日经春秋 20151027

トルコという国の名を聞き、思い出すものはなんだろう。最近では露店やイベント会場で、陽気に売られる肉料理のケバブや粘りのあるアイスか。中国などとともに世界３大料理の一角を占める。旅行好きなら、奇岩や地下都市が圧巻の世界遺産カッパドキアだろうか。

▼1890年、和歌山県沖で遭難し約590人が犠牲になった軍艦エルトゥールル号への救援活動は、両国の絆を示す出来事として今も語り継がれる。小説や落語にもなり、年末には映画も公開予定だ。そんな親日的な国民が、今年２度目の総選挙の投票で都心に集まって起こした乱闘騒ぎは、衝撃的映像で全国に伝わった。

▼トルコはイスラム教国ながら、ＮＡＴＯ（北大西洋条約機構）の一員で、欧米に近い。しかし、内では少数のクルド系の人が分離・独立を求め、外では過激派「イスラム国」（ＩＳ）が攻勢を強める。隣国シリアから多くの難民も押し寄せた。エルドアン大統領は、強権的な政権運営で局面を乗り切ろうとしているらしい。

▼６月の総選挙後、トルコ軍がクルド系組織を空爆した。さらに、100人超が死亡した10日のテロも犯人や意図が不明で、クルド系とそれ以外のトルコ人の不信の高まりが都心での騒動になったのだろう。無論、乱行はごく一部の仕業で、大半は国を思い、静かに票を投じた。政治参加の真摯な熱意の先こそを見守りたい。