日经春秋 20151207

オリンピックとパラリンピック、市場規模や経済効果が大きいのはどちらか。おそらく前者と考える人が大半だろう。開催期間中のテレビでの取り上げられ方も、明らかにオリンピックが中心だ。障害者スポーツの選手の多くが資金や練習場所に悩んでいる現状もある。

▼しかし現在、パラリンピックの位置は大きく変わりつつある。評論家の宇野常寛さんが編集長を務める雑誌「ＰＬＡＮＥＴＳ」最新号で、そう知った。誌面では若手の技術者やデザイナーたちが、５年後の東京で開かれる２つの競技会へ斬新な提案を次々に披露する。かなりのページを割くのがパラリンピックの可能性だ。

▼重りを腕で持ち上げるベンチプレスという競技では、体重によっては障害者の世界記録が健常者を上回る。義肢などをつくる技術の急速な発達もあり、障害者の出す記録は一般のスポーツ選手にぐんぐん迫っている。補助具の使用を前提に、健常者や障害者、高齢者などが交ざって競うスポーツを考えようとの案も面白い。

▼世界の頂点を競うパラリンピックのために考案される義手や義足、車いすなどの技術は、いずれ街の障害者、高齢者が使う生活器具の水準も上げていく。当面はゆとりのある先進国の話だとしても、将来は新興国や途上国の人々にも役立つ。ものづくりの技術を持ち、経済力もある日本が役割を果たすべき分野ともいえる。