日经春秋 20150921

「オカアサンカツタ」。76年前、69連勝中だった横綱双葉山に勝った前頭安芸ノ海は故郷広島にすぐに電報を打ったそうだ。ラジオ中継していたアナウンサーは「確かに負けましたね」と確認してから「双葉敗れる」と絶叫している。いかに番狂わせだったかがわかる。

▼のどかな日曜の朝に飛び込んできたラグビーの大金星の知らせもそれに近い。へえ、日本が勝ったのか。あれ。ええっ。そんな、まさか。うそだろ。バンザイまでにかなり間のあった方が多かったのではなかろうか。相手はワールドカップの直近５大会で２回優勝の南アフリカ。日本の同大会での勝利は24年ぶり２回目だ。

▼選手はすぐに家族や友人と連絡を取り合ったに違いない。「お母さん、勝った」と伝えたい気持ちはいつの時代も同じはずだ。ラグビーはその国に３年以上住めば代表になれる。だからチームには日本国籍ではない選手が結構いる。お祝いが日本語や英語で入り乱れて書き込まれた彼らのＬＩＮＥを想像すると楽しくなる。

▼「勝って褒められるより、負けて騒がれるようになれ」。興奮する安芸ノ海に師匠はこんな話をしたそうだ。その言葉を糧にして安芸ノ海は３年後、横綱に昇進した。スコットランドなど強豪と対戦が続く日本代表にも「あれは番狂わせではなかった」と世界に言わせる戦いを期待したい。４年後のＷ杯は日本開催である。