フランス週刊紙襲撃―言論への暴力を許すな

来源:互联网 发布:搓碟软件 编辑:程序博客网 时间:2024/06/16 10:13

ことばを失う凄惨(せいさん)なテロである。民主社会の根幹である言論の自由への重大な挑戦だ。

 フランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」のパリの事務所が武装した男たちに襲われた。

 発行人のステファン・シャルボニエ氏ら編集幹部や、記者、風刺画家ら12人が殺害され、多数がけがを負った。

 この新聞は、刺激的な風刺画で知られ、反権威、反権力の立場を鮮明にしている。近年は、しばしばイスラム主義を批判したり、揶揄(やゆ)したりした。イスラム教徒らの反発を招いていたのは確かだ。

 ただ、いかに気に食わなくとも、言論を暴力で封じる行動は断じて許されない。一刻も早く容疑者が法にもとづいて裁かれるよう望む。

 言論に対する暴力や脅しはフランスに限った問題ではない。世界の国々で大小いくらでも存在する。この事件を日本も自らの問題として受け止め、言論封殺に向けたいかなる動きにも反対する立場で連帯すべきだ。

 1987年、朝日新聞阪神支局が散弾銃を持った男に襲われ、記者1人が死亡、1人が重傷を負った。事件はいまだに解決されていない。今回の犠牲者に対し、心から哀悼の意を表するとともに、言論の自由を守る決意を新たにしたい。

■風刺画が社会に定着

 フランスは、風刺画が社会に根付いた国である。有力紙ルモンドの1面にも、その時々のニュースを読み解く風刺画が連日掲載される。

 「笑い飛ばす」ことは、力なき市民にとって大いなる抵抗の手段だ。風刺画は、権威や権力に挑むジャーナリズムの本質的な使命の一翼を担ってきたといえる。

 シャルリー・エブドは、そのなかでも過激な編集方針で知られてきた。他のメディアが扱いたがらないタブーにも挑み、右翼やカルト宗教なども取り上げてきた。1960年創刊の前身の月刊紙から、週刊紙化して70年に現在の紙名になった後も、物議を醸す報道を展開した。

 2005年、デンマークの新聞が預言者ムハンマドの風刺画を掲載。イスラム諸国が反発すると、シャルリー・エブドは風刺への支持を表明し、ムハンマド風刺の特集号を発行した。

 挑発的とも言える風刺画の掲載は、部数を増やす話題づくりの側面がうかがえる一方、「表現の自由」「政教分離」といったフランスの原則を内外に示す意識も働いただろう。

 2011年、事務所に火炎瓶が投げ込まれ、編集部が全焼した。国際テロ組織アルカイダから名指しで非難され、脅迫も相次いだことから、警備が強化されていたという。

■イスラム社会も非難

 事件の全容解明はこれからだ。ただ、容疑者がアルカイダを名乗ったとの証言もあり、イスラム過激派にかかわりを持つ人物たちである可能性は高い。

 昨年来、カナダやオーストラリアなどでも、イスラム過激派に触発された可能性のあるテロ犯罪が頻発している。

 戒めるべきなのは、こうした事件の容疑者と、イスラム教徒一般とを同一視することだ。そのような誤った見方が広がれば、欧米市民社会とイスラム社会との間に緊張関係をつくりたい過激派の思うつぼである。

 貧困や専制政治などによる社会のひずみから、イスラム世界には過激思想に走る者が一部いることは否めない。だが、圧倒的多数の人々は欧米と同様に、言論の自由や人権、平等などを尊ぶ社会の実現を望んでいる。

 今回の事件を「西洋文明対イスラム」の対立に置き換えてはならない。フランスのイスラム団体代表も「これは、イスラムの名の下になされたことではない」と非難した。

■共生社会どう築くか

 安倍首相を含む主要各国の首脳らが、事件の犠牲者に対する哀悼や犯行への非難を表明した。テロ捜査と防止には国際協調が欠かせず、今後も協力や情報の共有が求められる。

 イスラム教徒の多いアラブ諸国からも、テロを非難する声明が相次いでいる。国内に過激派を抱える国々が多くあり、テロの拡散は自身にかかわる深刻な問題だ。イスラム諸国の側からも、積極的に実態解明と再発防止の営みに加わるべきだ。

 フランス国内で、特に右翼などがこれを機に、反イスラムの言動を増やす懸念は拭えない。差別や偏見が強まり、ヘイトスピーチのような現象が起きるかもしれない。

 そのような事態に陥らないためにも、イスラム教徒や移民など少数派と多数派市民とが共生できる社会づくりに向けて、取り組みの強化が欠かせない。

 パリだけでなく、欧米各地の主要都市で多くの人々が連帯の集会を開いているのは、心強い反応である。この悲惨な事件を、共生社会の建設に向けた議論が広まるきっかけへと、転じたいものだ。

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