日经春秋 20151221

就職活動にまつわる噂の中でも「名作」のひとつに、あるビール会社の話がある。面接官の質問に一切答えない男子学生が、最後にひと言「男は黙って××ビール」。その会社が流していたＣＭのキャッチコピーを唱え、内定を得たというものだ。真偽は定かではない。

▼電機メーカーのシャープにも就活を巡る噂がある。「君の長所は」と聞かれ、ＣＭをもじり「目の付けどころがシャープです」と答える学生が続出――。こちらも真偽はともかく、それだけＣＭが好感され、しゃれが通じて明るい先端的企業というイメージがあったともいえる。そのシャープの経営が苦境に陥って久しい。

▼主力事業の分社化や売却の可能性が報じられている。記事に人員整理の言葉が躍る。電機業界では東芝も会計不祥事を機にテレビ事業の縮小や人員削減を進めるようだ。クリスマスで街が浮かれる中、不安に過ごす従業員と家族を思うと胸が痛む。両社が画質のきれいなテレビで一世を風靡していたのは、つい先日の話だ。

▼「キレイなものより、キレイになれるものが欲しい」。パナソニックは今、こんな広告を前面に掲げる。売り込むのは高機能ドライヤーや美顔器などの美容家電だ。市場は急成長し、美しさへのこだわりから値崩れもしにくい。同社はかねてこの分野に力を入れ業績回復にも生かした。先を読む目の大切さを改めて感じる。