天声人語 20150724

社会の仕組みに完璧さを求めることは不可能だ。不具合はそこかしこに見つかる。迅速、適切に対処し手直しできるか、手をこまぬいて後れをとるか。社会の力量が問われるところだろう▼比較的うまく行った例を私たちは一昨年に目撃している。認知症などで判断力が低下した人の財産を守るための成年後見制度。２０００年に始まったが、後見人がつくと選挙権が失われるという欠陥があった。投票に行きたいという訴えに東京地裁が応え、憲法違反と断じた。国会も全会一致で選挙権を認める法改正を実現した▼以前の「禁治産」制度のように法律上の権利を一律に奪うのではなく、本人の自己決定権を尊重し、残された能力を活用できるようにするという理念で導入された仕組みだ。司法と立法の働きは当然だった▼とはいえ不具合の手直しに終わりはない。成年後見人による不正が後を絶たない。財産を管理する立場を親族らが悪用し、本人の預金などを着服する。最高裁のまとめでは、被害額は昨年末までの４年半で少なくとも１９６億円に上るという▼弁護士や司法書士といった専門職の後見人による使い込みも相次ぐ。後見人を監督する立場の弁護士までが犯罪に手を染めていた。市民の信頼の上に成り立つはずの職責を忘れたのか▼ここでも原点を思い出す必要があろう。制度の成否は、信頼できる後見人をいかに育てるかにかかっている。導入の前後に指摘されたことだ。難題だが、手をこまぬくわけにはいかない。