日经春秋 20151117

フランスとトルコの時差は１時間。パリで同時テロが起きた13日の午後９時すぎは、イスタンブールでは夜10時すぎだった。そのときイスタンブールにいた安倍晋三首相は、何を考えただろうか。記者団の前にあらわれて凶行を非難したのは、一夜明けてからだった。

▼安倍首相のほかにも、緊急の声明やオランド仏大統領への電話などで、犠牲者への哀悼やフランスへの連帯を表明する首脳が相次いだ。米国のオバマ大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席……。英国のキャメロン首相はツイッターを使った。「われわれの思いと祈りはフランスの人たちとともにある」

▼多くの首脳たちが深刻に受け止めたのは想像にかたくない。２日後にトルコで始まった主要20カ国（Ｇ20）首脳会議に加え、今週から来週にかけて世界の各地で重要な国際会議が続く。オランド大統領がＧ20首脳会議に出席するのをとりやめたほか、イランのロウハニ大統領も外遊の日程を変更するなど影響が出ている。

▼とりわけ心配なのは、イスラムを敵視するようなムードが広がることだ。中東からの難民問題に揺れる欧州では、受け入れに反対する声が高まっているという。文化や文明の違いを衝突でなく対話でどう乗り越えていくか――。安倍首相をはじめ世界の首脳たちが一連の国際会議で問われるのは、実に大きな問題である。