渡し、ここがドレット王国の一室だと理解する。
「あれ……? 私……」
 右脚を撃たれて重傷だったはずだが、今はなんの痛みもなく、怪我も綺麗さっぱりなくなっていることに疑問を感じた。
 そして、段々と今の状況を把握していく。
(私、あいつに負けたんだ……)
 上級に近い階級を持つ自分が、ここまで圧倒的に負かされたのは初めてだった。
 それと同時に、ルナへの警戒度がさらに高まる。
「ん?」
 今まで気がつかなかったが、ファイのそばで寝ている人物がいた。
「……リン?」
 自分の契約者であるリンだった。
 心配をかけたという罪悪感と同時に未遂とは言え、仲間の安全を全く考えずに魔術を使ったことに対しひどく反省する。
(こればかりはあいつに感謝ね)
 あの時魔術を無力化していなければ、もしかしたらこの場に誰ひとりいなくなっていたかもしれない。
 自分は助かるが、契約者を殺してしまってはどの道待っているのは死だった。
「……ファイ?」
「おはよう、リン」
「よかった……目を覚ましたのね」
「ええ、ぐっすり眠らせてもらったわ」
「本当に……よか……った」
 鈴はそのまま目を閉じて、深い眠りについてしまった。
 あまり寝ていないことが目のクマを見れば直ぐにわかった。
「おやすみ、リン」
 ファイは鈴が起きるまでこの場を離れるつもりはなかった。
…………
……
……
「さて、とりあえず二人共ここに正座ね」
「「……はい」」
 最初はファイを心配していた澪だが、朝食が終わると直ぐに二人を正座させた。
「二人共、なんで正座させられてるかわかるよね?」
「「はい」」
「じゃあ、まずファイから」
「あなたたちの安全を考えずに魔術を放とうとしてました」
 すると、ファイの頭にコツンと澪の拳が当たった。
「それもあるけど、それは私たちが弱いってのも原因だから。私が怒ってるのはルナさんに対して突然攻撃した挙句に、驚異だのなんだの言って殺そうとしたこと。ルナさん困ってたのよ?」
「それは根拠があって……」
「言い訳は後で聞くわ。次、鈴」
「明らかにファイが悪いのに、ルナさんに対して鬼畜だの魔術を教えてくれた時のルナさんじゃないだの、挙句の果てにルナさんの主を悪く言ったことです」
「そうです。それと、ファイをしっかりとコントロールしてないのもダメ。お母さん許しませんよ?」
「うぅ……ごめんなさい」
 その時、澪が大きなため息を吐いた。
「……まぁ、何もできなかった私が言える立場じゃないけどね」
 黙って聞いていた他の面々も、少しだけ雰囲気が暗くなった。
 それを察したのか、澪は慌てて話題をふる。
「で、ファイの根拠って?」
「……」
 口を開こうとしないファイに少しだけムッとしたが、鈴が「任せて」と目で訴えたので素直に引いた。
「ファイ、命令よ。私たちの質問に答えなさい」
「……わかったわ」
 観念したようで、ファイは重い口を動かす。
「私があいつを殺そうとした原因……あいつも言っていたように精霊に言われたのよ」
「ルナさん……本当に何者なの?」
 澪の驚きに共感する勇者一行。
「言われたというより、聞こえたと言ったほうが正しいわね。周りの精霊が、明らかにあいつを避けるように行動していたの。完全に怖がっていたわ」
「怖がる? なんで?」
「あいつは危険だ、近づかない方がいい。そんな会話が耳に入ってきた……そして、私も一目見てわかったわ。あいつは危険よ」
「危険危険って……ルナさんは――――」
「ミオは知らないかもしれないけど、精霊ってのは気に入った人に服従したいって子が多いのよ」
「……マゾ?」
「それがなんなのかわからないけど、その特性のせいで無理矢理服従させる能力を持っている人を嫌うことがあるの。そして、力が自分より強かったら本能的に恐怖を感じる……」
「まさか……」
「そう、あいつは強い上に服従させる能力を持っている……戦った感じだと魔王より遥かに強い」
「……」
 もうルナのことに対して驚かない事を決めた澪だった。
 そして、何かを思い出したかのように鈴が質問する。
「あ、そうそう……どうしてファイはルナさんに屈しなかったの?」
「さっきも言ったとおり、他の精霊を服従させたくなかったのよ……それに、あいつに屈したら私まで服従されてたかもしれないから」
「ふーん……じゃあ最後にもう一つ」
 鈴はルナに頼まれた最後の質問をする。


「――――どうして迷宮の入り口を破壊しようとしたの?」


 ファイは驚愕していた。
 まさかこの質問がくるとは全く思っていなかったらしい。
「まさか……気づいていたの?」
「ううん。ルナさんから聞いた。ルナさんの機嫌が悪くなった原因ってどう考えてもこれだよね? ファイは何を企んでいたの?」
「……確かに私はあの迷宮の入り口を破壊しようとしていたわ。あの迷宮……亜空間迷宮をね」
「やはり、あの迷宮は亜空間迷宮でしたか」
「俺も薄々そうじゃないかと思っていたがな」
 ヴェレスとベルクは納得しているが、他は理解できていなかった。
「亜空間迷宮というのは、直接地下に眠っている迷宮とは違い亜空間に存在する迷宮のことです。本来の迷宮だったら八〇下層という基地外な大迷宮にはなりませんが、亜空間だったら可能です……ただ」
 ヴェレスはファイを初めて睨めつけた。
「亜空間迷宮の入口を破壊してしまったら中の人々は亜空間に閉じ込められます。それを知っていて破壊しようとしたのですか?」
「ええ、その通りよ」
「……どうしてですか?」
「あの迷宮には精霊が一匹もいなかった。それに、下に行くたびに不穏な空気が濃くなっている。明らかに何かあるわよあそこ」
「私が訊いているのは、どうして他の人を考慮せずに入り口を破壊しようとしたのかです」
 今までにないヴェレスの強い口調に、ファイは少しだけ驚いていた。
「あそこまで怪しい場所なんだもん。多少の犠牲を作ってでも早めに除去しないと」
 その瞬間、ファイの目の前の鈴が現れ、頬を叩いた。
「……ファイ。あなたは命をなんだと思ってるの?」
「……命は命。たった一つしかない大切なものね」
「なら、どうして?」
「だから言ったでしょ? 犠牲が必要だって」
「それがファイの勘違いだったらどうするつもりだったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ならそれまでね」
「喧嘩はやめなさい」
 澪が二人の喧嘩を止めに入った。
「あなたたち、今は説教中なのよ? 立場をわきまえなさい。それとファイ、そういうのはあまり言わない方がいいわ。私たちは、他の人たちより少しだけ命を重く見てるから」
「……わかったわ」
「鈴も、少し熱くなるのが早いわよ。手を出す前に理由ぐらい訊きなさい」
「……ごめん」
 暗い雰囲気が漂ったところで、今まであまり喋らなかったベルクが口を開いた。
「さて、じゃあ暗黒騎士を討伐しに行くか」
 だが、口にしたのは討伐提案という少しズレた話題だった。


[#ここから6字下げ]
ベルクさんKYでっせ……
さて、反省会をしたところでファイの性格が段々わかってきましたね。
澪を母性溢れるキャラにしたいです……
亜空間迷宮……つまりは基地外迷宮です
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]73話 ルナの変化っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
はい、通常盤(三人称)に戻しました。
一人称は読みにくかったようですね……ごめんなさい。
[#ここで字下げ終わり]




 ファイとの戦闘後、ルナはフラフラと森の中を彷徨っていた。
 ルナの意識は、先ほどの鈴の言葉に持ってかれていた。
『もう充分でしょう[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで必要以上にファイを傷つけるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ルナさんはこんな鬼畜だったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
『なら……なんでこんな酷いことを? 私に魔術を教えてくれた時のルナさんじゃないよ……』
 この二つの言葉が彼女の思考を占拠していたのだ。
「……」
 右手で左腕を掴み、自らが震えていることを自覚する。
 そして、今まで占拠していた言葉が過去の出来事を思い出させる。
 [#傍点]生まれつき[#傍点終わり]呪いがかかった自分に|戒《ギアス》を埋め込まれ、始まった地獄。
 彼女にその地獄を味あわせた元の主人。
 彼女がその主人に抱いていた感情を鈴に言われてしまったのだ。
 それを理解した時には、彼女の手には魔銃が握られていた。
 自らを撃ち抜けるほどの魔力を込め、銃口を右脚……ファイを撃ち抜いた場所に合わせる。
 そして――――。
「うっ……ああっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」


 ――――ルナは、自らの右脚を撃ち抜いた。


 ルナの右脚からは止まる様子のない血が流れている。
 明らかにファイに与えたダメージを超えていた。
 それもそうだろう。
 ルナは自分のVITを計算して、ファイの痛みをしろうとしたのだ。
 だが、自らを撃った場所は至近距離。
 しかも、ルナは中学生体型の小柄な女の子だ。
 足もファイより小さいし、撃った距離があまりにも近すぎた。
 苦手な人が見ればそれこそ、失神するか吐くほどに……酷かった。
 だが……。
「ファイ……さんは……泣かなかった」
 今にも泣きそうになっているルナは、そう言って堪えていた。
「私は……あの男とは……違うっ!」
 ルナが思い出すのは、あの地獄の日々。
 そして、その張本人。
 昔の主人と自分を一緒にされたくないために、ルナは魔銃にもう一度魔力を込め、右脚に向けた。
「はぁ……はぁ……」
 だが、先ほどのように簡単には引き金を引こうとしない。
 ただでさえ痛いのに、ほとんど同じ場所に同じ威力の銃弾が着弾したらと思うと、恐怖で引けないのだ。
 だが……。
「私は……あんなクズになりたくないから……」
 目を瞑って呼吸を止める。
 引き金を引くための瞑想をしているのだ。
 正直、ルナのこの行為に意味はない。
 結果を見ればルナの過剰攻撃になるが、過程を含めるとファイの勝手な行動と鈴の制御不足が招いた自業自得だ。
 だが、ルナは過剰攻撃した自分に非があると勘違いしている。
 なぜなら……彼女には一般常識というものがほとんどないのだから。
 どのような過程なら悪いとか、そういうのがまだ把握できていないのだ。
 そして、彼女が知っている常識と言えば……。
 ただただ痛めつけられるだけの非常識だけだった。
 彼女にとって、強斎と出会ってからの日々は毎日が非常識だった。
 強斎が人を殺したという事実を知ったときは少し驚いていたが、ルナにとってはそんなもの嫌いになる理由には全く含まれなかった。
 そもそも、どんなことをされても嫌いにはなれないだろう。
 常識から非常識へ……。
 強斎のためなら何でもする。そんな気持ちになれるのだ。
 ……だが。
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり] っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 彼女は引き金を引くことができなかった。
 恐怖で指に力が入らず、ピクリとも動かない。
(リンさんの言ったとおり、私はあの男と……同じ……)
 すると、今まで我慢してきた涙腺が崩壊した。
 今の主人への裏切り……そう思い込んでしまったのだから。
「ルナ! あんたなにやってんのよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ゼロ……さん?」
 ゼロに気づいたルナは、急いで目元を拭う。
「どうしたんですか? 今は自由時間のはずですよ?」
「どうしたんですか? じゃないわよ! 主人が物凄く心配してたわよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「主様が? ……ああ」
 強斎は自らの奴隷の状態を遠く離れてても把握できる。
「ルナの体力が急激に減ったって……主人なんて、用事を中断してまでここに向かおうとしてたんだから」
 強斎はルナの異変に気づき、ゼロをここに向かわせたらしい。
(やっぱり、主様は優しいなぁ……)
 すると、ルナは手に持った銃を一瞥し何かを決心した。
「ゼロさん、一つお願いがあります」
「別にいいけど、まずはこの脚を治療してからね」
 ゼロは歴代最凶の魔神だというのに、回復魔術に関してはチートである強斎を凌駕している。
 そんなゼロの治癒をルナは手で制して止めた。
「治癒する前に聞いてください」
「はぁ、なによ?」
 ルナはゼロに魔銃を差し出す。
「これで、私の右脚を撃ち抜いてください」
「……どういうつもり?」
 顔には出していないが、ゼロは密かに怒っていた。
 ルナにもわかっているはずだが、全く引く様子はなかった。
「私の……私の過去に決着をつけたいのです。相手を容易に痛めつけ、その痛みをわかろうとしないクズになりたくないのです」
「……」
 ゼロは無言で魔銃を受け取り、ルナに向けた。
 ルナは覚悟を決めてもう一度目を瞑る。
 しかし……。
「バカじゃないの?」
「……へ?」
 ゼロは引き金を引かずに、魔銃でルナの頭を叩いた。
 ルナは目を点にしながら、ゆっくりと口を開く。
「なんで……ですか?」
「なんでって言われても、私はルナの奴隷じゃないのよ? 命令を聞く義理なんてないわ」
 そう言って、ゼロは適当な場所目掛けて魔銃の引き金を引いた。
 あまりにも破壊力がありすぎて、周りの木々が吹き飛んだ。
「こんな威力の弾丸を自分の脚に撃ったわけ?」
 ゼロは完全に呆れている。
 そして、いつのまにか治癒は完了していた。
「私、ゼロさんを軽蔑しますよ?」
 これが冗談だということはゼロにもわかっていたが、それはあえて指摘しなかった。
 その代わり、別の質問をする。
「あなたねぇ……自分の脚を二回も撃ち抜こうとして何がしたかったの?」
「だから、過去に決着を――――」
 ルナが言い終わる前に再度魔銃で頭を叩く。
 どこか不機嫌そうにゼロを見るが、それも一瞬だった。
「決着なら、もう付けたじゃないの」
「?」
 ルナの左肩を指差して、話を続ける。
「さっきの言葉から推測すると、|戒《ギアス》があった頃だよね? それなら完全に断ち切ったでしょ?」
「で、ですが――――」
 更に魔銃で頭を叩いてしまったために、ルナは避けることを決心しようとしていた。
「なんの為に|戒《ギアス》を解いたと思ってるの? 過去と決別するためでしょう? ルナの身に何があったのかは知らない。だけど、それを過去と結びつけるのはやめなさい。なにより、主人が望んだことなんだから」
「……なんで主様は私を奴隷にしたのですか? 強くもないし、頭も良くない……容姿だって子供っぽいし、私の長所なんて一つもないです」
 ルナは、無意識にそう質問していた。
 ゼロは少しだけ困った顔になるが、直ぐに笑顔になりルナを優しく包み込む。
「私たちを奴隷にした意味はわからない……だけど、主人たちは私たちを愛してくれている」
「こんな……私もですか?」
「『こんな』じゃない、ルナだからよ。それにルナは、ルナらしい良いところを沢山持っている。頑張り屋さんなところとか、子供っぽいところとか。まだ若いんだから痛みを背負うとか物騒なこと言わずに、主人の愛に甘えていればいいのよ」
「私は……主様と同い年です」
「ふふっ、そうだったわね」
「……ゼロさん。最後に訊かせてください。愛ってなんですか?」
 ゼロはルナから少し離れて、苦笑いを浮かべる。
「難しいこと訊くのね……。まぁそれぞれだけど、私は存在しているだけで充分な相手に贈る気持ち……。そんな感じかしらね?」
「……じゃあ、私も主様を愛していることになりますね」
「あら、言うじゃない? さっきまで泣いていたくせに」
「み、見てたんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ルナの頭を雑に撫で、ゼロは小さく背伸びをしてから微笑んだ。
「私も負けないからね?」
 その微笑みは、魔神の名には似合わないほど美しく、綺麗だった。
 ルナは嫉妬するほど馬鹿らしいぐらいの格差を見せつけられた気がしたが、引き下がらなかった。
「主様に一番歳が近い私のほうが有利ですよ?」
「あ、あら。私が年増とでも言うの?」
「え? だってゼロさんの歳って――――」
「あーあー! きこえなーい!」
「魔神だろうがなんだろうが、私は容赦しませんよ? だって私は――――」
 ルナの中にはいくつもの呪縛があり、容易には解けない。
 今の主に相応しい奴隷なのかは定かではないが、これだけは言いたかったようだ。


「私は、主様が大好きですからっ!」


[#ここから6字下げ]
そろそろ勇者視点が終わります。
さて、結構前に後書きでとあることを書いたのですが、覚えてますか?
そう、この戦争編の見所ですよ!
……あれ? 戦争してない……?
あ、ファイちゃんですが身長は普通の高校生程度だと考えてください。
ルナちゃんは小学生でも通じるぐらいの中学生って感じです!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]74話 フラグっぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
皆さんお久しぶりです!
大変お待たせしました!
何があったのかはお察しください! twitter見ればわかr(殴
[#ここで字下げ終わり]




 既に日は沈み、深夜帯と呼ばれる時間。
 そんな時間に二人の男は剣を交えていた。
「これで……終わりです[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 勇志がベルクの剣を弾き飛ばし、決着がついた。
「……参った。降参だ」
 ベルクは両手を上げて小さく笑った。
「まさか、この短期間で越されるとは思ってもいなかったぜ」
「ベルクさんのおかげですよ」
 勇志は愛用の剣を鞘にいれ、話を続けた。
「遂に明日……魔界に乗り込むのですね」
「ふっ、怖気づいたか?」
「まさか。でも、いまいち実感が湧かないんですよ。最初の目標が魔王討伐でしたし」
「倒したら元の世界に帰れると?」
「その後、神様を復活させて~とか続いてましたが、正直信じていません。でも、僕は強斎が生き返るならどんな小さな可能性でも全力で挑戦しますよ」
「それで魔神討伐か……」
「ベルクさん……さらっと流しましたけど、僕たちがこの世界の人間じゃないって知ってたんですか?」
「ん? まぁな。あのショクオウも違うんだろ?」
 勇志は無言で頷いた。
 ベルクは鼻を鳴らしてから、勇志に背を向ける。
「ベルクさん?」
「俺たちは明日、魔界に戦争を吹っかけに行く」
「……はい」
「全員が生きて帰れるとは限らねぇ。だが、一番最初に死ぬのは俺だ」
「ベルク……さん?」
「俺はもう数百年は生きている。だが、お前たちはまだ若い……誰かが死ぬとしたら俺が代わりに犠牲になってやるよ」
「何を言っているんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ベルクさんが死んだらシッカ王国の冒険者ギルドはどうするんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「そうだな。ユウシ、お前にでも任すよ」
「……僕はドレット王国の住人ですよ? 他国の冒険者ギルドなんて――――」
「そのためにも魔王を討伐し、人間界を平和にするんだ」
 ベルクはもう一度剣を抜き、勇志に剣先を向けた。
「この戦争は人間界で起きる戦争を止めるための戦争でもある。魔王を討伐したらどの国もお前に跪くだろう」
「だ、だったら――――」
 勇志が口を開いた瞬間、剣先が首元に来ていた。
「今からお前に一つだけ技を教える。俺が冒険者最強と言われるきっかけになった『竜殺し』の一撃をな」
 …………
 ……
 ……
「おはようございます、ユウシさん」
「おはよう、ヴェレス」
 王宮城内の庭で座っていた勇志にヴェレスが声をかけた。
「もうそろそろ出発ですよ?」
「……そうだね」
 そう答えるもの、勇志は全く動こうとしなかった。
「……ユウシさん、隣いいですか?」
「ああ」
 ヴェレスは勇志の隣に腰掛け、再度口を開く。
「ユウシさんとここで二人っきりになるのって、久しぶりですね。私が告白した時以来でしょうか?」
 赤くなった顔を隠そうとするが、勇志にはバレバレだった。
 そんな仕草に思わず笑ってしまう。
「もう……笑わないでくださいよ」
「ははっ、ごめんごめん」
「はぁ……。あの時、ユウシさんは私のわがままに耳を傾けてくれました」
「そのわがままが告白なんて思ってもいなかったけどね」
「あの時と同じようにもう一度わがままを言わせてください」
「……」
「ユウシさん、絶対に生きて帰ってきましょう。勿論、全員で」
「……」
「それでは、正面玄関でお待ちしてますね」
 そう言い残して、ヴェレスは立ち去ってしまった。
(強斎……フラグの折り方を教えてくれ……)
 勇志は胸糞悪い感覚を味わいながらも、正面玄関に向かうのであった。
 …………
 ……
 ……
『[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』
 それは唐突だった。
 勇者一行が森に足を踏み入れた途端に起きた出来事だ。
 一瞬……たった一瞬だが、今までに感じたことのない魔力が感じ取れたのだ。
「ベルクさん……もしかして……」
「ああ、魔界の連中に見つかったかもしれないな……急いで魔界に乗り込むぞ」
 一行はしっかりと頷いて転移門に向かった。
 しかし……。
「ははは……マジかよ」
 転移門の前には魔物が立ちふさがっていた。
 それどころか、いつの間にか大量の魔物に囲まれている。
「この森にこんなレベルの魔物なんていなかったはずだけどな……。こりゃ、魔界につく前に色々枯渇するぜ」
「一旦体勢を立て直しましょう」
「いや、戻っている時間はない。この作戦は奇襲作戦だ。魔界側には見つかってしまったが、今から行けば先制打撃は与えられるはず」
「転移門を塞いでる魔物を倒して、魔界に?」
「それも無理だ。この魔物たちは恐らく魔界の魔物……。追ってこられたら魔界で挟み撃ちに合う確率も出てくる」
「じゃあ、どうするつもりですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 すると、ベルクは一瞬で転移門前の魔物を蹴散らした。
「お前らだけで先に行け。ここは俺が引き受ける」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そして、そのまま魔物の群れに突っ込む。
「後で絶対に追いついてみせる! だからお前らは先に行け!」
「ベルクさん! それは言ってはいけません[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「おい、勇志! 早く魔界に行くぞ!」
 大地に腕を引っ張られ、転移門を潜った。
 …………
 ……
 ……
「大地、何をするんだ!」
「ベルクさんが折角開けてくれた道だ、通るのが道理というものだろう」
「なんで……なんでベルクさんが犠牲に……」
「勇志」
 大地は勇志の額に強いデコピンを与えた。
「大丈夫だ、お前はしっかりとフラグを折っている。気にすることなんてない」
「僕が……?」
「ああ、昨日の夜のことだろ? 俺も偶然聞いてしまったからな」
「いつ僕が折ったと?」
「フラグをフラグと自覚していること。それだけだ」
「……ふふっ、そうだったね」
 勇志は転移門を一瞥し、小さく呟いた。
「ベルクさん、必ず追いついてきてください」
 そして、勇者一行は歩みだした……。


 ――――だが。


「誰だ? お前たちは?」
 何の前触れ無なく、唐突にその二人は現れた。
「あの魔物たちの大群を突破してきたのでしょうか」
 本能的に見入ってしまう金と銀の輝かしい髪。
「ほう、ただの人間じゃなさそうだな」
 整いすぎた顔立ち、スタイル。
「ただの推測ですけどね」
 そして――――。


「う……そ……でしょ?」
「リン?」
 超解析で二人のステータスを覗いたであろう鈴の顔は真っ青だった。
 他の超解析持ちも二人のステータスを覗く。
 そして、唖然としてしまった。
 #
 ミーシャ
 LV 九九
 HP 九九九九九九九/九九九九九九九
 MP 九九九九九九九/九九九九九九九
 STR 九九九九九九
 DEX 九九九九九九
 VIT 九九九九九九
 INT 九九九九九九
 AGI 九九九九九九
 MND 九九九九九九
 LUK 二〇
 スキル
 なし
 属性
 なし
 #
 #
 レイア・アンジェリーク
 LV 九九
 HP 九九九九九九九/九九九九九九九
 MP 九九九九九九九/九九九九九九九
 STR 九九九九九九
 DEX 九九九九九九
 VIT 九九九九九九
 INT 九九九九九九
 AGI 九九九九九九
 MND 九九九九九九
 LUK 三〇
 スキル
 なし
 属性
 なし
 #


 ――――圧倒的に離れているステータスだからだ。


[#ここから6字下げ]
フラグって立てすぎると変な感じになりますね……
次回で勇者視点は終わる予定です!
感想でもありましたが、性的描写はもう少しお待ちください!


以下からは本編とは関係ありません
小説を書いている作家様へ
小説家になろうのLINEグループに興味はありませんか?
詳しくは活動報告にて
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]75話 本気で怒った勇志っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
いくつか質問があったので
前話の二人のステータスは隠蔽してあります
ですので、一部ステータスが低下しています。百二十万→九十九万みたいに
一部内容を変更しました
[#ここで字下げ終わり]




「なんなのよ……あのステータス[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 鈴は目の前の二人のステータスを見て、本能的に後ずさってしまった。
「ほう……私達のステータスが見えるのか」
「くっ……!」
 レイアの不敵な笑みに対して、鈴は戦闘態勢を取った。
「リン。あの二人のステータスってどんな感じ?」
「スキル、属性は共になし。でも、ファイじゃ絶対に勝てない」
「……?」
「HPMPは九百九十九万。残りは九十九万よ。不自然に『九』が並んでいるから、超隠蔽で隠されているか……もしかしたら――――」
「超解析の限界ってところか」
 その先の言葉を大地が遮った。
「ええ、どちらにせよあれ以上のステータスを持っていることに変わりはないわ」
「何をブツブツ言っている。もう一度問うぞ、誰だ? お前たちは?」
 レイアは少しだけ苛立っているのか、先程より口調が強い。
「……僕が話をつけてくる」
「ユウシさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「大丈夫だよヴェレス。見た感じ魔族じゃないから」
 戦闘は不可能と考えたのだろう。
 勇志は二人に近づいて話を付ける気だった。
「初めまして、ドレット王国の勇志と申します。ミーシャさん、レイア・アンジェリークさん」
「私達の名前がわかるってことは、解析持ちですね?」
 ミーシャが無礼のないように接する。
「はい」
「それで、ユウシさん達は何をしに魔界へ? 今魔界に来られると困るのですが」
「……その口ぶりから推測すると、お二人共魔界側の住人ですか?」
「私もミーシャも人間界で産まれて育ってきた人間界の住人だ。魔界なんかに興味はない」
「……では、なぜ?」
「命令だからな」
「それは魔王の?」
「はっ、私たちが魔王の命令を聞くと思うか? ご主人の――――」
「レイア、喋りすぎですよ」
 ミーシャがレイアを手で制して、話を止めた。
「ユウシさん、そろそろこちらの質問にも答えてくれますか? あの魔物の大群を突破してまでこの魔界に来た理由を」
「……」
 勇志はこの二人が暗黒騎士の仲間ではないことを祈って、本当の事を話す決意をした。
 だが、それがいけなかった……。
「僕たちは……暗黒騎士を殺しに来た」
「いい度胸だ」
 いつの間にかレイアは[#傍点]剣[#傍点終わり]を勇志の首筋に当てていた。
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 慌てて後ろに引き下がり、皆に謝る。
「ごめん、失敗した」
 勇志は冷や汗を流しながらも冷静に状況を把握する。
 先ほどの殺気は怒気だ。
 一瞬だけだったが、それでもわかる。


 ――――この二人には絶対に勝てないということ。


「ご主人を殺す……か。何回目だろうな、その言葉」
「そうですね。でも、何度聞いても聞き慣れません」
「同感だ。絶対に不可能だが……それでも気に食わんな」
 レイアとミーシャは完全に殺る気満々だった。
(これは……詰んだかな)
 勇志が死を覚悟したその時――――。


「ユウシさん、六秒あればこの場から逃げられますか?」
「えっ?」
 ヴェレスが突然に呟いてきた。
「どうですか?」
「まぁ、いけないことはないけど……」
 今の勇志達なら、六秒で一キロぐらいなら離れられる。
「……では、六秒間時間を止めます」
「時間を……止める[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ヴェレスがやろうとしていることに、勇志は驚きを隠せなかった。
 小さく頷いてから苦笑いを浮かべる。
「使った後は気絶しそうになるので使い物になりませんが……。その時はユウシさん、その……抱っこしてくださいね?」
「え、あ……うん……?」
 この状況で冗談を言えるヴェレスを不思議に思っていたが、それが強がりだと直ぐにわかった。
 だが、あえてそこには突っ込まずに他の勇者に指示を出す。
「今から六秒間だけヴェレスが時間を止める。その間に奥の森に逃げよう」
「ザ・○ールドかな?」
「澪は随分と落ち着いているね……もしかしたら死ぬかもしれないんだよ?」
「んー……確かに怖いけど……なんでだろ? 何故か落ち着くことができる」
 その落ち着きっぷりは凄かった。
 喋ることさえ困難なこの状況で、唯一自然体で笑っているのだから。
「本当に不思議な人だ」
「今更だね」
 お互いにしか聞こえない声量で言葉を交わしたあと、ヴェレスに合図を出す。
「じゃあ、行きます……よ!」
 ヴェレスが言葉を発した瞬間。
 辺りが灰色に染まった。
「よし! 今のうちに行くぞ!」
 風がピタリと止まったことから、時間が完全に止まっていることを認識した。
 そして、勇志達は二人を通り過ぎて森に向かう。


 ――――だが、それも叶わなかった。


 時間は止まっている。
 辺りは灰色に染まり、動いている物体は魔術をかけた勇者一行しかないはずだ。
 そう、動けるのは勇者一行だけのはずなのだ。


「嘘……でしょ?」
 一番驚いているのはヴェレスだ。
 たった六秒とは言え、この時止めは完璧だったはずだった。


「どこに行くつもりですか?」


 悠然と動くミーシャの姿を捉えるまでは。


 そのまま六秒間は過ぎてしまい、ヴェレスは脱力してしまう。
「はぁ……はぁ……なん……で?」
 時止めの反動なのか、ヴェレスは倒れかけてしまう。
 勇志が慌てて支えた。
「まさか時を止められるとは驚きですね。あなたたちは本当に人間ですか?」
「ん? お? ミーシャ。いつの間に動いていたんだ?」
「レイアは黙って」
 レイアを一喝し、小さなため息をつく。
「まぁ、そんなことはどうでもいいですね。人外な力なんて今更ですし」
「答えて……ください。なんで、時間が……止まっているのに……」
「それが最後の質問になりますけど、よろしいですか?」
「……」
 ヴェレスは下唇を噛んで、再度口を開く。
「……ショクオウさんを……殺したのは、本当に暗黒騎士なんですか?」
「言っている事が理解でき――――ん? あ、あの時に……」
「あの時?」
「ええ、確かにショクオウ(という名前)を消したのは、私達のご主人様である暗黒騎士ですよ」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 勇志がピクリと動き、続きを質問する。
「その時……暗黒騎士はどうやって殺したんだ?」
「どうやって……?」
 ミーシャが返答に困っていると、隣にレイアがやってきた。
「あれじゃないか? 高笑いしながら山脈を破壊した時の」
「ああ、あの時ですか。笑いながら(山脈を)消し飛ばしましたね」
 その会話で勇者たちは察してしまった。
 暗黒騎士は狂人の魔族だと。
 一番最初に動いたのは澪だった。
 回復職には数少ない攻撃魔術をミーシャに目掛けるが……。


「『インヴァリデイション』」


 ミーシャのその一言だけで充分だった。
「な、なんで[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 澪は急に魔術が使えなくなり、かなり戸惑っている。
 ショクオウの死因を聞く前の落ち着きっぷりは既に消えていた。
 ファイや緋凪も同様に魔術が使えないようだ。
「だいぶこの魔術にも慣れてきましたね」
「なんでミーシャはその魔術使えるんだよぉ……」
「才能……ですかね」
 超ドヤ顔でレイアに自慢し、ブチ切れ寸前になるレイア。
 そんなコントにしか見えない二人を見て、遂に勇志が動き出した。
「ユウシ……さん?」
 勇志の変化に気がついたのはヴェレスだった。
 そっと地面に寝かされ、囁かれる。
「ごめんヴェレス。ちょっとだけ待ってて。[#傍点]俺[#傍点終わり]が直ぐに終わらせてくる」
「えっ」
 初めて聞く勇志の俺口調。
 ヴェレスは戸惑うことしかできなく、勇志は二人と対峙する。
「すまないな、やっぱり[#傍点]俺[#傍点終わり]たちはここで死ぬわけにはいかない」
「勇志[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 口調に対して皆疑問を感じていたが、澪だけは違った。
 今までにない焦りを見せている。
「勇志! それは――――」
 澪が呼び止めるが、その前に動き出してしまった。
「はぁ、ここはレイアに任せます」
「はいよ」
 襲いかかってきた勇志をレイアが剣で受け止める。
 軽くなぎ払い、怯んだところを突こうとするが……。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 避けられた[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 常人では見えるはずのない速度で突き刺したはずだが、それは虚しくも外れてしまった。
 レイアに隙ができてしまい、勇志は剣を薙ぎ払う。
 直ぐに離れて勇志に襲いかかろうとするが、レイアは急に動きを止めた。
 ほんの少し……ほんの少しだけ髪の毛が切れたのだから。
 それを見て、レイアは不敵に笑い始める。
「ふふっ……面白い……面白いぞ!」
 ステータスは毛の一本一本にまで反映される。
 流石に本体よりは劣るが、どう考えても普通の人間に切れる耐久度ではない。
 髪切り専用のマジックアイテムでなければ、髪など切られるはずなかったのだ。
「以前の私だったらお前に惚れていただろうな!」
 レイアの攻撃を避け、攻撃を加える。
 その動作一つ一つが音速を遥かに超えていた。
 見た感じ互角な戦いを見ている他の勇者達は唖然としていた。
「あのユウシって男……何者なのよ……」
 精霊であるファイでさえ驚きを隠せていない。
 その中でただ一人、澪だけは驚きではなく焦りを見せていた。
「どうしたの?」
「ダメ……早く止めないと……!」
 鈴の声が届いていないようで、澪は二人の戦いに突っ込もうとしている。
「ちょっ、何しようとしてんのよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 間一髪で澪の腕を掴んで、動きを静止させる。
 少し落ち着いたのを確認してから理由を問う。
「一体どうしたっていうのよ……?」
「……以前、強斎が生まれる世界を間違えたって言ったよね?」
 いつの間にか、全員が澪の言葉に耳を傾けていた。
「勇志は……その強斎に唯一対抗できる人間だったの。武力でね」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 表情には出てないが、動揺を隠せていない大地。
 それもそうだろう、地球にいた強斎の実力を知っているのだから。
「……どういうことだ?」
「あの本気で怒った勇志を見てもわからない? 明らかにステータスを超えた動きをしてるでしょ?」
「……」
「昔、勇志が本気で怒った時があるの。口調が変わって周りが見えなくなる……。今は周りはちゃんと見えているらしいけどね」
「冷静のまま強くなったってこと? ならそれで――――」
「鈴はリミッターって知ってる?」
 その一言で、殆どの人は理解してしまった。
「そう、勇志は肉体のリミッターを解除して戦っているのよ。このまま戦い続ければ大変な事になる。……勇志は強斎じゃないから」
「どういうことですか」
 突然背後から声がかかり、その正体を確認しようと全員が振り向いた。
「……そのままの意味よ。いずれ勇志は壊れてしまう」
「私が聞きたいのはそこじゃありません」
 澪以外は直ぐにその場を離れて、戦闘態勢を取った。
 しかし、ミーシャはそれらを無視して澪の話を聞いている。
「あのユウシという男のことはどうでもいいです」
「なら強斎のこと?」
 ミーシャはしっかりと頷く。
「私たちと同じ場所で生まれた仲間よ。あんたの主に殺されたけどね!」
「……」
 ミーシャは確認するように全員を見回し、戦闘をしている二人の間に入った。
「レイア。そこまでにしなさい」
 勇志とレイアの剣を同時に弾いたミーシャは、レイアにそう告げたあとに勇志を確認する。
「……確かに、もう意識がないですね」
 そう言った直後に、勇志は倒れてしまった。
 ミーシャは一瞥してからため息をつく。
「数ヵ月後に人間界で武道大会がありましたよね? そこに私たちが戦争を吹っかけます。必ず来てください」
「おいミーシャ! 何を言って――――」
「人間界の魔物を一時的に退散させます、その内に帰ってください」
 次の瞬間には二人の姿はなかった。
「助かった……?」
 誰かがそう呟いたあと、背後から声が聞こえる。
「お前たち! 一体何があったんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ベルクさん!」
 鈴が駆け寄って、ある程度の説明をする。
 ベルクの方は、急に魔物がいなくなったので急いできたらしい。
「暗黒騎士の手下か……。あの魔物達が急にいなくなったのと関係あるのか?」
「はい、その二人の名前は……ミーシャとレイア・アンジェリークです」
「……そうか」
「?」
「話は後で聞こう。それよりもユウシ達の手当だ。ヴェレスのお嬢ちゃんも疲れているだろうから、とりあえずシッカ王国に向かおう」
「わかりました」
 ベルクの不自然な動揺に疑問を持ったが、特に気にすることではないと割り切って行動に移した。


「……武道大会に乗り込むとは……本気で戦争する気かよ」
 ベルクのその呟きは、誰の耳にも入ってこなかった。


[#ここから6字下げ]
ベルクさんは無事だった!
ちょっと無理矢理ですが、勇者視点は今回で終わりです。
予定では次の勇者視点で再会です。
誰かミーシャがドヤ顔でレイアを馬鹿にしている絵を描いてください(切実
で、その後レイアが強斎にそのことを暴露してあたふたしている姿が……おっと誰かが来たようだ
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]76話 脳筋魔王っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
前話を少しだけ修正しました
そしてまさかの連続? 投稿です
変なテンションで書いているので少しおかしいかも
[#ここで字下げ終わり]




「む……しぶといです」
 ルナは手に持った銃で標的を撃つ。
 だが、その銃弾は外れてしまった。
「ルナちゃん、それ本気?」
「ま、まだまだです!」
 アイテムボックスからもう一丁魔銃を取り出し、標的……ミーシャ目掛けて乱射する。
「ふふっ、そう来なくっちゃ」
「ミーシャさん、余裕ですね」
「そう? 結構限界よ?」
「そう言っておきながら、カスリもしてないじゃないですか!」


 ルナが二丁の魔銃でミーシャを撃ち。
 ミーシャがルナの銃弾をひたすら避ける。
 傍から見たらとんでもない修羅場だが、二人にとってこれは遊びだ。
 ついでに、レイアは昼寝をしている。


「わー今のは危なかったなー」
「棒読みで危機感全くないですね!」
 ミーシャは更に挑発するように手を振った。
 流石のルナも、これには頭にきたようだ。
「いいでしょう……怪我しても知りませんからね[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「そう来なくっ――――って、ルナちゃん[#縦中横]!?[#縦中横終わり] それはヤバイって[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「問答無用です[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ルナは遠隔操作を使い、合計十六丁の魔銃をミーシャに向けた。
「私のMPが枯渇するまで打ち続けますからね!」
「えっ、ちょっ……!」
 戸惑っていることなど関係なく、銃弾の雨はミーシャを襲った。
(流石にこれは……避けきれませんね)
 ミーシャは仕方なく『空間移動』を使ってルナの背後に回る。
「『インヴァリデイション』」
 そして、魔術無効化の魔術を使う。
 この魔術を使えるのは、世界でたった三人……強斎、ゼロ、そしてミーシャだけだ。
「……流石にずるいです」
「ええ、今回は私の負けですよ。ルナちゃんも強くなりましたね」
 ミーシャはアイテムボックスからりんごを取り出し、ルナに差し出す。
 ルナは耳をぴょこぴょこ動かしながら受け取った。
「ありがとうございます!」
「ルナちゃんがこんなにもこの果実にハマるなんてね……ちょっと意外」
「へへっ、私も驚いてます」
 ルナの喜んだ笑顔を見てほっこりするミーシャだが、思考はそうもいかなかった。
(キョウサイ様……また何かやらかしそうですね……)
 主人の心配よりも、主人の周りの心配をするミーシャであった。


…………
……
……
「ほう、ここが魔界で一番偉い魔王の城か」
「ここを拠点にするのも悪くないわね」
 強斎とゼロは、そんな冗談で済まされない会話をしながら城に乗り込む。
「いや、お前らが言うと本気でやりそうで怖いんだが……」
 ついてきたキャルビスも不安でいっぱいだった。
「今回は大魔王への挨拶だったな?」
「ああ、お前も立派な魔界の住人だからな。挨拶ぐらいしろとのことだ」
 ゼロはちょっとだけ不機嫌そうにキャルビスを睨むが、キャルビスは肩をすぼめて苦笑いをする。


 そんなこんなで大魔王の部屋にたどり着いた強斎は、ニヤニヤと笑っていた。
 高さ数十メートルの扉。これだけで厨二心をくすぐられた。
 そして、小さく鼻を鳴らしキャルビスを一瞥する。
 それだけで何をするつもりなのか察してしまう。
「お、おい! なにをするつも――――」
「おじゃましまーす」
 ただの蹴り一発で高さ数十メートルの扉を粉々に粉砕させた強斎は、何事もなかったかのように部屋に入っていく。
 ゼロもノリノリで付いていった。
 キャルビスだけは状況についていけていないようだ。
 部屋の中はかなり広く、軽くコロシアムが開ける程度はある
 その奥で、嫌でも目に入るほどの存在感を持った巨人が座っていた。


「お前が大魔王か」
「ふっ、新参が。礼儀を知らんのか」
 どうやらこの大魔王はこういう手口になれているようで、特に焦った様子は見せなかった。

ルシファー
LV15000
HP 五五四八三〇/五五四八三〇
MP 三四七七一二/三四七七一二
STR 三三五一二
DEX 三九〇三一
VIT 四〇一二八
INT 四〇〇五六
AGI 三八七二五
MND 四五六六九
LUK 一〇〇
スキル
剣術LV70
体術LV70
調教LV88
状態異常耐性LV60
空間把握LV43
火属性LV53
水属性LV55
土属性LV54
風属性LV55
闇属性LV78
HP自動回復速度上昇LV62
MP自動回復速度上昇LV67
限界突破
隠蔽LV35
魔王の威圧波動LV50


属性
火・水・土・風・闇
魔族の王(???)

(ほう……ルシファーか……この世界にいるんだな)
 強斎でも知っている有名な悪魔。
 その名前を持った者が強斎を睨みつけていた。
 だが、その余裕の表情は段々と驚愕に変わっていった。


「な、な、なんで……あなた様が……ここに[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ルシファーの目線は強斎ではなく、その隣……ゼロに向けられていた。
「ゼロ、知り合いか?」
「ううん、知らない」
「貴様! 魔神様に気安く話しかけるな[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「やっぱ知り合いだろ」
「知らないわよ。それより、あいつ潰していい?」
「魔神様! 目を覚ましてください!」
 どうやらルシファーはゼロのことを知っているらしく、自ら立ち上がって寄ってきた。
 キャルビスは全く状況を把握していない。
「私です! ルシファーです!」
「るしふぁー? いえ、知らない子ですね」
「魔神様が封印される前の戦争で一緒に戦ったではないですか……!」
「そんな数百万年前のことなんて覚えているわけないでしょ。それより、よく主人にそんな言葉を言えたものね。消されたい?」
「くっ、やはり洗脳を受けて……! 貴様! 絶対に許さんぞ!」
「ゼロ、勘違いを加速させるんじゃない。ややこしくなるだろう」
 完全にブーメランな発言をした強斎に、ルシファーは遠慮なく襲いかかる。
「おお、巨体が襲いかかってくるって迫力あるな」
「どうする? 私が相手しようか?」
「いや、俺が相手する」
 目の前まで迫ってきた拳を人差し指一本で受け止め、ルシファーを嘲笑う。
「はっ、これが大魔王の力? 笑わせるな」
「ぐおぉ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 拳に魔力を込めるが、強斎の指は微動だにしなかった。
「お前は図体はデカイが考えが単純すぎる。つまりは脳筋だ」
「どういう……ことだ!」
「こういうことだよ」
 強斎は一瞬だけ指を引っ込めて、弾いた。
 それだけで、ルシファーの手首の骨が外れてしまった。
「一瞬の変化も気にせずに攻撃を仕掛けてくる。脳筋じゃなかったらなんなんだ」
「くっ!」
 ゼロは一瞬だけ見られたことに気がつき、ため息をついてから説明する。
「あんたがどんなやつだったかなんて私は覚えていない。でも、私は洗脳なんか受けていないし受けるつもりもない。私は主人の眷属で、主人は私よりも圧倒的に強い。あんたみたいな魔族に倒せる相手じゃないのよ」
「魔神様……」
「そこの魔王も理解した? 主人が私の眷属じゃなくて、私が主人の眷属なの。そう……魔神の主人よ」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 今まで溜まっていた何かを吐き出すように言ったゼロは、どこかスッキリした顔だった。
「はぁ、やっと言えたわ。魔神様魔神様って言ってるくせに、その魔神の主人に対しては普通に接する事がどれだけイライラしたか……」
「俺は別にかまわないが……だが、ここでその発言は正解だったようだな」
 いつの間にかルシファーとキャルビスは跪いていた。
「今までのご無礼、申し訳――――」
「そういうのいいから」
「ありがとうございます」
(うわー……心変わり早くて逆に気持ち悪いな)
 レイアの時とは感想が全く違うが、そんな感情は押し殺して言葉を続ける。
「とりあえず、この魔界を支配する。そして――――」
 強斎はそこで少しだけ躊躇った。
 この言葉を口にしたらもう戻れなくなる。
 だが、何故か自然と声に出してしまった。
「人間界に戦争を吹っかける。いいな?」
「承知しました」
(これで、俺は向こう側には戻れなくなった。あいつらと戦う事になってしまったな……)
 強斎は、一緒にこの世界に来た仲間たちを思い浮かべる。
 もう数ヶ月会っていないが、はっきりと顔を覚えている。
「主人が戦争を始めようとするなんて……どういう風の吹き回し?」
「人間界を敵に回してでも確かめたいことがあるんだ」
「ふーん……理由を聞いてもいい?」
 強斎は愛用の刀を抜き、天に突き刺した。
「神というのをあぶり出すためだ」


[#ここから6字下げ]
遂にゼロの正体が知れ渡ってしまった!
強斎の言う神とは……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]77話 コトリアソビに突入っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです!
なんとか三月三日に間に合いました!
更新が遅れた原因は自分のマイページからtwitterに飛ぶか活動報告で察してくれると幸いです
それと、今回の文は前半と後半で二週間の間があったので少しだけおかしいかもしれません
[#ここで字下げ終わり]




「神を……あぶり出す? 主人は何言ってるの?」
 ゼロは唐突の告白に少々戸惑っていた。
「そのままの意味だ、人間界と戦争して神をあぶりだす。そして…………いや、何でもない」
「まぁ、主人の事だから何か考えがあるのだろうけど……でも、戦争するだけであぶりだすことなんてできるの?」
 ゼロの疑問は二人の魔王の疑問でもあった。
「ああ、そのことについては問題ない」
 強斎はとある本を取り出し、再度口を開く。
「この本さえあれば何とかなる」
「何とかって……その本って解読不可能と言われてる本ではないか」
 管理人であるキャルビスは、強斎の持っている本を見てそう呟くが……。
「主人は読むことが出来るのよ。……何故か私もだけど」
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 そのことについて最も驚いていたのはルシファーだった。
 何かを言おうとするが、立場を考えて口篭る。
「おい、言いたいことがあるなら言え」
「あ、いえ……」
 すっかり強斎の下の立場になってしまったルシファーは、恐る恐る語りだす。
「その言語は未だに何語なのかも判明されてなかったので……。少し驚いてました」
「本当にそれだけか?」
「……」
「……まぁいい」
 強斎はため息をついてから話を続ける。
「魔界そのものを変えようとは思わない。だが、戦争の指揮はとらせろ。いいな?」
 ルシファーとキャルビスははっきりと頷く。
「俺の用事はこれだけだ。ゼロ、行くぞ」
「了解」
 強斎が部屋を出ていこうとした時、ルシファーが強斎を呼び止める。
「暗黒騎士様」
「なんだ」
「龍人の存在には気を付けてください。最近、何かしらの動きをしています」
「龍人……か。気を付けて――――」
 言い終わる前に強斎は険しい顔で何も無い所に振り向いた。
「どうしたの?」
「……ゼロ。人間界に戻るぞ」
「え?」
「またここに来る。魔界軍の練度を高めておけ」
 強斎はそう言い残し、急ぎ足で部屋を出た。


「……おい、キャルビス」
「なんだ」
 ルシファーはスッと立ち上がり……。
「今まで待たせたな。人間界との戦争の始まりだ」
 どことなく嬉しそうな顔でそう呟いたのであった。
…………
……
……
「あ、キョウサイ様! お帰りなさ――――」
「ご主人様おかえりなさーい!」
 ミーシャが笑顔で出迎えようとしたところに、レイアが横から入ってきた。
「ただいま。唐突だが人間界に行くぞ」
「人間界に?」
 レイアを少しだけ睨んでから、ミーシャはその意図を訊く。
「少しだけやることができてな。時間かかりそうだからお前らも連れて行こうと思う」
「キョウサイ様がわざわざすることなのですか?」
「まぁな……こればかりは俺がやらないといけない」
「キョウサイ様……」
 心配するミーシャに強斎は優しく微笑んでから、金が詰まった袋を渡す。
「これは?」
「金貨五〇枚だ」
 強斎はその袋をレイアとルナにも渡す。
「これだけあれば大抵の物は試し買えるだろう。これからは滅多に行くことができないから、思う存分遊んでこい」
「キョウサイ様……決めたのですね?」
「ああ……」
 その一瞬だけ場の空気がとてつもなく重くなった。
 強斎の決意については全員知っているからだ。
「キョウサイ様、一つだけ言わせてもらってもいいですか?」
 そんな重たい空気をミーシャが破る。
「私は……いえ、私たちはキョウサイ様のものです。どんな酷な道でも喜んでお供いたします。ですから、そんな悲しい顔をしないでください」
「……ふっ、そうだな」
 強斎は数秒だけ微笑んでから背中を向ける。
「ゼロ、お前もついてきてくれるか?」
「何を今更……当たり前じゃない」
「……じゃあ行くぞ。人間界に」
『はい』
…………
……
……


「……あれって俺たちが作った家だったよな?」
「主人は家感覚かもしれないけど、立派な迷宮だからね?」
 強斎とゼロは人間界にある『コトリアソビ』を眺めていた。
 厳密にはそこに群がる人々だ。
「あの家の目的って、奴隷を増やす目的だったんだがな……」
「主人はルナクラスの奴隷を量産するつもりなの?」
 少しだけ睨みながら訴える。
「いや、流石にそれは無理だ。スキルも能力値もこれ以上は付与できん」
「ならいいけど……じゃあ何のために?」
「情報収集が主な理由だな」
「それ以外は?」
「あの家の改造。もっと大きくしたい」
「主人は何を目指しているのかしらね」
 と、その時。
「よし、裏口から人が消えた」
 強斎はそのタイミングを見計らって、あらかじめ作っておいた裏口から迷宮内に忍び込んだ。
 この裏口からなら一気に最下層までたどり着くことができる。
「で、主人。今回の目的は?」
「この迷宮内に異物が入り込んできやがった。精霊やら竜やらが殺されていってる」
「へー……。主人の迷宮にそんなことするなんて随分と勇気のある異物なのね」
「ああ、それもかなりの手馴れだな。未だに正体がわからん」
 強斎の表情からは緊張が見られた。
 ゼロはその表情に違和感を覚える。
「ねぇ、主人」
「ん?」
「そんなに危ない奴なの?」
「いや、俺たちからしたら虫以下に過ぎない」
「だったら、なんでそんなに緊張するのよ」
「……」
「主人?」
 ゼロが数秒見つめると、観念したようにゆっくりと口を開く。
「さっき、あの群がりの中に俺の仲間がいた」
「主人の……仲間?」
「ああ、俺の仲間にして……いつか戦う事になる敵だ」
「……そっか」
「だから、今ここで死なれてもらっては困る。手分けして探すぞ」
「わかったわ」
 ゼロは何も聞かずにしっかりと役目を果たしてくれている。
 ミーシャたちとは違う安心感。そして包容力。
 それがゼロを頼ってしまう原因だった。
「さて……俺は七〇下層から攻めていくか」


[#ここから6字下げ]
この小説が消されかけた時にふと新作を思いつきました。
しばらくしたら投稿するのでその時はよろしくお願いします!
メインはこの小説でいきますけど!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]78話 琴音と会話っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
今回は以前の琴音との会話の強斎視点がメインです
最近、納得のいくストーリーが書けなくて困ってましたがなんとかなりました
[#ここで字下げ終わり]




「ちっ、これで何体目だ……」
 強斎はそう呟きながら竜の首を切り落とす。
「何故こんなにも配下以外の竜がいる……?」
 テイムの効力が消えたことも考えたが、七〇下層以下には上級以上の竜しか放っていないのでその考えを除外する。
「しかもこの竜……人間界の竜じゃねぇな……。一体どうなってる?」
 強斎は原因を懸命に考えながらも竜を蹴散らしていく。
 次第に苛立ちはじめ、階層丸々を破壊しようとまで考え始めた。
 そんな時、とある案が出てきてしまった。
 妙案だと思っているのだろう。不気味にニヤついていた。
 そして……。
「お前たち! 聞こえているか[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎は叫びだした。
「今からありったけの魔力を放出する[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 宣言通りに普通では考えられない量の魔力を外に出す。
 強斎がやろうとしていること……それは――――。
「精霊ども、遠慮なんていらねぇ! 魔力を糧にして一時的に実体化しろ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 本来なら、奇跡的な偶然と実力が必要となる精霊の実体化。
 ゼロから、魔力さえ足りていればどんな精霊でも実体化出来ることを聞いているので、これでもできるのでは? という酷い荒業だ。
 だが、そんな荒業でも成功させてしまうのが、このぶっ壊れチートの小鳥遊強斎だった。
「お、これは成功かな?」
 強斎の周りからどんどん光が出てくる。
 そして――――。
「しゅじん、よんだー?」
 その光の一部が肉体を持った幼女に変わった。
 後に続くように次々に少女幼女が実体化する。
 ざっと五〇〇人程度実体化したところで魔力の放出を止める。
「これは……流石に……」
 強斎は目の前のカオスな光景に苦笑いをせざるをえなかった。
 五〇〇人の幼女少女が空間を埋め尽くしているのだから。
 しかも、男の精霊が一人もいない。
 傍から見れば行き過ぎたロリコンだ。
「と、とりあえず……お前たち、各階層に散らばれ。異物があった場合は俺に報告しろ。見たことのない竜だったら殺しても構わん。わかったな?」
『わかった!』
 見た目はかなり幼いが精霊だ。しかも強斎の魔力で実体化している。
 一人ひとりが中級の竜程度なら即死させる力を持っているのだ。
「さて、これで少し楽に――――」
「しゅじん、いぶつみつけた!」
「早いなおい[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 早速の報告に驚愕してしまった。
「で、その異物っていうのは?」
「八〇かそうにおんなのひと! あとね、りゅうじん!」
「龍人……? ふっ、そういうことか……。わかった、今すぐに向かう」
「ついていく?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「えへへー」
 強斎は精霊の頭を優しく撫でてから八〇下層に向かった。
…………
……
……


(女の人って……あいつか?)
 八〇下層の入り口から少し奥に行くと、サイドテールの女の子が座り込んでいた。
「何やってんだ?」
「っ[#縦中横]!!?[#縦中横終わり]」
 女の子は強斎から素早く距離を取る。
 そして、恐る恐る口を開いた。
「……あなたは?」
「ここの製作者……とでも言っておこうかな」
 今この場所にいる誰かに名前を聞かれるわけにはいかないので、あえて伏せておく。
 ただ、この女の子は敵ではないと確信していた。

コトネ・ホウライ
LV83
HP 五〇二六/五〇二六
MP 七九二四/七九二四
STR 五一二
DEX 五五四
VIT 五七三
INT 六二一
AGI 四七二
MND 六二一
LUK 八〇
スキル
言葉理解
料理LV17
状態異常耐性L12
水属性LV15
光属性LV15
HP自動回復速度上昇LV12
MP自動回復速度上昇LV12
属性
水・光

(コトネ……ホウライ……蓬莱琴音ってところか)
 そう、顔と名前からして日本人だからだ。
「製作者?」
「ああ。というより、お前は一人でここまで来たのか?」
 ステータスを見る限り、一人では絶対にここまで来られない。
 もしかしたら龍人に拉致られた可能性だってある。
「えっと……ここは?」
「ここは八〇下層。普通ならたどり着けるレベルじゃないぞ」
「八〇下層[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ここって『コトリアソビ』ですよね[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ん、その通りだ」
 強斎が証言すると、その場で座り込んでしまった。
「……私は一人でここまで来たわけではありません。三〇下層で仲間とボスを倒した後だったのです」
「三〇下層から……?」
(仲間……勇志達のことだろうな)
「ええ。ボスを倒して仲間と駄弁っていたのですが……」
「その時に飛ばされたと」
「はい」
 強斎は内心で舌打ちをする。
(クソッ……。既に被害が出ていたか……。迅速に対処しないとあいつらの命も危ないかもしれん)
 基本的に、この迷宮では殺さずに生け捕りにしている。
 しかし、強斎を襲ってきた竜がいる限り命は保証できない。
「あ、えっと。ここは八〇下層なんですよね? だったら転移部屋があるは――――」
「ボスの部屋は八五下層にある。ここはボス部屋でもなんでもない。問題なのは……」
 後ろからものすごい殺気を感じ、確認のために振り向く。
 そして、その殺気の正体がわかった途端だるそうにため息をついた。
「あ……あ……」
 驚愕している琴音を一瞥し、殺気の正体――――竜と向き合う。
(あいつらが倒しそこねた……? いや、違うな……こいつは――――)
「なにしてるの[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 早く逃げないと!」
 強斎の耳には入ってきているが、実行する必要なんて全くの皆無だ。
 勝手に逃げるだろうと思って放置していたが、驚くことに琴音は強斎の前に立っていた。
「私があの竜を引き付けるから、あなたは逃げて!」
 琴音は魔術を放つが、竜にはダメージを与えられない。
 流石に逃げるだろうと思っていたが、その予想ですらも裏切った。
「せめて、楽に死にたいなぁ」
 琴音はそう呟くだけで動こうとしなかったのだ。
(……あいつらも、いいやつを仲間にしたな)
 強斎は少しだけ嬉しい気持ちになり、琴音の耳元で呟いた。
「死なせねぇよ」
 同時に魔術で竜を爆散させる。
 その光景を目の前で見ていた琴音は驚愕していた。
「え? 助かっ……た?」
 その一言を出した途端にまた座り込んでしまう。
 強斎は試すようなことをした罪悪感を背負いながら手を差し伸べた。
「すまない。これは俺の管理ミスだ」
「管理……ミス?」
 そう、いち早く気がついていればこんなことにはならなかったのだ。
 琴音は強斎の手を取って立ち上がる。
「ああ。この迷宮には強制転移の罠なんて仕掛けていない。恐らく何者かの手によって――――」
「あ、あのっ!」
「……どうした?」
「さっきの竜は……あなたが倒したの?」
「まぁな」
「あなたは……何者なの?」
 幾度もされた質問。
 だが、強斎は変わらず同じ答えを返す。
「ここの製作者……普通の人間だ」
…………
……
……
(さっきの竜。階級は上級を超えていたな。精霊たちが倒せなかったのも無理はない)
 強斎は歩きながらそんなことを考えていた。
 すると、琴音の方から話しかけてきた。
「えっと、私の自己紹介がまだだったね……私は蓬莱琴音。一応ライズ王国出身で、今はドレット王国に住んでいる」
「蓬莱琴音……ねぇ」
 本人の口からその名前を聞くと、やはり日本にいた頃の生活を思い出してしまう。
「な、何?」
「いや、別に。で、お前はどうしてこの迷宮に?」
「レベル上げ……倒したい相手がいるから」
「倒したい相手?」
「うん」
 琴音の目は本気だった。
「私の仲間の友達がね、そいつに殺されたらしいの」
「ほう」
「はっきり言って私には関係ないけど……。なんていうか、今のこの生活が楽しいから一緒に戦っているみたいな?」
「仲間のおかげだから、その仲間を悲しませた奴を許さないと?」
「まぁ、そんな感じ。相手は暗黒騎士って名乗っている魔族らしいんだけど……」
「……」
(……そういう、ことか)
「なんか、めちゃくちゃ強いらしくて……。だから、君にお願いしたいの」
「……」
(結局はあいつらと戦う運命だったってことか……)
「私たちと一緒に戦ってくれない? 竜を瞬殺できる実力なら――――」
「すまないが、一緒には戦えない」
(誰がそんなデマを流したのかは知らないが……)
「……そっか。そうだよね。いきなり戦えって言われても困るもんね」
「……ああ、すまないな」
(これで……目的も果たしやすくなったと考えれば……大丈夫だ)
 少しずつ心にダメージを受けているのを我慢し、琴音をとある場所の前まで案内した。
「この扉の先に行け地上へと出ることができる転移ポイントがある。一方通行だから向こうからは来れないが、外には普通に出れるぞ」
「まぁ、そうだよね……」
 そんな琴音の手に一枚のコインを握らせる。
「……これは?」
「黒金貨だ。迷惑料として受け取ってくれ」
 この黒金貨を渡した意味はもう一つあった。
 それは――――。
(ベルクにこの金貨を見られたらすぐバレそうだな)
 そう、この金貨には特殊な傷がついていた。
 強斎がコイントスをして遊んだ時の傷が。
(だが、それでいい。少しでも匂わせたほうが面白くなる)
「えっと……とりあえずありがとう?」
「こちらこそすまなかったな」
「また、会えるかな?」
「……ああ、また会えるさ」
「そっか」
 琴音はそれだけ言って転移の準備をした。
「じゃあね」
「ああ、次に会うときは敵として会うことになりそうだがな」
 最後に見た琴音の顔は驚愕だった。
「……」
 強斎は静まり返った空間で、小さく鼻を鳴らした。
「おい、いるんだろ? そろそろ出てこいよ」
「……最後まで名前を口に出しませんでしたね」
 予想通りの人物に深い溜息をついてしまった。


[#ここから6字下げ]
予想通りの人物とは……?
あ、新作の方を投稿しましたがメインはこっちです
新作は欲望のままに書いている現代異能です
読むときは覚悟して読んでください
女性の方にはオススメできません……ごめんなさい
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]79話 龍人っぽい[#中見出し終わり]






「はぁ……ここは俺の迷宮だ。勝手に改造されると困るんだが」
 強斎は目の前にいる人物……龍人と対峙していた。
「それについては、誠に申し訳ございません。こうでもしないと応じてくれないと思いましてね」
「……応じる?」
 龍人と言っても体格や顔立ちはさほど人間と変わり無い。
 唯一の違いと言ったら羽と尻尾だ。
 目の前の龍人には赤色の羽と尻尾が付いている。
「ええ、ここの迷宮の製作者……キョウサイ・タカナシさんに……ね」
「……」
 強斎は内心で盛大な舌打ちをしていた。
(ちっ……名前を隠した意味がなくなったじゃねぇか)
 琴音との会話で伏せ字に使っていた『製作者』が原因でばれてしまったのだから。
「それで? そうだったとしたらなんの用だ?」
「肯定するつもりはさらさらないのですね」
 無駄だとわかっていても決して頷かない強斎に、龍人は微笑した。
「まぁ、いいでしょう。あなたが『あの』キョウサイ・タカナシであることを信じてお話します」
「……」
「お話といっても、簡潔に要件だけ――――」
「いいから話せ」
 龍人は少しだけ驚いたような顔をし、そして笑顔で言い放った。
「この迷宮を拠点とし、人間界を占拠します」
「……は?」
 流石の強斎も、今の言葉を受け入れるのには時間がかかった。
「どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。あ、人間界を占拠する意味ですか?」
 場をつなぐために僅かに頷く。
「私たち龍人は精霊と対立していましてね。いつの日か精霊界に戦争を仕掛けにいくつもりなのですよ」
「そのための人間界占拠か……」
「理解が早くて助かります」
 すると、強斎は不敵に笑い始めた。
 龍人も、突然のことで戸惑っている。
「確かに、ここは亜空間迷宮だからな。使い方によっちゃ拠点として充分に活用できる。他にも、使役できる竜や魔物がいることも含まれてるな」
「ええ、その通りです」
「この際だから言っておこう。俺がこの迷宮の製作者。小鳥遊強斎だ」
「名前を逆で言うとは珍しいですが……キョウサイ・タカナシと同一人物という認識で構いませんか?」
「ああ、その通りだ」
「そして、ここで名前を明かしたということは……」
「ここを明け渡すつもりは毛ほどもないってことだ」
「報酬と安全は保証すると言っても?」
 強斎は大きくため息をつき、龍人を強く睨んだ。
「同じことを二度も言わせるな」
「……そうですか」
 次に龍人がため息をつき、強斎を睨む……のではなく鼻を鳴らした。
「では、力ずくでも奪うしかありませんね!」
 そして、無謀にも勝負を挑んでしまったのだ。
「私たち龍人は基本的に魔術は使えません。ですが、大抵の魔物を使役できる上に魔族にも勝る身体能力を持っています!」
「……」
 気が付けば強斎を囲むように竜が配置されていた。
「ふふ、恐怖で声も出ませんか……。そうですよね、先程襲った竜とは桁違いの竜の集まりなのですから!」
「……」
「最後に一言だけ発言の許可を与えましょう。その答えによっては助かるかもしれませんよ?」
「じゃあ――――」




 ――――――――――『跪け』。




 音に出したかすら危うい『声』。
 幻聴と言ってもおかしくはないだろう『声』。
 だが龍人の脳に、身体に、本能に。ありとあらゆるところまで、その『命令』は轟いた。
「!!??」
 意思とは無関係……いや、意思すら洗脳されたかのように龍人は片膝を立てて跪く。
 強斎を囲んでいた竜もこうべを垂らしている。
「お前ら龍人って馬鹿なのか?」
 今度は確実に声に出して話している。
 しかし、龍人に発言は許されていない。
「誰がこの迷宮を作ったと思う? 誰がこの迷宮の魔物と精霊を使役していると思う?」
 強斎は廃棄物でも見るような視線を龍人に向けながら話を続けた。
「お前さ、そこんとこ考えた上で乗り込んできたんだよな? 対策を練った上でここを乗っ取るって言いに来たんだよな?」
「……っ!」
 胸ぐらを掴み、強制的に立ち上がらせる。
「お前、誰かの命令とかじゃなくて自分の意思でここに来たんだろ? 手柄を立てて褒美をもらおうって魂胆か?」
「……」
「ちっ、もういい。『喋れ』」
 地面に放り投げてからもう一度『命令』する。
「ぐっ……はぁ……はぁ……。さっきのは……いったい……?」
「そんなことはどうでもいい。今から俺の質問に答えろ。そしたら命だけは助けてやる」
 既に龍人に選択の余地はなかった。
「ここにどんな仕掛けをした」
「……この迷宮の製作者を知らない精霊は、この迷宮を本能的に警戒するようにした。精霊王に察知されては困るからな」
「それから?」
「人質を確保する為に、強制転移のトラップを数個設置してある。配置は一定時間おきに変化するから教えられん」
「それだけか?」
「ああ、それだけだ」
 龍人は既に脱力していて、嘘をついているような雰囲気ではなかったので、とりあえずは解放することにした。


「ふふ、またいつの日か会えることを願っていますよ」
「は? 誰が逃すと――――」
「では!」
 龍人はどこからか出した転移石を使って消えてしまった。
「……ゼロ、居るんだろ?」
「流石ね」
 龍人がいなくなったことにより、竜たちの意識はなくなってしまった。
 そんな竜の影からひょっこりと顔を出すゼロ。
「転移石に思うところでもあるの? すっごい戸惑っていたけど」
「……まぁな」
「それより、精霊界と戦争か……面白くないわね」
「お前も思うところがありそうだな」
 その時、強斎の顔に一筋の汗が垂れた。
 顔の色を真っ青にして急いで迷宮の出口に向かおうとする。
「ちょ、主人[#縦中横]!?[#縦中横終わり] どうしたの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 冷静を装ってるつもりだが、全く隠しきれていない。
 こんなにも焦りを露骨に見せたのは、ゼロも初めて見る。
「ルナが大怪我を負った。HPがこれまでにないほど減っている」
「ルナが[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ああ、もしかしたらルナを超えるステータスを持った奴がいるかもしれない」
「だったら私が行くわ」
「だが……!」
「私は主人より回復の適性がある。それに、私なら絶対に負けない」
「……」
「主人は罠の撤去に専念してて」
 冷静に考えた上で、強斎はこの決断を下した。
「……わかった。ルナは任せる」
「ふふっ、任せなさい!」
 そう言って、ゼロは刹那のうちに姿を消した。
「……」
 心残りがあるものの、仲間を信じて罠の撤去を急ぐ強斎であった。


[#ここから6字下げ]
龍人のステータスはキャルビスより下です。
名前と数値を考えるのが面倒だっ……おっと誰かが来たようだ
さて、そろそろ新ヒロインを挿入しますか……
キャラ設定は決まっていて後は登場だけなんですよね!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]80話 不器用っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
投稿数時間後に投稿というのがやりたかっただけなので、ものすごく短いですごめんなさい。
多分、今まで一番。
[#ここで字下げ終わり]




「ルナ! 大丈夫か[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「あ、主様」
『コトリアソビ』を完全に元通りにしてから、強斎は直ぐにルナのもとに駆けつけた。
「大丈夫よ。ちょっと銃の持ち方を間違えて自分に発砲しちゃっただけっぽいから」
「本当か?」
「えっと……はい。そうです」
「傷の方もHPも完治したわ」
「ありがとう。ゼロ」
 強斎に心からお礼を言われて嬉しい半面。それだけルナを大切に思っていることを再認識し、少しだけ嫉妬をするゼロ。
 だが、決して表情に出すことはなかった。
「主人、一旦|あの二人《ミーシャとレイア》を呼び戻しましょ。結構大変なことになってるんでしょ?」
「……まぁな」
 強斎に対する敵視問題なら大丈夫だった。
 だが、今回は違う。
「早く人間界と戦争しないとな……。魔界の手中になれば、龍人の奴らもそうそう手出しはできんだろ」
「まぁ、それがいいかな。もっと手っ取り早い方法もあるけど」
「ん? なんだ?」
「全界征服」
「それはまだ早いな」
「なんで?」
 強斎は少しだけ照れくさそうに口を開いた。
「あいつらが……俺の仲間が殺されるかもしれないから」
「ああ、迷宮の前にいた人たち?」
 小さく頷いてから、ポツポツと本音を語りだす。
「これは俺の勝手な思い込みなんだが……多分、あいつらは俺が魔界側に付こうが龍界側に付こうが俺の味方側に付こうとする」
「随分と自信有り気なのね」
「それだけ深い関係を持った奴らなんだ。自意識過剰かもしれない。だけど、あながち間違ってないような気もする」
「ふーん。でも、なんで殺されるの?」
「俺が全界を敵に回した場合、あいつらはどうすると思う?」
「人間界を裏切って主人の仲間になる?」
「おそらくな。だからまだ早い……俺を敵と認識させてからになるかな……っと、続きはミーシャたちと合流してからだ」
 その時、ゼロとルナは互の顔を見合ってから苦笑いをしていた。
 二人は強斎にこう言いたいのだろう。
『不器用だ』……と。
…………
……
……
「紹介する、俺の奴隷たちだ」
「はぁ……」
「ついでにルシファー。こいつらは全員お前より強いからな」
「しょ、承知しました!」
 図体は半端なくでかいのだが、事あるごとにビクビクするのはいつ見ても違和感しか感じられない。
 ここにいるのは強斎、ゼロ、ミーシャ、レイア、ルナ、ルシファー、そして何故かいるキャルビスだ。
「おい、ルシファー」
「は、はい!」
「魔界軍はどんな感じだ?」
「充分な数、練度、士気を揃える為には数ヶ月必要になります……」
「数ヶ月か……」
 そこで、強斎は数ヵ月後に人間界で大きなイベントがあることを思い出した。
「よし、戦争を吹っかける日時は人間界の武道大会がある日だ」
「確かに、その日でしたら一気に戦力を削ぎ落す事が可能になりますね」
 ルシファーの答えに頷き、周りを見渡す。
「となると必要なのは……ミーシャ、レイア」
「「はい」」
 二人に目線を合わせ、命令を下した。
「できるだけ多くの魔物たちを使役しろ。魔物を使って一気に攻め込む。いいな?」
「「はい!」」
 その時、二人には魔物を操るのに必要なスキルを与えた。
「ルナは人間界と魔界の監視。ゼロは俺の代わりに指揮を取ってくれ」
「わかりました」「わかったわ」
「ん? お前はどうするつもりだ?」
 すっかり口調も戻ったキャルビスが、不思議に問いかける。
「俺か? 俺は――――」
 強斎がその言葉を発した瞬間、この場は戸惑いに満ち溢れてしまった。


「――――少しの間この世界から消えるな」


[#ここから6字下げ]
主人公が消えてしまったらこの物語はどうするんだよ!
澪ちゃん暴走すっぞ!
さて、作者も少々驚きを隠せない展開になりましたがなんとかなります
書いてる途中にネタが思いつくって怖いよね!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]81話 目的っぽい[#中見出し終わり]






 強斎がとんでもない発言をして、場は困惑という形で固まってしまった。
「キョウサイ様!」
 それを破ったのは銀髪の少女、ミーシャだ。
 注目は一気に彼女に向けられた。
「どうした?」
「そろそろ……教えてくださいませんか?」
 ミーシャは静かに……しかし、何かを訴えるように言葉を続ける。
「今まで私たちは、キョウサイ様を信じてここまで来ました。ですが、それはキョウサイ様の身の安全が確定されていたからです! この世界から消えるなど、いくらキョウサイ様でも――――」
「ミーシャ、少し落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃないですか! だって、この世界から消えるということは……消えるということは……!」
 安全は保証されない。
 ミーシャはそう言いたかったのだが……。
「……っ!」
 言葉が出なかった。
 代わりに目元に涙が溢れてきた。
「ご主人様、私からも説明をお願いします」
「主様……」
 レイアもルナも、複雑な気持ちを抱えたまま強斎を見つめた。
 ゼロは目を伏せて、聞く耳だけ傾けている。
「そうだな、今まで全くの説明もなしに振り回してきたもんな……」
 強斎はルシファーとキャルビスを一瞥する。
「すまないが二人は席を外してくれ」
 二人は無言で頷き、部屋を出て行った。
「さて、そろそろ落ち着いたか? ミーシャ」
「……はい」
「先にミーシャの誤解を解かないといけないな。この世界から消えると言ったが、あれは半分誤魔化しのようなものだ」
「誤魔化し……ですか?」
「ああ。さて、答える前に一つだけ質問する。この世界は人間界と魔界以外に何がある?」
「精霊界と龍界ですよね?」
「そう、それがこの世界の全て。だから俺はその世界から消える」
「[#縦中横]??[#縦中横終わり]」
「つまりは――――」
「存在すら知る人物は数少ない……『神界』に行くつもりなのね?」
「神界……?」
 ゼロの聞きなれない単語に無意識に首をかしげるミーシャ。
「流石だな。そう、ゼロの言う通り五つ目の世界……『神界』に行くつもりだ」
「じゃあ、この世界から消えるというのは……」
「言っただろ? 誤魔化しだって。ここは四つの世界が全てだと思われている。だから、五つ目の世界はこの世界であってこの世界でないようなものだ」
「……!」
 今更になって自分の早とちりに気づき、顔を真っ赤に染めるミーシャ。
「で、ですが何故そのような誤魔化しを?」
 質問で注目を逸らそうとしているが、殆ど無意味だった。
 強斎は微笑をしてから説明をする。
「ルシファーっているだろ?」
「ええ、あの魔王の」
「もしかしたら、あいつは神界から来た魔王かもしれん」
「それってどういう……?」
「堕天使ルシファー……恐らくだが、神と敵対した天使だ」
「天使……」
「そいつがいる状況で神界の話なんてしたら厄介なことになりそうだからな。だから濁した」
「そういうことだったのですか……」
 ミーシャはようやく納得したようで、何度も頷いていた。
「それともう一つ。俺の目的だったよな?」
 再度、注目の的になる強斎。
「最初は強くなってから仲間と合流して、一緒に元の世界に帰るつもりだった……。だが、人を殺し、人外な力を手に入れると共に逢うのが怖くなってきてな。それから俺の目的は――――」
 強斎は一人一人しっかりと目を合わせて優しく微笑んだ。
「お前たちを含めて、どんな手段を使ってでも守ることにした」
「その為の戦争ってことね」
 ゼロの言葉に頷き、更に話を続ける。
「これから先、もっと壮絶な戦いが待っているだろう。龍人との戦争や精霊とも戦争するかもしれない。最悪、神々とも敵対することになるだろう。だが、俺は必ずお前たちを守る。そして、戦いが終わっても――――俺はこの世界で生涯を終える」
 強斎の目に迷いなどなかった。
 本心からそう決め込んだようだ。
「これが俺の目的だ」
「……」
 強斎は今まで隠してきた目的を言い切った。
 これ以上の隠し事は無いと思える程に。
 だが、それでもミーシャは納得していないようだ。
「キョウサイ様、一つだけいいですか?」
「どうした?」
「キョウサイ様はそれでいいのですか?」
「?」
「私たちを守ってくれるというのは物凄く嬉しいことです。ですが、その為に戦争するわけですよね?」
「ああ」
「でもそれって……仲間を守るために仲間のいる世界と戦争するってことですよね?」
「……」
「戦争をしてから、どうやって守るのかは考えがあるのでしょう。ですが……いいのですか?」
「……」
 ミーシャはもう一度質問をした。
 しかし、さっきの質問とは言葉の重みが違う。
「最悪……戦う事になりますよ?」
「……ふっ、今更だな」
 だが、強斎は全く動じなかった。
「あいつらは以前より遥かに強くなった。剣を交える覚悟なんてとっくに――――」
「私が聞きたいのは、キョウサイ様の心です」
「っ!」
「一緒にこの世界に来た仲間なんですよね? そんな唯一一緒の世界で生まれた仲間に……敵として見られるのは怖くないのですか?」
「……愚問だな」
「それはつまり……」
「あいつらを守るために戦い、嫌われる。いつも俺が勝手に押し付けている貸し借りと同じだ。……怖いわけがない」
 その時の強斎の目からは真偽を見極めることはできなかった。
 だから、ミーシャはとりあえず納得する。
「ありがとうございます、これでモヤモヤが消えました」
「それはよかった」
 そして、強斎は大きく息を吐き……。
「それじゃあ、行ってくるよ……『神界』に」
 その後、ルシファーとキャルビスに軽く説明をして強斎はある場所に向かった。
…………
……
……
「本から転移するなんて……本当にファンタジーだな」
 ここは魔界にある大図書館。
 しかし、ここの使用許可は強斎たちにしか許されていない。
「へぇ、そっから神界に行けるんだ」
 そう、強斎[#傍点]たち[#傍点終わり]にしか許されていないのだ。
「はぁ……で、話ってなんだ? ゼロ」
「話というか……お願いかな?」
「珍しいな」
「そうかな? まぁ、珍しいと思うならちゃんと聞いて」
「で、何なんだ?」
「主人なら大丈夫だと思うけど、改めて……ね」
 ゼロは強斎から少し間を開けて――――。


「これからも、私たちを愛し続けてください」


 ――――深々と頭を下げた。
 強斎はその光景が酷く衝撃的だった。
 ゼロは封印されてたといえ魔神なのだ。
 いくら主従関係といえ、普通とは思えない行為だった。
「お、おい! 頭を上げろ!」
 ゼロは頭を上げても真剣さは消えなかった。
「ああ、お前たちを永遠に愛し続けるよ」
「本当に?」
「本当だ」
 その時、ゼロはへなへなと力なく腰を下ろした。
「ふぅ、緊張したぁ~~」
「緊張したのはこっちの方だ。なんであんな事をしたんだ?」
 ゼロに手を差し伸べて立ち上がらせる。
「ちょっと、ミーシャに影響されてね」
「ミーシャに?」
「うん、ビックリしたでしょ?」
「まぁな。普段とは少し違った」
「ミーシャもルナも……多分、レイアも変わろうとしている」
「……」
「だから、みんなが変わっても主人は変わらずに愛し続けて欲しい。そうお願いしてきたの」
「はぁ、そんなことか」
「そんなことって……酷くない?」
「俺はな、いつお前たちが離れてしまうのか怖かったんだよ」
「つまり?」
「俺の方こそ、俺を愛し続けてくれ」
「ふふっ、よろしい」
「ったく、恥ずかしいこと言わせんな。俺はもう行くからな」
「いってらっしゃい」
 強斎は一冊の本を取り出し、魔力を流し込んだ。
 通常ならありえない程の魔力量……だが、強斎にとっては減った感覚すらない程の微量。
 それだけで充分だった。
「よし、完成っと」
「ああ、なんか懐かしい感じがする」
 本を中心に半径一メートルの円柱の光が輝いていた。
「ゼロは神界に行ったことがあるのか?」
「まぁね」
 そんなたわいも無いやり取りを終えると、強斎はその光の中に足を踏み入れた。
「あ、そうだ主人」
 もう転移するというところでゼロからお呼びが掛かった。
「どうした?」
「帰ってきたら色々と教えてあげる」
「色々って……曖昧だな。まぁ、行ってくるよ」
 そして、強斎はこの世界から姿を消した。
 取り残されたゼロは少しだけ口元をつり上げ……。


『いってらっしゃい。小鳥遊強斎君』


 紛れもない日本語でそう呟いて、この場を去った。


[#ここから6字下げ]
R18絵描いてる絵師さんとお近づきになりたい(切実
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]82話 日本神っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
お久しぶりです!
テスト? ええ、終わりましたよ二つの意味で
[#ここで字下げ終わり]




 見渡す限り白。
 目印になるような物はもちろんない。
 地面も同じ白なので、平衡感覚も直ぐに失いそうな空間。
 更に、音と言える音すらない。
 そんな場所に一人の男は立っていた。


「これは……気が狂いそうになるな……」
 強斎は苦笑いを隠そうともせずに表し、最大限に戸惑いを表現していた。
 それもそうだろう。
 どこを見ても白、白、白。
 平衡感覚がおかしくなってきているのに加え、耳が聞こえなくなってしまったのではないかと勘違いする程の静寂。
 いくらこの男でも、戸惑うことぐらいはする。
(一応あいつらの場所は把握できるが……距離が遠すぎるな。地球から太陽並みの距離じゃ済まないぞ……)
 このまま何もしなければ本当に気が狂いそうになるので、ひとまず仲間の位置を把握する。
 ちゃんと『距離』で把握できるので少しは気楽であった。
「じゃあ、ここは神界って事で間違いはないようだな」
 一人でそう納得し、そして――――。
「で、いつまでそうしているつもりだ?」
 背後にいる人物に声をかけた。
「ほう、よく気がついたね」
「そりゃ、ここまで音がないとな。色々敏感になるんだよ」
 振り向くと、男が立っていた。
 それはもう……結構近い距離で。
「……近い」
「おっと、すまないね」
 男は謝罪の意など全く見せずに強斎から距離を取る。
 強斎は強斎で少し……いや、かなり戸惑っていた。
 男はパッと見た感じ、大学生でも通用する程の青年だ。
 黒髪は少しばかり長いが、筋肉質のせいで女には全く見えない。
「いやぁ、ここに客人が来るなんて久しぶりでね。どんな人なのかじっくり観察させてもらったよ。背後だけ」
「あ、ああ」
 強斎は未だに戸惑っている。
 それは、この男の名前にあった。
 #
 イザナギ
 LV5600000
 HP 2・85662E+二三/2・85662E+二三
 MP 2・72913E+二三/2・72913E+二三
 STR 4・85415E+二二
 DEX 5・76093E+二二
 VIT 5・94626E+二二
 INT 6・66592E+二二
 AGI 6・71549E+二二
 MND 4・92600E+二二
 LUK 一四〇


 スキル
 剣術LV87
 刀術LV90
 大槌術LV88
 棒術LV90
 体術LV94
 槍術LV95
 弓術LV88
 盾LV79
 大盾LV77
 調教LV86
 空間把握LV90
 危機察知LV90
 天変地異の発動
 無双
 生命創作
 火属性LV90
 水属性LV90
 土属性LV90
 風属性LV90
 闇属性LV90
 光属性LV90
 HP回復速度上昇LV80
 MP回復速度上昇LV80
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 神威圧
 限界突破
 超越者
 覇者
 神殺し
 属性
 火・水・土・風・闇・光
 |生命創作《ユニーク》
 世界を破壊する者(???)


 #
(まさか、日本神と出会うことができるとはな……しかも、イザナギときたか)
 本来ならば、名前より圧倒的なステータスに驚くはずだが、この男だからしょうがない。


「それで。どうやってここまで来たんだ?」
 イザナギは少しだけ『神』という威圧感を出しながら強斎に問いかけた。
「お前の質問に答えたら、こっちの質問にも答えてくれるか?」
「それはわからないな。質問の内容にもよる」
「力ずくでも吐かせると言ったら?」
「それは嬉しいね。最近[#傍点]まとも[#傍点終わり]に戦える相手がいなくてね……」
 お互いの微笑が消える瞬間。
 それが|試合開始《ワンサイドゲーム》の合図だった。
「君が何者か知らないが……少しは楽しませてくれよ!」
「少しだけな」
 イザナギは、身体強化も何もない状態で強斎に殴りかかる。
 身体強化をしたミーシャやレイアを遥かに上回るパワーとスピード。
 それでも手加減していることが分かるほどに余裕を見せている。
 だが。
「へぇ……。力比べをするつもりかい?」
「これで終わりなんてことはないよな?」
「勿論!」
 強斎めがけて放たれた拳は、強斎の拳によって阻まれた。
 そのまま力比べに持っていく。
「な、中々に強いね」
「これが限界か?」
「そうだね、ちょっと限界に近い……かも!」
 力比べでは不利だと判断したイザナギは素早く距離を取った。
「これほどの力……君はどこかの闘神か?」
「残念ながら神ですらないね」
「ははっ、面白くない冗談だ」
 イザナギは強斎のことを、どこかの神だと勘違いしているようだ。
「力で我より強い奴など、上位闘神しかいなかろう」
「残念、上位も何もない人間だ」
「……まぁいい。このことについても力ずくで吐かせてもらうぞ!」
「力で負けているくせによく言えるぜ」
 イザナギは次に魔術を使い始めた。
 虚無属性を除く全ての属性の一斉攻撃を使おうとしているようだ。
「闘神には少しきついかもしれんが……覚悟しておけ!」
「ふっ、覚悟……か」
 強斎は鼻を鳴らしてからイザナギを睨む。
「お前も覚悟しておきな。楽しむ時間はもう終わりを迎えるからな」
「ああ、充分に楽しめたよ。死なない程度に殺してやる!」
 イザナギが魔術を放つ瞬間。
 戦いに終止符が打たれた。
 突然魔術は消滅し、イザナギは膝から倒れた。
「な、なにを……した……?」
「ただの抜刀だ。なに、峰打ちだから死にはしないだろ」
 強斎の手には刀はおろか、何も持っていない。
 神であるイザナギが反応できない速度で刀を取り出し、鞘から抜いて峰打ちをした後にしまったのだ。
「さて、色々と質問させてもらうぞ」
「くっ、まだ……まだ終わって――――」
「醜いぞ、イザナギよ」
 イザナギが立ち上がろうとする時、背後から声がかかった。
 声の高さから女性と判断できる。
(イザナギがいるってことは、この声は――――)
 強斎はある程度予想を組み立て、後ろを振り向く。
 イザナギがいるならば、イザナミがいてもおかしくない。
 強斎はそう思っていた。
 実際にそうだった。
 だが、強斎は声を挙げて驚愕することになる。


「なっ……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「お主が客人か。すまないな、こいつが迷惑をかけて」
 #
 イザナミ
 LV6000000
 HP 1・27602E+二四/1・27602E+二四
 MP 1・64927E+二四/1・64927E+二四
 STR 9・94629E+二二
 DEX 8・75926E+二二
 VIT 8・95720E+二二
 INT 1・62924E+二三
 AGI 9・52047E+二二
 MND 8・44220E+二二
 LUK 一〇〇


 スキル
 剣術LV80
 刀術LV85
 棒術LV87
 体術LV90
 槍術LV90
 弓術LV86
 調教LV90
 空間把握LV90
 危機察知LV90
 天変地異の発動
 無双
 生命創作
 火属性LV95
 水属性LV95
 土属性LV95
 風属性LV95
 闇属性LV95
 光属性LV90
 HP回復速度上昇LV80
 MP回復速度上昇LV80
 状態異常無効化
 呪系統無効化
 神威圧
 限界突破
 超越者
 覇者
 神殺し
 属性
 火・水・土・風・闇・光
 |生命創作《ユニーク》
 世界を破壊する者(???)
 ――――(???)
 #
 名前がイザナミだということは予想済み。
 ステータスがイザナギより高いことに関しては気にするほどではない。
 属性の最後にある罫線は少し気になっているが。
 では、何故強斎はここまで驚愕しているのか。
 それは――――。


「ゼロ……?」
 あまりにもゼロに似過ぎているからだ。
「ゼロ? 妾の名はイザナミという。ゼロという名前ではない」
「そ、そうか……そうだよな」
 よく見れば髪の色がゼロとは違っている。
 ゼロは銀と紫を合わせたような色だが、イザナミは漆黒だ。
 しかし外見の違いはそこだけで、ゼロが髪を染めたと言ってもいいほど似ていた。
(雰囲気とか気配とか冷静に判断してみると色々と違うもんな……)
「それで、客人はここになんの用だ?」
「……少し、話をしにきた」
「わかった、茶でも用意しよう」
 そして、イザナミは指を鳴らした。


[#ここから6字下げ]
誤字報告など色々ありがとうございます!
直せる限りは直していますので!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]83話 特殊能力っぽい[#中見出し終わり]






 イザナミが指を鳴らすその瞬間。
 辺りが更に白に染まった。
 強斎は反射的に腕で目を覆う。
「もう開けて良いぞ」
 イザナミの言葉を信じ、そっと腕をどける。
「なっ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「驚いたか?」
 視界に入ってくるのは白……ではなく、一般家庭にあるような[#傍点]洋室[#傍点終わり]だった。
 しかし、強斎が驚いたのはそこだけではない。
「ん? 妾の顔に何かついているのか?」
「ついているっていうか……誰?」
 そう、イザナミであろう女性の顔が変わっているのだ。
 ゼロそっくりな顔から。
「先程言ったであろう。イザナミじゃ」
「え、いや……え?」
「そんなに驚くことかな?」
 イザナギがケロッとした顔で問う。
「そりゃ、な」
「真っ白から色が付いただけでしょ」
「そっちじゃない」
 部屋のことも気になるが、一番気になるのはイザナミ自身だ。
「お前、さっきと顔変わってないか?」
「そうじゃな」
 呆気ない返答に少しだけ動揺してしまう。
「そ、それも魔術か……? いや……それはないか……」
 強斎の属性の中には、どれだけ隠蔽に優れていても見破ることができる効果がある。
 しかし、それが発動した様子は全くなかった。
「ふむ……客人よ」
「……なんだ?」
 イザナミは少しだけ頬を緩ませ――――。
「その説明も踏まえて話をしようとするかの」
 椅子に腰をかけ、テーブルに肘をつけた。
…………
……
……
 イザナギ、イザナミが隣同士で座り、テーブルを挟んで強斎が椅子に座った。
 テーブルの上には簡単なお菓子と、人数分の紅茶が注がれている。
「それで、何から訊きたい?」
 イザナギが話を切り出す。
「そうだな……まず、お前たちの存在だ」
「妾達の……?」
「ああ、俺の認識であっているかどうかの……な」
「ほう、客人の認識とな。申してみよ」
 イザナミは不敵な笑みを浮かべ、興味津々で耳を傾けていた。
「最上位に位置する日本神……そんな感じか」
「日本神……か」
「違うのか?」
「いや、今は確かにそんな呼ばれ方をしている。間違ってはおらんよ」
 イザナミは目を伏せ、だんまりとしてしまった。
 しかし、それも数刻のことだ。
「すまぬな。その名で呼ばれたのも久しいからの」
「いや大丈夫だ。それより、質問を続けてもいいか?」
「ああ」
 強斎は大きく深呼吸を数回だけする。
「さっきまでこの部屋はここになかったはずだ。それに、お前の顔」
「妾の?」
 イザナミを指差し、しっかりと頷く。
「ああ、その顔はゼロ……いや、魔神の顔にそっくりだったからな」
「……客人よ」
 イザナミ、イザナギは『魔神』という単語を聞いた途端に目つきを変えた。
「その質問を答える前に、客人はどうやってここまで来たのか教えてもらおうか?」
「さっき君は神ではないと言った。それは信じるとするよ。だけど、君は何者だい?」
 二人の目は真剣そのもの。
 イザナギとの勝負に勝ったから答える義理などないのだが、断ることができる雰囲気ではなかった。
「俺は普通の人間だ。そして、ここにはこの本を使ってここまできた」
 アイテムボックスから本を取り出し、机の上に置く。
「なるほど……な」
 イザナギは本を開くと、全てを理解したかのように強斎の目を見つめる
「君は……この本に書かれている文字が読めるのかい?」
「まぁな」
「これで全てを理解した。君は正真正銘人間だ」
「だからそう言ってるだろう」
「そして、客人は転移者、もしくは転生者だな?」
 今まで本を見ていたイザナミが唐突に問いかけた。
「ああ、俺は地球の日本……そこから転移してきた」
「それは何故じゃ?」
「勇者の召喚に巻き込まれたんだよ」
「……客人よ。名を訊いても良いか?」
「小鳥遊強斎」
「客人……いや、強斎よ」
 イザナミは何かを伝えようと口を開けるが、結局何も言わずに閉じてしまった。
 イザナギだけは何かを理解しているのだが、沈黙を貫いてる。
「? どうした?」
「すまぬ、忘れてくれ。それより、この部屋と妾の変化についてだったな」
「あ、ああ」
 何故このタイミングで転移のことを訊かれたのか疑問であったが、変化について聞けばわかるだろうと判断した強斎はそのまま流されてしまう。
「強斎は隠れステータスのことについて知っておるか?」
「……いや、初耳だ」
「意外じゃな……まぁいい。隠れステータスと聞いて大体はわかるかの?」
「まぁ……な」
「その中に『特殊能力』という一部の輩しか扱えない能力があるのじゃ」
「……まさか?」
 イザナミは頬を緩ませてから頷いた。
「そう、これが妾の特殊能力。ありとあらゆる『殻』を造ることじゃ」
「そして、我の能力は……ありとあらゆる『中身』を創ること」
「魔術でも何でもない隠れステータス……。薄々感じていたが……やはりか」
 強斎は今までの不思議な現象を思い返していた。
 物理的にありえない現象。
 明らかにおかしいステータスの上昇。
 ミーシャ達が本気で走るとその反動で衝撃波が発生するのだが、強斎の場合のみそれはなかった。意図的に発生させない限り。
 奴隷達に大きなステータス値を振り分けると決まって気絶していた。それは、ステータスの急激な変化に体が追いつかず、一時的な昏睡状態に陥るのだ。しかし、強斎にはそれがない。
 今までそれが不思議でたまらなかった。
 しかし、ここでそれを解決できる唯一の可能性が見つかった。
「もしかしたら……俺も特殊能力持ちかもしれん」
「「だろうな」」
 同時に肯定した二人は困惑していた。
「それ程のステータス……妾は見たことないぞ……」
「これは……我が負けるのも納得するね……」
「……見えるのか?」
「妾たちを誰だと思ってる? 特殊能力の二つや三つぐらいは持ってて当たり前じゃ」
「それもそうだな」
 では何故イザナギは最初にステータスを覗かなかったのかと思ったのだが、そもそもここに来る者が少ないのだろう。
 他人のステータスを覗くという習慣がないのだ。
 そこで会話はぷっつりと切れた。
 強斎は盛大なため息をつき、イザナミに問いかける。
「なぁ、そろそろ教えてもらってもいいんじゃないか?」
「はぁ……かなわんのぉ」
 イザナミは何とかしてとある話題を回避していた。
「いいじゃろう。妾たちと魔神の関係……強斎に教えれるだけ教えよう」


[#ここから6字下げ]
イザナミとイザナギの口調が全然安定しないお……
一九日にある名華祭の為に最後の追い上げじゃ!
見掛けたら声かけてくださいね(
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]84話 ゼロの秘密っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
ちょっと違和感あるかも
[#ここで字下げ終わり]




 強斎は固唾を飲んでイザナミの発言を待つ。
「あやつはな――――転生者なんじゃよ」
「転生者……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 転生者。
 一度死んで、もう一度生を受けた者。
 ファンタジー小説ではありがちなことである。
「そう、強斎と同じ日本からこの世界に来た[#傍点]人間[#傍点終わり]じゃ」
「ちょ、ちょっとまってくれ!」
 未だに状況をのみこむことができていない強斎はかなり動揺していた。
「人間だと? あいつは精霊王じゃなかったのか?」
「そうじゃな、精霊王でもあるの」
「……どういうことだ?」
 イザナミは目を伏せ、重々しく口を開いた。
「人間として転生し、自ら望んで精霊になったんじゃよ」
「……すまん、全くわからん」
「ここから先は話が長くなる。先に強斎の用事とやらを聞いてもよいぞ?」
「いや、俺の用事なんて後でいい」
「そうか」
 強斎もだいぶ冷静になったようで、聞くことに徹していた。


「転生後、あやつはちょっと常識外……所謂チートを所持した状態で転生したのじゃ」


「ある程度裕福だった家庭の一人娘として産まれたあやつは、ある日を境に転生前の記憶を取り戻し、チート能力にも目覚めた」


「その力……今では虚無属性の一種になるようじゃな。その力を駆使して最強の冒険者とまで呼ばれるようになったのじゃ」


「勿論、武術の腕も並外れたものじゃった。剣豪に素手で圧勝したり攻撃魔術の雨を剣一本で捌いたりとな」


「容姿も優れておったからな。言い寄ってくる輩もおったが、まるで相手にせんかったのじゃ」


「女には憎まれ、男には下衆な目で見られる。あやつは常に一人じゃった」


「そして、一人が故に悲劇は起こった」


「とある神の遊び道具の標的にされたのじゃ」


「その神自ら創った魔物とあやつを戦わせたのじゃ」


「結果はあやつの惨敗。簡単に殺されたんじゃよ」


「その神は、簡単に死んでしまったあやつに驚愕しておった。そして、あやつに特殊能力を与えた」


「死んでしまっても、記憶とステータスを引き継いだ状態で転生前の記憶を取り戻した日に戻る能力じゃ」


「最初の一回目は震えていた、故に殺された。二回目は別の国へ行った、故に殺された。三回目は戦いから逃げた、故に殺された。四回目は恐怖しながらも戦った、故に殺された」


「あの後、何度殺されたのか妾は把握しておらん。それ程の回数分殺され、ようやく魔物に勝利した」


「だが、悲劇は終わらなかった」


「その神は面白がって、また新しい魔物を創った」


「あやつは絶望した。自殺も試みた。だが不可能じゃった。戦うことしか残されてはいなかった」


「勝っても新たに強敵が現れ、何度も繰り返し殺される人生……ざっと六百万年程繰り返しておったな」


「既に感情はなく、殺されるその瞬間だけ恐怖という感情が出てくるだけじゃった」


「そんなある日じゃった。あやつは精霊にしてくれと妾たちに頼み込んだ」


「妾たちは了承し、あやつを精霊にした……」


「精霊になったあやつのステータスは、これまでにない化け物じゃった。妾たちを圧倒的に追い越し、当時神々と対立していた魔神を殺し魔神の座についた」


「そして、自らを『虚無の精霊王』と名乗り他属性の精霊王をも圧倒した」


「同時に魔界を制覇したあやつは自分をここまで苦しめた神を殺すため、軍勢を引き連れてこの神界に乗り込んだ」


「じゃが、結果はあやつの負けという形になった」


「あやつがここまで強くなっていたことに焦った神は、あやつの記憶の大半を書き換えて封印したのじゃ」


 イザナミは大きく息を吐き、これ以上はないと言わんばかりに強斎を見つめた。
「なぁ、一つだけ訊いていいか?」
「なんじゃ?」
 イザナミは気がついていなかった。


 ――――――本気でキレた強斎の恐怖に。




「っ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ただの視線。
 それだけでも神であるイザナミは逆らうことが出来ないと直感した。
「ゼロをそんな目に合わした神はどこのどいつだ?」
「……教えられん」
 しかし、イザナミは逆らった。
「今の強斎では教えても意味などないからの」
「なんだと?」
「教えて欲しければもっともっと強くなることじゃな。話はそれからじゃ」
「今の俺じゃ弱いってことか?」
「その通りじゃ」
 勿論、強斎が弱いわけがない。
 だが、イザナミの目は本気だった。
「……わかった」
 強斎は湧き上がる怒りを抑え、深呼吸をした。
「妾的には強斎の用事が聞きたいんだがの」
 イザナミは何とか話を遠ざけようと、別話題を持ちかけた。
「実はな、人間界に戦争を吹っかけようと思ってる」
「ほう……そんなもの、妾たちの力なぞ借りなくても圧倒できるじゃろ?」
「俺が頼みたい用事はそんなんじゃねぇ」
「ならなんじゃ」
 強斎は少しだけ拳に力をこめた。
「人間界と戦争するとき、人間側に味方してやってくれ」
「無理じゃ」
 即答だった。
「まず、妾たちはそう簡単に下界に降りることはできん。降りることができるとしても、神としての力を封印せなければならぬ」
「そうなのか……」
「そしてもう一つ。なんで強斎と戦わねばならぬ。いくら人間が味方をしても、妾の負けは確定しているじゃろうに」
「それについては考えがあったんだがな……じゃあ、別の頼みだ」
 完全に蚊帳の外にいるイザナギを一瞥してから言葉を繋ぐ。
「人間に近い人形の造り方を教えてくれ」
「……本気かい?」
 ここでようやくイザナギが発言した。
「人間に近い人形ってことは、やろうと思えば人間そのものを創り出す事ができるんだよ? それはつまり――――」
「完全に人間をやめることになる。神々と敵対することになるのも時間の問題じゃぞ?」
「だが、人間をやめるときは人間を創った時だろう?」
「「……」」
 二人は無言で頷いた。
「それなら大丈夫だ。それに……」
 強斎は先ほどの会話を思い出す。
「神と戦う理由もできた。その時になったらこっちから人間をやめてやる」
「……そうか」
 イザナミ、イザナギは顔を見合わせ同時に立ち上がった。
「妾の名にかけて強斎に『殻』の造り方を教えよう」
「我の名にかけて君に『中身』の創り方を教えよう」
 強斎は力強く頷いた。
…………
……
……
「ああー……ご主人に抱きつきたい……」
「最近そればっかりですね」
「へっ、自慰行為までしてるくせに」
「なっ! それはレイアもでしょう[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ミーシャさん、レイアさん。少し落ち着きましょう? まだ真昼間ですよ?」
 ルナは、配下を使って魔界と人間界の現状を把握しながらも二人の会話に耳を傾けていた。
「いや、だってね。もう三ヶ月だよ?」
「そりゃ、色々溜まるわな」
 レイアを無言で叩いてから、大きなため息をついた。
「キョウサイ様の目的を一番把握しているだろうゼロは忙しそうだし、私たちは魔界にいるほぼ全ての魔物を使役できたからやることなし。ルナちゃんは監視だから基本的になにもやらない……」
「そりゃ、色々溜ま――――」
 ミーシャの威圧によって言葉は遮られた。
 レイアもレイアでおかしくなってきているようだ。
 そんな時、三人の背後に立つ者が現れた。
 この三人に気がつかれずに背後に立つ者なんて、本当にごく僅かしかいない。
「もうやることは終わったの?」
「まぁね。後は主人を待つだけ」
 ゼロだ。
 だが、浮かない顔をしていた。
「どうしたの?」
「いや……ちょっと未だに迷っててね……」
「キョウサイ様に話したい事?」
「うん。でも、戦争まで一ヶ月切ってるし……」
「ゼロらしくないですね」
「そりゃ、主人の事を考えると……ね」
 盛大なため息をつき、頭をポリポリと掻く。
「主人の特殊能力……ありとあらゆる『法則の無視』。これはもう、人外ってレベルじゃないわよ……」
 ゼロは強斎の特殊能力について薄々勘付いていた。
 だが、確信を持つことができたのは三か月前……強斎を送った後だ。
 本来、人間が神界に行くことなど不可能なのだ。
 そもそも、神と人間では造りが全く異なる。
 人間が神界に出向くには、神の加護を受けなければならない。
 受けなかった場合、どうあがいても転移など発動しないのだ。
「でも、ゼロはそんな知識をどこでつけたの?」
「そりゃ、こう見えて精霊王だし? 魔神だし?」
 と、ゼロがボケたとき。
 四人は一斉に目を見開いた。
「ようやく……帰ってきたのね」
「ああ、待たせたな」
 この四人の背後を取ることが出来るのは、この世界でおそらく一人だけだ。
「ミーシャ、レイア、ルナ、ゼロ。俺が留守の間、よくやってくれた」
 一人ひとり、小鳥遊強斎は四人の頭を優しく撫でた。
…………
……
……
『最終チェック?』
「ああ、そうだ」
 強斎は暗黒騎士の服を着ながら肯定した。
「お前たちを信用していないわけではないが、俺自ら確認したいとこもあるからな。直ぐに終わらせるから心配するな」
 ついでに、今まで溜まっていたアレは激しい行為によって全員解消されている。
 しかし、ゼロは未だに強斎に話すことを話していない。
「んじゃ、ちょっと行ってくる」
 少しだけ不満そうな四人から逃げるように、強斎はこの場を去った。
(すまんな、これだけは確認しないと気が済まないんだ)


 一瞬にも満たない時間で強斎はとある王国……ドレット王国にたどり着いた。
(あいつら……元気にやってるかな)
 人に気がつかれないように城に忍び込み、記憶を蘇らせる。
(ここは……俺の部屋だったところだな。時間もいい頃だし、飯でも食ってるのか?)
 以前一度だけ食事の時に使った大広間を覗いた。
(………………)
 そこに…………いた。
 ここまでじっくり顔を見るのは半年以上ぶりだ。
(元気にやっているっぽいな……あれは緋凪か? そうか、あいつもこっちの世界に転移してきたのか)
 琴音や信喜、仁とは顔合わせしているので、直ぐに状況を把握できた。
(俺はもうすぐあいつらと戦う……。いつまでもこの平和が続くように)
 小さく鼻を鳴らし、これからすることをイメージする。
(そうだな……まずは、挨拶だな)
 強斎は先程から背後に隠れているつもりの人物に話しかける。
「久しぶりだな、ベルク」
「……ああ、久しぶりだな。ショクオウ……いや。暗黒騎士」
 そこには、シッカ王国の冒険者ギルドの頂点に立つ男。
 ベルク・ローダンが立っていた。


[#ここから6字下げ]
イザナミとイザナギとの会話には続きがあります
追々書こうと思います
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]85話 ベルクと強斎っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
皆さん、GWは楽しめましたか?
自分は満喫しすぎて小説書くのほったらかしにしてましたごめんなさい!
[#ここで字下げ終わり]




「やっぱり、お前には見抜かれていたか」
「よく言うぜ。俺だけにわかるようにあのお嬢ちゃんに渡したんだろ」
 ベルクは広間で仲良く食事をしている勇者一行を一瞥し、強斎を強く睨んだ。
「お前のやりたいことって……人間界と戦争することだったのか?」
「今は……そうだな」
「なら、なんで俺に正体を明かすような真似をしたんだ!」
 一枚の黒金貨を取り出し、本気で投げつける。
 銃弾のような速度の黒金貨を至近距離で投げつけられたが、強斎は微動だにせず掴み取った。
 そんなことが当たり前かのようにベルクは怒鳴り続ける。
「俺はな、お前のことを友人だと思っていたよ。桁外れな力を持っていてもな!」
「ああ、俺もお前のことを今でも友達だと思ってる」
 ベルクは続ける、近くの広間に届くような声で。
「じゃあなんでだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで悪魔に魂を売る真似なんてしたんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] まだ人間の心は残っているんだろ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「俺は悪魔に魂なんて売ってないさ。俺は俺の意思で人間界と戦争する」
「っ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ベルクは一瞬で剣を引き抜き、強斎に剣先を向けた。
「お前のその目。俺は一度も見たことない」
「昔から変わってないはずだが?」
「そういう屁理屈だけは変わってない……な!」
 ベルクの出せる限りの全力……。
 だが、それも強斎には届かない。
「なぁ、ベルク。俺は戦いに来たわけじゃないんだ」
「もうすぐ開かれる闘技大会の前に友人の顔を見に来たんだろ?」
「流石だな、そこまで推測しているとは」
「推測じゃねぇよ。お前さんの奴隷達が教えてくれたんだ」
「ふっ……そうか」
「なんだ? 怒らないのか?」
「怒る? なんでだ?」
 強斎は指を鳴らし、小さく鼻で笑う。
「あいつらがやることは、俺に対して一切の害はない」
「はっ、信用しすぎじゃないか?」
 ベルクが苦笑を浮かべた瞬間、二人を中心に透明な半円球が覆う。
「これで当分は邪魔が入らねぇな。気が変わった、久しぶりに……相手してやるよ」
「さっきまでは戦う気なかったんだろ?」
「気が変わったと言っただろ?」
「口止め……か」
「ああ、ここでお前を潰しとかないとな。あいつらにバラしてもらっちゃ困る」
「ははは……殺さないでくれよ?」
「安心しろ、今でもお前はいい友人だ」
 その瞬間、ベルクの意識は深い闇に引きずり込まれた。
…………
……
……
「あ、お帰りなさいませ!」
 強斎の帰りに出迎えたのはレイア一人だった。
 いつもなら強斎の胸に飛び込むレイアだが、何故か躊躇う。
「ご主人様?」
「どうした?」
「……大丈夫ですか?」
 強斎の頬にそっと手を添えて、上目遣いで心配する。
 いつもの強斎だったら外に出さないといっても、内心では物凄く動揺していた。
 しかし……。
「ああ、大丈夫だ」
 心ここに在らずとはこういうことだろう。
 強斎は苦笑するだけで、そこに感情はなかった。
 そのまま場を立ち去ろうとする強斎を、レイアは引き止める。
「……」
「レイア?」
「ご主人様。辛かったらやらなくてもいいんですよ? 人間界との戦争は私達でも充分に事足ります。ご主人様が直々に手を――――」
「ありがとうレイア。だが、これは俺がやらなくちゃならない。あいつらと……勇志と闘う事だけは……絶対に」
 強斎はかなりの高スペックだ。
 感情を隠すのが得意で、その特技を活かして上手いこと事を運んできたのも多々ある。
 だが、澪や勇志等にポーカーフェイスは通用しない。
「……わかりました。ご主人様のその『目』を信じます」
「?」
 そう、強斎の感情は大抵『目』で読み取ることができてしまう。
 だが、これは勇志や澪レベルで親しい人間に限定する。
「ご主人様。私達と一緒に過ごした時間は一年にも満ちません。ですが、ちょっとした感情ぐらいは読み取れますからね?」
「……はぁ、参ったな」
 レイアは強斎の手を取り、自分の胸に押し付けた。
「こうすることで、ご主人様がドキドキしていることも何となくわかっていました。それを強がって隠しているご主人様が私は好きなんです」
 レイアは「まぁ……」と言葉を続けて顔を赤く染める。
「私が心臓が張り裂けそうになるぐらいドキドキしてますから、ただの勘違いかもしれませんが」
「ああー……。そんなことはないぞ?」
 頬を軽く掻いてから、少しだけ恥ずかしがりながら言葉を続ける。
「こういうのを外に出すと……ほら、変だろ?」
「別に変じゃないですよ? ていうか、その程度で変とか今更過ぎですよ」
 何がとまで言わずとも強斎にはわかっていた。
「これでも人間はやめてないんだけどな……」
「わかってますって」
 レイアは少しだけ強斎から離れて、尻尾を強調するようにくるりと回った。
「私はどっちのご主人様も好きですよ。あの日出会った時からこれから先もずっと」
 満遍の笑みを浮かべたレイアはそう言って去っていった。
 一人残された強斎は少しの間唖然としていたが、直ぐに照れくささに変わった。
「『神槍』」
 まだ強斎がこの世界に慣れていなかった頃に初めて創った武器――――『光槍』の完全上位互換を手に具現させた。
「イザナミ。何となく理解したぜ」
 強斎は人気のない草原に移動し、空を仰いだ。
「強くなれ……その意味をなっ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 [#傍点]思いっきり[#傍点終わり]『神槍』を真上に投げつけた。
「この世界での強さはステータスが全てだと思っていたよ……。けど、それだけじゃなかったんだな」
 強斎の周りには何も変化は起きていない。
 だが、それは見た目だけの話。
 圧倒的な魔力を開放したことにより、魔界だけではなく人間界、龍界、精霊界までが震え上がった。
「受け入れる強さ……そうだろ?」
 気の遠くなるような距離にいる女性に向けて、呟いた。


 強斎は忘れていた。
 自分のLUKの存在を。
 以前の『光槍』の出来事を。


 レベルアップの恐ろしさを。


…………
……
……


「おかえり、レイア」
「ああ」
 ミーシャに対して素っ気ない返答をしているレイアだが、誰が見ても照れ隠しだとわかる表情をしていた。
「どうだった? キョウサイ様は?」
「……めちゃくちゃ可愛かった」
 そう、気持ち悪いぐらいにニヤニヤしていたのだ。
「え、なに。ご主人って素直になったらあんなに可愛いの? 違う意味で発狂しちゃいそうなんだけど」
「ちょっと落ち着こうね? まぁ、可愛かったのは認めるけど」
 ミーシャは二人の会話を最初から全て見ていたのだ。
 レイアは大きく背伸びをして、満足げに息を吐く。
「久しぶりにご主人を独占できたな」
 未だに鳴り止まない胸の高鳴りを誤魔化すように、レイアはこの場を早急に立ち去った。
 ひとり残されたミーシャは
「今回だけだからね」
 あのとき勝負に負けた自分を悔やむのであった。


[#ここから6字下げ]
やっぱり終盤が雑……
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]86話 漆黒の騎士っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
更新速度上げたい……
今回は後書きで色々とお伝えしたいことが!
[#ここで字下げ終わり]




「ベルクさん! ベルクさん!」
 勇志が倒れているベルクを何度も呼びかけるが、起き上がる気配は全くない。
 恐る恐るステータスを覗き、状態を確認した。
 そして、同時に後悔をする。
「勇志……これって……」
「澪も……か」


 ――――解析不可。


 ベルクの状態どころか、何一つステータスを確認することができないのだ。
「一体何があったんだ……!」
 勇志は思考だけは冷静を保ちながら、ほんの少し前の異変を思い返した。


    *


「いよいよ……だね」
 昼食中、鈴がボソリと呟いた。
 たったこれだけの言葉だが、しっかり意味は通じている。
「でも、参加者って勇志だけで良かったの?」
「この中で最も強いのは勇志だ。特化型の俺たちと違い、バランス型の勇志の方が何かと対応できる」
 鈴の問いに大地が答え、そのまま話を続けた。
「出場停止のベルクさんより強いお前なら、優勝はまず確実だろうしな」
「……」
「どうした?」
「あ、いや……。すまない」
 勇志は力なく微笑み、話に加わった。
「確かにベルクさんにお墨付きはもらったけど……目的は優勝じゃないしね。出場者の中に暗黒騎士がいないか確認することが目的だよ」
「でも、やるからには優勝しなさいよね」
 大地の言葉には少しだけ語弊がある。
「私、人間最強ってどんなものか興味あるから」
 そう……この中で最も強いのは勇志ではない、ファイだ。
「だったら自分で出たらいいんじゃないか?」
「言っとくけど私、その辺の竜や上級魔族より強いわよ?」
 人間同士の戦いに精霊であるファイが加入してしまっては、話にならない。
 勇志もわかっていることなので、冗談交じりの返答に少しだけ微笑んでしまう。
 だが、その微笑みも直ぐに消え、雰囲気がガラリと変わった。
「ファイ」
「わかってるわよ。暗黒騎士が来たら私も加わるつもり。多分、魔王クラスだし」
 その雰囲気から察したのか、先ほどとは打って変わり冗談の気配など一切感じさせない重い声で返ってくる。
 そんな雰囲気が続くと思ったそのとき――――。


『――――――桁外れな力を持っていてもな!』


「ベルク……さん?」
 先程から席を外しているベルクの怒鳴り声が、全員の耳に届いた。


『じゃあなんでだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで悪魔に魂を売る真似なんてしたんだ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] まだ人間の心は残っているんだろ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]』


 今度ははっきりと聞こえる。
 明らかに普通じゃないことが誰にでもわかった。
「悪魔? 魂? 人間の心?」
「どういうことなんでしょう?」
 澪とヴェレスは揃って首をかしげた。
「とりあえず行ってくるよ。大人数で行くのもあれだし、僕が見てくる」
 勇志は焦りを隠すように早々と立ち去った。
 嫌な予感が当たらないよう、心の底から願って。


 しかし、その願いは叶うことはなかった。


    *


「息はしている……だけど」
 鈴は力一杯歯を食いしばり、苦しげに言う。
「息遣いも体温も瀕死の状態に限りなく近いわ。魔力の自然放出なんて全くないと言っていいわね」
「それって……」
「ええ。いつ死んでもおかしくないわ」
 息が詰まるとはこういうことだろう。
 重々しい空気が勇者たちを包み込んだ。
「……? 勇志?」
 この空気の中で言葉を発したのは鈴だが、注目を浴びたのは勇志だ。
 ベルクを抱き抱え、この場を立ち去ろうとしたのだ。
「どこへ行くのですか?」
「ベルクさんの部屋で寝かしてくる。別にいいよね?」
「え、ええ。問題ありませんが……」
 ヴェレスの質問に振り向きもせずに答え、一人で行ってしまった。
 残された勇者たちはその場に立ち尽くすことしかできなかった。
…………
……
……
 結局、ベルクの意識が戻らないまま武道大会当日を迎えた。
 澪と鈴は特等席から会場を見下ろし、少しだけはしゃいでいた。
 そして、澪がふとベルクの話題を口にする。
「ベルクさん、目を醒まさなかったね」
「ていうか、まだ生きていること自体すごいんだけどね」
 ベルクの意識がなくなってからかなりの日数が経つが、一向に息を引き取る気配がない。
 そのせいか、勇者たちもだいぶ余裕が出来てきた。
「やっぱり、ベルクさんをあんな状態にしたのって……」
「十中八九、暗黒騎士の仕業でしょうね」
 鈴がこう推測するのにはいくつかの理由がある。
「時期が時期だし、声が聞こえたときに戦闘を開始したとしても、あの人を短時間で無力化できる相手なんて早々いないしね」
「確かに、ベルクさんに一体一で勝てる人なんて……勇志しかいないし……」
「あのエルフを短時間で無力化できるのは、上位精霊か魔王ぐらいでしょうね」
 気が付けば、ファイが二人の背後に立っていた。
 勢いで振り返る二人だが、それを無視して話を続ける。
「つまり、暗黒騎士は魔王かそれ以上の力を持っている。あのエルフ抜きで勝てるかしら?」
 ファイは小悪魔っぽい笑みで二人に質問をする。
「……正直、負けるなら負けるでいいかもしれない」
「「え?」」
 意外な返答に、二人は目を見開く。
「だって……もう、いないから」
「……」
「……?」
 この一言で、鈴は全てを理解した。
 ファイはそうでもないようだが。
「えっと……それは前言っていた人間のこと?」
「うん。小鳥遊強斎。私の……大好きな人」
「その人間がいないから死んでもいいって言うの?」
「まぁ、そうかな」
 ファイは時々わからなくなる。
 澪は誰よりも人の命を大切に扱う人間だが、自分の命は大切にしようと思っていないように見える。
「……わからない」
 そんな感情を理解するのに苦しむファイを戻したのは、武道大会開始の合図だった。
「あ、そろそろ始まるね」
 同じような状態だった澪も、会場を見下ろして進行の流れ具合を眺めている。
「へー……。裏で予選試合なんてあったんだ」
「そりゃそうでしょ」
 そして、その予選試合で勝ち抜いた選手が次々に入場してくる。
 巨人から人型でないものまで、様々な選手が入場してくる。
 勿論、勇志もその中に含まれていた。
 そして、最後の一人が入場した時――――。


「うそ……でしょ……?」
 鈴は声に出して驚愕した。
 三人は最後に出てきた選手を凝視する。


 明らかに雰囲気の違う漆黒の騎士を。


    *


「ふぅ……」
 勇志は倒れている選手を一瞥してから、大きめの息を吐いた。
 予選試合のルールは簡単。
 グループごとに固まり、同時に闘う。
 最後に立っていた選手が予選突破だ。
 開始三十秒で二十人を超える選手を圧倒した勇志は、とあるグループの悲惨な[#傍点]結果[#傍点終わり]を見ていた。
 僅か十秒。
 勇志よりも早く選手たちを葬っていた。
「暗黒騎士……」
 ボソリと呟く。
 そう、勇志より早く予選を突破した選手は顔まで鎧で隠されている漆黒の騎士だった。
(超解析を使ってもやっぱり無駄だね……明らかな偽造だ)
 そして、漆黒の騎士はその場を立ち去っていく。
 一位と二位が本選で戦う事になるのは決勝戦しかない。
(必ず、確かめる)
 他の試合を見ることもなく、勇志も立ち去った。


[#ここから6字下げ]
漆黒の騎士の正体はいったい……?
次回もお楽しみに!


さて、知っている方も多いと思いますが、なろうコンで最終選考通りました。
その時、タイトル間違えられましたねはい
巻き込まれて異世界『転生』する奴は、大抵チートって書かれてましたね
これからもエタらないように頑張ります!
感想返しは活動報告でできる限り返したいと思います!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]87話 攻撃型の狐っぽい[#中見出し終わり]






「あいつ……強いわ」
 ファイは希に見る真剣な表情で、漆黒の騎士の戦いを眺めている。
 勇志と同じように、一瞬で試合を終わらせている。
「うん、勇志と同じぐらいに……強い」
「残念だけどそれはないわ、澪」
 鈴は盛大な舌打ちをし、理由を言った。
「あの黒騎士……今まで一回も魔術を使ってないもの」
「魔術が苦手な普通の剣士って可能性は?」
「それはないわ。あいつの剣を見てみなさい」
 ファイに従い、澪は漆黒の騎士の剣を凝視し、解析した。
 ステータスは視力等にも適応されているようだ。
「魔術強化が付属されている……ってことは」
「あの黒騎士も魔術剣の使い手ね」
 鈴は苦笑いを隠そうともせずに話を続けた。
「この大会はトーナメント制。黒騎士と勇志は端っこだったから、実際に戦うのは決勝戦になるわね」
「戦争の幕開けが決勝戦なんて……あいつが暗黒騎士だとしたら趣味悪いわね」
 ファイは鼻を鳴らし、会場に視点を戻す。
 それに続いて二人も戻し、心配する必要もない勇志の戦いを見届けるのであった。
…………
……
……
「ねぇ、緋凪」
「……」
「緋凪ってば」
「……え? あ、琴音」
 緋凪と琴音は会場の見回りをしていた。
「どうしたの? ボケっとしちゃって」
「あ、ううん。何でもない。で、どうしたの?」
 琴音は「んー……」と小さく唸る。
「いや、これといって言いたいことはないけどね。緋凪の意識が飛んでたから」
「あはは……。そんなに?」
「うん。だからどうしたのかなー? って思って」
 緋凪は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべ、口を開いた。
「ちょっとね。日本にいた頃を思い出しててさ」
「そっか」
「まだこの世界に来てから半年ぐらいしか経ってないのに、もう随分と昔のことのように思えてきてね。もし召喚されずに普通の生活をしていたら。もし私が別の学校に入学していたら。もし……強斎が生きていたら」
「……」
 ――――小鳥遊強斎。
 緋凪だけではなく、勇者全員の中心人物。
 琴音は、その人間のことをあまり好いていない。
「あの……さ」
「ん?」
「もう、強斎って人のことなんて忘れよ?」
「なんで……?」
(やっぱり、雰囲気が変わった)
 琴音が強斎を好いていない理由。
 緋凪たちの異常なまでの依存だ。
「だってさ、緋凪辛そうじゃん。その人の話をする度に気持ちを押し殺してさ。言っちゃったら悪いけど、中学の時の友達なんでしょ? もうここは地球じゃないから、そういうものだと割り切って――――」
「琴音」
 緋凪は琴音の唇に人差し指を当てて言葉を塞いだ。
「もし、琴音が死にそうなときに助けてくれた人がいるとするね」
「う、うん」
 緋凪にそう言われて真っ先に出てくるのは『コトリアソビ』の時に助けてもらった男だ。
「しばらく経って偶然にもその人と再会。だけど、その人は琴音の事を覚えていない」
「人の命を助けたのに?」
「そう、覚えていない。そして、琴音は思い出して欲しくてその人に沢山話しかける」
「まさか……」
「そう、私にとって強斎はただの友人じゃない」
「でも、それだけであそこまで依存するわけが――――」
 琴音が質問を投げかけた瞬間。
 嫌でも意識を引っ張られる程の轟音が鳴り響いた。
「今のは[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 緋凪が瞬時に武器を取り出し、周囲を警戒する。
 琴音も気持ちを切り替え、魔術による身体強化をした。
「ここまでの轟音……試合で何かあったのかな?」
「あのうるさい観客の声がピタリとやんだって事は……」
 二人は肩の力を抜いて、警戒を解く。
「「なにかあったね」」
…………
……
……
 観客の声が静まり返っている中、中央で二人の男が拳を合わせていた。
「ほう、俺と真っ向から力勝負できるとは……面白い!」
「今までの戦いじゃ準備運動にもならなかったからね。君の得意分野で勝負すれば少しは楽しめると思って」
 勇志はそんなことを言っているが、実はあまり余裕がない。
「俺の拳を拳で返してくるやつなんて……俺は一人しか知らなかったな。お前が二人目だ」
「確かに。獣人でこれほどまでの力……異常だ」
 未だに右手が痺れているが、今はそれどころではない。
(魔術剣を使えば直ぐに終わる……だけど)
 勇志にはそうしない理由があった。
 目の前に立っている対戦相手。
 金髪狐耳の獣人。
 名前は――――。
「ロア・アンジェリーク……」
「ん? なんだ?」
(冗談じゃないよ……全く)
 勇志は覚えていた。
 いや、忘れるはずもなかった。
 今まで戦ってきた中で、絶対に追いつくことができないと確信した相手。
 ミーシャ。
 そして、レイア・アンジェリーク。
 目の前のロア・アンジェリークはどう見てもレイアの親族だ。
「君に一つだけ質問がある」
「ほう、いいだろう」
 ロアは機嫌がいいのか、あっさりと了承した。
「君に……姉か妹はいたかい?」
「っ!」
 明らかな動揺を見せたロアに、更に畳み掛ける。
「レイア・アンジェリーク。聞き覚えはあるだろう?」
「お前……何が目的だ」
(やっぱり、公にできない理由があるのか)
「目的……そうだね。そのレイア・アンジェリークについて知りたい」
「? お前が姉貴の買取主じゃないのか?」
「残念だけど違うよ」
「なら……なんで姉貴の事を知っている?」
 レイアの事を訊くロアの目に、少しだけ違和感を覚えた。
(怒っている……?)
 何故ロアが怒っているのか、勇志にはわからない。
 ただ、ひとつ言えるのは――――。
「残念だけど、今の君にそれを教えることはできない」
「なっ!」
 そう、今のロアに教えたら大変なことになるということ。
 ただの直感だが、勇志はその直感に従うべきだと確信していた。
「だから、僕もこれ以上は模索しない。あのレイア・アンジェリークが君のお姉さんで、何らかの理由があって奴隷として売られたってわかっただけでも十分だ」
「お前はよくても、俺はそうもいかないんでな……。力ずくでも吐いてもらうぞ!」
 ロアは地面を蹴り、高速で勇志に近づいたが……。
「君は……お姉さんより弱いんだね」
「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 簡単に背後を取られてしまった。
「いつか、また会える事を願うよ」
「次は絶対に負けないからな」
 ロアはそう吐き捨てて、意識を絶った。
「ふう……」
 試合終了の合図を聞きながら、勇志は倒れているロアを一瞥した。
(どこの世界でも、弟は姉に勝てないものなのかもね)
 ロアのステータスを再度確認し、勇志はその場を去った。

ロア・アンジェリーク
LV80
HP 二四〇/二二〇五
MP 三二二/三二二
STR 二五二〇
DEX 一二二
VIT 一三四
INT 一一九
AGI 五九三
MND 九七
LUK 四五
スキル
攻撃力異上昇
剣術LV11
体術LV14
威圧LV5
HP自動回復速度上昇LV5
属性
攻撃型(ユニーク)



[#ここから6字下げ]
急いではいけないと思った末に出てきた新キャラ
琴音たちが聞いた轟音は二人の拳がぶつかり合う音です。
表現難しい……
てか、このタイミングで出してよかったのか……?
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]88話 再会っぽい[#中見出し終わり]






「くっ……!」
 勇志は目の前に立つ人物から一旦距離をとり、剣を構え直す。
 予定よりかなり早い決勝戦。
 勇志VS漆黒の騎士だ。
 そして、この決勝戦は今までのどの試合よりも長く、熱い戦いになっていた。
「はぁ……はぁ……」
 勇志は既にステータス上昇の剣を握っている。
 それでも、確実に押され始めていた。
 自らのステータスを確認するが、苦笑しか出てこない。
 実力差など、数値を見るまでもなくわかっていた。
 勇志は少しでも時間を稼ぐために口を開く。
「漆黒の騎士……君は……」
 雑談でもしようか?
 そんなことを考えながら、とある質問を投げかける。
「小鳥遊強斎を知っているか?」
 この質問の答えによって、どうやって戦うかが変わってくる。
 殺す気でいくのか否か。
 そして、漆黒の騎士が明らかな動揺を見せた。
 この反応は――――黒だ。
「知っているんだね?」
「……」
 漆黒の騎士は無言を通すが、勇志はそうはいかない。
 段々とこの相手が暗黒騎士という可能性に近づいてきた。
 そう思っていると、柄を握る力が強くなる。
 若干呼吸も乱れ始めたので、大きく息を吐いて整えた。
(やっぱり、こいつが暗黒騎士なのか……?)
 装備と雰囲気、強さからして暗黒騎士で間違いないだろう。
 しかし、直感がそれを否定している。
 恐る恐る勇志は口を開いた。
「君が……暗黒騎士なのか?」
「……」
 親友を殺したかもしれない紛れもない『敵』。
 その『敵』に最も近い、漆黒の騎士は無言のまま剣先を勇志に向けた。
 そして……。
「くっ!」
 勇志がギリギリ反応できる速度の斬撃を繰り出し、更に追い討ちをかける。
 勇志も魔術を駆使して対抗するが、それでも互角に近いだけだった。
(もし、あいつが魔術剣を使ってきたら……)
 考えるだけでもぞっとする。
 勇志は相手が魔術剣士ということは知っていた。
 そして、完全に遊ばれているということも。
「君の実力なら簡単に僕に勝てるだろ? なんでそうしないんだ?」
「……」
(無言……か)
 どうにかして性別だけでも知ろうとしたが、それも難しいようだ。
 こうしている間に、勇志のMPはどんどんと減っていく。
(しょうがない……こうなったら!)
 勇志は力強く剣を振り、同時に一定の距離を取った。
 そして……。
「『限界突破』」
 今の勇志が一日に『限界突破』を使える回数は三回。
 そのうちの最初の一回を今使ってしまった。
「今までのようには……いかせない!」
「……」
『限界突破』を使った勇志の平均ステータスは五千を軽く超えている。
 明らかに人間を超越していた。
「……!」
 漆黒の騎士も勇志の変化に驚愕しているようだった。
 少しだけ後退り、その一瞬を逃さず勇志は瞬時に懐に潜り込む。
「しっ!」
 先ほどとは比べ物にならないほどの強烈な横薙ぎ。
 漆黒の騎士は何とか受け止めるが、体制が崩れて反撃できそうにない。
 立て続けに斬撃を繰り出し、遂に鎧に攻撃が当たった。
「まだまだ!」
 後方に飛ばされた漆黒の騎士に立て直す隙は与えまいと、出来る限り早くそして強く攻撃を繰り出す。
 漆黒の騎士は防戦一方だ。
(これなら……いける!)
 そして、漆黒の騎士の防御が破れ、懐がガラ空きになった。
「そこだ!」
 今までで一番力を込めた一閃を胴体に切り刻んだ。
 漆黒の騎士が大きく後方に吹っ飛ぶ。
(本来ならば即死……だけど、漆黒の騎士はこの程度じゃ気絶すらしない……)
 勇志の考えは当たっていた。
 飛ばされた漆黒の騎士は今にでも立ち上がろうとしている。
 勇志は漆黒の騎士に近寄り、更に畳み掛けようとするが……。
「くっ……」
「……え?」
 声を――――聴いてしまった。
 その途端、勇志は攻撃を中断する。
「流石、本物の勇者というべきか」
「お……んな……の子?」
 漆黒の鎧から発せられる声は紛れもなく女性の声だった。
 これは流石に動揺せざるを得ない。
 漆黒の騎士はゆっくりと立ち上がり、剣を構え直す。
「私も甘く見ていたよ。人間とはいえ、これほどまでに強いとはね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
『限界突破』の時間が限られているはずだが、勇志はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「君は暗黒騎士なのか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ああ、先ほどの質問か? いいだろう。中々に楽しめたから答えてやる」
 漆黒の騎士は剣を鞘に戻し、腕を組んだ。
 勇志も同じく鞘に戻し、『限界突破』を解除した。
「私は暗黒騎士などではない。それに暗黒騎士など聞いたこともないな」
「じゃあ、なんで『漆黒の騎士』なんていう名前で参加しているんだ……?」
「見た目通りだろ?」
「……」
 あまりにも簡単な理由だったので、一瞬だけ思考回路がフリーズしてしまった。
 だが、直ぐに立ち直って次の質問をする。
「だ、だけど。君は強斎の事を知っているようだったじゃないか?」
「それは私のセリフだ。なぜお前がキョウサイ・タカナシを知っている」
 質問に質問で返された勇志は戸惑ってしまう。
 それを黙秘と判断したのか、漆黒の騎士は話を続けた。
「まぁいい。キョウサイ・タカナシ……あいつは――――」
 漆黒の騎士が話そうとした瞬間。
 観客が一斉に騒ぎ始める。
「なんだ? 戦いをしていないことがそんなにもおかしいのか?」
「いや、違う。ちょっと上を見てごらん?」
 勇志は上空を指差し、冷静に現実を口にした。
「ドラゴンだ」
「……しかも、上位種三体ときたか」
 竜がこの辺りを迂回しているなんて前代未聞だ。
 こうなってしまっては、試合どころではなくなってしまう。
「勇志!」
 観客が逃げていく中、一人の男が勇志のもとに駆けつけた。
「やあ大地。他の皆は?」
「全員こっちに向かっている。それより……」
 大地は漆黒の騎士を睨みつける。
 勇志はそれだけで何が言いたいのかを察した。
「ああ、大丈夫だよ。そこの人は暗黒騎士じゃない」
「そうなのか……? なら、なんでそんな鎧を……」
「同じ質問は受け付けない」
 大地はその声に勇志と同じような反応を見せた。
「なっ、女[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「……同じ質問は受け付けない」
 顔は隠れているが、雰囲気からして呆れているのがわかる。
 そして、漆黒の騎士は空を仰いだ。
「それで? お前たち勇者はどうするつもりだ?」
「戦うよ……。多分、これが戦争の始まりだから」
 漆黒の騎士の問いに、勇志は剣を抜きながら答えた。
 一応大地も見るが、戦う気満々のようだ。
「面白いな。お前たちは」
 漆黒の騎士はそう呟いてから一歩前に出て、力強く地面を踏みつけた。
 すると、漆黒の鎧が音を立てて崩れ落ちる。
 そして、漆黒の騎士の正体があらわになった。
「「[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」」
 勇志と大地は驚愕していた。
 いや、見とれていたと言ったほうが適切だろう。
 腰まで届く白髪、健康的な肌に適度な大きさの胸。
 先程の漆黒とは対照的な純白のワンピース。
 目の色は碧く、唇も水々しい。
 一生に一度お目にかかれるかどうかの美少女だった。


「ふぅ、やはりこちらのほうが落ち着くな」
 鎧を脱いだ途端、元漆黒の騎士の魔力が桁外れに跳ね上がった。
 彼女は剣を持ち、微笑気味に勇志たちを一瞥する。
「私に見とれるのはいいが、戦いも見ていてくれよ?」
 二人が無言で頷いたのを確認すると、彼女は剣を地面に突き刺した。
 すると次の瞬間、彼女に大きな異変が起こった。
「人間にこの姿を見せるのは……久しぶりだな」
 彼女に起きた大きな異変……それは。
「天……使?」
「ふふっ、ご明察」
 純白に純白を重ねがけた様な純白の羽が生えていたのだ。
 先ほどの漆黒など、どこにも匂わせないような完全な白だ。
「天使ヴァルキリー。お前たち勇者と一時的に共闘する!」
 そう高らかに宣言すると、ヴァルキリーは竜の元に飛んでいった。
 明らかに先ほどとは違う動き。
 今の彼女には絶対に敵わないと実感させられる。
 大地は崩れ落ちた鎧の一部を拾い上げ、目を見開く。
「この鎧は……リミッターだったわけか」
「そうみたいだね」
 勇志の態度は鎧などどうでもいいといった感じだ。
 今はヴァルキリーの戦いを見たいというのが本音だった。
「やっぱり、魔術剣使えたんだ……」
 勇志は苦笑いを隠そうともせずに、素直な感想を述べた。
 かなり軽装になったが、竜の上位種三体を圧倒する程にヴァルキリーは強く美しい。
 ヴェレスという存在がいなければ、確実に一目惚れしていただろう。
 勇志がそんなことを考えているうちに三体の竜を地上に落とし、ヴァルキリーは勇志達の下に帰ってきた。
 しかし、ヴァルキリーの顔はどこか浮かない。
「どうしたんだい?」
「おい勇者、さっきの答えの続き。聞きたいか?」
「質問……?」
「ああ、キョウサイ・タカナシについてだ」
 隣にいる大地が眉間にしわを寄せる。
「どういうことだ」
「大地、君には後で説明する。それで? 強斎がどうしたの?」
 雰囲気からして、今の彼女は相当焦っていた。
 ヴァルキリーは盛大な舌打ちをし、勇志たちに背を向ける。
「あいつは……神々の敵だ」
「……? それってどういう――――」
 勇志が質問を投げかけた瞬間、急に辺りが暗くなる。
 ヴァルキリーを見ると、力強く歯を食いしばって上空を見ていた。
 勇志もつられて空を見ると……。
「……」
 ヴァルキリーが倒した竜とは桁違いに巨大な竜が、ゆっくりとこの会場めがけて降りてきた。
 そんな竜から、ひとつの影が飛び降りる。
 三人は武器を構えて、その影の様子を見ている。
 だが、そのうちの二人……勇志と大地は武器を落としてしまった。
「おい! 何をやっている! 早く武器を構え直せ!」
 ヴァルキリーが叫ぶが、二人の耳には全く入ってこない。


 それもそうだろう――――。


「まさかドラゴン三体がこんなに早く倒されるなんてな」


 その影の正体は――――。


「あー……。ヴァルキリーいんのかよ……」


 もう二度と会えないと思っていた――――。


「俺達の再会には豪華すぎるゲストだな」


 もう一人の地球人――――。




「久しぶりだな。勇志、大地」
「「強斎……[#縦中横]!![#縦中横終わり]」」




 ――――――小鳥遊強斎だったのだから。


[#ここから6字下げ]
ついに……ついにここまで来ました!
新キャラのヴァルキリーの登場と共に、待ちに待った再会!
勇志君! 君にはヴェレスがいるんだ! 浮気はすんなよ! (強斎見ながら
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]89話 再会っぽい2[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
ギリギリ一週間投稿[#縦中横]!![#縦中横終わり]
一度書いて全て消したから間に合わないと思ってました、はい
[#ここで字下げ終わり]




「勇志、大地。元気にしてい――――」
「キョウサイ・タカナシ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 覚悟しなさ――――きゃああぁぁぁ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 強斎が喋っている途中にヴァルキリーは斬りかかったが、胸を揉まれて阻止されてしまった。
 ヴァルキリーは咄嗟に後ずさり、これでもかというほどに強斎を睨みつけた。
 強斎はそんな目線を鼻で笑い飛ばし、再度口を開く。
「勇志、大地。元気にしていたか?」
「ちょっと[#縦中横]!![#縦中横終わり] 無視するんじゃないわよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 感情が高ぶっているからか、ヴァルキリーの口調が少しだけ女の子らしくなる。
 右手に剣、左手で胸を隠しながら胸を張る。
「ここで私と出会ってしまうなんて、あなたも不幸な男――――」
「ヴァルキリー」
 強斎はゆっくりとヴァルキリーに近づき、そっと左手をとる。
「お前のそういうとこ。俺は好きだぜ?」
「なななななんてことを言うの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 ヴァルキリーは顔を真っ赤にして、目を泳がしていた。
 強斎はそんなヴァルキリーを見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「だからな、ヴァルキリー」
「っ……」
「少しの間、竜王と遊んでてくれないか?」
「……え?」
 ヴァルキリーが戸惑った瞬間、強斎はとっていた左手を握り締めて……。
「竜王! しばらくこいつと遊んでてくれ!」
『承知した』
 降りてくる巨大な竜目掛けて投げ飛ばした。
 竜王と呼ばれた竜は、器用にもヴァルキリーをキャッチする。
「キョウサイ・タカナシ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 絶対……絶対に殺すからなああぁぁぁぁぁぁぁ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「おう、また遊んでやるよ」
 強斎は去っていく竜王に手を振って、勇志たちの方へ向き直った。
「強斎……ヴァルキリーと知り合いだったの?」
「まぁ、最近色々あってな……」
 強斎と勇志は互いに笑い合い、そして……。
「生きててよかった……本当に……」
「心配かけちゃったか?」
「当たり前だバカ野郎」
 後ろから大地のチョップが、軽く強斎の頭に繰り出される。
「俺と勇志にもそうだが……まず先に――――」
「強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり][#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 大地が何かを言い終わる前に、弾丸のような速さで人が強斎目掛けて飛んできた。
 強斎はそれを軽く避ける。それにより、飛んできた人は地面にダイブする形になってしまった。
 だが、その人はむくりと立ち上がり……。
「強斎ーーーー[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 そう叫んで、また強斎目掛けて飛んできた。
 だが、またもやそれを避ける。
「ぐえっ」
「……」
「……」
「……」
「なんで避けるのぉ[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「なんか怖いからだよ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎は盛大なため息をつき、二度も地面にダイブした人に手を差し伸べる。
「大丈夫か? 澪」
「強斎……強斎[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 澪は差し伸べられた手を掴むのではなく、強斎の胸に飛び込んだ。
 今度は強斎も避けることなく、しっかりと受け止める。
「生きてた……! 強斎が生きてた[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「ははっ、そう簡単に死んでたまるか」
 鈴とヴェレスもこの場にきたが、何も言わずに見守っている。
「ずっと……ずっと会いたかったんだよ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんで直ぐに戻ってきてくれなかったの[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「すまないな」
「嫌……絶対に許さないんだから」
 澪は絶対に離さないと言わんばかりに力強く抱きつく。
 強斎も、澪の頭をそっと撫でた。
「強斎……強斎……」
「……」
「強斎……私の……強斎……」
「……ん?」
「強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎強斎」
「怖い怖い怖い怖い[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎は澪から離れようと後ろに下がるが、澪は一向に離れようとしない。
「はぁはぁ……強斎の匂い……うふふ……うふふふふ……」
「おい! 誰か! 誰か澪を止めてくれ[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 強斎がジタバタと動くが、全く離れる気配はない。
 勇志たちも一定以上の距離をとってしまっている。
 そんな時、澪の動きがピタリと止まった。
「ねぇ、強斎」
「な、なんだ?」
「女の人の匂いがするんだけど」
「え? マジで? ちゃんと匂いもとれてると思ったんだが――――あ」
 その場にいた全員が感覚的に理解した。
 これ以上はやばいと。
「ど・う・い・う・こ・と・か・な?」
「落ち着け、落ち着くんだ。話せばわかる。な?」
「そうね、直接確かめるのが一番いいよね」
「おいやめろ! 下を脱がそうとするな!」
「なんで? なんで抵抗するの? ねぇ、なん――――」
「はい、ストーーップ」
 鈴が杖で澪の頭を強く殴った。
 状態異常でも付属させたのか、澪はその一発で気絶してしまう。
 この時ばかりは鈴が天使にしか見えなかった。
「助かったぜ……鈴」
「その前に言うことがあるでしょ?」
 強斎はキョトンとしたが、直ぐに笑みを取り戻した。
「ただいま」
「ええ、おかえり。また会えて嬉しいわ」
 鈴はそう言うだけで、特に何かを話したりはしなかった。
 気絶した澪を引きずり、ヴェレスと場所を入れ替わる。
「王女様も。久しぶりだな」
「キョウサイさん……本当に、申し訳ございませんでした[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 ヴェレスは深々と頭を下げ、できる限りの謝罪の意を伝える。
「キョウサイさんが転移させられた原因である転移石は、私が作ったものなんです!」
「そうか。で、あの時の兵士はどうなった?」
「え? あ……。あの時、キョウサイさんを転移させた兵士は他国のスパイでして、お父様が直々に処刑いたしました」
「そうか。ならいい」
 強斎はヴェレスの頭に手を置いて、綺麗な金髪がグシャグシャになるほど撫で回した。
「キョウサイさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「王女様さ、まだ俺たちより若いんだろ? 自分が一国の王女だからって、そんなに責任を感じていたら身が持たんぞ?」
「ユウシさんと……同じ」
「ん?」
「い、いえ! それと、私は王女ではありません。ヴェレスとお呼び下さい」
「そっか、よろしくな。王女様」
「人の話聞いてました[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「いや、だって王女にはかわりないんだろ?」
 ヴェレスは少しだけ苦笑い気味にその質問に答える。
「ああ、いえ。本当に王女ではなくなったんですよ。私自ら望んでドレットの名を捨てました」
「それ、大丈夫なのか?」
「はい、お姉様がいますし。それに……」
 ヴェレスは勇志をチラッと見て、顔を赤くした。
 強斎はそれだけで何が言いたいのかを察した。
「勇志はいいやつだが、いいやつ過ぎて人に騙されやすいところがある。ちゃんと見ていてくれよ?」
「え? あ……え[#縦中横]!?[#縦中横終わり] なんでわかったんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
(自分が顔を赤くしていることに気づいていないのか……)
 強斎がそんなことを思いながら苦笑いしていると、勇志が口を開いた。
「強斎、そろそろ君に聞きたいことがある」
「なんだ?」
「まず一つ目、君は『ショクオウ』という名で冒険者をしていて、『暗黒騎士』に殺された……なのに、なんで生きているんだ? 二つ目、さっき竜王って呼んだ竜から飛び降りてきたよね? 竜王とはどんな関係なの? 最後に――――君が神々の敵……それは本当かい?」
 強斎は少しだけ驚いてから、小さく笑い始めた。
「強斎……?」
「いや、すまない。まさか、お前がそこまで見ていたなんてな」
 強斎はそう言いながらロングコートで隠れていた刀を取り出した。
「実はな。俺はお前たちと戦いにきたんだ」
 随分とあっさりした告白に、全員が戸惑いを隠せなかった。


[#ここから6字下げ]
澪ちゃんがヤンデレ化してきた気がする。
今回も走り過ぎちゃったかな……?
緋凪ちゃん! 早く来て!
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]


[#3字下げ][#中見出し]90話 勇者と魔王っぽい[#中見出し終わり]


[#ここから6字下げ]
そろそろ感想返しの活動報告書かないと……
[#ここで字下げ終わり]




「強斎と……戦う?」
「ああ」
 勇志は初め何かの冗談かと思ったが、それはないと直ぐに確信する。
 強斎の雰囲気から……敵意が感じられたのだから。
「お、流石にわかったか」
「……どうして」
 勇志は油断なく剣を構える。
 その仕草に、周りの人たちが驚愕した。
「ユウシさん[#縦中横]!?[#縦中横終わり] どうしたんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
「ヴェレス……いや、皆。少しだけ離れててくれないか?」
 ヴェレスは何か反論しようとするが、鈴に止められる。
「リンさん……?」
「大人しく勇志に従いましょう。[#傍点]今は[#傍点終わり]」
 大地と鈴は気が付いていた。
 強斎から、魔物と同じ敵意が放たれている事に。
 ヴェレスは気絶している澪と一緒に、会場の観客席に移動する。
 それを確認した勇志は、もう一度口を開いた。
「強斎。質問に答えてほしい」
「どうして戦うのか? だろ?」
 勇志ははっきりと頷く。
「この距離だったら僕以外には聞こえないだろう。遠慮なく言ってみて」
「はっ。お前たちのステータスなら、聞こうと思えば聞けるだろうが」
「つまり、あまり聞かれたくない内容なんだね?」
「……ふっ、ふはははっ[#縦中横]!![#縦中横終わり] 流石だ。流石だよ。昔と何にも変っていない」
 強斎は愉快に笑いながら、勇志を褒め称える。
「違うね。僕も、君も……。あの日から変わってしまった」
「そういえばそうだな……だが、今はその話をしにきたんじゃない」
 強斎は懐から一冊の本を取り出す。
「それは?」
「その質問に答える前に、俺の質問に答えろ」
 先程の笑みが幻だったと感じる程の冷たい視線。
 勇志は堅唾を呑み、強斎の質問を待つ。
「お前は、元の世界……日本に帰りたいか?」
「……え?」
 強斎からの質問に唖然となる勇志。
 それはもう既に諦め、考えることを止めていた内容だった。
「勇志。お前は、この世界で得たもの全てを捨ててでも元の世界に帰りたいか?」
「どういう……意味?」
「そのままの意味だ。この世界で学んだ事、手にした友情恋情、記憶のすべてを消してでも帰りたいのか。その答えを聞いている」
「それは……」
 勇志は考える……なんてことはしなかった。
「ごめん強斎。その質問の答えは……ノーだ」
「ほう。理由を聞こうか」
 何故か嬉しそうな強斎には気を留めず、勇志は口を開いた。
「簡単なことだよ。この世界こそ、僕[#傍点]たち[#傍点終わり]がいるべき世界だからだよ。確かに、親にも友達にも心配をかけているかもしれないし、やりたいことだっていっぱいあった。でも、僕は帰らない。本能が言っているんだよ『この世界こそお前の生きていくべき世界だ』ってね。姉さんが生きていたらどうだかわかんないけどね。それに、僕は決めたんだ。僕はヴェレスと結婚する。この気持ちを伝えずにヴェレスとお別れなんて、絶対に嫌だね」
 強斎は唖然としていた。
 姉の事を出したのもそうだが、あの勇志が女性に対してここまで想うことなんて、今までに見たことないのだから。
 いや、一人だけ知っているがそれについては勇志も触れてほしくないだろう。
「これが僕の帰らない理由。どうかな? 満足した?」
「……そうだな。納得のいく答えだ」
 強斎は持っていた本を勇志に投げ渡した。
「読んでみろ」
 勇志は器用にも片手でキャッチして、本を開いた。
 そして、目を見開き驚愕する。
「日本語……[#縦中横]!?[#縦中横終わり]」
 この世界にきて初めて見る文字。
 だが、勇志にとって最も馴染みのある文字。
 日本語で書いてある物語だった。
 ページをめくるごとに、本を支える手に力が入る。
 それが怒りなのか恐怖なのか、強斎にはわからない。
 ただ、内容からしていい気分では無いことがわかる。


 遠い昔、一匹の悪魔がいた。
 悪魔は力こそ強大だったが、気が弱かった。
 そんな悪魔と一人の人間が出会った。
 人間は勇者と名乗り、悪魔を討伐しにきたのだ。
 悪魔は必死に逃げ回るが、人間も負けじと悪魔に斬りかかる。
 逃げるのに疲れた悪魔は人間に攻撃し、殺した。
 その日から悪魔は魔王になった。
 魔界で最強の称号を手に入れた魔王に、また勇者と名乗る人間が現れた。
 魔王は勇者を圧倒し、手を差し伸べた。
 聞けば、その人間は最初に討伐しにきた勇者の子孫だという。
 魔王は戦いが嫌いだ。
 勇者も戦いが嫌いだ。
 願いが一致した魔王と勇者は、手を取り合い、世界を平和にしていく。
 次第に人間界と魔界も仲良くなり、互いに望む平和が叶おうとしたその時。
 神が天空より舞い降り、手当たり次第に破壊しつくした。
 勇者と魔王にも手が負えない神は、笑いながらこう言った。
「人間と魔物は和解などできない。未来永劫憎しみ合うだろう」と。
 その言葉はまるで呪いのようだった。
 人間は神を称え、魔物を憎む。
 魔物は神を称え、人間を憎む。
 だが、勇者と魔王は無事だった。
 それをよく思わない神は、二人をこの世界と別の世界に飛ばすことにした。
 飛ばす際に、神は呪いの言葉を口にする。
「お前たちの子孫は必ず戦うことになる。その時、勝った方に私を討伐する権利をやる」と。
 そして、勇者と魔王は別世界へと姿を消した。


「なんだよ……なんだよ……これ!」
 勇志は本を閉じずに、そのまま強斎に投げつけた。
 強斎は本を閉じながらキャッチして、そのまま懐にしまう。
「強斎……まさか、戦争する理由って……!」
「ああ、そのまさかだ」
 強斎は刀の先を勇志に向けて不敵な笑みを浮かべた。
「勇志、お前が元の世界に帰らない理由を言った時。この世界こそ、自分『たち』がいるべき世界って言ったんだぜ?」
「っ!」
「わかってんだろ? その言葉の意味を」
「だけど……僕は戦いたくない! 戦う意味なんてどこにも――」
「あるんだよ」
 強斎は勇志の言葉を遮り、ゆっくりと口を開く。
「俺はこの世界の神に用がある。それと、お前がこの先戦っていけるのかどうか……真の勇者なのかどうかを確かめるためにもな[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 そう宣言すると、強斎は遠くにいるヴェレスと目を合わせた。
 すると、ヴェレスがゆっくりと宙に浮く。
(王女様。聞こえるか?)
(キョウサイさんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 私、なんで空飛んでるんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
 更にヴェレスは上昇し、一〇メートルぐらいまで高く浮いていた。
(え、ちょっ! 私高いところダメなんですよ[#縦中横]!![#縦中横終わり])
(あー、ちょっと落ち着いてくれ)
 ヴェレスは空中でジタバタしてどうにか降りようとする。
 勇志にはそれが苦しんでいるように見えてしまった。
「強斎! ヴェレスに何をした[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
「……」
 強斎はヴェレスと『念話』をしているためか、勇志の言葉は耳に入ってきていない。
(ヴェレス。よく聞いてくれ)
(聞いたら降ろしてくれますか[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
(あー……。今からお願いすることに従ってくれたらいいよ)
(わかりました! 早く要件を!)
 本当に高いところが苦手なんだろう。
『念話』からも焦りが伝わる。
(今から少しだけ眠ってもらう。気がついたら見知らぬ場所にいるが、大人しくそこで待っててくれ)
(見知らぬ場所ですか……? 私、大半の国には行ったことありますよ?)
(そうか、神界にも行ったことがあるとは驚きだな)
(え? えええええ[#縦中横]!?[#縦中横終わり] ちょっと待ってください[#縦中横]!![#縦中横終わり] 私、神界に行くんですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり] 何でですか[#縦中横]!?[#縦中横終わり])
(行けばわかる。じゃあ、そろそろ飛ばすぞ)
(そんな、心の準備が――――)
 強斎は隣でこれでもかと睨んでいる勇志を一瞥すると、指をパチンとならした。
 そして――――。
「あ、ああ……[#縦中横]!![#縦中横終わり]」
 勇志の目の前でそれは起きた。


 ――――ヴェレスが急激に膨れ上がり、破裂した。
 まるで、上空に巨大な花が咲いたような。
 赤く、綺麗な花が。


「さて、これでお前にも戦う理由ができただろ?」
「……」
 勇志は答えない。
「ついでに言うが、あれは俺がやった。俺がヴェレスを『この世界』から消した」
「……」
 勇志は答えない。
「見せてみろよ。お前の力を。真の勇者の力を」
「……」
 勇志は答えない。
「はっ、怖気づいたか? これじゃあ、なんのためにヴェレスが犠牲になったんだろうな」
「……………………」
 勇志は――――――――。


[#ここから6字下げ]
さて、これで繋がった……はず。
おかしいと思ったら直すか次話で付け加えます←
辛うじて鈴が出てきているだけで、後は空気と化してますね。はい
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから地付き][#小書き](本を読み終わりました)[#小書き終わり][#ここで地付き終わり]
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