日经春秋 20151122

　「大卒エリート」対「現場のたたき上げ」。昭和の大相撲を彩る「輪湖時代」には、そんな意味合いもあった。大学相撲から角界入りした輪島。そして中学生力士として13歳で三保ケ関部屋に入門した北の湖。両雄の対決はそれぞれに肩入れするファンたちを沸かせた。

▼その北の湖・日本相撲協会理事長が20日、62歳で急逝した。17歳で新十両、19歳で新三役、21歳で横綱昇進と最年少記録を更新し続けた。引退は31歳。現在の両国国技館が落成した30年前の初場所でのことだ。すでに体力は衰えており、自分も周りもそのことをわかりつつ、横綱の責任を果たすべく真新しい舞台に立った。

▼初日は天覧相撲。かつて無敵と呼ばれた横綱は若い旭富士にあっけなく敗れた。昭和天皇が「大丈夫なのですか」と春日野理事長（当時）に尋ねたと本紙記事にある。翌日も連敗し引退を決めた。「憎らしいほど強い」と言われ続けた北の湖だが、引退会見では「肩の荷がおりた気持ち」と語った。正直な心境だったろう。

▼土俵では憎まれ役を務めたが実は気配りの人で、相撲も頭脳プレーが特徴だったそうだ。晩年は病に悩まされながら、理事長として不祥事への対応や角界再生に追われた。最近は女性の相撲ファンが増えるなど、少なくとも人気という点では一時の低迷を脱しつつある。頼れるリーダーが欠けた穴を、角界は埋められるか。