日经春秋 20160308

のちに米大統領に就くロナルド・レーガンがカリフォルニア州知事になった際、就任式は真夜中の午前０時10分に始まった。占星術に凝っていたナンシー夫人が星の運行表を読み、最も縁起のよい時刻を選んで決めたのだそうだ（枝川公一著「大統領はアメリカン」）。

▼こうした習慣はホワイトハウスに入ってからも続き、「例の壁の中のあの人」とあだ名された夫人によって米ソ首脳会談などの重要行事の段取りは頻々と変更された。孤独な決断を強いられる仕事である政治家には験を担ぐ人が少なくないが、普通は行き過ぎを止める役回りの妻の方がはるかに迷信深いという例は珍しい。

▼「レーガンの振る舞いはお前とは大違いだった」。今年の大統領選で旋風を巻き起こす不動産王ドナルド・トランプ氏に待ったをかけようと共和党の主流派ではこんな大合唱が起きている。ふたりはテレビ番組司会者として大衆人気を得た経歴が似ているため、トランプ氏が自らをレーガンになぞらえることがあるからだ。

▼というわけでナンシー夫人に見比べてもらおうとの声も出ていたのだが、残念ながら訃報が伝えられた。存命ならば、誰を共和党候補に選べば勝てるのかまで占ってもらえば、残る予備選の手間が省けたかもしれない。史上最強のファースト・レディーと称されたナンシー夫人。夫の名声の一部は間違いなく彼女のものだ。